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カテゴリー: 司法

平和を求める自由

カテゴリー:司法

(霧山昴)

著者 ローレンス・レペタ 、 出版 時事通信社

著者の名前は、法廷でのメモをとるのは自由だと裁判所に認めさせた裁判の原告として有名です。

日本法を研究するアメリカ人 弁護士として、2004年2月に起きた「立川自衛隊監視テント村」のメンバーが自衛隊の官舎内でビラをポスティングしたのが住居不法侵入罪で逮捕・起訴された事件について、無罪判決が出た経緯をたどっています。

逮捕された3人は、釈放されるまで、2ヶ月余り、75日間も身体拘束されました。ときは2003年春からのアメリカによるイラク攻撃があっているころで自衛隊のイラク派遣に反対するというのがビラの内容です。

日本の自衛隊員は平和憲法9条のおかげで、今まで一人として戦場で殺し、殺されていません。そこが、隣の韓国とは決定的に違います。もちろん、自衛隊の不慮の事故は多数発生していて殉職者も毎年出ています。しかし、戦場での殺し、殺されとは全然レベルが違います。

ビラは自衛隊員がイラクの地で、殺し、殺されることのないように呼びかけていました。

アムネスティはこの3人について日本で初めて「良心の囚人」と認定しました。

3人は、2人の男性と1人の女性。2月27日午前6時半に3人が逮捕されたとき、早朝にもかかわらずフジテレビとTBSは警察から事前に通報を受けて、現地で待ち構えていました。そのうえ3人の顔をアップにし、スローモーションで放映したのです。3人は、46歳の人と30歳が2人。女性は、ロックバンドの歌手というミュージシャン。6つの公安警察チームと60〜80人もの警察官によるという、大げさな逮捕劇でした。

テント村弁護団の一人に、私もよく知る内田雅敏弁護士がいます。

3人は起訴され、八王子支部で裁判が始まった。長谷川憲一裁判長は、「被告人がいかなる信条を抱いていようと、この裁判とは無関係。当法廷は行為を裁いているのであって、思想を裁くものではない」ときっぱり宣言した。これは、検察官が「天皇制に反対するのか」と質問したときのことで、そんな質問はさせなかったのです。

5月7日に保釈が許された。1人150万円。

憲法学者の奥平康弘教授のほか、元自民党の箕輪(みのわ)登元代議士も証人として登場した。

検察官の求刑は懲役6月。判決言い渡しのとき、長谷川裁判長は、主文の言い渡しは最後になるといって、理由を読みはじめた。

行為態様として、誰とも話さず、チャイムを鳴らすこともせず、ただ一枚のビラを玄関ドアの郵便受けに差し込んだだけと認定した。その動機は正当であり、その目的性を逸脱しておらず、居住者・管理者の法益侵害も軽微だ。ゆえに、法秩序全体の立場からして、刑事罰に処するに値するほどの違法性があるものとは認められない。したがって、犯罪の証明がないことになるから、被告人らは無罪。まことに明快な論理です。2004年12月16日です。残念なことに、東京高裁(中川武隆裁判長)は逆転有罪としましたが、それでも、2回ビラまきをした2人に各20万円、10万円の1人には10万円の罰金を科した。最高裁も、これを追認した。単なるビラ配りを有罪とする裁判官の気持ちが理解できません。ピザ屋のチラシでも、政治的なビラでも、自由に郵便受けに入れるのが犯罪になるなんて、おかしいと思います。ただ、最近のマンションはビラ入れ自体が難しくなっていますよね。もっと、オープンにしていいんじゃないかと、私は思うのですが…。

堀越事件で、東京高裁の中山隆夫裁判長が無罪としたこと、荒川事件で東京地裁(大島隆明裁判長)も無罪判決を出したことも紹介されています。これらの事件に対する判決は日本の裁判所のレベルが低いことを明らかにする本でもあります。

(2026年3月刊。1980円)

法律実務家のためのインプット・アウトプット術

カテゴリー:司法

(霧山昴)

著者 松尾剛行 、 出版 弘文堂

生成AIを使ったら、簡単にか書けるか・・・。

実際には、一部にAIの作成した原文が残るものの、大部分は大幅修正し、結局、自分が初めから書くよりも多くの時間と労力がかかってしまう。

分からないときには、上司や先輩に尋ねるより、先に検索したほうがよい。私の場合、すぐそばにいる弁護士7年目の杉垣弁護士に初歩的なことをふくめて、恥ずかし気もなく聞いて、教えてもらいます。すると、素早く、かつ的確なレスポンスがあります。助かります。

鳥瞰(ちょうかん)と深掘りは相互作用させる。最初に鳥瞰したうえで、深掘りする。そして、そのあと再度鳥瞰する。

弁護士の仕事には「正解のある」ものと「正解のない」ものの2種類があり、「正解のある」仕事はAIにまかせる局面があってもいいが、「正解のない」仕事は人間がAIの支援を受けながら遂行していく。

