法律相談センター検索 弁護士検索
カテゴリー: 社会

兎の眼

カテゴリー:社会

著者   灰谷 健次郎 、 出版   理論社
 大阪で橋下流の教育改革がすすんでいます。最低・最悪の「改革」です。ところが、マスコミは、橋下「改革」をもてはやすばかりで、その重大な問題点をまったく明らかにしようとしません、情けない限りです。
いまの教育の現状に満足している日本人は、わたしを含めてほとんどいないと思います。しかし、橋下はさらに悪い方向へ引っぱっていこうとしているのです。とんでもない方向なのに、それに気がつかない人、目をつぶってはやしたてるマスコミの多いのにあきれます。
教育の手が込んだ、面倒なものだというのは当然のことです。だって、人間を扱うのですから。たとえば、人間は誰だって反抗期を経なければいけません。口先だけは反抗していても、本当は甘えたい。そんな矛盾した心理を見抜いてうまく対処するのが大人であり、教師です。
そして、貧乏という問題があります。お金がないと、何かと困ることは多いわけです。お金がないと家庭での親子の会話も乏しくなることが多いのです。そうすると、子どものボキャブラリーは貧しくなり、学業成績にもマイナスに影響します。
この本は1974年に刊行されたものです。今から38年も前の本ですが、いま読んでも古さをまるで感じません。
橋下がしているように教師をいじめたら、結局は子どもたちをいじめるのと同じです。「ダメ教師」を排除するということは、「ダメ生徒」を排除すると同じです。トップのエリートだけを育てればいいというのでは公教育ではありません。
 教育の現場は面倒くさいもの、それにつきあうのは大変だけなもの。それをじっと我慢して見守るのが大切なことなんです。
いい本でした。読んで心が洗われる気がしました。
(1978年3月刊。1200円+税)

