法律相談センター検索 弁護士検索
カテゴリー: 社会

子どもの貧困対策と教育支援

カテゴリー:社会

(霧山昴)
著者 末 昌 芽 、 出版  明石書房
いい本です。学校教育に関心のある人には、ぜひぜひ読んで欲しいと思いました。
日本の学校現場はいま大変なことになっていると思います。子どもの貧困の多くは親の貧困から来ています。また、親に経済力があっても子どもを大切にしているとは限りません。子どもたちが愛されている、大切にされていると感じられること、家庭に居場所がると実感できること、それが必要ですし、大切です。
では、家庭にそれが欠けていたり、不十分だったとき、学校は何もしなくていいのか・・・。
大阪の高校には昼休みと放課後に開く校内カフェがあるそうです。いいことですよね。21の高校にあります。非行、メンタルやフィジカルな障害、不登校、経済弱者など、困難をかかえる生徒の多い高校のようですが、困難をかかえる生徒の居場所が高校内にあるって、すばらしいことです。家でも学校でもない居場所、サードプレイスがあるのは大切です。ゲームセンターではダメなのです。
ヨーロッパでは、幼稚園や小・中学校にコミュニティ・カフェがあるのも珍しくない。保護者や地域の人々が利用している。
生活保護を受けている家庭の子どもたちの学習支援もいい試みだと思います。しかし、子どもたちは、ここに来てるって言ってないし、言いたくないのです。生活保護をうけていることを恥と考えるような子ども社会があるからです。
簡易宿泊所(ドヤ)がたくさんある地区をかかえる小学校では、子どもたちを労働福祉センターに見学に連れていきました。子どもたちは、困ったときには福祉で支えてもらう場所があることをしっかり学んだようです。今の日本では必要な知識です。
そして、漠然と怖いように思っていた地区が、そこに住む外国人から外国にある怖い町と比べたら、まったく怖くないと聞かされたら、むしろ自分たちのまちを好きになったとのこと。いい経験です。
50年前、私が大学に入ったとき、国立大学の学費(授業料)は月1000円、年1万2000円でした。ちなみに、家賃も同額(もちろん食費は別です)。ところが、今では国立大学は50万円、私立大学は文系100万円、理系150万円、専門学校は70万円です。とんでもないことです。しかも、奨学金が有利子の貸与制です。私も月3000円の奨学金を受けていて、弁護士になって返済しました。月5000円の給付型奨学金は適用を受けられなかったのです。昔の育英会は、今では学生支援機構と名称を変えていますが、利用者は134万人と多いのです。給付型奨学金を大幅に拡充する必要があると思うのですが、世論調査の結果は必ずしも支持していないというのに驚きます。ここでも「自己責任」の論理が幅をきかしているのでしょう。困ったことです。
この本は、日本の学校は、基本的に排除の文化を生成する仕組みを有していると指摘しています。この指摘は重要です。大人社会の反映でもあると思います。
日本の学校には、子どものかかえる問題や困難を見えにくくし、いつのまにか、困難をかかえる子どもたちを排除してしまう文化や仕組みがある。
学校そしてクラス内で、人と人とのかかわりにおける温かさはや安心感、相互支援、居心地の良さが必要。この学級適応感の高まりが学習意欲の向上に結びつく。子どもの学級適応感を高めるのは、被受容感であり、それは教員の受容的、共感的態度によって高められる。
380頁もの密度の濃い論文等をテンコ盛りした労作です。その割には2600円と、少々割高ですが、明るい将来展望を少しだけでも、その光を見出すことができました。学校の先生方、これからも無理なく楽しくやってください。
(2017年11月刊。2600円+税)

