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カテゴリー: 司法

やさしい猫

カテゴリー:司法

(霧山昴)
著者 中島 京子 、 出版 中央公論社
日本にやって来たスリランカ人がビザの期限が切れているのが品川駅で警察官から不審尋問を受けて発覚。不法滞在者として身柄は東京入国管理局に拘束された。しかし、彼には日本人女性とのあいだで結婚の話があり、紆余曲折しながらも入籍していた。入管当局は、この結婚を偽装結婚として、国外退去を命じた。これに異議申立して、ついに東京地裁で裁判が始まる。
オビに「圧巻の法廷ドラマ」とありますが、まったくそのとおりです。入管行政の問題に詳しい指宿昭一弁護士に丹念に取材してこの本が出来あがったことがよく分かります。女性の訴務検事が、偽装結婚を認めさせようと、根堀り葉掘り、嫌らしく問い詰める様子は、まったくそのとおりで、この人(女性検事)は何が楽しくて、こんな尋問をしているのか、自問自答することはないのかと、小説ではありますが、とても気になります。
そして、法廷で証言することの大変さが、高校生の娘の心理描写で、ひしひしと伝わってきます。
入管行政の問題点が、この本を読むと、すんなり頭に入ってきます。要するに、日本政府は「優良外人」(モノを言わず、ただひたすら働くだけの人々)だけがほしいのです。少しでも当局に歯向こうものなら、たちまち本国に身ひとつ帰国するよう指示します。
そして、収容所での処遇は劣悪と言うほかありません。
茨城県牛久市にある入管の収容所(東日本入国管理センター)だと、東京から往復で4時間もかかってしまう。とても辺鄙な土地にある。
「小さな家族を見舞った大事件」とオビに書かれていますが、まったくそのとおりのストーリー展開です。本当に話の運びが自然ですし、読ませます。最後は、あえなく敗訴してしまうのかと心配していたら、なんとハッピーエンドでした。
来日した外国人の毎日の生活の実情について、詳しく紹介されてて勉強になります。
タイトルだけでは何をテーマとした小説なのか、さっぱり分かりませんが、読み出したら止まりません。いつもながら、さすがの著者の筆力に驚嘆し、圧倒されました。
(2021年10月刊。税込2090円)

檻の中の裁判官

カテゴリー:司法

(霧山昴)
著者 瀬木 比呂志 、 出版 角川新書
私より6歳ほど年下の著者の本は何冊も読んでいますが、巻末の著者紹介によると、私の読んでいない本が何冊もあることを知りました。この本は本年6月に続いて2回目の紹介になります。2度も読んだのです。
著者は裁判官として33年間を過ごし、そのあいだに最高裁事務総局にもいましたので、最高裁による裁判官の人事統制の実情については、内側から知る立場にもいたことになり、説得力があります。私は、著者の指摘は、おおよそあたっていると考えていますが、何かしらの違和感が絶えずつきまとっているのも事実です。そこの感覚を自分でも文字化できないところにもどかしさを感じています。
それまで比較的良心的でいい裁判官だった人が、所長になったら豹変(ひょうへん)することが、時にある。福岡では、あまりそれを感じたことはありません。おしなべて福岡地裁の所長には、いわゆる人格者が就任しているからです。
「お殿様的な高裁の裁判長」というのは、もうそれ以上「上」にはいかず、転勤もないので、「心穏やかに安心していられる地位にある」。定年間際の高裁の裁判長が世間的にあっと驚かす判決を書くことがあります。いいことなんですが、なんで、もっと早く、それを実行してくれなかったのか…という思いが、いつもあります。これは、ないものねだりなのかもしれませんが…。そして、良い判決が出ると、うれしくなります。
近年の裁判官の不祥事で目立っているのは、性的非行関係だという指摘には、まったく驚いてしまいました。ええっ、そ、そうなの…、という統計です。これには著者も大きなショックを受けたとのこと。そりゃあ、そうですよね。
裁判官会議は、実際上、完全なセレモニーと化している。もし、何か意見でも言おうものなら、所長から目のかたきにされ、評価に影響し、集団の中で孤立しかねない。むむむ…、本当に、そうなんでしょうか。まあ、そうなんでしょうね…。
東京地裁の所長代行は選挙で選んでいたそうです(今も、でしょうか…?)。このとき、誰に投票するか上から指定される完全な八百長選挙だった。こんなことが、本当に今も続いているのでしょうか…、ぜひ、教えてください。
裁判官だって、「人の子」だという心理が説明されています。たとえば、自分より優れているとは思えない後輩たちに先を越された時の裁判官たちの嘆き…。やっぱり認められたいよね、ちゃんと処遇してもらいたいよね、という当然の声が上がっている。当然ですね…。
この本を読んで、「怖さ」を感じたのは次の文章です。いえ、これは著者に対する「怖さ」では決してありません。そうではなくて、システム化されていることの恐ろしさを感じた、ということです。
「報復は必ず行われるが、いつ、どのようにして行われるのかはまったく分からない」というシステム(ルール)だ。このシステムは、人を極端に委縮させる。
この本で知って、問題だと思ったことは、最高裁判事のあと、原発裁判をかかえている東芝や東京電力に就職した人がいるというのです。これって、いやですよね。もう、そんなにお金は必要ないはずなのに、まだお金に執着する人がいるんですね…。嫌です、いやです、いったい誰なんでしょうか…。
東京地裁の労働部の裁判官に求められるものは、能力でも識見でもなく、法廷での精神的にまいってしまわないこと。な、なーるほど、ですね…。
多くの場合、きわめて保守的で、訴訟指揮も厳しい裁判官が部長になるが、たまに苦労人で話のわかる、かつ打たれ強い人を部長にする。権力というのは、それほどしたたかなものだ。この指摘は、きっとそうなんだろうなと納得しました。
みずからの良心を貫く判決の書ける裁判官がどれだけいるかという問いに対して、5~10%という答えがかえってきたとあります。これは、実は私の実感にもあっています。本当に、ときとしてそんな裁判官にあたることがあり、そのときには、裁判官も、まだまだ捨てたものではないなと思い直して弁護士を続けています。
弁護士任官がうまくいってないのを、著者は、最高裁の外向けのポーズに弁護士会がいちおう協力している傾向が強いと指摘しています。この点にはその手続に長く関わってきた一人として異議があります。弁護士会の責任を論する前に、裁判所は、自分の風土にあわないと思った弁護士が参入しようとするのと、それを全力で阻止してきたし、阻止しているのが現実なのです。だから、裁判官改革がまだまだ不十分だというのは私も同感なのですが、著者は、その点の十分な事実認識がないように思われます。でも、大変勉強になる本でした。
(2021年3月刊。税込1034円)