レベル7

カテゴリー:社会

著者    東京新聞原発事故取材班 、 出版   幻冬舎
 すべての危機は警告され、握りつぶされていた。これはオビの文章です。
 まさしくそのとおりなのです。福島原発事故については、私たち国民に隠された真実があまりにも多すぎます。政府が偽りの「収束宣言」をしたことから、原発事故がなんとか「解決」に向かっているかのような幻想に浸っている日本人が多いのが残念でなりません。
 メルトダウンの事態は今でもよく解明されていませんし、放射能物質は空にも海にも、今もって大量に放出されているのが残念ながら現実だと思います。ところが、海の汚染にしても「風評被害」を拡大させないためという口実でほとんど明らかにされていません。とんでもないことです。福島第一原発による汚染程度を正確に知るには、日本のマスコミ報道よりも海外とくにヨーロッパの方が正確で速いとまで言われているのは悲しいことです。
 原発にとって水は、血液のようなものである。その水が地震によって止まってしまったのだから、事態は本当に深刻だった。原子炉に入れた水は、核燃料の熱でどんどん蒸発する。水を入れ続けなければ、やがて核燃料が水面から完全に露出し、空焚きの状態になる。核燃料を覆っているジルコニウム合金の被覆菅が熱で溶けると、水蒸気と反応して水素が発生する。それが原子炉から、さらに格納器の外に漏れ、酸素と反応すると爆発する。おお怖いです。
福島第一原発には6個の原子炉と10個の使用済み核燃料プールがある。20キロ圏内の第二原発までふくめると10個の原発と11個のプール。これを全部立ち入り禁止区域にして一般の人みたいに東電の社員が逃げ出したら、どんどんメルトダウンしていく。撤退なんかありえない。撤退していたら、東京には人っ子一人いなくなってしまう。これは菅首相(当時)の言葉です。
 このままでは、東日本全体がおかしくなる。決死隊をつくろう。日本の国が成り立たなくなる。命をかけてください。逃げても逃げ切れない。
これも菅首相の言葉です。首都圏から3千万人を脱出させる必要があるという想定が立てられたのです。3千万人の緊急脱出なんて不可能ですよね。いったい、どこへどうやって3千万人もの人々が移動できるというのでしょうか。
福島第一原発の吉田所長(当時)は、実は、東電本部にいて津波の影響を低く見積もることにしたつまり、インチキ見積した張本人の一人です。そして、現場で指揮せざるを得なくなったのでした。歴史の皮肉といえるかもしれません。でも、笑っている場合なんかではありません。やはり、東電という組織自体に大きな責任があると思います。原発が安全だなんて幻想をふりまき、現実には十分な安全対策を講じなかったわけですから。
 最後に、政府が昨年暮れに発表した廃炉に向けての工程表を改めて紹介します。
 2013年のうちに、4号機の使用ずみ核燃料プールから核燃料の取り出しを始める。10年以内に1~4号機すべてで使用ずみ核燃料の取り出しを終える。放射能に汚染されたたまり水の処理を終えたあと、溶融した核燃料の取り出しを始める。最終的に原子炉を解体するのは、順調に行っても30~40年後のこと。ええっ、そんなにかかるものなんですか・・・・。団塊世代の大半がそのころは消滅してしまっていますよね。
 事故から核燃料の取り出しまで6年半かかったスリーマイル島原発では処理費用が
750億円かかった。今回は、その比ではなく、廃炉に1兆1500億円は少なくともかかると見込まれる。さらに、そのさきには大量の放射性廃棄物の処分が待っている。現状は、地層処分の技術は確立しておらず、候補地は白紙のまま。
 本当に深刻です。こんなとてつもない危険な原発は、すぐにやめてしまわなければなりません。今すぐに廃炉にむかっても、何十年とかかるというのですからね・・・・。
(2012年3月刊。1600円+税)
 日曜日に福岡で映画「アーティスト」をみました。偶然にも、後ろの席に宮川弁護士がおられました。今どき珍しい白黒のサイレント映画です。ところが、実に表情豊かで、こまやかなので、字幕とあわせてスムースに感情移入できました。さすがはアカデミー賞をいくつもとった作品だけあります。サイレント映画から音の出るトーキー映画へ移行するときの悲哀がテーマとなっています。いつの世にも時代の変化についていけない人、ついてきたくない人はいるものです。もちろん、変化を追いかけるばかりでも困りましょうが・・・。
 最後のペアのタップダンスだけでも十分に見ごたえがあります。さすがは役者です。半年の練習でやりきったそうです。見事でした。

