法律相談センター検索 弁護士検索

梅の屋の若者たち

カテゴリー:社会

著者:加藤 長、出版社:同時代社
 タイトルになった「梅の屋の若者たち」というのは、最近、残業代の不払いを問題としてパート社員がファーストフードの「すき屋」を相手にたちあがったケースを小説にしたものです。フリーターを簡単に切り捨てる企業を許さない。そのために労働組合に加入する。個人加盟の労組、その名も首都圏青年ユニオン。ちょっと前には考えもしないネーミングです。
 実は、この本を読んだのは広島の廣島敦隆弁護士の紹介です。東大闘争を小説にしているので、読んでみたらということでした。
 この本のなかに小説「東大闘争」という150頁ほどの中編があります。東大文学部は、東大闘争のとき、革マル派に牛耳られていました。まさしく暴力的支配に等しい状況でした。それを民青の側で正常化していく過程が生々しく描かれています。
 東大闘争から40年たった現在、その記憶は多くの人の頭の中で風化しつつあり、時代も当時とはまったく様変わりしているが、誰かがこういうものを残さなければ、という義務感が執筆の動機となった。
 まあ、読んでみると単に義務感だけで書かれたとは言えないように思いました。
 早乙女勝元氏の推薦の言葉は、「旺盛な筆力に、青春のロマンが躍動している。東大闘争を扱った一篇が特に力作で、四昔も前のその日そのときの緊迫感に、胸がときめく」とあります。
 いろんな人との出会い、輝いている女性たちとの出会いが余韻深く語られているので、その顛末はどうなるのかなあ、と思ったことでした。
 そして、40年後の今日の状況も少しだけ語られています。やはり、そこがぜひ知りたいところですよね。40年前に最前線で活躍していた人たちが今、どこで何をしているのか・・・。
 『清冽の炎』(神水理一郎、花伝社)を読んだ人から、東大闘争は壮大なマイナスという印象が強く、あまり思い出したくないものだという感想を聞かされました。そして、学生時代に講義を受けることもなく、まったく勉強しなかったので、今、勉強しているが、けっこう楽しんでいるということでした。
 そうなんですよね。私がいまフランス語を毎朝勉強しているのも、学生時代に真面目にやっていなかったことを取り戻したいという気持ちもあるのです。
 青春を取り戻せ、とまでは私も言いませんけどね。
(2008年1月刊。2000円+税)

