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カテゴリー: 社会

ある日の入管

カテゴリー:社会

(霧山昴)
著者 織田 朝日 、 出版 扶桑社
マスコミが報道しない、知られざる入国管理庁の実態をマンガでリポート。これはオビにあるキャッチフレーズです。本のサブタイトルは、外国人収容施設は生き地獄。
信じられないヒドイ処遇です。マンガなのでイメージがよくつかめます。そして、このマンガはプロの漫画家が描いたものではありません。本人が言うとおり稚拙な絵です。それだけにかえって迫真力があります。
東京は港区港南に東京入局管理局のビルがあり、建物の7階から上が収容施設になっている。近代的な外見の高層ビルだが、その内側は前近代的。
茨城県牛久(うしく)に収容送還専用の施設がある。JR牛久駅から路線バスで30分以上かかるところにある。2019年春、牛久の入管では、収容者による抗議のハンストがあり、最大時には100人もの収容者が参加した。
コロナ禍の下で、被収容者が解放され、2020年4月に224人いたのが、2021年2月には100人未満となった。その判別基準は明らかにされていない。
2020年6月にやってきた若い男性常勤医は驚くほど高圧的。
「犯罪者、私のいうことが絶対だ。嫌なら国に帰れ」
そして、制圧を先導し、自らも被収容者の身体を押さえつけたりしている。さらには、シャワーを2週間も使わせなかったり、外部からの差し入れを認めなかったり…。
入管当局は被収容者に対して「ルール違反」と言うけれど、本当は日本のほうが、世界の、国連の難民を受け入れのルールを守っていない。
被収容者たちは、「私たちは人間です」と叫んでいる。
入館の職員から「戦争がない国から来たのだから、難民じゃない」と言われたフィリピン女性がいる。フィリピンで反政府活動をしていたのに…。
難民認定の要件は、戦争があっている国に人に限られているわけではない。イラクやシリアなど、実際に戦争があっている国から来た人でも、日本はめったに難民として認めない。
日本の2019年の難民申請者は1万人をこしている(1万375人)。ところが、認定されたのは、わずかに44人。なんと認定率は1%にもならない(0.4%)。これは異常。ヨーロッパ諸国は毎年数万人の難民を受け入れている。
入管法違反は1万6千人超。そのうち不法残留が1万4千人超。不法入国は400人超で、不法上陸は140人。つまりビザのない外国人のうち不法入国はわずか3%のみ。
大半は、正規の観光ビザで入ってきて、オーバーステイになった人がほとんど。
高度成長期には、日本政府はビザを発給せず、黙認していたので、ビザがなくても警察につかまることはなかった。ところが不景気になったので、急にビザがないので犯罪者扱いするようになった。
日本の社会は、すでに、外国人労働者がいなければ機能しないようになっている。それなのに、外国人を差別したり、犯罪者視するのは人道に反するだけでなく、日本(人)にとってもマイナスになる。
入管に収容されているうちに亡くなる人が19人いる(1997~2021年)。大半は自殺または病死。2019年6月にはナイジェリア人男性がハンストを続けた結果、餓死してしまった。
入管の職員にひどい人が少なくないことは事実のようですが、なかには被収容者と仲が良く感謝されている職員もいるとのこと。マンガでも紹介されています。
目の前の仕事をこなしているだけで、入管制度について分かっていない職員がほとんどだと著者は書いています。きっとそのとおりなのでしょう。残念です。だったら、国民世論をぶつけるしかありませんね…。知られざる実態を広く世の中に知らしめる、いい本です。
(2021年2月刊。税込1430円)