英語教育の危機

カテゴリー:社会

(霧山昴)
著者 鳥飼 玖美子 、 出版  ちくま新書
英語をコミュニケーションに使うというのは、会話ができたらいいというものではない。いまの学校は、文法訳読ではなく、会話重視なので、読み書きの力が衰えて、英語力が下がっている。
これまで、まとはずれの英語教育改革が繰り返されてきた。
いま、教える人材の確保が不十分なまま、見切り発車する小学校の英語教育・・・。小学生が可哀想。何も分からない子どもたちが、あまり自信のない先生から、中学レベルの英語を習うことになる。中学校にすすむころには、英語嫌いになっている子どもが今より増えている恐れは強い。
日本の英語教育は、1990年代から基本的に方針が変わった。昔の英語教育とちがって、今は「英語の授業は英語で行うことが基本」とされている。しかし、日本語で説明したって分からない生徒に対して、英語だけで、どうやって教えたらいいのか・・・、現場の英語教師は困惑している。
英語だけの授業では内容が浅薄になりがちで、生徒の知的関心を喚起しない。それは、ことばの不思議さや奥深さに気づかせることが難しくなる。むしろ、英語を英語で教えるというには、時代遅れなのである。
「学習指導要領」の定める小学校「英語」と中学校「英語」の目標は、違いがすぐには分からないくらいに似ている。
一昔前は、大学を受験する高校3年生は、英検「2級」というのが常識だった。しかし、今は、高校生の半数以上が「準2級」という目標にも達していない。これは、大学1年生の英語力が落ちていることに反映している。大学では、中学レベルの英文法基礎の補習授業を余儀なくされている。
大学のほとんどでは、10年後に専任教員を増やす見込みがない。そのなかで、外国籍教員の割合を増やしたら、日本人教員の数を減らすことになる。
文法はコミュニケーションを支えるもの。
英語教育とは、英語という外国語を通して、学習者を未知の世界に誘い、心を豊かにし、人間を育(はぐく)むものである。私もフランス語を毎日勉強していますが、フランスの歴史や地理、文化を学ぶことによって、世界を知り、日本を知るという楽しみを日々実感しています。単に店先でペラペラ会話して買物ができるという以上のものを学校英語には期待したいものです。
(2018年1月刊。780円+税)

史上最悪の英語改革

カテゴリー:社会

(霧山昴)
著者 阿部 公彦 、 出版  ひつじ書房
 私も自慢じゃありませんが、英語は読めても話せません。その最大の原因は、話す機会がまったくなかったからです。フランス語のほうは毎週土曜日にネイティブのフランス人と会話しているので、たどたどしくても、一応の意思疎通はできています。やはり、勉強の量と実践の場の確保のおかげです。
 英語だけで英語を教えるというのは、この本の著者も強調していますが、あまりにムダが多すぎると思います。ルールを知らなくて、耳からだけで英語がまともに話せるようになるとは私にも思えません。店先で買物するくらいなら、これでいいでしょうが、ルール(文法)を知らなかったら、文章(英文)は書けないでしょう。それでは社会の求める能力を身につけることにはなりません。
受験産業だけが喜ぶような英語教育にしてはならないと著者は声を大にして叫んでいます。私も、まったく同感です。大学入試に業者テストを使うとか、スピーキング試験をするとか、とんでもないことです。
4技能とは、英語を読み、書き、話し、聞くという能力のこと。
いま文科省がすすめようとしているのは、本当の目的は一部業者のための経済効果にあるとしか思われない。そして、この政策のために、肝心の英語力は、今よりもっと低下する可能性がきわめて高い。
大学入試に業者試験が導入されようとしている。これは業者にとって間違いなく収入増につながる。そして、これは格差を助長する。というのは、業者試験はきわめてパターン化しているので、受験すればするほど点数があがる。ということは、お金を使えば使うほど、大学入試のために有利な点数がとれる。逆にいうと、家計に余裕がない家庭の受験生は競争から落ちこぼれていくことになる。
日本の英語教育は、1989年からコミュニケーション重視でやってきている。それでも英語が話せない人が多い。なぜか。日本人に欠けているのはスピーキングの能力だけなのか・・・。
TOEIC(トーイック)のテストは、企業が「使える労働者」を確保するための道具。「労働力」確保のためである。そこでは、単純労働で使われる英語が中心で、考えるための英語や、感情の特徴を伝えるための英語は入っていない。そこにはアメリカ流の雇用関係が反映されている。会社にとって従業員は道具であり、戦力であり、「使える」かどうかが肝心。TOEICは、それを測るもの。
フレーズを覚えるとしても、背後にあるルールを知っていたら、はるかに能率があがるし、その後の応用も可能になる。同じ時間をかけても、脳が処理できる量は飛躍的に増える。
私も、文法は大切だと思います。やみくもに単語を暗記するより、ルール(文法)にしたがって覚えていく方が応用もきいて英語力が深く広くなると思います。
文科省が、世間の誤解(錯覚)を利用して、テスト業者や予備校と組んで日本人の英語力を低下させ、英語嫌いを増やそうとしていることに腹立たしく思えてなりません。
158頁の価値あるブックレットです。ほんの少しだけ割高の感はありますが、いま大いに読まれてほしい本です。
(2018年2月刊。1300円+税)

