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悪人

カテゴリー:社会

著者:吉田修一、出版社:朝日新聞社
 佐賀県内で実際に起きた殺人事件をモデルとする小説です。現代日本社会のドロドロとした内情がよく描かれていますが、読んでいるうちに、だんだん気が滅入ってきました。
 この本は久留米の富永孝太朗弁護士のおすすめで読みました。
 ケータイの出会い系サイトで簡単に男と女が出会うことのできる環境があります。また、福岡でいうと、天神界隈に若い男女が集まり、お互いに接点を求めています。そんななかで、偶発的にせよ、犯罪も生まれます。
 親に愛されないまま、少なくとも愛されたという実感のないまま育った子どもたちが大勢います。彼らにも愛を求める権利があります。その衝動を抑えることはできません。
 寂しい思いを胸にぐっと秘めたまま一日一日を過ごしている男女が何と多いことか。この本を読みながら、私は毎日の弁護士としての生活を思い出していました。
 自己破産の申立を決意して生活を必死で立て直そうとしている人たちを励ますのが、私の毎日の仕事です。ホント、大変なんです。50代そして60代になると、ろくな仕事はありません。求人がないのです。離婚して独身生活の人も多く、男性だと食事は毎食コンビニ弁当という人が珍しくありません。ホント、食うや食わず、そして、食生活が偏ってしまいます。一家団らんという言葉とは縁遠い生活です。うつ病など、精神的な病いをふくめて、病気もちの人も多いですね。癌を三つも四つもかかえている。そんな人が何人も依頼者のなかにいます。
 そんな寂しい人々が、見知らぬ人からであっても、ちょっとした優しい言葉をかけられたとき、無防備のまま尾いて行ったとして、誰がそれを責めることができるでしょうか。
 結果を見て、犯人を厳罰に処せ、と叫ぶのは簡単です。日本もアメリカのように重罰化の方向へひた走っています。おかげで、刑務所は全国どこでも超満員。だから、経費削減、安上がり方策として、刑務所の民営化もついに始まりました。もっと社会が全体として弱者に優しくしなければ、ますます犯罪は増え、おちおち夜道は危なくて歩けない、といったアメリカのようになってしまいます。
 先日、博多でマイケル・ムーア監督の最新作の映画『シッコ』をみました。アメリカって、お金持ちには世界最高水準の医療を至れり尽くせりです。でも、貧乏人は医療保険もなく、高い病院代が支払えないと、入院先の病院から追い出され、文字どおり路上に放り出されるという悲惨な、信じがたい現実があります。アメリカのような日本になってはいけません。ところで、この映画では、同時に、カナダやフランスそしてイギリスまでも、医療費がタダで、市民は安心して診てもらえるということも紹介しています。そうなんです。同じ資本主義国家といっても、アメリカが異常なんです。日本はその異常なアメリカばかりを手本として、医療費の自己負担率を引き上げ、さらに保険会社にガッポガッポともうけさせようとしているのです。とんでもないことですよね。
 日本社会の現実を、小説を読みながら、いろいろ考えさせられました。
(2007年4月刊。1800円+税)