少数株主

カテゴリー:司法

(霧山昴)
著者 牛島 信 、 出版 幻冬舎文庫
東京で企業法務の弁護士として活躍している著者は、司法にからめた企業小説の書き手でもあります。先日、顔写真つきで大きなインタビュー記事がのっていましたが、なんと私と同じ団塊世代(私のほうが1歳だけ年長)です。
今回の本も、企業法務は扱っていない私にとっても大変勉強になりました。
資産のある会社、老齢になり始めたオーナー夫妻、その離婚、夫の側の不貞行為、夫の隠し子、密かにしかし公式につくられた信託財産、会社の未来、会社のステークホルダー…。こんなケースこそ弁護士としての腕の振るい甲斐がある。なるほど、うん、そうですね…。
今回の舞台は非上場会社の少数株主の扱い。少数派のもっている株は、配当還元といって、配当金が年にいくらかで値段が決まるのがふつう。ところで、非上場会社の株は、会社の承認がないと買うことができない。
それで、最近、法改正によって、少数株主は、自分の株式を会社に買取請求できることになったようです。買ってもらえるとして、問題は、その値段。
非上場会社の少数株主に矛盾とそのしわ寄せが集中している。フェアな扱いを受けていない。もっと払える配当、高値で買い戻せる株、もっと投資にまわせる内部留保、放置されたまま眠り続けている土地の含み益…。
勝率を誇る弁護士を軽蔑する。むずかしい事件をやらず、勝てそうな事件だけをやれば勝率は上がる。でも、それは、18歳になって、中学校の入試問題だけを解いているようなものだ。
対象となった非上場会社については、将来の収益力(DCF)と純資産評価を50対50の割合で足しあわせるべきだ。すると帳簿価格として算定した金額の3倍以上になった。それを前提として少数株主権を会社に買い取ってもらう。裁判所を介入させたら、それが可能になる。
弁護士は不思議な職業だ。超高級ナイフのような切れ味でしゃべりまくったところで、滝の水が勢いよく流れ落ちるように、とうとうと論理を展開してみせたところで、話している中身が信用できると相手が受けとってくれるとは限らない。弁護士にとって相手を煙に巻くのは仕事の一部にすぎない。かえって反発を買うことも多い。才気走ったところを見せるのは不興を買うだけになりかねない。
著者は、代理人業が気に入って、何十年も弁護士をしているとのこと。依頼者へは真っ当な法的サービスを提供する。もし依頼者自身が弁護士だったら実現したいだろうことすべてを代って行う。なーるほど、ですね。でも、なかなか出来ません。
社外取締役によるチェックは限界がある。企業のトップと会計責任者とが組んで経理処理をしたら、社外取締役なんて知るよしもない。そして、それを防ぐ手立てはない。そのとおりです。
いやあ、難しい内容をよくぞここまで分かりやすく解説したものだと思いました。
(2021年5月刊。税込963円)

