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3.11 メルトダウン

カテゴリー:社会

著者   日本ビジュアル・ジャーナリスト協会 、 出版   凱風社
  3月11日の直後からの写真が紹介されている貴重な写真集です。
 3月12日とか14日の写真もありますので、遺体が路上で収容されるのを待っている状況も撮られています。そして吹雪のなかを人々が食料や水を求めて歩いています。ガソリンがないため車が走れないのです。少し落ち着くと、仮埋葬(土葬)され、お寺に真新しい骨壺が並びます。
 全校生徒108人のうち68人が死亡、6人が行方不明になった大川小学校では、児童がつかっていたランドセルやカバンが大量に並べられています。見るだけで涙がにじみ出てくる情景です。
 そして原発事故。4月1日に浪江町で撮られた写真には、1ヵ月近くも捜索されず放置されていた遺体の一部(男性の足)が写っていました。なにしろ、ここは原発から20キロ圏内なのです。無人となった浪江町を牛たち、豚たちの群れが歩いています。牛舎のなかには餓死寸前の牛がいて、モオーッと叫ぶ姿が写し出されて哀れを誘います。
 なにしろ20マイクロシーベルトという高濃度なのです。見えない放射能の恐ろしさが伝わってきます。
 目を背けたくなる、でも、見なければいけない貴重な写真集です。
(2011年7月刊。1800円+税)
同窓会の最後の話です。
 大学2年生のとき、6月が東大闘争が始まりました。クラスのなかにもセクトの対立抗争が持ち込まれました。私のクラスでは全共闘のほうが多かったと思います。メンバーというよりシンパ層が多いということですが、アクティブなメンバーが何人もいました。
 あらかじめ東大闘争のころの写真をメールで送っていたのですが、それに言及する人はほとんどいませんでした。当時の対立抗争を語るのはまだタブーのようで、幹事から、たびたび今日はその話はしないようにと制止の声が飛んでいました。
 それでも、私の本(『清冽の炎』1~5巻。花伝社)をネットで探して1万円で買って読んでいるという人もいました。
 学生時代に何をしていたのか、それがどうつながっているのかは、みんな知りたいことですよね。あの東大闘争を歴史の闇に埋もれさせたくはありません。
 私のブログを見てくれている人もいました。あれだけ大量の本を読んで、本当に理解しているのかと訊かれて、一瞬、答えに詰まりました。まあ、この書評を書けるくらいは理解しているということなんですが・・・。

森の奥の巨神たち

カテゴリー:生物

著者   鈴木 直樹 、 出版   角川学芸出版
 タイの森に棲むアジアゾウの生態がロボットカメラも駆使して、よく撮られています。
 象って、家族愛がすごいんですね。みんなで赤ちゃん象を守り育てていくのです。17歳になったらオスの象は一人立ちします。自由気ままな一人暮らしを楽しむのです。でも、一人立ちしてすぐのころには、元いた母親の群れに戻って甘えることもあるといいますから、まるで人間と同じだなと、つい苦笑いしていました。
 著者によると、動物園で飼われている象と野生の象とでは、まったく別の生き物といってよいほど違う存在だということです。飼われている象は、本来持っている機能、能力、知識のかなりの部分を失っているということです。
 象を森の中に追いかけているうちに、彼らの持っている、人間ですら共感できるほどにはっきりした誇りや意思、さらには細やかな愛情に接することができた。
 象は、まったく人を恐れない動物である。象は、遠い昔から人間のやることをずっとみてきていて、その力を見切っているようである。親から子どもへ、「人間って、たいしたことない」というのを知識として教えている節がある。
 子象の写真がたくさんあります。ほのぼのとした光景です。子象が母親に甘え、子象がイタズラをして大人象たちから叱られているとしか思えない写真まであります。子象たち同士も仲良しで、一緒に遊びます。
 ロボットカメラを使って、人間では撮れない貴重な場面がいくつもある、楽しい象の写真集です。
(2011年10月刊。3200円+税)
同窓会の話の続きです。
私のクラスでは法曹界にすすんだのが私一人だけなのです。珍しいと思います。ちなみに駒場寮の6人部屋からは3人が法曹界にすすみました(私のほかは裁判官2人です)。
銀行員商社マンになった人が多数でした。長い人で累計21年、短い人でも6年くらい海外にいましたということでした。20年も海外にいて、日本のことがよく分からなくなったといいますが、そのとおりだろうなと思いました。団塊世代は、世代の人数比の割には社長が少ないとよく言われます。社長は50代前半ということが大会社でも珍しくはありません。今回は欠席でしたが、一人だけ大会社の現役の社長をつとめています。もう長いよね?と訊くと、いやまだ3年だよ、大会社の場合、社長は6年くらいはやるものだからというコメントが返ってきました。
参加者に現役の社長が何人もいました。大手商社から独立して社長になったり、子会社に移って社長になったりした人たちです。さすがに社長の貫禄がありました。それでも、副社長のときは気楽だったのに、社長となると大変だとこぼしていました。なるほど、そうなんでしょうね。(続く)

