法律相談センター検索 弁護士検索

自分を育てる読書のために

カテゴリー:社会

著者  脇 明子・小幡 章子 、 出版   岩波書店
 とてもいい本です。子どものころから本が大好き人間で、今や完全な活字中毒症の私にとって、読書ってこんなに大切なんだよと分かりやすく語り明かしてくれる、このような本は涙があふれ出てくるくらいに嬉しい本なのです。
 中学校の図書室で司書として子どもたちに、本を読む楽しさを伝える実践に明け暮れていた日々が語られています。子どもたちの反応が面白いのです。司書として著者は、あの手この手を駆使します。それによって一度、いったん目を開けた子どもたちは大作に挑戦していきます。私も上下2巻とか、5巻本というのは怖くありません。600頁もある本だって平気です。
 子どもが本を読んだら、どんないいことがあるか、と問いかける。その答えは・・・。
第一に、想像力が伸びる。第二に、記憶力だって伸びる。そして、第三に、考えるヒントがもらえる。
子どもたちは、大人から本を読みなさいといわれ続けているけれど、なぜ読まなくてはならないのかについて、納得できる説明をもらっていないことが多い。
 読書から得られるアドバイスのありがたさは、それを無視して失敗しても「だから言ったでしょ」とは決して言われないこと。どの物語のどのアドバイスに従おうと従うまいと、本は知らん顔で、何も言いはしない。
 そうなんですよね。でも、ともかく、本は想像力を豊かにしてくれます。映画はビジュアルにしてくれますが、本の想像力にはかないません。なにしろ、頭の中は縦横無尽。なんの制約もないのですから・・・。
 子どもたちが本を読まなくなった。そして、せいぜいケータイ小説に夢中になっている。
 しかし、本来なら、小学生・高校生から大学生にかけての時期こそが本を読むのを大切にしてほしい時期なのだ。思春期にあたるこの時期は、嵐の海を渡るように危なっかしいものであるにもかかわらず、大人からの直接的な手助けが受けにくくなるのが普通だから。
 私は小学生のころは偉人伝を読みふけっていました。リンカーン伝とか野口英世伝です。中学校のときも図書室にはよく行って山岡壮八の「徳川家康」を読了したことを今でも覚えています。高校生になると、図書室に入り浸りで、古典文学体系で日本の古典を原典で読んでいました。もちろん注釈付きの本ですが・・・。世界文学全集にも手を出して、世界を広げました。ヘルマン・ヘッセの「車輪の下」とか、読みましたよ。
今の子どもたちは、お互いに顔色をうかがって言いたいことも言えずにいる。そして、他人(ひと)の気持ちを推し量るのが苦手な子が多い。だから、さんざん気をつかいあう割に、トラブルが絶えない。子どもたちの世界も大変のようです。
司書は一人一人の子どもの特性と好みをつかんだうえで、その子にあった本をすすめる。そのためには前提として本をよく読んでおかなくてはいけない。この本のなかで紹介されている本で、私が最近読んだものに、『トムは真夜中の庭で』というのがありました。不思議な小説で、結末を知りたくて最後まで読みました。『冒険者たち』も近いうちに再読しようと思っている本です。
 司法試験の勉強をしているときには、『天使で大地はいっぱいだ』という本を牛久保秀樹弁護士にすすめられて読みました。とげとげしくなった心がほんわか温まった記憶があります。
いい本は、本当にいいものですよね。こんな司書のいる中学校の生徒たちは幸せです。豊かな人生が楽しめるはずですからね。
(2011年6月刊。1700円+税)

警察の条件

カテゴリー:警察

著者  佐々木 譲  、 出版 新潮社   
 警察小説シリーズです。今回は読んでいると、『新宿鮫』を髣髴とさせました。ハード・ボイルド調なのです。私の好みは前作「警官の血」です。警官三代の生き様を描いていて、世相もよく反映した迫真のストーリーには息を呑みました。
 潜入捜査員が登場します。まさに生命かけの仕事ですよね。耳が柔道によるタコが出来ているのを見られて警察官と見破られたという話を読んだことがあります。警察官が柔道場でいつも練習していることで出来る耳のタコなのです。たしかに暴力団員には少ないのでしょうね。
 刑務所は、暴力団にとって重要な会社説明会の場だ。懲役刑を受けた暴力団員は刑務所内で、どれほど稼ぎがよいか、どれほど派手で華やかな生活をしてきたかを、おおげさに吹聴する。一日にどれだけ遊びに使ったか、どれほど女にもてたか、どれほど快楽ざんまいの日々を過ごしてきたかを自慢する。
 そして、これぞと思う囚人に、出所後は面倒を見るぞと声をかける。収監者の中には、ならば自分も暴力団員として生きようと決める者が必ず出てくる。暴力団員としての「資格保証」は国家がやってくれている。暴力団の側も安心して使うことができる。
 ましてや組が解散して行きどころのないような暴力団員は大歓迎だ。いきなり戦力になる。この業界でも、身元のしっかりした経験者は優遇されるのだ。
 そうなんですよね。刑務所の中では悪の道へますます深まっていく危険があります。決して単純に更生の機会が保障されているというものではありません。
 多くの暴力団は、覚せい剤の売買を構成員に禁じている。しかし、巨大な利益を生むビジネスであり、シマの中で素人や外国人の好き放題にさせるほど、どの組も甘くはない。準構成員にやらせて、その後ろ楯になる。上がりを組として吸い上げる。こんなシステムをつくっている。
 覚せい剤事件を国選弁護でよく担当しますが、いつも末端の売人か使用した人間のみが被告人となります。上層部のほうを担当したことは、自慢じゃありませんが、一度もありません。
この本には不祥事を起こした幹部警察官がやがて現職当時の地位のまま復職するという場面が出てきます。たしかに、現実にもそんなことがあったように思います。それでも、それってなんだか割り切れない疑問を感じます。
 それにしても、現場の警察官は毎日大変なんだなあと概嘆してしまいました。
(2011年9月刊。1900円+税)

