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金融システムを考える

カテゴリー:社会

著者 大森 泰人、 出版 金融財政事情研究会
 民主党はしきりに脱官僚をとなえていますが、私はなんだか素直には信じられません。胡散臭いものを感じてしまいます。前の自民党も、何かというと悪政は官僚のせいにしていましたが、同じことになるのではないでしょうか。本当の悪は隠しておいて、国民の目に見えやすい官僚を悪人に仕立て上げている。そんな気がしてなりません。
 実は、私も高校生の頃は官僚志向でした。大学に入って、川崎でセツルメント活動として若者サークルに入って同年○○の労働者と遊んだり話したりしているうちに、官僚になることを考え直したわけです。でも、同じセツルメント活動をしていた仲間で官僚になってからも「変節」「転向」などしなかった人が何人もいます。ですから、官僚が悪だというのは、単純な誤った、ためにする見解・考え方だと私は思うのです。だって、官僚システムなしに国家が動くわけはないのですから。天下り禁止とか、具体的なことについては私も必要だと考えています。
 年収2億円の取締役を何十人もかかえている大企業の経営者が、悪いのは官僚なんだと言うとき、ええっ、本当に悪いのはあんたでしょ。そう言ってやりたくなります。そして、日本にもある軍事産業、アメリカ軍と自衛隊に結びついて利権を吸い続けている防衛族という政治家たちではないでしょうか。おっと、この本の紹介に入る前に長話をしてしまいました。今の官僚にも、こんな気骨のある人がいたのですね。たいしたものです。すごい自信家のようですが、その自信は一体どこから来ているのか、教えてほしいものです。うらやましい限りです。
 著者は、貸金業規制法を改正して貸金業法に変わったときの立役者の一人です。貸金業法の完全施行の期限が目前に迫っている今日、貸金業界は最後の巻き返しに必死になっています。それを許さない取り組みが今求められています。
 現在のアメリカという国家に対する著者の認識は次のようなものです。私も、まったく異論がありません。
無辜の市民がテロリズムの犠牲になったのを契機に、周囲の反対を押し切って力に訴え、無辜の市民を犠牲にし続けているうちに、どこかこの国がおかしくなったように感じる。社会保障制度や税制においても、現在のアメリカの国内政策でもっとも欠けているのが、貧しい者への視点であり、格差是正につとめる代わりに、宗教的蒙昧や盲目的愛国心を鼓舞しているようだ。
 そして、著者はカウンセリング体制の充実にも目配りしています。この点も、私が意を得たりという気がしました。
 これまで、多重債務問題に取り組んで成果をあげてきた組織や自治体を拝見すると、例外なくそこには、強い問題意識と使命感を持ち、借り手の悩み、苦しみに真摯に耳を傾け、人生をやり直すべく強烈にインスパイアするカリスマっぽい人がいるのである。
 借金とは私人間の問題であるにとどまらず、地域住民の貧しさを背景とする構造的な問題なのだという認識が深まってきた。貧しい人たちに生活保護を提供するのか自治体の仕事であるなら、貧しい人たちが多重債務に苦しむのを救うのか自治体の仕事でないはずがあろうか。
 不安が鬱積する社会においては、身分の安定した公務員への風当たりが強まるのは避けられない。
 この本を読んで、キャリア官僚が世の中の現実を知るために、ブログをよく読んでいることを知って驚きました。パブ・コメ(パブリック・コメント)なるものがありますが、世の中にあまたあるブログを歴訪して世間の動きを知っているというのです。
 ここには詳しく紹介しませんが、「大森十戒」と呼ばれるものも載っています。すごい内容です。
 行政官の仕事は結果がすべてである。結果とは、国民への貢献である。国民に貢献しないすべての努力は無駄である。
 あらゆる固定観念や従来のしきたりにとらわれることなく、無駄と偽善としたり顔を憎み、しなやかに柔軟に考え、行動する必要がある。
 国民のためではなく、上司のためと考えた途端、膨大な無駄と精神の退廃が始まる。上司とは、部下の仕事に国民にとっての付加価値を加える能力を有する者をいう。この意味での上司でない者は、意志決定プロセスから事実上除外し、階層をフラット化する必要がある。
 働くとは、傍を楽にすることである。はたを楽にしているつもりで消耗させているだけの人間には、通例、自覚症状がない。このような場合には、階層をこえて直訴し是正させることが部下として正義人倫にかなう行動である。
 ええーっ、ここまで、こんなことをキャリア官僚が言っていいのかしらん、腰を抜かすほど驚いてしまった私でした。
 市場とは、自分だけは得したい欲張りの集まりであり、そこでの不正や弊害は「起こってはならないこと」ではなく「起こったら摘発されるべきこと」である。
 よくぞ言ってくれました。そのとおりです。キンザイの伊藤洋悟さんから贈呈を受け読みました。期待した以上に大変面白い本でした。ありがとうございます。
 
