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中国貧困絶望工場

カテゴリー:中国

著者 アレクサンドラ・ハーニー、 出版 日経BP社
 チャイナ・プライスはブランドと化している。そのブランド・イメージとは、安価な衣服、アメリカの流通大手ウォルマートの陳列棚に目いっぱい並べられている家電製品、職を失いつつあるアメリカ国内の工場労働者、工場で働く中国人女性などの断片を寄せ集めたもの。
 そして、このチャイナ・プライスに対してアメリカの経営者は、東方でたちあがった新興勢力としての脅威を覚える一方で、大幅なコスト削減を約束してくれる頼もしい味方のようにも感じている。ウォルマートは、中国から毎年少なくとも180億ドル相当の製品を仕入れている。韓国のサムスンは中国から150億ドル相当の部材を購入した。
 中国はアメリカ向けの輸出シェアを41分野で拡大した。2006年、アメリカの対世界貿易は、全体として1780億ドルもの輸出超過となった。
 製造業界に関しては、中国は1億400万人という世界最大の労働力を抱えており、これは、アメリカ・カナダ・日本・フランス・ドイツ・イタリアそしてイギリスの労働力を合計した人数の2倍である。
 中国には、「ガン村」と呼ばれる村が点在する。1600万社で働く2億人の中国人従業員は、危険な労働条件の下で働いている。2005年現在、中国には職業病にかかった人が66万5千人と記録されていた。そのうち9割、61万人ほどがじん肺症である。実際には、じん肺症患者は100万人をこえていると推定されている。
 中国は職業病の予防と処置に関する法律を2002年に施行している。だが、実際に法を執行するのは、地元の政府である。出稼ぎ労働者の働く工場を監視する人員は絶対的に不足している。2006年末で、7億6400万人の職場を監督するのに、フルタイムの労働検査官は2万2千人しかいない。たとえば、580万人もの人々が働く深圳に、検査官がわずか136人しかいない。
 労働争議は増加の一途をたどっている。2005年に、仲裁委員会は前年比20.5%増の31万4千件の申請を受理した。
 出稼ぎ労働者は3種類の書類を常時携帯することが求められている。身分証・暫住証・就業証である。これを持たない人は、「三無人員」と呼ばれる。「暫住証」のヤミ市場価格は3万元もする。
 1994年以来、深圳の居住者は、郵便局を通じて1600億元もの仕送りをしている。経済成長の早さは全国トップであり、1980年以降は、毎年平均28%もの伸びを示している。深圳の不動産価格は、2006年だけで30%の伸びを示すほど急騰した。
 中国の労働市場のすさまじい実情の一端を知ることができました。
浦上天主堂に行ってきました。久しぶりのことです。
 ひょっとしたら、中学生以来かもしれません。グラバー邸には何年か前に行きましたが……。浦上駅から歩いて15分。坂を登ったりおりたりして、いい運動になりました。
 天主堂の前の花壇に首の取れた聖人像があります。原爆の威力のすさまじさを感じます。聖人像のかたわらに紫陽花の青い花が咲いていました。
 天主堂のなかをのぞくと、暗い堂内にステンドグラスが怪しく輝いていました。
 オバマ大統領が原爆投下の道義的責任を認め、核廃絶への取り組みを呼びかけました。とても画期的なことです。まさしくチェンジの実践です。日本人として、拍手を送りたいと思います。ところが、なんと日本政府は核の傘をはずさないように申し入れたとのことです。明らかに逆行していると思います。
 それどころか、北朝鮮が衛星を打ち上げたり(失敗しました。アメリカはミサイルではなかったとしています)、核実験するなどひどい事をしているのに対して、自民党のなかに北朝鮮の基地を先制攻撃しろという声が出ているそうです。それって、戦争を始めろというのと変わりません。恐ろしいことです。
(2008年12月刊。2200円+税)

テロルの時代

カテゴリー:日本史(戦後)