赤い春

カテゴリー:アラブ

著者:和光晴生、出版社:集英社インターナショナル
 私と同世代の男性です。日本赤軍のメンバーとして中東に渡り、そこでパレスチナ・コマンドの一員として戦っていたというのです。その主義・主張に賛同するつもりはまったくありませんが、パレスチナで起きていることを日本人が身近に観察した本として、その実情を知るうえで勉強になりました。
 1979年、30歳になっていた著者はアラブ語が話せないので、子ども扱いを受けていた。うむむ、私が福岡にUターンして2年目になるころのことです。弁護士として5年目で悪戦苦闘していました。そのころの私の顔をビデオで見ると、いかにもとげとげしい顔つきです。必死で生きていたことだけはよく分かりますが・・・。子ども(長男)に対しても、こうあるべきだということを、良くも悪しくも、ストレートに押しつけていました。今となっては反省しきりです。
 パレスチナ・コマンドには、たいていの武器があった。歩兵用突撃銃(日本でいうカラシニコフ。ここではクラシンコフ)も、対戦車ロケット砲(ロシア製RPG)。いわゆるバズーカ砲。そして、対空機関銃も。ないのは、対空ミサイルのみ。対低空・肩かつぎ式ミサイルはあっても、それ以上の対高空ミサイル・システムは国家ににしか供給しないという不文律があった。ふーん、そういう限界があったのですね・・・。
 著者は一浪して1968年に慶応大学文学部に入りました。全共闘の活動家になりますが、どこのセクトにも属しない、いわゆるノンセクト・ラジカルだったということです。そして、赤軍派からオルグを受けます。いろんな経過があって、著者は日本赤軍のメンバーとして、中東に渡ることになります。
 パレスチナ・コマンドの熟練コマンドは足音を立てないで歩いていく。足を踏み出すとき、力を込めるのは太ももの部分で、膝から下は力を抜いたまま、前方へ振り出すようにする。膝と足首を柔らかくつかうのがコツだ。
 PLOのオフィスを狙った自動車爆弾が破裂して100人以上の死傷者が出たとき、著者はビルの反対側のアパートの洗面所にいました。30メートルも離れていない地点にいて、音すら響く間のない速さと強さで爆風が吹き抜け、生命を助かったのです。悪運が強い奴という冗談がついてまわることになったそうです。なるほど、そうですよね。
 パレスチナのコマンドたちは、もともとイスラム教徒ではあっても厳格なスンニー派とは異なり、戒律のゆるい宗旨だったうえに、外来の入植者たちから侵略攻撃を受けつづけ、家族や家・土地を失い、共同体も破壊され、故郷から追い出され、それこそ神も仏もあるものかという想いから銃をとり、たたかい始めたのだ。
 著者は日本の連合赤軍事件について、次のように批判します。
 決定する立場にいる人間が、直接に手を下す実行部隊に加わらない位置にいたからこそ、仲間を殺すというとんでもない方針を出し、実行者の背を押すことができた。それで、命令を受けた者たちが殺害してしまったら、命令を下した側も後に引けなくなってしまう。そのあとは、一丸となって破滅への道を突っ走る以外にない。
 遠く離れたアラブの地で、日本赤軍が思想闘争や自己批判の総括などを内部ですすめていたのは偶然の一致ではない。共通するのは、路線・政策の貧困やいきづまりを精神主義、決意主義と教条主義理論と建て前のみの空疎なスローガンで糊塗するというパターンだ。
 うーむ。このあたりは、同世代にいるものとして、なんとなく、よく分かります。
 また、著者は最近よく起きている自爆作戦に対しても強く批判しています。
 自爆を決意する個人の心情に対しては同情なり共感の余地があるにしても、自爆作戦を組織の恒常的な戦術にするような指導部は信用できるものではない。人にやらせる前に、まず自分がやれよ、と言いたい。
 この点は、私もまったく同感です。自爆作戦ほど怖いもの、いやなものはありません。そんなものをさせては絶対にいけません。もちろん、してもいけません。ブット元首相の暗殺犯人の一人が15歳だと報道されていましたが、ひどいですよね。
 日本赤軍には、「○○同志を援助する会」という名前の吊し上げ大会、すなわちメンタル・リンチともいうべき会議があった。著者もお世話(?)になったそうです。この「援助する会」自体が、組織にとって統制・支配する道具にほかならなかった。
 自己批判そして他己批判は必要ではあるが、それがいき過ぎると、リンチになり、支配の道具になる、というのです。そうなんでしょうね、きっと・・・。私は大学生のころ、セツルメントというサークルに入っていましたが、そこでも自己批判は大切なものだということで盛んでした。自己をかえりみること自体は必要なことだと今も思います。とくに、生意気な学生盛りでしたので、自分一人で生きてきたかのような錯覚から目を覚ますのには必要な作業でした。
 1973年に著者は日本を飛びだし、いま東京拘置所に拘留されて7年以上になります。無期懲役の刑を受け、最高裁に上告中の身です。東京拘置所の中にいて、多くの外国人囚人がいることから、世界が日本に押し寄せているのを実感しているというのです。
 同じ年に生まれた日本人が、遠く中東パレスチナの地でコマンド(戦士)となり、戦場で死ぬような思いを何度もしながら、日本に帰ってきて、今は日本の拘置所にいて無期懲役の刑を受けて上告中だというのです。かつて全共闘の活動家であった人物の一つのスジを通したあり方なのかもしれないし、そうではないのかもしれませんが、学生時代に「敵対」していた私にとっても、ずっしりと重たい本でした。
(2007年10月刊。2000円+税)

