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カテゴリー: アメリカ

続・アメリカ医療の光と影

カテゴリー:アメリカ

著者   李 啓充 、 出版   医学書院 
 アメリカで、なんら医療保険を有しない無保険者が年々増え続けているのも、「負担の逆進性」が医療保険制度の隅々に張りめぐらされていることが大きな原因。
 つとめていた企業をレイオフされたり病気で失職すると、収入が減るだけでなく、保険料負担に耐えかねて、無保険者になってしまう。
 医療保険制度を市場原理で運営したとき、弱者が容易に切り捨てられ、無保険者となってしまう事態は避けられない。弱者の典型は、高齢者・障害者・低所得者であるが、これらの弱者が医療へのアクセスを拒否される事態を放置したら、社会そのものの存立が危うくなりかねない。
 「アメリカの医療は世界一」というイメージとは裏腹に、ことアクセスに関しては、アメリカは先進国中で最悪である。無保険者が国民の7人に1人(4600万人)という現実は、それだけで悲惨だ。
 国民の6人に1人といわれるメディケイド被保険者(5000人)を潜在的無保険者として数えると、アメリカでは実に国民の3人に1人が無保険者あるいは潜在的無保険者になっている。
 アメリカが公的医療保険の運営に投じている税額は国民1人あたり年額2306ドルに上り、これだけで日本の一人あたり医療費総額2130ドルを上回る。
 アメリカの「2階建て」医療保険制度は、社会全体としてべらぼうに高くつく制度となっている。医療保険制度を市場原理に委ねることの愚かさは明らかである。
 1970年の段階では、カナダもアメリカも医療費支出はGDPの7%ほどで同じだった。しかし、国家として「公」の医療保険制度を整えてきたカナダが、現在、GDPの9%しか医療費に支出していないのに対し、頑迷に「民」の医療保険制度を保持しているアメリカはGDPの15%を支出するまでになった。しかも、カナダでは、国民の医療へのアクセスが完全に保証されているのに対し、アメリカでは国民の7人に1人が無保険者であり、「公」と「民」の医療保険制度は、21世紀の今、完全に明暗を分けている。
だから、GMなどアメリカの大企業のホンネは、ヨーロッパやカナダ、日本のような「公」の医療保険制度をアメリカにもつくりたいというところにある。
 しかし、それを拒んでいるのがアメリカの保険会社である。市場原理の下で、アメリカの保険会社は、健常者を優先的に保険加入させる一方、医療サービスの質と量に厳しい制限を課す「利用審査」とか、患者の受療意欲を削ぐためのあの手、この手によって「医療にお金を使わない」ことに全力を傾涙している。
 アメリカの民間保険に個人で加入したときの保険料は、たとえば年間160万円と、日本では考えられないような高額なものとなる。それでも、保険料が高くても加入できればまだいいほうで、既住疾患を理由に保険会社が加入を断ることを認めている州のほうが多い。たとえば、子どもがニキビで高価な抗生物質を使用したことが「既住疾患」にあたるとして、家庭全体の保険加入を断られる例が続出している。
 ところが、その一方で、保険会社のCEO(経営者)には、220万ドル(2億2000万円)のボーナスを払っている。日本の財界も同じシステム、超高給とりを実現しつつありますよね。労働者の非正規雇用を増やして、自分だけはいい思いをしようというのです。
 アメリカの50歳以上の壮・高年層は全人口の4分の1を占め、その半数3500万人がAARR会員である。このAARRが巨大なパワーをもって医療や年金を守っているアメリカの団塊世代に比べて、学生時代をヘルメットをかぶってゲバ棒をもって暴れ回っていた日本の団塊世代は、自分たちの命を守るべき医療がおかしな方向へ向かっていることに、なんでこんなにおとなしくしていられるのか、不思議でならない。
そうなんです。今こそ私たち団塊世代は怒りをもって声をあげ、行動に移すべきです。かつてのように首相官邸を大きく取り囲むべきでしょう。
 最後は、池永満弁護士との対談でしめくくられています。アメリカのように日本はなってはいけないと痛切に思いました。
(2009年4月刊。2200円+税)