著者 本庄 豊、 出版 群青社
 1929年(昭和4年)3月5日、東京神田の旅館で、労農党代議士山本宣治(39歳。「山宣」やません)がテロリストに襲われ、命を奪われました。この本は、そのテロリスト黒田保久二を追跡しています。最後まで、大変興味深く読み通しました。
 なんと、テロリスト黒田は、戦後、北九州で失業対策事業に従事していて、全日自労(全日本自由労働組合)の組合員となっていたというのです。これには驚きました。そして、次のように語っていたそうです。
 山宣を刺したのは、ある偉い人から頼まれたもの。成功したら、150円の報酬と、いい身分を約束された。しかし、逮捕されてから、その偉い人は1回しか面会に来ず、服役を終えて面会を求めても相手にされなかった。そこで、新天地を求めて満州に渡った。けれども、うだつは上がらず、敗戦になって引き揚げた。そのときにも偉い人を訪ねたが、門前払いされた。
 そこで、この偉い人とは誰なのか、これを著者は追跡していきます。
1928年(昭和3年)2月の第1回普通選挙で、労農党の山本宣治が京都第2区で当選するなど、全国で無産政党から49万票を得て8人が当選した。政府はこれに驚き、同年3月15日、治安維持法違反として一斉捜索・検挙した(3.15事件)。
 テロリスト黒田は七生義団の相談役であったが、その前は、大阪や兵庫県で巡査をしていた。そうだったのか……、なんと元警察官がテロリストの正体だったのですね。
 山宣暗殺を黒田に直接指示したのは、七生義団総理の木村清。木村はアリバイづくりのため、事件当夜は朝鮮に渡っていた。この木村の後ろには、警視庁特高課がいて、事件のあと黒田を免罪しようと動いた。しかし、本当の黒幕は大久保留次郎であり、事件のとき大久保は台湾総督府の警視総長として台北にいた。なるほど、なるほど、そういうことだったんですか。
 自首してきた黒田を調べた警視庁特高課は、山本が先に手を出したから正当防衛だというキャンペーンをはろうとしていた。しかし、これに対して松阪廣政検事が、これは殺人事件だとして、誤ったリークをなした警視庁に厳重抗議をした結果、正当防衛キャンペーンは消え去った。
 黒田は殺人罪で起訴されたものの、裁判中に保釈された。えーっ、嘘でしょう。思わず、叫びたくなります。今ならあり得ませんよ、これって。そして、判決は求刑どおりの懲役12年であった。そのうえ、黒田は恩赦を受けて6年後には出獄した。なんということでしょう。
 黒田の法廷のほとんどは、七生義団の団員で占められていた。うむむ……。そして、刑務所内で、黒田は河上肇教授と出会った。『貧乏物語』で有名な河上教授です。不思議なめぐりあわせです。
事件の黒幕であった大久保は、千葉県知事、東京市長の要職を歴任し、戦後は代議士に当選して、国家公安委員長にまでなった。これに対して、テロリスト黒田は、1955年、北九州の遠賀療養所で、脳梅毒のため死去した。62歳だった。
 よくぞここまで調べたものだと感心してしまいました。山宣に少しでも興味のある人には欠かせない貴重な本です。わずか170頁の本ですし、読みやすいので、すらすらっと読みとおすことができます。
(2009年4月刊。1600円+税)