腸内リセット健康法

カテゴリー:未分類

著者:松生恒夫、出版社:講談社α新書
 大腸内視鏡検査などを専門とする消化器内科医のかいた本ですが。なるほどなるほど、とうなずくところが多かったので、紹介します。
 私は幼いころから胃腸があまり丈夫でないと思ってきたのですが、あるときから、胃はフツーだけど、腸のほうが弱いんだと思うようになりました。人間ドッグに入ったとき、下腹に聴診器をあてたドクターが、腸のぜん動運動が通常人より弱いと指摘したのです。なーるほど、そういうことだったのかと、そのとき納得することができました。それは、異常があるというより、ヒトの個性だという指摘でした。
 著者が大学を卒業した1980年ころには大腸の病気はそれほど多くはなかった。ところが、それから20年たった2003年になると、女性のガン死のなかで大腸ガンが1位、男性でも4位となり、大腸の疾患は増加の一途をたどっている。
 食物繊維が豊富で、動物性脂肪をとることの少ない従来の日本型の食生活から欧米型の食生活へ移行したことがその原因とみられている。
 ぜん動運動が適切になされず、低下している腸の状態を停滞腸という。内視鏡でみると、健康な腸は美しいピンク色をして弾力にとむ管なのだが、停滞腸は色がくすんで形も弾力が失われ、ダラっとしている。
 停滞腸による便秘にともなってガス腹になる。お腹にたまるガスの量は、多い人だと大型ペットボトル2本分、つまり2〜3リットルにもなる。ひぇぇ、す、すごーいです、これって。
 下剤を多用しても停滞腸は治らない。センナ、アロエ、大黄などのアントラキノン系の下剤を頻繁につかっても大腸メラノーシスという症状を起こしてしまう。
 日本人の腸は欧米人の腸に比べて長い。ところが、長いはずの日本人の腸が短くなる傾向にある。欧米人のS状結腸よりも湾曲が大きく、その分だけ長かった。そのS状結腸が短くなった。
 S状結腸は消化・吸収を終えた食べ物が大腸を経由して直腸から便として排出される前に、排出の順番を待たせるための調節をしている。このS状結腸が短くなると、便を保つ力が弱くなる。すると、一度に出る便の量が減り、回数は増えることになる。
 日本人が長寿であるのは、食物繊維をたっぷりとり、良好な腸内環境を維持してきたからだ。腸の中で重要な働きをする食物繊維が慢性的に不足したら、ぜん動運動する腸の力は弱まり、腸管のなかに老廃物や有害物が停滞することになる。その結果、腸内細菌のうち善玉菌は減少して悪玉菌が増え、便秘や下痢をうみやすい腸内環境になってしまう。
 乱れた食生活は便秘になる。便秘をすると、食べたものに含まれる添加物などのガン化を促進する物質が腸に長く留まることになって、ガンが発生しやすくなる。便秘によって腸内で大腸ガンが増えている可能性は否定できない。
 腸には、脳を介さない独自の神経システムがある。小腸と大腸をあわせた腸のなかには脳と同じように神経系や内分泌系の組織が存在し、1億個もの神経細胞がある。それは脳にある神経細胞100億個に次いで、断トツに多い。だから、腸は「第2の脳」と言ってよい存在だ。
 腸を大切にして、健康で長生きしたいものです。腸に良いレシピまでついていて、とても参考になる本でした。
 いま、私の体重は65キロほど。瞬間的には64キロ台になることもあるのですが、なかなか65キロで安定してくれません。医師からは62キロを目ざせと言われています。食事の量を減らしていますので、いつもお腹をすかしていますから、毎回の食事(といっても昼と夜の2回のみですが)が待ち遠しくてなりません。
 ところで、20年以上も泊まっている西新宿の外資系ホテル(ヒルトン)のフロントでチェックインするとき、クレジットカードの刻印を求められるようになりました。高い年会費も払ってクラブ会員にもなっているのに、今さら一見客みたいに支払能力チェックするのはどうして?と訊くと、奥から若い男性が出てきて、みなさんに一律にお願いしていますと居丈高な対応です。東京には別に定宿みたいなホテルが二つありますが、そのうちの一つなんかは、名前を言うだけですぐに部屋に案内されます。常連客と一見客とを区別して扱うのはサービスの基本だと、私は思うんですけど・・・。フロントの対応に疑問を感じて、これからはあまり利用したくないホテルだと思いました。ところが、この外資系ホテルは早朝からプールで泳げて好都合なのです。どうしよう・・・。
(2007年12月刊。800円+税)

