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カテゴリー: 人間

ゴリラの森、言葉の海

カテゴリー:人間

(霧山昴)
著者 山極 寿一・小川 洋子 、 出版  新潮社
とてもとても面白い本です。人間って、いったい何者なのか・・・、深く深く考えさせてくれる本でもあります。片やゴリラの研究第一人者にして、京都大学総長、片や今をときめく小説家。二人の会話が織りなす世界は縦横無尽、果てしないのです。
山極先生は、野生ゴリラの研究歴が30年以上。6歳のとき、2年間ずっと観察のため行動をともにしていたゴリラ(タイタス)と、26年後に同じ野生の森で山極先生が再会するシーンは印象深いものがあります。
34歳のタイタスは、ゴリラとしては、もうおじいさん。1回目に会ったときは、山極先生を思い出しません。でも、2回目に出会うと、「おや?ひょっとしたら、お名前は?」って顔をしたのです。ゴリラ研究者の山極先生は、ゴリラの挨拶の言葉を発することができます。5メートル離れたところから挨拶すると、タイタスもこたえます。そして、じっと山極先生を見つめます。すると、タイタスの顔がどんどん変わっていくのでした。そして、ついにタイタスは、その場に寝ころがって、手を上にして仰向けに寝るのです。これはタイタスの子どものころの寝方。そして、近くにいた子どもゴリラをつかまえて、遊びはじめる。そのとき笑い声までだした。
いやあ、感動的な場面ですね。26年たっても、昔、子どものころ、一緒にあそんだ人間を覚えてなつかしみ、子ども時代に戻ったというわけです。
ゴリラには、鼻の上に鼻紋という「しわ」があって、これは一生変わらない。指紋と同じ。タイタスは、鼻の上にTの字が刻まれて、くぼみがある。
ゴリラの群れの中に入っていくためには、ゴリラにならなきゃいけない。人間のようにちまちま動かず、ゴリラより早く動いてはいけない。山極先生がちょっと間違ったことをすると、「コホッ、コホッ、コホッ」ってゴリラは咳払いする。ええっ、ゴリラは間違いを優しく注意してくれるのですか・・・。
ゴリラは歌をもっていて、ハミングする。ゴリラの歌には2種類ある。一つは、すごく美しい、メロディックなハミング。これはゴリラが一人でいるときが多い。もう一つは、みんなで合唱する。みんなで食べているときだけに歌うもの。
ゴリラが胸を叩くときは手のひらで叩く。これは戦いの宣言ではなく、自分の意思を相手に危害を加えずに紳士的に伝えるために編み出したもの。
ゴリラは、ほかの動物と一緒に遊ぶことができる。ゴリラはペットを飼える。
大人のゴリラの2頭がケンカしているとき、仲裁に入ったゴリラは、お互いの顔をのぞきこんでお互いを傷つけあわないようにして仲裁する。
大人のオスのゴリラは、メスから、自分の子どもを預けられる、信頼できるオスとして認められなければいけないし、そのあと、子どもからも認められて、はじめて父親になっていく。ゴリラのオスとメスとでは、体重が2倍も違う。メスが100キロで、オスは200キロもある。
ゴリラには年子がいない。4年に一度しか子どもを産まない(産めない)。だから、3年くらい授乳している。ゴリラの赤ちゃんは、生まれたとき、わずか1.8キロ、ガリガリ。安産で、数秒で生まれる。そして、5歳で50キロになる。
ゴリラは人間と違って、過去にこだわらない。ゴリラには表裏がない。
いったん人間が飼ったゴリラを野生に戻すのは、ほとんど成功していない。それは、食べるというのは、子どものころ母親の食べるものから覚えるから・・・。
いやあ、考えさせることばかりでした。人間とゴリラ、どれだけ違うのでしょうか・・・。
毎日、男女間のドロドロとした紛争を「メシのタネ」としている弁護士生活を45年間もしてきて、つくづく思います。あなたに一読をおすすめします。
(2019年4月刊。1500円+税)