天空の帝国、インカ

カテゴリー:アメリカ

著者  山本紀夫  、 出版  PHP新書   
 いま、日本人が一番行きたい世界遺産として、マチュ・ピチュ遺跡をふくむインカ帝国がある。
 本当にそうですよね。私も行きたいと思いますが、高山病そして言葉、なによりその遠さに怖じ気づいてしまいます。先日は、大雨で土砂崩れが起きて途中の列車が不通になりましたよね・・・。ですから、私は、本と写真でガマンするつもりです。
 マチュ・ピチュの発見は1911年のこと。いまからちょうど100年前だ。
 マチュ・ピチュは第9代インカ王のパチャクティの私領(郊外の王宮)であることが分かっている。そこに居住していたのは、せいぜい750人ほど。インカ帝国が栄えていたのは、日本でいうと室町時代。インカ帝国はアンデス文明を代表するが、その最盛期は15世紀からわずか100年ほどでしかない。
 アンデス高地の住人は低地に行くのを好まない。低地には蚊がいるし、蛇もいる。肉などの食べ物もすぐに腐り、ハエがいてウジがわく。それにひきかえ、高地は健康地だ。
 インカ帝国にとってきわめて重要な作物が二つある。その一つはトウガラシであり、もう一つはコカである。インカ時代、コカは生産も消費も国家がコントロールしていた。
ジャガイモの起源地はチチカカ湖畔を中心とする中央アンデス高地である。
 インカ時代、トウモロコシは酒をつくる材料として大量に利用されていた。
インカ時代、灌漑技術はすすんでいた。それにスペイン人は驚いていた。そして、インカでは大規模に階段耕作していた。
インカ帝国の生活を大いにしのぶことができる本でした。
 それにしても、もっと近ければ、ぜひ行ってみたいところですよね。
(2011年7月刊。720円+税)

橋下主義を許すな

カテゴリー:社会

著者  内田樹・香山リカほか  、 出版 ビジネス社   
 「今の日本の政治で一番重要なのは独裁」
 「政治家を志すっちゅうのは、権力欲、名誉欲の最高峰だよ」
 「ウソをつけない奴は政治家と弁護士にはなれないよ。ウソつきは政治家と弁護士の始まりなの」
 「生まれたての赤ちゃんから大人になるまで、教育は強制そのもの」
 「日本再生の切り札じゃないか。カジノ、これしかない」
 「小さな頃からギャンブルをしっかり積み重ねて、全国民を勝負師にする」
 これらすべてが橋下徹語録です。恐ろしいことに、こんな馬鹿げた言い分を20代、30代の若者が喝采しているのです。ウソつきは弁護士の始まりだなんて、とんでもないことです。自分はウソばっかりついて弁護士をやっていたのでしょうが、自分の体験を一般化してほしくはありません。
若者にうけている背景には、閉塞した社会を生きる市民のやり場のない不平不満のたまりにたまった蓄積がある。
 まことにそのとおりなんだと思います。
今という時代は、政治変革のあとの幻滅にみんなが浸っている状況である。所詮、民主政治とは、幻滅と希望の繰り返しである。
 あなたのウップンを晴らしますよというウップン晴らしの専門家に任せてしまって自分たちで考えることをしないと、もっと大きな問題を作りだすことになる。 
橋下は議論を否定している。ハシズムは政治の否定である。橋下は、人間をバラバラに分断して、個人個人で責任をとれ、個人でがんばれという渦の中に放り込もうとしている。
 橋下徹のやり方は、軍隊的官僚主義と能天気きわまりない単純な市場競争主義の混合物である。新自由主義でありながら、軍隊式である。
極端が極論のまま暴走して、そこに人々がスリルと魅力を感じている。どちらに行くのか分からない独裁をあえて作り出して、面白がっているのが橋下の政治である。
橋下は活字での発言はしない。それで、人々を瞬間芸の世界に巻き込む。その場その場で、一貫性がない、橋下は手を変え、品を変え、いろいろ皆の目をそらしながら、見世物をやってきた。
 子どもは商品じゃないし、人材でもない、彼らは次代の我々の共同体のメンバーなのである。
橋下の提唱する教育基本条例は根本的に間違っていますよね。ところが、それに手を叩く若者が少なくないところに今日の社会の異常さがあります。橋下が大声で叫べば皆が目をそむける。そんなあたりまえの大阪であってほしいと心から願っています。いま
貴重な一冊です。ぜひ、とりわけ大阪の人々に読んでほしいと思います。
(2011年11月刊。800円+税)

