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対テロ戦争株式会社

カテゴリー:アメリカ

著者 ソロモン・ヒューズ、 出版社 河出書房新社
 イギリスのジャーナリストが、対テロ戦争と名付けて金儲けに狂奔している保守本流やネオコンの政治家たちを鋭く告発しています。思わず身震いするほどのおぞましさです。
 9.11のあと、投資家たちに現金を出資しないかと声がかかった。アメリカは、以前から、災害をタネに金を稼ごうという企業家たちに事欠かない。見積もりによると、9.11のあとアメリカ政府はテロ対策費に600億ドルを費やすと考えられた。
 対テロ戦争とは新しい奇妙な混合物であり、新たな脅威に立ち向かうべく増大する国家の力と、縮小に向かおうとする民営化論の現状を融合させたものだ。英米の政府は新しい力を握り、それをすみやかに民間企業にゆだねることで、新たな安全保障産業を生み出した。
新しい警備保障会社は国内にある民間の拘置所に人々を監禁し、外国では銃をうつことができるようになった。刑務所や難民収容所の民営化によって、国が独占してきた力を営利企業に下請けさせられるという原則がうちたてられた。アメリカで1984年に民間刑務所が開設し、イギリスで初めてのウォルズ拘置所が開所したのは1992年。
ところが、現実には、新しい民間刑務所は、公営の刑務所より効果的でないことが明らかになった。民営化された刑務所で、企業は犯罪者の更生には関心を持たない。収監者の自殺や自傷行為の発生率が全国平均よりも高くなった。やる気をなくした職員は、自分たちの困難な任務に対処できなかった。民営化された少年院では、暴力と虐待が横行した。
 イラクのアブグレイブ刑務所における収容者への虐待行為には、アメリカの民営刑務所で懲戒処分を受けた3人の男たちも関与していた。
 イギリスでテロ容疑者として逮捕された人々が裁判手続によらずに自宅監禁とされ、電子タグをとりつけられた。電子タグを監視するのは民間の警備保障会社である。ところが、この電子タグが実はいいかげんなもので、現実には機能していなかった。
 民間による安直な自宅監禁が、その指令に従った善良な人々の精神を破壊し、もとから強い意志を持っていたテロ容疑者は逃亡をゆるした。
 うへーっ、これって、ひどいですね。そんな杜撰なものなんですか、電子タグって……。
 アフガニスタンにおいて、アメリカのダインコープ社は警察の再建に取り組んだことになっている。5年間でダインコープ者は11億ドルを受け取った。しかしながら、アフガニスタン国家警察は、犯罪に対してもタリバンに対しても何ら有効に機能していない。
 イラクにおいて、英米の当局は、契約書に署名するだけで、契約した民間業者が軍事機構に熟練した人員をたっぷり補ってくれるものと信じていた。市場の優越という原理によって、イラクの民間兵士が占領軍に効率と創意をもたらすだろうと確信していた。ところが、現実には、民営化は占領の妨げになった。民間業者がもたらしたのは、腐敗と失敗そして暴力だった。重要なことは、民間業者がイラクという国家の崩壊に貢献したことだ。イラクの政府と経済はバラバラに解体された。
 イラクにおけるもっとも重要なアメリカの財産の2つ、アメリカ大使館と司令官はアメリカ軍によってではなく、雇われた兵士の手で守られていた。
 イラクにいるアメリカ軍部隊は14万人。民間業者に雇われている人は10万人。ある人は4万8000人の警備員が180もの別々の会社にやとわれていると見積もっている。
 しかし、民間軍事会社のもたらす最大のコストは、政治的なコストだ。彼らの存在や影響は、戦略を捻じ曲げ、テロ戦争をさらに大きな軍事行動へと押しやった。
 民営化された占領は、実際には、欠陥だらけの困難なものだったが、企業は公共セクターより効率的であるという先入観を持つ英米当局は、民間軍事会社の売り口上を素直に受け入れた。民間軍事会社にしてみれば、商売の宣伝をしていたわけで、自分たちの能力を過大評価気味に言いたてるのは当然のことだった。
 イラク経済へのアメリカ企業の侵攻は、再建の失敗によって、反乱者となる敵を増やす結果となった。第一に、基本サービスの失敗がイラクに住む人々を遠ざけてしまった。サダム体制のころより水が汚れ、電気が足りず、病院や学校が貧しくなった。お金はアメリカ企業を伝って、イラクに届く前に湾岸諸国の契約業者に滴り落ち、現金の鎖は、情実・賄賂・腐敗のためにすり減って切れた。そのあとに残ったのは怒りだった。失業者やろくにサービスを提供されない人々は、反乱の呼びかけにすぐ反応した。
 イラクの安定のために雇われた兵士を使うという決定は、サダム後のイラクの失敗の原因となった。アメリカ・イギリス連合軍はイラクで敵を打ち負かしたが、気がつくと、周囲に友人はほとんどいなかった。サダム体制が終わったことへのイラク国民の安堵は、まもなく米英占領軍への怒りに変わった。加えて、占領軍の悪行は、ただイラクの人々の心を失う方にしか作用しなかった。
 2003年の侵攻から数年のうちに、イラクとアメリカの何億ドルものお金が帳簿から消え失せた。それでも、腐敗の罪を問われる当局者はほとんどいなかった。
 イラクで活動する最大の傭兵グループの一つは、南アフリカから来た。
 イラクは戦場の民営化、占領業務の契約業者への移譲という試みの、きわめて壮大な実験場となった。その結果に疑問の余地はなかった。新しい傭兵たちはイラクの失敗を助長した。彼らはひたすらイラクからお金をしぼりとった。イラク自身の治安部隊をつくる代わりに、警備保障会社を利用することの利点と見えたものは、すべて空論だということが判明した。軍事部門の民営化がおしすすめられていったとき、その民間企業の経営陣には、ネオコンやタカ派の政治家たちが名を連ねている。ディック・チェイニー、ドナルド・ラムズフェルド、リチャード・パールなど……。
ひどい、ひどい。「民営化」の美名のもとに、自分たちはぬれ手に粟でもうけていたわけですよ。許せません。ネオ・コンの連中なんて、汚い金もうけの戦争屋でしかありません。広く読まれてほしい本です。
(2008年10月刊。2400円+税