職場砂漠

カテゴリー:社会

著者:岸 宣仁、出版社:朝日新書
 サラリーマンが職場で悩むことのトップは、昔も今も、人間関係だ。
 職場のメンタルヘルスを低下させる要因として、もっとも影響が大きいものは、職場での上司と部下、同僚同士のコミュニケーションの希薄化があげられる。成果主義が企業に浸透するようになって注目されているのが、パワーハラスメント、つまり上司による部下いじめだ。
 おまえら、やる気のないやつは、ガンガン言って自殺しても平気だ。オレは冷淡だよ。
 仕事しないで給料高いのは、辞めてもいいよ。結果がでないのなら、辞めろ。
 結論は数字でしょう。プロセスなんかは、どうでもよい。
 いやあ、ひどいですよね。こんなことを大勢いる前でガンガン言われたら、気が変になってしまいますよ。ノイローゼにならないほうが不思議でしょ。
 成果主義の浸透やリストラの常態化などで、日本の会社の上司はおしなべて「強大化」した。そして、「強大化する上司」に目をつけられたら、その部下は確実に悲劇を迎える。
 今また、終身雇用を支持する声が増えた。
 英語大好き、外国人大好き、ごますり大好き、そして仕事は知らない。外資系企業を渡り歩く外資屋がいるが、むしろ英語屋と呼ぶべき。この英語屋は、本国に向けて業績の数字だけを上手に見せることに気をつかい、国内の社員に対しては居丈高な態度をとる。
 パワーハラスメントは日常茶飯事だ。最近では、中国への投資資金を確保するため、日本法人により高い収益を求める外資系企業が増えている。外資系に勤める日本人社員は 100万人をこえた。そこでは収益至上主義が強まり、退職強要などが激しくなる可能性がある。
 会社は過労死(自殺)などが世間に公表されないよう、労基署で業務上認定されないよう、労災申請の取り下げを条件として、巨額の補償金を支払うことがある。当初、労災申請を取り下げたら1億円出すと会社側が言ってきたのに対して、2億円を要求したところ、1億4000万円を支払った会社がある。それほど会社は労災認定を恐れている。
 いやいや、ひどい会社の内情です。「働きすぎ時代の悲劇」というサブ・タイトルのついた本ですが、ホント、考えさせられます。
 朝、雨戸を開けようとしたら、ヤモリがポトリと肩におちてきました。ヤモリは慌てて逃げ去りました。わが家の窓によく貼りついているヤモリ君です。外で百舌鳥が甲高く鳴くのを聞くと秋の気配を感じます。庭には赤トンボも舞っています。来週ころから稲刈りが始まりそうです。
(2007年7月刊700円+税)

たたかう!ジャーナリスト宣言

カテゴリー:未分類

著者:志葉 玲、出版社:社会批評社
 著者はイラクでアメリカ軍に拘束されました。そのときのタグには、戦時敵性捕虜と書かれていました。スパイ容疑で8日間、アメリカ軍の収容所に拘束されていたのです。日本大使館は、拘束3日後にはアメリカ軍からの通報によって、そのことを知っていたのに、8日間も拘束されていたなんて・・・。いったい日本の外務省は何をしているんでしょう。きっと厄介者が来て困った、自力でなんとかしろとつぶやいていたんじゃないでしょうか。
 イラクのサマワに陸上自衛隊がいるときにも取材に出かけています。恐るべき事実が明らかにされています。
 自衛隊の宿営地で浄化された水は、およそ半分が550人いる自衛隊員の生活用水に使われ、残りの半分が給水に回される。その対象者は2万人。給水活動を自衛隊員がするわけではない。イラク人ドライバーに丸投げでまかせていた。だから、不公平があり、地元民から不満が出ていた。
 学校の校舎の修復工事も同じで、実際に工事をするのはイラク人の土建業者。自衛隊員は、週4日、様子を見に来るだけ。しかも、現場には10分くらいしかいない。
 さらに、土建業者が手抜き工事をしているため、壁や天井から崩れ落ちることがあって、とても危険な状態のところがあるという。そもそも、地元の人間に業務を委託するのなら、600人もの自衛隊員がサマワにいる必然性はあるのか。
 先日の参院選で自民党議員になった佐藤隊長は、迷彩色の自衛隊員が行って対日感情が悪くなったとしても、あくまで武装した自衛隊員がイラクに行くことが重要なのだという趣旨で説明したといいます。ひどい話です。
 ひどい話と言えば、この佐藤議員は、近くのオランダ軍が襲撃されたら、その現場に駆けつけて、ともに敵と戦うことを意識的に企図していたと高言しました。とんでもない話です。憲法で交戦権の認められていない自衛隊が、外国軍のため外国で戦争の渦中にとびこんで交戦しようなんて、絶対に許されないことです。こんな軍部の思いあがりが、日本を破滅の道へ追いやってしまいました。憲法違反の暴言を吐いた佐藤氏は即刻、議員を辞職すべきです。大臣より自分が偉いと思っている防衛事務次官といい、軍人という人種は昔も今も、傍若無人そのものです。
 2003年から2006年まで自衛隊をイラクに派遣してつかったお金は785億円。うち武器などに209億円、運搬費として134億円、手当が128億円。これだけで6割471億円になる。すごい税金のつかい方です。
 それにしてもイラクの実情が日本にきちんと伝えられていませんよね。これだけ巨額の税金をつぎこんでいったい効果があったのか、どんな効果があったのか、私たち国民に政府は報告するのが当然だと思います。マスコミにしてもそうです。いつまでもフリージャーナリストに頼ってばかりいたのではいけませんよ。
(2007年6月刊。1800円+税)

