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教育改革

カテゴリー:社会

著者   藤田 英典 、 出版   岩波新書
 1997年に初版が出ていますので、少し古くなっていますが、読んでみると内容的には古さをまったく感じさせません。
 教育の適切性を高度で先端的な知識技術に対応することに矮小化するのは誤りである。早い段階から専門分化したり、先端的な知識技能の教育を重視すると、それは「能力の浪費」を招きかねない。
 公立中高一貫校は、少数の公立エリート校をつくるだけになるか、学校序列・学校間格差を中学段階にまで拡大し、受験競争の低年齢化を招き、教育機会の階層差を拡大し、さらには、生徒にも学校にも、今以上に難しい課題を押しつけることになりかねない。弊害の方がメリットよりはるかに大きいと考えられる。
 たとえば、一度形成されたネガティブな評価や関係がずっと続く可能性がある。それは「十二歳・選抜」の問題を引き起こし、小学校の教育にまで受験競争の圧力をもち込み、もう一方で、現在、高校で見られるような序列や格差を中学校段階にまで拡大することになりかねない。
 日本の学校は、教師が一体となって生徒指導・生活指導にあたることを基本としてきた。もちろん、それがどの学校でもうまく機能してきたということではないが、教師集団の連携・協力と、個々の教師が生徒の生活全般にかかわることが、学校経営の基本、教師の仕事の基本とされてきた。
 こうした伝統に批判があるのも事実だが、それが日本の学校の主要な特質の一つであることも事実である。そして、その基盤には、すべての教師が同じ資格で同じ機能を担って教育にたずさわっているという事実があった。
 ところが、今日の学校では教員は見事にタテに系列化させられ、フラットな教師集団はなくなってしまいました。まったく残念としか言いようがありません。
週5日制、そして公立中高一貫校の導入前に発刊された本です。いずれも非常に問題があると著者は指摘しています。多くの国民がそれを安易に受け入れてしまったのが残念でなりません。
(2007年4月刊。780円+税)

原発のコスト

カテゴリー:社会

著者   大島 堅一 、 出版   岩波新書
 財界はいま総力をあげて原発再開を目ざしています。民主党政権はそれに抗することなく原発再開に動いています。そして、マスコミも大手新聞やテレビは原発の危険性など忘れたかのように、「電力不足」の不安を煽っています。でも福島第一原発のメルトダウンしか核燃料の処理はまだまったく手がついていないし、依然として大量の放射能が大気中そして海へ放出されているのですよ。そんなときに原発再稼働なんてとんでもないことじゃありませんか。
 これまで、原発は安くて安全だといわれてきました。この本は原発は決して安くはないこと、むしろほかのエネルギーに比べて、とてつもなく高いものだということをいろんな角度から論証しています。
 福島第一原発事故は、技術的な安全対策がとられていなかったことが原因と言われることがある。だが、それは原因構造の表面でしかない。なぜ安全対策が取られていなかったのか。それは、エネルギー政策形成にあたって、原発の真のコストが隠蔽され、利益集団の都合の良い判断のみが反映されてきたからである。このような仕組みがなくならない限り、また新たな問題が発生するであろう。
 福島第一原発事故の教訓を活かすためには、国民が強い政治的意思を形成しなければならない。
 脱原発は、政治的スローガンでもイデオロギーでもなく、現実に実行可能な政策である、脱原発に進むことは、保守や革新などの政治的立場、思想信条、社会的立場の別を超え、多くの国民が一致できる政策である。
 日本の原子力開発は、原子力複合体によって、反対派や慎重派を徹底的に排除して進められてきた。その最終的な帰結が福島第一原発事故である。原子力政策を推進してきた体制が完全に解体されなければ、原子力複合体は復活してくるだろう。
 原発事故は、最悪のケースで100兆円を超える規模の被害をもたらす可能性すらある。
 脱原発による便益は年平均2兆6400億円となる。脱原発の便益はコストを上回る。
 この本では、ローソンの新浪剛史社長が脱原発に反対を表明していると書かれています。なんということでしょう。がっかりどころではありません。コンビニと原発がどう結びついているのか分かりませんが、これだけみんなで心配しているのに、まさかローソンの「電力不足」のないようにするため原発が必要だというんじゃないでしょうね。すっかり見損なってしまいました。
(2011年12月刊。760円+税)