アフリカ、苦悩する大陸

カテゴリー:アフリカ

著者 ロバート・ゲスト、 出版 東洋経済新報社
 アフリカが貧しいのは、政府に問題があるからだ。あまりに多くの政府が国民を食い物にしている。政府は正しく統治するためではなく、権力を行使する人間が私腹を肥やすためだけに存在しているように見える。官僚たちは、仕事の見返りに袖の下を要求する。警察官は正直な市民から金品を奪い、犯罪者たちは野放しだ。多くの場合、国で一番の大金持ちは大統領だ。大統領に就任してから、地位にものを言わせて富をためこんできた。
 うひょう。すごいですね。これでは政治とか国家とかいうものに対する信頼関係が成り立つはずがありませんよね。
 取材に訪れたカメルーンで、ビールを運ぶトラックに同乗した。途中47回も警察の検問で停止を命じられた。そのたびに警官たちにお金をつかませていた。おかげでビールは割高になっていった。賄賂は商売の潤滑油というが、アフリカほど蔓延すると、ほとんど商売にならない。
 富を手にするもっとも確実な道が「権力」だとなれば、人々は権力を求めて殺し合う。アフリカではしばしば内戦に悩まされ、おかげで開発もままならない。
 今やムガベ政府は、ジンバブエという腹に巣食ったサナダムシ同然だ。他人の労働の成果を食い物にし、国民の活力を吸いつくしている。白人は人口の1%にも満たない。白人よりも象の方が多い。そんな白人に、もはや政治力はない。
 アフリカの吸血国家の改革がなかなか進まないのは、多くの場合、必要な改革を断行すれば、国を牛耳っている連中から権力と富を奪うことになるから。彼らは、特権を手放そうとしない。いやはや、どうしようもないという印象を与えます。小泉とか麻生が、まだ善人に見えてくるのですから、やはり異常すぎます。
 銃を持った十代の少年兵はいつ見ても恐ろしい。年長の兵士なら、撃ってくる前に撃つべきかどうか自問する。それに比べて、子ども兵士の行動は予測しがたく、説得するのも難しい。酒やドラッグをやっているときには、なおさらだ。
 1999年に、アフリカの5人に1人が内戦や隣国との戦争に揺れる国に住んでいた。死傷者の90%が民間人で、1900万人が家を捨てて非難を余儀なくされた。アフリカの土の下には、2000万発の地雷が埋もれていると推定されている。
 貧困が戦争を生むだけでなく、戦争も貧困を悪化させる。内戦は、平均所得を毎年2.2%押し下げる。
 アフリカでは、2002年までに1700万人がエイズで死亡し、2900万人がHIVに感染している。4600万人ものアフリカ人が死亡あるいは死すべき運命にある。2002年の時点で、エイズで両親を亡くしたアフリカの孤児は推定1100万人。
 南アフリカでは、2002年のHIV感染率は15倍に跳ね上がり、世界のトップとなった。450万人の感染者がいた。これはアパルトヘイト廃止までの政治暴力による犠牲者の200倍になる。うむむ、これって、すごすぎますよね。政府がきちんと機能しているとはとても思えません。
 カメルーンでは、瓶詰めされた水でも品質は怪しい。しかし、コカ・コーラなら、これを飲んで恐ろしい細菌性の病気にかかることはないという安心感を与えてくれる。だから、アフリカではコカ・コーラを飲むしかない。私は日本では絶対にコーラを飲みませんが、アフリカに行ったら飲むしかないようです。
 ダイヤモンドに本質的な価値はほとんどない。だから、デ・ビアス社は価格を維持するために供給量を抑え、常にこの石ころのイメージアップを図ってきた。世間がダイヤモンドを、永遠の愛よりも恐ろしい戦争と結び付けるようになったらイメージ戦略が苦しくなる。
 紛争ダイヤモンドとか、血のダイヤモンドというイメージを払拭しようと必死なのは、このためなんですね。むかし、映画館のコマーシャルで、ダイヤの指輪を婚約者に贈りましょう。月給の3倍が標準です。こう言っていましたが、これもデ・ビアス社の単なる広告だったのですね。それを知ったとき、私も欺かれた愚かな大衆の一人であったことを自覚しました。
 前途多難なアフリカ大陸ですが、この本の最後のあたりでいくらか光明も見えてきたような気がするのが救いです。
(2008年5月刊。2200円+税)