医者、用水路を拓く

カテゴリー:アラブ

著者:中村 哲、出版社:石風社
 すさまじい本です。大自然との格闘の日々が描かれています。たいしたものです。私より少しだけ年長の団塊世代でもあります。九大医学部を卒業した医師です。1984年以来、パキスタン、そしてアフガニスタンで活動しています。心から尊敬します。
 ペシャワール会は年間3億円もの募金を集めているそうですが、この本を読むと、その浄財が決死の覚悟の人々によって有効活用されていることがよく分かります。私自身は、ほとんど献金らしきものをしてこなかったので恥ずかしさを覚えました。日本は自衛隊を送ったりしないで、こんな形での民間交流を支援すべきだと、つくづく思いました。
 ところが、中村医師が国会で証言したとき、自民党議員などが野次を飛ばし、はては発言の削除を要求したというのです。許せません。自衛隊の海外派遣は有害無益だという発言です。実体験をふまえていますので、重みがあります。中村医師は次のように言います。
 「人道支援」を名目に、姑息なやり方で自衛隊を海外に派兵することは、いかに危険で不毛な結末に終わるか。あまりにも浅慮だ。自衛隊派遣は有害無益、飢饉状態の解消こそ最大の課題だ。
 これに対して、自民党議員が野次を飛ばした。そして、亀井代議士は取り消しを求めた。
 自衛隊は侵略軍と受けとられる。理不尽な武力行使は敵意を増すばかり。対日感情は一挙に悪化するだろう。まことに正論です。これまで、アフガニスタンでは、日本人であることは一つの安全保障だった。それが壊れるというのです。それでは、いけませんよね。
 2007年6月現在、アフガニスタン復興はまだ途上であり、戦火は泥沼の様相を呈している。アメリカ軍と同盟軍の兵力は4万人をこえ、初期の3倍以上。そして、アメリカに擁立されたカルザイ政権は、300億ドルの軍事費が復興につかわれていたら、もっと復興はすすんでいただろうと語っている。
 なーるほど、ですね。軍事費にいくらお金をつぎこんでも、戦火は拡大するばかりで、人々の生活は回復・安定しないのですよね。
 この本は、2001年9月から2007年4月までのペシャワール会の6年間の活動を紹介しています。ペシャワール会は、アフガニスタンで「100の診療所よりも、一本の用水路」という合言葉で活動してきました。
 アフガニスタンを大干魃が襲った。100万人以上の人々が餓死線上にあった。子どもたちは栄養失調で弱っているところに汚水を口にして赤痢にかかる。食糧不足と脱水があると致命的。
 ペシャワール会の目標額は2億円だったが、2002年1月には6億円に迫った。天皇夫婦も募金した。
 タリバン政権というのは、攘夷を掲げるアフガン=パシュトン国粋主義に近い。アルカイダとは異なる。そのタリバン政権が崩壊するまでの2ヶ月間に、ペシャワール会は1800トンの小麦と食糧油20万リットルを送りこみ、餓死に直面していた市で15万人が冬を越せた。
 アフガニスタンへ食糧を届ける取り組みのときには、配給部隊をカブール内の3ヶ所に分宿させ、1チームが壊滅しても、残る2チームが任務を継続できるように手配した。
 うむむ、なんと、すごいことでしょう。
 すごい、すごーい。たいしたものです。
 そして、ペシャワール会は、井戸ではなく、用水路を掘り始めました。農業で食べられるようにしようというのです。
 アフガン農村と一口にいっても、緑の田園から想像されるような牧歌的なものではない。内実は、各勢力の抗争の場であり、同時に協力と妥協の場でもある。
 用水路をつくるために、荒れる川を制御しようと使ったのが蛇籠。蛇籠を1万5000個もつくったというのです。コンクリート3面張りは、今や日本でも評判悪いわけですが、アフガニスタンでは、そもそもコンクリートをつかいませんでした。アフガニスタン人は、ともかくきれいに積むのが習慣。石積みなら、お年寄りを中心に時間を忘れて没頭する。石に見とれている光景も珍しくない。無類の石好きだ。へーん、やっぱり、ところ変われば、品変わるですね。日本人なら木材が好きですよね。
 4年間で植えた柳の木が12万本。桑の木7000本、オリーブの木2000本、ユーカリの木2500本。桑の木は土手の外壁の強化に、ユーカリは土石流対策で遊水池の防災林造成、オリーブは乾燥に強く、地中深く根を張るので、高い土手の外壁に植えた。
 日本人スタッフは、ボランティアではなく、現地ワーカーと呼ぶ。動機を問わなかった。用水路が開通すると、子どもの病気が激減した。体を洗う機会が増え、飲料水の汚染が少なくなったからだ。
 アフガニスタンで用水路をつくるのに、筑後川で江戸時代につくられた山田堰の経験と教訓が生かされているというのを知って驚きます。著者の実家が福岡県南部にあるからでもあります。
 医師が聴診器をもつより、ユンボなどを自ら操作して用水路を切り拓いていく実情を知り、体が震えるほどの感動を覚えました。世の中には、こんなすごいことを日々している日本人がいるのですね。日本人みんなで後押しをする必要があると思います。
 やはり、世界の平和は、自衛隊の派遣なんかで得られるものではありませんよね。憲法9条2項の削除なんて、とんでもない間違いだと、ひしひしと感じました。
 福岡県弁護士会では5月23日に中村医師の講演会を天神にあるアクロスで企画しています。ぜひ、ご参加ください。
(2007年11月刊。1800円+税)

