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トルコ狂乱

カテゴリー:アジア

著者 トゥルグット・オザクマン、 出版 三一書房
 申し訳ないことに、トルコ独立戦争というものがあったことを初めて知りました。直接の敵はギリシャです。そして、そのギリシャの背後にはイギリスがいました。
 当時のイギリスの首相は、ロイド・ジョージです。日本では、河上肇が『貧乏物語』において手放しで大絶賛していますが、トルコにとっては、最悪の帝国主義の体現者でしかありません。ウィンストン・チャーチルも同じ穴のむじなでした。
 トルコで空前のベストセラーの小説です。正規版60万部、海賊版で300万部が売れたそうです。なにしろ、上下2段組800頁もある大部の本なのです。速読をモットーとする私も、トルコのことをほとんど何も知らなかったため、遅読にならざるをえませんでした。
 トルコ人にとって、このギリシャとの独立解放戦争に勝利したというのは、今日なお莫大な遺産なのである。
 ムスタファ・ケマル(アタテュルク)は、独立戦争後の1927年、反対派を一掃して一党支配体制を確立した翌年の党大会で、60日間、36時間をかけて行った大演説で、党員たちを前に独立戦争の終結を宣言した。
 当時のトルコは、まだオスマン帝国でもあった。しかし、人口1300万人、農業は原始的、産業はないに等しく、港や鉄道、そして鉱山は外資系企業のもの。識字率は7%(女性は1%)、大学は1校のみ。
 イギリスの後押しを受けたギリシャ軍がトルコ領土内に侵攻してきたとき、トルコ軍は満足な軍隊を持っていなかった。ギリシャ軍は優秀な装備と兵力で、トルコ軍を次々に撃破して、首都アンカラに迫って来た。そのとき、アタテュルクが反撃作戦の指揮をとった。極めて困難な戦いを先験的というか、卓抜・奇抜な戦略・戦術で逆転し、ついにギリシャを完膚なきまでに打ち破り、ギリシャ軍の指導部を一網打尽式に捕虜にしていった。その奇襲作戦をふくめた軍事指導の見事さには圧倒されてしまいます。
 この本を読むと、外国との戦いに勝つためには、単に武器が優越しているだけでは足りず、国民を戦争目的に向かって総動員できる意義、大義名分が欠かせないということが良く分かります。今日のトルコを知るために欠かせない貴重な本だと思いました。
 ただ、この本はタイトルがよくありませんよね。「狂乱」というのはマイナス・イメージを与えてしまいます。
 熊野古道は世界遺産に登録されています。人工的なものを使って道路を整備したらいけないということです。山にある岩や石をつかったり、材木を利用して道路を歩きやすくするのはいいけれど、海岸の意思を持ち込んではいけないのです。コンクリートやアスファルト舗装などはもってのほかです。とても歩きやすい道になっています。ところどころにある休憩所のトイレも水洗式で気持よく利用できます。熊野には3回お参りする必要があるそうです。好天に恵まれましたのでまた行きたいと思っています。このツアーを企画した大阪の弁護士は和歌山県出身です。串本の近くの小・中・高校を卒業して東大に入りました。それを聞いた仲間が「だったら君は地元で神童と言われていたんだな」と声をかけたら「いえ私は真郎です」と答えて大笑いとなりました。大川真郎弁護士です。
(2008年7月刊。3800円+税)

