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江戸絵画の不都合な真実

カテゴリー:日本史(江戸)

著者    狩野 博幸 、 出版   筑摩選書
 
 東洲斎写楽とは誰なのか、というテーマは永く論じられてきたわけですが、著者は、一刀両断、明快に断じます。今から30年も前に、俗称斉藤十郎兵衛、阿彼候の能役者(斉藤月岑(げっしん))である、としたものです。ですから、表現の自由はされているといっても、オランダ人説などが今もって登場するのをみて溜息さえ出ない、というのです。この点については、中野三敏著の『写楽、江戸人としての実像』(中公新書)が詳しいとしています。
 つまり、能役者の絵を描くのは、遊女を描くのとは違って、士分の者には許されないことだった。大名お抱えの能役者には非番の年があった。だから、士分の斉藤十郎兵衛は能役者をこっそり描くしかなかった。なーるほど、と思いました。
また、葛飾北斎が幕府の隠密だったどころか、逆に幕府から徹底的に弾圧されていた富士講に関係していたというのを初めて知りました。富士講というのは、富士山信仰から出てきた組織なのですが、幕末まで禁止され続けてきた宗派でした。
食行身禄(じきぎょうみろく)は、政治の無策に対して、自分の「食」を断つことで、異議申立した。食行身禄は、仏とは人間の思念が作ったもの、仏だけでなく神もまた一切は人間がつくりあげたものなのであると断言した。むむむ、すごいですね。
富士講は、富士信仰を指導した。江戸中に富士の五合目より上の形を模して築山をつくった。明治25年、富士講の一派(丸山講)だけで、137万9180人の信者がいた。
北斎は、そこに関わっていた。うへーっ、そうなんですか・・・。江戸のいたるところにミニ富士山があったと聞いていましたが、それには幕府への反抗、そして幕府による弾圧もあったのですね・・・。
若沖(じゃくちゅう)についても、町年寄として京都町奉行と果敢にたたかった側面が発掘され、紹介されています。絵だけでなく、実社会でも素晴らしく活躍した人だったのですね・・・。
英一蝶(はなぶさいっちょう)という画家が三宅島に流されたことは知っていましたが一蝶が幕府から厳しく弾圧されていた不受不施派のメンバーだったとは知りませんでした。不受不施派とは、異教の者からの布施は決して受け取らず、異教の者に対して布施もしないというもの。要するに、一蝶の信じた不受不施派は、禁教となったが、地下に潜行しただけで、教養は滅びることがなかった。
私と同世代の学者なんですが、団塊世代と容易にひとくくりするのに抵抗しています。私も、あまり世代論はしたくありません。
(2010年10月刊。1800円+税)

鞠智城を考える

カテゴリー:日本史

著者  笹山 晴生     、 出版  山川出版社   
 
 鞠智城とは、きくちじょうと読みます。熊本県の北部、菊池市にあります。昭和42年からの発掘調査によって、今では現地に八角形の鼓楼(ころう)が復元されているというのです。その写真を見て、ぜひ行ってみたいと思いました。
 校倉(あぜくら)造りの米倉や兵舎と推定されている大型の掘立柱建物も復元されています。55ヘクタールもある広大な城域です。
 663年、朝鮮の白村江(はくすきのえ)で、唐と新羅(しらぎ)の連合軍に敗れた倭(日本)は、唐と新羅の侵攻を恐れ、対馬や域に防人(さきもり)や烽(とぶひ)を置くとともに、亡命してきた百済(くだら)の人の技術者の指導のもとに、大野城や基肄(きい。佐賀県鳥栖)城などを築いて備えた。鞠智城も同じころ、百済人の指導のもとに築かれた城だと考えられる。
このころの情報伝達として、烽が各所に設置された。敵の襲来や外国使臣の到着などの情報を速報するための通信システム。664年(天智3年)防人とともに対馬・壱岐・筑紫に設置され、40里(18キロ)ごとに設置され、昼は煙、夜は火を上げて合図を送った。防人も同じく、対馬・壱岐・筑紫に置かれたが、3年交替で筑紫に2000人から
3000人がいたと思われる。
 白村江の戦いにおいて、唐軍は統制のとれた律令制にもとづく軍団であった。倭軍のほうは各地の地方豪族がそれぞれ率いる「国造軍」の集合体でしかなかった。
なんでこんな菊池市のような山中に城があるのか不思議に思っていました。だって、大宰府から徒歩だったら2日から3日はかかるでしょう・・・・。
 その答えの一つは、官道が通っていたということです。この鞠智城のすぐ近くを古代の官道が通っていました。もう一つは、唐と新羅の連合軍が有明海から上陸してきたときには、これくらい内陸部の方が守って戦いやすいと考えたというところです。いずれも、なるほどな、とは思いますが、大宰府の次が菊池市の城だという古代人の感覚がもう一つぴんときませんでした。いえ、こ
(2010年11月刊。1500円+税)

