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森の奥の動物たち

カテゴリー:生物

著者  鈴木 直樹 、 出版 角川学芸出版
 ロボットカメラを日本の森に仕掛けて撮った夜の動物たちの素顔です。よくぞ撮れたと思うほど、くっきり鮮明な写真のオンパレードです。お疲れ様でした。
 自分の匂いを消し、木々のあいだに姿を消すことに関してはジャングルで修練を積んだ。ジャングルに適応すると、人間を遠くからでも感知できるようになる。現代人が近づいてくると、足音がする前に、地面がわずかに振動をはじめる。続いて足音と話し声。そして極めつけは匂いである。姿を見せる前に、猛烈な文明人の匂いが雲のように押し寄せる。シャンプー、香水、ビール、肉の脂などの匂いが合わさって、波のように押し寄せてくる。これでは動物に見つからないわけはない。ましてや、人間より嗅覚も聴覚も鋭い動物たちは、これらが千倍もの強さの五感への雑音として伝わるであろう。
 うへーっ、す、すごいことですね。著者は森の奥へ、それも夜の森の中へ入ろうというのですから、とても私にはできません。そして、雪山用の迷彩服というのはドイツ軍製のものが一番実用的なようですね・・・・。
 ロボットカメラといっても、写真に紹介されているのは、とても小さくて、えええっ、こんなものでちゃんと取れるのかしらん、と思ったほどです。
一日中、森の中をはいまわってロボットカメラを設置した夜、遠くの山並みをみわたしながら、こちらの山脈で一つ、向こう側の森の奥で二つと、ストロボで梢がかすかに光るのを確認するのは、苦労が報われる幸せのひとつでもあった。
 いやはや、お疲れさま、としか言いようがありません。でも、その苦労のおかげで、こんなにくっきり、すっきりと鮮明な写真が拝めるのですから、ありがたいことです。
 登場するのは、テン、タヌキ、リス、ネズミそしてモグラとハクビジンまで姿をあらわします。みんな可愛いです。
 夜の森では何が起きているのか、自分で行く勇気まではないけれど、知りたいという人には、うってつけの写真集です。ぜひ、手にとって見てみてください。でも、同じように夜のゾウを撮影しようと思っても、なかなかうまくはいかなかったようです。それでも成功したと言えるのでしょうか。ゾウが侵入者(ロボットカメラ)に怒って、あの巨体で踏みつぶしてしまったというのですから。
ゾウの怒る気持は分かりますが、人間としては、ぜひ知りたいところではあるんですよね。殺すわけではありませんから・・・。ゾウさん、許してね。
(2009年7月刊。2800円+税)
 阿蘇の猿まわし劇場に久しぶりに立ち寄りました。春休みとはいえ、平日午後だからやってるのかしらん、やってても閑散としているだろうなと心配していましたが、駐車場にはなんと大型の観光バスが何台も停まっています。会場に入ると、そこそこの観客がいました。演じてくれるお猿さんは、2頭です。6歳と9歳のオス猿君たちでした。猿の年齢は3倍すると人間の年齢になるそうですから、青壮年の猿君です。
 2本足ですっくと立ち、ポーズをとる様は、誇りをもって演じていることがうかがえます。
 いろんな芸ができるので、感心、感嘆して見とれていると、40分があっという間にすぎてしまいました。私が何より感心したのは、天井まで届きそうな2本の竹竿を床から一人で立ち上げて。それを竹馬として舞台を上手に歩き回ったことです。すごくバランスを取るのが上手なのに感動してしまいました。
 大勢いた観客は、実は韓国人でした。そのなかの一人が、ビデオ撮影禁止という提示があるのを無視して舞台近くまで迫って撮影していたので、さすがに係員から制止されていました。でも、その後も動きまわることは少なくなりましたが、撮影自体は最後まで止めませんでした。こんなに面白いものなので、家に帰って家族に見せてやりたいと思ったのでしょう。その気持ちは分かりますが、それにしても、ちょっと目ざわりではありました。おばちゃんにはかないません。

