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カテゴリー: 社会

新・日本のお金持ち研究

カテゴリー:社会

著者 橘木 俊詔・森 剛志、 出版 日本経済新聞出版社
 面白い本でした。日本の金持ちの実情を知ることができました。
 弁護士は、所得という点では意外と冴えないことも分かったとされています。なるほど、それは日頃の実感としてよく分かります。
 高額所得者には医師が多いが、それも整形外科、美容外科、眼科などの科目に多いのであって、勤務医の所得はそれほどでもなく、かつ勤務医は所得も高くないうえに労働条件が過酷である。いやはや、実にそのとおりですよね。私は医師にならなくて良かったとしみじみ思っています。
 この本には、資産1億円以上の金持ちの居住マップが東京、大阪、愛知、兵庫、福岡などについて示されていて、そこにある高校も図示されているのが大きな特徴です。
 福岡には、年収1億円以上の金持ちは200人もいない。これは、愛知県や神奈川県の半分以下だ。なるほど、そうかもしれませんね。
 日本の金持ちの二大職業は企業家と医師である。そしてその職業では、同じ職業を子どもも継いでいる確率が高い。
 お金持ちは質素で堅実な消費行動をとっている。その3分の2は「こだわり派」である。
 一般の日本人の場合、商品のへのこだわりが低い「何も考えない消費者」が圧倒的多数であり、7割を占める。しかし、お金持ちは一般人とは逆に商品に対してこだわる。
 お金持ちは商品にこだわるものの、選択に時間はかけない。高価でも、いつもの店でいつもの店員からいつもの決まったブランド品を購入する。うむむ、そうなんですね。私も少しだけ似ています。
 高級ブランド品を販売するなら、そのターゲットには、ちょっと背伸びした中流階層向けに販売戦略を練るのが賢明である。
 本物の富裕層の圧倒的多数の趣味は、投資・資産運用である。
 年収1億円以上の金持ちの平均資産は54億円と巨額である。しかし、親からの相続とは関係がない。日本人は株式への投資が8%と少ない。アメリカでは33%もある。現金預金保有率は53%もある。アメリカは13.5%でしかない。
 お金持ちの6割は、子どもを私立に進学させている。
 お金持ちを分析すると、日本のもう一面が見えてきますね。
(2009年2月刊。1600円+税)

奄美の「借金解決」係長

カテゴリー:社会

著者 禧久 孝一、 出版 光文社
 先日、北九州で開かれた全国クレサラ被害者交流集会のとき初めて本人にお会いし、少しだけ話させていただきました。実直・頑固な信念の男というイメージそっくりの方でした。この本は交流集会の会場で買い、すぐに読んでしまいました。
 実は、私はまだ奄美大島に残念ながら行ったことがありません。一度は行ってみたいと思うのですが、果たせません。ちなみに、石垣島にも屋久島にも行ったことがありません。なんとかして、いずれ行くつもりです。
 著者は、奄美市役所で市民生活係の係長をしています。
 1日に10~20本の電話相談を受け、3~4人の相談者に対応する。
 ケータイは年中無休、24時間体制で稼働している。
 いやはや信じられません。超人的な活動です。身体を壊さないようにしてくださいね。
 多重債務者は社会構造のなかで生まれた被害者である。誰が好き好んでサラ金やヤミ金に足を運ぶか。そうせざるを得ない状況に追い込んだ元凶は、今日の社会構造にある。それなのに、多重債務者は社会を恨むでもなく、悪いのは自分だと思い込んで、10年も20年もコツコツと違法金利による借金の返済を続けている。
 いやあ、この点、まったく同感です。
 妻が夫に内緒で借金をしてしまったとき、「まず、ご主人に相談しなさい」と突き放す弁護士がいる。しかし、それは一番やってはいけないこと。なぜなら、何年ものあいだ、ご主人に借金を隠し続けてきたこと自体が大きな苦痛なのに、「打ち明けなさい」と言われると、さらに新たなプレッシャーを与えることになるから。
 苦しんでいるときに、そんなプレッシャーを与えると、それが自殺の引き金になりかねない。というより、自殺の確率をぐんと高めてしまうことになる。だから、ご主人に打ち明けることを強要しない。本人が内緒にしたいのなら、その希望に沿うようにする。
 実は、私も同じようにしています。もちろん、ご主人に打ち明けることを一応すすめます。それでも内緒にしてほしいと本人が言い張るときには、ファイルに「家族に内緒」と朱書きし、弁護士名での封書は出さず、電話でも弁護士だと名乗らないようにしています。
 奄美では、弁護士が問題を起こして裁判にまでなっています。相談者に対して威圧的であったり、冷淡であってはいけない。冷たく居丈高な弁護士では、怖くて近寄ることができない。人格を全否定するような言い方はやめてほしい。
 大変もっともなことが極力抑えた筆致で説かれています。耳を傾ける必要があります。
 借金整理にあたって、次の三つを約束してもらう。
一つ、ウソをつかない。
二つ、事実を隠さない、
三つ、指示されたことはきちんと実行する。
 この三つさえ守っていれば、借金をすっきり綺麗に整理して、人生の再スタートを切ることができる。
 まさしく、そのとおりだと思います。すんなり読める、いい本です。
 
