法律相談センター検索 弁護士検索

無縁社会の正体

カテゴリー:社会

著者  橘木 俊詔、   出版  PHP研究所
 この著者の本は、いつものことながら、とても実証的で大変勉強になります。
日本の自殺者は毎年3万人を超えているが、自殺者の多い40歳代から60歳代では、男性の自殺者数は女性の3倍になっている。自殺の理由は健康問題と経済問題の2つで79%つまり8割を占めている。
 戦前の日本では単身者は5~6%と、非常に少なかった。ところが2010年に31.2%となり、これから2030年には37.4%になると見込まれている。3分の1以上、4割に近い単独世帯である。これは、結婚しない単身者の増加と老後に一人で住む人の増加による。
 貧困大国・日本はあながち誇張ではない。そして、貧困者をふくむ低所得高齢者の所得は年金しかないのが現実だ。
 年金給付額をアップせよというと反対論が起きる。自立の精神にもとづいて、老後の生活に備えて自己資金を十分に蓄えておくべきだという考え方である。しかし現実には、これらの高齢者の多くは、若・中年期の所得が低かったうえ、それほど贅沢な消費をしていなくとも、貯蓄にまわせる分が少なかったので貯蓄額が低かったのであって、本人だけの責任ではない。
 そうなんですよね。自己責任という前に、社会がきちんと機会を与えていなかった、否むしろ、その機会を奪っていたという現実を直視すべきではないでしょうか。自己責任論は政治の責任をあいまいにしてしまいます。
 日本の貧困は、母子家庭における深刻さが目立つ。高齢単身者は、全貧困者のうち5分の1を占めている。貧困に苦しむ高齢者(とくに単身者)は、生活保護制度に対してほとんど期待できないのが現実である。資産調査が厳しいし、申請書類が複雑だし、恥の感情から申請をためらう。
戦前までの日本は、国民皆婚時代と呼ばれるほど、ほとんどの人が結婚した。しかし、1970年代半ばから婚姻率が7~8%と低下しはじめ、現代では5%にまでなっている。生涯に一度も結婚しない人(生涯未婚率)は戦前までは2%以下だった。ところが、1990年代に入ると5%をこえ、ここ15年のうちに5.5%から16.0%へと3倍も増えた。
お見合い結婚は、50年前には結婚全体の半数以上を占めていた。今では、1割にもみたない。結婚にあたって仲人を立てる人が激減し、1994年に63.9%だったのが、2005年には1.3%でしかない。結婚は、当事者同士だけのものとなっている。
私の住む町にも一人暮らしは多く、同じ団地内には数多くの人が一人で生活しています。老後を安心して生活できる社会環境にない日本って、本当に残念です。そして、その解決には消費税を増税するしかないという議論があまりにも多すぎます。消費税を増税しても法人税減税の穴埋めにつかってきた事実があるわけですから、ごまかしはやめてほしいと思います。いろいろ考えさせてくれる本でした。
 
(2010年2月刊。1600円+税)

室町幕府論

カテゴリー:日本史(戦国)

