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利休にたずねよ

カテゴリー:日本史(戦国)

著者 山本 兼一、 出版 PHP研究所
 さすが直木賞を受賞した作品というだけのことはあります。利休の心の動きが、ことこまかに憎らしいほど描写されています。作家の想像力のすごさに圧倒される思いを抱きながら(実のところ、私のイマジネーションの貧弱さを嘆きつつ)読み進めていったのでした。
 次は、利休の言葉です。
 わしが額(ぬか)づくのは、美しいものだけだ。
 いやはや、この文章を根底において、山あり谷あり、起伏のあるストーリーに仕立て上げる腕前はおみごとというほかありません。
 おのれの美学だけで天下人・秀吉と対峙した男・千利休の鮮烈なる恋、そして死。
これは帯にあるコトバです。
 千利休が秀吉の側に長く使えていたこと、そして、秀吉が死を命じられたことは歴史的な事実です。それを秀吉の心理描写とあわせて、緊張感あふれる場面が次々に繰り広げられていきます。
 そして、茶道の奥深さも実感できるのです。たまにはこんな本を読むのも忙しさを忘れていいものだと思います。
 小説にしては珍しく、巻末に参考文献が明記されています。
 春の庭は色とりどりです。見てるだけで心が浮きうきしてきます。いま咲き始めたのはジャーマンアイリスです。手入れをしてはいけない丈夫な花です。ぬれ縁の先に気品ある薄紫色の花を次々に咲かせます。深い青紫色のアヤメの花も咲いています。こちらは胸をときめかす高貴な花です。妖しげな魅力があり目を惹きつけます。
 庭のフェンスにからまっているのは朱色のクレマチスです。そのうち純白の花も咲いてくれるはずです。
 車庫のそばの地面は鮮やかな朱色の芝桜が覆っています。そして最後に、終わりかけていますがチューリップもまだ健在です。今、黒いチューリップが咲き、フリンジがあったり、変わりチューリップがまだいるよと誇り高く叫んでいます。
 みんな私のブログに写真をアップしているので、見てください。
(2009年3月刊。1800円+税)