60年代のリアル

カテゴリー:社会

著者  佐藤 信 、出版 ミネルヴァ書房
 このコーナーで取り上げている本は、わたしが読んで面白かったもので、あなたにも読んでほしいな、ぜひおすすめしたいなというものばかりなのです。でも、この本はちょっと違います。歴史認識としての間違いが定着するのを恐れて、あえて取り上げました。つまり、読んでほしいというのではなく、こうやって誤った歴史認識が定着していくかと思うと悲しいという意味で紹介します。まあ、私がそう言うと、かえって読みたくなる人が出てくるかもしれません。それはそれで、お好きなようにしてくださいとしか言いようがありません。
 この本は『朝日ジャーナル』バックナンバーを読んで東大闘争を語るというものです。ところが、私の学生のとき、『朝日ジャーナル』は、いつも一方的に全共闘の肩を持ち、いかにも偏見に満ちていると感じていました。少なくとも『朝日ジャーナル』だけ読んで東大闘争を分かったつもりで語ってほしくないと心底から思います。
 当時(1968年から1969年ころのことです)、「ジャーナル全共闘」という言葉がありました。大学に出てこなくて下宿や自宅にひきこもっていて、『朝日ジャーナル』を読んで東大闘争の本質をつかんでいる気になった全共闘シンパ層を指した言葉です。彼らは、たまに大学に出てくると、それこそ「革命的」言辞を吐き、「東大解体」そして試験粉砕を叫んでいました。そのくせ、授業粉砕に失敗して再開された授業には乗り遅れないように出席したのです。「東大解体」を叫んでいた東大生が、授業再開後に東大を中退したという話を私は聞いたことがありません。それどころか、全共闘の元活動家で東大教授になった人が何人もいます。
 この本で「『朝ジャ』は、そもそも新左翼に同調的なわけでもなんでもない」と書かれていますが、これは明らかな誤りだと思います。「同調的」どころか、「新左翼」(全共闘)をあおりたてていたと私は理解しています。
 1968年11月12日、東大の総合図書館前にあかつき部隊の黄色いヘルメットをかぶった500人が石段に並ぶ。そこに全共闘が殴りかかっていく。だが、いくら勇ましくとも、最前列の者しか相手を殴ることはできない、やがて殴る手が止まると、あかつき部隊の笛。あかつき部隊というのは、東大民青支援のためにつくられた「外人部隊」、つまり他大生の部隊のことだ。
 これは、まるでマンガです。当時の写真も何も見ないで、見てきたような嘘の典型です。そのとき、その場に居たものとして、本当に残念です。もちろん、この本の著者がこんな場面を想像したのではなく、きちんとした出典があります。宮崎学の『突破者』と島泰三の『安田講堂』です。「あかつき部隊」なるものが存在したことは私も否定しません。しかし、島泰三は、その場にいなくて、写真だけを見て、その場にいた私たち駒場の学生を「あかつき部隊」と、『突破者』をうのみにして見なしているのです。
 当日は「500人が石段に並ぶ」なんていう規模なんていうものではありません。数千人の学生が、院生、教職員ともに現場にいました。石段ではなく、池の周辺の平地です。全共闘も数千人規模、民青・クラ連その他もいて、数千人の壮絶なぶつかりあいがあったのです。素手で殴りあったのでもありません。長い長い木のゲバ棒そして鉄パイプ、さらには薬品まで投げかった凄惨な修羅場だったのです。そんな、あかつき部隊のリーダーの笛一つでどうこうできる状況でもありませんでした。その一端は小熊英二の『1968』は紹介されています。このような現場状況を示した写真も、島泰三の本だけではなく、何枚もあります。
 こんな大嘘が堂々と定着して、それが歴史的事実になるとしたら、その場にいた学生の一人として、本当に耐えられない思いです。ぜひとも『清冽の炎』(花伝社)を読んでください。
(2012年3月刊。1800円+税)

現代美術キュレータという仕事

カテゴリー:社会

著者   難波 祐子 、 出版   青弓社
 いま、パリにいる娘がキュレーターを目ざしていますので、親として少しは勉強しておこうと思って読みました。
日本でキュレーターになるのは、なかなか難しいことを再認識させられました。職業として自立できるかどうかはともかくとして、美術館や博物館に足繁く通うことは人生を豊かなものにしてくれることは間違いありません。
 数ヶ月パリに留学しただけで美術館で働くキュレーターになれるほど現実は甘くないのだけは確実だ。
 それはそうだと思います。何事によらず、何年かの下積みの努力が求められるものですよね。
 キュレーターの定義としては、展覧会の企画をおこなう人、そして展覧会を通してなんらかの新しい提案、ものの見方、価値観を創り出していく人。
 1951年に定められた博物館法に学芸員を定義している。学芸員は博物館資料の収集、保管、展示および調査研究その他これと関連する事業についての専門的事項をつかさどる。つまり、学芸員は、展覧会の企画展示や資料調査だけでなく、作品保存、収集保管、さらにはその他の関連事業という、なんとも曖昧な定義の事業も含めた多岐にわたる仕事をこなさなければならない。
 日本の美術館学芸員の守備範囲は、海外のキュレーターよりもかなり幅広い。
現在、日本全国で年間1万人が大学の単位修得によって学芸員の資格を得ている。しかし、すぐに現場で求められる能力をもった学芸員となることは、ほぼ不可能である。
 キュレーターの仕事のイメージがおぼろげながらつかめる本でした。娘よ、がんばれ。初志貫徹を心から望んでいます。
(2011年10月刊。2800円+税)