すきやばし次郎、鮨を語る

カテゴリー:社会

著者 宇佐美 伸、 出版 文春新書
いやあ、とても美味しそうな話です。今すぐにでも鮨屋に飛んでいきたくなるような本でした。もちろん、そこらの回転鮨ではありませんよ。残念なことに、この店には行ったことがありません。1コース3万円という高さもさることながら、3ヶ月先まで予約で満杯だというのです。
 ミシュラン三ツ星を獲得した日本を代表する鮨屋の大将の話ですから面白くないはずがありません。うむむ、なるほど、なるほど、そうだったのかと、ついつい何度もうなりながら、実際に鮨をつまんで味わうことのできないもどかしさを感じつつ、読みすすめていきました。
 84歳でありながら、毎日800貫、40人分も鮨を立って握り続けているのです。もう、それだけで恐れ入りますよね。
「すきやばし次郎」はビルの地下にある。テーブル席は3つあるけれど、つかわれていない。つけ台の10席のみ。10坪ばかりの店に3人の職人が10人の客と相対する。
 本日のおまかせを一気呵成に腹へ詰めこむ時間は、なんと20分足らず。ここではアルコールは主体ではないし、そのための刺身も出ない。この店では、居心地の良さを期待してはいけない。ダラダラと話をするところではないのです。ひたすら、鮨を堪能する店なのです。
 店は狭いし、トイレも自前ではなくビルの共用。支払いにカードは使えないし、ワインも置いてない、お酒をすすめることもしない。
お鮨は握り立てが一番おいしい。握ったら、すぐに食べてほしい。鮨ダネはいいものを河岸(かし)の言い値で仕入れる。握りの良さは、酢飯に負うところが大きい。客が来客する二十分前に羽釜で炊き上げ、半酢、塩、少々の砂糖と手早く合わせて仕上げる。客がつけ台に座るころに、ちょうど人肌の温かさに落ち着いている。
鮨は人を食うものだ。なにしろ鮨職人という赤の他人が素手で酢飯をとり、握り、そのまま置いたものを手にとって食べるわけである。
 40歳を過ぎてから、外出するときには真夏でも手袋を欠かさない。 鮨職人にとって、手は命より大切なものだ。
 お客にまず出すおしぼりは、持つとやけどするんじゃないかと思うくらいの熱々のものを出す。
「すきやばし次郎」で働いた鮨職人は150人になる。このうちモノになったには9人。そのうち2人は息子。はっきり卒業生といえるのは7人だけ。
 いやぁ、これには厳しいですね。残る141人には「次郎」で修行したとは言わせないというのですから、大変なことです。鮨職人の世界がこんなにも厳しいとは・・・。
 いいマグロがなかなかない。欲しいマグロは、とにかく香り。鮨職人にとって嗅覚がまず大切だ。一口かむと、ふっと艶めかしい香りがツーンと鼻を抜けて、力強いのに押し付けがましくない脂や甘み、酸みや渋みがジワッと口に広がっていく。大海を巨体で悠々と泳ぐ。王者の鮮烈な血の香り。ただし、脂がしつこくてはいけない。しっかり脂が回っているけれど、サラッとしている。そんな軽快さが欲しい。蓄養マグロは生臭みばかり残っていて、マグロ本来の香りがない。だから、輸入マグロは使っていない。
 いやはや、ぜひ一度、この店で食べてみたいものだと思いました。
(2009年10月刊。700円+税)

欧亜純白(Ⅰ)