罪と音楽

カテゴリー:司法

著者 小室 哲哉、 出版 幻冬舎
 私にとって小室哲哉という人は、有名らしいね、というにすぎません。テレビは見ないし、歌謡曲を聞くこともありませんので、おそらく彼が作詞・作曲した曲を聞いたこともないと思います。ただ、人気の音楽プロデューサーが5億円もの詐欺事件で逮捕され、有罪になったことは知っていましたから、弁護士として、本人がどんな思いで裁判を受けたのか知りたいと思って読んだのでした。
 なにより驚いたのは、さすがにプロのミュージシャンだけあって言うことが違うということです。
 まわりが見えなくなるくらい音楽に没頭したとき、音楽は降ってくる。天なのか、空なのか、とにかく自分のはるか上から降ってくる。
 何かが心の琴線に触れると、頭の中で音が鳴る。だが、あくまで断片でしかない。そのいくつかを広い集め、膨らませながら一曲に仕上げていく。集中力が必要だ。なーるほど、ですね。考えに考え、じっとあたためていると、いつか突然ひらめくという話は、私にも経験があります。
 シンガーの音質が肝心。オーディションの合否を決めるのに3分間も歌を聴く必要はない。「はじめまして」とあいさつしたとき、もう5割は決まっている。
 美輪明宏、美空ひばり、松田聖子なら、歌い始めた瞬間に合格を決める。声の倍音構成があまりにも素晴らしいからだ。歌唱トレーニングし、音楽を勉強すると音痴はある程度は解消できる。リズム感も身に着く。しかし、音質だけはどうしようもない。たとえば、「ドー」を発生したとき、1オクターブ上のド、さらにドに対してハーモニーを構成するミやソの音が聞こえてくる声がある。それは倍音構成の素晴らしい声だ。
 なるほど、こればかりは生まれ持った天性によるものなんですね。
 著者は、ある意味で裁判になって良かった、人生を立ち止まって考える機会を与えてくれたと前向きに考えているようです。これって、いいことですよね。いつまでもくよくよしていても始まりませんからね。
 ブレイクする。売れる。有名になる。どの場合も、アンチが急増する。これが世の常だ。だから、アンチの声に耐えられるだけの強さと、それに慣れてしまうだけの鈍感さがないと、人前に出る仕事はできない。ふむふむ、これって弁護士の仕事をしている私にも、なんだか身近なものに感じられる、よく分かる話です。
 たとえば、この書評ブログにしても、有名でないから非難をあびることもありませんが、それでも、たまにきつい非難のお叱りを受けることがあります。そんなときは、不本意ですが、とりあえず謝罪するようにしています。だって、私個人のブログではなく、弁護士会のホームページに寄生しているからです。
 著者は、別れた奥さまに3億円の慰謝料を支払い、長女に月200万の養育費を支払うことにしていたそうです。すごい金額です。弁護士生活35年を過ぎましたが、私が扱うのはせいぜい慰謝料300万円、養育費3万円というものです。ケタがいくつも違いすぎます。
 ロスに6億円、ハワイに1億円、バリ島に2億円の別宅を購入したということです。まるでピンとこない話です。
 金銭感覚のゆがみは、1998年、確定申告の収入が1億円をこえたときだ。
 なーるほど、そういうものかもしれませんね。芸術家という職業が絶えず強迫観念とともに生きている存在であることを改めて認識させられました。
 子どものころの憧れを成就させるには、次の10段階を必要とする。出会い、衝撃、あこがれ、観察、真似、分析、応用、自在、個性、放出。
 なるほどなるほど、よくよく分かる気のする分析です。よほど考えぬいたのですね。
 
 熊野那智大社では見上げる絶壁から流れ落ちる大滝を拝みました。すごい断崖絶壁です。そのあと、青岸渡寺におまいりし、那智黒石のふくろう様を記念のお土産品に買い求めました。好天にもめぐまれたくさんの人出でした。
 わたらせ温泉のささゆりは大きな旅館です。大露天風呂に行くにはつり橋を渡ります。朝早く渡っていると青い宝石とも呼ばれる小鳥(カワセミ)がきらきら光る青い背を輝かせながら川面をすばやく飛んでいるのを見かけました。
(2009年9月刊。1300円+税)

