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卜伴はまだ咲かないか

カテゴリー:未分類

著者:小林尚子、出版社:文芸社
 医師が患者になったとき、大病院でどのような治療を受けるのか。寒々とした実態がその妻である医師によって淡々と暴かれた本です。
 ところが、逆に、主治医は、患者である先輩医師について、我々を次々に切り捨てたという感想を述べました。これに対して、医師でもある妻は、病んだことのない医師には、そんなに分からないものかと、次のように痛烈に皮肉っています。
 人間は神ではない。だから、すべてを分かるはずもない。でも、分からない、できない、ということを告げる勇気や良心は持てるはず。まして尊い人の命の問題である。心の問題も含め、そうしたことに真っ正面から挑むのが医師としてのつとめではないのか。
 卜伴(ぼくはん)は、患者である夫が、田舎の植木屋で求め、庭に植えたツバキのこと。夫が病床で、その咲く日を楽しみにしていたことから、このタイトルがとられました。
 濃紅色の花弁と紅色の花茎に白色の葯(やく)が鮮明に対比する唐子咲きの花をつけるツバキ。江戸の初めから知られ、関西では月光(がっこう)と呼ぶ。見てみたいものです。
 その医師が亡くなったのは1993年のこと。61歳でした。放射線によるガンに冒されながらも、ガンの放射線診療技術の向上に生涯をささげた外科医と報じられたとのことです。
 ところで、その大学病院では、他の大学から来た連中には絶対に協力しないことという申し合わせがなされていたそうです。1965年のことですから、今から40年も前のことになります。今では、そんなことはないのでしょうか・・・。
 学会について、会長職を得るための選挙運動、学会費用のための寄付集め、少しずつ狂っていくような気がする。そう書かれています。組織というのは、どこでも人間の嫌らしさが出てくるもののようです。
 ここでも、政治の世界と同じく、人を蹴落とすには、お金と女性関係。
 知人が入院したとき、早速、お見舞いにかけつける。しかし、病人にとってお見舞いは疲れるもの。こんなに疲れるものとは知らなかった。これからは、相手の気持ち、意向を聞いてからにしよう。そっとしておいてほしい。そんな気持ちも病人にはある。そうなんですね。親切の押し売りはいけないんです・・・。
 病人である夫の痛みをやわらげるため、ハリもしてみた。一時的には効果があった。しかし、一番きいたのは、妻によるマッサージだった。これにはなるほど、と思いました。
 医師が病気になったとき、自分のいた大学病院に入院していても、これほど患者と家族の気持ちからかけ離れた処遇を受けるというのに、正直いって驚いてしまいました。これでは、医者でないフツーの人が患者になったときに受ける処遇がひどいのも当然のことです。もちろん、どこでもそうだ、ということではないのでしょうが・・・。
 しかし、まあ、恐るべきは妻の愛ですよね。その執念にはほとほと敬服しました。

深海のパイロット

カテゴリー:未分類

著者:藤崎慎吾、出版社:光文社新書
 海の底深く、何千メートルもの深海はものすごい気圧がかかって、地上とはまったく別世界。しかし、そこにもさまざまな生き物がいます。子どものころ、「海底2万海里」の本を読み、ノーチラス号の冒険に胸をワクワクさせていたことをなつかしく思い出します。
 4000メートルより深く潜れる潜水調査船は、世界に5隻しかない。一番深く潜行できるのは、日本の「しんかい6500」。
 宇宙飛行士は、全世界に280人、日本に8人いるのに対して、深海潜水調査船のパイロットは全世界に40人、日本に20人しかいない。
 潜水調査船には当然のことながらトイレはない。大人3人が入るのに。小便をゼリー状に固める薬品を入れたビニール袋が用意されている。大便用に組立式になった紙製のオマルもあるが、船内から臭いは除去されない。私は高所恐怖症であり、閉所恐怖症でもあります。トイレにも、行けないと思ったら、余計に何度でも行きたくなってしまいます。
 日本海溝の割れ目にスーパーの袋がたまっている写真がのっています。そら恐ろしいほどの環境破壊が進行中なのです。
 これまでの最高記録は水深1万916メートルです。アメリカの「トリエステ」が1960年に達成しました。このとき、ヒラメのような魚を見たというのです。ヒラメは8000メートルまでしか生息できないというのに・・・。まだまだ深海の底にはたくさんの謎がひそんでいるのです。
 海底においては、水の中は光の減衰が激しいので、どんなに強力なライトをつかっても、せいぜい15メートルまで。通常は7メートルまでしか見ることができない。
 海中では、減衰が大きいため、電波は利用できない。かわりに音波を使う。音波は水中でも減衰することがなく、遠く何万キロの彼方まで届く。音波は、陸上の5倍の速度、秒速1500メートルで伝わる。したがって、自分がしゃべったあと、10秒間以上も相手の返事を待たされることになる。
 人間が船内に吐き出す二酸化炭素は耐圧殻内の空気をファンで強制的に循環させ、「水酸化ナチュウム」で吸収する。潜水船の船内は寒い。純酸素をつかっているので、火気は厳禁。防寒の対処方法は「厚着」するのみ。こんなにしてまで、なぜ人間が潜るのか。
 やはりビデオではだめ。人間の目で海底を見ると、第六感によって得られるものがある。というのです。なんだか分かる気がします。
 深海にも、さまざまな生き物が人知れず生存していることを知りました。