庭とエスキース

カテゴリー:人間

(霧山昴)
著者 奥山 淳志 、 出版  みすず書房
不思議な本です。エスキースって、下絵ということのようですが、私は知りませんでした。文章だけだと雰囲気がよく分かりません。初めと途中にカラー写真があって、なるほどと思うのです。
若い写真家が北海道で時給自足の生活を送っている老画家の丸太小屋に通って写真を撮り、話を聞いていったものが細やかに描写されています。
弁造さんが住んでいるのは北海道は石狩の先の新十津川という小さな町の外れ。
弁造さんは手づくりの丸太小屋に一人で生活しているのです。
丸太小屋は全体で10畳ほど。たった1部屋しかない。食事をつくるための流しと食事スペース、冷蔵庫、トイレとお風呂、クローゼット、ベッド、そして薪(まき)ストーブ。暮らしていくうえで必要なすべてがそろっている。このほかに、絵を描くためのイーゼルもある。
弁造さんは92歳で2012年4月に亡くなった。その2年前まで冬は薪で過ごしていた。そして、薪はきちんと長さをそろえ、風通しのよい薪小屋で保存されていた。
この本を読みながら、アメリカのソローという森の隠者の暮らしを想像していました。
森の中に1人で住むというのは本で、読むかぎりは詩情あふれて格好いいのですが、現実の生活を考えると、そんな単純なものではありません。自然にはたくさんの虫がいて、ときに刺されたりして、はれあがり、また、かゆくなります。
そして、ギックリ腰になったり、ヘルニアが出現して歩けなくなることもあるのです。年齢(とし)をとった人間の生活というのは、若いときのようには思うようにはなりません。
そして、何より問題なのは食生活。時給自足といっても、野菜だけでなく、肉や魚を食べたいときにどうしますか・・・。
そして、さらに大切なことは人間様との会話です。話し相手がいなくて、心の平静をずっと保てるのでしょうか・・・。
ひとり丸太小屋に生活するということの意味を考えると、いったい人間らしい生活とは何なのだろうか・・・と考えさせてくれる本でした。
見事な写真があって弁造さんのイメージもつかめることで、救いのある本でした。
たまには、こんな不思議な本を読んでみるのも、憂き世(浮き世)離れしていいかもしれないと思ったことでした。284頁もあり、値段も少し高いので、図書館で借りて読んでみてください。
(2019年4月刊。3200円+税)

日本人の起源

カテゴリー:人間

(霧山昴)
著者 中橋 孝博 、 出版  講談社学術文庫
アイヌは永らくコーカソイドの一員とみなされていた。しかし、最近の研究によると、アイヌとコーカソイドとの間には目立った近縁性はなく、それよりは本州以南の日本人をはじめとするアジア諸集団により近い関係にあることが明らかとなっている。今や、アイヌをモンドロイドの一員と位置づける見解がほぼ定着している。
そして、アイヌと琉球人の類似性が注目されている。
中世や近世の日本人はその身長がもっとも低くなり、全身が脆弱化していた。ところが、その後、日本人は都市部を中心として再び、高身長、高顔そして強い短頭へと変化した。
今では、顎が細くて手足の長い華奢(きゃしゃ)な、でなければ肥満体の若者が増える傾向にある。
縄文人は、相当な大頭だった。歯の磨り減りかたが激しく、顎のエラが張り出していた。これは、縄文人が現代人に比べて、はるかに物をかむことが多く、その力も強かったことを示している。
やわらかいものばかりを食べていると、アゴのかむ力が必要ないので、アゴは細く、キャシャになってしまう。
縄文前期の日本列島の全人口は2万人。それが、26万人あまりとなったが、近畿以西には1万人も居住していなくて、大半は東日本に集中していた。
ええっ、うそでしょ。日本の文明発祥の地である九州(と、私は固く信じています)にごくわずかな日本人しかいなかっただなんて・・・、信じられませんよね。
縄文社会では、東日本が圧倒的な優位性があった。なぜ、なんでしょうか・・・。それは、食物の豊富さの違いによるという仮説が立てられています。
日本人は、いったいどこから日本列島にやって来て、定着したのか、調べれば調べるほど、複雑怪奇になっていき、関心が深まりました。
(2019年1月刊。1280円+税)