政府は必ず嘘をつく

カテゴリー:アメリカ

著者   堤 未果 、 出版   角川SSC新書  
 アメリカって国は、とんでもない偏見にみちた国だと思います。なにしろ、国民皆保険を志向する人を「アカ」だなんていう、とんでもないレッテルを貼ってしまうのですから、始末が悪い。病気になったとき、大金持ちは救われても、そうでない人は野垂れ死にして当然だなんて、とんでもないことでしょう。ところが、それでいいのだと、大金持ちならぬ貧乏人が大きく手を叩いて支持するのです。なんという矛盾でしょうか・・・。
 アメリカで、がんは医療費が高すぎて、ほとんどの保険でカバーされていない。肺がんは手術代だけで1000万円をこえてしまう。
 うへーっ、1000万円だなんて・・・。医療費債務のために自己破産したというのは20年以上も前から聞いていましたが、ますます深刻になっているようです。
 2011年のイラク戦争は、アメリカ政府とマスコミが始めた戦争だ。2011年11月の終了宣言までに1兆ドルの税金をつぎこみ、のべ150万人が派兵された。4500人の戦死者と3万2200人の戦傷者を出した。帰還兵の2人に1人は脳障害や被曝に苦しみ、過半数を占める385万人が、今なお仕事に就けないでいる。
 イラク国内では100万人が死亡し、470万人が難民となった。
 国際機関IAEAは、原発推進、放射線利用の促進、核拡散分野での査察の3分野がある。その主目的は原発推進にある。
 日本の五大新聞はそろって、TPP推進という社説を書いた。人間の歴史をふり返ると、ファシズムをもっとも強力に生み育てるのは、いつだって大衆の無知と無関心だ。
答案用紙に正しい回答を書く能力は高くとも、批判的志向をせず、理不尽な権力に対して抗議せず、物事に対して好奇心や疑問を持たないロボットのような子どもたちが大量に生み出される社会。民主国家に不可欠の「市民」を育てる場所であるはずの教育現場が、市場原理を効率よくまわすための「従順な国民」をつくっていく。
テレビをみていると、人間の脳波は動きが鈍くなり、ある種の睡眠状態になる。冷静、客観的にものを考えることが難しくなる。その結果、人々は無意識に分断されていく。
 フェイスブックもツイッターも民間企業が運営している政策内容をぼかすという重要なステップは、ワンフレーズとセットでやってくる。
 アメリカでは、医療保険がないため4万人の患者が死に、保険がありながら100万人の被保険者が破産し、薬の副作用で30万人が生命を落としている。
 アメリカの危険な現実をつきつける本でした。
(2012年3月刊。780円+税)