内部告発、潰れる会社、活きる会社

カテゴリー:司法

著者:諏訪園 貞明・杉山 浩一 発行:辰巳出版
行政に対する内部告発が日本全国で年間5000件をこえているというのを知り、驚きました。しかも、8割について何らかの措置が講じられています。公益通報者保護法は実効的に機能しているのですね。いいことだと思います。
内部告発があったとき、その会社がシラを切って否定し続けていると、内部告発者は、さらに詳しい情報をもってメディアや行政に提供する。メディアや行政は、これによってさらに追及する。このパターンがあまりにも多い。
内部告発する人の大半は、普通の人。内部告発する前は、みんな不安にかられている。反社会的な人間はいないし、会社を混乱させるためだけに内部告発する人もいない。本人も悩んでいて、結局、告発したあと会社を辞める人は多い。内部告発の内容に誇張があったり、推測もあったりはするが、決定的なところにウソはない。自分の告発をある行政機関が取り上げてくれないと、別の行政機関なりメディアを次々に探そうとする。いったん内部告発を決意した人は、簡単にはあきらめないわけです。
内部告発する人は、程度の差はあれ、会社の倫理に乗って、違反行為に直接または間接的に関与していたことが多い。したがって、罪の意識を押さえて違反行為の論理に乗っかっていたので、何かのきっかけで押さえが外れると、その分バネがきいて思い切った行動に出やすい。否定されると、二重否定されたとして火に油を注ぐ結果を招く。だから、むしろ会社の役員が、従業員によって不正告発がなされたことを知ったとき、「ありがとう」と述べたら、その後、社内の違反行為は激減するだろう。
行政は内部告発を握りつぶすことができなくなっている。
企業内で不祥事が起きていることが発覚したときには、会社が自ら記者会見を開いて事実を公表し、かつ、内部への処分も決め、対外的にも公表しておく。そうすると、メディアとしても、それ以上の掘り下げはできない。
一に言い訳をしないこと。二に、今後の対応を話の中心にすえること。三に、真摯に対応すること。
会社が面白くないと、不祥事は繰り返される。
内部告発をバカにしてはいけないこと、きちんと対応することの大切さが実例とともに簡潔に良くまとめられた本です。
 やはり、失敗を繰り返してはいけないのですね。
 還暦を迎えたお祝いに、同僚の弁護士たちと夫婦同伴で会食しました。そして、例の赤い帽子と半纏を着せられ、赤い座布団に座ったところを写真を撮られてしまいました。せっかくの好意を拒むわけにはいきませんでしたが、内心では、お前も60歳になったんだぞ、よく自覚しろ、と迫られているみたいで、還暦すなわち老人視されることに、まだまだ大いなる違和感があります。まあ、これも仕方のないことです。健康に留意して、これからも、生まれ変わったつもりで(なにしろ、暦を巻き戻して0歳になるのでしょうから)ボチボチとマイペースでやっていきます。どうぞよろしくお願いします。
(2008年10月刊。1400円+税)