沖縄と米軍基地

カテゴリー:社会

著者    前泊 博盛 、 出版   角川ワンテーマ21
 日本人が全体として真剣に考えるべきテーマだと改めて感じ入りました。沖縄におけるアメリカ軍基地の問題は決して沖縄という一地方のものではなく、日本という国はどういう存在なのかを考え直させるものなのです。本当のことなど知らないほうが良いし知ったところでどうなるものでもない。多くの日本人がそんな気持ちになっているのが「日米安保」と沖縄のアメリカ軍基地問題ではんないか。まことにそのとおりだと私も思います。
 アメリカの国防長官は、普天間にあるアメリカ軍の飛行場を視察したあと「こんなところで事故が起きないほうが不思議だ。ここは世界一危険な飛行場だ」と言った。そうなんですよね。ところが、自民党政権そして今の民主党政権も、そのことを表明しないのです。なんという薄っぺらな「愛国心」でしょうか。日本人の生命・身体そして領土の安全を守る気概がまったく感じられません。
沖縄で起きたアメリカ軍の航空機事故(450件)の19%を「普天間」が占めている。アメリカ軍機の事故発生率は、民間機の80倍となっている。海兵隊の事故発生率は4.55。これは陸軍1.98、空軍1.64、海軍2.55に比べて、ずば抜けて高い。アメリカ軍の基地を移転・建設するために反対運動をしている住民が機動隊などと激突して血を流せば、いったい「日米安保なるものは何らか何を守っているのか」という根本的な疑問に日本政府は答えられなくなる。
アメリカ軍がすすめようとしている再編・変革の狙いの第一は、アメリカの国防予算の削減である。そして、アメリカ軍と自衛隊を融合させ、自衛隊を後方支援部隊として強化、活用する方策を打ち出している。アメリカ軍を沖縄からグアム島に移転する費用のうち日本が負担しようとしている3兆円は、日本側が負担しなければならないという法的な根拠は何もない。
 うへーっ、恐れいりますね。3兆円もの巨額の税金を法的根拠もなく、アメリカ様に差し上げようというのですから、それこそ開いた口がふさがりません。
 東日本大震災で復興資金をどうやって捻出するのかという議論をしているのに、もう一方では気前よく3兆円もアメリカへくれてやるというのです。信じられない野放図さです。こんなことがまかり通るのなら、復興計画なんてやる気があるのか根本的な疑問を感じます。
 いま、日本の軍需産業の規模は2兆円。三菱重工、IHI、東芝、日立などで戦車などの軍事兵器を大量に生産している。
 このあたりがまったく報道されていませんよね。「死の商人」は日本にも存在しているのです。
 沖縄に大量に駐留しているアメリカ軍海兵隊について、アメリカ連邦議会(下院)の歳出委員会は次のように述べた。
 「アメリカが世界の警察だという見解は、冷戦の遺物であり、時代遅れだ。沖縄に海兵隊がいる必要はない」
 シンクタンクの所長も次のように断言する。
 「中国脅威編は、予算が欲しい国防総省のでっちあげ。沖縄に海兵隊は必要ない。アメリカ軍に普天間基地の代替施設なんか不要だ」
 さらに、この所長は日本人に疑問を投げかける。
 「沖縄では少女暴行事件のあともアメリカ兵による犯罪が繰り返されているが、アメリカはこの問題に本気で取り組もうとしていない。日本の政府や国民は、なぜそれを容認し、アメリカに寛大な態度を取り続けているのか。アメリカ軍基地は世界中に存在するが、こういう状況を容認しているのは日本だけなのだが・・・?」
 うむむ、ここまで言われてしまうと、私たち日本人って、いったい恥を知る民族だったはずなのですが、なんと答えたらよいのでしょうか・・・。
 さらに同所長は指摘しています。
 「中国に関するあらゆる情報を分析すると、中国は自ら戦争を起こす意思のないことが明らか。中国の脅威なるものは存在しない。それは、ペンタゴン(国防総省)や軍関係者などが年間1兆ドルにのぼる安全保障関連予算を正当化するために作り出したプロパンガンダにすぎない」
 軍需産業という利権の力に私たち日本人も目をくらまされているわけです。
 ところで、アメリカ軍がいるために沖縄経済は成り立っているという見解に対して鋭く反論しています。
 アメリカ軍基地オアシス論。基地がなくなったら、沖縄はイモとハダシの極貧生活に逆戻りするというものです。アメリカ軍基地は9000人の雇用を提供している。これは県庁職員を上回る。520億円の従業員所得をうみ出す。
 基地内外の4万人の住民は700億円の消費支出をうんでいる。そして、アメリカ軍の400億円もの財・サービスを県内企業が受注している。
 しかし、沖縄県の試算によると、アメリカ軍基地が撤去されると、莫大な経済効果をもたらすというのです。生産誘発額は209倍、雇用誘発者数は252倍。そして、これは、実はフィリピンで既に立証されていることである。
 なんだ、なんだ。アメリカ軍基地って百害あって一利なしという存在なんだ。このことを知って、これまで以上にアメリカ軍は沖縄だけでなく日本全土から出て行けと叫びたいと思いました。ご一読をおすすめします。実に充実したタイムリーな新書です。
(2011年9月刊。724円+税)