裁かれなかった原発裁判

カテゴリー:司法

(霧山昴)
著者 松谷 彰夫 、 出版 かもがわ出版
3.11の大津波で重大爆発事故を起こしたのは福島第一原発(フクイチ)ですが、この本が扱っているのは、「フクイチ」ではなく福島第二原発について1975年1月7日に提訴された設置許可取消を求める訴訟(原告403人)のほうです。
「3.11」の前、東京電力も国も、原子力発電所は絶対に安全で、事故など起きることがない、スリーマイル島(アメリカ)もチェルノブイリ(ソ連)も原発の「型」が違うので心配無用と断言し、裁判所もそれに盲従したのでした。そして、福島地裁(後藤一男裁判長)の一審判決は、スリーマイル島の原発事故は主として運転管理の人為的ミスによるもので、原子炉の基本設計に問題はないとした。続く仙台高裁の控訴審(石川良雄裁判長)も、チェルノブイリ原発で事故が起きたとしても、日本では事故は起こりえないとした。しかもそのうえ、なんと、「反対ばかりしていないで、落ちついて考える必要がある。原発は地球環境を汚染しないものだから」という自分勝手な個人的意見まで判決に書き込んだというのです。これには、まったく呆れはててしないました。この石川良雄裁判官が、その後に起きた「3.11」を、今どう考えているのか、聞いてみたいものです。
ことほどさように、裁判官の判断はあてにならないことがあります(幸いにしても、いつもではありません)。
原告側の弁護団長をつとめた安田純治弁護士の言葉は裁判の本質を次のように面白く、分かりやすく解説しています。
裁判官は、よろめきドラマの主人公のようなもの。よろめくことが仕事。原告側の主張に傾いてきたなと思えるときもあれば、反対にだいぶ被告側に寄っているなと思えるときもある。
原告・被告双方の主張を聞いて、あっちにフラフラ、こっちにフラフラと、絶えずよろめいている。もっとも、そうでないと困る。初めから結論をもって、法廷にのぞんでいて、どちらの主張しても真剣に耳を傾けないのでは裁判にならない。
まことに至言です。本当に、そのとおりです。ですが、まったくブレない裁判官が少なくないのも現実です。自分勝手な思いこみを絶対視してしまう人がいます。とくに、裁判当事者の一方が、行政や大企業だと、反対側の主張にはまったく耳を貸そうともしない裁判官がいます。それにも二種類あって、法廷での訴訟指揮では耳を貸したフリをしてバッサリ切り捨てる人と、聞く耳を持たない、聞こうとするポーズも示さない人すらいます。
10年近く続いた裁判を支えた原告団の多くは福島の教師たち(その多くは高校の教員)に対して、安田弁護士は鵜川隆明弁護士を通じて、「裁判は子孫への伝言なんだ」と諭(さと)した。そうなんですよね。勇気のない、国と大企業に盲従するばかりの裁判官たちを相手にしてでも、言うべきことは言う。これが必要なことは、「3.11」が証明しています。
この本ができたのも「3.11」のおかげですが、原告としてたたかった人たちは、「3.11」で自分たちの正しさが証明されたことを残念に思っているのです。本当にそうなんですよね。
原告団と一緒になって理論面で裁判を支えてきた安斎育郎・立命館大学名誉教授は「3.11」の直後に、「申し訳ない。なんとか、このような事故だけは起きないように力を尽くしてきたが、力及ばず申し訳なかった」と原告団に謝罪した。いやあ、学者の良心を聞いて、心が震えました。いろいろ勉強になりました。すばらしい本でした。やっぱり声を上げるべきときには、声を上げ、みんなで立ち上がるべきなんですよね。それが人生ではないでしょうか…。一読を強くおすすめします。
(2021年2月刊。税込1980円)