派遣村・何が問われているのか

カテゴリー:社会

著者 宇都宮 健児・湯浅 誠、 出版 岩波書店
 「年越し派遣村」ほど、近年、私の心をうったものはありませんでした。私が毎月1回は通っている日比谷公園が、年末年始に派遣切りでホームレスになった人々などの救いの場となったわけです。テレビをまったく見ない私ですが、新聞を読んでいるうちに、九州の地で安穏としていいのか、という気になっていました。近くだったら、私も駆けつけて、少しはお手伝いくらいしたと思います。それくらい、居ても立っても居られない、切羽詰まった気になったのでした。
 実際、この派遣村に実行委員として関わった主要メンバーは、年末年始のあいだ、まともに眠れず、食べるものも食べずにがんばったようです。すごいものです。ついつい大学生時代、学園闘争の、それなりに厳しかったころのことを思い出してしまいました。もちろん、そのころ私は20歳前で、気力も体力もありましたから、少しくらい食べず、眠らずでも大丈夫でしたが……。
 貧困問題の主要な課題の一つは、可視化にある。見えないことから、貧困問題が「ない」ことにされてしまう。見えるようにさえすれば、誰も放置できない課題であることは明らかだから、対応がなされる。見えるようにすること(可視化)が、貧困問題の解決に向けた第一歩になる。派遣村は、そのことにかなり成功した。そして、このことは、現代の貧困の「見えにくさ」を痛感させる出来事であった。
 これは、湯浅誠氏の指摘です。その講演を私も聞いたことがありますが、決して激することなく、冷静・沈着な態度を崩さない話ぶりに、かえってほとばしる熱情を感じたものです。
 見えない貧困、しかし、現実にそこにある貧困。この事実を、私たちは正視すべきです。この本は、現代日本の抱えている深刻な状況を、実に分かりやすく目に見える形で教えてくれます。
日比谷公園には、もともと20人の野宿者がいる。近くの東京駅周辺には50人の野宿者がいる。
 派遣村の場所設定でについては、厚生労働省の目の前にある日比谷公園が最適だということになった。都心の日比谷公園は規制がきびしく、テントが張れない場所としてよく知られていた。そして、野宿者への炊き出しも行われていなかった。
 結局、派遣村にやって来た人は505人。女性は非常に少ない。ボランティアとして登録した人は1692人。のべ数千人になる。カンパは4400万円。リンゴ1.8トンなど、食材などの物品カンパも多かった。
 企業の違法行為の結果、多くの被害者が路上に放り出されてしまった。ボランティアと税金によって、企業の違法行為の尻拭いをさせられ、違法を行った張本人は何の責任もとっていない。そうなんです。トヨタもキャノンも、奥田も御手洗も、涼しい顔をして他人事(ひとごとのように自己責任だといいつのるばかりです。そのくせ日本人には道徳心が欠如しているなんて言って、子どもたちに道徳教育を押しつけているのですから、呆れるほどの厚かましさです。日本の財界人には道徳心はかけらほどもないのか、と叫びたくもなります。
 生活保護を受けようとすると、世の中の反応があまりにも冷たいことも指摘されています。甘えているというものです。私は、ヨーロッパのように、若い人が失業したら、次の仕事が見つかるまで何年でも失業保険をもらえるか、生活保護を受けられるように日本もしたらいいと思います。もちろん、年輩者には十分な年金が保障されるというのが必要です。そんな夢のようなことを言うな、という人がいるかもしれません。でも、それを実現するのが政治の役目ではないでしょうか。
 この本の面白いところは、派遣村に裏方として関わった実行委員の人たちの苦労話です。
 年末年始だったので、不足したテントを探すのに苦労したこと、せっかく見つけても運搬するトラックの運転手が確保できなかったこと。6人用テントを用意したけれど、持ってきた荷物と布団で4人が限界だったので、20張のテントに80人しか収容できなかったこと。テントを張るとき、下に石があると痛いし、平な場所が少なくて苦労したこと。実行委員は炊き出しにありつけず、寝るのもテントで寝れず、手足の先が凍傷になりかかったこと、などなど、その大変な苦労が伝わってきます。年末年始をいつものようにぬくぬくと過ごした私など、申し訳ない気持ちでいっぱいでした。
 そして、派遣村にやっとの思いで辿り着いた人の実情のすさまじさには息を呑んでしまいます。浜松から歩いて日比谷公園までやってきたとか、三日三晩、何も食べずにやって来たという人たちがいたのです。そして、派遣村で炊き出しを食べたら、とたんに体調を崩してしまう人が続出したのでした。
 これが豊かな国ニッポンの現実なのですね。改めて、その深刻さが伝わってきました。
 結局、派遣村にたどり着いた500人のうち、300人が生活保護を受けることになりました。それでも、外国人労働者や女性については、ほとんど手つかずというのです。
 派遣切り、ホームレス、野宿者の問題というのは、日本国民全体で考えるべき問題なんだということがよく分かる本でした。
 ホームレスの人は働く意欲がないという誤解がまかり通っているが、それは間違いだと強調されています。ぜひ、あなたも読んでみてください。ここに書かれていることは、まさに日本の現実です。私は、大学生のころから貧困問題に関心を持ってきましたが、現代日本にいまある貧困に光をあてた派遣村のことを知りうる、いい本が出たと、しみじみ思いました。
 
(2009年3月刊。1200円+税)

労働法はぼくらの味方!

