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なぜ資本主義は暴走するのか

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著者:ロジャー・ローウェンスタイン、出版社:日本経済新聞社
 アメリカでステークホルダーという考え方が流行した。これは企業は株主だけでなく、従業員、地域社会、下請け業者といった利害関係者の一団に奉仕する存在だということ。ステークホルダー運動は、本質的にアメリカの土壌に日本のモデルを移植しようとする試みだった。しかし、この運動はなかなか実を結ばなかった。ステークホルダーという概念はあいまいだし、法的根拠にも欠けていた。それだけでなく、深い意味で、これはアメリカ的発想ではなかったからだ。
 コーポレート・ファイナンスが盛んになるのと並行して、CFOの存在感が増した。かつては単なる管理者、つまり数字屋にすぎなかったCFOが、最前線の経営者、利益をうみ出す最高責任者となった。CFOの地位向上にともない、ウォール街と企業中枢との距離は、さらに縮まった。
 ストックオプションの75%は社会でトップから5番目までの役員に渡っている。残り25%のうち半分以上が、その下に続く15人の役員の懐に入った。ストックオプションを受けとった現場の従業員は300万人で、それは10%を分け合うものだった。オプションがミドルクラスの権利となっているというのは、まったくの嘘だ。
 取締役の報酬を決定する取締役会は市場とはほど遠い。取締役たちはなれあいの関係にあり、また権力争いに明け暮れている。
 CEOは、成功すればいつでも莫大な報酬を手にしたが、失敗しても罰を受けることはなかった。CEOは失うものがなかったので、ますます危険な賭けに出るようになった。CEOは、かつて政治のものだった尊大さを身にまとった。宮殿のような豪邸から、広報担当、副社長、側近の一行を引き連れてジェット機で飛び立ち、契約がある場合ならどこへでも向かった。そして、痛みを分かちあうのは、CEOの役目ではない。従業員が解雇されても、利益が激減しても、株価が下がっても、CEOが減給されることはない。
 これは、まるで今のニッポンのホリエモンたちのことを言っているように聞こえます。
 GEのCEOであるジャック・ウェルチは、10年間で給料、ボーナス・オプションをあわせると4億ドルを稼いだ。ジャック・ウェルチに生涯保障されるのは次のようなもの。マンハッタンにある1500万ドルのマンションの使用権、ワイン、食品、ランドリーサービス、新聞、化粧品などの経費、会社所有のジェット機の使用権、NBAのニューヨーク・ニックスの試合の一階フロア席チケット、テニスの全米オープンのコートサイド席、メトロポリタン劇場のボックス席、運転手つきの車がある。そのうえ、ウェルチは月額35万ドルの年金をもらう。
 1990年代末、資金はどこへでも流れていったし、道徳規範はすっかり忘れ去られていた。ジャーナリストも銀行家も、経営者も監査役も、ブローカーも弁護士も、みんなすっかり同じ土俵に乗ってしまっていた。短期的な利益を計上するために株主資本をリスクにさらしていた。この短期的な利益こそ、まさに株主価値の定義として定着していたものである。
 企業に雇われた監査法人や弁護士たち専門家は長い時間を経営者たちと過ごし、十二分に報酬を受けとった。ここから利害関係の一致と、それにもとづく共謀関係が生まれた。
 なるほど、そうなんですね。お金の力は、かくも偉大なのです。
 経営者が帳尻とつじつまをあわせることに辛うじて成功した企業では、必ず裏に弁護士がいて、経営者の良心の呵責を軽減し、取引の正当性に太鼓判を押していた。合法性という、見栄えのよい覆いを弁護士が提供していた。
 いやあー、すごいですね、こんなアメリカの資本主義って。まさにハイエナかオオカミといった弱肉強食の世界です。弱者に温かい目というものがまったく欠落し、強い者同士の権力闘争によって周囲にいる圧倒的多数の弱者は押しつぶされています。むき出しの資本主義って、ホント、最悪ですよね。