「逆転無罪」

カテゴリー:司法

(霧山昴)
著者 無罪を勝ち取る会 、 出版 関西共同印刷所
これは「特養あずみの里、刑事裁判の6年7カ月」というサブタイトルのついた144頁の冊子です。「夏やすみの宿題」と思って読みはじめたところ、実に見事な編集とデザインで、とても読みやすく、この裁判の意義と問題点をたちまち理解することができました。
発行主体は、特養あずみの里業務上過失致死事件裁判で無罪を勝ち取る会です。
無罪判決の3つの要因
まず、木嶋日出夫弁護団長が画期的な無罪判決の意義と要因を3点あげています。第一は、当事者本人のがんばり。途中で心が折れて罰金20万円なら支払って終わらせたいと本人がしなかったこと。この裁判は自分だけの問題ではない、日本の介護の未来がかかっているという高い認識をもって、最後まで本人が頑張り通したのです。すごいことです。
 第二に、15人の弁護団が介護・福祉の専門家、医療関係者、法律学者との共同作業によって高い水準の書面を作成したこと。死因は窒息死でないとする医学所見を一審判決は排斥し、高裁はその点に判断するまでもなく業務上の注意義務違反が認められないとしたのですが、高裁の裁判官たちも、弁護団の指摘をきちんと受けとめ、一審判決のひどさに呆れていたとしか思えません。
 第三に、広範な支援者による裁判支援の取組。無罪要請署名は一審判決までに2種類45万筆、控訴審で28万筆、計73万筆を集め、それぞれ裁判所に受理させています。全国の福祉施設・医療関係者の注目を集めた事案だったことの反映です。全国の医療、看護、介護、福祉の関係者の支援を結集した事件でした。
解説のわかり良さ
 この冊子の本文では、裁判の流れが写真つきで図解され、また、弁護団による解説があります。藤井篤弁護士(東京)はあずみの里へ130回以上も通ったとのこと。弁護団会議もあずみの里で開かれています。釈明、図解、再発、証言そして迷走、弁論、不当、奮起、解析、説得、結論という項目だてで問題点がきわめて明快に説明されています。主として金枝真佐尋弁護士の執筆のようですが、説得力があり、素人にも分かりやすい文章が流れるように要領よくポイントをしぼって展開されています。
 本件では、死因を窒息と聞かされた遺族が怒って警察を動かしたようですが、まもなく民事的には施設と遺族とのあいだでは示談が成立しました。入所して2ヶ月で死亡という短期間だったことからか、遺族との信頼関係を築けなかったことが反省点としてあげられています。もし顧問弁護士として施設に関わっていたら用心したい点です。
裁判のすすめ方
 一審の裁判所は検察官に対して6項目の釈明命令を出しましたが、検察官が従いませんでした。それにもかかわらず、検察官は予備的訴因を途中で追加したのです。そして、一審裁判所(野沢晃一裁判長)は主位的訴因を排斥しながら、おやつの形態変更確認義務違反という予備的訴因で、有罪(罰金20万円)としたのでした。
 弁護団は、現場再現DVDを作成し、法廷で冒頭陳述のとき上映しましたが、このとき検察官は11回も異議申立しています。裁判所はいずれも却下しました。
 あずみの里で働く人たちが法廷で証言しています。深夜まで弁護士と打ち合わせたこと、一問一答形式で一字一句まで覚えて法廷にのぞんだこと、弁護士が検察官役になって想定質問にこたえるシュミレーションしたことなどの苦労話も紹介されています。それにしても、被告人を支援する集会に参加を呼びかけた証人の証言には「信用性に疑問がある」などと書いた一審判決には目を疑います。
病院と特養の違い
 病院と特養との違いを看護学者(川嶋みどり・日本赤十字看護大学名誉教授)が説明していますが、控訴審判決がそのまま採用しているのはすばらしいことです。つまり、間食を含めて食事は人の健康や身体活動を維持するためだけでなく、精神的な満足感や安らぎを得るために有用かつ重要…有用かつ必要である」、「食品の提供は…医療行為とは基本的に異なる」。まことに正論です。食事はみんなでおいしく食べたいし、甘いおやつだって、人生の最後まで食べたいというのは誰だってもっている自然な心情ですよね。
問答無用の高裁が逆転無罪
 東京高裁(大熊一之裁判長)は証拠請求を却下し、忌避申立も簡易却下したうえ、弁論再開申立も受けつけず、わずか1回の三者打合せと1回の口頭弁論で結審したため、弁護団は最悪の事態を覚悟して上告も決意したのでした。ところが、東京高裁は2回目で逆転無罪判決を宣告しました。裁判所は起訴されて5年以上が経過しているから、これ以上時間をかけずに速やかに原判決を破棄すべきだとしたのです。
 これについては、遺族の心情を考えたら、やはり死因をはっきりさせるべきだったと学者が批判しています。難しいところです。それにしても、ドーナツでは窒息しないというのは知りませんでした。結局、死因は脳梗塞のようです。
巧みな編集に魅せられる
 ともかく、オールカラーで、見出しのつけ方と編集の巧みさに完全脱帽して一気に読了し、その感動の余韻に浸ることができました。刑事弁護のすすめ方の見本、そして読まれる総括文書の典型としてご一読を強くすすめします。
(2021年7月刊。税込1320円)

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