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カテゴリー: 人間

進化しすぎた脳

カテゴリー:人間

(霧山昴)
著者 池谷 裕二 、 出版  講談社ブルーバックス
 脳学者が、ニューヨークで日本人の高校生を相手に講義した内容が本になっていますので、とても分かりやすく、知的刺激にみちています。実は、私も高校生のころ、一瞬でしたが大脳生理学を研究してみたいなと思ったことがありました。その直後に、理数系の頭をもっていないことを自覚して、たちまち断念したのですが・・・。
 脳は、場所によって役割が異なる。同じ聴覚野でも、内部では、漠然と音に反応しているのではなくて、ヘルツ数順にきれいに並んでいる。たとえば、5番目の視覚野は、動きを認知する場所。ここが壊れると、動いている物が見えなくなってしまう。
網膜から出て、脳に向かう視神経は100万本ある。多いようだけど、デジカメで100万画素というと、今では少ない。100万本は多いとは言えず、それだけなら、ザラザラ、ガクガクしているはず。テレビやDVDは1秒間に30コマ。映画は、もっとコマ数が少なくて、1秒間に24コマ。
 人間の脳は10ミリ秒というのが時間解像度だ。人間にとって、100分の1秒より小さい桁には意味がない。10ミリ秒で、もう十分に「同時」ということになる。
テレビ画面を虫めがねで拡大してみると、「赤・緑・青」の画素がびっしり並んでいるのが見える。人間が識別できる色の数は数百万色。
 世界を脳が見ているというより、脳が人間に固有な世界をつくりあげているというほうが正しい。
視神経のなかで、上丘で見ているものは、意識には現れない。上丘は、処理の仕方が原始的で単純だから、判断が速くて正確だ。
 サルは、人間が意図的に言葉を教えなければ、絶対に言葉を覚えない。サルは、自分たちのコミュニケーションの中でシグナル(信号)は使うけれど、もっと高度な言葉を自分たちで産み出したりはしない。人間に教えられた、ある意味で不自由な状態にならないと、サルは言葉を覚えない。
下等な動物ほど、正確な記憶をもち、ひとたび覚えた記憶は、なかなか消えない。
人間の身体の細胞は60兆あるが、速いスピードで入替わっている。身体の細胞は3日もたったら、乗り物としての自分は変わっている。脳は、そんなことにならないように、つまり自分がいつまでも自分であり続けるために神経細胞は増殖しない。
神経細胞にとって、もっとも重要なイオンは、ナトリウムだ。恐らく生命が誕生したときに、ナトリウムイオンがまわりにたくさんあった。海だ。生命は海で誕生したと言われている。そこで、もっとも利用しやすかったのがナトリウムイオンだったのだろう。
 神経線維と神経線維が接近しているが、間にすきまがある。その極端に狭い特殊な場所で、神経細胞同士が情報をやりとりしている。その場所をシナプスと呼ぶ。シナプスは、ひとつの神経細胞あたり1万もある。シナプスのすき間はすごく狭い。1ミリmの5万分の1。つまり、20ナノメートルしかない。神経伝達物質が一つの袋のなかに数千個から1万個もぎっしりと詰まっている。人間の記憶や思考があいまいなのは、シナプスに理由がある。
脳の神秘が、こうやってひとつずつ明らかにされています。そうは行っても脳の働きが完全に究明されるのは、まだまだ遠い未来の話のように思えます。
 大脳生理学の到達点について、高校生と一緒に学ぶことができました。
 
(2016年2月刊。1000円+税)

