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カテゴリー: アメリカ

トレイルズ

カテゴリー:アメリカ

(霧山昴)
著者 ロバート・ムーア 、 出版  A&F
アメリカ東部には全長3500キロメートルという長距離自然歩道、アパラチアン・トレイルなるものがあるのだそうです。初めて、知りました。全長3500キロメートルというと、下関市から青森市まで歩いて、折り返して下関市に戻ったときに3000キロメートルだそうですから、とてつもない長さだというのが少し実感できます。
幅300メートルの自然保護区域が帯状につながっています。そして、ここを毎年200万人以上の人が歩いているとのこと。信じられません。
なぜ、そんなところを歩くのか・・・。道を歩くことは、世界を理解すること。
長距離ハイキングは、自分にとって現実的で必要最小限のアメリカ式歩行瞑想だ。
トレイルは、その制約のため、より深く考える自由を精神に与える。悟ることは出来なかったが、かつてないほど幸せで健康だった。
歩くペースは徐々に上がっていった。初めは10~16キロだった。それが、24キロ、そして32キロになった。しまいには、1日に48キロも歩いていた。
山のなかで半年近くすごしたあと都市に戻ると、都市は驚異であり、奇怪だった。徹底して人間の手で変形させられている場所だ。いちばんの衝撃は、その硬直性。直線と直角、舗装道路、コンクリートの壁と鉄の梁、政府の定めた厳格な規則。廃棄物があふれ、あらゆるものが壊れている。
なぜ歩くのか。納得できる答えは返ってこない。もちろん、理由はひとつではない。体を鍛えるため、友だちとの絆、野生に浸り、生を実感するため、征服するため、苦しみを味わうため、悟のため、思案に耽るため、喜びのため・・・。だが、何にもまして探し求めているのは単純さ、道がいくつにも枝分かれした文明からの逃避だ。
トレイルを歩く一番の喜びは、明確に境界を定められていること、毎朝、選択肢は二つしかない。歩くか、やめるか。その決断をしてしまえば、ほかのことは、あるべき場所におさまっていく。選択からの自由という新たな開放は大きな安心感をもたらす。
夏の原水禁止大会に向けた平和行進は、集団で歩くものです。また、日本全国を歩いて旅している人が昔(江戸時代にも・・・)も今もいます。
歩くことの意義を改めて考えてみました。毎日、せわしなくあるいていますが、実際には1日8000歩も歩けばいいほうです。
(2018年3月刊。2200円+税)

