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神様の愛したマジシャン

カテゴリー:社会

著者:小石 至誠、 発行:徳間書店
 著者はプロのマジシャンだそうです。有名なマジシャンのようですが、私はテレビを見ませんので、全然聞いたこともありませんでした。でも、この本はプロの小説家が書いたように、よくできていました。しっとり、じっくり味わうことのできる本でした。ついでに、マジックの種明かしもほんの少しだけなされています。だから、余計に面白いのです。だって、種明かしもしてほしいでしょ。
 マジシャンは、マジシャンを演じる役者でなければならない。つまり、テクニックを身に着けるだけではなく、マジシャンの醸し出す雰囲気を表現しなければならないということ。
 マジックの世界には、有名なサーストンの原則がある。種を明かさない。同じ現象を続けない。これから起きる現象を先に言わない。
 マジックには、不思議を感じさせる現象という表の部分と、決して見せてはならないネタという裏の部分がある。この、ネタという裏の部分と表の現象とが必ずしもイコールで結ばれてはいない。
 プロのマジシャンの場合、理解しにくいというか、決して見せてはいけない裏の技術部分より、より派手な現象を見せるということの方が重要であるに決まっている。
 実は、見ている観客には面白かったり楽しかったりするマジックこそ、演じているマジシャンにとっては大変厄介なものが多い。
 発表会のときのルール。もし演技中にマジックのタネがあからさまになったときには、照明をカットして暗転にする。
 チャイナ・リングはたった一本の指先に隠れるほど小さな切れ目がリングの一箇所にある。その切れ目はリングを持った指先に隠されていて、決して観客の目に触れることはない。
 「美女の胴切り」のタネ明かし。実は、箱の半分に全身を収めてしまう。周囲が黒く塗られていて、そんな大きな箱には見えないけれど、実際には、かなりのスペースが作られている。
 うむむ、私も、この3月にハウステンボスのマジック・ショーを見ました。そのときはあの図体のでかい、ゆっくりした動きしかしないはずのゾウが、たしかに一瞬のうちに消えてしまったのでした。
 大掛かりの箱物マジックショーには、百万円単位のお金が届いていた。出演料はわずか2000円だったころのことである。
 マジシャンは楽天的でないと務まらない。
 ハトを防止から飛び出させる芸を披露する人は、ハトを何十羽も自宅で飼育している。自宅に特別な部屋を作り、餌を入れたギールを置いておく。ずっとハトを訓練していると、舞台でも街灯を目指して飛んでいく。
 プロのマジシャンは、日本に300人以上はいる。
 自慢の技術を評価されてはいけないのが、マジシャンという職業である。
 マジックの特許なんて、まるでないのが実情だ。マジックの道具の値段とは、ほとんどトリックのアイデア料である。
東京でマジック・ショーを売り物にしているスナックというかクラブにいったことがあります。舞台でマジックが演じられるのではなくて、テーブルに回ってくるのです。いわゆる手品です。万札が次々に出てくるマジックには、みんな感嘆しました。お金を手に入れるのがこんなに簡単なら、誰だって、いつでもするよね、そんな感想が湧き上がってきました。 
(2008年6月刊。1300円+税)

父の戦地

カテゴリー:日本史(戦後)

著者:北原 亞以子、 発行:新潮社
 召集され、遠くビルマへ派遣された父親が、故郷日本へ送った葉書70数枚が再現されています。愛する我が娘(こ)が小学校に入学する姿を見れず、祝福の声をかけられなかったって、どんなに残念なことだったでしょう。その娘によって、葉書に書かれた状況が生き生きと再現されています。亡き父親は残念な思いと同時に、今では、この本を知って天国で満足しているのかもしれません。それにしても、人間の作り出した戦争って、罪な存在だとつくづく思いました。好戦派の石破大臣も、自分や家族が戦地に出されたら身にしみて分かると思うのですが、今はひたすら口で勇ましいことを言うばかりで、厭になってしまいます。戦争は、中山前大臣みたいな「口先男」と利権集団のために起こされるものだとしか思えません。
 直木賞作家の著者の父は、著者が3歳のときに応召してビルマへ派遣された。東京・新橋で家具職人として働いていた。ビルマに送られてからは、絵入り葉書を故郷の娘へ大量に送ってきた。
 カタカナ文字に絵が描かれているのですが、素人絵ながら、本当に味わいがあります。決して上手な絵ではないのですが、それが妙に面白いのです。
 母が父の戦死の公報を受け取ってきた日のことは鮮明に覚えている。よく晴れた日、外で遊んでいた小学3年生の著者は、母に呼ばれて、日当たりの良い座敷に座った。終戦の翌年(1946年)のこと。
 「ちょっと話があるんだよ」
 「なあに」
 「お父ちゃんは死んだよ」
 「お父ちゃんが死んだなんて嘘みたい」
 母は泣いていなかった。母の膝にふつぶせて泣いた。自分の悲しさをどうすればよいのか分からず、ただ泣きじゃくっていた。
 昭和20年4月、ビルマから退却していた途中、輸送船に乗っているところを空襲されて死んだらしいということが分かった。
 父があの世へ旅立ったのは、父が病に侵されたからではない。まして、死にたいという意思があったからではなかった。もっと生きていたかったはずである。この世に未練も執着もあった。
 母に宛てた葉書に、「若く見られて恥ずかしいって、結構だ。うんと若くつくれ、今まであまりにくすぶりすぎていたから、これからはうんと若くつくれ。ズキン、ワイシャツ、どんな格好だろうな。どんなでもいいから、きれいにしていてくれ」と父は書いている。
 最後に、その父親の写真が一枚だけ紹介されています。俳優にしていいような素敵な笑顔です。つい、私は、亡くなった佐田啓二を連想してしまいました。
 幼い娘を泣かせてしまった戦争を私は憎みます。 
(2008年5月刊。740円+税)

