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カテゴリー: 司法

法医学者が見た再審無罪の真相

カテゴリー:司法

(霧山昴)
著者 押田 茂實 、 出版 祥伝社新書
DNA鑑定など、法医学者として多くの刑事事件に関与した体験をもとにしていますので、大変説得力があります。
この本の最後のところに、裁判官が間違った判決を出したことが明らかになっているのに、冤罪として無罪になっているにもかかわらず、有罪判決を書いた最高裁判事が「勲一等」「旭日大綬章」といった勲章を受章したままになっているが、本当にそんなことでいいのかと著者は怒りを込めて疑問を投げかけています。私もまったく同感です。無実の人を十分な審理をせずに誤った判決を下したとき、その裁判官に授与された勲章は国があとで取り上げるべきではないかと私は思うのです。
そこで思い出すのは、最高裁長官だった田中耕太郎です。裁判の当事者の一方と秘密裡に会い、合議の秘密をもらしたうえ、判決内容まで指示され、そのとおりにしたことが明らかになったのです。ひどいものです。砂川事件の最高裁判決は田中耕太郎がアメリカ大使から受けた指示のとおりになったのです。
裁判の独立をふみにじった、こんなひどい男はまさに日本の司法の恥です。ところが、客観的に明らかになっても、今の最高裁は何の措置も講じようとはしません。これでは、要するに同じ穴のムジナだと言うほかありません。司法の堕落です。
著者の鑑定結果と刑事判決が一致しない判決が10件以上もあるということです。これにも驚きます。つまり裁判官は法学者の鑑定を無視した判決をいくつもしているわけで、決して「例外」ではないのです。
先日の大崎事件の最高裁判決にも驚かされました。最高裁の裁判官にはあまりにも謙虚さが欠けていると思います。
弁護士生活46年になる私にとって、裁判不信は刑事裁判に限りませんが、刑事は死刑判決だったり、長期に刑務所に拘留されますので、民事以上に深刻だと思います。
(2014年12月刊。800円+税)

裁判官も人である

カテゴリー:司法

(霧山昴)
著者  岩瀬 達哉 、 出版  講談社
 井戸謙一元裁判官は、裁判官には3つのタイプがあるといいます。
一番多い(5~6割)のは一丁あがり方式で処理する。次に多い(3~4割)のが杜撰処理する。そして、1割にも満たないのが真実を見きわめようとして当事者の主張に耳を傾ける裁判官。これは46年間になる私の弁護士生活にぴったりの感覚です。たまに、人格・識見・能力ともに優れた裁判官に出会うことがあり、本当に頭が下がります。でも、普段は信用のおけない裁判官に対処するばかりです。ええっ、と驚く判決を何度もらったことでしょうか…。
青法協の会員だった裁判官が次々にやめていった「ブルーパージ」は、決して「過去の遺物」ではない。その影響は今に引き継がれている。多くの裁判官を心理的に支配してきたし、今も支配している。つまり、既存の枠組みをこえることにためらい、国策の是非が問われる裁判において、公平かつ公正に審理する裁判官が少なくなった。当時も今も、ほどほどのところで妥協すべきという空気が、常に裁判所内にはびこっている。
平賀書簡問題のとき、札幌地裁の臨時裁判官会議は、午後1時に始まって、午前0時ころまで延々12時間にわたって議論された。しかも、平賀所長は当事者だからはずし、所長代行の渡部保夫判事もあまりに平賀所長寄りなので司会からはずされた。そして、裁判官会議は平賀所長を「厳重注意」処分に付すという結論を出した。これはこれは、今では、とても信じられない情景です。
最高裁の判事と最高裁調査官とのたたかいも紹介されています。滝井繁男判事と福田博判事の例が紹介されています。最高裁調査官は最高裁判事をサポートするばっかりだと思っていましたが、実は意見が異なると、最高裁判事を無視したり足をひっぱったりしていたのですね。ひどいものです。
また、矢口洪一最高裁元長官が陪審制の導入に積極的だったのは、長官当時に冤罪事件が次々に発覚したことから、裁判所の責任のがれのための「口実づくり」だったというのも初めて認識しました。それでも私は裁判員裁判の積極面を評価したいと考えています。
「ブルーパージ」のあと、若手裁判官が気概を喪い、中堅裁判官に覇気がなくなった。部総括(部長)に負けないで意見を述べる気概のある裁判官が減り、部総括にしても、部下の意見を虚心に受けとめるキャパに欠ける人が増えている。これまた、私の実感と一致するところです。
こんな裁判所の現状を打開する試みの一つが裁判官評価アンケートです。これはダメな裁判官を追放するというより、ちょっぴりでもいいことをした(している)裁判官を励まし、後押しをしようというものなんです。
ぜひ、あなたもその趣旨を理解して、ご協力ください。
(2020年1月刊。1700円+税)

