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熱帯の夢

カテゴリー:生物

著者 茂木 健一郎、 出版 集英社新書ヴィジュアル版
 アメリカ大陸、中央アメリカにある小さな国、コスタリカは、軍隊を持たない国として有名です。そして、熱帯雨林を積極的に保全し、観光資産としています。私も一度は行ってみたいと思いますが、言葉の問題もありますので、実際に行くのはフランス語圏に決めています。
それはともかくとして、コスタリカの国土は5万平方キロメートルですから日本の7分の1以下となります。そこに、1000種類もの蝶が生息している。日本の蝶は230種類でしかない。コスタリカの蝶は、日本の30倍以上の「種密度」となる。
 ヘレノールモリフォチョウは大きな目玉模様をいくつも持っています。そして、羽を開くと、その裏に怪しげなまでに輝く青色を示します。羽の鱗粉の構造と光の干渉によって
もたらされる輝きです。
 擬態について、次のように著者は説明します。はたして、この説明は完璧なものなのでしょうか。私には、いささか疑問です。
 ドクチョウやトンボマダラには、それに擬態した蝶や蛾がいる。これらの蝶そっくりの羽をしているが、ほんとうはまったく別の系統の種で、体内に毒もない。それが、長い進化の過程で似たような姿かたちになる。もちろん、あの蝶に似ようと意識してやるのではない。遺伝子の変異によって、さまざまな色かたちの個体が生まれるなかで、たまたま毒をもった蝶に似ている形のものが淘汰の中で有利となり、より多くの子孫を残す。そのような微小な変異が積み重なって、やがてそっくりの外見になる。
 どうなんでしょうか。蝶にも「種としての意思」があるのではないでしょうか。そして、「たまたま」ではなく、何かの意図にもとづいて毒をもった生物に似せようとしていると解すべきではないのでしょうか。著者は種としての生きものの「意思」を、あまりにも無視しているように思われてなりません。
 東大の理学部をでて、法学部を出て、さらに大学院で物理学を修めたという学者です。恐るべき優秀さですね。すごい学者が脳についてとても分かりやすく語ってくれますので、私はずっと愛読者です。
(2009年8月刊。1100円+税)

公安検察

カテゴリー:司法

著者 緒方 重威、 出版 講談社
 著者は、公安調査庁の長官をつとめ、仙台と広島の高等検察庁の検事長をつとめました。日本の検察機構で上位10番目までに入るポストを占めた著者が、公安検察の敵視する朝鮮総連をだましたとして詐欺罪で逮捕・起訴され、有罪の判決を受けたのです。
 そんな栄光の経歴をもつ著者が不本意な自白をさせられたのです。これでは、フツーの人が、やっていなくても「自白」してしまうのは当然のことです。
 なぜ、心ならずも「自白」をしてしまったのか、著者は次のように説明します。
 朝から晩まで長時間の取り調べ、検事の恫喝や脅迫、そしてウソをまじえた泣き落としなどに屈し、一時とはいえ、偽りの自供に追い込まれてしまった。
 元公安検事であり、元高検検事長であり、そして公安調査庁の長官でもあり、検察の手の内を知り尽くしているはずの私が、一時的とはいえ、虚偽の自白に追い込まれてしまった。いやはや、こんな泣き言を元検察官から聞きたくはありませんでした。ホントです。
 落合義和特捜副部長は、机を平手でバンバンと叩きながら、自供を迫り続けた。
「いつまで嘘を続けているんだ」
「いいか、検察は徹底的にやる」
「いつまで黙秘しているんだ。いい加減に目を覚ませ。証拠は全部そろっているんだ。このままじゃ一生刑務所だ。生きて出られると思っているのか」
「刑務所で死ね。否認は2割増の求刑を知っているだろ」
 著者は保釈がなかなか認められず、8ヶ月も拘置所に拘留されました。人質司法です。
 この本を読むと、著者に対する詐欺罪の起訴は、なるほど、かなり無理筋のように思えます。なにより、「騙された」という当の被害者(朝鮮総連)が被害にあったと思っていないというのですから。そして、著者が何の利益も得ていないというのも、なるほどと思いました。
 ヤメ検が、高検検事長ともなると、年に3000万円をこえる収入が確保されているというのにも驚きました。
 検察OBの弁護士同士のネットワークは強固である。ヤメ検の先輩に紹介された企業は多く、10社ほどの企業の監査役や顧問に就いた。その役職手当だけで毎月300万円、年間で3000万円を大きくこえた。
 退職金8000万円のほかに年俸3000万円だったら、いうことありませんよね。すごいものです。いやはや、いろいろ教えられるところの大きい本でした。
 対馬ひまわり基金法律事務所の引き継ぎ式に参加してきました。
 対馬には、昔3人の弁護士がいましたが、高齢のため亡くなられて「ゼロ地域」となっていました。そこで、九弁連は福岡県弁と長崎県弁とが共同して相談センターを開設していました。それでは、やはり足りないということで、日弁連のひまわり基金法律事務所が開設されたのです。
 引き継ぎ式は3代目にあさかぜ基金法律事務所出身の井口夏樹弁護士が就任するためのものです。
 2代目の廣部所長の話によると、2年間に受けた相談件数566件(うちクレサラ相談が368件)。受任した事件は一般62件、クレサラ315件。ほかに46件の刑事事件があったといことです。
 相談予約は最近こそ改善されたものの2週間先にしか入らないほど相談者は多いといいます。
 初代の大出弁護士は札幌に戻り、2代目の廣部弁護士は出身地の埼玉に戻りました。井口弁護士は久留米出身ですから、対馬にそのまま定着するかどうかは別として、福岡県内に定着する可能性はきわめて大です。
 対馬には法テラスのスタッフ弁護士もいますので、ひまわり法律事務所とあわせると2人の弁護士が常駐していることになります。ただ、私はやはり法律事務所は3つあった方がいいと思います。人間関係が錯綜して利害相反になることが多いので、選択肢をお互いにふやしておかないと身動きがとれないことがあるためです。
 