米軍再編

カテゴリー:未分類

著者:久江雅彦、出版社:講談社現代新書
 著者は、冒頭で何万人もの外国軍隊を何十年にもわたって国内に駐留させることが、はたして正常な二国間関係と言えるのだろうかと疑問を投げかけています。まさに、そのとおりです。どうして、アメリカ軍が今も日本の首都周辺にいて、沖縄に大量に駐留しているのでしょうか。日本はまったく独立主権国家ではありません。
 小泉政権は、その発足以来、対米関係を何よりも最優先させ、同盟強化の道をひた走ってきた。イラク戦争後、サマワへの自衛隊投入にもふみ切った。対米関係に最大限の配慮を払った結果である。
 日本には、今、3万7000人の米兵が駐留している。アメリカの国外に40万人ほど展開しているうち、イラクを除くと、日本はドイツに次いで世界第2位(韓国と同じ)。日本にアメリカ軍が駐留しているのは、戦略的な価値が高いから。大量の生活物資が必要になるが、日本だと、それは容易だ。武器を修理するのも能力に心配はない。地政学的な優位性、豊富な物資、艦艇・航空機の修理に必要な熟練した労働力など、どれをとっても日本に駐留することは最高に高い評価を得ている。そのうえ、日本は思いやり予算として46億ドルも負担してくれている。アメリカ兵1人あたり年間1380万円も日本は税金を投入して負担している。これだけ負担する能力があるのに、司法修習生への給費は負担できないというのです。まったく間違ってますよね。ちなみに、韓国は日本の6分の1、ドイツは12分の1でしかありません。日本の負担が異常に大きいのです。思いやり予算は、きっと日本の軍需産業もうるおわせていると私は見ています。どうなんでしょうか。
 このように、アメリカにとって、数あるアメリカ軍の海外駐留先のなかでも、日本はけっして手放したくない基地なのである。そうなんです。日本はアメリカに守られているのではなく、単にアメリカに利用されているにすぎないのです。そもそも、アメリカが日本を本気で守ってくれるなんて考えられますか。それを信じている人は、私に言わせれば、よほどの甘ちゃんでしかありません。アメリカ人は、自分のこと、せいぜい自分の国のことしか考えていないのです。
 日本にいるアメリカ陸軍第一軍団とは何者か、が紹介されています。
 この第一軍団は2万人の兵力に加えて、2万人の予備役兵や州兵を動員できる。機動・戦闘能力に優れた最新鋭の装甲車両「ストライカー」の旅団を擁している。数ある軍団のなかで、もっとも豊富な戦闘経験を積んでいる。
 アメリカの大半の政治家と官僚の知識と関心はヨーロッパにある。それと中東地域だ。経済面を除いて、アメリカにとって日本は対等のパートナーとは位置づけられていない。在日米軍司令官の主たる任務は日本政府との調整と要人の接待だった。
 在韓アメリカ軍司令官は大将(四つ星)であり、在日アメリカ軍司令官は中将(三つ星)である。アメリカ軍の運用実態は極東条項と大きくかけ離れていることは、日米安保条約に精通した官僚は、公言しないだけで、熟知している。
 いま、日本はアメリカ軍基地の海外移転・整備にともなって3兆円の負担を求められています。当初は7000億円ということでしたが、すぐに3兆円になってしまいました。大変な金額です。政府は新しい税をつくってまで負担しようとしています。いったいなぜ、日本がアメリカ軍のため3兆円もの大金を負担しなくてはいけないのですか。まったく何の根拠もありません。まさに、日本はアメリカの属国でしかないということです。
 こんな状態でありながら、愛国心教育を押しつけようとするのですから、信じられません。いったいどんな国を愛せというのですか。いつもアメリカべったり、いつだってアメリカの言いなりでお金を出さされる。そんな自主性・主体性のない国をどうやって愛せというのでしょう。ひどい国です。いえ、今の小泉内閣の政策が間違っているというだけのことです。

