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カテゴリー: 社会

井上ひさし全選評

カテゴリー:社会

(霧山昴)
著者 井上 ひさし 、 出版  白水社
驚嘆・感嘆・慨嘆の本です。1974年(昭和49年)から2009年(平成21年)まで35年間にわたって、著者が各賞の審査員となり、選評を執筆したものを集めた本です。なんと772頁もありますので、私は読了するのに2ヶ月ほどかかりました。日曜日のお昼に、ランチタイムのおともとして読みふけったのです。
いやはや、著者はとんでもない量の本を読んでいますよね・・・信じられません。
そして選評の言葉が実に温かいのです。作家を目ざすなら、もっと言葉そして文章を大切にしてほしいという苦言も呈せられることがありますが、それも温かい励ましとしか思えないタッチなのです。
文章に微妙なズレがあるのが気になる。それをなくすためには、古書店から日本文学全集を一山買い込み、古今の名作をうんと読んでことばの感覚を養えば、きっといい作品が書けるはず。
うひゃあ、日本文学全集を読破しないと、いい作品は書けないんですか・・・。まいりました。
「文章は活(い)きがいいものの、ところどころに小学校高学年クラスの、それも手垢のついた表現が現われて、これは損である」
なんとなんと、「小学校高学年クラス」と評されてしまっては、やはりみじめですよね。
「頻繁な行替えや体言止めは、文章をハッタリの多い、いわば香具師(やし)の口上のようにしてしまうから危険な要素なのだ」
なるほど、そんな点も気をつけるのですよね・・・。
作品とは、読み手がそれを読み終えた瞬間に、はじめて完結する。
エッセイとは、つまるところ自慢話をどう語るかにある。もとより、読者は、一般に明けすけな自慢話は好まない。そこで書き手は自慢話を別のなにものかに化けさせ、ついには文学にまで昇華させなくてはならない。では、何をもって昇華作用を起さしめるのか・・・。
エッセイが自慢話であることを、どう隠すかが勝負の要(かなめ)。その一点にエッセイの巧みさ下手が現われる。
日本語は、世界のコトバのなかで、とりわけ「音」の数が少ない。英語が4000、中国語(北京語)が400の音でできているのに、日本語は、「アイウエ・・・ン」の45音、それに拗音と濁音、半濁音を加えても100ちょっとしか音がない。100とちょっとの音で森羅万象を現さなければいけないから、どうしても同音異義語がたくさんできてしまう。
小説は、言葉と物語とか読者の胸にしっかりと届いて、そのとき初めて完結する。
「本文は、文章も物語も華麗すぎて、とりとめがなくなり、読む者をいらいらさせる。本能の見せびらかしすぎです。思いついた比喩やギャグを全部並べたててはいけない」
これは、かなり手きびしい評価です。それだけ著者は作者の才能を買っているということなんでしょうね。
小説とは、書き手が読み手に何か祈りのようなものを分かち与える行為なのだ。
「むやみに難しく書いて、『文学している』と錯覚する、いわゆる文学青年病にかかっていないのがよろしい」
すべて作品は読者の胸にしっかりと収まってはじめて完結へ向かうもの。
中島博行(横浜の弁護士です)の『違法弁護』について、ヒロインに艶や照りを欠いている、会話に洒落っ気や諧謔味が乏しいのは残念という選評です。私も自戒しましょう。
着想や手法も大事だが、文章はもっと大事。神経の行き届いた文章で、もう一度、挑戦してみてください。
出来そうで出来ないのは、「人間」を書くこと。さらに、「人間」と「人間」との関係を書くことは実にむずかしい。このあたりは、勉強や努力の域をはるかに超えて、その書き手が神様からどれだけ才能をもらって生まれてきたかにかかっていると言ってよい。
ええーっ、そ、そうなんですか・・・。では、私はダメなんでしょうか・・・。トホホ、です。
「文章の快い速度感があって、そこに豊かな才能を感じはするものの、あまりの作意のなさと自己批判の乏しさに半ば呆然とせざるを得ない」
うむむ、これまた、かなり手厳しい選評ですね。
そんなわけで、モノカキを自称する私としては、作家になるには、まだまだハードルはあまりにも高いと自覚せざるをえませんでした。
何のために私たちは小説を読むのか。それはひまつぶしのためだ。だけど、良い小説は、私たちの、その「ヒマ」を生涯にそう何度もないような、宝石よりも光り輝く「瞬間」に変えてしまう。しなやかで的確な文章の列が、おもしろい表現や挿話のかずかずが、巧みにしつらえられた物語の起伏が、そして、それを書いている作者の精神の躍動が、私たちの平凡な「ヒマ」を貴い時間に変えてくれるのである。
いやあ、なんと心に迫る文章でしょうか。さすがは井上ひさしです。こんな文章に出会っただけでも、この部厚い本をひもといた成果がありました。
ひまつぶしに最適の本としておすすめします。たくさんの本が紹介されていて、おもしろそうな本に出会う手引書にもなります。
(2010年3月刊。5800円+税)