使うあてのない名刺

カテゴリー:社会

(霧山昴)
著者 桃井 恒和 、 出版 中央公論新社
読売新聞の社会部記者から巨人軍社長になった著者のエッセイ集です。
この本を読んでいてもっとも驚いたのは、中国大陸での抗日戦の主役だった八路軍(パーロー。中国共産党の軍隊)の聶栄臻(じょうえいしん)将軍が日本人孤児の少女とツーショットでうつっている有名な写真がありますが、その少女を探りあてたのが著者だったという話です。ときは1940年(昭和15年)の写真です。
調査の結果、満鉄グループの華北交通の駅の助役夫婦が亡くなったことが判明し、その夫婦に美穂子という長女がいるというので、宮崎県都城市まで将軍とツーショットの写真をもって会いに行ったのです。すでに40年たっていて、本人には当時の記憶は何も残っていない。ところが、アルバムを見ているうちに、やっぱり間違いないと確信し、美穂子さんに将軍あての手紙を書いてもらった。そして、「写真の少女は私です」という大きなスクープ記事となって、美穂子さんは中国に招待され40年ぶりに将軍と再会したのでした。
私も、この写真は何回も見ていて知っていました(最近も福岡で展覧会が開かれていたと思います)。新聞社の取材力というのはすごいですね…。
著者が読売新聞の社会部長をしていたとき、新宿の歌舞伎町にある雑居ビルで火災が起き、44人が亡くなったが、死者の多くがキャバクラ嬢だった。この犠牲者を実名で報じるか匿名にするかというとき、悩んだあげく実名にしなかったというのです。
キャバクラ勤めは不名誉なことなのかという疑問を抱きつつも、遺族は、娘がキャバクラ嬢をしていて非業の死をとげたことが世間に知られたら、二重に悲しませることになりはしないか…。
私も、匿名にして良かったと思います。これは職業に貴賤なし、というのと違ったレベルの問題だと考えるからです。
著者が今、嫌いなものは三つ。ヘイト・スピーチ、ネット上にとびかう匿名の誹謗中傷、そして、上から目線の「寄り添う」という言葉の安易な使い方。いずれも、まったく同感です。
著者が読売巨人軍の球団社長に就任するときの話もまた衝撃的です。
「巨人軍のスカウト活動で不祥事があり、球団の社長も代表も辞めることになった」
上司はこう言って、一枚の紙を目の前に置いた。新しい球団社長が著者になっている。
「いつからですか?」
「明日から」
うむむ、人間社会の人事って、そんなこともあるのですね…。
ところで、この本のタイトルの意味は…。
著者が巨人軍を離れたのは、選手の野球賭博が発覚した責任をとっての突然の辞任。名刺はもう使えない。使うあてのない名刺を処分し、肩書のない名刺をつくってみた。でも、今度は使う勇気がない。
たかが名刺、されど名刺…。
もちろん私は弁護士という肩書のついた名刺を今も使っています。相談者の心配を打ち消すのに必要だと思えば惜し気なく、何枚だって名刺を渡します。でも、こんな人とは関わりたくないなと思ったら、決して名刺は渡しませんし、相談料もいただきません。
日弁連副会長としての苦楽をともにした須須木永一弁護士(横浜市)と同級生だということで贈呈していただきました。心にしみる話ばかりです。ありがとうございました。
(2019年2月刊。税込1760円)

「低度」外国人材

カテゴリー:社会

(霧山昴)
著者 安田 峰俊 、 出版 角川書店
「低度」外国人材とは、「高度外国人材」というコトバの反対にあるもの。
政府は高度外国人材を次のように定義している。学歴や年収が高くて年齢が若く、学術研究の実績や社会的地位をもち、日本語を流暢に話せて、イノベイティブな専門知識をもつ人たちのこと。日本の国家は、こういう人を歓迎する。
では、「低度」外国人材とは、容易に代替が可能な、劣位の人材で、日本の産業にイノベーションをもたらさず、日本人との交流もなく、専門的・技術的な労働市場の発展を促すこともなく、日本の労働市場の効率性を高めることもなく働いている人材。
日本国内で働く技能実習生は41万人、うち過半数の22万人近くがベトナム人(2019年末現在)。
2018年の1年間に失踪した技能実習生は9052人、2018年は8796人。そのほとんどが、あまりの低賃金に嫌気がさしたことによる。逃亡した技能実習生は、偽造の在留カードなどを使って建設現場などで働く。技能実習生のときに9万~12万円ほどの手取り月収が15万~20万円ほどになる。
不法滞在者やドロップアウトした偽装留学生たちのベトナム人たちが自称するのは「ボドイ(兵士)」だ。
われわれは労働力を招いたのに、来たのは人間だった。
このよく知られたフレーズが、ことの本質をよくあらわしていると思います。
群馬県南部の太田市・伊勢崎市・舘村市にはベトナム人が多く住み、群馬県大泉町には日系ブラジル人が多い。埼玉県西川口市には中国人タウン化している一帯がある。蕨(わらび)市にはクルド人、八潮(やしお)市にはパキスタン人のコミュニティが存在する。
いずれも、横浜や長崎の中華街をイメージしたらよいのでしょうか…。
日本国内にイスラム教のモスク(寺院)が、36都道府県で105ケ所ある(2018年末)。
ベトナム人実習生が住んでいるアパートかどうかを見分けるには…。
建物の前に自転車が異常にたくさんある。雨の日でもベランダに洗濯物が出ている。外出するときの服装は、ジャージとフード付きのパーカー。
ベトナムで働いたら、月収はせいぜい4万円から5万円くらい。逃亡したら月収が3倍になり、月に10万円をベトナムの親に送金できた。偽造書類は1枚につき数万円で購入できる。
日本で犯罪に走るベトナム人は、高額の学費を支払えない(支払いたくない)ドロップアウトした留学生と、逃亡した技能実習生が半分半分。
ベトナム人の犯行の手口はスーパーでの万引きが多い。私も2回ほど弁護人として体験しました。
日本に「合法的」に滞在して稼ぎを続けたいときには偽装結婚もある。
非正規雇用とあわせて外国人労働者の問題を抜きにして、日本の今後の労働運動をとらえることはできません。この点の理解が私たちにはまだまだと思いました。
(2021年3月刊。税込1980円)