ターゲテッド・キリング

カテゴリー:アメリカ

(霧山昴)
著者 杉本 宏 、 出版  現代書館
大統領が暗殺を命じてよいのか。
裁判手続によらずして処刑するというのは許されることなのか。
アメリカが、その強大無比の軍事力でもって、他国の主権を無視してよいのか。
この本は、これらの疑問を考える素材を提供しています。
私は、いずれの問いにも、NON!否と答えます。
ターゲテッド・キリング(標的殺害)とは、国家が安全保障上の脅威と見なす人物を特定し、狙い討ちにすること。国家による無差別・大量殺害と対義の関係にある。
この本は、CIAの諜報員が戦場以外で「非公然活動」の一環として行う国家殺害を扱っている。アメリカ政府が影で糸を引いていることを分からないように工作して行う謀殺、つまり闇討ちである。
アメリカ軍は非公然活動には適さない。アメリカ軍も機密作戦を展開することはあるが、非公然活動にまでは手を染めない。これがペンタゴン(アメリカ国防総省)の公式見解だ。アメリカ軍のなかの非正規の特殊部隊が、身元を隠して非公然のブラックな隠密作戦を展開している。
9・11以前は、非公然にテロリストを殺害することには、暗殺という負のイメージがこびりついていた。しかし、2001年9月7日、ブッシュ大統領が署名した文書によって、対テロ標的殺害と計画・実行する権限をCIAに一括委託し、テロリスト狩りにゴーサインを出した。それで、CIAは、標的殺害のたびに大統領の許可を求める必要はなくなり、CIA長官が作戦の「最高指揮官」となった。
しかし、この戦術は、マイナス面も深刻である。いかに非公然型の標的殺害が効率的であったとしても、民間人の巻き添えによる犠牲は避けられない。オバマ政権当時の無人機攻撃(パキスタン)による民間人の犠牲者は600人を上回る。このうち70人前後が子どもだ。
アメリカとテロリストとのあいだでは、妥協の余地がないため、お互いの利害にもとづく「暗黙の了解」は成立しにくい。この新しいゲームには、ルールがまったくない。
対テロ戦争が拡大するなかで、CIAとアメリカ軍の活動、公然と非公然の境界があいまいになった。本来は文民の情報機関であるCIAが戦闘集団化し、無人機攻撃をひんぱんに行ったり、公然の軍事行動を本務とするアメリカ軍の特殊部隊が、CIAの非公然型と似たような対テロ標的殺害を多用したりするようになった。9・11の衝撃で、公然と非公然の境界が崩れだした。
非公然のテロ標的殺害によるテロリストの死者は少なくとも3000人と推定される。
標的殺害を実行するCIAの準軍事要員に戦闘員の資格が認められるのか・・・。答えは、ノーだ。CIAは軍隊の要件を満たしていない。
アメリカ軍の無人航空機は、2017年末に9347機もいる。アメリカ人の過半数が無人機をつかった対テロ標的殺害を支持している。さらに、無人航空機に標的を殺害すべきかどうかの判断がまかされようとしている。
ビンラディン殺害(2011年5月1日)は、無法地帯でも、自然が復活すると予期される状態でもないのに、裁判抜きの「処刑」が行われた。
アメリカが日本以外でやっている軍事作戦を容認すれば、同じことを日本国内でもアメリカ軍はやれるし、そのことを許すことになります。本当に、そんなことを許していいのでしょうか・・・。
知らないことは恐ろしいことです。知ったら恐ろしいけれど、まだ、この状況から逃れることを考える余裕があると思います。いかがでしょうか・・・。
(2018年3月刊。2200円+税)

ウルフ・ボーイズ

カテゴリー:アメリカ

(霧山昴)
著者 ダン・スレーター 、 出版  青土社
テキサス州のメキシコ国境の町に育つ少年たちが闇の社会に足を踏み入れていく経過をたどった、背筋も凍る恐ろしい本です。少年たちは、メキシコの麻薬カルテルに雇われ、対抗勢力に対する冷酷な暗殺者として働くようになりました。
ある青年はアメリカで警察官となり、麻薬摘発に生き甲斐、仕事の張りあいを感じていたが、やがて麻薬取引全体に及ぼす効果は、実はほとんどないことに気がついて、うんざりしてきた。麻薬の摘発率は、せいぜい2%から5%ほど。公式発表でも10%。密売人が逮捕され、服役する刑務所は麻薬取引の現場で押収したお金で運営され、捜査官の乗っている車は押収したお金で買ったもので、捜査官の残業代は押収したお金で支払われる。おとり捜査も、押収したお金を資金源にしていたりする。そして、いくつかある捜査機関同士が事件や資金を奪いあい、摘発やら起訴やらの功績をめぐって争っている。国境地帯での麻薬の取り締まりは、目的達成のためというより、州当局の功績のシンボルにすぎない。国境は劇場なのだ。
この町の高校に通う生徒は二種類いると校長は言う。麻薬ビジネスに進む者と、それを追いかける側になる者の二つだ。
警察の証拠保管室におかれた麻薬や現金、そして車が、別の場所で使われているということは、いくらでもあった。誘惑に負けた警察官は、もう一度やる。
密輸業者たちは賄賂をばらまいた。連邦司法警察にはいくら、そして、司法長官や警察署長にはいくらと決まった賄賂を手渡す。連邦犯罪抑止警察のボスと、連邦ハイウェイ警察のボスに対しては月に6千ドルから1万ドルを与える。警部補だと月3000ドルもの賄賂を受けとる。
メキシコでは、ペソの価値が下落するにしたがい、麻薬組織のために警護や密輸といった実際の労働を提供した。メキシコでは、警察官だけでなく、兵士までもが汚職に弱かった。
権力や階級の移り変わりが早いのが、カルテルの世界の特徴だ。刑務所を支配することが、いかに重要であるか・・・。
競馬は、資金洗浄をおこなうにはうってつけの方法だった。自分の住む地域に仕事がないと、銀行を脅して、お金を取りあげる。
メキシコの麻薬戦争のとんでもない実情が明かされます。私は見ていませんが、既に映画化されているようです。
仕事とお金がないことから、少年たちが麻薬カルテルに手先として雇われ、対抗するカルテルのメンバーを次々に暗殺していきます。死体はドラム缶に入れて灰になるまで焼き尽くします。
大物の犯罪者は逮捕されても、司法取引によって軽い罪ですみ、実行した下っ端は刑務所で一生を送ることになる。そして、少ない金額なら賄賂になり、莫大な金額ならクリーンな資金になる。
麻薬戦争の現場に踏み込んで、取材した著者によるものですから、リアリティーがありすぎるほどです。やっぱり麻薬は怖いです。人生を狂わせてしまいます。
(2018年3月刊。2400円+税)