ビキニ事件の表と裏

カテゴリー:社会

著者:大石又七、出版社:かもがわ出版
 1954年3月1日、アメリカは中部太平洋のビキニ環礁で、広島型原爆の1000倍といわれる15メガトンの巨大な水爆実験を行った。
 環礁に、高さ50メートルのやぐらを組んで水爆を置き、午前6時45分に点火した。爆発と同時に直径4〜5キロメートルの巨大な火の玉があがり、珊瑚礁の小島を蒸発させた。それらの粉じんは、強力な放射能を含み、キノコ雲となって3万4000メートルの高さにまで上昇した。あとには、深さ60メートル、直径2000メートルの大穴があいた。その海域でマグロ漁をしていた第五福竜丸は、乗組員23人全員が被爆した。
 被爆した船は第五福竜丸だけではない。政府が把握しただけでも856隻。およそ  1000隻に及ぶ。
 そのとき、サアーと夕焼け色が空いっぱいに流れた。左舷の水平線から一段と濃い閃光が放たれた。
 12、3分が過ぎたころ、空は明るくなり、西の水平線上に入道雲を5つ6つ重ねたような巨大なキノコ雲が空を突いていた。
 2時間ほど過ぎたころ、白いものが空からぱらぱらと降りはじめた。ちょうどみぞれが降ってきたという感じだった。
 やがて風を伴い、雨も少しまじってたくさん吹きつけてきた。目や鼻、耳、口など、そして下着の内側に入り、チクチクと刺さるような感じで、イライラした。
 みんな目を真っ赤にして、こすりながら作業した。水中眼鏡をかける者もいた。鉢巻きをした者は頭の上に白く積もらせ、デッキの上には足跡がついた。唇につくものをなめてみると、溶けないので、砂をなめているようにジャリジャリして固い。熱くもないし、匂いも味も何だろう。
 知らないとは恐ろしい。強力な放射能のかたまりをなめたり、かんだりしていた。
 近くの危険区域で何かが行われた。アメリカ軍の大事なものかもしれない。それをオレたちは見てしまった。秘密のことなら、当然、アメリカ軍の軍艦や飛行機、潜水艦も近くにいるはず。見つかったら大変なことになる。見えたら、すぐに焼津に無線をうつ。見えるまでは打たない。うっかり打てば、自分たちがここにいることをアメリカ軍に知らせてしまう。見つかったら間違いなくアメリカ軍に連行される。へたすると沈められてしまう。
 第5福竜丸は、なんとか逃げ切り、3月14日、焼津港に帰り着いた。翌々日、3月16日、読売新聞がスクープで報道した。
 日本の医師団は、灰にふくまれている放射能がどんな性質のものか、治療に役立てるため教えてほしいとアメリカに求めた。しかし、アメリカは軍事上の機密だといって、何も答えなかった。そこで日本の科学者たちは、灰を独自に分析した。その結果、アメリカの最高軍事機密である水爆の構造まで解明した。
 水爆の構造とは、中心に原爆を起爆剤として置き、点火して核分裂を起こす。そこで 7000万度以上の超高熱をつくり、その外側にある重水素リチウムに核融合を起こさせる。これが水素爆弾だ。そして、水爆ブラボーは、そのまた外側を大量の天然ウランで包んでいた。そこに高いエネルギーの中性子がぶつかり、ウラン238が核分裂を起こすとともに、膨大な量の死の灰、ウラン237がつくり出された。これが汚い放射能だ。
 だから、アメリカは何も教えなかった。日本の科学者が解明したことによって、結果的には世界中が知ることになり、良かったと言える。
 この被爆事件について、アメリカ政府と日本政府が極秘のうちに手打ちしていた関係書類が最近公開された。200万ドル(7億2000万円)で決着が図られた。日本政府はその見積もりでも25億円に達していた被害総額を知りながら、その4分の1程度で早期に幕引きし、「アメリカの責任を今後一切問わない」とした。ひどーい、許せませんよね。
 ところが、大石さんらに対して、日本国民の一部から怒りの目が向けられました。騒ぎを起こしたうえに見舞金をもらって、まだ生きている・・・。
 なんという妬(ねた)み心でしょう。最近のイラクにおける日本人人質に対する自己責任を口実とする非難の大合唱を思い出させます。心の狭い人が日本人に少なくないって、本当に残念ですよね。
 大石さんは、今も、元気に被爆体験を語る活動を続けておられます。今後とも、お元気にご活躍されることを心から祈念します。
(2007年7月刊。1500円+税)