隠れた脳

カテゴリー:人間

著者  シャンカール、ヴェダンタム  、 出版  インターシフト   
 隠れたところで人に影響を与える力を隠れた脳という。隠れた脳とは、気付かないうちに私たち人間の行動を操るさまざま力のこと。隠れた脳の大半は、自覚の及ばないところにある。脳の活動のなかに意識的に気付かないものがあることは、科学者のあいだでは昔から知られていた。
意識的な脳は、ゆっくり慎重に作業する。教科書を読んで理解し、ルールや例外を学ぶ。隠れた脳はすばやく推論し、即座に順応するようにできている。隠れた脳は、正確さよりもスピードを重視する。
 無意識のバイアスは毎日の生活の隅々にまで入りこんでいる。たとえば、人は賛同できる話を聞いたときには、すぐに、しかも情熱的に反応する。賛同できないときは反応がほんの少し遅れる。それは、隠れた脳が話の行き詰まるのを予測して、衝突を前に身構えるからだ。
あなたの隠れた脳は、単独で働いているのではなく、他人の隠れた脳とネットワークを築いている。
 近い関係にある人間同士だと、嫉妬心から強くなる。
 隠れた脳は、他の物体より人の顔を好んで認識するようにつくられている。
なぜ、人は災害時に反応を誤るのか?
 9.11のとき、WTCで88階にいた人は助かって、89階の人は助からなかった。なぜか?
 人が決断するとき、ふだんなら個人の性格やモチベーションがそこに反映される。しかし、集団でいるときに災害にあうと、個人の意思よりも集団自体の行動のほうが決定要因になることが多い。隠れた脳の奥底で起こって実際の行動を左右したのは、その人が属していた集団の大きさだった。大きな集団ほど、脱出するのに時間がかかる。思いがけない災害にあったとき、人は無意識のうちに周囲の人との合意を求める。そして集団は共通の物語。つまり何か起こっているのか誰もが理解できる説明をつくりあげようとする。集団が大きいほど、同意が成立するまでに時間がかかる。
 現実には、人間は自分を傷つけ、全体の生存可能性を減らしても、お互いを助け合うことがある。
 ヒロイズムは、危機に際して個人の利益より集団の利益を重視する。隠れた脳が生み出す無意識の問題解決法である。
 重大な危機に陥ったとき、隠れた脳がその力を発揮して、何が起こっているのか、まわりの人たちと共通の理解を得たいという強烈な願望が生まれる。集団の同意があれば安心できる。進化の歴史をみると、集団でいる方が安全を保たれる。警報が鳴ると不安が引き起こされ、集団を頼るよう隠れた脳が指令する。それは、祖先の時代から集団でいたほうが危険にさらされる可能性が低く、安心と安全が手に入りやすかったからだ。
 なーるほど、ですね。
 かなりの数のテロリストは裕福な特権階級の出身だ。大学を卒業し、医師、エンジニア、建築家といった専門職についてる。自爆テロの犯人(テロリスト)は異常心理をもつ操り人形であるとか、虚無主義だという調査結果はない。むしろ、その集団の中の他の仲間より理想主義的な思想をもっていた。洗脳されて、命令に従うだけの愚か者ではない。
 自爆テロリストたちは異常者ではない。ごくふつうの人が自爆テロリストになる可能性がある。自爆テロリストは死を強制されたとはほとんど感じていない。
 自爆テロリストは、入るのがきわめて難しい、排他的なクラブに所属している。その排他性こそが、クラブの大きな魅力なのだ。自分がやろうとしていることをビデオの前で誇らしげに語り、仲間らか称賛の言葉を浴びて心理的な報酬を受けたあとでは、その使命を成し遂げられなければ、自分の人生を意義深いものにする要素を失うことになる。
 隠れた脳は、周囲からの承認と行動の意義を求める。そして、小さな集団には、そのような承認と意義を与える力がある。 自分より大きいものの一部になりたい、自分が特別な存在だと思いたい、その存続と安定が自分の命より大切な集団の一部になりたいという衝動だ。
 人は大きな数字の扱いが苦手である。人間の想像力をかきたて、同上を引き出すのは、一つの顔、一つの名前、一つのライフストーリーである。1匹の犬を救助するために大金を出しても、12匹の犬を救うためにはお金を出し惜しみする。これを望遠鏡効果という。これは、仲間や親戚を優先的に好むように進化したために生じたものだ。
隠れた脳を知らなければ人間を知ったことにはならないのだと実感し確信しました。刺激にみちた素晴らしい内容の本でした。
(2011年9月刊。1600円+税)

福岡県弁護士会 〒810-0044 福岡市中央区六本松4丁目2番5号 TEL:092-741-6416

Copyright©2011-2025 FukuokakenBengoshikai. All rights reserved.