炎と怒り

カテゴリー:アメリカ

(霧山昴)
著者 マイケル・ウォルフ 、 出版  早川書房
トランプ大統領って、本当に知性のカケラもない人間だということがよく分かる本でした。
わがニッポンのアベ首相と共通点がありすぎです。
トランプには良心のやましさという感覚がない。
トランプとクリントンのアウトローぶりは、二人とも女好きで、セクハラの常習犯だ。そして、二人とも、ためらいなく大胆な行動に出る。
トランプのスピーチは、だらだらと長く、支離滅裂で、すぐに脱線し、どう思われようがおかまいなしの主張の繰り返しだ。
これも、わがアベ首相の国会答弁そっくりです。答えをはぐらかし、質問とかけ離れた持論をだらだらと展開し、変なところで急に断定する。
トランプは、社交の形式的なルールを一切身につけていない。トランプは礼儀をわきまえているふりすらできない。
トランプの髪型は、頭頂部にある禿(はげ)を隠すために、周囲の髪をまとめて後ろになでつけ、ハードスプレーで固定して隠している。
トランプを相手に、本物の会話は成り立たない。情報を共有するという意味での会話はできないし、バランスよく言葉のキャッチボールをすることもできない。
トランプの率いる組織は軍隊式の規律からほど遠い。そこは、事実上、上下の指揮系統は存在しない。あるのは、一人のトップと彼の注意をひこうと奔走するその他全員という図式のみ。そこでは、各人の任務は明確ではなく、場当たり的な対処しかない。
トランプは文字を読まず、聞くこともしない。常に自分が語る側になることを好む。実際には、つまらない見当違いだとしても、自分の専門知識をほかの誰よりも信じている。
トランプは文字を読もうとしない。読み取る能力が乏しい。トランプには、そもそも読書の経験がない。一冊も本を読み切ったことがない。話を聞くにしても、自分が知りたい話にしか耳を傾けない。トランプは、公式情報、データ、詳細情報、選択肢、分析結果を受けとることはない。トランプにはパワーポイントによる説明など何の役にも立たない。
トランプは集中力の持続時間が、きわめて短い。
トランプ政権の矛盾は、他の何よりもイデオロギーに突き動かされた政権であると同時に、ほとんどイデオロギーのない政権もあるということ。
トランプは驚くほど、アメリカの重要な政策をなにひとつ知らないし、知りたくない。
アメリカ・ファーストとは、アメリカさえ良ければ、あとはどうなってもかまわないという意味なのだ。
トランプには、そもそも読書の経験がない。一冊も本を読み切ったことがない。
よくぞ、こんな低レベルの人物が偉大なアメリカの大統領になれたものですね。
トランプは、自分を律することが出来ない。政治的戦略と立てる能力も皆無だ。どんな組織のなかでも歯車の一つになれず、どんな計画や原則にも従うとは思えない。
不動産業界出身の大統領は、トランプの前には一人もいない。というのも、不動産市場は規制が緩く、多額の債務と激しい相場の変動に耐えなくてはならない。
ホワイトハウスに入ると、「完全に健康体の人間」でも、やがて老いぼれて不健康になっていく。
噂どおりの本で、面白く読みました。しかし、同時にこんな男が核ボタンをもっているかと思うと背筋が氷る思いです。
(2018年2月刊。1800円+税

