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学校はここまで変えられる!

カテゴリー:社会

(霧山昴)

著者 平川 理恵 、 出版 大和書房

 広島県の教育長を6年間つとめた著者の意欲的な学校改革実践を紹介している本です。そうだよね、今の学校の上からの押しつけ教育は変える必要があるよね…と思いながら読み進めました。

 文科省による学校統制がますます強まっている気がします。おかげで教員は時間・過重労働でくたくたになっています。学校の授業はもっと自由に、教員がのびのびやれるようにしたらよいのです。

教科書の国家統制が強まっているなかで、令和図書のような国史教科書で日本書紀を教えるだなんて、まるで見当違いの内容なのに検定をパスしているなんて、とても信じられません。

 授業が生徒にとって、楽しく、ワクワク、うきうきしたものになるようにする。そのためには、教員がそれを目ざして、時間をきちんと確保できる物理的・精神的な余裕が必要です。

 著者は49歳で教育長になる前、41歳で民間人校長になっている。20代は民間企業で営業職として働き、30代は起業して留学斡旋会社を経営していた。これらの経験を全部生かすべく校長に転身したのでした。ただし、教員免許はもっていません。

 オランダの学校に視察に行って驚いた。子どもたちが安心して、子どもらしく生活しているし、遊びに集中している。

イエナプランを導入した小学校には、黒板をなくした。

高校入試にあたって求められる内申書のなかの「所見」をなくし、生徒自らが「自己表現」を導入した。つまり、内申書を気にしなくていい中学生活を過ごせるようにした。欠席日数欄を削除したが、その後も出席率は変わらなかった。

 楽しい授業をしたら生徒が変わる、生徒の目の輝きが違う。そりゃあ、そうですよね。教師がきちんと事前に準備して、考えさせてくれる、そんな面白い授業をしたら、みんな学校に行きたくなるものです。

 不登校は、子どもの出来るボイコット。不登校の子どもがますます増えています。原因・理由はさまざまだと思いますが、学校が子どもにとって面白いところではないというのが、もっとも根本的な問題のような気がします。

 広島に縁もゆかりもない著者が教育長として6年間がんばったあと、元の木阿彌になったのでしょうか、改革のあとは残っているのでしょうか、気になります。

(2025年9月刊。1980円)

記憶するチューリップ、獲りあうヒマワリ

カテゴリー:生物・植物

(霧山昴)

著者 ゾーイ・シュランガー 、 出版 早川書房

 私たち人間は、ブドウ糖で出来ている。植物から糖が常に供給されなければ、私たちの生命に欠かせない機能はすぐに止まってしまう。

 すべての動物の器官は植物から与えられた糖で出来ている。私たちの体は植物が最初に紡(つむ)いだ物質の糸で織られている。とりわけ脳は、ブドウ糖を主な燃料として稼働する機能だ。ブドウ糖が継続的に得られなければ、ニューロン間の情報伝達は遅くなり、やがて止まってしまう。記憶と学習、思考は停止する。ブドウ糖がなければ、脳は動けなくなり、その後まもなく全身も動けなくなる。

 種子と花をつけた最初の植物が地球上に現れたのは、2億年前。動けないことの危険性こそが、植物を駆り立て、自然におけるきわめて印象的な適応を生みださせることになった。

 かじられたことを感知した葉は、化学物質を飛ばし、遠く離れた位置にある枝に免疫系を活性化させるように伝えつつ、アブラムシなどの植物を食べる虫を防ぐために、さらに多くの化学物質をつくる。イモムシの唾液(だえき)に含まれる化合物から種を特定し、そのイモムシの捕食者をおびき寄せる化合物を合成することのできる植物もいる。すると、親切な寄生バチがやって来て、イモムシの面倒をみてくれる。

根を通じて、木同士がコミュニケーションをしていることは、前から分かっていた。木々は、互いに、遠く離れたところまで、空中を通じて信号を送りあっている。

 植物は、細胞同士の会話を通じて自己組織化するシステムだ。

キリンはアカシアの葉を食べるとき、風下ではない木の葉しか食べない。つまり、タンニンを放出するよう警告されていない木の葉のみを食べるのだ。

 野生のタバコは、攻撃の損害を受けはじめると、葉を食べているケムシを食べる捕食者を呼び寄せる。

植物の細胞は動物とは異なる。植物の細胞には、細胞壁や葉緑体などがある。植物にはシナプスはない。

 植物は物理的な接触を受けると、そこから電気-カルシウムイオン-が流れ込む。細胞レベルで、植物は、体内で物理的なものとして経験していることが可視化された。植物が傷つくと、何らかの方法で、傷つけられたことが植物全体に伝わっていく。