リンチンチン物語

カテゴリー:アメリカ

著者   スーザン・オーリアン 、 出版    早川書房 
 テレビで「リンチンチン物語」をみたという記憶はありません。それより、「名犬ラッシー物語」のほうは、今でもはっきり覚えています。庭のある広い家の食堂で、少年が登場して新鮮なミルクを大きなグラスで腹一杯のんで立ち去る光景です。アメリカ人って、なんて豊かな生活をしているのだろう、そんな憧れを抱きました。
 このリンチンチンはジャーマン・シェパードです。ドイツで軍用犬として誕生して活躍していました。この本は、ジャーマン・シェパードの誕生から、戦場での活躍ぶりまで調べて詳細に教えてくれます。もちろんアメリカでの無声映画、トーキーそしてテレビのドラマに出演するまでも明らかにしています。犬派の私には、こたえられない一冊でした。
 第一次世界大戦には、1600万匹の動物が配置された。さまざまな種類の動物だ。イギリスのラクダ部隊は、何千頭もの気性の激しいラクダを誇っていた。騎兵隊は100万匹近い馬を使っていた。何千頭ものラバが荷馬車や梱包した荷物を引いていた。何十万羽もの伝書鳩が伝言を運んだ。
犬はいたるところにいた。ドイツでは1884年に世界初の軍用犬訓練学校が設立され、3万頭の犬が任務についた。アメリカ以外のすべての国が戦争で犬を利用していた。アメリカ軍が犬の価値を評価したときには、もはや手遅れだった。そこで、必要に応じて、アメリカはフランス軍やイギリス軍から犬を借りた。
 犬はメッセンジャーとして働いた。衛生犬とか救助犬として知られる赤十字の犬は、戦いの終わったあの戦場で活躍した。犬たちは、医療品を手に入れたサドルバッグをつけたまま死傷者のあいだを歩きまわった。死体犬もいた。犬は兵士が生きているか、死んでいるか、においで嗅ぎわけた。煙草犬もいた。煙草を詰めたサドルバックをつけたテリアは、隊員のあいだを回って煙草を配るように訓練されていた。
 世界中の人々がジャーマン・シェパードを初めて目にしたのは戦争で、だった。
 ドイツ軍は、犬を高く評価しており、犬は「重要な将軍」とみなされていた。
 リンチンチンは、1918年9月に第一次大戦の激戦地であったフランス東部の戦場で生まれた。
 1920年代、映画はほとんどすべてのアメリカ人の世界に根をおろしていた。アメリカ人2人のうち1人は、毎週、映画をみた。動物は映画で人気だった。人間に都合が良かった。すぐに手に入り、出演料を払う必要がなく、簡単に指示したり、自由に操ったりできた。
 リンチンチンは、たった一本の映画で有名になった。リンチンチンあてのファンレターが何千通も毎週、映画製作会社(ワーナー・ブラザーズ)に配達された。当時、テレビはなく、映画が新しいエンターテインメントの形だった。ヒット映画は、誰もが見たがるショーであり、全国的なイベントだった。リンチンチンが映画のスクリーンに登場するきっかけになったのは、その運動能力だ。しかし、スターにしたのは演技力だった。
 1920年代の半ば、映画ビジネスはアメリカの10大産業の一つに成長していた。人口1億1500万人なのに、毎週1億枚近いチケットが売れた。おもにリンチンチンのおかげで、ワーナー・ブラザーズは繁盛していた。
 オスカーは獲得できなくても、リンチンチンは始終ニュースにとりあげられていた。ペットの王、映画の有名な警察犬、奇跡の犬、スクリーンの奇跡の犬、世界一の奇跡の犬、傑出した知性をもつ犬、驚嘆すべき映画犬、アメリカでもっとも偉大な映画犬・・・・。
 初めてリンチンチンが有名になったころ、世界中の大半の犬はおすわりすらできなかった。犬は仕事をするものだった。羊を集めたり、見知らぬ人間に吠えたり。だが、行儀よく振るまうという考えは、まったく存在しなかった。犬は農場や牧場などの戸外で暮らしていたので、エチケットはほとんど要求されなかった。それもあって、リンチンチンの映画や舞台での行動は驚異的だとみなされた。
 1939年にナチス・ドイツの電撃戦が始まったとき、ドイツは20万匹の犬の軍隊を所持していた。ヒトラーは、ジャーマン・シェパードを溺愛し、同じベッドで眠らせていた。
 犬について、さらに認識を改めさせてくれる本でした。
(2012年5月刊。2500円+税)