子ども福祉弁護士の仕事

カテゴリー:司法

(霧山昴)
著者  平湯 真人 、 出版  現代人文社
 養護施設の子どもたちは経済的な自立の困難をかかえている。小さいときから、まわりの大人との信頼関係をもつことが出来ないため、人生に自信がなく、肯定感がもてない、自分が尊重されたという実感がもてないことが少なくない。大人が子どもにしなくてはいけないことは、子どもが生きていく自信をつけること…。
非行に走った子どもにとって、その行動への反省が大切なことは言うまでもない。しかし、問題は、反省する力を、そのようにして培(つちか)うか、ということ。これまで大切にされたことのない子どもは、すぐには反省することができない。子どもの首根っこを抑えて頭を下げさせるのが反省ではない。人間が自分の行動を反省できるためには、一定の成熟が必要であり、反省する本人の成長を認めてやれる環境が不可欠だ。
どこまでも子どもを権利の主体として扱い、その権利の実現のために働く大人の姿が求められている。このような役割をする弁護士が子ども福祉弁護士だ。
今年、喜寿になった平湯弁護士は、23年間は裁判官として事件に向きあい、48歳からは弁護士として子どもに向きあってきた。
著者は、幼い子どものころ、母の売り上げた納豆の代金の一部をかすめて自宅近くの駄菓子屋でお菓子を買った。両親はそれを知っていたが何も言わず、著者を叱りもしなかった。そこで、著者は考えた。子どもには考えたり、迷ったりするのに十分な時間が保障されるべきだ。子どもを叱ることなく、子どもが自分で考えて、どうすることを決めていくことの大切さを著者は両親から教えてもらった。
私より6歳年長の著者とは、著者が福岡地裁柳川支部の裁判官時代に面識がありました。そして、このとき、赤旗号外を配りながら「演説会に来んかんも」と声をかけた松石弘市会議員が公選法違反で起訴された事件で、公選法は憲法違反なので無罪とするという画期的な判決を書いたのでした。
著者は、弁護士になって子どもの権利委員会に所属して活動するようになり、国会で、子どもの虐待に関して3回、参考人として意見を発表することがあった。すばらしいことに、これらの意見発表の多くが立法化されたというのです。すごいです。
平湯弁護士は、現場を踏まえて法や制度を変えていくのも「子ども福祉弁護士」の役割だと強調します。
千葉で起きた「恩寵園事件」の取り組みが紹介されています。園長一家が収容されていた子どもたちを虐待していたという事件です。子どもたちが集団脱走して児童相談所に駆け込んだのに、千葉県は口頭指導しただけで子どもたちを園に戻してしまいました。行政のことなかれ主義のあらわれです。
ところが、新聞記事を読んで、現場に飛び込んでいった弁護士たちがいました。山田由紀子弁護士や平湯弁護士たちです。その行動力には本当に頭が下がります。そして、子どもたちを一時的にしろ受け入れた大人たちがいました。
この本には、そのときの園児たちが、今では子をもつ親となって、当時の悲惨な状況をどうやって切り抜けたのかを語っています。感動的な座談会です。平湯弁護士が、当時の園児たちに、子どもにとっての「ふつうの生活」とは、どういうものかと問いかけています。
・ 脅えながら生活しないこと。
・ 愛のある生活のこと。
・ 落ち着いて静かに暮らして、時間が来たら、「やったあ、ご飯だ。うれしいなあと感じる生活。
 なるほどですよね。たくさんのことが学べた本でした。
熱意と包容力、子どもに対する揺るぎない温かな眼差しをもつ人として、平湯弁護士が紹介されていますが、まったく同感です。ぜひ、あなたもご一読ください。
(2020年2月刊。2200円+税)