             (2009年7月刊。1700円+税)

冬の兵士

カテゴリー:アメリカ

著者 反戦イラク帰還兵の会、 出版 岩波書店
 イラク・アフガン帰還米兵が語る戦場の真実というのがサブ・タイトルになっています。ここで語られる内容は実におぞましく、寒々としています。まさしく寒風吹きすさぶ中で立ち尽くす冬の兵士を思わせます。そして、イラクへの侵攻、アフガニスタンへの派兵の増強をアメリカがしようとしているのは、根本的な間違いだと痛感させられます。
 アメリカのように他国の権利をいとも簡単にふみにじる国は、実は自分の国民、アメリカ人も冷たく扱い、切り捨てるものだと痛切に感じました。
 捨て置き武器という言葉を初めて知りました。
 アメリカ兵たちはAK47ライフルを一丁携行している。自分たちが撃ってしまった人物が武器を持っていなかったとき、そのAK47を死体のところに置いておく。それから部隊は、その銃を基地に持ち帰り、先ほど射殺した男が敵性戦闘員だった証拠として提出する。うへーっ、アメリカ軍って、こんなに手の込んだごまかしまでやっているのですか……。信じられません。2003年3月から2006年7月までのあいだに、18万6000人のイラク国民がアメリカ軍とその連合軍によって殺害された。これはイギリスの調査報告書に載っている数字だ。
 アメリカ軍に同行する記者がいるときには、極端に行動が変わる。決して普段と同じふるまいはしない。常に規則正しく行動し、すべて教科書どおりに動く。
 キューバのグアンタナモ基地で働いた兵士の体験談もあります。
 尋問室で、被収容者は手と足に枷をはめられ、それで床につながれ、腰掛けられるものは何もなく、耳をつんざくような大音量の音響が鳴っていて、室温は零下5度とか10度とかいうように震えるほど寒い。ここに12時間とか14時間入れられ、取り調べを受ける。これが拷問でないはずがない。うひょう、これってまさしく拷問そのものです。
 アメリカはイラクで2万4000人以上を収容していた。彼らは逮捕状もなく起訴されることもなく、法廷で自己を弁護する機会も与えられないまま、無期限に抑留されている。
 ベトナム戦争では、7500人のアメリカ女性が従軍した。湾岸戦争のときは、4万1000人だった。しかし、イラクとアフガニスタンには、これまで16万人を超える女性兵士が配置された。現在、アメリカ軍の現役兵士のうち15%と、前線に配置される兵士の11%を女性が占める。
 退役した女性兵士の3分の1が、軍隊にいたあいだにセクハラや強姦の被害にあい、71%~90%が任務をともにした男性からセクハラを受けたという。
 国防総省は、誘拐犯や殺人犯の入隊は許すのに、自ら公言しているゲイとレズビアンは入隊させない。なぜか。2003年から2006年までのあいだに、軍隊は経歴に問題のある10万6000人を入隊させた。これには、麻薬犯6万人近くが含まれている。
 イラク・アフガニスタン帰還兵のうち29万人近くが、軍人省に障がい者手当を申請した。
 ホームレス人口の3分の1は帰還兵である。
 退役軍人医療制度が実効あるものとして機能していないことへの不満が多く語られています。戦場で心身に故障をもつようになったアメリカの青年が、冷たく放置されているのです。アメリカの民主主義は、お金と力のあるもののみを対象としていることが、ここでもよく分かります。
 毎週、平均120人の帰還兵が自殺しているというデータがあるそうです。
 イラクとアフガニスタンに展開中の戦闘部隊の兵士のうち、22%ないし17%が日々を乗り切るために医師の処方箋を必要とする抗うつ剤や睡眠薬を併用して服用していた。
 過酷な戦場のなかで、多くのアメリカの青年が心身ともに壊れていっているのですね。戦争にならないような知恵と工夫がいよいよ求められていると思います。
 アフガニスタンへ日本が自衛隊を派遣するなんて、もってのほかです。
 