(2008年3月刊。2800円+税)

自衛官の人権を求めて

カテゴリー:社会

著者 出版社  海上自衛艦「さわぎり」の人権侵害裁判を支える会
 1999年11月8日、海上自衛隊佐世保地方総監部所属、当時21歳の3等海曹が護衛艦「さわぎり」内で自死した。その日は彼の誕生日であり、結婚して子どもができたばかりだった。両親は息子を自死に追いやった責任を追及すべく裁判を提起した。一審は敗訴したものの、福岡高裁は国の安全配慮義務の怠慢を認めた。
 自死した海曹は高校を卒業し、競争率12.3倍という一般曹候補学校の試験を突破して海上自衛隊の曹候補学生として入隊した(1997年4月)。
 曹候補学生は、一般入隊の隊員と比較すると、昇進が数年は早い。3曹になるのに一般隊員からだと6年から8年かかるのに対して、2年ですむ。このことがたたき上げ組と曹候補生組との軋轢を生んでいる。
 同じ分隊内部で、こいつは出来ないというレッテルを貼られると、大変なことになる。護衛艦のような閉鎖社会の中では、当事者に必要以上の劣等感を植え付けることになる。艦内生活は心理的にも物理的にも閉鎖された社会である。そこは完全にプライバシーのない集団生活の場である。
護衛艦「さわぎり」の乗組員は180人いた。古参海曹が曹候補生から若くして3等海曹に昇進する隊員を妬みやいじめの対象とすることは何ら不思議なことではない。そして、狭い艦内に逃げるところは残されていない。
 自衛隊内で人権、人権と言っていたら、戦争は出来ない。
 これは、国会内で審議中に飛ばされた自民党議員の野次。しかし、日本国憲法の下、自衛隊も日本人である限り人権は保障されている。
 防衛庁の高官が共産党の国会議員に対して「自衛隊が軍国主義にならないように頑張ってくれ」と声をかけてきた。その議員が何が軍国主義なのかと問い返すと、「自衛隊が自分の思うことはみんな通そうとし、自分の主張があると不満を持つようになることだ」という答えが返ってきた。
 なるほど、それって怖いことですよね。
自衛官の自殺は増加の一途にある。過去の自殺者数は年間30~50人で推移していたが、2000年に過去最高の81人になり、2004年度から2006年度は100人台を記録した。この10年間で846人もの自衛官が自殺した。その原因の主要なものに「いじめ」がある。
 自衛隊員でイラクなどに派遣された人は延べ2万人にのぼるが、任務中の死亡は42人いる。そのうち20人が自殺である。
 ちなみに、自衛隊から脱走をする隊員が年に300人を越えている。
 戦前の軍隊でもいじめがあり、かなりの自殺者がありました。自衛隊内の人権無視の訓練が「しごき」と称するいじめになっている気がします。
 自衛隊というのは日本最大の国家公務員集団ですから、日本人みんなが注目し、監視すべき存在ではないでしょうか。この本は、その点を考えさせてくれます。
(2009年9月刊。1000円+税)