鉄学、137億年の宇宙誌

カテゴリー:人間

著者 宮本 英昭・橘 省吾・横山 広美、 出版 岩波書店
 いやあ、鉄って、人間にとってこんなにも必要不可欠のものなんですね。ちっとも知りませんでした。驚きました。
 人間は鉄を十分にとらないと、貧血になる。鉄欠乏性貧血を起こす。血液にふくまれるヘモグロビンは、呼吸で体内に取り入れた酸素を身体の隅々まで運搬するという重要な役割を果たしているが、これが不足すると全身が酸素不足になって、めまいがしたりする。
 このヘモグロビンは鉄を中心とした構造を持っている。
現在、地球で知られているほとんどすべての生物にとって、鉄は不可欠な元素である。地球が特殊な天体である重要なひとつの理由は、地球が十分に大きな鉄の核を内部にもっていることにある。
 宇宙空間は有害な放射線が容赦なく降り注ぐという生命にとって危険きわまりない状況にある。これが地表面に危険なレベルで届かないのは、地球の持っている磁場のおかげである。
 磁場は、地球内部の溶融した鉄の運動により電流が流れるために生じる。つまり、人間は、地球の奥深くにある鉄に守られているのだ。月や金星、そして今の火星は磁場を持たない。いやはや、まったく私は知りませんでしたよ、こんな大切なことを……。
 過去500万年のうちに20回、地球の磁場が逆転した。
 磁場が弱くなると、地球に降り注ぐ高エネルギー粒子の数が増加する。オゾン層を減少させ、地表に降り注ぐ紫外線量を増加させる。
 鉄は、いったいどこから来たのか?
そのほとんどが、地球の誕生する46億年前よりはるか昔に、太陽の10倍以上の大きな恒星の内部でつくられ、その星が死ぬ瞬間の大爆発(超新星爆発)によって、宇宙空間にまき散らされたものである。なんとなんと、そうなんですか……。
 鉄は、すべての元素のなかでもっとも安定した原子核を持つ。鉄よりも重い元素はできない。宇宙全体において、鉄は得意な存在である。
 地球を構成している元素の中で、最大の重量比をもつものは鉄である。地球の重量の3分の1は鉄である。重さで言うと、地球は「鉄の惑星」である。
 現在、地球全体でいうと、毎年10億トン以上の粗鋼が生産されている。全世界の金属生産量の9割以上を占める。鉄は、現代文明の基礎を築いている。
 純粋な鉄は比較的軟らかい。炭素成分を少し加えると、鋼鉄という強固な物質へと変わる。
 今でこそ、動物が呼吸するうえで必須の酸素も、かつてはその高い反応性のため細胞を壊す有害な成分だった。しかし、酸素の高い反応性は、うまく利用すると、有機物からエネルギーを非常に効率的に取り出せる。このことに気がついた原核生物がいた。有害な酸素が、有益な成分に変わった瞬間である。
 多様な原子核の中で、鉄はもっとも安定な原子核を持つ。この性質によって、鉄は校正での元素合成の最終到達地点となること、そのために宇宙で非常に存在度の高い元素になることが決定づけられた。ただ、なぜ鉄がもとも安定な原子核であるのか、現代物理学は解明できていない。
 いやあ、鉄って、まだまだわからないところもある不思議で大切な存在なんですね。面白い本でした。
 熊野古道では中辺道(なかべみち)を少しだけ歩きました。わたらぜ温泉のささゆりに泊まり、翌朝8時20分にバスで出発し、三元茶屋跡から熊野本宮大社までの下りのコース2キロを1時間ほどかけて歩きました。ガイド氏(かたりべ)が同伴して、各所で説明がつきますので、時間がかかったのです。静かな細い山道を歩くのは気持ちの良いものです。
 三軒茶屋というのは、昔はアリの古道というように参詣する民衆がアリの行列のように切れ目なく続いていたということです。なるほど、そのように描かれている絵を見ました。日本人は昔から旅行が大好きだったのですね。
(2009年8月刊。1200円+税)