平和的生存権と生存権がつながる日

カテゴリー:司法

著者 毛利 正道、 出版 合同出版
 著者は私と同世代の長野の弁護士です。平和運動に挺身し、ブログなどでも積極的に情報を発信しています。そんな著者の熱意にこたえたいと思って、この本を紹介します。
 2008年4月17日。名古屋高等裁判所が自衛隊のイラク派兵を憲法違反だと断罪したとき、その法廷に著者は代理人席ではなく、当事者としていたのです。さぞかし感動・感激の一瞬だったろうと思います。
 名古屋高裁判決の画期的な意義が、著者自身の言葉で実に分かりやすく語られています。著者の父は寺の住職でしたが、応召して中国戦線に軍曹として従軍しました。しかし、帰国してからは「何人もの人を死なせてきた」というくらいで、ほとんど戦争の実像を語らなかったようです。それだけ重い荷物だったのでしょう。
 いま、子どもたちが18歳になると、自衛隊への入隊を勧誘するハガキがどっと送られてくる。就職難ですから、自衛隊にでも入ろうかと思う子どもも多いようです。
 一般の自衛隊員の自殺率は38.6(10万人あたりの自殺者数)であり、イラク帰還自衛隊員の自殺率は、その2.2倍となっている。自衛隊員の自殺率は、男性公務員の1.3倍、アメリカ兵の3.1倍である。
 アメリカでは自殺率は意外に低いが、実数で見ると年間3万人なので、日本と同じ自殺者数となっている。ちなみに、アメリカには肥満が原因による死者が年間40万人もいる。アメリカで肥満は貧困の象徴なのである。
 名古屋高裁判決は次のような憲法判断を示しました。
 現在、イラクにおいて行われている航空自衛隊の空輸活動は、政府と同じ憲法解釈に立ち、イラク特措法を合憲とした場合であっても、武力行使を禁止したイラク特措法2条2項、活動地域を非戦闘地域に限定した同条3項に違反し、かつ、憲法9条1項に違反する活動を含んでいる。そうなんです。まったく、そのとおりです。そして、原告になった人々について、次のように温かい目で見ています。
 そこに込められた切実な思いは、平和憲法下の日本国民として共感すべき部分が多く含まれているということができ、決して間接民主制下における政治的敗者の個人的な憤慨、不快感または挫折感等にすぎないなどと評価されるべきものではない。
 著者は、この判決の価値として、立法行政府の重要施策に正面から司法判断を加えたことにあるとしていますが、まったく同感です。これまで三権分立という建前が、ほとんど生かされることのない司法の消極的な姿勢は、なんのために司法があるのかという疑問を広く抱かせてきましたが、名古屋高裁判決は、それを大きく打ち破ったのです。
 そして、この判断は、単なる「傍論」だとして軽んじていけないことは言うまでもありません。当時の福田康夫首相の談話は、根本的に間違っています。
 クレジット・サラ金被害者の九州ブロック交流集会が長崎でありましたので出かけてきました。この集会は、年に一回、「しっかり学び、元気に生きよう」をモットーとして、九州各県をまわりながら開かれていますが、今年で22回目です。初めのころは50人ほどのこじんまりした集会でしたが、いまでは300人もの人が参加する大集会となっています。長崎氏の田上市長が来賓挨拶してくれました。
 長崎の原弁護士は、これまでの2回の長崎集会では現地実行委員会の中心人物としてになってきてくれましたが、今回は弁護士会長として来賓挨拶をしました。
 パネルディスカッションのなかで、五島市の消費相談の課長さんたちのDVDが紹介され、女装までしての寸劇が演じられました。その熱演ぶりは大受けでした。
 懇親会のとき、久しぶりに堀江ひとみさんにお会いしました。前の長崎集会のときには、ういういしい市会議員としての参加でしたが、今回はたくましさを感じる堂々たる県会議員としての参加です。その活躍ぶりは新聞でもよく拝見していました。美人のほまれ高い堀江さんに再会できたうれしさから、思わず2度も握手を求めてしまいました。
 
(2009年3月刊。1500円+税)