ゾウを消せ

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著者:ジム・ステインメイヤー、出版社:河出書房新社
 バーの片隅でやるにはもってこいのマジックがある。そうなんです。東京には、手品を売り物にするクラブがあります。酒を飲みながら、テーブルの向こうであざやかな手品を見せてくれます。カードをつかったり、お客が財布から取り出した紙幣をどんどん増やしてくれたり、その鮮やかな手品に目を見張っているうちに時間がたってしまいます。
 これに対して、ステージで大がかりの演技を行うマジシャンをイリュージョニストというそうです。この春、ハウステンボスで世界的に名高いイリュージョンというふれこみの大がかりのマジックショーを見てきました。この本のタイトルであるゾウが消えるではありませんが、突然、舞台上に大きなオープンカーが登場したり、さっきまで舞台にいたマジシャンが観客席に出現するなど、手に汗を握りながら、くいいるように舞台を見つめて過ごしました。
 マジシャンが守っている金庫は空っぽだ。その技は、高校で習う以上の科学や輪ゴムや鏡、長い糸よりも複雑な道具を必要とするものなど、ほとんどない。やり方を知ってしまえば、観客は、なーんだそれだけかと、その技をバッサリ切り捨ててしまう程度のもの。
 しかし、マジシャンたちは、わざと演技の綿密な相互作用を理解し、微妙な技を展開する力を備えている。小道具を突きとめたり、トリックを暴いたりすることを求める凡人は、つまらない部分に注目し、あっけなくがっかりする。それはミステリー小説の最後のページを、最初に読んでしまうようなものだ。
 マジック・ショーで人をだますには、鏡や糸や輪ゴムといった小道具そのものは、あまり重要ではない。観客の手を引き、自分からだまされるようにし向けなければならない。マジシャンとは、マジシャンの役を演じている役者にすぎない。
 まあ、しかし、そうは言っても、凡人はタネも仕掛けも知りたいものです。この本は、それを少しだけ満足させてくれます。
 ゴーストを踊らせるマジックがある。これには、透明なガラスをつかう。舞台の手前の底に人を置いて、舞台には大型のガラス板を設置する。ガラス板の角度が難しい。これは特許として出願されている。そうなんです。有名なマジックは、それを考案した人によって特許として出願されて権利が守られているのです。うーむ、知らなかった・・・。
 箱のなかにゾウや人間を隠すのには、鏡を利用する。その仕掛けが図解されています。あとは、観客の目をいかにしてごまかすか、です。
 人体の空中浮揚術は天井からピアノ線で吊り上げるということのようで、それも図解されています。でも、観客席にいると、ピアノ線で吊り上げているようにはとても見えないのですが・・・。ピアノ線に科学的な処理を施して黒っぽくすれば、観客から見えなくなる。ただ、浮いている人間の真上の空間がぼんやり霞がかかったようになってしまう。
 ゾウを消すには、鏡をセットした巨大なテーブルをつかう。ゾウをテーブルの上に立たせて天幕でおおう。ステージ上でくり広げられる演技の合間に鏡をそっとステージに上げ、必要なあいだだけテーブルの下にとどめ、このあいだにゾウを大型エレベーターで降ろす。
 美女の胴体切りというのがあります。凡人の私には、何回見ても、そのトリックが見抜けません。もちろん、これにも特許があります。残念なことに、この本でも、そのトリックは解説されていません。でも、まあ、楽しい本です。
 15日のヘビの話は訂正します。よくよく見たらヘビの頭がありませんでした。イタチに頭を食べられたのでしょう。
 スモークツリー(カスミの木とも言います)が、紅茶色の花を咲かせました。スモークとあるように、モヤモヤふんわりした面白い花です。山法師の白い花も咲いています。

