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世界の少数民族文化図鑑

カテゴリー:人間

著者    ピアーズ・ギボン、 出版    柊風舎
 
 この地球上には、さまざまな文化を持って生活している少数民族が無数に存在していることを実感させてくれる大型の写真集です。少数民族といっても、合計すると1億5千万人だといいますから、決してちっぽけな存在というわけではありません。
 みんな違って、みんないい。
 金子みすずの詩が思い起こされます。
 結婚とは、両家族のメンバーに移動があることを公然と明らかにする儀礼のことである。そして、経済的な責任を必然的にともなう契約である。
お互いに惹かれあう大きなポイントは、健康的な赤ん坊をつくりたいという願望からきている。ヒップとウエストの比が平均で0.7というのは、つまり「砂時計のように腰のくびれた」女性の体形は、健康体であるとともに子どもを出産する能力の指標といえる。
 互いに一番よい組み合わせとなる遺伝子型をもつ相手、つまり遺伝学的に適合した相手を求める傾向がある。匂いは身体的な魅力に欠かせない要素である。人は、お互いに健康な子孫をもてそうな異性の匂いにのみ惹きつけられる。女性は、遺伝子的に自分と似ていない男性により強く惹かれる。そんな二人が結ばれると、免疫遺伝子の幅が広がり、健康な子孫を持つ可能性が高まる。逆に、よく似た匂いをもつ男女は、お互いに避ける傾向がある。なーるほど、そういうことも言えるのですね。
 ダウリ(持参金)は、しばしば娘の嫁ぎ先へ「支払うこと」と説明される。しかし、ダウリの恩恵を得ているのは当の娘であり、お金は彼女と彼女の新家族のものである。ダウリは息子ではなく娘の結婚に支払われるが、その理由の一つは、息子は遺産を相続するが、娘はその機会がないことにある。相続することのできない娘への賠償がダウリであると言える。ふむふむ、改めて認識しました。
 カラハリ砂漠のクンの女性は、ブッシュのなかで赤ん坊を産み、彼女1人が母親のみの付き添いで対処する。もし彼女が育てないと決めたら、赤ん坊は産まれてすぐ窒息死させられてしまう。これは罪とは見なされず、やむをえないことだと同情される。というのも、砂漠は人々に十分な食料をもたらさないので、余分の子どもを養うことはできないからだ。
 インド北部のヒンズー社会において、高位のカースト社会の妻は夫と離婚することはできない。彼女の献身のあかしは、夫が死んだとき、夫を火葬するために燃えさかる薪のなかに身を投げ出し、夫の遺体と一緒に荼毘に付されることである。ただし、妻を亡くした男は再婚が期待される。うへーっ、これって恐ろしいことですね。すぐにも止めさせなくてはいけませんよ・・・。
 アラスカのイヌイットの人にとって、離婚とは単に夫と妻がもはや一緒に暮らさないというだけのこと。結婚は永久的な結びつきではないので、離婚という概念すら必要ない。
カラハリ砂漠のクンは平和を好む人たちである。この首長の地位は、一般に父から息子へ継承されるが、父から娘へ受け継がれる場合がある。
クンは肉をバンド(集団)内で分配する習慣を忠実に守っている。しかし、その量は食料全体の摂取量の20%にすぎず、しかも、彼らが取り入れるタンパク質のほぼすべてである。食事は一人でとってならないという規則があり、複雑な分配の仕方をする。クンの食べ物の80%は野生植物からである。
いやはや地球は広いんですね。少数民族とその文化を知ることは、人間というものを知ることだとつくづく思いました。高価な本ですが、それだけの価値はあります。
(2011年2月刊。1300円+税)