夜中にチョコレートを食べる女性たち

カテゴリー:社会

著者 幕内 秀夫、 出版 講談社
 20代、30代の若い女性に乳癌、子宮癌、卵巣癌、子宮筋腫、子宮内膜症、卵巣のう腫などの病気が増えている。それらの女性は決して肥満体ではなく、見た目の言いスマートな女性に多い。やはり、その原因は食生活にある。もっとも多いのは、きちんとした食事をしないで甘い菓子類で胃袋を満たしているケースだ。
 乳ガンは、食生活の影響が大きい。食生活80%、遺伝20%。アメリカで生活している日系アメリカ人女性が乳ガンになる確率はアメリカ人と比べてほとんど変わらない。
 チョコレートは、もともとドラッグそのものだった。気分を高めたり、高揚感をもたらす、興奮剤としての役割がある。戦争に際して、士気を高めるために兵士に飲ませていた。
 チョコレートの魅力の一つは、テオブロミンという成分にある。これが中枢神経に働くと幸福感をもたらしてくれる。最近、目立つようになったのが夜中にチョコレートを食べる女性たちの一群である。
 生物であることを押し殺すとまではいかないとしても、それを抑えて生きている。その息苦しさを、売春やショッピングではなく、もっと安全で安価な快楽「食べる」という行為に走らせている。乳ガンは結婚している女性よりも、結婚していない修道女に多い。
 女性の高脂肪型食生活の最大の原因はパンの常食にある。食パンはお菓子である。そして、朝食は1日中、体に影響する。
 そこで、著者は一日に2回は白いご飯を食べようと提唱しています。
朝食は、ぜひ、ご飯を食べる習慣をつけてほしい。昼食は、そばやうどんの「ひらがな主食」をすすめる。パン、パスタ、ラーメンなどの「カタカナ主食」は、脂肪過多になりやすいので、すすめない。
 ついでにサラダを買うのもやめる。マヨケソ(マヨネーズ、ケチャップ、ソース)はなるべく使わない。夕食と呼べるのは夜8時までで、そのあとは夜食となる。そのときは、できる限り軽くするしかない。夕食のおかずは野菜を中心とする。
 どうしてもチョコレートを食べるなら、なるべく高級なものにする。少し食べて幸福感を味わうのである。なるほどですね。実はうちの娘も忙しさの余りきちんとした食生活ができず、お菓子で空腹感を紛らわせているといっていました。なるべく町の定食屋さんに行くように言っているのですが…。
 うちの庭には、今、リコリスともいうのでしょうか、淡いクリーム色の曼珠沙華の花が咲いています。色気たっぷりのピンク色の芙蓉の花も元気いっぱいです。
 ナツメの木があまりに高く伸びていましたので、枝の途中から切りました。ついでに、隣のスモークツリー(かすみの木)も切って、天空がすっきりした感じになりました。
 夜が早くなりましたね。6時すぎると暮色が濃くなります。虫の音とともに秋の深まりを感じます。
   (2009年6月刊。1400円+税)