あしたの官僚

カテゴリー:社会

(霧山昴)
著者 周木 律 、 出版 新潮社
いまどきのキャリア官僚の苦労話を描いた小説です。
20代の若手官僚が次々にドロップアウトしているそうです。忖度(そんたく)させられ、先輩官僚たちのぶざまな国会答弁の様子を直近で見せつけられたら、やってられませんよね。
内閣人事局が官僚の幹部人事を一元管理して支配するようになり、クロをシロと言い替えさせられても、それに抵抗できず、ヘイコラ従うしかないなんて、プライドが許せませんね。
しかも、政権トップが平気でウソをつく(アベ前首相)、まともな日本語で政策を説明できない(スガ首相)の下支えをさせられるのですから、やる気なくしてしまいます。
東大法学部は官僚の一大供給源でした(です)が、今では、官僚志向が急減しているとのこと、当然です。でも、笑ってすませてはおれません。官僚の質が低下したら、日本の政治の質が悪くなる一方ですし、ますます権力的発想ばかりになって苦しめられるのは、私たち一般国民です。
この本の主人公は、厚生労働省の若手キャリア官僚です。
霞ヶ関には、ポンチ絵なる業界用語がある。A4版のペーパー1枚で、図表(マンガイラストとグラフ)と簡潔な文章だけのプレゼン資料のこと。日弁連執行部も、国会議員向けにポンチ絵を作成しています。うまくポンチ絵をつくれる人がいて、何度も驚嘆しました。
霞ヶ関の人間(国家公務員)は、国会答弁より以上に、質問主意書を嫌っている。国会法によって内閣は7日以内に答弁しなければならないと定められているからだ。閣議を通す必要があるので、官僚は大変な作業になる。
日本の政治の劣化はひどいと私は思いますが、それを許しているのは、実は投票所に足を運ばなくなった多くの日本人です。今では投票率は良くて5割前後でしかありません。半分ほどの日本人が、あきらめ、政治に期待せず、投票所に行っていません。それが、今の自民党の金権政治を許していること、庶民いじめの政治を野放しにしていることに気がついていないのです。本当に残念です。
コロナ対策にしても、PCR検査をまともに実施せず、ワクチン接種は遅れ、飲食店に自粛を強要しながら給付金の支給は遅れ、感染しても入院できる病院がない、ホテルも確保されていない。なのに、保健所も病院も削減・減少の方針は堅持し、高齢者の医療費も2割負担となる。とんでもない政治が続いています。オリンピックを強行するのも、どうせ投票所に行かない人が半分以上いるんだからと、権力側はタカをくくって笑っているのです。
投票率が7割以上になれば、もう少し日本もまともになると思うのですが…。
(2021年3月刊。税込2090円)

鳴かずのカッコウ

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(霧山昴)
著者 手嶋 龍一 、 出版 小学館
盲腸のような役所であり、おおっぴらに廃止論が出ていて絶滅寸前だったところをオウム真理教が救ったと言われているのが公安調査庁。その長官は法務省の検察官の指定ポストであり、私の同期も長官になりました。
「オレたちは防衛省の情報部門のように最新鋭の電波傍受装置や大勢の傍受要員は持っとらん。外務省のように何千という海外要員を在外公館に貼り付けることもできん。警察の警備・公安のように全国に厖大な数のアシもない」
「公安調査官には、ヒトもモノもカネも満足にない。いわば三無官庁やな。なによりイギリスのMI6やMI5がイギリス国民からうけているようなリスペクトを受けとらん」
「オレたちは、みな戦後ずっと鳴かずのカッコウとして生きてきた」
これでタイトルの意味がやっと分かりました。公安調査庁の別名なのです。
この本では、「現場での地道な調査を得意とする公安調査庁」として、好意的に紹介されています。本当でしょうか…。
私が司法試験に合格したあと、司法研修所に入所するまでのあいだに、公安調査庁の調査官が私たちの身元調査をしていました。それは家族構成というより、政治的な思想信条の傾向を調べることに主眼があるものです。今は、もうやっていないのでしょうか…。
公安調査官の給与は、一般の行政職より初任給で2万5千円ほど多く、率にして12%も高い。
自分が何者であるが、公にできない職業。その代償として報酬が上乗せされている。
初対面の相手に堂々と身分を名乗れず、所属する組織名を記した名刺も渡せない。
携帯番号からアシがつかないよう、公安調査庁は調査官の身元が割れないよう、安全な携帯電話を確保している。
公安調査官による尾行の様子が次のように紹介されています。
一番手は、マル対(監視対象者)にぴったりと寄り添って尾行する。接近戦を担うものには瞬発力、さらに機敏な判断力が求められる。二番手の尾行者は一番手を常にフォローして、マル対を見逃さないのを主たる役目とする。尾行時間が長くなると、タイミングを計って一番手と交代する。三番手は、現場責任者をつとめる。ゲンセキと呼ばれ、全体の状況を見渡せる場所に身を置いて指揮をとる。プラス・ワンの4番手は、予備要員。前の三人が尾行切りにあったときの切り札だ。
著者は、9.11のとき、NHKワシントン支局長でした。その経験をふまえた、軽くさっと読める小説になっています。でも、公安調査庁って、本当に必要な役所なのでしょうか…。
(2021年3月刊。税込1870円)

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