マリー・アントワネットの宮廷画家

カテゴリー:ヨーロッパ

著者    石井 美樹子 、 出版   河出書房新社
フランス革命の前後を生き抜いた美人の女性画家の生涯を描いた本です。
マリー・アントワネットなど、ヨーロッパの貴人たちの肖像画を数多く描いた画家ですが、この本で紹介されている肖像画も本当によく出来ています。人間の気高さがにじみ出ている見事な肖像画です。美人とはいえ、家庭生活の方は必ずしも幸福一途ではなかったようです。なによりフランス大革命によって、身近な人々が次々にギロチン台へ送られていったとき、どんなにか心細かったことでしょう・・・。自画像を見ると、才能のほとばしりを感じさせる美女だと思わせます。
ルイ16世時代のフランスは、アメリカの独立戦争に肩入れして、軍隊を派遣し、フランスの国庫は破産寸前になった。1788年、つまりフランス大革命の前年には、債務の利息として支払う金額は国庫の42%にもはねあがった。国家破産の大きな理由のひとつは、貴族や聖職者が昔からの特権にしがみつき、税金の支払いを拒否していることにあった。国民は善良な国王を批判するのをためらい、外国人であるマリー・アントワネット王妃に非難の声を向けた。王妃のぜいたくだけで国家が財政難に陥るはずもないが、当時のフランスの国情はスケープゴート(犠牲者)を必要としていた。
マリー・アントワネットの肖像画を見ると、かなりの知性を感じさせる女性として描かれています。その境遇からは、決して庶民の気持ちを理解することはできなかったのでしょう。時代の哀れな犠牲者だったということなんでしょうか・・・。
画家はロシアのエカテリーナ女帝のところにも身を寄せます。
エカテリーナ女帝は若い男性しか相手にしなかった。それには理由があった。年配の愛人を持てば、愛人が女帝を支配しているという印象を世間に与えてしまう。女帝は誰にも支配者の侵害を許さなかった。身体は女性でも、支配者としては男であるとエカテリーナは常に主張した。
エカテリーナは啓蒙主義を信奉する君主として喧伝されたが、その思想には限界があり、農民一揆がうち続くと、反逆農民に対する残虐な報復を許した。エカテリーナは、ウィーンやベルリンに、国結してフランスの王政を復古しようと呼びかけたが、フランス人の亡命がロシアに流入すると、考えを変え、指一本あげようとはしなかった。
フランスの亡命貴族を助けると宣伝しながら、彼らのぜいたくな暮らしぶりを見て、援助する気持ちを失った。なーるほど、やっぱり支配者なんですね。
ルイーズ・ヴィジェ・ルブランは、ついに祖国フランスに戻ることができた。12年ぶりのころだった。そして、1842年、86歳でルイーズは永遠の眠りについた。
ぜひ一度、本物の肖像画を拝みたいと思いました。
(2011年2月刊。2400円+税)

長崎奉行のお献立

カテゴリー:日本史(江戸)

著者 江後 迪子     、 出版   吉川弘文館   
 
 江戸時代の長崎を中心とした食生活が紹介されている面白い本です。
 徳川幕府は長崎を直轄地とし、遠国(おんごく)奉行の一つとして長崎奉行は幕末まで常置された。長崎奉行の役割は、唐およびオランダとの貿易の管理、そしてキリスト教の浸透を監視するほか、市政や訴訟を担当した。長崎奉行は、はじめ一人制だったが、二人制、三人制そして元禄12年(1699年)からは四人制となった。この四人のうち二人は江戸詰だった。任期は決まっていないが、4年つとめた人が多い。
 長崎奉行は、役目から中国やオランダからの輸入品の中から希望の品を一定の額内で先買いすることが許されていて、それを京都や大阪で高く売って利益をあげることが出来たので、羨望の的だった。役料以外の副収入が他の遠国奉行に比べて多かったということである。内外の商人や近隣の諸藩からの贈物もあって、副収入のほうが多かった。
 丸ぼうろやかすていらが登場します。今も、長崎名物のしっぽく料理は中国渡来の食作法です。日本の様式は畳の上に、一の膳、二の膳、三の膳というように御膳で銘々に出されるもの。テーブルにたくさんの料理が並ぶのは、まったく新しいスタイルだった。江戸時代初期に長崎に来ていた唐人たちの多くは、祖国の混乱を避けて日本に永住帰化し、その子孫たちも日本社会に溶け込んでいった。この唐人たちは、キリスト教徒でなかったために、自由に町中に宿泊していたので、その風習は広く、深く、浸透していった。その後、密貿易が横行したため、元禄2年(1689年)に唐人屋敷が設けられて隔離された。そのとき5000人近くの唐人がいて、出島のオランダ商館ほどの厳しい管理はされていなかった。
 江戸末期までオランダ、中国から砂糖が輸入されていたので、長崎には砂糖が豊富にあった。国産の砂糖は八代将軍吉宗のころからで、砂糖は長崎街道に広まった。将軍家への献上物として、佐賀藩と福岡藩は氷砂糖を送った。
牛肉食は、蘭学者をはじめとする知識欲旺盛な人々によって広まっていった。豚肉が長崎土産として家臣に配られたという記録がある。豚や鶏は、オランダ商館や唐館で日常的に使われる食材だった。
てんぷらは一般的に普及しなかった。その理由は、明かりのための燈油としての油の需要のほうが大切だった。
かすてらは、天皇に出されるほど珍しい高級な菓子だった。かすてらが全国に広まったのは朝鮮通信使の餐応の影響が大きい。坂本龍馬もかすてらを長崎で食べていた。
 日本人が卵を食べるようになったのは、南蛮菓子かすてらやぼうろの影響が大きいとされている。寛永3年(1626年)、玉子ふわふわという料理が後水尾天皇に供された。
佐賀藩の殿様が参勤交代で出発するときの餞別に玉子80個が贈られたという記録がある。
江戸の食生活の実際を追究した貴重な本です。
(2011年2月刊。3000円+税)

