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カテゴリー: 社会

戦争と法

カテゴリー:社会

(霧山昴)

著者 永井 幸寿 、 出版 岩波新書

 「台湾有事」が現実化したとき、政府は石垣島や宮古島などの住民11万人と、観光客1万人の計12万人を6日間で九州・山口に避難させる計画です。1日2万人もの人々をどうやって運ぶのでしょうか…。運ぶのは民間の飛行機と船であって、自衛隊は民間人の輸送には関わりません。自衛隊は戦争に専念するのが任務だからです。そして、民間の船も飛行機も自衛隊のために徴用される可能性が大きいし、戦争状態の下で航空会社がパイロットに対して業務命令を出して飛行させるか疑われます。労働者の安全配慮義務に反するからです。また、株主から航空機を損失させたとして責任追及される恐れもあります。

 このように12万人の「避難計画」なるものの実効性は、きわめて疑わしいのです。

 ところで、沖縄本島の住民135万人はどうなるかというと、「屋内避難」です。つまるところ、放っておかれるのです。あとは自己責任の世界という、まったく政府は責任放棄です。

 政府がシェルターを地下(地中)につくるのは、自衛隊の司令部のためだけです。いやはや、自衛隊のトップは自分たちだけは助かりたい。しかし、住民の生命・財産なんてどうでもいい。これが政府の考えていることです。「日本を守る」ために大軍拡が必要だというのは真っ赤な嘘としか言いようがありません。

 そして、国民が被害にあったとき、せめて補償してもらえるのかというと、それもありません。一般の災害にあったときには、法律によって生活再建支援金が支給されることになっています。ところが、戦争のときには、そんなものはありません。裁判所は、戦争は全国民が等しく受忍すべきものなので、国に補償すべき義務はないとしています。

 この本によると、ドイツもイタリアも戦争で被害にあった民間人に対して補償する法律を制定して軍人恩給のような形で補償しています。しかし、日本には軍人恩給はあっても民間人に対しては全然補償していません。

 この本では、原発事故そして原発が攻撃されたときのことにも触れています。

 日本は、アメリカ、フランス、中国に次いで、世界で4番目に原発が多い国です。全国になんと60基もあります。そのうえ、高市政権は原発の新増設をすすめると高言しています。

2011年3月11日の福島第一原発事故は地震災害によるものでした。奇跡が重なって、関東一円が重篤な放射線汚染地区になるのが辛うじて免れましたが、今でも2万5千人もの人々が福島に戻れていません。

全国の原発は空からのミサイル攻撃に対してはまったく無力です。

先日、玄海原発などでドローンが原発の上空を飛来していたと報じられましたが、防御するのは不可能なのです。そして、ひとたび原発が攻撃されたとき、誰も放射線の発出を止めることは出来ません。近づくことさえ出来ないのです。逃げるしかないといっても、海に囲まれた日本列島から、どうやって逃げ出せますか…。

 軍隊は国民を守るのではなく、国を守るのを使命とします。戦争のとき、国民は足手まとい(邪魔者)と扱われ、洞窟から追い出されたというのが、沖縄戦の手記に再三書かれています。

 戦争にならないようにするのが政治の役目です。「強い日本」ではなく、国民に安心・安全を保障するのが政治の第一の役目・任務だ。このことを私たちはもっと声を大にして叫び、行動する必要があります。

 260頁の新書です。大事なことがぎゅっと圧縮されています。広く読まれることを願います。

(2025年6月刊。1060円+税)

混迷する憲法政治を超えて

カテゴリー:社会

(霧山昴)

著者 憲法ネット103編 、 出版 有信堂

 私の住む街の上空をオスプレイがブンブンと騒音をまき散らしながら飛ぶようになりました。「未亡人製造機」と呼ばれるほど墜落の多い欠陥機ですが、日本はアメリカから大量に購入し、うち17機を佐賀空港に新しく基地をつくって配備しつつあります。

 宮崎の新田原(にゅうたばる)基地には、ステルス戦闘機F35Bを8機配備することになっています。このF35Bは海上自衛隊の「いずも型」護衛艦に発着可能です。F35も、これまた最新鋭の戦闘機と言われながら、重大な欠陥をかかえていますから、本当に心配ですが、日本はなんと42機も購入します。これでは、福祉・教育などの生活に直結する予算がますます削減されるのは必至です。

 大分に敷戸(しきど)弾薬庫があります。私も弁護士会の調査団の一員として現地に行って話を聞いてきました。この敷戸弾薬庫は、大分市の中心部から少し離れた住宅街のド真ん中にあります。大分大学もすぐ近くにありますし、病院や保育園も隣接しています。周囲3キロメートルの範囲内に2万世帯4万人が暮らしているのです。こんな所に中国大陸まで届く長距離ミサイルを保管しておき、いざとなると、運搬して活用する、その捨て石になるという計画です。なので、有事になったら「敵」が真っ先に攻撃してくるはず。つまり、「自分を守る」どころか、その逆に真っ先に狙われてしまうのは間違いありません。