オウム真理教事件とは何だったのか?

カテゴリー:社会

(霧山昴)
著者 一橋 文哉 、 出版  PHP新書
先日、民放テレビが「坂本弁護士殺害事件の真相」を描いた特集番組を放映していました。いつもテレビは見ませんので、録画してもらったのを見ました。久しぶりに坂本弁護士の笑顔に接することができました。そして、妻の都子(さと子)さんと3歳の長男(龍也君だったかな)と親子三人で楽しそうに公園で遊んでいる映像も流れました。
何の罪もない弁護士一家を、オウムは活動の邪魔になるといって殺したのです。しかも、弁護士だけでなく、妻と3歳の子どもまで・・・。オウムの男たち6人で就寝中の一家3人に襲いかかって殺害しました。途中、都子さんは子どもだけは助けて、殺さないでと叫んだというのですが、男たちは一家3人をその場で殺し、なんと3人の遺体はバラバラにあちこちの山林に埋めてしまったのでした。本当にむごいことをするものです。
そんな殺人教団に、今も信者が2千人はいるというのには驚かされます。信じられません。
この本の後半では、1995年3月30日の朝に起きた国松孝次・警察庁長官狙撃事件の犯人が今なお捕まっていないことを問題としています。
21メートル離れたところから動いている人間に3発の銃弾を命中させるというのはスナイパーとしてきわめて優秀でなければありえない。犯人として疑われた男たちにそんな能力があるとは思えない。オウム信者だった元巡査長の自供は客観的に疑わしいのに、なぜビジネスホテルに監禁して取調したのか。そもそも国松長官が、長官になる前に億ションとも呼ばれる超高級マンションを即金で買えたのは例の裏金(または餞別金)の成果なのではありませんか・・・。いろいろ疑わしいことだらけのまま、結局、迷宮入りしてしまいました。世界一優秀なはずの日本警察の親分(トップ)が狙撃されて瀕死の重傷を負ったというのに、その犯人を捕まえることができず、今もって犯人像すら不明というのでは、「優秀」だという看板が泣きます。
この本の前半には、教祖の麻原がオウム真理教をたち上げるに際して、3人の男の力を借りていることを紹介しています。「神爺」と呼ばれる70代の老詐欺師、阿含(あごん)宗のときから行動をともにしてきた「長老」、そして、インド系宗教団体にいた「坊さん」の3人が、麻原とともにオウム真理教の基礎を築いた。
なるほど、麻原は弁舌さわやかに人をたぶらかすことに長(た)けていたようですが、それは老詐欺師によって磨きをかけられていたということのようです。
私はオウム真理教事件を絶対に風化させてはいけないと考えています。まして、今なお殺人教団の教えを「真面目に」実践している信者が2千人もいるというのですから、彼らの「教え」の本質が詐欺であり殺人教団であったことを、事実でもって明らかにしていく必要があります。
その意味で、今回の死刑執行は間違いだった、少なくとも早すぎたと私は考えています。
今でもたくさんの解明すべき疑問点があるのです。時がたてば分かってくることもありうるのです。彼らを死刑執行するのではなく、生かして、もっと事実を語らせるべきだったと思います。それは裁判が有罪で確定したから不要だということにはならないのです。
いろんなことを考えさせてくれるタイムリーな本でした。
(2018年8月刊。920円+税)