世界史のなかの満州帝国

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著者:宮脇淳子、出版社:PHP新書
 満州という言葉は清の太祖ヌルハチの「マンジュ・グルン」から来ている。グルンは国のこと。この「マンジュ」を文殊菩薩の原語のマンジュシュリからきているというのは誤りである。なるほど、そうだったのですか・・・。
 満州と書くと満人の地という意味になるが、この言葉に土地の意味はなく、種族の名前であった。満州は、もともとは清朝を建てた女直人(女真とよばれることもある)のこと、つまり民族名であって、地名ではなかった。
 中国人とは、漢字を学んだ人々のこと。日常の話しことばがどんなにかけ離れていてもいい。漢字を知っている一握りのエリートが読書人と呼ばれて、本当の中国人。漢字を知らない労働者階級は実際には「夷狄」扱いを受けてきた。中国人とは、都市に住む人々のこと。城内に住んだのは、役人と兵士と商工業者。これらの人々が中国人であった。
 随も唐も、帝室の祖先は、もともと大興安嶺出身の鮮卑族である。倭国と軍事同盟を結んでいた朝鮮半島にあった百済には倭人の住民も多かった。日本列島のほうも同じような状況で、倭人の聚落と秦(はた)人、漢(あや)人、高句麗(こま)人、百済(くだら)人、新羅(しらぎ)人、加羅(から)人など、雑多な系統の移民の聚落が散在する地帯だった。
 当時の日本列島に倭国という国家があって、それを治めるものが倭王だったわけではなく、倭王が先にあって、その支配下にある土地と人民を倭国といった。
 共通の日本語をつくり、新しい国語を創造したのは、漢字を使える渡来人だった。彼らは漢字でつづった中国語の文語を下敷きにして、一語一語を倭人の土語で置き換えて、日本語をつくり出した。
 文化的に朝鮮人が日本人の兄だというのは誤りで、朝鮮=韓国人と日本人は、このようにしてほとんど同時に中国から独立して民族形成をはじめた、双子のような関係である。
 著者のこの指摘に、私はとても新鮮な衝撃を受けました。まったく新しい角度からの鋭い問題提起だと思います。
 1392年、高麗国王の位に就いた李成桂は、元末に咸鏡南道で高麗軍に降伏した女直人の息子だった。明の洪武帝が国号をどうするのかとたずねてきたので、高麗王朝は「朝鮮」と「和寧」の2つを候補としてあげて洪武帝に選んでもらった。洪武帝は、むかし前漢の武帝にほろぼされた王国の名前である「朝鮮」を選んだ。こうして朝鮮王国が誕生した。そうなんですか・・・。ちっとも知りませんでした。
 日露戦争の前、ロシアは日本の軍事力をまったくみくびっていた。たとえば、日露開戦まで4年間、駐日陸軍武官だったブノフスキー陸軍大佐は、日本陸軍がヨーロッパにおける最弱の軍隊の水準に達するのに100年は必要だろうと本国に報告した。
 また、ロシアの巡洋艦の艦長は、日本海軍は外国から艦艇を購入し、物質的装備だけは整えたが、海軍軍人としての精神はとうてい我々には及ばない。軍艦の操縦や運用はきわめて幼稚であると語った。さらに、開戦8ヶ月前に来日して陸軍戸山学校を視察したクロパトキン大将は、日本兵3人にロシア兵は1人でまにあう。来るべき戦争は、単に軍事的散歩にすぎない、こう述べた。これって、なんだか第二次大戦のときに、日本軍がアメリカ兵をどう見ていたを思い出させる言葉ですよね。
 終戦当時、満州在住の日本人は155万人。そのうち17万6千人が死亡した。101万人が1946年10月末までほとんど民間の力で内地へ引き揚げた。
 日本と満州の関係を古代から現代まで論じた本です。いくつもの鋭い指摘があり、私の目は大きく見開かされました。

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