(2009年11月刊。1238円+税)

ギャンブル依存とたたかう

カテゴリー:社会

著者 帚木 蓬生、 出版 新潮選書
 現在の日本には、アルコール依存症者が400万人、自己破産者が年間20万人ほどいるので、ギャンブル依存者は200万人はいると見積もることができる。そして、その周囲に、ギャンブル依存者によって苦しめられ、悩まされる家族や親類、知人、友人が、その何倍もいる。
 ギャンブル依存の特徴は、現在、ギャンブルを止めているからといって病気が治癒しているとはいえないことにある。再びギャンブルに手を染めると、またたく間に元の状態に立ち戻ってしまう。
 日本のギャンブルの最大の特徴は、パチンコ店の存在にある。全国で1万6000軒あり、パチンコ人口は2000万人。パチンコ産業全体の年高は30兆円。出版業界の年商はその1割、3兆円にすぎない。
プロのギャンブラーとギャンブル依存者は違う。どこが異なるのか?プロのギャンブラーは、リスクの高いものには小さく、手堅いものには大きくはるので、丸損しない。そして、勝負の旗色と自分の体調とを天秤にかけつつ、潮時をちゃんと見極める。
 ギャンブル依存症は、ギャンブルに対して過度に興奮し、それが持続してノルアドレナリンとドーパミンが脳内で盛んに生成され、セロトニンというブレーキが利かなくなっている状態をいう。
ギャンブル依存症は、氏より育ちであり、環境の要素は大きい。
 日本における男女の比率は、7対3で男性のほうが多い。
ギャンブル依存症が自然に治るのは極めてまれで、あとは進行するばかりなのである。
 ギャンブル依存症に借金はつきものである。
 GAはギャンブル依存症者の立ち直りのための自助グループです。全国に35あり、九州に6つあります。GAに通った効果は1週間。だから毎週通う必要がある。著者は北九州で開かれた全国クレサラ被害者交流における講演で断言されました。なるほど、そうなのかと思いました。大変役に立つ実践的な本です。
12月14日、師走半ばの討ち入りの日は、私の誕生日でした。61歳になりました。まだまだ元気いっぱいですが、さすがに30代、40代のようには身体が動きません。悪徳業者を怒鳴りつける若さも無くなりました……。
(2009年5月刊。1000円+税)