マラーノの武勲

カテゴリー:アメリカ

著者 マルコス・アギニス、 出版 作品社
 17世紀、南米はアルゼンチンにおけるカトリック教会の異端審問の実情、そして、それに耐え抜いたユダヤ教徒の生涯を描いた本です。上下2段組みで、500頁を超す大作。決して読みやすい本ではないのですが、辛抱して読んでいると、実にすばらしい、知的刺激にみちみちた本だということが分かって、読書の楽しみを堪能させてくれました。
 武勲という言葉からは、戦場で騎士が華々しく刀剣をかまえて戦うという内容を想像してしまいますが、この本では、その期待はあっさり裏切られます。いつまでたっても戦闘場面は出てきません。そうではなく、すさまじいばかりの精神的たたかいが親子二代にわたって繰り返されるのです。それは、新カトリック教徒、実は偽装転向したユダヤ人の、生存をかけた戦いなのです。その凄まじさには思わず息をのみます。アルゼンチンのユダヤ人である著者が、17世紀の実録をもとに小説化したものだけあって、すごい迫力にあふれています。
 異端審問所の職権濫用は目に余った。巧みな策略と恐怖を武器に、王の勅令を手にして、次から次へと排他的利権を獲得していった。その横暴ぶりは度を越している。異端審問所は、組織の一員となるだけで、天使の位につけるという、盗賊のような集団であった。
 イエスやパウロ、その他の使徒はみなユダヤ人であった。キリスト教徒はそのことに耐えられず、認められない。だから、イエスたちがユダヤ人であることを忘れて崇め、ユダヤの血を尊ぶ人々との間に眩惑の境界線を引いて差別し、絶滅させようとする。
 自分の意志に反して洗礼を受けさせられた者は、心からその信仰を信じられるものではない。まるで、誰かに対して忠誠を誓うことを要求するようなもの、それも、本人の代わりに他人がそれをするようなものだ。それなのに、一度たりとも忠誠を誓った相手に忠実でなかったという理由で、今度は背信者と呼ばれる。
 ユダヤ人として生きることは、徳の道を歩むのと同様、容易なことではない。ペルー副王領内では、多種多様な権力、世俗、教会、異端審問所、修道会のあいだに皮肉な抗争が繰り広げられていた。これは万人周知の事実だった。
 ユダヤ人は、死者の遺体をぬるま湯で洗い、可能なら純粋なリンネルの白布でくるむ。埋葬後には手を洗い、塩をかけずに固ゆでの卵を食べる。卵は生命の象徴とされているからだ。ゆで卵は移りゆく生命とユダヤ民族の抵抗の象徴である。ほかのものと違って、ゆでるほどに固くなるからだ。同時に、卵は服喪に欠かせない要素であり、近親者を埋葬したあとにも、これを食する。
 ユダヤ人は、敵すら憎んではならない。なぜなら、すべての人間は神の姿を映しているという前提があるから。
 イエス・キリストは生粋のユダヤ人だった。母親がユダヤ人で、何世紀も続いた純粋なユダヤ人の子孫で、ユダヤの割礼を施し、ユダヤの習慣を身につけ、ユダヤ人のあいだで暮らし、ユダヤ人たちに説教をし、ユダヤ人の身を弟子にした。だから、キリストは、まさにユダヤの王に他ならない。
 改宗の強要は道徳上の暴力である。考えたり、信じたりする権利は、みな同じはず。その信念が神に対する罪なら、それを裁くのは神の仕事のはず。異端審問所はそれを横取りし、神の名のもとに数々の残虐行為を働いている。恐怖に基づいた権力を維持するために、改宗したと装うことさえ強要する。
 人間としてのキリストには心が動かされる。犠牲者であり、従順な神の子羊であり、愛であり、美でもあったキリストには。しかし、神であるキリストは、ユダヤ人を迫害の対象とし、その名のもとに不公平な扱いを受けている者にとっては、猛威をふるう権力の象徴としか映らない。兄弟たちを密告し、家族を見捨て、祖先を裏切り、自分の信条をも焼きつくすことを強要する象徴にしか。
 唯一の真理なるものを強制するのは、傲慢で無益な行為ではないか?
 主人公は、キリスト教会に対して、このように問いかけるのです。すごい問いかけです。
 そして、主人公は1639年1月23日、リマの異端審問所の主催によって、他の囚人10人とともに火刑に処せられたことが記録に残っています。このリマの異端審問所は、1569年から1820年までに1442人を処罰したのですが、そのうち32人に死刑を執行しています。この建物は今も現存していて、いまでは宗教裁判所博物館として一般公開されているそうです。
 キリスト教が博愛の宗教だなんてとても思えない、すさまじいばかりの迫害の歴史がいやになるほど語られています。
 
(2009年2月刊。4800円+税)

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