ハッパのミクス

カテゴリー:アメリカ

(霧山昴)
著者  トム・ウェインライト 、 出版  みすず書房
 いろいろと大変勉強になりました。刑務所の処遇を非人間的なものにしておくことは、マフィア予備軍を養成しているようなもので、安上がりのつもりが、かえって社会的コストは高くつくことになる。なーるほど、です。
マフィアはフツーの商取引、たとえばゴミ収集・処理にも介入していて、2~5%の手数料をとる(5%のときには、政治家が2%とる)。これは、日本の建設会社と暴力団の関係と同じです。
コカイン(ヘロイン)のアメリカの得意客には、白人の中年女性が大きな比重を占めている。薬物依存症の人々だ。アメリカの医師がオピオイド系鎮痛薬を処方すると、その過剰処方によって薬物依存症の患者が生まれる。アメリカのヘロイン中毒者の3人に2人は、処方鎮痛薬の乱用から依存症にすすんだ。
 アメリカでは年間170万人が麻薬がらみで逮捕されていて、25万人が刑務所に収監されている。違法薬物との戦いに年間200億ドルを拠出している。1990年代以降、アメリカのコカイン常習者は150万人から200万人のあいだで推移している。
 コカインは世界各国で消費されているが、そのほとんどが南米の3ヶ国、ボリビア、コロンビア、ペルーに発する。コカイン畑の掃討作戦は成功をおさめてきたはずだが、実際には、コカイン市場は変わらず持ち直している。南米におけるコカの作付面積は25%も減少したが、生産効率の向上によって、コカインの量はむしろ3割ほど増加している。アンデス地方で軍が続けているコカ掃討作戦は、どうみてもムダでしかない。
メキシコでは麻薬カルテルの紛争激化で6万人のメキシコ人が死亡した。エルサルバドルでは対立していた2派が手打ちしたため、4000人ものエルサルバドル人が救われた。
ドミニカの刑務所には定員1万5000人のところに2万6000人が押し込まれている。殺人は日常茶飯事で、大量虐殺も珍しくない。
犯罪組織にとって、刑務所は人材の獲得や訓練の重要な拠点となっている。囚人は、犯罪集団に雇われ、訓練を受け、出所後の仕事を約束される。カリブ海諸国の犯罪者たちは、悪臭ただよう刑務所を求人センターとして利用し、人材確保の問題を解決している。
メキシコの刑務所では、囚人たちが、エアコン、冷蔵庫、DVDプレイヤー完備の贅沢な監房をつくっていた。
ラテンアメリカの刑務所の大半は軍や警察が運営している。この状況は悲惨だ。軍や警察の底辺の人々が仕事をしている。しかし、ドミニカ共和国は、従来の3倍の給料で職員を働かせている。そのため職員を買収するのは難しくなる。
劣悪で危険な環境に置かれると、囚人は身の安全や特権を求めて犯罪集団に加わる。刑務所を安全な場とし、職業訓練をほどこせば、出所後に犯罪以外の道に進む選択肢が生まれる。
麻薬密売人は、運び屋の家族の住所と氏名を確認している。裏切ったら家族への報復がある。
小物のギャングと巨大な組織犯罪グループが手を組む一番シンプルな方法はフランチャイズ契約を結ぶこと。ただし、これも、系列組織のたったひとつの大失敗がカルテルの上層部に大打撃を与えるというリスクがある。
違法薬物は、今ではインターネットのオンライン・ショッピングで簡単に入手できるようになっている。そして、その支払いはビットコインでできる。
なるほど、世の中はこうなっているのか、いろいろ考えさせられる本でした。日本でも広く読まれるべき価値のある本だと思います。
(2017年12月刊。2800円+税)

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