(2009年9月刊。1900円+税)

水神(上・下)

カテゴリー:司法

著者 帚木 蓬生、 出版 新潮社
 いやあ、実にすごいです。読み始めて2日のうちに、一気に読了しました。いつもの車中読書ですが、まったく外界の雑音が耳に入ってきませんでした。いつのまにか終点の駅についています。もちろん、あいまに仕事はしたのですが、読みかけていますから、次の展開が気になってしかたありませんでした。
 著者の本はかなり読んでいますが、これは筑後川につくられた大石堰が舞台ですから、余計に身近な話として、ぐいぐい作品の情景に引きずり込まれました。なにしろ、その情景描写が細やかなのです。まるで眼前に筑後川がながれ、にもかかわらず、田圃には水が流れないため日照りで百姓は食い詰めてしまう様子が生々しく、迫真の筆致で描かれます。
 筑後川から日がな一日、ずっと2人一組の人力で水をくみ上げる作業をする片足の悪い百姓が登場し、その愛犬ゴンが動き回ります。そして、下級奉行が村々を見て廻り、ついには大石堰のためにわが身をささげてしまうのです。すごいです。涙がにじみ出ます
 筑後川周辺の利水のために、5人の庄屋が久留米・有馬藩主に対して堰の構築を嘆願します。その財政的裏付けは、自分たち庄屋の自己負担。万一、失敗したら、5人の庄屋は財産没収ではすみません。はりつけ死罪です。現に工事が始まったとき、失敗に備えてはりつけのための処刑台が5本、近くにこれ見よがしに建てられたのです。
 反対する庄屋もいました。ひどい妨害にもめげず、自分の全財産を投げうって、工事着工を実現していくのです。著者の筆致はよどみなく、タンタンタンと、陣太鼓の音まで聞こえてきそうです。こんな良質な小説を読むと、心のなかまで清々しくなります。
「大石堰の方で、狼煙(のろし)があがったぞ」誰かが叫んだ。頭を巡らすと、白い煙が少しかしぎながら青い空に吸い寄せられていくのが見えた。
「いよいよ、水が来るぞ」別の村人が声を上げる。
 「水が来たぞ」村の方で何人もが叫んでいる。水路に沿って駆け出した若者もいたが、すぐに走りやめる。代わりに吠えながら猛然と走りだしたのはゴンだった。水は真新しい溝渠の中を波頭を立てて迫っていた。黒々とした流れの先端に、白い波しぶきが見えた。ゴンはさらに吠えかかろうとしたが、かなわぬと見て尾を巻いて駆け戻ってくる。
龍だ、と助左衛門(五庄屋の一人)は思った。龍が頭を高く、あるいは低くして、白髭をひくつかせて攻め寄って来る。誰もが立ち上がり、水路に吸い寄せられたときには、龍の頭はもう十数間先に走り去り、今は黒々としてうねる背中がみえるだけだ。しかもその龍の背は、側壁を削るかのように膨らみ、ある所では杭に当たって白いしぶきを上げた。
「子供には気をつけろ」伊八が叫んでいる。次兵衛と志をが三人の子供の手を引いている後ろで、次兵衛の母親が手を合わせていた。目を閉じ、念仏のようなものを唱えている。
 すごい描写ですよね。堰が出来て、水門が開けられてやってきた水流が龍のように躍動している様子をしっかりと思い浮かべることができます。これからも、たくさん書いてください。
 11月28日(土)午後3時から、北九州の厚生年金会館で帚木氏に今度は精神科医として依存症について講演していただくことになっています(入場料500円。全国クレサラ対協のHPを参照してください)。
 私は、今から大いに楽しみにしています。
 この筑後川の堰渠を構造するについては、長い歴史があったようです。『久留米市史』第2巻735頁から30頁ほど詳細な経過が述べられています。
 寛文3年(1663年)に大干ばつで作物が全滅状態となったため、五庄屋が誓詞血判して藩庁へ出願したこと、反対運動が起きたこと、夜間に提灯をともして土地の高低を測量したこと、失敗したら磔(はりつけ)の刑に処することになって、工事開始の直後に5つの磔台が建てられたこと、藩営事業として正式に工事が始まり、工事は人夫1万5千人によって2ヶ月間で無事に完成したことなどが記述されています。
(2009年8月刊。1500円+税)