みんな、同じ屋根の下

カテゴリー:未分類

著者:リチャード・B・ライト、 発行:行路社
 サンセット老人ホームの愉快な仲間たち、というサブタイトルのついた本ですが、この本を読むと、老人ホームでの生活はそれほど愉快なものではないことをしみじみ「実感」させられます。
 私もやがて還暦を迎えます。同世代には既に定年退職した人もたくさんいます。誰もが「老後の生活」を愉快に楽しんでいるとは思えません。とりわけ、最近スタートした後期高齢者医療制度のように、あからさまな老人切り捨て策が鳴り物入りで美名うるわしく実施されているのを見るにつけ、心穏やかではありません。
 それはともかくとして、この本は、カナダにある架空の老人ホームを舞台として、1990年に出版されました。訳者あとがきでも、愉快な物語であるとされています。ええっ、どこが・・・・・・、と私なんか思います。同時に、深刻なテーマも包含する。えっ、むしろ、深刻な話ばっかりじゃないの、とツッコミを入れたくなります。
 意地悪爺さん、被害妄想婆さんなどなどが老人ホームにおいて日夜、繰り広げる生存競争の物語。そうなんです。壮絶な戦いが展開されるのです。老人ホームに入所している高齢者の過去・現在・未来を、ユーモラスに、ときにペーソをにじませて描き出している。ここには、「人生の最期」という、内容の普遍性と今日性がある。
 そうなんです。私も、いずれ老人ホームにお世話になるのかもしれません。足腰が弱くなり、日常生活にとかくの不自由をきたし始めたら、身辺介護を受けなくてはいけないでしょう。そんなとき、隣の部屋にソリの合わない人が居て、毎日、いがみあっていたとしたら、どんなに不幸な老後でしょうか……。 いやあ、しみじみ考えさせられました。
(2008年6月刊。1800円+税)

最後の授業

カテゴリー:アメリカ

著者:ランディ・パウシュ、 発行:ランダムハウス講談社
 ドーデーの『最後の授業』ではありません。46歳の教授がすい臓がんで余命いくばくもないと宣告され、カーネギーメロン大学で最後の授業を行ったのです。
 いやあ、すごいですよ。自分の生命があとわずかだと告知されたとき、あなたなら、何をしますか?
私も父を癌で亡くしましたので、癌という病気についてはすごく関心があります。そして、癌の告知については、してほしい反面、怖さに耐えられるだろうかという不安があります。
それにしても、あなたの生命はあとわずか数ヶ月だと宣告されたら、どうするでしょうか。
 最近、私の大学時代のセツルメント仲間から、亡きご主人の追悼集(『一途に進む私の道』)が贈られてきました。私も近くに住んだことのある神奈川県川崎市の法政二高の英語の教師だった人(故橋本保氏)についての追悼集です。それによると、2月に「夏まで」と家族は告知されたそうです。癌が再発・転移したわけですが、本人はそのこと自体は知っていても、どうやら「あと何ヶ月」というのは知らされなかったようです。知ったところで、既に入院中の身であれば自由に行動できるわけでもありませんので、どうしようもなかったのでしょう……。緩和ケアー病棟での生活をご本人が報告しているのを読むと、大変に意思の強い人だと感嘆してしまいました。私なんか、いったいどうするだろうと思いながら、追悼集を読み進めました。
 さて、この本に戻りますが、最終講義は無事に終了し、これがインターネットでも配信され、のべ600万ものアクセスがあったそうです。私は戦争好きのアメリカなんて大嫌いなのですが、こんなアメリカは大好きです。アメリカの草の根民主主義は今の日本国憲法にも生きていると思っています。アクセスした「600万人」は、そんな草の根民主主義を体現していると勝手に思い込んでいるのです。
 大切なのは完璧な答えではない。限られた中で最善の努力をすることだ。
 うーん、これって、なかなかいい言葉ですよね。
 今回の講義がなぜ大切なのか考え直した。生きていると自分も確認したいし、みんなにも分かってほしいから? まだ講義をする元気があることを証明するため? 自分の最期を見てほしいという目立ちたがり屋の精神? この答えは、すべてイエスだ。傷を負ったライオンはまだ吼えられるかどうかを確かめたいものだ。これは威厳と自尊心の問題だ。虚栄心とは少しだけ違うんだ。だから、僕の講義は死ぬことについてではなく、生きることについてでなくてはならなかった。な、なーるほど、ですね。最後の最後まで、自分の存在というのを世の中に認めてほしいものです。
 子供はなによりも、自分が親に愛されていることを知っていなくてはならない。
 ホント、そうなんですよね。
 幼い子供たちと、やがて悲しい別れがやってくる。そして、彼らには父親の記憶が残らない。これほどつらいことがあるでしょうか・・・。ここを読んでいるうちに、ついつい涙してしまいました。 著者はお元気のようです。ぜひ、これからもお元気にお過ごしください。
 世界遺産に登録された白川・五箇山のうち、五箇山のほうへ行ってきました。気持ちよく晴れ上がった秋の日の朝のことです。大きな萱葺きの家がよく保存されていました。そこで生活する人にとってはかなり不便を多いことでしょうが、やはり、こういう風景はぜひ攻勢まで伝えたいと思ったことでした。稲穂が重く垂れたそばで、コスモスが咲いていました。チューリップのような淡いピンクの花が珍しかったのですが、名前が分かりませんでした。あとで、ぺシニアという花だと教えられました。大きな村上邸では、火の起きている囲炉裏のそばでお年寄りが語り部として故事来歴を語ってくれ、また、ササラを演じて見事なコキリコ節を聞かせてくれました。
 川向こうに流刑小屋が唯一つ残っているというので、見学してきました。独房です。これでは冬の寒さに耐えられません。富山は加賀百万石の一部になっていたそうです。
(2008年6月刊。1500円+税)