マネー資本主義

カテゴリー:社会

著者 NHK取材班、 出版 NHK出版
 NHKスペシャルで放映された内容が本になったものです。それにしてもサブプライムローンの破たんから派生したリーマンショックを引き金とする全世界的金融危機のすさまじさは想像をこえるものがありました。しかし、私にとってなによりショックだったのは、大勢のまじめな市民が生活の本拠である家まで失っているというのに、投資銀行の経営者たちは70億円、30億円、28億円、16億円といった、まさに天文学的なボーナスをもらっていたという事実です。これが資本主義の強欲な本質なのですね。
 そして、このことを日本経団連の御手洗会長をはじめとして誰も批判しないどころか、依然としてアメリカのようになりたいと高言してはばからないのですから、とんでもない世の中です。まさに資本家は「我が亡きあとに洪水よ来たれ」という、マルクスが『資本論』で書いたことを文字通り実践しているわけです。ほとほと嫌になります。
 この本の最後のところで、原丈人という1952年生まれの日本人実業家が登場して、いいことを言っています。まったく同感です。
 金融危機の原因をつくった一番の原因は、株主至上主義と市場原理主義が結合し、会社は株主のために存在するという思い上がった考え方が世界を席巻したから。
 会社の目的は利潤の最大化であり、株主の権利を守ることであるという考え方が欧米だけでなく、日本にまで広がっている。
 しかし、企業は短期的な利益を求める株主のためにあるのではなく、社会全体の利益を優先させるべきだ。
 経営陣と株主が莫大な利益をぬれ手に粟のように手に入れ、多くの従業員はリストラや減俸によって不安定な立場に追いやられ、会社の体力は低下し、社会全体の活力を失わせている。
 株主中心の経営が所得格差を広げていった大きな要因となっている。1980年代に一般社員と社長の所得格差は30倍。今では400倍以上になっている。日本は10~15倍。会社の目的は利益を出すことだが、その利益を何らかの形で社会に貢献していく。社会に恩返しすることこそ民間企業の使命とし、そのために経営陣も従業員も、そして資本家が協力する、こんな会社を目指すべきだ。
 まったく同感です。著者は、これを公益資本主義と名付けています。
 会社の利益が社会に公平に分配されていること、経営が持続すること、改善されていることが大切なのだ。
 本当にいい指摘です。
 かつて有名なソロモンブラザーズは、1980年代に投資銀行のトップを走り、業界を熾烈な競争に巻き込んだあと、1997年に消滅した。ソロモンブラザーズは、債券発行による売り上げで、並みいる名門企業を追い抜き、2位を大きく引き離してダントツの1位となった。その売り上げは212億ドルだった。
 ソロモン衰退と前後して大きく躍進したのがゴールドマンサックスなどの名門投資銀行だった。リーマンブラザーズは150年をこえる歴史に幕を閉じ、それを引き金として全世界で株価が暴落し、市場は無限の信用収縮に陥った。ゴールドマンサックスは銀行に転換、モルガンスタンレーも同じく銀行へ、メリルリンチとベアースターンズは買収され、リーマンブラザーズは倒産した。ところが、2009年夏、ゴールドマンサックスは史上最高益を記録した。
 うひゃあ、まったくこりていないのですね……。
 年金マネーは巨大だ。2007年に総額2500兆円。世界のGDPの半分にあたる。
 こんな無軌道な、ルールなき資本主義が長続きするはずはありませんよね。また、長続きさせてはいけません。日本経団連に怒りをぶつけましょう。
 
(2009年9月刊。1200円+税)

東京大学、エリート養成機関の盛衰

カテゴリー:社会

著者 橘木 俊詔、 出版 岩波書店
 東大は江戸時代末期に体制派内の学校として誕生した組織に期限がある。当代の歴史は一環として体制派として存続しつづけてきた。もっとも、反体制派ないし反権力派で活躍する卒業生や教員も少なからず輩出しているから、体制派一色ではない。
 東京大学の誕生は1877年(明治10年)。教育による階層固定化の現象が著しかったのが戦前の日本である。それを生んだのは森有礼による教育改革だった。
戦前の日本は階級社会であって、しかもそれは固定化していた。明治11年の東大の在学生の4分の3が士族であった。没落士族の子弟が給費制度を利用して進学していた。授業料を支払う必要もなく、衣食住のための給付金も受けていた。
 東京帝大生の高等文官試験合格者に占める比率は常に6割前後だった。
 官庁での出世は、本人の能力より東大卒というのがもっとも影響している。それに対して上場企業での出世は、大学名より、本人の能力と努力が死命を制する。
 つまり、官界においては東大卒が出世の条件であり、民間においてはそれはさほどの条件にならない。
私も、その点はまったく同感です。弁護士の世界でも実力一本勝負です。東大卒なんて肩書はまったく通用しません。
現代に至って、東大のトップは揺らぎ始めている。
 「官僚の東大」という伝統の中にあっても、法学部以外の学部の卒業生は役所ではトップまでほとんど昇進できない。法学部が圧倒的に有利なのである。
 社長の輩出率は京都大学がトップであり、東大は4位にすぎない。社長の絶対数で言うと、1位が慶応、2位が東大、3位が早稲田と続く。ただし、現在、東大卒の知事が全国の知事のうち半数ほどを占めている。
 国会議員についても、東大出身者が多いが、この30年間に40人ほど減った。かわって慶応大学出身者が24人から75人へと3倍に増えている。
 今や、東大出の官僚経験者が首相になる可能性は非常に低い。
 東大生の官僚志望の低下、政治の世界における東大卒業生の不振が言える。
 東大法科では、司法の世界への人気が高まっている。一番人気は法科大学院、二番人気が外資系企業への就職、三番人気は日本の大企業への就職となっていて、公務員は人気がない。2008年の東大合格者のなかで、東京出身者は3割にまで低下している。
 東大に合格するには、慶応大学並みの家庭の裕福さが必要となっている。これは、階層固定化現象を助長する恐れにつながっている。
 東大生の昔と今を地道に分析している本です。参考になりました。
 
(2009年9月刊。2600円+税)

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