不倫と結婚

カテゴリー:人間

(霧山昴)
著者 エスター・ペレル 、 出版  晶文社
私が25歳で弁護士になってまもなく驚いたことが三つありました。その一つが、世の中には不倫(浮気)はありふれた現象、日常茶飯事だということでした。男が浮気するとしても、相手は女性です。日本で妻の浮気が珍しいことでないことは、戦国時代の宣教師たちも観察して本国に報告していますし、江戸時代に書かれた『世事見聞録』にも生々しく描かれています。
不倫は、人と人との関係について、多くを教えてくれる。そもそも何をもって不倫とするかについて、普遍的に一定した定義というものはない。ただ、不倫が増えていることは誰もが認めている。
インターネットが発達した今日では、もはや浮気をするのに自宅を出る必要すらない。
現代の不倫は、2個人のあいだで交わされた契約に対する違反だという考えを基本としている。信頼に対する違反だ。
近年、不倫の新しいカテゴリーとして、「精神的不倫」が出現している。一般にはセックスをふくまない不倫を意味するが、むしろ第三の人物との度をこえた精神的な親密さゆえに、夫婦関係が悪化してしまうような関係をさす。結婚は、もはやかつての結婚ではなく、不倫もまた、かつての不倫ではなくなっている。
つい最近まで、夫婦の貞節と一夫一婦制が愛とはまったく関係ないものだった。それは、血統と世襲財産をはっきりさせるために女性たちに押しつけられた家父長制社会の大黒柱だった。
かつて、人々は結婚して初めてセックスをした。今、人々は結婚して初めて他の人とセックスするのをやめる。
ええっ、これって本当でしょうか・・・。日本でも、そう言えるのでしょうか。
不倫が発覚したあとに解き放たれる感情の嵐は、あまりにも壮絶だ。脅迫性反芻症、過覚醒、無感覚と解離、不可解な逆上、制御不能なパニックなど・・・。
今日の不倫の大多数はデジタル機器経由で発覚する。
私も弁護士として、まったく同感です。私立探偵による素行調査にしてもGPSをつかったり、スマホの調査など、証拠が明白というケースがどんどん増えています。
かつてのようなピンボケの白黒写真で、何がうつっているのかよく分からないのに私立探偵に100万円も支払わされたというパターンは少なくなりました。
夫婦のベッドで、あれほど面倒がっていた妻が、どうして突然、不倫ではいくらセックスしても足りないほど貪欲になれるのか、男たちにはとうてい理解できない。
妻は一刻も早くセックスが終わることを願う。愛人はいつまでも終わらないでほしいと願う。
結婚、家庭として母になることは、多くの女性にとって永遠の夢だ。しかし、そこはまた女性が女であると感じるのをやめる場所でもある。
性欲に関しては、実際には、男女のあいだで言われているほどの差はない。
人間とは、いったいいかなる生きものなのかをじっくり考えさせてくれる本でもあります。
(2019年3月刊。2000円+税)
東京・新宿でフィンランド映画『アンノウン・ソルジャー』をみました。
フィンランドは、1941年にナチス・ドイツと組んでソ連に対して国土回復の戦争を挑んだことがあったのです。まったく知りませんでした。フィンランドが1939年にソ連と戦った「冬戦争」に敗れ、カレリア地方をソ連に占領されたのを取り戻そうとしたのです。ひところはナチス・ドイツがソ連を圧倒していた勢いもあってカレリア地方を回復したのですが、やがてソ連軍に押し戻されてしまいます。この映画は、その前進と後退を最前線の兵士たちを生々しく描くことで見事に再現しています。大量の爆薬をつかった戦闘シーンの迫力は、さすがとうならせるものがあります。
いったい、自分たちは何のために生命を賭けて戦っているのかという問いかけが映画シーンに何度も登場してきます。
そして、本当に戦争とはむごいものだと実感させてくれる映像が続き、最後まで目を離すことができませんでした。
アメリカの言いなりになって、日本の若者を戦争に送り出そうとしている安倍首相の野望にはストップをかけなければいけない。改めてそんな決意をさせてくれる映画でした。

作家の人たち

カテゴリー:人間

(霧山昴)
著者 倉知 淳 、 出版  幻冬舎
モノカキを自称する私も、本当は作家になったり、ベストセラーを出して、ガッポガッポと印税を稼ぎ、世に作家として認められたい、そして文化勲章(文化功労章?)をもらいたいという夢があります。
でもでも、それに冷や水をぶっかけるのが、この本です。
本が書けない、書いても売れない、生活ができない、世間からだけでなく家族からも見捨てられ、ついに飛び降り自殺するしかない・・・、トホホの現実が嫌になるほど写実的に描写されています。
いやはや、やっぱり作家なんかにならなくて良かった。弁護士であり続けるようがまだましだった・・・、そう思わせてくれる本なのです。
20年ほど前から、出版界を覆う構造不況は、もはや限界に達していた。本が売れない、消費者が誰も本を買ってくれない時代になっている。これは、娯楽の多様化、若年層の人口減少、ネットの爆発的普及、といった原因が複合的にからみあった結果の出版不況なので、誰にも手の打ちようがない。本の出版部数は減り続け、本職の作家は困窮するしかない。出版社は手をこまねき、廃業する作家が続出している。
そんななかで売れているのは、テレビタレントが書いた本。ゴーストライターではなく、お笑いタレントが自分で創作して文章をつづった小説だ。
文学賞の受賞作は、著者本人の知名度やテレビでの活躍、あとは視聴者の好感度などを基準として選び出されるもの。選考委員が受賞作を読んでいるのは例外的・・・。
ええっ、う、ウソでしょ。いくら小説とはいえ・・・。井上ひさしは受賞策の選出過程のコメントまで本にしていますよ。いくらなんでも・・・。
本は、たしかにアイデアの勝負というところがあります。それまでにない、意表をつくテーマ、題材を文章化できたら、もちろん強いと思います。
そして、タイトルも大事です。松本清張はタイトルのつけ方が秀逸でした。井上ひさしもうまいです。いえいえ、山本周五郎も藤沢周平もうまいですよ・・・。
売れない作家を、どうやったら売れる作家に変身させられるのか・・・、私もぜひぜひ知りたい、誰か教えてほしいです・・・。
作家家業の苦悩が圧縮されている、私にとっては超重たい本でした。
(2019年4月刊。1500円+税)

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