負けを生かす技術

カテゴリー:人間

(霧山昴)
著者 為末 大 、 出版  朝日文庫
私はテレビを見ませんし、オリンピック競技にも関心がありませんので、著者のことはまったく知りません。陸上トラック種目で日本人として初めてメダルをもらった選手のようですね。
オリンピックに出場した体験にもとづいた言葉は、それなりに重みがあります。
オリンピックに出場した選手のほとんどは、オリンピックにいい思い出をもたないで生きていくことになる。 
勝つことの難しさ、負けを乗りこえながら生きていくことの大切さを味わう。勝つ人は、ほんの一握りにすぎない。
オリンピックでは勝たなければいけないという空気が日本ほど強い国は少ない。メディアが一気に騒ぎたてる。どうしても気にしてしまう。
プレッシャーの正体は、外から自分がどう見えているのかを気にしているということ。これを無視できるかどうか、が問われる。
失敗や挫折と同じように、成功もきちんとリセットしていかないといけない。これができるかどうかで、実は人生が大きく分かれていく。
生き残っていくためには、しばし立ち止まって、まわりを眺めてみることが必要だ。今の時代だからこそ、淡々と、ひょうひょうと、世間から距離を置いて生きていくことが大切だ。何が失敗で、何が成功なのか、実は長い人生においては簡単には分からないこと。
失敗を肯定し、失敗して良かったと思えることを、ひとつでも見つけることが大切。それが出来るかどうかが人生を分ける。
私は、失恋もそうだと考えています。失恋しても、だからこそ人間を、自分を見つめ直すことが出来たとしたら、それはそれで素晴らしいことではないかと考えるのです。
不条理、不合理にみちみちている世界、それが世間の現実だ。それと、いかに向きあうかそれが私たちの課題となっている。
「間違えました」と宣言して改められる人は強い。なぜなら、何度でもチャレンジできるから。だから、いかに早い段階で間違いを認められるか、それがとても重要だ。何かの目標を立てたら、それ以外は全部を捨ててしまう。
私は、たくさんの本を読む、具体的には年間500冊以上の単行本を読むと決めていますので、テレビを見るのはやめ、見るスポーツも、歌番組も、一切やめた生活をしています。
それでも本人としては、大いに満ち足りた生活を過ごしています。
明確な目標に向かって、毎日をいきいきと生きるという報酬が既にある。
私は、この言葉にまったく同感です。
どこまで行っても、人生は賭けなのだ。
本当にそうなのでしょうね。たった一度の人生ですから、お互い、やりたいことを精一杯やって生きたいものです。私より30歳も年下の人だとは思えない指摘ばかりでした。さすがオリンピックの、苦労して栄冠を勝ちとったメダリストの言葉は違いますね。
(2016年7月刊。640円+税)

腸のふしぎ

カテゴリー:人間

(霧山昴)
著者 上野川 修一 、 出版  講談社ブルーバックス新書
腸の時代が到来した。世界中の生命科学者たちが、いま腸に注目している。「サイエンス」誌は、過去10年間の化学上の十大成果の一つに腸内細菌の研究をあげた。
たしかに、いまや「腸内フローラ」という言葉は、どこでもよく目にするものとなっていますよね。
腸は消化管の主役であり、もっとも重要な存在である。
生命体が一つの受精卵からつくられるとき、最初につくられるのが腸である。そして、腸は、からだのなかにある外界である。外部の空間を最大限に内部につくり出している。
ヒトは超雑食性の動物であるが、この超雑食性の獲得には、高度な腸の動きが必須とされる。
腸には、立派な神経系がある。腸の神経系は、消化管の運動をコントロールしている。
腸の免疫系の強大な力には、がん細胞の増殖を強力に抑える働きもある。小腸には、ほとんどがんが見られないが、それは腸管免疫系のおかげだとみられている。
人体の腸内には、100兆個をこえる細菌が星のようにきらめいている。その重さは1キロに達し、1000種以上に及ぶ腸内細菌のほとんどは酸素のない大腸にすんでいる。大腸には、酸素なしでも生きていける生物が充ち満ちている。腸内細菌たちだ。
小腸は長さ5~6メートル、大腸は1.5メートル。小腸の直径は平均して3センチ。
小腸で食物が分解するのに要する時間は2~3時間。
人間が1年間に食べる食物は、1トン近い。これを体内に取り入れて分解し、からだを構成している60兆個の細胞をつくり、あるいは入れ替え、そしてエネルギー源に変えている。
腸神経系は、主として食物をゆっくり適正な速度で、消化管の下方に送るぜん動をコントロールしている。
小腸は、胃の次に位置する消化管の中心的存在である。胃や大腸、その他の消化管がない動物は存在するが、小腸のない動物はいない。
小腸のなかに吸収細胞が1600億個いるが、その寿命は実に短く、誕生して死ぬまで平均1.5日でしかない。
腸は、脳の力を借りることなく、入ってきた食物の情報をもとに自らがなすべき働きを選択している。
大腸には、小腸にある「ひだ」や突起は存在しない。食成分中で大腸が吸収するのは、一部の水分とミネラルだけ。そして、100兆個に及ぶ「腸内細菌」をすまわせて、「共生」関係を築き上げている。腸内細菌がつくる酪酸は、大腸のぜん動運動を刺激し、便秘を解消するという効果をもたらす。
腸は、独自にぜん動運動をし、また消化液を分泌する。これは、腸が「自ら考えている」ことを示すものである。腸と脳は、あるときには連絡をとりあい、また、あるときは無関心を装うという、不即不離の関係にある。
ぜん動運動は、食物の分解、吸収が効率的に行われるよう、腸が独自の判断で行っている物理的な作業である。この運動は、腸独自の判断によってセロトニンなどの神経伝達物質が脳神経系とは独立して放出されることで、日々営まれている。腸が「第二の脳」と呼ばれるのは、複雑なプロセスを経るぜん動運動を脳から独立してコントロールしているためである。
人間のからだのなかで最大の免疫系が腸管に存在する。全身の50%以上が腸管免疫系中に集中している。免疫細胞は、すべて骨髄でつくられた造血幹細胞が変化して出来上がったもの。唾液にふくまれる免疫細胞は、すべて腸管にある免疫部隊の総司令部から派遣されたものである。
腸内フローラを構成する腸内細菌は、平均して4~5日間、体内に滞在したあと、体外に排出される。腸内の有害菌といっても、常時からだに悪い作用をしているわけではない。腸内の状態が悪化して有益菌が減少し、有害菌が異常に増加した場合に、病気の原因となる。
腸内フローラは、「お花畑」の名前に恥じず、整然とした区画割りがなされている。
腸内フローラのバランスを良くするには、規則正しく、栄養バランスのとれた食生活を心がけ、ストレスを解消できる生活スタイルを確立すること。
腸の大切さをよく理解することが出来る本です。
(2015年12月刊。860円+税)