憲法について、いま私が考えること

カテゴリー:社会

(霧山昴)
著者 日本ペンクラブ 、 出版  角川書店
日本ペンクラブが憲法について語る本は、これが2冊目。1冊目は、1997年に井上ひさし選で『憲法を考える』(光文社)でした。
それから21年たって、今や日本国憲法の運命は大変な危機に直面しています。
アベ流のごまかし改憲が現実化する心配が強まっているなかで、ペンクラブの面々が、思い思いに憲法を語っているこの本は、大きな意義が認められます。
それにしても、アベ流改憲を狙っている人々は、そろいもそろって根っからの対米従属、対米屈従の人たち。歴代自民党政権の背後には、常にアメリカの指図があり、その世界戦略に都合のよいように自衛隊を位置づけ、そして日本という国のありようも変えようというのです。
ほれぼれするように立派で美しい憲法である。でも、この憲法には脆弱性がつきまとってきた。違憲であるものに常に足蹴(あしげ)にされてきた。この平和憲法を守るのは簡単でありながら、大変至難に思える(志茂田景樹)。
私たちは、すこぶる滑稽な時代を生きている。だって、そうではないか。大臣や高級官僚が、明らかに嘘とわかる大嘘を、平気で堂々と述べるのである。肝心なことは記憶にない、の一言ですますのである。嘘つきと健忘症たちが、国政をになっている(出久根達郎)。
私にとって、家庭とは父親がいないものだった。明治生れの父は外に女をつくり、家にはめったり寄りつかなかった。父の横暴と、ただ泣くしかなかった母の記憶は、私の世界観の基本である。力で人を従わせる人間への嫌悪。弱者を思いやる気持のない政治への怒り(赤川次郎)。
2017年の10~20代の行方不明者は3万3000人。ここ数年、10~20代の自殺者は毎年3000人。15~29歳の引きこもりは38万人(2015年)。
金子みすずと入選順位を競った詩人の島田忠夫は、戦時中は軍国詩人になったにもかかわらず、疎開先で文学をしていて地元民からスパイと疑われて警察に密告され、官憲から拷問を受け、終戦の一週間前に若くして急死した(松本侑子)。
安倍晋三や麻生太郎ならぬ阿呆太郎をふくめて、壊憲派(改憲派)は山口組の組長以下の歴史認識しかもっていない。侵略戦争をしたことへの痛烈な反省から9条は生まれているのに、それが分からないから、9条を壊して、また侵略戦争をしようとしている(佐高信)。
かつて「家族」とは、「戸主」が扶養すべき人々のことであって、戸主本人は家族の一員ではなかった(中島京子)。
「梅雨(つゆ)空に 九条守れの 女性デモ」
これが公民館だよりへの掲載が拒否された俳句です。ここまでアベ流改憲が押し寄せてきているかと思うと、暗然とします。それでも、日本ペンクラブって、がんばっているんですね。励まされました。
(2018年9月刊。1700円+税)
 帰宅したら、先日の仏検の結果を知らせるハガキが届いていました。どうせダメだったんだよな、暗い気持ちで開いてみると、意外にも合格していました。120点満点で62点とっていて、基準点60点をクリアーしていたのです。自己採点では61点でした。これまでは80点前後をとっていましたから20点も下まわって不合格したと思っていたのです。要するに、問題のレベルがいつもより難しかったということでしょう。
 1月末に口頭試問を受けます。気を取りなおして、毎朝のフランス語学習にこれまで以上に力をいれるつもりです。