隠される原子力、核の真実

カテゴリー:社会

著者  小出裕章  、 出版  創史社   
 著者は私と同じ、団塊世代です。高校生のとき、茨城県東海村に商業用原子発電所「東海一号炉」が誕生し、原子力の開発に命をささげようと決意したのでした。
 そして、夢に燃えて東北大学工学部原子核工学科に入学。ところが、原子力を学びはじめてすぐに、その選択が間違っていたことを悟った。
 なぜ、電気を一番使う都会に原子力発電を建てないのか?
この疑問こそ、原発問題の本質を鋭く衝いたものです。京湾の埋立地「お台場」(かつての夢の島)に原発を作れるのに作らないはなぜなのか?
 その答えは、とても単純なもの。原発は都会では引き受けられない危険をかかえたものであるから・・・。
 「原発は安全」。国と原子力産業は、このように言い続けてきた。仮に作業員がどんなにミスをしても、原子力ではフール・プルーフ(誤っても安全性は確保)になっているので、安全だ。しかし、3.11は、そのことがまったくの嘘だということを明らかにした。
 放射線の被曝によるリスクは低線量にいたるまで直線的に存在し続け、しきい値はない。最小限の被曝であっても、人類に対して危険を及ぼす可能性がある。被曝量が少なければ安全だというのは根拠のない妄言である。
 日本がヒロシマ・ナガサキをかかえた被爆国であることは言うまでもない。しかし、アメリカはネバダの核実験場で核実験を繰り返し、周辺住民が被曝した。同じことはマーシャル諸島についても言える。さらに、旧ソ連のセミパラチンスクでも起きた。
 石油がいずれ枯渇するというが、実際には50年はとれる。少なくとも、予想可能な未来において化石燃料が枯渇しない。
 高速増殖炉は、技術的、社会的に抱える困難が多すぎる。一度は手を染めた世界の核開発先進国はすべて撤退してしまった。
 原子炉「もんじゅ」は1994年に始動した。しかし、17年たっても、今もって1キロワット時の発電すらしていない。すでに、この高速増殖炉には、1兆円もの巨額のお金を捨ててしまった。こんなでたらめな計画をつくった歴代の原子力委員会の委員は誰一人として責任をとらなかった。全員を刑務所に入れるべきだ。
「もんじゅ」を開発した技術者はすでに定年でいなくなった。15年も動かなかった機械を動かすなど、普通ではありえない。
 ところが、高速増殖炉を動かすことができれば、そこから核分裂性プルトニウムの割合が98%という超優秀な核兵器の材料が生み出される。政財界の一部が原発にこだわれるのは、核兵器の材料づくりという一面があるからだ。この意味でも原発は本当に怖いものです。
 原子力発電所は都会につくれない。そこで東京電力は自分の給電範囲内に原発をつくることができなかった。原発が絶対に安全だというのなら、大事故のときには国が援助するという原子力損害賠償法は不要だし、原発を都会につくることも出来た。
 標準の100万キロワットの原発は、1年間の運転で1000キロ、広島原爆に比べると  1000倍ものウランを燃やす。当然、燃えた分だけの死の灰ができる。
 原子力発電所は、正しく言うなら海温め装置である。というのも、300万キロワットのエネルギーを出して、200万キロワットは海を暖めている。残りのわずか3分の1を電気にしているだけ。メインの仕事は海温めである。100万キロワットの原発は、1秒間に70トンの海水の温度を7度も上げる。
 うひゃあ、すごい温度上昇です。これって海中の生物にいい影響を与えるはずはありませんよね。
 原発から出る使用済み核燃料は、100万年にわたって人間の生活環境から隔離しなければならない危険物である。しかし、100万年後の社会など、今の私たちに想像すらできない。
いまある国は日本をふくめてすべて消滅しているでしょうし、人類そのものが存在しているかというかだって分からないですよね。このことひとつとっても原発には反対せざるをえません。
(2011年6月刊。1400円+税)
 東京で40年ぶりに大学時代のクラスの同窓会があるというので、参加してきました。当日は20人が参加したのですが、実は顔に見覚えのある人は半分もいませんでした。私は学生時代、セツルメント活動に没頭していて、あまり真面目に授業に出ていませんでしたので、そのせいかと思うと、そうでもないことが分かりました。今は立派に会社社長をしている人が、大学ではほとんど授業に出ていなかったと告白する人が何人かいて、なるほど、それにしても原因なのかと思いました。
 今では、もっとも講義を受けておけば良かったものを反省しきりなのですが、そのころは生意気盛りでしたから、大学の講義なんて本を読めばカバーできるなんて、小馬鹿にしていたのです。いま思うと、顔から汗が吹き出しそうなほどの恥ずかしさを覚えます。
 クラス46人のうち、2人が亡くなっていて(うち1人は大学2年生のとき)、あとは健在なのですが、消息不明と言うか、応答拒否という人も何人かいて、全員の住所・氏名を完成させるのはなかなか困難だと幹事が報告していました。