ぼくは13歳。職業、兵士

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著者:鬼丸昌也、出版社:合同出版
 恐るべき本です。世の中に、こんなに重く辛い現実があるなんて・・・。ホラー映画なんて、そんなもの目じゃありません。背筋に氷をずっとずっと注ぎこまれて止まらない。そんな冷え冷えとした状況が世界いたるところにあるというのです。そして、日本という国もそれに一役買っているのです。いえ、もっと大胆に乗り出そうというのが小泉・自民党です。
 この本を読んで、私がもっともショックを受けたのは、ウガンダのナイトコミューターの話です。ナイトコミューターというのは夜の通勤者のこと。大人のことか?いえ。夜の女性のことか?それも違います。なんと、夜になると都会周辺の村々から子どもたちが4000人とか
6000人も、市の中心部へ向かい、眠りに来るのです。なぜ?「神の抵抗軍」が村を襲い、子どもたちを連れ去って子ども兵士に仕立てあげるのから逃れるためです。村では子どもたちは安心して夜に眠れないのです。
 早朝、数千人の子どもたちは、一斉に自分の村へ帰っていきます。10キロも離れた村へ、です。10歳以上の子どもたちが素足で毎日毎晩、往復するのです。これが、もう 20年近くも続いているというのですから、大変なことです。とても信じられません。
 「神の抵抗軍」と呼ばれるウガンダの反政府軍に拉致された子どもの数は2万人以上にものぼる。それは「神の抵抗軍」を構成する3分の1にもなる。そして、「神の抵抗軍」の3分の2は17歳以下の子ども兵士だといいます。子ども兵士は自分の出身の部落で残虐な殺人などを命じられ、自分の出身地には戻れなくされてしまいます。
 子ども兵士が救出されても、その子には顔から表情が消え、目の焦点が定まっていない、じっと遠くを見つめるのみ、鋭い目つきでにらみつける・・・、というロウ人形のような表情です。
 アフガニスタンでは、10歳をふくめて総数12万近くの子ども兵士がいて、全兵力の45%を占めている。
 現在、小型武器の輸出額は、アメリカが1位、2位はイタリアで、3位ベルギー、4位ドイツとなっている。日本は猟銃などを輸出していて、輸出額は世界第9位。
 アメリカ、イギリス、フランスの3ヶ国が武器貿易によって得ている利益はODAの額よりも大きい。人助けより、人殺しの方でもうけているのですね、この文明国は・・・。
 このくだりを読んで、先日みたニコラス・ケイジ主演の映画「戦争商人」を思い出しました。アメリカの青年がアフリカなど、武力紛争の起きている国へ武器を売りこみに行き、もうけている実際をよくイメージすることができました。戦争はそれでもうかる人間がいるから起きるのだということがよく分かる映画でした。
 子ども兵士だった子どもたちに笑顔を取り戻させる地道な取り組みがすすんでいることも知り、少し救われる思いがしました。日本政府は、この方面にもっと力を入れるべきです。いい本をつくっていただき、ありがとうございました。

働きすぎの時代

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著者:森岡孝二、出版社:岩波新書
 踏切事故について、それが自殺かどうかを争う事件を担当しています。自殺は例外的な現象だと主張したところ、保険会社の方から、今の日本では自殺は決して例外的な現象なんていうものではない。そんな反論が出てきて、驚きました。
 たしかに、年間の自殺者はこのところ、ずっと3万人台です。働きすぎからノイローゼやうつ病になったり、倒産して保険金目あてに自殺するという事件を、私は弁護士としてコンスタントに扱っています。
 労働基準監督署が2003年度に受理した過労によるPTSDやうつ病などの精神障害の労災申請は438人(前年度比28%増)。精神障害の労災認定は過去最高の108人(同8%増)で、うち40人は過労自殺。
 平均的な会社員が一日に受信するメールは61.5通。メール処理その他の関連作業に4.2時間かかっている。パソコンに向かっている時間(6.8時間)の6割がメールがらみとなっている。携帯がつながらなかったら罰金だと上司に命じられていた社員がついに過労自殺した。
 現在、日本の労働者の4人に1人は年収150万円未満、2人に1人は年収300万円未満、4人に3人は500万円未満。
 日本の労働者のおよそ半分は、ひとりの賃金では生活できないパラサイト水準にある。
 アメリカで働きすぎを象徴する職業として知られているのは弁護士と研修医。
 働き過ぎと浪費が蔓延するアメリカ社会のなかでも、所得よりも自由時間を、出世よりも生活の質や自己実現を追求する生き方を選び、以前より少ない収入で幸せで暮らしている人々が増えている。このような人をダウンシフター(減速生活者)と呼んでいる。
 この本の最後に、労働者、労働組合は何をなすべきかが提唱されています。
 たとえば、次のようなことです。
 自分と家族の時間を大切にし、仕事以外にも生き甲斐をもつ。
 年休は目いっぱい取得し、年に一度は一、二週間の連続休暇をとる。
 なかなか難しいことですが、私は実践しているつもりです。
 日本の公務員は実は少なすぎる。東大の前経済学部長(神野直彦教授)がこのように書いている論文を読み、そうだ、そのとおり、我が意を得たりと叫んでしまいました。
 福祉サービスの立ち後れは公務員の少なさにあらわれる。これは私が、かつてデンマークとスウェーデンに行ったときに知ったことである。北欧は税金の高いことで有名だ、それは国民が貯蓄しているのと同じことなのだ。つまり、税金は老後の豊かな生活を保障してくれるもの。実際、福祉サービスに従事する公務員は、あっと思うほど多い。スウェーデンでは、市町村の公務員だけで、雇用に占める割合が日本の3倍をこえる20%強。その市町村の公務員の40%が高齢者のケアに、20%が子どものケアに従事している。つまり、税金は身近な公務員、つまり介護サービスに従事している人のために使われているのであり、その人は隣りに住む人、いえ私かもしれない。
 日本の消費税のように、導入するときには福祉のためと言っていたけれど、実際にはイラクへ自衛隊を派遣するために使われているというようなごまかしがそこにはありません。
 このように、先進諸国では福祉サービスの供給に従事する公務員を増やしている。OECD諸国の平均で17.5%、アメリカでさえ15.4%になっている。ところが、日本は6.9%にすぎない。
 2004年度、日本に国家公務員は62万人いるが、その40%、25万人は自衛隊。地方公務員308万人のうち教育が115万人、37.4%、警察が8.8%、消防が15万人、5.0%。つまり、教育・警察・消防で地方公務員の51.2%を占めている。公務員の数があまりにも少なすぎて、政府は国民の生活を支えていない。ところが、政府は少なすぎて国民の生活を支えることのできていない公務員を、さらに一律に1割削減を強行しようとしている。その目的は、日本の社会を破滅させること以外に見いだすことはできない。
 国民のとって国がそもそも何のためにあるべきなのか考えるべきだと思います。ホリエモンなどのようなヒルズ族は昔からいました。貴族がいて、財閥があり、特権階級がいました。お金と権力をもつ者が好き勝手にすることを許したら、お金のない弱者は生きていけません。だから、憲法で国は生存権を定めたのです。国は国民ひとりひとりに最低限の文化的生活を保障する責務があります。今こそ、弱者のための福祉の充実が図られるべきです。