 植物は音と密接に関わっている。マルクグラビア・エベニアというつる植物は、音響を調節することでコウモリと協力している。

 植物は一部でもかまれると、植物全体のホルモンに変化が生じる。

 ナサ・ポイソニアナは、動物のようにふるまう花である。その花は、差し出す花粉の量を慎重に振り分け、わずかな時間だけさらす。それによって、一匹のガやハチがあまりに多くを取ってしまい、遺伝的多様性を目指す計画全体に悪影響が出ることを避けている。

 チューリップもニンニクも、芽を出すために必要なのは、冬の記憶だ。ただ春が来るというだけでは、生命は出現しない。十分な長さの寒さが欠かせない。植物は情報を記録し、それに従って動く。

 ハエトリグサは、5回まで回数を数え、その記憶を少なくともハエが口の中に入ったかどうかが分かるまで保持する。ネナシカズラは数を数えている。

スズメバチがランに引き寄せられるのは、ランが2種類以上の化合物を正確な割合で調合しているから。

 オニハマダイコンは、根を大いに伸ばし、近くにある栄養を独占するために攻撃的に広がる。ところが近親が近くに生えているときは、親切にも根を伸ばす場所を狭めて、兄弟が隣で生育できる領域を残す。植物も近親を認識しているし、近親に便宜を図っている。

 ヒマワリの近親同士を隣に並べて畑に植えることで、最大47%の油の収穫量が増える。ヒマワリを密に植えると近親者を日陰にしないように茎を曲げた。栄養を奪いあっている気配もない。植物にも社会生活がある。

食虫植物は、群れで狩りをするように進化している。協力して昆虫を捕まえることで、より大きな獲物をおびき寄せている。

 いやあ驚きましたね。我が家の庭にヒマワリを密に植えたことがありました。みんな生き生きと大きく伸びてくれました。お互いに助けあっていたとは…。信じられません。植物についての、とんでもない、真相を教えてくれる真面目な本です。面白く読み通しました。

(2025年8月刊。3410円)

正体不明という生き方

カテゴリー:人間

(霧山昴)

著者 松岡 正剛 、 出版 晶文社

 私もそれなりに本を読んでいますが、上には上がいると思ううちの一人が著者です。

 1944(昭和19)年の生まれですから、私より4歳だけ年長です。大学生のときは「デモの先頭にも立った」というのですから、いわゆる過激派だったようです。

 「若者の教祖」「知の巨人」「博覧強記」というレッテルが貼られていますが、本人はそれを嫌っていたとのこと。「生涯、一編集者」と自称していたそうです。

 生前、十数時間に及ぶインタビューによって、そのさまざまが本人によって再現されています。惜しくも昨年(2024年)8月に亡くなりました。著者はヘビースモーカー、そして午前3時前には寝ないという生活を送った。完全に夜型人間ですね。これが良くなかったのではないでしょうか。

 インタビューで、80歳を目前にして本人は次のように謙遜します。

 「知らないことだらけ。『千夜千冊』をまだ3千冊ほど書かないと、ぼくなりの到達点と呼べるところまで行かない。なので、まったく博覧強記ではない」

 チグハグというのは、漢字で書くと、「鎮具(金槌・かなづち)と「破具」(釘抜き)となる。大工が鎮具と破具を取り違えたら、大変なことになることから、取り違えたときのことを指す。

 「粋」は、京都の「すい」、そして江戸の「いき」を意味している。東は「番(ばん)」の文化で、西は「衆」の文化。チームを作ってみんなで事に当たる。

 著者の基本は独学。自分で日々、書物を通して学び、自己同一的ではない考え方というものに触れて、多様な主語で考えるという方法を自分なりに工夫し、どんなことも生命から語る。星や素粒子から語るということをやり続ける。