(続く)

TPPの仮面を剥ぐ

カテゴリー:アメリカ

著者   ジェーン・ケルシー   、 出版   農文協  
 ニュージーランド・オーストラリアにTPPが導入されてどうなったのか、ニュージーランドの大学教授が怒りを込めて告発しています。
 TPPは通常の自由貿易交渉ではない。TPP交渉は例外的なものだ。自由な世界市場というものが馬鹿げたものであることを率直に非難してきた当の政治指導者によって、10年間でもっとも野心的な自由貿易のプロジェクトが促進され、矛盾がいっそう増加している。
 バラク・オバマは大統領になる前(2008年8月)、市場モデルの非人間性を次のようにこきおろした。
 「20年以上にわたって、共和党員はもっとも金持ちの人間にもっともっと与えよ、そして繁栄が他のあらゆる人々に滴り落ちることを期待しようという、古い、信用の失われた共和党の哲学に賛同してきた。あなたは自分自身に頼れ、という。健康保険がない?市場がそれを決める。自分のことは自分で。貧困に生まれた?たとえ頼るべきつまみ革がなくても、自分自身の努力によって脱出を図れ。自分で自分の失敗を背負うべきだ。我々がアメリカを変えるべきときだ。それが私がアメリカ大統領に立候補した理由だ」
 オバマは本当にいいことを言っていましたね。ところが、どうでしょう。大統領になったら、持てる「1%」の方にぐんぐんすり寄っていってしまった気がしてなりません。
 TPPには、たった一つ確実なことがある。アメリカの貿易戦略と交渉上の要求が、交渉の形態と最終的な合意の見通しを決定する。アメリカとの自由貿易交渉の歴史は次のことを明らかに示している。つまり、どんな美辞麗句を並べようとも、アメリカは交渉のなかでアメリカ市場を猛烈に保護する一方で、アメリカに対する譲歩を引き出す手段とみなしている。
 外国からの直接投資を利用した農産物輸出は、やり方が良くないと農村社会の荒廃を招き、農村の貧困と不平等を固定してしまう可能性がある。貧しい農民は農場を追われ、農場所有権の著しい集中を引き起こした。かつての小農地所有者たちは、地方に残って厳しい条件で働く新たな無産階級となったか、それとも都会に移住して、さらなる大きな苦労を負った。
 新たな輸出志向地域の経済基盤の変化は、しばしば単一栽培(モノカルチャー)の拡大を招き、経済的および環境的な危険と犠牲を伴った。
 オバマ政権がサービス輸出の3倍増を目ざしていることは、TPPに対する商業的アプローチを示唆している。アメリカが自由に対して残っている「障壁」を標的にしようと試みていることは、各国政府が時刻のもっともセンシティブなサービスを規制する権限を保護するような各種の壁を、将来的に除去するようにプレッシャーをかけてくるということ。
 TPPは、ほんの手始めに過ぎないだろう。これらの協定には約束を延長し、規則を見直すために契約前から定期的な交渉の新ラウンドが含まれるのが常である。それは、サービス市場を支配する大規模企業(有力なアメリカ企業)によって設計された、そのような企業のためのハイリスク戦略である。これは、民主的支配にとって受け入れがたいコストとなり、社会的な義務の合法的な追及を危うくする。
この本は、このようにTPPの危険性をニュージーランドなどで現実化した問題をふまえて実証的に鋭く告発している本です。とりあえず交渉の場にのぞみ、不利になったら撤退すればいいという考え方があります。しかし、これはごまかしですし、危険です。アメリカの言いなりになって良いことはひとつもありません。
(2011年11月刊。2600円+税)

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