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カテゴリー: 人間

セラピスト

カテゴリー:人間

著者  最相 葉月 、 出版  新潮社
 重たいテーマの本です。読んでいると、気分が沈んできます。救いはあまり感じられませんが、人間とは、どういう存在なのかを知るためにも最後まで読みとおしました。
ベストセラーになった『絶対音感』を書いた著者は双極性障害Ⅱ型。昔は躁うつ病といわれていたが、Ⅰ型は激しい躁状態がくり返し訪れるのに対して、Ⅱ型は、それほど顕著な躁ではない軽躁状態が繰り返される。双極性障害Ⅱ型では、気分調整薬が微量処方される。
 患者の沈黙に絶えられない精神科医は、心理療法家としてはダメ。
 患者の苦悩に寄り添い、深く「関与」しつつ、一方で、その表情や行動、患者を取りまく状況に対しては冷静で客観的な「観察」を怠らない。それは、沈黙する患者のそばに何時間でも黙って座り続け、患者のコトバ一つ一つに耳を傾ける心理療法家としての姿勢と、その一挙一動に目をこらし、客観的なデータを得ようとする医師としての姿勢をあわせもっている。
対人恐怖症、赤面恐怖の人がすごく減っている。いまは、葛藤なしに引っ込んでしまっている。人間関係の日本的しがらみのなかでフラフラになったのが赤面恐怖だった。それがなくなった代わりに、途方もない引きこもりになるか、バンと深刻な犯罪を引き起こすかになった。両極端のようでいて、その違いは紙一重である。これは、数々の凶悪犯罪が証明している。
 大企業につとめる社員のなかで心の病で入院する人が、2割ふえた。うつ病などが54%でもっとも多く、パニック障害などの神経症性障害をふくめると8割になる。世代別では、30代、40代が3割以上を占め、働き盛りの人々が追いつめられている。
 カウンセラーの三原則は、カウンセラーは自らを偽ることなく、誠実さを保ちながら、クライエントに深い共感をもって、ありのままを受け入れるというもの。
 一人前のカウンセラーになるには、25年かかる。
 クライエントの言うことに、ただひたすら耳を傾けて聴くという態度をとれば、クライエントが自分の力で治っていく。
 言葉は引き出されるものではない。言葉は、自ら、その段階に達すれば出てくるもの。言葉は無理矢理引き出したり、訓練したりする必要はない。それ以前のものが満たされたなら、自然にほとばしり出てくるもの。
 日本人は、言語化するのが苦手な民族だ。それが得意な人は治療者として精神分析を選ぶ。でも、ほとんどの人は得意ではない。ところが、箱庭は、1回みただけで、クライエントの力量も治療者の力量も分かる。見ただけで分かるという直感力が優れているのは、日本人全体の通性だ。
 セラピスト、カウンセラー、精神科医、そしてクライエントの実像と悩みが迫ってくる本です。
(2014年4月刊。1800円+税)

人の命は腸が9割

カテゴリー:人間

著者  藤田 紘一郎 、 出版  ワニブックス新書
 寄生虫博士として高名な著者が腸内細菌の大切さを説明しています。とても納得できる本ですので、私も早速、納豆食を取り入れることにしました。
不老長寿の実現には免疫力を高めることが不可欠。それには腸内細菌の助けが欠かせない。身のまわりの菌の排除は、これに逆行する行為だ。
 免疫力は、身近な病原体と戦うごとに鍛えられ、強化される。細菌やウイルスが怖いと言って平時からむやみに排除してしまっていると、免疫機能は鍛えられる機会を失い、弱体化してしまう。
 善玉菌優性の腸をつくるには、悪玉菌の助けが必要。赤ちゃんには、とにかく多くの菌と触れあわせること。赤ちゃんが舐めたがるものは、なんでも舐めさせること。ただし、化学物質や薬剤、食品添加物は避ける。
 度を超した清潔志向は、自分や家族の身体を病原菌に弱くする危険性を高める。
 日本人の腸には、日本の発酵食品が最適。植物性乳酸菌は、動物性乳酸菌よりも胃酸に強く、生きて腸まで届きやすい。
免疫の7割は腸で築かれる。残り3割の免疫がつくられるのは、心。免疫を向上させる笑いは楽しく笑うこと、大声で笑うと、いっそう効果的。
 善玉菌優性の腸を保つことができていれば、肉も卵も命を縮める原因にはならない。腸の働きが悪くなると、消化吸収能力が低下するだけでなく、腸内バランスが乱れて、免疫力も低下する。
 人間の腸は、食物からビタミン類を合成する能力をもたない。人間の代わりに合成作業しているのが腸内細菌。
 人間の精神活動に大きく関与しているセロトニンは、その前駆体が腸でつくられる。そのうちの9割がセロトニンとなって腸にとどまり、残りの1割が脳や他臓器へ送り出される。脳にあるセロトニンは、全体量のわずか2%にすぎない。
 腸内細菌の活動が活発だと、セロトニンの分泌量が増え、大便の量も多くなる。
 大便は基本的に体に悪いものではない。問題なのは、大便が長いあいだ腸内にとどまり続けること。大腸に滞留することによって腐敗がすすみ、善玉菌が毒素を発生させるようになることが問題なのだ。
 大変勉強になりました。腸内細菌ってこんなに存在価値があるのですね・・・。
(2014年3月刊。800円+税)