昆虫、4億年の旅

カテゴリー:生物

著者:今森 光彦、 発行:新潮社
 うひゃあ、すごい、すごーい。昆虫って、こんなにきれいだったのか、えーっ、こんな不気味な色と形をしていたの・・・。身近な昆虫たちを間近で見ると、まったく驚きと発見にみちみちています。くっきり鮮明なカラー写真が200点もあって3600円とは、なんと安いこと。写真を撮る苦労を考えたら、本当に申し訳ない気持ちになります。
 虫にとりつかれた子どもたちのことを、昆虫少年という。昆虫少年という言葉があるのは、おそらく世界中探しても日本だけではないだろうか。かけ事ではない、カブトムシを喧嘩させて遊ぶ純粋な子どもたち。こんな国は、世界広しと言え、いちども見たことがない。「ファーブル昆虫記」のファンの数も日本が世界一だというのも十分納得できる。日本の子どもたちは、美意識と科学心にあふれる好奇な目で、昆虫たちを見ている
 頁をめくって一番始めに登場するのが南米(ブラジル)に棲むヨツコブツノゼミの顔です。頭の上のほう(オプションには胸部とあります)に、たしかに4つのコブがついているのです。その奇妙さといったら、思わず噴き出してしまいそうです。そして、このヨツコブツノゼミから、「おまえ、今、なんか笑ったか?」と重々しい声で問いを投げかけられたら、あわてて口に手をあてて、「いえ、別に・・・」と返事して、ごまかすことでしょう。世にも珍妙なるセミです。ぜひ、実物を写真でご覧ください。
 インドネシアに、ホタルのとまる木があるというのは聞いていました。幾万とも知れないホタルが高さ20メートルの木に集まり、集団発光するのです。いやあ、一度ぜひ見てみたいですね。こればっかりは、写真では実感できません。我が家から歩いて5分のところにも初夏(梅雨前)になるとホタルが飛びかう小川があります。最近、そのすぐ近くで道路工事をしていますので、今年もホタルがちゃんと見れるのか、今から心配しています。
 著者は、プロの写真家になる夢を捨てず、大学を卒業してコマーシャルスタジオに2年間勤め、ファッションや料理など、あらゆるコマーシャル撮影の技術を習得した。そして、著者は29歳のときから、毎年3ヶ月間、のべ2年4ヶ月の歳月をエジプトでのスカラベ撮影に費やした。2年目から昆虫学者(佐藤宏明)がアシスタントとして同行し、著者が写真をとり、助手は生態に関する論文を執筆した。いやあ、すごい執念です。大したものです。
 取材ノートが公開されていますが、手書きの絵もまた実に精妙です。細かいところまでよく観察していることが実感できます。
 虫の卵というのが、こんなに個性的なものであって、虫によって色も形もまるで異なるものだということも知りました。まるでケーキ屋さんの店頭にたくさんの新作ケーキが並べられている感じです。いかにも美味しそうな色をして輝いています。これって、きっとケーキ職人の新作づくりの参考になるんじゃないかと思います。
 昆虫ではありませんが、オーストリアにいるメリディオナリスシロアリのつくった塚が大平原に立ち並んでいる写真は不気味です。西洋の墓地、今でいうと、イラクで戦死したアメリカ兵の墓地を連想させます。
 よくぞ、これだけの写真を撮って公開していただきました。感謝感激です。ありがとうございました。これからも身の危険には十分用心して、頑張っていい写真を撮って公表してくださいね。
 久しぶりに湯布院の温泉につかってきました。初日は小雨模様のなか、夕方、金鱗湖あたりを歩いたのですが、観光客の中にハングルや中国語を話している人の多さに驚きました。
 2日目は雨も上がって、青空の見えるなかを歩きました。小さな美術館がいくつもあるのは湯布院の良さですね。依然として変に俗化していないので、とてもいい雰囲気です。お昼を金鱗湖に面したレストランで、湖の先の山々を見ながら、美味しくいただきました。由布岳の頂上は、白く霧氷で覆われていて、浩然の気を大いに養うことができました。
(2008年7月刊。3600円+税)

