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カテゴリー: 社会

山岳捜査

カテゴリー:社会

(霧山昴)
著者 笹本 稜平 、 出版 小学館
先日、たまたまテレビを見ていたら、若いころ登山に熱中していたという老年の社長が、一緒に山に登った仲間が何人も山で死んでいったという話をしていました。
十分な準備をして、訓練もしっかりしていても、落石や雪崩にあって生命を落としたり、ほんのちょっとの慢心から転落したりして、大勢の若者たちが生命を失っています。
本人がその危険を承知で登山しているのですから、誰も責めるわけにはいきませんが、他からみていると、あたら生命をそんなに「粗末に」扱わなくてもいいのに…、と思ってしまいます。
私は冬なら、ぬくぬくとした布団で、ぐっすり眠っていたいです。
この本は、冬山で遭難している登山客の山岳遭難救助隊が主人公です。ご苦労さまとしか言いようがありません。
ヘリコプターを飛ばせたら簡単なんでしょうが、冬山の吹雪のなかではヘリコプターによる救出もできないのです。結局は地上をはって進むしかありません。でも、ホワイトアウト、周囲がまっ白になって何も見えなくなったら、どうしますか…。
この本には、たくさんの耳慣れない登山用語が出てきます。
セルフビレイ……自己確保。
プロテクション……墜落距離を短くし、墜落のショックをやわらげるために登攀者と確保者とのあいだにとる支点。
落ちることを恐れていては、大胆なムーブ(体重移動)を試みられない。壁を登るとき、体や気持ちが萎縮すれば、かえって危険を招きやすい。
ワカンをつけてもラッセルは腰くらいまであるが、下りは登りと比べてはるかに楽だ。
怖いのは、乱暴な動作で雪崩を引き起こすことだ。
テントが押し潰されたら耐寒性は低下する。そして、雪に埋没したら酸欠に陥る恐れがある。
テントには保温性と通性という二律背反する機能が要求される。あらゆる条件で、この二つの要素を満たす製品はない。
救難の現場では、心拍停止後、おおむね20分が蘇生可能な限界だと言われている。
山岳遭難救助隊は自らが遭難しないことを第一義として考え救助に向かっているという当然のことがよく理解できました。現場は遭難するのも当然という状況にあったりするわけですので、それはやむをえない発想だと実感しました。
殺人事件の謎解きのほうは、今ひとつピンと来ませんでしたが、山岳遭難救助隊の大変さのほうは、ひしひしと迫ってきて、よく分かりました。
(2020年1月刊。1700円+税)

経済学を味わう

カテゴリー:社会

(霧山昴)
著者 市村 英彦・岡崎 哲二ほか 、 出版 日本評論社
東大の教養学部(駒場)で経済学がどのように教えられているのかを本として紹介している本です。
東大生(1年生と2年生)に大人気で、教室に入りきれず、立見の学生まで出ているようです。私のときはサムエルソン『経済学』がテキストでしたが、さっぱり理解できませんでした。
この本でも計量経済学とか難しい数式が羅列しているところは読み飛ばしてしまいました。この本は、現代の経済学は何を、どのように扱っているのかを教えてくれます。
現代の経済学では、「市場に任せるだけでは十分ではない」と考えられている。
まことにそのとおりです。市場にまかせていればいいというのであれば、政府は不要です。
経済学では、すべての個人が自分の利益を追求して行動すると、結果的に社会全体が望ましい状態に落ち着く。これを厚生経済学の基本定理という。
市場は効率的である。ただし、市場は万能ではない。所得と資産は、一見すると似ているが、内面的な性質は大きく異なっている。資産はストックであり、所得はフロ―である。
各人の効用にもとづき、各人の幸福を最大限実現できる社会にしようと考えるのが経済学である。
実社会のなかの人々の行動の結果として得られたのは観察データ。
何らかの人為的介入のもとに作成されたのが実験データ。
開発経済学とは、経済的にも独立を果たすためにはどうしたらよいかという課題を解決するためのもの。この開発経済学は1990年代まで衰退していたが、この15年間で一気に復活した。2019年には、この分野でノーベル経済学賞を受賞した。
この流れの記述のなかで、バングラデシュの貧困地域で、公文(くもん)式学習法が子どもの算数能力を改善するのに抜群の効果を示したことが紹介されています。そして、アメリカでも、アジア系の人々のなかに公文式学習法は高く評価され、人気があるというのを別の本で読みました。
経済学といっても、いろんな対象を扱い、いろんな手法があることがざっと分かりました。なるほど、これなら大学1年生とか2年生に人気のある授業だと思います。
(2020年4月刊。1800円+税)
 大雨が降って大洪水となって大変でした。人吉ほどではありませんが、福岡県南部も被災者がたくさん出ました。2階にある私の法律事務所も雨漏りのため天井の一部が崩落するという被害が発生しました。
 いま、庭のあちこちにピンクのリコリスがすっくと立って咲いています。ヒガンバナ系統です。いつも夏到来を告げる花なのです。晴れ間のうちに、サツマイモの苗の手入れをしました。
 ヒマワリが少しずつ伸びています。炎暑の夏がやってきそうで、熱中症を本気で心配しています。