カテゴリー:社会

著者 大沢 在昌、 出版 集英社
 世界の麻薬ビジネスを扱った、スケールの大きな小説です。小説と言っても、単なる想像による創作ということではなく、統計的な事実も踏まえたフィクションですから、正直言って怖い話のオンパレードです。途中で読むのを止めようと思ったほどです。
 それにしても麻薬ビジネスといい闇の世界といい、次から次に人が殺されていくシーンは気持ちのいいものではありません。ソ連からロシアに移行して無法地帯となった国の状況を描いているように思いますが、いやいや、アメリカだってマフィアが裏社会を支配してきたじゃないかと思いなおしました。
 ところが、これを書いているとき、新聞を見ると、元警察官で暴力団対策の仕事をしている大牟田市の職員が、オートバイに乗った二人組からピストルで足を撃たれた事件が起きたことを知りました。つまり、暴力団対策なんてほどほどにしておけよ、深入りしたら命の保障はないぞという警告を暴力団がしたというわけです。
 暴力団抗争事件がまだ終結もしていないのに、一方を賛美する映画がつくられてDVDで大々的に売られています。しかも、主役は有名な俳優とか歌手です。日本の社会は、暴力団追放を叫びながらも、裏では暴力団をのさばらせているという現実があります。そうでありながら、死刑制度に国民の9割もが賛成するというのは、矛盾そのものではないでしょうか……。
 ロシア。この国の犯罪者には、無限の可能性がある。社会機構が安定していない国には、普通犯罪者がお金を稼げるほどの旨みのある産業は確立していないものだが。この国はそうではない。近代国でありながら、社会機構が混乱しているのだ。人類の歴史のなかで、敗戦を経験したわけでもないのに、このような混乱に陥った国はない。表舞台にあるべき産業と犯罪が直結している。この国では、アメリカで必要な偽装や取り繕いは必要ない。
 人とものを動かせる組織ならば、それが犯罪者の集団であっても、代替機関が存在しない以上、産業は手を組まざるを得ない。国家が敵にまわる心配もない。それどころか、この国では、犯罪者が国家そのものを動かす可能性すらある。
 麻薬がこの地上から消えてなくならないのには快楽とは別の理由がある。現金に代わる決済の手段となることだ。武器取引や反政府組織への援助物資として、麻薬が使われるのは常識である。
 麻薬は、現金と違ってその流れが発覚しにくく、金のように価値が下落することもない。しかも、インフレにも強いという利点がある。そのため、CIAはアメリカ国外での非合法な取引の支払い手段として麻薬を使うことがたびたびあった。
 麻薬犯罪の捜査において、密告はもっとも大きな情報源である。麻薬犯罪の摘発は、常に物(ブツ)の存在がものをいう。誰それが麻薬をやっている、という情報は、それこそ腐るほど入ってきても、実際に麻薬を所持しているところを押さえなければ、立件は難しい。そして、所持している麻薬の量が多ければ多いほど、捜査官の功績となる。
 密告をもとに内偵を進め、容疑者がもっとも大量の物を所持していているときを見計らって踏み込むのが麻薬捜査の基本である。だから、麻薬捜査官は一度でもひっかけた容疑者を決して手放さない。すべてを密告者に仕立て、利用する。というのも、麻薬中毒者の周囲には、潜在的な中毒者が必ずいるからだ。
 10年前に『週刊プレイボーイ』に連載されていたものですが、今日なお、状況にそれほど変化はないのではないかと思いつつ(実のところ変化があってほしいと願いはしましたが)読みすすめ、読了ました。背筋の凍る思いのする犯罪小説でもあります。現実から目をそむけたくない、勇気あるあなたにおすすめします。
 
(2009年12月刊。1700円+税)