すし屋の常識・非常識

カテゴリー:社会

著者 重金 敦之、 出版 朝日新書
 私は、自慢話ではありませんが、いわゆる回転寿司の店には一度も入ったことがありません。それは私にとって、マックやケンタの店に入ったことがないのと同じことです。つまり、お仕着せの店というか、人工着色、人工味付けのものは食べたくないということに尽きます。
 京都に、タケノコの専門料亭があるそうです。刺身、焼き物など、タケノコ尽くしだそうです。といっても、刺身がまったくの「ナマモノ」かというとそうではなく、ちゃんと湯がいてあるそうです。そうですよね。その料亭の女将によると、どんなに朝早く掘り起こしたタケノコでも、生のままだとちっとも美味しくないというのです。やっぱり、少しだけでも人の手が加わって美味しくなるのです。
 ノドグロ(アカムツ)も寿司ダネになっているそうです。残念ながら私はまだ食べたことはありません。少し脂身が強すぎて、やはり干物にしたくらいがちょうどいいということでした。負け惜しみになりますが、私も一度くらいは食べてから、そんな解説をしてみたいものです。
 築地市場でのミナミマグロの値段は、過去5年より4~5割も高くなっている。マグロは、江戸時代には下品な食べ物だった。さつまいも、カボチャと並んで大変に下品なもので、ちょっとした町人は、食べるのを恥ずかしいと思っていた。うへーっ、そ、そんな馬鹿な、と思わず言ってしまいました。
 私は、寿司を手づかみで食べることはありません。通はハシを使わないと聞いてはいますが、なんでもハシをつかって食べるのを常としている私は、当然のようにハシを使います。なにしろ、スパゲッティだってハシがあればハシで食べるんです…。
 寿司屋にハシ置きのないところがあります。手づかみで食べてくれというわけです。でも、なかなか手づかみでというわけにはいきませんよね。とくに女性だったら、なおさらのことではないでしょうか。
 こんな寿司店の本を読むと、すぐにでも寿司をつまんで食べたくなってしまいます。
 
(2009年2月刊。760円+税)

鶴屋南北の恋

カテゴリー:日本史(江戸)

著者 領家 高子、 出版 光文社
 江戸時代。文化文政期に、遅咲きながら長く大輪の花を咲かせ続けた鶴屋南北(つるやなんぼく)。当代随一の歌舞伎狂言の作り手である。南北が立作者になったのは50歳近い。『東海道四谷怪談』で当たりをとったときは、既に齢(よわい)七十一。次々と話題作を出してきた。
 すごいですね。同じく遅咲きだった松本清張のような作者なんですね。
 総作に没頭する狂気のような集中力。古き良き時代の香りを胸一杯に吸い込んだ者だけが持つ、晴朗な佇まい。長い雌伏時代に養われた胆力は並みではない。生来の悪気のなさと、醒めたものの見方を両立できるのは、世の中の酸いも甘いも知り尽くした年の功。しかも、歌舞伎作者なる「新しさ」の申し子として、結果を必ず出すためにとる方法の奇抜は、群を抜いている。舞台を愛する一心で生き残りをかけて劇界に踏みとどまり、備わった政治力。当代の千両役者たちの天才と傲岸と我がまま勝手を理解するのも、長老格のこの人をおいて、他にない。なーるほど、今も変わらないことでしょうね、これって……。
 歌舞伎舞台は、庶民のうっ屈を映す鏡だ。
 そんな南北が心魅かれた女性がいた。
 三味線弾きの辰巳芸者を、人目に触れぬ寮の離れに囲い、清元を弾かせて食事をする。やがて、年齢を超えて南北と鶴次(芸者)は男女の中になり、息子の十兵衛を交えた三角関係が生じ……。南北はそのなかで、たゆまぬ筆をすすめていった。
 しっとりした江戸情緒をたっぷり味あわせてくれる大人の恋の物語です。よく出来ています。その出来栄えの良さにほとほと感心しつつ、江戸の人情話を心底から楽しむことができました。
(2009年2月刊。1600円+税)

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