カテゴリー:司法

著者 笹山 尚人、 出版 岩波ジュニア新書
 いやあ、実によくできたテキストです。若い人たち、パートで働き、派遣切りにあって泣いている人たちにぜひぜひ読んでほしいと思いました。ストーリーがあります。それ自体も無理なく読ませます。そして、労働法がすーっと入ってきて理解できます。若手というか中堅というべきか、弁護士による数多くの実体験に基づいた、労働基本権の解説がなされています。こんな分かりやすい本が書けるなんて、とても素晴らしいことです。
 ジュニア新書ということでひっかからず、大人も弁護士も読んでほしいと思います。弁護士にとっては、どうやったら難しい権利を何も知らない人に分かりやすく伝えるか、その見本がここにあります。
 ハンバーガーショップに高校2年生の真吾君がアルバイトを始めます。自給800円です。この店で正社員なのは店長だけで、あとは全員がアルバイト。ところが、身内の不幸があっても代わりの人が見つからないからアルバイトなのに休みがとれない。店のお金がなくなったら、アルバイトをふくめて全員の連帯責任として、給料から天引きで弁償させられる。店の売り上げ不振のため、賃金カットをする。
 ひどい話ですが、現実によくある話です。これって、みんな法律違反なのです。
 パートタイム労働者に労働条件を示すときには、第一に昇給の有無、第二に賞与の有無、第三に退職金の有無を明確に告知しなければいけない。
 うへーっ、そうだったんですか。ちっとも知りませんでした。ゴメンナサイ!
 そして、店長が労働法上の管理監督者にあたるかどうかも問題となります。例の、名ばかり店長という問題点です。
 そして、派遣と業務請負の違いも説明されています。要するに、仕事をしている現場での指揮を誰から受けるかによって違ってきます。今の世の中、あまりにも脱法行為が横行しすぎです。
 労働者の権利を守る上で決定的に大切なのは、労働組合です。残念なことに、日本の労働組合の力は悲しいほどありませんね。昔、総評という存在がありましたが、今の「連合」はほとんど力がありません。派遣切りの問題でも少し動いているという程度でしかないのがとても残念です。企業内組合の連合体から来る限界ということでしょうか。
 私は、若い人たちが労働者に入って、仲間と団体行動をともにして連帯感を深めつつ、少しずつ要求実現していくという日本になってほしいと心から願っています。
 
(2009年2月刊。780円+税)

失墜するアメリカ経済

カテゴリー:アメリカ

著者 ロバート・ポーリン、 出版 日本経済評論社
 著者は、1950年生まれ、マサチューセッツ大学アマースト校の経済学教授です。
 人間らしい生活のできる賃金、生活賃金を制定すべきだと提言しています。これは、連邦最低賃金をこえる適正な賃金です。既に、アメリカの地方自治体で制定され始めています(2002年末までに90の地方自治体)。私も、この提言に大賛成です。
 政府の規制あるいは実務的な労働組合が、市場で進行している事態に対抗できなければ、労働者は実際に交渉力を弱体化させ生活条件を低落させ続けることになる。
 そうなんです。だからこそ、労働三権が大切なのです。
 ところが現実には、クリントンが大統領であったとき、労働組合員は長期的減少が続いた。レーガン大統領のとき(1988年)に16.8%だった組織率が、2001年1月には3%も減って、13.5%にすぎなかった。
 アメリカの年間軍事予算は3000億ドルのまま。軍事支出額は教育予算の5.5倍のままである。そして、食糧クーポン券その他の扶助費は、1992年の372億ドルから、2000年の288億ドルへと85億ドルも減らされた。
 労働者は適正な最低水準を超える賃金を実現するために、すなわち単に賃金等級表の最低水準の近傍に引き上げるだけでなく、もっと広く賃金・付加給付を増加させ、職場条件を改善させるために団結する権利を有している。そのために必要なことは、労働者が団結し、労働組合を結成する法的権利の強化である。
 労働者が自らの望みに従って団結する基本的権利を、雇用主と政府取締官が尊重しなければ、平等主義的政策過程を推進することはできない。この基本的権利を欠いた平等主義的政策という概念は、語義矛盾である。
 労働者の団結権を擁護することは、もっと大きな恩恵をもたらす。というのは、労働者が労働協約を通じて適正な賃金を受け取れば、自らの支出能力の向上によってアメリカ経済の総需要を刺激できる。
2007年にアメリカ政府は、イラク戦争に1380億ドルを使った。1日あたり3億7000万ドルになる。これは、一国を破壊し、アルカイダにきわめて効果的な徴兵手段を提供するものだった。
 実効性のある進歩的課題を推進する第一歩は、戦争を終結させ、1380億ドルを雇用・保健・医療・教育・環境・貧困削減に費やすことである。それに加えて、20万ドル超を稼ぐすべての人びとへのブッシュ減税を撤廃すれば、アメリカ財務省の歳入が600億ドルも増えることになる。つまり、イラクと富裕層減税をやめると、それだけで2000億ドルが生み出され、さらに進歩的な経済課題の資金に振り向けることができる。
 アメリカの労働人口は1億5000万人。うち680万人が失業中である。前記の2000億ドルの資金移転が行われると、失業率は4.5%にまで下げられる。
 アメリカ経済をどう見たら良いのか、現状を克服する処方箋はどうあるべきか、大変示唆に富む指摘がなされていました。
 