スマホの中身も「遺品」です

カテゴリー:社会

(霧山昴)
著者 吉田 雄介 、 出版  中公新書ラクレ
スマホは使えないし、使う気もない私ですが、世の中はスマホ「万能」かのような状況になっています。そして、スマホのなかに、何から何まで自己情報が詰まっているとしたら、それが本人が亡くなったあとどうなるのか、本書は鋭く問いかけています。
怪し気なサイトを利用していたことは知られたくないというのであれば、そんな情報は人知れず消えてなくなればいいだけです。ところが、積極財産に関するものであったとしたら、相続人にとっても大損失を蒙ることになります。なんとかして情報を再現しようとするのも当然です。ところが、それが意外にも簡単なことではないというのです。では、どうしたらよいのか…。
いま、遺品は目に見えているものだけではない。スマホやパソコンの中に保存されている写真やメール、各種のデータ、インターネット上にあるフェイスブックやツィッターといった自分のSNS頁などもれっきとした遺品だ。これらは、いわゆるデジタル遺品。
スマホのセキュリティは、かなり堅牢だ。データは暗号化されていて、特殊な鍵を用いて開かないと取り出せない。パスワードが分からなければ、第三者には開けない。FBIでも他人のスマホは開けなかったほどだ。
FX取引で遺族宛に高額の請求書が届くことは、めったにない。しかし、逆に仮想通貨交換業者に相続人が自己のものとしてできるのかということが問題になる。遺族が秘密鍵を知らないと、そのまま引き出せないことが起こりうる。ところが、税務当局は価値あるものとみなして相続税をかけてくるという悲劇が起こりかねない。
契約者本人が亡くなったら、その時点で残高を保有する権利は消滅してしまうという約款のものは多い。つまり、相続人に権利を渡すことは想定されていないのだ…。
著者は、やってはいけないことを指摘しています。①使用中のスマホをすぐ解約してしまうこと。②全体像を見る前に個別の処理をすすめていくこと、これらは、まずいこと。
スマホの中身が「遺品」だとして、その扱いに悩むことになるようです。
(2020年1月刊。880円+税)