アマゾン

カテゴリー:社会

(霧山昴)
著者 成毛 眞 、 出版  ダイヤモンド社
私にとってアマゾンは、急に本を求めるときに利用するところでしかありません。ところが、この本を読んで、アマゾンは、今や世界制覇を狙っている企業なのではない、そんな恐れの気持ちすら抱いてしまいました。
アマゾンが営業を開始したのは1995年。今から、わずか23年前のことです。ところが今では、とんでもない世界的巨人企業になっています。
アマゾンの株価は、上場したときより125倍に上昇した。といっても、配当はしていない。
長いあいだ、アマゾンは利益を計上せず、ほとんど設備投資にばかりまわしている。アマゾンは、毎年、数千億円も費やして、超大型の物流倉庫や小売店を次々に建設している。
アマゾンの本当の強さは個人向けに本を売るところではなく、企業向けサービスにある。アマゾンウェブサービス(AWS)の営業利益は43億ドル。これは、アマゾンのどの事業よりも高い。
フルフィルメント・バイ・アマゾン(FBA)の仕組みがあるため、マーケットプレイスで扱われる商品数は全世界で2億品目をこえる。アマゾンのマーケットプレイスには全世界で200万社が利用している。アメリカのネット通販市場ではアマゾンのシェアは4割をこえ、その取扱い高は20兆円に達している。
アマゾンの最強の物流システムでは1ヶ所の倉庫から毎日160万個の商品を出荷できる。
アマゾンの時価総額は78兆円(7777億ドル)。これは、日本の上位5社、トヨタ自動車、NTT、ドコモ、三菱UFJフィナンシャル・グループ、ソフトバンクをすべて足しても及ばない。
アメリカの低所得層、つまりフード・スタンプの受給者はウォルマートを頻繁に利用している。アマゾンは、そこを狙った。
アマゾンには、ダッシュボタンがある。定期おトク便だ。よく購入する商品を、あらかじめ設定しておくと割引価格で定期的に商品が届くシステム。これがうまくいくと、その企業にとって消費者は競争相手の商品を買わず、広告費を大幅に抑えられる。
AWSはアメリカのCIAも利用している。そのセキュリティーの高さが証明されたようなものなので、全世界で利用が広がった。
アマゾンのプライム会員になると、映画やドラマが見放題で、音楽も100万曲が聴け、写真も保存し放題。日本では、本や食品が当日配達される。
これらは、AWSのもうけがつぎ込まれるため可能となっている。
世界中のデータセンターのうち、アマゾンのシェアは4割。
日本のアマゾンプライム会員は600万人。アメリカは8500万人。年会費は前払い。プライム会員の年会費はアメリカで1万2千円なのに、日本では3900円でしかない。しかも、月400円もある。
アマゾンの配送費は1兆円をこえている。売上高に対する配送費の割合は10%をこえている。
アマゾンは、日本で4億個を配送するが、その65%の2億5千個をヤマトが請負っている。ヤマトの15%に相当する。
アマゾン、まさしく恐るべしを実感させる本でした。
(2018年10月刊。1700円+税)

懲戒解雇

カテゴリー:社会

(霧山昴)
著者 高杉 良 、 出版  文春文庫
今から40年も前の小説ですが、まったく色あせしていません。企業小説のベスト・オブ・ベストとオビに書かれていますが、オーバーではありません。山崎豊子の「沈まぬ太陽」を読んだときにも思いましたが、大企業の内部での人事抗争の激しさは想像を絶しますね。つくづく民間企業に入らなくて良かったと思いました。
モデルがいる企業小説で、あとがきでは、その後の人生展開も紹介されています。
技術系の課長職にあるエリート社員が懲戒解雇されそうになり、逆に会社を相手として地位保全の仮処分申請をするという前代未聞の出来事が起きたのでした。丹念に取材して、うまく小説に構成されていますので、感情移入できて歯がみする思いで読みふけることができます。
社内には、次か、次の次には自分が社長だと自信満々の野心家がいるものです。そして、目的のためには手段を選ばないところから、社内で反発を買い、結局のところ、野心に駆られて強行した懲戒解雇に失敗するどころか、社長になる前に寂しく去らざるをえなくなります。そして、問題のエリート社員は会社を去らざるをえなくなりましたが、インドネシアで大活躍したのでした。
会社のなかでも筋を通す人はいるし、そんな人にエールを送る人も少なくはないのですね。文科省の元事務次官だった前川喜平氏をつい建想しました。近く福岡にも佐賀にも来て講演されるようです。憲法と教育の関係など、いま考えるべき課題をはっきり示していただけそうです。聞き逃さないようにしましょう。
(2018年6月刊。800円+税)

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