反対尋問

カテゴリー:司法

(霧山昴)
著者 フランシス・ウェルマン 、 出版  ちくま学芸文庫
120年も前にアメリカの弁護士が書いた本とは思えない指摘のオンパレードです。
当初の解説は平野竜一が書いていました。そこでは、ロッキード事件やグラマン事件での国会での証人尋問の拙劣さが指摘されています。尋問する国会議員は威丈高に直接法的な尋問するが、真実は少しも明らかにならないとの批判です。しかし、昨今の国会議員のうまさは目を見張るものがあります。とりわけ共産党の田村智子議員の安倍首相の質問には心底から感服しました。
今回のちくま学芸文庫版では現代日本の刑事弁護の第一人者というべき高野隆弁護士が次のように解説しています。
1世紀以上も前の先人たちの話に接するのはとても貴重であり、勇気づけられる。
経験にしか頼るものがない時代に、彼らが試行錯誤の末にたどり着いた結論は、現代の法廷弁護士に対しても気付きを与え、一般市民に人の営みの奥深さを教えてくれる。
さらに、高野弁護士は、法廷技術には科学や理論で説明しきれない部分があると強調します。公判廷にいて偶然のたまものとしか言えないような瞬間がある。検察側の証人の表情を見ていて、反対尋問のアイデアが閃光のように閃く(ひらめく)ときがある。
メモなんか取るひまがあったら、証人を観察せよという言葉の真実を実感するときがある。この本は、そうした閃きを私たちに与えてくれる源泉となる。そうなんですよね…。
反対尋問が弁護士に必要なあらゆる技術のなかでも、もっとも難しいものの一つであることは、疑問の余地がないし、またもっとも大切なものの一つでもある。
弁護の技術には、熟練への早道も王道もない。経験である。成功をもたらすものは、ただ経験だけと言えるだろう。
弁護士には、尋問中の証人の弱点を見抜く直観が要求される。
訴訟代理人の弁護士は証人と精神的決闘をしているのである。
良き弁護士は良き俳優でなければならない。
質問は論理的な順序で行なってはいけない。ここかと思えば、またあちらという具合にやる。一般法則として、元の証言を最初と同じ順序でくりかえさせてみても、時間のムダになるだけのこと。
つまらない質問をどんどんぶつけながら、なかに大事な質問をまぜ、しかもまったく同じ声の調子でやる。
反対尋問の唯一の目的は、対立証言の力を打破することにある以上、無益な試みはただ証人の陪審への心証を利するだけのこと。だから、沈黙は、しばしば長時間の尋問にまさる。つまり、席を立たず、全然質問をしないでいるにしくはない。まあ、そうは言っても、反対尋問しないということを私はやったことがありません。
反対尋問の目的は、真実をつかまえることにあるが、この真実というものは、実につかまえにくい逃亡者なのだ。
延々と執拗に質問しつづけて、証人の頭をへとへとにさせたあげく、真実を引き出してやるという方法でしか成功できない場合もまたある。
頭の良さが良心の欠如を隠しているような証人の偽証を暴くほど、難しいことはない。
うむむ、大変大変勉強になりました。文庫本で700頁の大著なのに、1900円という安さです。ぜひ、あなたもご一読ください。
(2019年7月刊。1900円+税)

完全版 検証・免田事件

カテゴリー:司法

(霧山昴)
著者 熊本日日新聞社 、 出版  現代人文社
免田事件とは1948年(昭和23年)12月29日の深夜、人吉市で起きた祈祷師一家4人が殺傷された事件。免田栄さんが逮捕されたのは翌年1月13日のこと。免田さんは23歳の青年だった。そして免田さんは「自白」し、熊本地裁八代支部での第1回公判まで認めていたが、2回目の公判から否認に転じた。ところが免田さんについては死刑判決が確定し、以後34年間、死刑囚として福岡拘置所で過ごした。
再審無罪となって釈放されたとき、免田さんは57歳になっていた。
いま、免田さんは故郷の人吉市を離れて熊本県に隣接する大牟田で生活している。すでに死刑囚だった34年間よりも釈放されてからのほうが長い(2017年で92歳)。
再審無罪判決は、自白調書について、「重要な事項である犯行時刻の記述がなく、犯行動機も薄弱で、犯人しか知り得ない、いわゆる『秘密の暴露』も見当たらず、客観的事実との重大な食い違いや不自然な供述が随所にみられ、犯行後の行動も客観的事実と多くの点で食い違っている」とし、さらに「自白の矛盾点を指摘していない調書で、取調官が、自分の誤った事実に基づく安易な誘導から強制があったとさえみられても仕方ない」。自白調書は多くの点で、破綻していることこそが、「あたかもアリバイの成立を裏付けるかのようだ」と指摘した。
免田さんの自白調書は、夜に眠らせてもらえず、暖房のない部屋で、寒さにふるえ、身体が硬直して言葉も出ない状態で作成されたもの。
犯行現場の畳は血の海で障子などにまで血痕が飛び散っていたというのに、免田さんの着ていた上着・ズボン・地下足袋・マフラーからは血痕は検出されなかった。犯人なら相当の返り血を浴びていたはずなのに・・・。
免田さんの再審請求は6回ありました。免田さんの事件に関与した裁判官はのべ70人。そのうち、免田さんを無罪としたり再審開始にした裁判官は14人だけです。2割しかいません。これが日本の刑事司法の現実です。検察官が起訴したら、その時点で有罪の心証をとってしまう裁判官が8割いるのです。
免田さんの事件では、裁判があっているうちに、重要な証拠が「紛失」しています。ナタ・上衣・マフラーそしてチョッキと軍隊手袋です。証拠品の管理の杜撰さは、他の事件でもよくみかけます。絶対にやめてほしいことです。
免田さんの死刑が確定したのは1951年(昭和26年)12月に最高裁が上告を棄却したからです。それから死刑執行されることなく、拘置所で免田さんは勉強もし、必死で訴えて世論を動かし、国民救援会と日弁連の支えがあって再審無罪の判決を獲得したのでした。
先の大崎事件についての最高裁の冷酷無比の決定をみるにつれ、再審裁判では検察側にきちんと証拠開示するよう義務づけておくべきだとつくづく思います。
(2018年7月刊。2700円+税)

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