がん(上)(下)

カテゴリー:人間

(霧山昴)
著者 シッダールタ・ムカジー 、 出版  ハヤカワ・ノンフィクション文庫
癌についての分厚い上下2冊の文庫本です。
今では多くの癌が死に直結するものではなくなりました。人類の英知の結晶です。この本は、現在に至るまでの医学の進歩をたどっています。
私は、この本を読みながら、人間の身体の神秘性をつくづく実感しました。なにしろ、人間の身体では、いろんな化学的成分がつくられているのです。それを現代科学が少しずつ解明しているわけですが、その対象は、なんと私たち人間の身体の奥深いところでつくられている各種成分なのです。
がんは単一の疾患ではなく、多くの疾患の集まりである。それをひとまとめにして「がん」と呼ぶのは、そこに細胞の異常増殖という共通の特徴があるから。
白血病は、がんのなかでも特別だ。その増殖の激しさと、息を吞むほど容赦のない急速な進行を示す。白血病は、ほかのすべてのタイプのがんと異なっている。白血病にとって、6ヶ月生存したというのは、6ヶ月はまさに永遠とも言うべき長い期間だ。1934年7月、マリーキューリーは白血病で亡くなった。
がん細胞は、正常細胞の驚異的な異形であり、がんは目を見張るほど巧みな侵略者かつ移住者だ。がんでは、無制御の増殖が次々と新しい世代の細胞を生み出していく。
がんは、今日、クローン性の疾患だということが判明している。しかし、がんは単なるクローン性疾患ではない。クローン性に進化する疾患なのだ。変異から淘汰、そして異常増殖という、この冷酷で気の滅入るようなサイクルが、より生存能力の高い、より増殖能力の高い細胞を生み出していく。
平均寿命ののびは、たしかに20世紀初頭にがんの罹患率が増加したもっとも大きな要因だった。
近代的な冷蔵庫が普及し、衛生状態が改善して集団的な感染が減少したため、胃がんの流行は見られなくなった。
がんの全身治療は、あらゆる肉眼所見が消えたあとも、長期間にわたって続けなければならないのが原則だ。
乳がんについて、根治的乳房切除術を受けた患者グループは、重い身体的代償を支払ったにもかかわらず、予後に関してなんの利益も得られていないことが1981年に判明した。今日、根治的乳房切除術の施行は、ほとんどない。
前立腺は、恐ろしいまでのがんの好発部位だ。前立腺がんは、男性のがんの3分の1を占める。これは白血病とリンパ腺の6倍だ。60歳以上の男性の剖検では、3人に1人の割合でなんらかの前立腺の悪性所見が発見される。進行はとても遅く、高齢男性は、前立腺がんで亡くなるのではなく、前立腺がんとともに亡くなることがほとんどである。
たばこと肺がん発症は30年近くも開くことがある。たばこメーカーは、新たな市場として発展途上国を標的にしており、今では、インドと中国における主要な死因はたばこである。
ヘリコバクター・ピロリの除菌は、若い男女で胃がんの罹患率を減少させたが、慢性胃炎が数十年も続いている高齢患者では、除菌療法の効果はほとんどなかった。
エジプト古代王国の時代から、まさしく4000年の歴史をもつ癌治療進化する状況の到達点が実に刻明に紹介されています。
(2016年7月刊。920円+税)
韓国映画『弁護人』をみました。盧武鉉(ノ・ムヒョン)元大統領が釜山(プサン)で弁護士として活躍していたときを描いた映画です。韓国では1000万人がみたとのことですが、大変な迫力があり、あっというまに2時間がたっていました。
 主人公のソン・ガンホは、まさしく法廷で不条理を許さないと吠えまくります。見習いたいド迫力でした。
 アイドル・グループのメンバーが拷問を受ける大学生役として登場してきます。彼がやったのは、女子工員を集めた、ささやかな読書会です。私も大学生のころセツルメント活動のなかで、「グラフわかもの」という雑誌の読者会をしていたことがあります。職場の話がどんどん出てきて、大学生の私のほうが聞き役でした。そんな活動をしていると、アカだとして拷問され、国家保安法違反だというのです。
 法廷の内外で裁判官と検察官は仲間として親しく交流しています。憲法も刑事訴訟法もそっちのけで、権力の忠実な番犬としての役割を競って果たしているのです。これって、日本でも同じようなものですよね。
 権力に真向から対決できる弁護人の存在が欠かせないことを明らかにした映画です。ぜひご覧ください。