タイ 中進国の模索

カテゴリー:アジア

著者 末廣 昭 、 出版 岩波新書
 タイには一度だけ行ったことがあります。かつて一度も他国の植民地になったことのない安定した王国です。僧侶の多い、微笑みの農業国という印象も受けます。ところが、バンコクに行ってみると、すごい渋滞の国です。
 高層ビルが立ち並んでいて、高架鉄道が走っています。治安は良いので、私も一人で高架鉄道に乗って、シルクの店に出かけたのでした。
 ところがタイは、農業国ではなく、工業国である。輸出額のトップはコメではなく、コンピューター部品なのである。大学生は一握りのエリートではなく、在籍者は180万人にのぼる。増加するストレスに直面して、微笑みを失った国になっている。
 1973年に軍事政権が倒れてから2008年末までの35年間に、クーデターが4回、憲法制定が6回、総選挙は14回、政権交代は27回も経験している。首相の平均在任期間は1年半という短さである。 タイは決して政治的に落ち着いた国ではない。黄色シャツは反タクシン勢力、赤色シャツは親タクシン勢力である。この対立を民主主義を推進する勢力と阻害する勢力の対立、王制を守るグループとないがしろにするグループの対立、都市の中間層と農村の貧困層の対立というとうに、国を二分するグループ間の衝立という構図に読みかえるのは適切でない。国民の大多数は黄色にも赤色にも、そのなりふりかまわない実力行使にうんざりしている。
 タクシン元首相は1949年生まれですから、私と同じ団塊世代ということになります。警察中佐でしたが、コンピューターのレンタル事業に乗り出し、またたくまにタイ最大の通信財閥に発展させた。1998年、51歳の若さで首相に就任し、2006年9月のクーデターまで5年8ヶ月、政権を維持した。
タクシン首相による「国の改造」は国王と王室の威信と権威を傷つけ、国軍の人事や国防予算といった軍の聖域を土足で踏み荒らし、官僚を政策決定機構から排除していった。当然、そこに反発と不満を引き起こした。
 タイという国を多角的に分析していて大変分かりやすく読みすすめることができました。
        (2009年8月刊。780円+税)

がん患者、お金との闘い

カテゴリー:社会

著者 札幌テレビ放送取材班、 出版 岩波書店
 がんにかかったときの治療費がこんなに高いということを改めて認識しました。そして、がん保険があまり役に立たないことも知りました。
 がん保険は入院に対しては手厚いが、通院治療はほとんど対象としていない。1日の通院保障は最大1万円までが多い。この金額では、1回の通院で3万5千円とか5万円かかるのに対しては十分ではない。がんといえば。手術と入院だった時代から、化学療法による通院が増える時代となった今日、がん保険も入院を保障するだけでは、ニーズにこたえられない。そうなんですか……。ちっとも知りませんでした。
 抗がん剤の開発は日進月歩。ここ10年で種類が一気に増えた。北大病院に常備されている抗がん剤は、120種にのぼる。
 治療費が100万円かかっても健康保険をつかって自己負担が9万円ですむのはありがたい。4回目からは1回あたり5万円ほどの自己負担になる。これは高額医療費の支給を受けているとき。ところが、高額医療費は、なんと3ヶ月後に払い戻されるもの。それまでは自己負担を強いられる。なんと患者に冷たい医療行政でしょうか……。せめて窓口で利用できるようにすべきだと思います。スペインやイギリスのように窓口負担なしにすべきです。
 日本にお金がないわけではありません。1隻1000億円を超すヘリ空母を作ったり、日本に駐留しているアメリカ軍への思いやり予算をはじめ、ムダな軍事予算を削るべきではないでしょうか。
 がん患者の年間の自己負担額は、平均101万円である。
 がん患者にも、障害年金の支給がありうることが意外に知られていない。これは20年以上も前、1980年からのことである。
 日本でも、かつては、健康保険の自己負担は初診料200円だけという時代があった。ところが、1984年に1割負担、1997年に2割、2003年に3割へと、患者の自己負担はどんどん引き上げられていった。家計の負担が増えたにもかかわらず、国の負担は1980年度の30.4%から24.7%へと、6%も削減されている。
 アメリカのマイケル・ムーア監督の、『シッコ』を思い出しました。同じ資本主義国でも、イギリスは病院での窓口支払いはゼロ。それどころか、病院の窓口では通院費用を支払ってくれるというのです。ところがアメリカでは、オバマ大統領が国民皆保険を目ざすと、たちまち、社会主義者、アカというレッテルを貼られ、けたたましい非難を浴びせられかけているのです。もちろん、その背後には、高額の収益を上げている民間医療保険会社が潜んでいるわけです。それにしても、まだまだアメリカの国民の少なからぬ人々が、自己責任の原則を信奉し、弱者切り捨ての論理にどっぷり浸っていて、哀れとしか言いようがありません。
 日本はアメリカを手本にするのではなく、イギリスやフランスなどを見習うべきです。
(2010年2月刊。1600円+税)

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