インド世界を読む

カテゴリー:アメリカ

著者:岡本幸治、出版社:創成社
 1820年に、世界におけるGDPは、第一位の中国(清)が28.7%で、インドは 16%と第二位。フランスは5.4%、イギリス5.2%、ロシア4.9%、日本3.1%。当時のインドは日本の5倍以上の経済力を誇っていた。
 インドの言語は312とか800以上とも言われている。小学校では、3言語政策がとられている。3言語とは、英語とインド公用語とその地域の公用語である。そして、エリート層の共通言語は英語だ。
 インドの宗教人口は、ヒンドゥ教81.4%、イスラム教12.4%、キリスト教  2.3%、シーク教1.9%、仏教0.8%、ジャイナ教0.4%。
 ヒンドゥ教徒は微減、イスラム教徒は微増。インドの人口は11億人台であり、そのうちイスラム教徒が1億3000万人いる。世界有数のイスラム大国でもある。
 ムガル朝の太祖であるバーブルは、中央アジアのモンゴル族系の出自である。アラビア人の歴史家がモンゴルをムガルと呼んだので、ムガル朝という名で知られるようになった。
 マハトマ(偉大なる魂)・ガンジーの最大の業績は、それまで都市中間層に片寄っていた民族運動組織を全国に支持基盤をもつ大衆組織、民族を代表する運動体に脱皮させたことにある。彼自身は、イギリスに4年間留学したエリート知識人であったにもかかわらず、インドの多数が居住する農村に注目し、都市インテリが好んで使用する英語ではなく、民衆に土着の言葉で語りかけたこと、そして会議派支部組織の役員は天下りに指名するのではなく、支部会員の選挙を通じて地元で人望のある者を選ぶというやり方を採用した。
 独立当時のインドは、識字率がわずか16%だった。就学率は、小学校で35%、中学校は9%、高校は5%にすぎなかった。
 今や、インド経済の発展は、印僑の存在を抜きにしては語りえない。印僑とは、外国に移り住んでその国の国籍を取得している人々や、インド国籍を残しつつ外国で研究・貿易・生産に従事する人々のことを指す。
 印僑はアメリカに168万人、カナダに31万人、イギリスに105万人いる。
 新たな印僑は知的コミュニティーを形成している。IT分野のほか、文学や経済学でも世界水準への貢献度は高い。経済界への進出が目立ち、政界進出もはじまった。
 最近の印僑は、インド国内の中流以上の家庭出身である。在米印僑の子弟の学歴は高く、印僑の子弟の7割前後は大卒の学位を取得する。これは全米平均の21%の3倍をこす。
 カリフォルニアのシリコンバレーでは30万人の印僑が就業しており、全米に5000人の印僑の大学教授が教壇に立っている。
 アメリカにいる印僑の家庭の収入は、全米平均の2倍、年に6万ドル。シリコンバレーで働く技術者の平均収入は年間30万ドル。
 インド本国への送金は急上昇中で、1994年に78億ドルだったのが、2003年には220億ドル。10年間で2.8倍にふくれあがった。
 インドのバンガロールには、77もの工科大学があり、3万人の学生を毎年送り出している。インド企業に働くソフト技術者は34万人。これはアメリカに次いで世界第二位。大学卒の技術者は全インドで毎年10万人をこえる。
 ソフトの売上げは、輸出が国内よりはるかに大きい。北米60%、ヨーロッパ20%、日本は4%。
 イギリスの国鉄にかかる電話は年間5000万件あるが、その半分はインドでインド人が英語で応答している。
 アメリカにいる外国人留学生56万人のうち、インド人は8万人。7人に1人を占め、断然第一位。中国人より多い。
 最近、インド人が積極的に移住しているのは湾岸諸国である。とくにアラブ首長国連邦である。これは、石油関連産業への出稼ぎが目的である。
 最近のインドの実情をいろいろ知ることができました。
(2006年10月刊。800円+税)

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