誰もAIが弁護士にとって代わることはないと考えています。目のまえにいる人の態度、表情をうかがいながら、共感しつつ次善の策をともに考え、妙策をひねり出していくのです。

AIが人間の仕事を奪うことはない。「AI利用のスキルを持つ人間」が「AI利用のスキルを持たない人間」の仕事を奪うだけのこと。

AIは必ず間違える。なので、AIの作成した成果物を確認・検証する能力が必要となる。

AIには「弱点」がある。AIに依存し、考えることをやめてしまうという状況はきわめて憂慮すべき。

講話をするときは、一番調子の平板なものにならないように心がける。途中で自分の失敗事例を話すなどの起伏をつける。最初の数分で、引き続き集中して聞いてもらえるかどうかが決まる。

AI利用が当然になった状況ですが、AIそののみに頼ることなく、自分の個性を押し出しながら、平板ではない話しで聴衆の心をつかむ必要があるということです。言うは易く、行うは難しというところですね・・・。

(2026年2月刊。2420円)

法律のしごとはおもしろい!

カテゴリー:司法

(霧山昴)

著者 石田京子・濱中淳子 、 出版 岩波書店

弁護士になって50年以上たちました。私にとってまさに天職です。誰に気兼ねすることもなく、自由にモノが言え、そして工夫すると自由になる時間がそこそこ確保でき、豊かな大自然と少々まじわりながら、しかも大金持ちにはなれなくても、経済的にも早くから自立できています。

朝起きて雨戸を開けると、4月には庭のチューリップたちが迎えてくれます。今は黄ショウブとグラジオラスとアマリリスの花が庭を美しく飾っています。遠くには緑豊かな小山と丘が見えます。すぐ下には水田があり、蛙の鳴き声に悩まされていましたが、今は休耕田で、雑草が生い茂っているのが少々残念です。歩いて5分ほどの小川にはもうすぐホタルが飛びかうようになります。

空き家の目立つ古い住宅団地です。子ども会も老人会も消滅してしまいました。

法律家の仕事は単調ではありません。そのとおりです。法律もいろいろあるし、扱う人の意もさまざま。その人自分にあった面白さを発見でき、力を発揮できます。

勝負のかけひきに熱中できる人は、それを面白いと感じる。私は、かけひきは得意ではありませんし、勝負事にも関わりたくありません。負けるのが嫌だからです。なので、裁判で負けたら、落ち込んでしまいます。

他人に納得してもらえるよう、相手が理解できる言葉にして伝える。そのとき、裏づけとなる証拠や事実を並べて、筋道立てて文章で説明にいく。これは私の得意とするところです。そしてこれこそ法のしごとそのものです。

このとき、正解を探すという発想はありません。最善、次善、そしてよりましな選択肢を絶えず考えていきます。これもまた面白い、知的刺激のある作業です。

弁護士に向かない人がいます。対人間に関心が薄い人は、早く方向転換したほうがいいと思います。ビジネスでお金をたくさん稼ぎたい人は、さっさと起業したほうがいいです。人に興味、関心が薄いと弁護士の仕事は辛いばかりです。また、この本では長い文章を読むのが苦手な人は弁護士に向かないとしています。そのとおりです。大量の文書をさっと読んで、肝心な点をピックアップしていくのが求められます。AIにまかせることは出来ません。さらに暗記が好きな人も向いていないとしています。正解を求める発想も向きません。依頼者の立場に立って解決策を柔軟に考えていくことが求められます。

弁護士の仕事は面白いです。ぜひ、あなたも弁護士を目指してください。

(2026年4月刊。1450円+税)

離婚弁護士 松岡 紬

カテゴリー:司法

(霧山昴)

著者 新川 帆立 、 出版 新潮文庫

この著者の本はまだ2冊しか 読んでいないかもしれませんが 読ませます。たいしたものです。アメリカで生まれて宮崎で育って弁護士になりましたが、今は作家専業のようです。まだ35歳の若さですから、モノかき志向の身にはうらやましい限りです。

それなりに取材もしているのでしょうが、発想力と表現、描写力がすごくて感服させられます。

主人公の松岡 紬(つむぎ)弁護士は鎌倉の縁切寺と して有名な東慶寺(本作では東衛寺)の一人娘で、たいした鈍感力の持ち主。方向音痴だし、美人なのに男を寄せつけ ず、今もって独身。こんなキャラクター設定も読みに親近感を持たせますよね。あまりに切れ者の弁護士だと近寄り難いですからね…。