(2009年2月刊。3400円+税)

サバンナの宝箱

カテゴリー:アフリカ

著者 滝田 明日香、 出版 幻冬舎 
 すごいですね、若い日本人女性が、愛犬・愛猫とともにアフリカで一人暮らしをしているというのです。お肌の曲がり角を走りぬけ、あっというまに三十路に突入してしまった顛末がことこまかに語られていて、ハラハラドキドキの展開です。胸のトキメキのほうはあるのかないのか、さっぱり語られていませんので、その点は分かりません。福岡出身の日本人女性(永松さん)がマサイの男性と結婚した話は前に紹介しましたが、著者も同じようにマサイの人々が住む地域で獣医として活躍しています。
 表紙の写真からしてド迫力です。サバンナの大地でジープを止めて、帽子をかぶってお昼寝中なのです。ぐっすり眠っていて、ライオンの群れが来たら、一体どうするんでしょうか。実際、夜のテントで一人寝ているうちに、ライオンがやって来た体験が語られています。
 夜中の3時、ぐっすり眠っていたのに身体に響く低い声で目が覚めた。ウォッ、ウォッ、ウォッ、ウォッ、ウォッ、ウォッ……。テントの5メートル以内にライオンがいる。お腹まで震動が響いてくるほどの声。低音震動が身体に響いてくるので、寝てなんかいられない。少し声が遠ざかったとき、寝袋を持ってすぐ近くの車に走り込んだ。やがてライオンの声は遠ざかった。車の中は寝苦しかったので、またテントに戻った。
 うへーっ、こ、これはまいりました。百獣の王、ライオンなんかと決してお近づきになんかなりたくありません。動物園のオリ越しのご対面で十分です。それにしても、そんなライオンが夜中にうろつくようなところにテントで寝て、また、テントに戻ってきて寝なおすなんて、なんとまあ図太い神経の持ち主でしょうか。いやはや、大和撫子のたくましさには、九州男児の一人として、まさに脱帽です。
 著者は、アフリカで獣医になりたいと思って、アフリカの名門大学の獣医学部に入学します。そこでのハードワーク(猛勉強)はすごいものです。睡眠時間を削りに削って、ようやく卒業することができました。
 獣医だから、牛の直腸検査もします。左手を牛の直腸に突っ込み、直腸の中で手を動かす。このとき、牛は思い切り肛門を締め付けるから、腕は血が通わず、麻痺してくる。腸の動きに負けないように手を動かすので、ものすごく疲れる。途中で腕を牛の尻から出してしまうと、空気が入って直腸がふくれて内臓に触れなくなるので、お尻に腕を入れたまま、牛の腰の上に頭を乗せて休憩する。こんなことを2時間も続けると、牛のウンコまみれとなるばかりか、腕も手もふやけてしまう。
 うひょひょ、そんなー……、牛の尻に2時間も腕を突っこんだまま休憩するだなんて、いやはや、まったく信じられません。
 ケニアのナイロビ郊外に住みながら、ホームページを開設し、ブログで活動日誌を発信中とのことです。ぜひ、人間の立派なオスもゲットしてください。そして、これからも身の安全と健康にはくれぐれも注意して、アフリカの大地でがんばってほしいと思いました。
 きのう、庭にボタンの花が咲いているのに気が付きました。やはり、これだけ初夏みたいにあたたかいと、ボタンの開花も早まったようです。
 淡いクリーム色の大輪の花弁の真ん中に黄色い部分があります。とても気品のある花です。さすが美女の代名詞にふさわしい雰囲気が漂っています。
 近くで小鳥がにぎやかにさえずっています。最後にジジジと特徴のある声で鳴くものですから、ツバメだと分かりました。ひとり楽しげで、聴いている私まで何だか嬉しくなってきました。ツバメは駅舎にもたくさん来ていて、元気に飛び交っています。はるか南方のインドネシアあたりからはるばる日本へ毎年やってくるツバメたちです。お疲れさまと声をかけたくもなります。ツバメが安心して住める平和な日本であり続けたいものです。
(2006年12月刊。1400円+税)

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