犬の科学

カテゴリー:生物

著者:スティーブン・ブディアンスキー、出版社:築地書館
 アメリカの犬は人間への咬みつき事故を年間100万件以上おこす。その被害者の多くは子どもで、年に12件は人が死んでいる。保険会社は犬による傷害事件で年に2億5000万ドルを支払っており、傷害保険費用の総額は10億ドルをこす。
 犬は、体重あたり人間の2倍の食糧を消費する。アメリカにいる1500万頭の犬は、ロサンゼルスの全人口と同じ量の食料を消費し、その費用は年に50億ドルをこえる。獣医にかかる費用が年に70億ドル。アメリカの公園や街路で回収される犬の糞は年に  200万トン。
 狼は犬ではない。原始犬の体型が化石となって残るよりはるか以前に、犬は狼から分かれて犬になっていた。犬は、狼より人間と親しくなった。犬の出現は、広く信じられている以上に古い出来事だった。
 300をこす現代犬の犬種は、過去2世紀内の、ごく最近に登場した。1870年にケネル・クラスが設立され、80種の犬を分類して登録した。
 化石によると、犬の体型の変化は、1万4000年前に始まった。
 犬の遺伝子プールは、何万年もの進化の過程で、世界中でよく混ぜあわされ、均質な大海のようなものになっている。
 犬は成犬でも子どもっぽく見える行動をする。犬はエサをねだり、子犬のような格好の服従姿勢を示し、必要もないのに吠えるし、大きくなっても遊び好きだ。野生狼にみられる狩猟行動のパターンを明らかに失っている。犬は、成長することのない子狼のようなものだ。
 狼たちも犬たちも、すべて出世主義者である。目上の者の弱み、躊躇、自信喪失の徴候をうかがっている。
 狼の群れの移動は、しばしば、リーダーに無条件に従うのではなく、多数決で決める。
 狼のアルファ雄とアルファ雌は、ふつう後肢を上げて排尿する。群れのほかのメンバーは、しゃがんで用を足す。
 犬には、広い場所をきれいにしておく本能がないだけではなく、反対に、すみかの周辺をくまなく糞や尿でマークしたくなる衝動がある。
 生後14週まで、まったく人間と接触しなかった子犬は、強い恐怖感を示し、床に静かに腰をおろしている人間に決して接触しようとはしなかった。
 子犬には、3週齢から12週齢の間の臨界期がある。子犬が人間を何とも思わず、恐れないようになるのは、生後3週間目に人間と接触するのが好ましく、いくら遅くとも7週目までのこと。
 子犬を6週齢で母犬や兄弟姉妹の犬と引き離すと、その後の健康にも、社会化にも悪影響がある。6週齢で子犬を新しい家庭に移すと、12週齢のときより強い不安感を示し、食欲も病気に対する抵抗力も低下する。子犬は生後2ヶ月間で、社会規範について決定的に重要な知識を獲得する。
 犬は、あらゆる点で狼と同じくらい利口だし、チンパンジーにも匹敵する。
 しかし、犬の脳は狼より25%は小さい。犬を訓練するのにエサを与える必要はない。実は、労働それ自体が犬にとっての喜びなのだ。犬にとって最高の報酬のひとつは、社会的に優位に立つ者とのきずなが強まること。自分をあるがままに受けいれてもらえること。
 なーるほど、なるほど、よく分かりました。
 犬が思考し、感情をもっていること、まわりの人や生き物の行動に絶えず気を配っていることは、まぎれもない事実である。
 アメリカでは、年に1500万頭の犬が収容所に送られるが、獣医師によって安楽死させられる。たいていは攻撃行動が原因であり、飼い主は犬に裏切られたのだ。
 飼い主が神経症の場合は、犬が問題行動を起こす割合が高い。
 ひとたび犬が自分をお山の大将だと確信すると、誰かがその権利を剥奪しようとしたとき、犬は真剣に反撃する。犬は、自分より優位にあると感じた相手からの攻撃に対して、いっそう攻撃的な反応を示すことも、またおびえることも、絶対にない。そんなときには、犬はひたすら服従的な態度を示す。
 犬が人間なら、ただの間抜けだ。犬は犬だからすばらしい。そのことを直視しよう。うーん、納得です。犬について、科学的に知ることができました。
(2004年2月刊。2400円+税)

福岡県弁護士会 〒810-0044 福岡市中央区六本松4丁目2番5号 TEL:092-741-6416

Copyright©2011-2025 FukuokakenBengoshikai. All rights reserved.