眠りをめぐるミステリー

カテゴリー:人間

著者   櫻井 武 、 出版   NHK出版新書
 なぜ、あらゆる生き物は眠るのか?
泳ぎながらも眠るイルカ。脳の半分ずつ眠るのだそうです。横になって身体を休めるだけでは足りず、やっぱり睡眠が必要だというのは、なぜ?
眠っているはずなのに、目玉をキョロキョロ動かす。はては、眠っているのに動き出して、ウロウロする。料理を作って食べる。絵を描く。しかも、その絵は昼間にはとても書けない精密そのものの絵。さらには、眠っているのに、起き出して車を運転して人まで殺してしまう。そして、それをまったく覚えていない。
 ええーっ、ウソでしょ、単にとぼけているだけでしょ、と叫んでみたい気がします。でも、どうやら、本当に無意識のうちに行動するようなのです。監視カメラの映像を見て自分で驚いたというのです・・・。考えれば考えるほど不思議なのが眠りです。死は永遠の眠りだとよく言われます。本当にそうだとしたら、何も怖いものではありませんよね。
 それにしても、眠るとき、目覚めがあることを当然のように思っていますが、そのまま目が覚めずに亡くなっていった人は幸せだった(幸せな)のでしょうか・・・?
 夢はレム睡眠中に行われる、いわば記憶に対する情動によるタグ、あるいはアイコンをつける作業中、それがノイズとして意識にのぼったものなのではないかと考えられている。
 じっと休んでいのると、睡眠をとっているのとには、厳然たる差がある。眠りは、休んでいるという消極的な状態ではなく、積極的に脳のメンテナンスと情報管理を行うという能動的な過程なのである。人は一日の3分の1を眠って過ごし、その睡眠時間のうち、4分の1がレム睡眠である。
 ノンレム睡眠は、一般的に脳の休息、メンテナンスの時間だと考えられている。脳のエネルギー消費は一日の中で最低になる。ただし、必要に応じて寝返りなど運動することは可能な状態にある。ノンレム睡眠では、起床することはかなり困難だ。
 レム睡眠は、非常に特殊な状態にあり、脳は覚醒時に難しい数学の問題を解くなど、知的な活動をしているときよりも、さらに活発に活動している。
 レム睡眠中に覚醒させると、その人は見ていた夢の内容を詳細に話すことができる。
 レム睡眠のときには、脳幹から脊髄に向けて運動ニューロンを痲酔させる信号が送られているため、全身の骨格筋は眠筋や呼吸筋などを除いて痲酔している。そのため、レム睡眠のときには、脳の命令が筋肉に伝わらないので、夢の中での行動が実際の行動に反映されることはない。そして、眼球は、不規則にさまざまな方向に動いている。中枢である脳はフル回転している。つまり、身体と脳のあいだの情報交換をカットした状態の中で、脳自体は活発に活動しているのがレム睡眠だ。夢中遊行の人が徘徊しているときには、深いノンレム睡眠の状態なのである。
生物にとって不利であるはずの睡眠が進化の過程でなくならなかったのはなぜか?
 逆に、進化するほど睡眠の必要性は高くなっている。脳の記憶システムが、シナプスの可塑性を記憶システムとして用いている限り、睡眠は必要なものなのである。
 安らかに眠り、爽やかに目が覚める。これが人生最良の日々ですよね。快眠は快便より快食より、何より優先するものですね。
(2012年2月刊。780円+税)

聞く力

カテゴリー:人間

著者   阿川 佐和子 、 出版   文春新書
 著者はたくさんのインタビューをしていますから、さぞかし自信をもっているのかと思うと、意外にもそうではないとのことです。
インタビューするときは、質問を一つだけ用意して出かける。
 もし、一つしか質問を用意していなかったら、当然、次の質問をその場で考えなければならない。次の質問を見つけるためのヒントはどこに隠れているだろ。隠れているとすれば、一つ目の質問に答えている相手の、答えのなかである。そうなれば、質問者は本気で相手の話を聞かざるをえない。そして、本気で相手の話を聞けば、必ずその答えのなかから、次の質問が見つかるはずである。
 なーるほど、真剣勝負の世界ですね。
資料を万全に読み込んで、すべての情報を頭に入れていくと安心すると同時に、油断もする。だから、事前の準備はほどほどにする。相手に失礼な知識は頭に入れておくにしても、すべてを知ってしまったかのような気持ちにならないよう、未知の部分も残しておくのが大切だ。事前の勉強は大切だけれど、相手の前で知ったかぶりはせず、にわかに勉強であることを素直に認め、相手に失礼のない範囲で素朴な疑問をぶつけるようにする。
 インタビューをうまくすすめていくうえでの体験談がとても実践的で参考になりました。
(2012年2月刊。800円+税)

ルーズヴェルト・ゲーム

カテゴリー:社会

著者   池井戸 潤 、 出版   講談社
 『下町ロケット』で直木賞を受賞した著者の第一作ということです。何となく『下町ロケット』の雰囲気に似たところがありますが、最後まで一気に面白く読み通せたのは、さすが著者の筆力です。
私が草野球をしたのは小学生まで、あとは夏の甲子園大会で高校野球をたまに見ることがあるくらいです。私の子どもが小学生のころ、世間の親と一回くらいは同じことをしてやらないと可哀想だと思ってナイターに連れて行ったことはあります。弁護士になって、付きあいで仕方なくドームで野球観戦をしました。私にとって野球は全然興味をひかないものの一つでしかありません。ですから、この本で取りあげられる社会人野球なるものは見たことがありませんし、見るつもりもありません。
 そんな私ですが、著者による野球試合の展開の描きっぷりはすごいですよ。思わず手に汗を握るというものです。次はどうなるのか、息を詰めてしまいます。
 タイトルになっているルーズヴェルト・ゲームというのが、そういうものなのです。
 社員1500人、年間500億円超の中堅企業。このところ業績が低迷し、銀行から大胆なリストラが求められている。整理の対象に年間3億円も喰いつぶす野球部があげられ、ついに社長は廃部を約束させられてしまう。廃部となれば、野球部にいる10人ほどの正社員はともかくとして、その他の40人もの契約社員はみな退社せざるをえなくなる。ええーっ、これは大変なことですよ・・・。
 ルーズヴェルト・ゲームとは、野球好きのフランクリン・ルーズヴェルト大統領が、一番おもしろいと言った試合のこと。つまり、逆転して8対7で終了した試合のことである。
 そうなんです。この中堅企業も苦しいなか、ついに画期的な新商品の開発に成功し、ライバル企業を出し抜き、生き残りに成功したのでした。しかし、野球部の廃部が取り消されたわけではありません。それではハッピーエンドにはなりません。そこを、著者は何とかひねり返すのでした。うまいものです。爽やかな読後感の残る小説です。現実は厳しいのですが・・・。
(2011年10月刊。2800円+税)

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