読書というのは、ひとときの本の中に入って、また、そこから出てくる。本の世界と日常の世界を行ったり来たりしながら進んでいく。あたかも本というものを仮宿のようにしながら、出入りする。読書体験は、お互いに共有しにくい。読書は交際である。いろいろな交際だ。律儀な交際もあれば、危うい交際もある。

継続することが、一番、人を変える。やめないということが大切。私も、まったく同感です。この毎日1冊の書評もこれまで20年以上続けています。どれだけの人が読んでくれているのか、さっぱり分かりませんが、私が読んで書いたものを、大勢の人々が読んでくれたら幸せだと考えています。続けるという点では、フランス語も続けています。こちらは、もう30年以上、フランス語検定試験(仏検)を年に2回受けています。残念なことに、さっぱり上達しませんが、最近は、YouTubeでフランスの国会での討議を一生けん命に見聞しています。まったく分からないというのではないのが、うれしいのです。

日本仏教は、インドの仏教や中国の仏教に比べると、うんとソフィスケートされている。日本仏教は、きわめて独自であいまいな仏教だ。

歌舞伎の世界では、「お父さんとそっくり」というのが、最高の誉(ほ)め言葉。そ、そうなんですね…??

正剛という名前は、戦前の有名な代議士であった中野正剛にちなんで父親が命名したものだそうです。早稲田大学では革マル派の拠点の一つであった新聞会に属し、文学部の議長として活動していたとのこと。父親が死亡したことから、大学を中退してPR会社に就職したのでした。

370頁もある、読みでのある本です。

(2025年9月刊。2090円)

お土産の文化人類学

カテゴリー:社会

(霧山昴)

著者 鈴木 美香子 、 出版 人文書院

 身近な人がどこかに旅行したら、行った先の土地の菓子土産を買ってきて、職場の仲間に配るって、日本的な風習であって、諸外国どこでもやっているのではないそうですね。しかも、日本でも実は1970年代ころに始まったもので、古くからあるのではないんだそうです。

 今なら、福岡でいうとヒヨコとか「博多とおりもん」、東京は「ばな奈」、三重の「赤福」、京都の「八ッ橋」、広島の「もみじ万十」、札幌の「白い恋人」とか、すぐにいくつもあげられますよね。

私も実用新案侵害事件として「〇〇慕情」「〇〇旅情」という地元のお菓子の名称をめぐる紛争を扱ったことがあります。そのとき、中味のお菓子はある大手メーカーが一手に製造していて、全国に包装紙だけ変えて送り出していることを知りました。なあんだ、そうだったのか…と苦笑してしまいました。

 お菓子じゃない、その土地のネーム入りの記念品も、実は「メイド・イン・香港」だったりすることがありますよね。

お菓子が個包装されたことで、土産品の菓子を配りやすくなった。これは、「グリコ森永事件が起きて、毒物混入を避けるための安全策から。知りませんでした…。

私はメールを極力つかわないようにしていますので、旅先では絵ハガキを何セットか買い求め、ちょっとしたお礼のときに活用しています。素敵な絵ハガキが来ると、しばししげしげと眺めて、ときを忘れます。

羊かんは、佐賀の小城(おぎ)羊かんが好みですが、岐阜には「柿ようかん」があり、青森には「リンゴようかん」があります。静岡の「桃ようかん」なるものはまだ食べたことがありません。

伊勢の「赤福もち」は、一度、事件になりましたね。今は、もち直したようです。岡山は、「きびだんご」ですね。これは1960年代に始まり、山陽新幹線が岡山まで延伸した1972年以降に急成長したとのこと。名古屋は「ういろう」ですね。これも、1970年ころから、テレビCMで広まったとのこと。

 私にとって、「ヒヨコ」は福岡土産なんですが、東京にも「ひよ子」があり、東京土産として、定着しているそうです。同じ会社なんですよね。

 これらの菓子を製造しているのは、マスダックという東京の会社。

 大阪・夢洲(ゆめしま)での関西万博は大失敗すると思いましたが、大勢の日本人が押しかけたのは事実のようですね。日本人は、昔から本当に旅行好きの民族なんですね。江戸時代の伊勢参りもすごかったようです。

 といっても、イスラム教徒のメッカ参拝もすごい人出ですね。旅行好きは日本人だけではないようです。まあ、土産品って、もらったら、うれしいものではあります。包装紙を眺めるのも楽しいですし…。

(2025年7月刊。2400円+税)