著者  早島 大祐、    出版  講談社選書メチエ
 この本を読むと、本を読み続けることの大切さを改めて認識させられます。というのも、たとえば足利義満は日本国王に取って代わろうとしたという(王権簒奪論と呼ばれる)学説が有力だと私は思っていました。ところが、この本によると、この王権簒奪説は現在では成立しない学説だというのです。
 足利義満が国内的に日本国王号を使用した形跡はない。当時の幕閣たちのあいだで、明(中国)に臣下の礼をとる日本国王号には反発が強かった。そして、日本国王号は九州方面の戦略上の必要に過ぎなかった。
 足利義満は、どのような手段を用いても明との交易を行いたかった。通交の名義は明側の要請に応えただけであって、義満はあくまでそれに合うように行動したに過ぎなかった。明と貿易さえ出来れば、「征夷将軍」でも「日本国王」でもなんでもよかった。足利義満は天皇になろうとしたわけではなく、また日本国王として権力を行使しようともしていなかった。
足利義満の権力を日本国王と表現するのは、果たして妥当かという根本的な批判が加えられている。明から与えられた日本国王号が内政に直接影響を与えたとは言えないというのが今の学会の共通理解である。なーるほど、そうなのか・・・と思いました。
  遺明船のもたらした財貨はきわめて莫大であった。それによって義満は京都に七重塔という100メートルを超える塔を建てた。応永6年1399年のこと。義満の建てた相国寺大塔は、天下を象徴する塔であると当時、認識されていた。
 義満は、大胆さと繊細さを兼ね備えた人柄であった。応永14年に明からの使節がやって来たとき、義満は唐人の装束で使節を歓待した。義満は当時の規範から自由に、自分がふさわしいと思うかたちで衣装を選んでいた。
 大塔や北山第の造営にみられるように、義満の権力は、まことにスケールの大きいものだった。北山殿として、過去のあらゆる院を超えた権力を手中にした義満であったが、その築き上げたものは、息子義持によって、ばっさり仕分けられてしまった。完成間近だった再建・大塔は、放置され、明との通交も停止された。
 室町幕府を考え直すことの出来る本でした。
  
(2010年12月刊。1800円+税)

単身急増社会の衝撃

カテゴリー:社会

著者  藤森 克彦、  出版  日本経済新聞出版社
 高齢かつ単身で生活する人が急増しています。日本は世界のなかでも、飛びぬけて多いようです。これって、なかなか深刻な問題です。国がきちんとした対策を立てるべきだと私は思います。だって、一人暮らしは病気になったりしたら、とても大変なことになるんですよね。
 50代・60代男性のおおむね4人に1人が一人暮らしになる。これが20年後の日本の姿だ。すでに、この20年間で単身世帯数が3倍以上に増えた。高齢者で単身世帯が増えたのは、長寿化による高齢者人口の増加と、結婚した子どもが老親と同居しなくなったことが大きな原因だ。50代と60代の男性で単身世帯が増加したのは、これらの年齢階層の人口増加に加えて、未婚者が増えたのが大きな要因。
50歳までに結婚したことがない人の割合を生涯未婚率と呼ぶが、男性は1985年までは3%以下だったのが、2005年には16%となった。しかも、20年後には29%となると予測されている。同じく女性は23%。
 2007年、全国の150万人の生活保護受給者がいて、その半数以上(54%、81万人)を単身者が占めている。男性41万人、女性40万人である。60代と70代の単身男性の17%が生活保護受給者。50代でも10%。これは50代における単身者の貧困が深刻な状況にあることを示している。
2008年の全国の自殺者3万2千人のうち、50代が20%を占めている。そして、その8割が男性であり、その4割が経済生活問題を動機としている。
 国際的にみて、日本社会は「社会的孤立」が進んでいる。共同住宅に住む人は地域から孤立する傾向がある。日本では介護における家族の役割が大きい。欧米諸国では、公的な介護サービスに加えて、家族以外の人によるインフォーマル・ケアが活発で、それらが高齢単身者の生活を支えている。
 非正規労働者は賃金が安く、雇用も不安定である。だから、結婚を望んでも踏み切れない。これは本人の自助努力だけでは克服できない問題である。社会として、非正規雇用の問題を是正すべきなのである。
 日本社会は社会保障を充実させないと大変なことになるというのがよく分かる、とても実証的な本です。
(2010年9月刊。2200円+税)
 日曜日の午後から庭の手入れをしました。ジャーマンアイリスを少し植え替えてやったのです。本当は6月に花が咲き終わったころのほうがいいようですが、例年、今ごろ植え替えています。貴婦人のように艶やかな花弁と花色で楽しませてくれます。
 ポカポカ陽気だったので、朝は一分咲きだった桜(サクランボです。ソメイヨシノではありません。)の花が午後には四分咲きになりました。ジョウビタキも何してるのと寄ってきてくれました。
 いつもなら散歩の人が何人も何組も通って声をかけてくれるのですが、一人も通りません。静かすぎて不気味です。庭に出ているあいだ大変なことが起きているのかもしれないとだんだん不安になってきました。初めての体験です。
 あまりにも悲惨な映像なので、気分が悪くなって早々に寝ました。悪い夢を見た人も多いようです。被災者の皆様には、本当に心からお見舞い申し上げます。私も及ばずながら、いくらかお役に立てればと考えています。
 うぐいすが見事に歌ってくれた春の一日でした。