大企業を顧客とする大手法律事務所の男性弁護士もちらっとだけ登場します。「ビラブル300時間をこえてるから、毎日超しんどい…」 ビラブルというのは、クライアントに報酬請求する実労働時間のこと、タイムチャージ制の料金なので、私には、ほとんど無縁です。 300時間というと、月30日、毎日10時間も働いているということになりますね。信じられません。

弁護士生活も50年以上となり、離婚事件は常時担当してきましたし、今も担当しています。そして、相談だけだと、月に何件も受けています。

家事事件って、ドロドロしているから、やりたくないです。司法修習生がこんなことを言ったことがあり、驚きました。企業法務にしても、ドロドロしたものがないとは思えません。紛争はどんなものでも、ドロドロとした部分があると思います。そこに関わって、少しずつ解決の道を探していく。そこに弁護士としての知恵と工夫を発揮し、また苦しみと喜びがあります。

弁護士50年してもタワーマンションを買えるようなお金はできませんでしたが、ローンも終わって、無借金というのはすっきりしていいものです。そして、妻に逃げられなかったのが何よりです。離婚をめぐる弁護士が何をするのか、知ってもらえる本にもなっています。夫が病気で倒れるのを予知して、さっさと離婚をしたい、介護させられるのはマッピラゴメンという話も出てきて、身につまされました。

(2026年1月刊。781円)

刑務所で当事者研究をやってみた

カテゴリー:司法

(霧山昴)

著者 向谷地 生良・掛井 靖彦 、 出版 医学書院

つながりを喪失した「避難者」を受け入れてきた刑務所や精神科病院が、さらなるつながりの喪失と孤立を生み出す社会的循環の歯車となっている。なるほど、言われてみたら、そうなんだよね、とも思いました。

この本は「もっとも関わりが難しい」と言われていた受刑者Aさんを対象とする当事者研究を記録している。Aさんは、6歳で万引きを覚え、16歳で少年院、20歳以降は断続的に刑務所で暮らし、現在40代半ば。当事者研究にAさんが協力することは、Aさんにとって、自分が何かしら社会に貢献できるかもしれないと思えることだった。

累犯をしてきた人たちは、犯罪行為をなすことによって、罰せられたり、注意されたり、批判されることを通じて「つながりらしき」を味わってきた。

「出所してみたけれど、あまり刑務所と変わらない。シャバのほうは食いぱぐれがあるぶん、不自由だけど、刑務所のほうがいい」

「死刑になりたい」人が、なぜ他人を巻き込む人かというと、自分だけがこっそり死ぬことに無念さがあるから。死ぬなら、社会的に何らかの影響を与えてから、という発想になる。なので、死刑は犯罪を抑止せず、むしろ犯罪を助長している。

刑務所の中は、「自分がこうしたい」という思いが封じ込められた世界。

当事者研究の基本中の基本は、その人が主体的に試行錯誤を始める第一歩、その踏み出しを徹底して大事にすること。教育をさせるのではなく、その人から学ぶ。

再犯率は、近年では50%前後。つまり、受刑者の2人に1人は、ふたたび犯罪を犯してしまう。

Aさんは旅へのこだわりが強い。旅行はAさんにとって、無になれる機会。旅に出ることは、現実のモヤモヤからの逃避であり、かつ、「これからどうします」という不安からの逃避でもある。旅先で観光するという目的はない。あくまで一人で社会から離れることが快楽。

私も、たまに一人旅をすることがあります。たとえば、福島の「大内宿」には、レンタカーを借りて一人で行って江戸の宿場町の雰囲気に浸り、大きな一本のネギが載っているネギそばをもちろん一人で食べました。それは、でも、一人で社会から離れるというより、旅先の風景に目的を浸らせることに意味がありますので、Aさんとは違います。

刑務所で長く生活を管理されていることに慣れると、実社会で独り立ちして生きていくのが難しい。

Aさんは、自分や俺といった一人称をほとんど使わず、自分、しかも、自分は、自分と主体として使うことはさらに少ない。そして、人と人とのつきあい方がAさんにとって社会に出てからの生活の難しさ。「自分が誰に何を、どうしていいか、分からなくなってしまう」

劣等感のなかで、「自分」で主体的に人生をつくり出していくチャンスが閉ざされる。就労や金銭管理も含めて、生活をどのように組み立てたらいいのかが分からないので、そして困難を誰にも相談できないので、犯罪に走ってしまう。犯罪は、生きのびるための自助的な方法となっている。

彼らは、決して本音を語らないことで自分を保ち、生き抜いてきた。彼らは、どのようなトラブルがどのような量刑につながるのか、計算しながら犯行を重ねている。

弁護士として50年以上やってきましたし、今も2件、国選弁護人として刑事事件を担当しています。刑務所を出たり入ったりする人に何人も出会いました。この本によって彼らの心情をさらに理解することができました。

(2024年3月刊。2200円)

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