獣の奏者、王獣編

カテゴリー:社会

著者:上橋 菜穂子、 発行:講談社
 いやあ、とても面白いです。ワクワクドキドキする痛快ファンタジーです。『ハリーポッター』の第一作を読んだときと同じように興奮してしまいました。いえ、別に変な意味ではありませんので誤解しないようにお願いします。
 ファンタジーですので、物語の紹介はいたしません。ただ、オビに書かれているキャッチコピーは次のようなものです。
 王国の陰謀に勇敢に立ち向かう少女、エリン。獣を操る技を身につけた彼女が選んだ未来とは?
ふむふむ。でも、それだけでは分かりませんよね。王獣(おうじゅう)とは何か、闘蛇(とうだ)とは何か、王獣と闘蛇が戦ったらどうなるのか。ともかく手にとって読んでみる価値はあります。ちょっと疲れたな。気分転換したいな。そう思ったときには最適ですね。そして、あとがきを読んで、私は驚きました。なんと、著者は『ミツバチ、飼育・生産の実際と蜜源植物』という本を読んでヒントを得たというのです。そして、養蜂に関わる場面については、実際に養蜂している専門家に教えを乞い、ゲラもみてもらったというのです。
すごいですよ。ミツバチから、これだけのファンタジーを着想したというのですから。やっぱり、世の中にはすごい人がいるものです。
 テレビのアニメになって放映されているようですね。
(2006年11月刊。1600円+税)

魔法のどうぶつえん

カテゴリー:生物

著者:岩合 光昭、 発行:阪急コミュニケーションズ
 高名な動物写真家による旭山動物園のどうぶつたちの傑作写真集です。どうぶつが実に生き生きしていて、目の前で挨拶してくれているかのようです。私も一度だけ噂に名高い旭山動物園を見ておこうと思い、北海道に出張したとき、札幌からJRに乗って出かけました。札幌駅でJRの切符とのセット券を売っていました。
旭川駅からはバスに乗ります。市内から20分以上も離れた高い丘に動物園はあります。行った日はよく晴れていましたが、観光バスから続々とお客さんが降りてきました。
どうぶつの生態を間近でよく観察できる仕掛けがあちこちにあり、さすがに工夫が行き届いていると感心したことでした。
 ホッキョクグマの巨体が水中を軽やかに泳ぐ姿には圧倒されました。最近、新しくオオカミの森が出来たそうですが、私が行った時にはありませんでした。オオカミのいかにも野性的な目つきに、目が合うとたじたじとなりそうです。また、オランウータンの空中散歩も残念ながら見ることはできませんでした。これも運不運があるようです。
それでも、アザラシが円筒形の水槽を上から下から通過していくのは幸いにも見ることができました。アザラシの方でも見物している人間を意識しているとのことです。
 もちろんペンギンたちにもお目にかかりました。でも、冬ではありませんでしたので、あの有名なペンギンのお散歩というのは、見ることができずに残念でした。
 今や日本一有名な動物園です。今度は映画にもなりましたよね。また行ってみたい動物園です。この写真集は、行く前に見ておいたら良いと思いますよ。
(2008年12月刊。1500円+税)

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