日露戦争を世界はどう報じたか

カテゴリー:日本史(明治)

著者  平間  洋一、   芙蓉書房出版 
 
 日露戦争について、世界がどう見ていたのかという面白い視点でとらえた珍しい本だと思いました。日露戦争の前、ロシアの新聞では極東の日本の珍しさについての報道が多く、遠い国であり、ロシアと利害関係が衝突するというイメージの記事はなかった。日本は韓国における今の利益を守ろうとしているだけで、それ以外のことは追及していない。ロシアとの摩擦は無意味だ、と伝えていた。その後も、ロシアのマスコミは、読者に、日本との戦争は起きないという希望的観測を流し続け、ヨーロッパからの日本が戦争を準備しているとの情報を否定していた。いよいよ情報が緊迫してくると、白人キリスト教の精神文化と異教徒の黄色い人種の精神文化とのすさまじい衝突に直面している。白色人種が勝利をおさめるだろうという記事がのった。開戦当初は、案外に日本兵士はよく整備され、勇ましく、毅然とした積極果敢な兵士であると評価する記事がのった。
 1904年6月、イギリスの『タイムズ』にレフ・トルストイが戦争を批判する文章を発表した。「戦争がまた起こった。何人もの無用無益なる疾苦、ここに再び人類の愚妄残忍また、ここに再び起きる」
 そして、日本でもトルストイの影響を受け、与謝野晶子が『明星』に「君、死にたまうことなかれ」を発表し、論争が起きた。与謝野晶子とトルストイが同じようなことを世間にアピールしていたとは知りませんでした。
 旅順が陥落したあと、バルチック艦隊の行動が新聞の注目をあびた。イギリスのある提督は、東郷とロジェストウェンスキーの戦いは日本が勝つ。艦船の数が多くとも、砲手の技量は日本兵のほうがロシア兵よりも優れているからだと、その理由を述べた。うへーっ、見る人は見ていたのですね・・・・。
 意外なことに、文豪のマクシム・ゴーリキーは、戦争の継続を支持した。しかし、それは、愛国主義の立場からではなく、国内の政治改革に役立つからというものだった。なるほど、そういう視点もあるわけですね。
中国では新聞社が壊滅状態だった。若い光緒帝の支持の下にすすめられていた戊戌維新は、かの西太后の弾圧によって失敗し、活気をみせていた新聞も、そのほとんどが閉鎖され、停刊に追い込まれた。1902年ころ、中国には、わずか20数社の新聞社しか残っていなかった。それも中国南部に集中し、北部中国には4~5社しか新聞社はなかった。4億人の人口を有する中国に20数社の新聞紙しかないことは、中国政府の言論に対する取り締まりの厳しさが反映している。いやはや、閉鎖的な言論統制は国の発展を妨げるのですね。
アメリカ国民は、日露戦争のあいだ、 日本が利他的な動機、つまり門戸開放原則を守るために戦っていると信じていた。だから、戦後の日本が満州利権を独占しようと動いていることを知ると、対日世論が悪化する一因となった。ふむふむ、イメージというのは騙し騙されやすいものなんですよね。
 開戦の前から黄禍論はヨーロッパのメディアをにぎわしていた。開戦と同時に、黄禍の脅威の主張がロシアだけでなく、フランスやドイツでも高まった。日露戦争において、日本はヨーロッパの当初の予想をこえて海陸で戦勝を続けた。このため、新たな黄色人種によるアジアの列強の登場を心配する声が増えていった。
 日露戦争を世界史のなかでとらえるうえで大いに目を開くことのできる本です。
(2010年5月刊。1900円+税)