ユダヤ人を救った動物園

カテゴリー:ヨーロッパ

著者 ダイアン・アッカーマン、 出版 亜紀書房
 ポーランドの話です。ユダヤ人を絶滅しようとしたナチスに抗して、ユダヤ人を助けていたポーランド人は多かったのでした。
 1944年の時点で、まだ1万5千人から2万人のユダヤ人が隠れ住んでいた。最高時は2万8千人いた。2万8千人のユダヤ人と、それを助ける7~9万人の市民、3~4千人の恐喝屋その他の悪党がいた。
 潜伏しているユダヤ人は「猫」、その隠れ場は「メリナ」(泥棒の巣)と呼ばれた。メリナが暴かれるのは、「焼かれる」と言った。
 1942年、ゲットーに残された3万5千人のユダヤ人は、商店街のそばの居住区に移され、警備員に見張られて工場へ行き来した。ゲットーのなかには、まだ2~3万人の野生の」(ワイルド)ユダヤ人が隠れ住んでいた。畑を避け、迷路のようなトンネルをくぐって建物から建物へ移動しながら、迷宮のように入り組んだ地下経済を生きていた。
 ポーランドのレジスタンスは、勇気と知恵を奮ってドイツの設備に破壊工作を仕掛け、列車を脱線させ、橋を爆破し、千百種類もの定期刊行物を刷り、ラジオ放送を流し、秘密の高校・大学を開き、10万人の生徒が授業を受けた。ユダヤ人が隠れるのを助け、武器を供給し、爆弾をつくり、ゲシュタポの諜報部員を暗殺し、囚人を救出し、地下演劇を上演し、本を出版し、市民の巧みな抵抗運動を率い、独自の法廷を開き、ロンドンを拠点とする亡命政府との間で伝令をやりとりした。レジスタンスの軍事部門は国内軍と呼ばれ、最多38万人いた。国土は分断され、ポーランドの地下政府は国民生活と同様、混乱してはいたけれども、6年間、立ち止まることなく闘い続けた。
 ポーランドの地下組織の強みは、下意上達しない運営方針と、徹底して仮名・匿名を貫く点にあった。上官の名前を誰も知らなければ、たとえ部下が捕まっても中枢までは危険が及ばない。伝令部隊と非合法の印刷所が皆に情報を流しつづけた。1日に50枚から100枚の偽造文書をつくっていた。出生証明、死亡証明、ナチ親衛隊の下級将校やゲシュタポ士官の証明書まで作った。結局、身分証明書の15%、労働証明書の25%は偽造と思われていた。
 ナチス・ドイツは、ポーランド語を公の場で話すことを禁止した。
 シルクロード探検で名高く、ナチの擁護者でもあったスウェーデン人のスヴェン・ヘデインは、1936年のベルリン・オリンピックではヒトラーと並んで演台に立つほど気に入られていたが、実は曾祖父はユダヤ教のラビだった。これはヒトラーの側近たちも知っていたが、不問に付されている。うひゃあ、ちっとも知りませんでした。
 ワルシャワ市内外の孤児院では、尼僧がユダヤ人の子どもたちを匿っていた。いかにもユダヤ人らしい顔つきの男の子専門の場所もあり、そんな子は頭と顔を包帯でぐるぐる巻きにして、けがをしているように装わせた。
 すごいですね。動物園もユダヤ人を救う地下組織の一つとして機能していたのです。
 
(2009年7月刊。2500円+税)

同期

カテゴリー:警察

著者 今野 敏、 出版 講談社
 同期というのは、有り難いものです。一緒に弁護士になり、2年間の司法研修所生活で苦楽をともにした仲間は、10年経ち、20年経って、30年経っても、会えば、やあやあやあと、顔中の笑顔が湧き出てきます。そんな弁護士もロースクール(法科大学院)になると、かなり様変わりしてしまいました。なにしろ人数が違います。私たちの頃は50人のクラスが10組あって、全部で500人足らず。今や2000人というのですから、同期といっても顔見知りである方が少ないでしょうね。せいぜい実務研修地が同じでないと相互交流も一体感もないと思います。
 この本は、警察官にも強烈な同期意識があることを前提としています。
 私立大学を卒業して警察官になり、初任地研修で同期だった2人のその後をめぐって話は展開していきます。一人は犯罪捜査の第一線にある刑事部に所属した。もう一人は本庁公安部に引っ張られていった。そして、刑事になった主人公がある日、内偵中に公安部に配属された同期生から内定対象者に襲われて危ないところを危機一髪、助けられるのです。
 日本の情報機関の中で一番の力を持っているのは国の組織ではなく、警視庁の公安部だと言われている。つまり、日本のCIAは、公安調査庁でも内閣情報調査室でもなく、警視庁公安部なのだ。警察の中にゼロという組織がある。ゼロは、かつてサクラやチヨダと呼ばれたことがある。警察庁警備局警備企画課にある情報分析室のことだ。日本中の公安情報がここに集約される。
 プロは口を割らないと一般的には考えられているが、それは逆だ。取り調べで黙秘や否認を続けるのは政治的な信念や宗教的な信念を持つ犯罪者だけだ。ヤクザなどは、一番口を割りやすい。
 警察がさまざまな思惑のもとで動いていることを実感させる小説でした。
 この先、どういう展開になるのか期待しながら頁をめくる手がもどかしいほどでした。良くできています。
 これ以上詳しいことは紹介できませんので、最後にオビの言葉です。
 刑事、公安、組対…。それぞれの思惑が交錯する。大きな事案を追いつつ、願いは、ただ同期を救うことだけ。
(2009年7月刊。1600円+税)

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