知られざる金正恩

カテゴリー:朝鮮

(霧山昴)

著者 鄭成長   、 出版 ワニブックス

 北朝鮮の内情について詳細に分析した本です。大変勉強になりました。

 驚いたことの一つは、トランプの「アメリカ・ファースト」と同じで、北朝鮮も「我が民族第一主義」を掲げているということです。 金正日は「先軍」政治をスローガンとしていましたが、金正恩は党規約から「先軍」をバッサリ削除しました(2021年)。そして、その代わりに登場したのが「人民大衆第一主義」であり、「我が国家第一主義、我が民族第一主義」なのです。 アメリカの「王様」、トランプの掲げる「アメリカ・ファースト」と同じなのに、私はびっくり仰天しました。

 祖父の金日成を思わせるように、金正日は大衆に親しみやすく「接近」しているようです。

 次に、父の金正日と違う点は、党大会を初め、政治局会議で集団討論していることです。金正日は幹部を集めて討論することを嫌い、党大会を一度も開かず、大衆の前で演説することもありませんでした。自らを神秘のベールに隠してたのです。 ところが、金正恩は、党大会も既に2回開催しており、中央委員会も開いて、会議の状況を公開している。まぁ、それだけの自信があるということでしょうね。

 この本で、著者は、金正恩について、早くから父の金正日は自分の後継者だとしていたし、帝王学を学ばせていたとしています。金正恩は二男であり、長男もいるけれど、長男は後継者に向かないと金正日は早々に見切りをつけたというのです。

長男の金正哲は従順なので、後継者の器ではない。それに比べて金正恩の胆力が大きいことから、金正日は自らの後継者にしたといいます。金正恩は金日成軍事総合大学において、最高の専門家たちから帝王学を叩き込まれたのでした。

首領スタイルの拍手、そして握手があるそうです。胸の高さで内側に向けた左手を右手で叩くのが首領スタイルの拍手。高位の幹部は片手で握手し、下位の幹部は両手で握手する。

 金正恩の恐怖政治の実情についても解明されています。まず、金正日の告別式で軍金正恩と一緒に霊柩車を囲んだ7人は全員が粛清されたという説があるが、それは間違いだとしています。このうちの張成沢はたしかに処刑されましたが、残る6人は老齢等による引退だといいます。

そこで張成沢です。張成沢は、妻が金正日の妹・金敬姫だったけれど、処刑前に離婚していて、金敬姫の同意のもとに処刑されたと著者はみています。

 張成沢が金正日の叔父であり、金正恩の後継体系の構築と国政掌握に大きく寄与したとしても、金正恩に忠実でなければ排除するしかないということだとしています。

張成沢の直近の部下から公開処刑して、最後に張成沢を「国家転覆陰謀行為」として死刑判決を下し、直ちに執行した。

 射手が自動小銃を手にし、1人あたり15発ずつの弾丸を装填して3回にわたって発射する。それによって処刑された人の体は見分けることができないほど粉々に砕ける。張成沢については、機関銃で処刑されたと聞いていましたが、自動小銃で3回も撃てば同じことのようです。いかにも残酷な処刑方式です。一般人に公開はしないけれど、交付処刑者の関係者を集めて、その目前で処刑するのだそうです。 張成沢には子どもがなんと20人ほどもいたそうですが、その全員が処刑されたとも書かれています。本当でしょうか…。

 最近、金正恩と一緒によく登場してくる娘のジュエです。この本では主愛と書かれています。

 著者は結論として、金正恩が金正日から後継者として選ばれたように、金正恩も金主愛を自ら後継者と考えていて、帝王学を身につけさせているところだとしています。女性であることは、障害ではないと考えているということです。

 金主愛は2013年2月生まれとされていますので、まだ12歳です。それでも既に金主愛への個人崇拝のキャンペーンが始まっているようなのです。たしかに妹の金与正よりも対外的な露出度は高いですよね。 先日は、北京にも金正恩と一緒に行きましたしね…。

 胆力や政治的野心があり、権力と政策を継承しようという意思が強いことが後継者の何よりの要件だということです。

トランプとの外交かけひき、北朝鮮の核兵器開発などについても詳細な分析がなされていますが、ここでは割愛します。

 北朝鮮の内情を知りたいという人には必読の本だと思いました。

(2025年7月刊。2200円+税)

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