トラックドライバーにも言わせて

カテゴリー:社会

(霧山昴)
著者 橋本 愛喜 、 出版 新潮新書
トラック業務は、給料が安いのに過酷な仕事の代名詞となっている。
ドライバーの高齢化はすでに始まっている。50代以上で41%、60代以上だけでも16%。
トラックドライバーの職業病は、腰痛、睡眠障害、便秘そして歯の悪い人が非常に多い。ドライバーの喫煙率はかなり高い。
トラックドライバーの眠気対策は…。スルメをかむ。窓を開ける。飲み物、炭酸飲料、身体に刺激を与える。頬・腹・腿を叩く。居眠り防止センサーを取りつける。歌う。無料通話アプリで会話する。寝る。女性のあえぎ声を聞く。いやあ、いろいろあるんですね。
車内を常に少し寒くしておく。とくに足を温めるとすぐ眠くなるので、温風は足元にあてない。食事は少量にとどめる。
外国人のトラックドライバーは今後も増えないだろう。言葉の問題もあるし、試験は難しいし、日本的ルールも多いので…。女性には過酷な仕事。
トラックドライバーには延着が許されないのと同じく早着もやってはいけないこと。なので、「休憩」と称する時間調整を少し離れたところの路上でせざるをえない。
大型トラックは、どんなにアクセルを踏んでも時速90キロ以上は出せない。
日本の貨物輸送の9割以上はトラックが担っている。
宅配便取扱量は43億701万個(2018年度)。そのうち、トラック運送は99%にあたる42億6061万個。つまり、日本の経済はトラックによる物流が支えている。
そんなトラック運転手の過酷な実情を知ることができました。体験者が語っているので説得力があります。この本の要旨を私が依頼者であるトラック運転手に紹介したら、まったくそのとおりだと言ってくれました。
(2020年3月刊。760円+税)

秘密資金の戦後政党史

カテゴリー:社会

(霧山昴)
著者 名越 健郎 、 出版 新潮選書
冷戦期に活動した自民、社会、公明、民社、共産5党のうち、公明党を除く4党はアメリカとソ連から政治資金をひそかに導入していたことが、冷戦後解禁された米ソの公文書で判明した。疑惑が浮上すると、各党とも受け入れを全面否定し、日本共産党を除いてまともに調査しようともしなかった。
この本は、このことを詳細に紹介しています。その意味では、既に明らかになっていたこと詳しく裏付けているものです。ただし、岸信介については、アメリカの公文書が今でも全面解禁されてはいないようです。よほどの事情があるようですね…。
そして、共産党の野坂参三・元議長についても、アメリカのスパイ(情報提供者)だったことも、疑いにとどまっているとのことです。歴史においては、依然として闇のままというのは多いのですね…。
1963年、原水禁運動の対立のなかでソ連は日本共産党への資金援助を打ち切り、日本社会党に乗り換えた。
共産党の公式見解は党としてソ連に資金を要請したことはないし、党の財政にソ連資金が流入したこともないというものです。
岸信介については、CIAの暗号名すら今もって判明していない。それだけCIAとは深い関係にあったことを疑わせる。
野坂参三はキヨナガというCIAの「サムライ作戦」の対象になっていた。これまた、私は知りませんでした…。
CIAは、後藤田正晴とは深い関係を築いていた。
自民党へ投入されたCIA資金は54億円。今の価値にすると、10億円以上。
岸信介は、駐留米軍の撤退を求めたことからそれまで重用されていたものの、簡単に見捨てられた。これは、吉田茂と同じパターンだ。
吉田茂は、日本の急速な再軍備に反対したことから、アメリカが吉田を嫌い、退陣に追い込まれた。
CIAと自民党のあいだで行なわれたもっとも重要なやりとりは、情報とお金の交換だった。
アメリカはCIAを通じて、自民党に対して毎年200万ドルから1000万ドルの資金供給が定着し、慣例となっていた。自民党への資金の流れはCIAと駐日大使という二大ルートがあった。
大平正芳は、池田内閣の官房長官のとき、アメリカのCIAから「選挙に必要なら軍資金を供給する」という申出を受けたことがある。しかし、外国のお金は受けとれないと断わった、と述懐した。
CIAは首相官邸経由でも資金援助を行い、ハワイが受け渡しの場所だった。
アメリカの自民党への援助額は36億円とか54億円という、とんでもない巨額だった。これに比べると、ソ連から日本共産党へ提供されたのは9千万円であり、桁違いに小さい。
日本共産党へは1960年ころ、年に5万ドルとか10万ドルとされていた。
共産党は、これは野坂参三と袴田里見が個人的に受けとったものだと説明している。
そして、日本共産党の野坂と春日正一の会話までアメリカのCICに通報されている。つまりアメリカのスパイが共産党本部のトップ周辺にいたというわけです。
野坂参三がGHQのリベラル派のケーディズともよく会い話をしていたというのも初耳でした。世の中、知らないことは多いものですね…。
(2019年12月刊。1500円+税)

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