ビキナーズ・ドラッグ

カテゴリー:社会

著者 喜多 喜久 、 出版  講談社
製薬会社で、新薬をつくり出す過程が面白く展開していきます。珍しい病気の症状とそれに合う新薬の化学式がいかにも詳しく、ありそうに思えます。ですから、こりゃあ取材が大変だったろうなと思って読み終わり、著者の略歴を知ってナットクしました。
著者は、なんと東大の薬学系大学院を終えて、大手製薬会社に研究員として勤めていたようです。なるほど、道理で製薬会社内の動きが真に迫っているわけです。
要するに、製薬会社は絶えず新薬を開発して成績をあげていく必要があるのです。しかし、新薬をつくり出すのは簡単なことではありません。人間とお金を投入しても、必ず成果を上げられるという保証は何もありません。たいていの新薬創生への取り組みは、結局のところ失敗してしまうのです。
営利会社として先行投資にも限度があります。しかし、たまには採算を度外視して冒険に乗り出さないと会社に勢いがなくなり、ついには事業の存在自体が危うくなってしまいます。その前に優秀な社員から、いち早く逃げ出していくのです。
新薬開発という、なじみの薄い分野で、読み手をハラハラドキドキさせながら、ひっぱっていく筆力はたいしたものです。民事裁判の前後と、わずかな待ち時間まで本を開いて読みふけってしまいました。
(2017年12月刊。1500円+税)

異色の教育長、社会力を構想する

カテゴリー:社会

(霧山昴)
著者 門脇 厚司 、 出版  七つ森書館
学校教育のあり方を教育長経験者が鋭く告発する本であると同時に、あるべき姿も呈している頼もしい本です。
ながく教育研究者であった著者が、ひょんなことから(交通事故で瀕死の重傷を負い、一命をとりとめたのです)、居住する村の教育長を引き受けた6年あまりの活動をふり返った本です。ですから、学校現場のことがよく分かっていて、教育長ががんばれば、それなりのことが出来ることを証明しました。
私が感嘆したのは、「選書会」です。中学校に300万円、小学校には100万円を振り分けて、生徒全員に1人3冊まで選ぶ権利を与えます。合計600万円の予算で、業者に2000冊の本(マンガ本ははいっていません)をもってきてもらって、授業時間1コマを丸ごとつかって本を子どもたちに自由に選ばせ、図書館に置いて貸し出すのです。これでは子どもたちは図書館に通うようになりますよね。本好きは、新たな世界へ飛び出すのを助けます。この試みを幼稚園にまで広げた(ただし50万円)というのですから、たいしたものです。
そして、「ノーテレビ、ノーゲーム」運動を推進します。
さらに、「読み合い」です。これは、「読み聞かせ」ではありません。これまで会ったことのない2人が絵本を媒介にして仲良くなるきっかけにすることを主たる狙いとした取り組みです。
また、「おんぶ、だっこ運動」というのも実現させました。体育館のなかで、他の子をおんぶして一周する。また、他の子をだっこして一周する。これで、他の子と体と体を接することになり、相手の重さや体の温かさ、ときには特有の匂いにも気がつく。他者に対する親近感が高まり、クラスのまとまりが良くなり、いじめがなくなっていく。さらには、子どもの背筋力が向上する。
いいですね、いいですよね、こんな工夫って・・・。
そして、著者は学力向上路線からの離脱を宣言します。子どもたちが授業が楽しいと思えるようにするのです。勉強が楽しいと子ども思っていると、結果的に学力は向上します。うん、うん、そうなんですよね・・・。
また、キッズ・カンパニーを設立し、子どもたちがサツマイモをもとに商品として売り出す機会を与えます。もうけたら、村に税金を払ってもらいます。残ったもうけは子どもたちのために使われます。いやあ、楽しいですね・・・。
日本の教員は世界でも珍しいほど忙しい。朝7時から夜10時まで、働かされている。そして、その結果、日本の教員は勉強せず、自分の頭で考えなくなっている。その能力が「ほどほど」で、求められている水準に達していない。従順さはあっても、子どもたちの将来を考えようという視点に欠けている。
「ゆとり教育」は、知識偏重を憂い、人間らしい人間の育成を目ざすという目的だったが、現場の教員たちは何をしていいのか分からず混乱してしまった。
新しく教員になったうちの4分の1しか教員組合に加入しない。今では、教職員組合の存在感は薄い。
著者は、教員はもっと本を読み、勉強し、自分の頭で考えること、上からの指示にひたすら従うだけではいけないと強調しています。まったく同感です。そして、そのためには、もっと教員が学校でゆとりを感じられるようにする必要があります。まったくムダなイージス・アショアに2000億円を投じるなんてことをやめて、教育予算を増やしたらいいのです。そして、日の丸、君が代、そして教育勅語を押しつけるなんてバカなことをやめましょう。学校の教員をのびのびさせたら、子どもたちもハッピーになり、日本の未来も開けてくること間違いありません。
ところで、著者は、今はつくば市教育長です。続編が待たれます。楽しみです。
とても画期的な、いい本でした。あなたもぜひ図書館で借りて読んでみてください。
(2017年12月刊。2800円+税)

福岡県弁護士会 〒810-0044 福岡市中央区六本松4丁目2番5号 TEL:092-741-6416

Copyright©2011-2025 FukuokakenBengoshikai. All rights reserved.