二世兵士、激戦の記録

カテゴリー:アメリカ

著者   柳田 由紀子 、 出版    新潮新書 
 第二次世界大戦当時、アメリカにいた日系人がいかに行動したかを概観した新書です。
 明治18年(1885年)、日本政府は官約移民制度をはじめ、ハワイに日本人を送った。それ以降、9年間で3万人が3年契約でハワイに行った。出身地で多いのは広島、山口、熊本、福岡。私の父の出身地(大川市)からも移民が行き、成功して帰国すると、「アメリカ屋」と呼ばれました(今も、その子孫が八女にいます)。
 3万人の官約移民のうち1万4000人が日本に戻り、2000人がハワイで亡くなり、9000人近くがアメリカ本土に渡って、残る1万3000人がハワイにとどまった。残留率は4割。
 1941年12月の日米開戦のとき、ハワイには全人口42万人の4割15万8000人の日系人が生活していた。
 日米開戦により、アメリカ軍は2世兵によって第100歩兵大隊を編成した。「ワンプカプカ」と呼ばれた。「プカ」とは、ハワイ語でゼロのこと。アメリカは日系人を強制収容所に入れた。アメリカに忠誠を誓わない日系人が1万9000人近く、ツールレイク収容所に入れられた。
 戦争が始まると、日本では敵性語として英語が禁じられたが、アメリカは逆に必死になって兵士に日本語を教育した。この情報語学兵の中核になったのは日系2世兵である。
 アメリカの日本攻略の2本柱は、暗号解読と捕虜情報だった。
 アメリカ軍が獲得した5万人の日本人捕虜のうち、5000人の日本兵がアメリカ本土に送られた。
 ハワイ第100歩兵大隊は、ヨーロッパ戦線に送られた。イタリア戦線そしてフランスで目を見張る大活躍をして歴史に名を残した。上陸したとき1300人だった歩兵大隊が、激戦のあと、半分以下の521人までに激減してしまった・・・。
 モンテカッシーノの戦い、ビフォンテーヌの森の戦いが有名です。ナチス・ドイツ軍に包囲されたテキサス兵211名を救出するため、第100歩兵大隊は800名もの死傷者を出したのでした。
 決して忘れてはならない日系人の努力だと思いました。
(2012年7月刊。740円+税)

つながりすぎた世界

カテゴリー:アメリカ

著者   ウィリアム・H・ダビドゥ 、 出版    ダイヤモンド社 
 インターネットは便利ですが、その反面とても怖いものですよね。
 2008年9月に起きたリーマンショックは、世界を震撼させた。その中心地となったがアイスランドである。アイスランド人は、長いこと漁業という当たり外れの大きい職業を生業としてきたこともあって、もともと過剰に走る国民性だった。これはあてにならない気候から産まれた国民性だ。今回も、事態がどれほど深刻であっても銀行家たちは、どうにかなるさと一向にリスクをかえりみなかった。
 大恐慌が発生した1929年当時は、アメリカの人口1億2000万人のうち株式をもっていたのは、わずか150万人の富裕層に限られていた。証券市場の暴落によって直接的に損害を受けたのは、比較的少数にとどまった。もし、当時、インターネットがあったら、中流層まで職を失い、銀行が倒産するなど、被害はもっと拡大していただろう。
 今日では、インターネットのおかげで、株式所有は、はるかに分散している。一般的なアメリカ人は401Kや引退年金制度を通じて株式を保有している。10年前には、7000万人が株式を保有していた。2008年以降の株価暴落では、多くの米国国民が損失をこうむり、経済をまわす資産をもはや持っていなかった。
 個人情報が詐欺に悪用されたという事件が次々に発生している。今日では、収入を得たいと思っている高齢者の個人情報なら330万人分、がんやアルツハイマーなどを患っている高齢者のデータなら470万人分、55歳以上のギャンブル好きのデータは50万人が売り買いされている。
 2006年に有罪判決を受けた男性は、データベースに違法に侵入して、137件の検索を実行して、16億件にのぼるデータを盗み出した。
インターネットは思考感染を促す。ネオナチの集団はフェイスブックで会員集めをしていた。
 ネット上では、匿名で自分たちの教義や主義を広めることができる。
 インターネットの有用性は私も否定しません。でも、本当に必要な情報を、よくよくかみくだきながら取り入れることができるのか、いささかの疑問も感じています。つまり付和雷同型の、自分の頭で考えない人間を増やすばかりなのではないかということです。そこに根本的な疑問があるからです。
(2012年4月刊。1800円+税)

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