 以上は、「防衛力の抜本的強化と、九州地方への影響」というタイトルの小論文です。少しだけ紹介しました。

 日本の選挙制度の基本は小選挙区制です。すると、発足前から指摘されていますが、ともかく死票が多いのです。「死票」は2828万票、52%となっている。つまり、有権者の約半数の投票が無視されているのです。維新と組んだ自民党は、維新の提案する比例議席の削減を実行しようとしています。まさしく民意の切り捨てです。国会議員の人数は日本は欧米よりはるかに少ないのです。比例部分を切り捨てるなんて、とんでもない暴挙です。断じて許してはなりません。

 そんなことより、今すぐ国会が取り組むべきことは企業献金の禁止です。企業がお金の力にものを言わせて、政治を動かす仕組みは、廃止すべきなのです。

 そして、政党交付金なるものも、おかしいです。自民党は、政党交付金に7割ほど依存しているので、国営政党だと言って過言ではない。共産党だけがスジを貫いていますが、この際、政党交付金こそバッサリ廃止すべきです。

 「日本人ファースト」をスローガンとする参政党が「躍進」しましたが、今の日本社会の現実は、外国人との共生なしにはまわらない状況です。病院、介護施設、建築現場、野菜の収穫そしてコンビニ、どこでも外国人が活躍しています。排斥するのではなく、共存・共生する、お互いをリスペクトして共に生きていくことを目ざすべきなのです。

憲法を毎日の暮らしのなかで本当に生かしていくこと、その取り組みを強めること、今、本当に求められていることを、本書を読みながら、改めて実感しました。

(2025年10月刊。3080円) 

なぜハーバードは虎屋に学ぶのか

カテゴリー:社会

(霧山昴)

著者 佐藤 智恵 、 出版 中公新書ラクレ

 タイトルからすると、中味の薄いキワモノ本だと思いがちですが、意外にしっかりした中味のある本(新書)でした。

 ハーバード大学経営大学院(ビジネススクール)は2年間に、500本のケースを学ぶ。ケースメソッドで、授業ではひたすら議論する。クラスでの発言点が成績の半分を占めるため、学生は必死で発言する。こうなると、議論をリードする教授は大変でしょうね。そのうえ、学生の発言を評価する必要があるというのですからね・・・。

 あの、ズシリと重たい虎屋の羊かんをもらったら、そりゃあ、うれしいです。小城(おぎ)羊かんも美味しいとは思いますが、虎屋になると数段優りますよね・・・。

 この虎屋は、なんと室町時代(16世紀初頭)に創業したという超老舗(しにせ)の和菓子屋。この本を読んで初めて知ったのですが、虎屋には、「社内には親族は一世代につき一人だけ」というルールがあるそうです。当主に何人か子どもがいても、その中から後継者になる1人を選ばなくてはいけないのです。いやあ、これはとても難しい選択(決断)ですよね。そして、自分が選んだ後継者が自分とは異なる決断をして、会社を変えていくのを見ても、決して口を出さないというのです。これは大変ですね。

 創業家出身の経営者が潔(いさぎよ)く引退するのは、とても難しいこと。前任者が介入して、大いにもめた会社はいくらでもある。あのトヨタでも、まだ創業者一族がいるというのですから、世の中は不思議です。

 日本には100年以上存続している企業が3万社以上ある。創業から200年以上も存在している世界中の企業のリストを見ても、その多くが日本にある。

創業から500年も続いている虎屋は、いつの時代にも、失敗を恐れず、イノベーションを創出し続けてきた。これが重要な長寿要因の一つになっている。

 虎屋が500年も存続できたのは、あくまでも結果であって、存続そのものを目的にしていたわけではない。長寿の企業が存続しているのは、革新的だから。イノベーションを起こし続けてきたからこそ、何百年も存続できている。

 ハーバード・ビジネススクールの授業料は、なんと3ヶ月間で1400万円と超高額。いやあ、これは高いですね・・・。ところが、日本企業は続々と、役員や役員候補者を送り込んでいるそうです。グローバル環境で臆せず、堂々とものを言える人材が求められているから。

 それでも、日本人学生は慣れないことに苦労している。しかし、堂々と、ゆっくりした英語で、「日本」の話をすると、周囲に目が変わると、著者はすすめています。

おかげで日本の長寿企業の存続のヒミツを学び、大変勉強になりました。

(2025年5月刊。1100円)

日本の防衛政策

カテゴリー:社会

(霧山昴)

著者 杉本 康士 、 出版 作品社

 著者は産経新聞の外信部次長です。だからでしょうか、日本の軍事予算(防衛費)が天井知らずにふくれあがっていることに対する批判的視点はありません。でも、本当にそれでよいのか、果たして防衛費の増大は「日本を守る」ためのものなのか、本書を読んで私はますます疑問を感じました。

 集団的自衛権を容認し、アメリカの求めに応じて、自衛隊を海外のどこにでも派遣し、それを「下支え」することが出来るようになりました。安保法制下の安保三文書によって具体化が進どんどんめられています。