棄民たちの戦場

カテゴリー:日本史(戦後)

著者 橋本 明、 出版 新潮社
 第二次大戦の末期、アメリカがナチス・ドイツを追い詰めていた。ところが、ドイツ軍の巧妙な反撃にあって、アメリカ軍の一部隊がフランスの山地で敵中に孤立してしまった。
 包囲されたテキサス大隊の兵211人を救出するため、日系アメリカ兵800人がフランスの山地、氷雨に煙るボージュで死んでいった。
 第二次大戦が始まると、日系アメリカ人はアメリカ政府によって、敵性国の人間だとして自由を失い、砂漠のなかの収容所に強制的に収容された。カリフォルニア州だけで10万人近く。ハワイやオレゴンなどをふくめると、全米で12万6000人もの日系アメリカ人が強制的に収容された。このとき、同じ枢軸国であっても、ドイツ系やイタリア系には同じような措置はとられていない。黄色い日本人は差別されたのですね。
 その強制収容所から日系アメリカ人の兵隊が誕生した。そして、この日系アメリカ兵の部隊に名声はいらない。果敢に任務を遂行するキツネ顔の日系人は、埋もれた消耗品に過ぎなかった。独立のコマンドとして差別し、動静を隠す。
 442歩兵連隊2800人。平均背高162センチ。在フランス師団の増強部隊として、欧州戦線のど真ん中に参戦した。第442歩兵連隊戦闘団は、「お釣りを絶対に期待できない」戦闘に首を突っ込んでいった。敵性国民という不当なレッテルと差別をはねのけるために立ち上がったタフガイ集団といえる。
山が山を覆い、森が森を連ねるフランスのボージュ戦域は、第二次世界大戦を通じてもっとも劇的なエピソードをつづる場に変わっていく。後に戦史家は、このテキサス大隊救出作戦を、アメリカ陸軍史上もっとも重要な「十大戦闘」の一つに数え、ペンタゴンの壁に永久表彰画を掲げた。
 テキサス大隊を自らの身を犠牲にして救出していった日系アメリカ兵の活躍ぶりがあますところなく活写されていて、まさに良質の戦争映画をスケールの大きな画面で身近に見ている気になり、手に汗を握ります。第二次大戦に従事した日系アメリカ兵は、総勢二万人を超えたということです。
 フランスに現地には、このときの日系アメリカ兵の活躍をたたえる碑が建っているそうです。感動的な、いい本でした。よくぞ、ここまで掘り起こしたものだと思います。
 
(2009年6月刊。1600円+税)

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