原発と地震

カテゴリー:社会

著者   新潟日報社特別取材班 、 出版   講談社
今からわずか4年前のことでしかありませんが、東日本大震災が起きた今では、なんだか古い過去の出来事のように思えてなりません。
2007年7月16日、中越沖地震によって東京電力の柏崎刈羽原子力発電所で動いていた原子炉が7基すべて緊急停止した。
原子炉は停止すれば安全というわけではない。炉水温度を百度以下に冷やして初めて安全が確保される。そうなんですね。今回の福島原発事故でも、この「百度以下」というのが容易に達成できずに推移しています。とても心配な事態です。
地震から5ヶ月たったころ、東京電力は新潟県に対して30億円もの寄付を申し出た。このお金で県民の感情を斉めようとしたわけですよね。でも今回は規模がケタ違いですから、こんな金額ではすみません。何兆円、何十兆円もの損害の補填が求められています。
この柏崎刈羽原発の建設用地の売買には、かの田中角栄が関わっていたようです。
1971年に、土地売却益の4億円が東京、目白の田中角栄邸に運んだことを認める証言を取材班は引き出しています。
「不毛」の砂丘地帯がお金にかわった代償が有力政治家の懐に入っていったというわけです。そして、そのツケを払わされたのは新潟県民でした。
現在の東電・清水正孝社長は、当時副社長でもあり、勝俣会長が社長でした。このコンビは、経費削減を優先して安全を無視したわけです。歴史に記録されるべき人名でしょう。なんといってもトップの責任は重大です。
班目春樹委員長が私と同世代だということも確認しました。原発の「安全神話」をふりまいてきた学者の一人のようですね。大学生のころはどんな考えだったのか知りたいものだと思いました。
原発は、今すぐ廃止の方向に動き出さないと日本全体が沈没してしまうのではありませんか。今なお原発にしがみつこうとしている人がいるのに驚くばかりです。
(2011年4月刊。1500円+税)

フェイスブック

カテゴリー:アメリカ

著者    デビット・カークパトリック 、 出版   日経BP社
 
 エジプトをはじめとするアフリカ北部の民衆の立ち上がりはフェイスブックを手段としていると報じられています。実名で交流するソーシャルネットワークが民衆をつなぐ武器となっていることに驚かされます。
 この本は、そのフェイスブックを立ち上げ、今や26歳の若さで世界的大富豪となったマーク・ザッカーバーグを主人公としています。天才のようです。ザッカーバーグは、高校で数学、天文学、物理、古典で優等をとっていた。フェンシングチームのキャプテンでもあった。語学はフランス語、フブライ語、ラテン語、古典ギリシャ語が流暢に読み書きできる。父親は歯科医、母親は精神科医。ユダヤ人である。うひゃあ、すごいですね。信じられません。
 フェイスブックは実在する個人のアイデンティティにもとづいたネットワークである。フェイスブックのユーザーには1人あたり平均130人の友だちがいる。友だち数の上限は5000人となっている。
 フェイスブックは、グーグルに次いで世界で2番目に訪問者の多いサイトだ。5億人のアクティブ・ユーザーがいる。これは全世界のインターネット・ユーザー17億人の20%をこえる。アメリカのフェイスブックのユーザーは1億8千万人、全人口の3割以上。
カリフォルニア州に本拠を置くフェイスブックは、1400人の社員を擁し、2010年の売上高は10億ドルを超えた。
 20歳のザッカーバーグはCEOとして、断固たる決意と優れた戦略的見通し、そして少なからず幸運に助けられて、フェイスブック社の財政的支配権を完璧に握っている。ザッカーバーグは、何度となく巨額の買収申出を拒絶したのでした。
フェイスブックには毎月200億ものコンテンツが投稿される。フェイスブックはインターネット最大の写真共有サイトであり、他を大きく引き離す。ここには、毎月30枚の写真が投稿される。
ザッカーバーグは、同級生、同僚、友だちといった現実世界での知りあいとの交流を深め、スムーズにするためのツールになることを意図した。
 現実の世界で既に知りあいであるメンバー同士の情報共有のツールとして使われたとき、情緒的にも非常に強力な喚起力がある。だから、楽しみを支えることもあれば、苦痛を与えることもある。
 世界を見渡しても、これはもっともアメリカ製であることを感じさせないアメリカ製のサービスだ。
フェイスブックは75の言語で動作し、世界の人口の98%をカバーしている。フェイスブックは、市民と職員とのコミュニケーションを効果的にするツールとして規模の大小を問わず、多くの官庁に支持されてきた。
フェイスブックの社員の中核は20代である。平均年齢は31歳。会社の時価は3兆円とも4兆円とも言われ、ザッカーバーグの個人資産も6000億円を下らない。大変なIT長者です。
世の中が大きく動いていることを実感させられる本です。ちなみに私はフェイスブックを利用していませんし、今のところ利用するつもりはありません。しかし、いずれは私も利用せざるをえなくなるのでしょうか・・・?
(2011年2月刊。1800円+税)