ディープ・スロート、大統領を葬った男

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著者:ボブ・ウッドワード、出版社:文芸春秋
 「大統領の陰謀」は、もちろん私も読みました。誰が新聞記者に情報を提供していたディープ・スロートだったのか、長いあいだの謎となっていました。それこそ日の目を見ずに「迷宮入り」になると思っていたところ、ディープ・スロート本人が名乗り出てきたのです。
 正直いって、この本は犯人の答えが分かって読む推理小説のようなものだから・・・と、読む前は、まったく期待していませんでした。ところが、どうしてどうして、さすがアメリカの敏腕記者だけのことはあります。地下駐車場での会合の様子、連絡のとりあい方などをふくめて、当時の状況がリアルに再現されていて、再びウォーターゲート事件の発覚当時の状況を追体験することができました。
 それにしても、FBI副長官がスパイだったとは・・・。
 ニクソン政権は記者に情報を漏らしている高官を突きとめるため、ホワイトハウスの補佐官の電話回線17本を盗聴していたそうです。日本は、どうなんでしょうか・・・。
 ボブウッドワードがフェルト副長官と知りあったのは、まだボブウッドワードが記者になる前からのことだったのです。人生の出会い、そして体当たり取材の大切さをしみじみ感じました。
 なぜフェルト副長官はスパイ行為をはたらいたのか。今にして思えば、フェルトは自分がFBIを護っていると自負していたのだ。ウォーターゲート事件に無数の触手があることを示す材料をFBIはつかんでいたが、それらは顧みられず、葬り去られていた。政治的理由からFBIを操ろうとしたニクソン政権とそのやり口を、フェルトは徹底的に侮蔑していた。フェルトは恐らくボブウッドワードを自分の諜報員と見なしていたのだろう。
 ところで、ニクソン大統領はフェルトがディープ・スロートだということを補佐官から知らされた。そのときの秘密録音テープには次のような会話がある。
 「フェルトはFBIのトップの地位が欲しいのです」
 「やつはカトリックか?」
 「いいえ、ユダヤ教徒です」
 「なんだと、ユダヤ人がFBI上層部にいたのか?」
 「それで万事説明がつくでしょう」
 このやりとりは、ボブウッドワードの周辺に、つまりポスト紙にもディープ・スロートがいたことを示しています。
 フェルトはたしかにフーヴァーFBI長官が死んだあとの長官になるつもりでいました。ところが、それが2回も裏切られてしまったのです。ただし、それだけが原因でポスト紙への情報提供者になったのではないようです。
 フェルトはFBI副長官として、1972年当時の現場捜査官の不満と疑念を知っていた。FBI局内は、ニクソンは嘘をついている、ホワイトハウスはもみ消そうとしているという叫び声があがっている。
 ニクソン政権がFBIにとってきわめて由々しい問題になったのは、上層部ぐるみで支配権を握ろうとしたから。FBIの中立公正とそれにともなう優位をふたたび強化する道具としてフェルトはウォーターゲート事件を利用した。最終的には、FBIは深刻ではないものの長い歳月癒えない損害をこうむった。ニクソンの痛手はさらに大きかった。いや、すべてを失った。大統領職、権力、道徳的権威の残滓。ニクソンは汚辱にまみれた。マーク・フェルトはそれと対照的に、わが道を歩み、ひそかな人生に耐えて生き延び、勝利をおさめた。
 ニクソンの側近のほとんど全員がニクソンを裏切った。証言し、回顧録を書いた。ニクソンの不満や怒りについて語り、大統領の権力を利用して仮想の敵や現実の宿敵に対する過去と現在の借りを返すのにいそしんでいたことを明らかにした。
 ウォーターゲート事件が起きたのは1972年6月のことです。当時、私は司法修習生でした。当時、私たちのクラスに青法協についてスパイ活動をしているとしか思えない人もいました。日刊のクラス新聞を出したり、堂々と活動していたのですが、研修所当局からは目の上のタンコブみたいに思われていたのでしょうね。なにしろ、研修所に入所する前に、司法修習生の全員について公安調査庁が身元調査をしていたのですから。今はしていないのでしょうか・・・。
 やがてニクソン大統領が辞任発表するに至ったわけですが、アメリカって本当に奇妙な国だなと感じたことを今でも覚えています。