スズメはなぜ人里が好きなのか

カテゴリー:生物

著者  大田 眞也、  出版  弦書房
 日本のスズメは、1990年ごろの半分以下、1960年代に比べると10分の1にまで減ってしまった。そうですよね、すごく減ってしまいましたね。我が家の庭のスズメも、軒下のスズメも、めっきり少なくなってしまいました。この本は身近な存在であるスズメをよくよく観察して、豊富な写真とあわせて、その生態が細かく紹介されています。
スズメは田んぼの稲などを食べる害鳥のように思われている。そのため、中国では文化大革命のときに、スズメを全国一斉に駆除した。その結果、中国の農村は百年来の大凶作に見舞われた。それというのも、スズメは春から初夏にかけて繁忙期には農作物の有害虫を大量に食べてくれている。そのおかげで、秋の実りも保証されている。だから、実りの時季だけをみて、有害鳥と決めつけて大量に駆除するのは愚かな行為でしかない。ふむふむ、スズメは益鳥でもあるのですね・・・。
スズメは雑食性であり、穀物だけでなく昆虫類も食べている。スズメは年に2回、ときに3回繁殖する。スズメの食性による農林業上の経済効果は計り知れない。
スズメが人里に住むのは、人間よりも怖いカラスやタカ、ハヤブサ、そしてモズなどのような天敵が多いため、苦肉の策として人の懐に飛び込んで、その威を借りて営巣している。つまり、人間を用心棒がわりに利用してヒナを育てている。だから、人の出入りが必要だし、それもなるだけ多いほうがいいのだ。
スズメは、一夫二妻も多く、雄は早く孵化したヒナを育てる。そこで母親のメスは、競争相手のメスの巣に入りこんで、盗み出しては壊滅的なダメージを与えようとする。これは、スズメの子殺しです。巣立ったスズメのヒナの4分の3は、1年以内に死んでいる。
スズメのオスは生まれ故郷に留まるのに対して、メスは生まれ故郷を離れて分散して繁殖する傾向がある。これによって、近親交配が避けられる。スズメのオスとメスの番関係は1年契約である。
スズメは野生では2~3年生き、上手に飼育すると10年以上も生きる。
スズメのルーツも人間と同じくアフリカにある。うへーっ、スズメってこんなところまで人間と似ているのですね。
身近なスズメの生態がよくよく観察されている面白い本です。それにしても夕方になると駅前の街路樹に無数のスズメが集まってうるさいのですが、いったい彼らは何を話しているのでしょうか・・・。スズメの会話を翻訳してくれたら、とても面白いと思いますよ。誰かやってくれませんかね。きっと他人が聞いたら何ともない他愛のない話で盛り上がっているだけなのでしょうね。
 
(2010年10月刊。1900円+税)
 
 大変な地震でした。被災者の皆様に対して心よりお見舞い申し上げます。地震そのものもすごい破壊力をもっていますが、津波の恐ろしさを映像を通じてまざまざと見せつけられました。家や車が怪獣映画のミニチュアセットのように押し流されていく様子に身震いしました。さらに、原子力発電所の安全神話がやっぱりあてにならなかったわけで、地震国日本に原発はふさわしくないと痛感します。
 被災者の皆様へ一刻も早く救援活動の手が届くことを祈念しています。
 庭にサクランボの花が咲きはじめました。

福岡県弁護士会 〒810-0044 福岡市中央区六本松4丁目2番5号 TEL:092-741-6416

Copyright©2011-2025 FukuokakenBengoshikai. All rights reserved.