脳の中の時間旅行

カテゴリー:人間

著者  クラウディア・ハモンド 、 出版  インターシフト
 脳と時間の関係の関係について考察した、楽しい本です。
 楽しいときは、本当に時間が飛んでいく。生命の危険を感じているときは、時間の流れが遅くなるように感じる。
 休暇は速くすぎていくのに、あとでは長く続いたように感じる。これをホリデー・パラドックスという。
キューバにある、アメリカのグアンタナモ収容所では、食事、睡眠、尋問の時間を決めず、予測できないようにしている。これによって囚人が時間を数えようとする気持ちをくじき、不安を感じさせるためだ。
 決まり切った日課は安心感を与えてくれる。その重要性は、高く、それに反するだけで時間の概念が乱れ、極端な場合には恐怖をひきおこす。
人間の自殺率は春が高い。春の訪れによって、陰うつな気分から救われるという期待が裏切られ、深い絶望に見舞われるからではないか。
 野球やサッカーの試合を見ていて、ひいきするチームが勝っているか負けているかで、時間の流れが違って感じられる。負けているときの残り時間は短く感じられる。逆に勝っているときには、時間のたつのがひどく遅く、相手チームには得点のチャンスが恵まれているような気分がする。このように、感情によって時間はゆがむ。
うつ病の症状が出ているときには、過去と現在だけが存在し、未来、とりわけ希望のある未来を想像できなくなる。うつ病の人にとって、時間は半分のスピードで流れている。
 退屈というのは、時間の流れのそのものに注意を向けたときに起こる。
人間にとっての一瞬とは、2秒から3秒を意味する。3秒という時間は、メモしたり長期記憶にゆだねたりせずに、何かを記憶しておける時間である。
 切断された死体の映像を見たり、悲惨なイメージに直面すると、身体と頭で闘争・逃走本能がはたらき、内なる時計の進み方が速くなり、パルスが増大するため、時間の流れが遅くなるように思える。
 年齢(とし)をとるにつれて時間の流れが速くなるという感覚がある。いったい、なぜなのか・・・。多様で、興味深い経験にみちた時間は早くすぎるように、感じられる。しかし、思い返すと、長く感じられる。子どもの毎日は、新しい経験に満ちている。子どもの生活には、全体として大人の休日と同じように面白いことに溢れていて、新しい記憶がたくさんあるため、あとで振り返ると、1ヵ月、1年がひきのばされたように感じる。
だから、できるだけ行動のバラエティを増やす。目新しくて、今が楽しいと思える生活をつくれば、あとで振り返ったときに、長かったと感じられる。
時間が早く過ぎていくのは、多忙で充実した生活を送っている証拠だ。楽しいときほど、時間が短く思える。時間が早く過ぎるのを止めるには、予定を積極的に入れ、テレビは覚えていられる時間だけみるようにすることだ。
 何かに没頭すればするほど、時間は速く過ぎていく。
 なーるほど、人間の脳と時間との関わりが少し分かりました。
(2014年3月刊。2100円+税)
 梅雨入りしてから、なぜか雨らしい雨が降りません。よそでは大雨のようですが・・・。田植えの準備はすすんでいますので、雨を待つ心境です。
 日曜日は恒例のフランス語検定試験を受けました。一級ですので、合格するはずもありませんが、ボケ防止のためにもチャレンジしています。もう10年以上にもなりますが、単語の忘れはひどいものです。新鮮な気持ちで毎日NHKのラジオ講座を書きとりし、なるべく暗誦するようにしています。
 試験は惨々でした。長文読解も前半はさっぱり、後半はなんとか。書きとりと聞きとりは、まあまあでした。仏作文は適当にごまかしたのですが・・・。甘あまの自己採点で55点(150点満点)です。11月は準一級です。がんばります。