韓国の徴兵制

カテゴリー:朝鮮・韓国

著者   康 熙奉   、 出版   双葉新書
私は日本に徴兵制がなくて良かったと心の底から思っています。それは何より憲法9条があるおかげです。青春まっただなかの貴重な2年間をあたら絶対服従、上命下服、暴力の横行する、合理的思考の通用しない組織の一員として毎日、人殺しの技術を叩きこまれ、殺人マシーンをつくり変えるなんて、とんでもない人生のロスではないでしょうか。
韓国の若者も除隊後、次のようにしんみりと語っています。
私たちは軍隊に行って、一日中、人をどう殺すかということを教えられる。どこをやれば致命傷になるか、そんなことをずっと学び続ける。これは、とても怖いことだ。自分も一発で殺されるおそれがあるわけだ。
次は別の若者の話です。
もう二度と行きたくない。軍隊で学ぶことは何一つなかった。だから、もう一度行けと言われたら、絶対に逃亡する。地の果てまでも逃げて、逃げて、逃げまくってやる。
さらに別の若者の感想です。
軍隊生活は思い出したくないほど厳しかった。とにかく上官からの体罰が厳しく、血を吐くほど殴られた。軍隊のなかで一生懸命に生きていこうとしているのに、なんで人間以下の扱いを受けなければならないのか。悩み、死にたいと思った。軍隊は自分には耐えがたい場所でとても我慢できないと絶望していた。
ところが、やがて部下をもてるようになると少し気持ちが変わってきた。殴られるだけでなく、自分が殴れる相手ができたら、平気で部下を殴るようになった。部下を殴ることに徐々に快感を覚えていった。軍隊では人を殴ることが平然と許される。人を殴る快感を一度覚えてしまうと、やみつきになる。
人生で一番大切な時期に2年間も軍隊で理不尽な経験をさせられるのは、その個人にとってのマイナスだけではなく、国家的なマイナスだ。つくづくそう思う。
まったく同感です。多感な創造力あふれる青年時代に理不尽な暴力で鋳型にはめ込むなんて、およそ人類の英知を奪う暴挙としか言いようがありません。
韓国でも徴兵制の期間が次第に短くなっているようです。アメリカではベトナム戦争当時は徴兵制でしたが、金持ちと権力者(有力者)の子弟は兵隊にとられることなく、万一とられても前線に送られることはほとんどありませんでした。今の韓国でも、かつてのアメリカのような脱け道があるようです。軍隊が必要悪として、その存在を認めたとしても、やっぱり志願制ではないと士気もあがらないのではないでしょうか。
(2011年2月刊。800円+税)

弁護士を生きるパートⅡ

カテゴリー:司法

著者    北海道弁護士会連合会 、 出版   民事法研究会
お待たせしました。弁護士を生きるパートⅠは福岡県弁護士会の編集によるものですが、今度のパートⅡは北海道の弁護士たちが登場します。南と北が出そろいましたので、次は中部か近畿あたりがいいですね。
北海道だけあって、南の九州ではとても考えられない弁護士像も紹介されています。
まず、トップバッターは、半農半弁で暮らす女性弁護士です。大阪から移り住み、馬を飼って乗馬を楽しんでいる弁護士がいることは知っていましたが、新聞記者をやめて農業で生きる決意した夫とともに北海道に移り住み、1年の半分だけ弁護士として活動している女性の弁護士がいるなんて、驚きました。しかも、さすが北海道の冬は厳しくて農作業が出来ないため、弁護士業務は11月から雪の溶ける4月までの半年間のみ、5月から10月までは弁護士業務をほとんどお休みしているというのです。依頼者にも、そのことをあらかじめ了解してもらって受任しているそうです。だから、法律事務所の看板も依頼者にしかわからないほど小さい。なーるほど、ですね。ただし、「のんびりした半農半弁生活」とはまったくかけ離れていて、気軽に進める気にはなれないとのこと。まあ、それでも、広い北海道の大地の一角で有機栽培に挑戦し、ファームレストランを維持するとは、たいしたものです。
二番手に登場してくる佐々木秀典弁護士は私が駆け出しの弁護士のころに東京で青法協の議長として活躍していました。故郷の旭川に戻って自民党代議士だった父親の後を継いで社会党の代議士になり、国会でも活躍しました。金大中氏が韓国のKCIAに東京から拉致されて殺害されようとしたとき、人身保護法による救済を東京地裁に申立したとのこと。最高裁は同法22条による自主処理権限で韓国大使館に金大中氏の存否を照会する処置をとった。このことは、アメリカの圧力とあわせて金大中氏の生命を救ったのです。のちに大統領になった金大中氏からとても感謝されたというのも当然ですね。
三番手の中村元弥弁護士は元裁判官。『こんな日弁連にだれがした?』という本を意識して、「左翼系」ではない元「世間知らずの判事補」として司法の現状を批判的に解説しているのも面白いところです。私自身は、そもそも「左翼系」とかというレッテルを貼って弁護士会を面白おかしく書こうとする『こんな・・・』の視点自体が根本的な弱点をもっていると考えています。
以下、いろんな分野における弁護士の活動が紹介されているのですが、福岡とは違って本人の書きおろしのため、学術的かもしれませんが、読みものとしての面白さに欠けるという難点があります。やはり、福岡のように本人に若手弁護士の前で語らせ、その面白さをキープしつつ、編集者のコンセプトをふまえて本人が手を入れていくという作業にしたら、もっと読みやすい本になったのではないかと思いました。
(2011年3月刊。2200円+税)

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