北朝鮮軍の全貌

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著者:清水 惇、出版社:光人社
 北朝鮮軍の現状は、兵器の老朽化、士気の低下、規律の弛緩などで、戦争での勝利はおろか、組織的な戦闘を展開できるのかどうかも怪しい状態にある。
 正規軍は大規模な演習や挑発行動や軍事パレードを行うことで、弱体化しているように見えるが、本当は戦えるのだというパフォーマンスを諸外国に向けて演じている。
 北朝鮮軍の内部には4重の監視体制が敷かれている。総政治局に所属する政治将校、秘密警察である国家安全保衛部、軍の情報機関である保衛司令部、さらに労働党組織指導部直属の通報員。このため、1995年以降3回あったクーデターはすべて未遂で終わっている。
 北朝鮮軍がクーデターを起こすとすれば、治安機関や金正日の親衛隊ともいえる護衛司令部が寝返るなど、体制維持システムが末期状態になったとき以外には考えられない。
 金正日は、いまだに金日成の威光を利用せざるを得ない。それは金正日にカリスマ性がないから。
 北朝鮮では金日成と金正日だけが将軍と呼ばれる。金正日の生母である金正淑も白頭山の女将軍と称しているので、この3人を白頭山三大将軍と呼ぶ。
 人民軍の兵力は、地上軍が100万人、海軍が6万人、空軍が11万人であり、正規軍だけで117万人いる。このほか、教導隊や労農赤衛隊などの準軍事組織があり、こちらは700万人ほどいる。北朝鮮軍のなかで日本にとってもっとも脅威となるのは特殊部隊12万人の存在である。
 北朝鮮軍が朝鮮戦争のときのように南侵を開始したときに、ソウルは火の海になるかどうか検証されています。結論は、ならないというものです。なぜか?
 北朝鮮軍の長射程砲300門はその大半が地下施設にあるため、ソウルを火の海にするのは難しい。その前にDMZ(非武装遅滞)を突破するため10万発をうちこむ必要がある。それすらやっとではないかと思われるから、ましてやソウルを火の海になどできるはずがない。
 そしてDMZを突破するには、自軍と米韓両軍が埋めた地雷を処理しなければならない。南侵トンネルは有効に機能しないだろう。そのうえ、制空・制空権を米韓両軍に握られている。これでどうして南侵できるというのか・・・。
 北朝鮮軍が、いわば破れかぶれの状態で南侵してくる危険性がないわけではありません。しかし、それについては外交上の努力でくいとめるしかないのです。北朝鮮軍の脅威をことさらあおりたて、日本の自衛隊をもっと強くしなければいけない。そのためには憲法9条をなくせ、と叫ぶ人がいます。しかし、私はそれは間違っていると考えています。戦争にならないように努力すべきなのです。その最大の武器が憲法9条だと私は考えています。

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