最後の秘境・東京藝大

カテゴリー:人間

(霧山昴)
著者 二宮 敦人 、 出版  新潮社
天才ぞろいの大学です。奇人・変人ばかりと言っては失礼にあたります。安易な常識では理解できるはずもありません。こんな人たちがいるおかげで、世の中は楽しく心豊かに生きていられるのかなと思いました。やっぱり、世の中は、カネ、カネ、カネではないのです。
ここは、芸術界の東大とも言われていますが、実は、東大なんて目じゃないのです。なにしろ競争率が違います。絵画科80人の枠に1500人が志願する。18倍。昔は60倍をこえていた。だから、三浪して入るなんてあたりまえ、珍しくはない。専門の予備校がある。
音楽系だと、ある程度の資金力があって、親が本気じゃないとダメ。ピアノとかバイオリンだと、2歳とか3歳から始めるのが当たり前。
美校の現役合格率が2割なのに対して、音校は浪人は少ない。演奏家は体力勝負だから、早く大学に入って、早くプロとして活動しはじめたほうがいい。
センター試験は重視されていない。三割でも、場合によっては一割でも、実技さえよければ合格する。
絵画科の実技試験は、たとえば2日間で人間を描くこと。
そして卒業すると、その半分くらいは行方不明になる。
活躍している出身者はたくさんいる。しかし、それは、ほんの一握り。何人もの人間がそこを目ざし、何年かに一人の作家を生み出す。残りはフリーターになってしまう。それが当たり前の世界だ。
この大学は、全部で2千人。学科ごとに分けてみてみると、たとえば、指揮科の定員は2人。作曲家は15人。器楽科の定員98人は、楽器ごとの専攻なので21種類に分けたら、たとえばファゴット専攻は4人しかいない。少人数教育なのですね。
国際口笛大会でグランドチャンピオンの学生もいる。
音楽は一過性の芸術だ。その場限りの一発勝負。そして、音楽は競争。音校では順位を競うのが当たりまえ。それが前提となっている世界。
工芸科の陶芸専攻では、一緒に泊まって、一緒にご飯を食べて、一緒に寝る。窯(かま)番があるから。
人間の社会が実は奥深いものだということを少しだけ実感させてくれる本でもあります。音楽系と美術系が、これほどまでに異なるものだというのを初めて識りました。面白いです。読んで損をしたと思うことは絶対にありません。東大法学部はロースクール不振から定員割れしているとのことですが、こちらはそんなことは考えられませんね。万一、そうなったときは、日本社会が壊滅してしまったということでしょうね。
ベストセラーになっていますが、社会の視野を広げる本として、ご一読をおすすめします。
(2016年11月刊。1400円+税)

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