原発と日本の未来

カテゴリー:社会

著者   吉岡 斉、 出版  岩波ブックレット
3.11の直前に発刊されたブックレットです。3.11のあとに出た二刷版には、次のような簡単ではありますが、恐るべき内容のコメントがついています。
この原発震災の処理には、原子炉の解体・撤去だけでなく、広大な汚染地帯の除染もふくめ、数十年の歳月と数十兆円の費用がかかるとみられる。これは原子力発電コストを2倍に押し上げる。そのうえ、数十万人の被曝要員が必要となるかもしれない。原発はクリーンだという言説はブラックジョークと化した。復旧のための人的・金銭的負担は子孫にも及ぶ。
うむむ、これって、まさしく「想定外」の見通しですよね。原発を推進してきた政府と自民党にはきちんと責任をとらせる必要があります。いえ、もちろん、東電をはじめとする電力会社の杜撰さを免責するつもりはありません。
原子力発電技術は、原子核分裂連鎖反応によって生ずる熱エネルギーで高温・高圧の水蒸気をつくり、それを蒸気タービンに吹きつけて回転させ、タービンと直結する発電機も動かす技術である。
原子力発電は大量の放射性物質を生み出す。それが事故や自然災害によって大量放出される危険は無視できない。
まさに、この危険から今回、現実化したわけです。そのうえ、破壊工作や武力攻撃などによって大量の放射能物質が飛散する危険もある。
アメリカがオサマ・ビン・ラディンを暗殺したことによって、一気にテロが拡大する危険が現実化しています。「フクシマの危機」を逆に利用しようとして世界各地の原発がテロの対象となったとき、この地球は大変な事態に突入します。報復の連鎖は地球の破滅を抱くだけなのです。
原子力発電は、他の発電手段とは質的に異なる巨大な破壊力を生み出す危険性をもっており、それは文明社会の許容限度を超えている。
ところが、日本政府は、原子力発電事業を長年にわたって偏愛し続け、過保護状態に置いてきた。それも、ただの過保護ではなく、巨大な破壊力を抱えるという重大な弱点をかかえる事業に対する過保護なのである。
原子力発電は、1980年代末から、20年以上にわたる停電状態を続けている。今や、事実上の新増設停止に近い状態となっていて、構造不況産業と化した。
1960年代から80年代までに建設された原子炉の老化が進行し、2010年代から廃炉ラッシュが始まっている。いま、アメリカに104基、フランスに58基、日本54基、ロシア27基、ドイツ17基となっている。建設中でみると、中国20基、ロシア10基、インド6基、韓国6基、日本3基である。ヨーロッパで建設中の原子炉はわずか2基のみ。フィンランドとフランスの各1基である。建設中のところは、いずれも順調に進んでおらず、建設費は当初予算の2倍にまで膨れあがっている。
日本の原子力政策の特徴は、官庁、電力業界、政治家、地方自治体有力者の四者による談合にもとづく政策決定の仕組みである。そこには、市場原理や競争原理が働く余地はない。
福島第一原子力発電所の深刻な状態が依然として続いているわけですが、それは原発が人類の容易にコントロールできる存在ではないことを如実に示しています。一刻も早く脱原発に踏み出すべきだと思います。
わずか60頁ほどの薄い冊子ですが、手軽に読めてわかりやすい解説でした。
(2010年10月刊。1800円+税)

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