サブプライムを売った男の告白

カテゴリー:アメリカ

著者:リチャード・ビトナー、 発行:ダイヤモンド社
 アメリカのサブプライムローンをめぐる破綻が全世界の経済を大きく揺り動かしています。この本は、サブプライムローンの実体が、いかにインチキであったか、体験を通して暴露しています。
 アメリカでは、夫婦の一方が病気になれば、たちまち経済的に破綻してしまう。国民皆保険制度がなく、営利企業である保険会社に加入できなければ、高額の自費負担を余儀なくされるからだ。
 サブプライムローンの借り手の大半、少なくとも80%の人々は期日通りに返済している。滞納件数がかなり多いのは明らかだが、5人のうち4人は返済している。
 サブプライムローンの借り手は、伝統的な住宅ローンなどを借りる資格のない人々である。信用度は良くない。前にローン返済が延滞したり、不履行になったりした事実がある。だから、借り手はリスクの増加と相殺するため、より高い利息やローン手数料を支払わされる。
 クレジットスコアというのがある。300点から850点までの範囲がある。
 2000年までに、アメリカでは、25万人以上のモーゲージブローカーが活動していた。モーゲージブローカーにライセンスを要求する州は少なかったので、業界への参入障壁は低かった。
 住宅ローンで不正行為が横行した。本来なら住宅ローンを借りる資格のない借り手が融資を受けた。たとえば、居住物件のはずが、投資物件であった。借り手が友人や親類の会社で勤めているとして職歴をデッチ上げる。ローンに関わる重要情報を隠してしまう。
 信用度の高い人が、第三者に自分の借入の実績を使わせ、その都度、手数料をもらうということもあった。このような「信用強化」は人を欺くものである。
 不動産鑑定士が価値以上の評価を出すこともある。あらゆる数字をぎりぎりまで操作して評価額の数字を導き出す。借り手は望みのものを手に入れ、レンダーとブローカーは手数料を稼ぎ、投資家は優良債権を受け取ることになる。
 しかし、こんなことは長続きはしない。いずれは破綻する。
 アメリカの非金融企業で、最上級のトリプルAに値するのは、ほんの一握りの企業にすぎない。それなのに、格付けされた債務担保証券の90%がトリプルAというタイトルを授けられている。
 これから数年のうちに、200万人もの人々が差し押さえによって住居を失う危険がある。
 抵当流れのピークは2009年だと予測されている。総件数は200万件に達する。そして、ラスベガスやマイアミという住宅に最高額が付けられてきた町でも、今後の数年のうちに住宅価値は40〜50%も下がるという推測がある。 
 今、アメリカ発の世界恐慌が起きるのではないかと、みんなが心配しています。アフガニスタンやイラクへ戦争を仕掛けたアメリカの国内経済がガタガタになっているのです。それなのに、大企業の救済・優遇措置だけはしっかりとろうとしています。アメリカの国民が猛反発したため、一度は国会で否決されました。ことは日本にも大きく響いて来る問題です。対岸の火事だといってすまされないことだと思います。
(2008年7月刊。1600円+税)

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