 バイデン前大統領は、「俺が岸田に言ったから日本の防衛費が増えた」と自慢している。そして、今、トランプ大統領は、さらに軍事費をGDP3%に増額するよう日本に要求している。とんでもない数字です。福祉も教育もますます切り捨てられることになります。年金は減るばっかりです。名目で少し増えても、介護料負担が増えるので、実質減です。そして、大学の授業料はどんどん値上がりしています。その結果、学生はアルバイト漬けになっています。

 2018年の中期防では、5年間の総経費は27兆4700億円で、物件費は17兆1700億円だった。それが今や、物件費は43兆5000億円と、2.5倍にはね上がった。ところが、防衛省・自衛隊の人数は今までと変わらない。自衛隊は定員割れだし、新規入隊は減る一方で、途中退官者は増大するばかり、同じ陣容で、これまでの2.5倍の予算を処理しなければいけない。これから、防衛省、自衛隊は予算執行という厳しい戦いを強いられる。

 「予算が増えて喜んでいる奴が多いが、何も分かっていない。正直言って、これから予算を使うのは、本当に大変だ」

 これが、自衛隊制服部門トップの本音だそうです。

 増田和夫・元防衛政策局長は、「今の人員配置は、予算獲得と執行が9対1になっているが、これを逆転させて1対9にする。防衛省は、もう予算獲得に全力をあげる必要はないから」と語った。そこで、著者は疑問を投げかけるのです。

膨大な額の予算を執行できる体制を防衛省、自衛隊が十分に整えているかは疑わしい。現に、2023年度の決算では、防衛費に1300億円の使い残しがあった。

要するに、「日本を守る」ためには何が必要なのか、その新「兵器」を運用・操作・補修していくだけのスキルを身につけた人員を養成・確保できるのか、そのためにはいくら必要なのか。このような、下から積み上げられた結果としての軍事予算ではないのです。

 バイデンそしてトランプというアメリカの大統領からアメリカの最新兵器(オスプレイやF35のような欠陥機を含む)を買わされ、その購入を前提として、必要人員の養成・確保のあてもなく、次々に天井知らずに増額されているのが実際なのです。

 政府が設置した有識者会議のメンバーには三菱重工学の役員も含まれています。財界、需要産業は今でもひとり勝ちなのを、さらに上乗せしようとしています。そんなことで庶民の生活は「守られる」でしょうか…。高市政権は大軍拡をさらに進めるという号令をかけています。おー、こわ、こわ…。

 知りたくないけれど、知らなくてはいけない日本の現実です。

(2025年6月刊。2970円+税)

立ち読みの歴史

カテゴリー:社会

(霧山昴)

著者 小林 昌樹 、 出版 ハヤカワ新書

 私も中学、高校生のころは本屋でけっこう長時間、立ち読みしていました。大学生になってからは本屋で長く立ち読みすることはありませんでした。

この本によると、この立ち読みは日本独特の現象なんだそうです。本当でしょうか・・・。

フランス・パリのセーヌ川のほとりにはブキニストと言って古本を売るコーナーが並んでいます。選ぶために本を手に取って眺めることはあっても、長時間の立ち読み風景は見かけません。

江戸時代にも書店はありましたが、和とじ本は平たく並べておくものですし、当時は立読するのが普通でしたから、立ち読みはなかったようです。すると、立ち読みというのは、日本でも戦後の光景なのかもしれません。本屋のオヤジ(主人)が手にハタキをもって、パタパタさせて、立ち読みの子どもたちを追い払うという光景がありました。

本屋では万引と並んで立ち読みが「大罪」として問題視された。万引はもちろん罪ですけど、立ち読みを万引に匹敵すると言われると、私は少しばかりひっかかります。

この本では、農村部では庄屋層までしか読み書きは出来ず、庶民は出来なかったとしています。従来の「通説」を否定していますが、本当でしょうか。寺小屋は大都市だけではなかったと思うのですが・・・。

江戸の庶民が貸本屋から本を借りて読んでいたというのは本当です。本は高かったからです。人口100万人の江戸だけで800店もの貸本屋があったそうです。やはり、これは多いとみるべきでしょう。

戦前は、雑誌をメインに売る小売店として、雑誌屋があった。日本初の総合雑誌「太陽」(博文館)は、年244万部も売れていたとのこと(明治30年)。すごい部数です。戦前、大正期の東京では、本屋が店頭での立ち読みをとがめないようにしたとのこと。買ってもらえる可能性に賭けたのです。

そして、戦後、立ち読みされないように、本をビニールで包む(シュリンクパック)ようになりました。ビニ本です。エロ雑誌だけでなく、マンガ本のコーナーにいくとみんな包まれていますよね。講談社のコミック本は2013年からシュリンクがかかったとのこと。意外なことに「ブックオフ」は創業(1990年)当初から「立ち読みOK」だったそうです。

今や書店(本屋)は絶滅しかかっています。この20年で、2万店が1万店に半減した。私の身近な書店も次々に閉店していき、全国チェーン店のほかは、いくつもありません。残念です。

(2025年4月刊。1320円+税)

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