官邸から見た原発事故の真実

カテゴリー:社会

著者   田坂 広志 、 出版   光文社新書
 3.11直後から5ヵ月のあいだ内閣官房参与を務めていた原子力工学の専門家が「緊急事態」において直面したことを率直に語っています。
 著者自身が、「原子力村」にいて原子力の推進に携わってきた。そして、これほどの事故が起こるとは予測していなかった。
 現在の最大のリスクは、根拠のない楽観的空気である。
 「原子炉の冷温停止状態を達成した」という政府の宣言があって以降、あたかも「問題は解決に向かっている」という楽観的な空気が広がっている。しかしながら現状は、決して「冷温停止」と言えるものではない。あくまで、国民を安心させるための政治判断であって、技術的判断ではない。核燃料がメルトダウンを起こし、その形状も状況も分からなくなっている今の状態の原子炉について、「冷温停止」という言葉を使うのは適切ではない。
 最悪の場合には、首都圏3千万人が避難を余儀なくされている可能性があった。アメリカが80キロ圏内のアメリカ人に避難勧告を出し、フランスに至っては飛行機を飛ばして首都圏のフランス人の帰国を支援した。このようなアメリカやフランスの反応は決して過剰反応ではなかった。
 「原発の絶対安全の神話」は、自己睡眠の心理から生まれてきた。「原発は絶対に事故を起こさない施設です」という、技術的には疑問な説明であっても、それを繰り返しているうちに、「原発は絶対安全でなければならない」という責任感が、「原発は絶対安全である」という思い込みになっていた。
放射能は、文字通り「煮ても焼いてもなくならない」ものである。汚染水を浄化装置で処理すると、水の放射能濃度は下がる。しかし、そこで除去された放射能は、浄化装置の「イオン交換樹脂」「スラッジ」「フィルター」などに吸着された状態で残り、結果として、汚染水よりもきわめて放射能濃度の高い「高濃度放射性廃棄物」を大量に発生させてしまう。
 高レベル放射性廃棄物は、10万年以上ものあいだ人間環境から隔離し、その安全を確保しなければならない。ところが「10万年後の安全」を科学と技術で実証することはできない。それは、信じるか、信じないかという世界のレベルになっている。
 四号機の使用済み燃料プールの方が危険だ。それは、何の閉じ込め機能もない、いわば「むき出しの炉心」の状態になってしまうから。そして、燃料プールは、相対的に防御が弱いため、テロリストの標的になりやすい。
 メルトダウン(炉心溶融)を起こした原子炉そのものが、つまり福島原発は「高レベル放射性廃棄物」になってしまっている。その処理には30年以上かかる。
地層処理というのは、この日本が狭い国土であり、人口密度も高く、地震や火山の多い国であることから、きわめて難しい課題である。国内に処分地を選定するのは、ほとんど不可能ではないか。
除染とは、放射能がなくなることではない。除染作業によって膨大な汚染土が発生する。そして、すべての環境を除染できるわけではない。
 これから、将来、被曝によって病気になるのではないかという不安をかかえながら生きていく精神的な健康被害がすでに始まっている。
 自分以外の誰かが、この国を変えてくれるという「依存の病」をこそ克服しなければならない。
 この本はわずか260頁の新書ですが、問いに答えるかたちで物事の本質がズバリ分かりやすく解明されています。全国民必読の書として強く一読をおすすめします。
(2012年2月刊。780円+税)
 日曜日、団地の公園のそばの桜が満々開でした。となりに白いこぶしの花も満開で、ピンク色の桜がぐっとひきたちます。青空をバックとしたソメイヨシノの見事さには感嘆するばかりです。
 わが家のチューリップも一斉に花を咲かせはじめました。今、150本をこえた色とりどりのチューリップが妍を競うように咲いています。
 春らんまんの季節となりました。

福岡県弁護士会 〒810-0044 福岡市中央区六本松4丁目2番5号 TEL:092-741-6416

Copyright©2011-2025 FukuokakenBengoshikai. All rights reserved.