六つの瞳の光に輝らされて

カテゴリー:人間

著者  のがみ ふみよ 、 出版  鉄人社
 三つ子を産んだ母親が、そのうち二人が障害児だったという話を、明るく爽やかに紹介している本です。
 すごいお母さんだと驚嘆しました。なにより、明るい話として展開していくので救われます。実際には、暗く、おちこむ場面も多々あったと思うのですが、いつも前向きに挑戦して、乗りこえていったのですね。すごいです。
 そして、それを何より実証しているのが、本の表紙になっている一家四人の笑顔あふれる写真です。
 三つ子のうち、一人だけ健康児として育った「やすき」君を私はたたえたい気分になりました。母親が二人の障害児にかかりきりになって、ややもすれば寂しい気分になりがちのところをしっかり母親について、それを支えていったのはすごいです。
 三つ子は、男の子二人と女の子一人です。女の子はおしゃれに夢中の中学生。字を書く手が不自由でも、勉強大好き人間なのです。
 車椅子でしか動けない男の子は、実は記憶力抜群なのでした。
 母親は、なんとモデルとして活躍し、ヨガ教室を主宰したり、障がい児の施設を開設したり、そのパワフルさに圧倒されます。
 残念なことに、三つ子の父親が話しに登場しません。離婚したのです。父親の悪口はまったく出てきません。ただ、父親は三人の子どもと、どのように関わっていたのでしょうか。気になるところではあります。
 思春期まっさかりの三つ子とともに歩む若き母親の歩みを、心から応援します。無理なく、引き続きがんばってくださいね。
(2014年1月刊。1300円+税)

物語ること、生きること

カテゴリー:人間

著者  上橋 菜穂子 、 出版  講談社
 「獣の奏者」、「守り人」シリーズの著者に長時間のインタビューをして出来あがった本です。モノカキ志向の私にとって、すごく刺激的な本でした。やはり想像力というのが大切なのです。そして、それは、幼いころの原体験がどれほど豊かなものであるかにもよると思いました。
 プロの作家は、お決まりの方程式を、いかに外すかを必死で考えている。
私にとっての当面の課題は、このお決まりの方程式をいかにして身につけ、展開していくのか、ということにあります。そして、さらに、本当の課題は、次にあるというわけです。
著者が幼稚園児のころ、白昼、おばあちゃんと一緒に歩いていたとき、「私、死ぬにが、こわい」と言った。おばあちゃんは、それに対して、こう答えた。
 「大丈夫、大丈夫。死んでも、必ず生まれ変わるから」
 おばあちゃんにそう言われると、そうか、大丈夫なんだ、死んでも、また、おかあさんの子どもになって、生まれてくればいいんだ。幼かった私は、そう思うことで、突然おそって来た死の恐怖から救われた。
 幼稚園のころエピソードをこんなに鮮明に覚えているのにまずは驚かされました。そして、この問答って、いいな、と思いました。やっぱり、人生における先輩は必要なんですよね。
 著者は、オーストラリアに渡って、アボリジニ(先住民)の人々に入って体験調査(フィールドワーク)をします。そこで得た体験が、著者の視野をぐーんと広げ、また深めたようです。
 物語を書きたいなら、ともかく、最初から最後まで書き終えること。はじめは起承転結を見つけるのさえ大変なこと。しかし、プロの作家は、そこにありきたりじゃない、自分だけの道筋を必ず見つけ出す。
 朝書いて、夜に書きはじめるとき、また読み直して、直す。そうやって、書いたところを繰り返し直していく。すると、そこから、また新しい根が出てくる。
 そうすると、あるとき、登場人物が何かを言ったのがきっかけで、次の展開が開けたりする。その物語を生きている人間たちが、その物語のあるべき姿を生み出していって、頭のなかで最初に想定してた形ではないところに連れていってくれる。
 私も似たような体験をしています。書きはじめると、自然に登場人物が動き出してしまうのです。止まりません。こう書いてくれよ、こんな流れにしてくれという感じで、それは止まらないのです。これって、本当に不思議な感覚でした。そんな思いで、私も、いま再び20歳代の気持ちに立ち戻って小説を書いてみたいという気分になっています。それにしても、この著者の多作ぶりには圧倒されてしまいました。
(2013年10月刊。1000円+税)

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