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カテゴリー: 人間

男という名の絶望

カテゴリー:人間

(霧山昴)
著者 奥田 祥子 、 出版  幻冬舎新書
しあわせは いつも じぶんの こころが きめる
相田みつをの言葉です。たしかに、そのとおりですよね。でも、簡単なようで、これが実に難しいのです。つまり、他(はた)から見た姿を想像してしまうからです。
この本で、一番、私の心にグサリときたのは、小学二年生になったばかりの女の子の次の言葉です。
「パパとママは、なんで、仲のいいフリをしてんの?」
パパもママも、それぞれ外に好きな人がいるのを、娘はとっくに見抜いていたというのです。なーるほど、ですね・・・。
男性は今、仕事では、労働環境の悪化から職業人としての誇りを保てず、かたや家庭では、妻と心を通わせることができず、子どもとの関係もふくめた家庭不和に直面している。夫、父親としての自らの価値、存在を見失い、もがき苦しんでいる。
なかでも、中年期を迎えてリストラのターゲットとされながら転職も難しく、晩婚化も影響して、まだ育児や子どもの教育に手のかかる団塊ジュニア世代をはじめとする、四十歳代男性に、その傾向が顕著だ。「男は、こうあるべき」という社会、そして、女性からは容赦ない要請を受け、それにこたえきれない。
そこで、心の中で白旗を掲げながらも、かたくなにから(殻)に閉じこもってしまっている。
このところ、解雇の専門ノウハウを有する人材コンサルティング会社と契約して、リストラを代行させる会社が増えている。リストラ対象の社員に対して、業務命令として社内で人材コンサルタントのキャリア相談を受けさせる。このときは、退職のことは一切触れない。そして、「研修」名目で、人材コンサルタント会社に行かせる。このようにして会社は、自ら手を汚さず、社員を辞職へもっていく。その手法は、ますます巧妙化している。裁判になって、会社が退職を強要したと言われないためである。
産業医に正直に話したことが悪用された例もある。
安倍政権は解雇規制を緩和しようとしているが、転職市場が停滞している現状での解雇規制の緩和は、労働者にとって、ますます不利になるだけだ。
既婚女性の仕事関係の不倫は多い。共通点は、不倫相手の収入が夫より高いことが多いこと。夫は知っていると思うけど、何も言わない。夫の定年でも離婚する気はないと、彼女らは口をそろえて言う。
夫婦間のDV被害者のうち、実は男性もある程度の割合を占めていて、しかも増加傾向にある。
苛酷な職場環境にある男性にとって、妻子には認められているという、他者からの承認欲求共同体であるはずの家族が、実際には互いに心を通わすことなく、気持ちがすれ違い、本来の機能を果たしていないという現実は、たしかに受け入れがたいものがあるだろう。だが、かつてのように夫が揺るぎない主導権を握る家庭というのは、そこにはない。にもかかわらず、その現実を直視できないがために、幻想的な「居場所」へ男性は固執しようとする。
未成年の子どもの親権者が父親になるのは、全国でわずか1割でしかない。
まさに男はつらいよ、を実証したとしか言いようのない本です。といっても、絶望しているだけでは、どうしようもありません。
(2016年3月刊。800円+税)

寿命はなぜ決まっているのか

カテゴリー:人間

(霧山昴)
著者 小林 武彦、 出版  岩波ジュニア新書
寿命があるのはなぜか。これって、少し考えると簡単なのですよね。人間が不老長寿の存在だとしたら、新しい人間は生まれる必要がないし、生れたら、増える一方なので、住むところもないほど、あふれてしまうでしょう。
つまり寿命がないと、世代の交代はできない。新しい命が誕生できなくなり、進化も起こらない。
生命は淀みなく流れる川。常に入れ替わり、新しい流れをつくる。それが唯一、自分を育んだ集団を、ずっと先の子孫まで継続させる手段なのだ。
個人にとっては、寿命があることから何か寂しい感じがする。しかし、生命の連続性を維持するということでは、非常に積極的で、生物が若返るためには必須のもの。
動物と植物とでは、寿命を単純に比較することは出来ない。
動物は、基本的に身体を構成する、すべての細胞を維持することで「生きている」状態になる。
植物、ことに樹木の場合には、細胞分裂をしているのは、幹の外側や先端、そして葉や根の一部のみであり、ほかの細胞の多くは分裂しないか、既に死んでしまっている。
人間の脳には140億個の神経細胞がある、人間は赤ちゃんのときから1日に10万個ほどずつ死滅してしまう。平均寿命までに、20~30%の神経細胞が消えてなくなってしまう。
しかし、もともと脳は、その一部しか使っていない。だから、神経細胞の減少は、脳の老化の主要な原因ではない。むしろ、ある程度は数が減ることが神経細胞のネットワーク形成に重要なのだ。
人間の寿命について、またまた有益なアドバイスをいただきました。ありがとうございます。
(2016年2月刊。840円+税)

進化しすぎた脳

カテゴリー:人間

(霧山昴)
著者 池谷 裕二 、 出版  講談社ブルーバックス
 脳学者が、ニューヨークで日本人の高校生を相手に講義した内容が本になっていますので、とても分かりやすく、知的刺激にみちています。実は、私も高校生のころ、一瞬でしたが大脳生理学を研究してみたいなと思ったことがありました。その直後に、理数系の頭をもっていないことを自覚して、たちまち断念したのですが・・・。
 脳は、場所によって役割が異なる。同じ聴覚野でも、内部では、漠然と音に反応しているのではなくて、ヘルツ数順にきれいに並んでいる。たとえば、5番目の視覚野は、動きを認知する場所。ここが壊れると、動いている物が見えなくなってしまう。
網膜から出て、脳に向かう視神経は100万本ある。多いようだけど、デジカメで100万画素というと、今では少ない。100万本は多いとは言えず、それだけなら、ザラザラ、ガクガクしているはず。テレビやDVDは1秒間に30コマ。映画は、もっとコマ数が少なくて、1秒間に24コマ。
 人間の脳は10ミリ秒というのが時間解像度だ。人間にとって、100分の1秒より小さい桁には意味がない。10ミリ秒で、もう十分に「同時」ということになる。
テレビ画面を虫めがねで拡大してみると、「赤・緑・青」の画素がびっしり並んでいるのが見える。人間が識別できる色の数は数百万色。
 世界を脳が見ているというより、脳が人間に固有な世界をつくりあげているというほうが正しい。
視神経のなかで、上丘で見ているものは、意識には現れない。上丘は、処理の仕方が原始的で単純だから、判断が速くて正確だ。
 サルは、人間が意図的に言葉を教えなければ、絶対に言葉を覚えない。サルは、自分たちのコミュニケーションの中でシグナル(信号)は使うけれど、もっと高度な言葉を自分たちで産み出したりはしない。人間に教えられた、ある意味で不自由な状態にならないと、サルは言葉を覚えない。
下等な動物ほど、正確な記憶をもち、ひとたび覚えた記憶は、なかなか消えない。
人間の身体の細胞は60兆あるが、速いスピードで入替わっている。身体の細胞は3日もたったら、乗り物としての自分は変わっている。脳は、そんなことにならないように、つまり自分がいつまでも自分であり続けるために神経細胞は増殖しない。
神経細胞にとって、もっとも重要なイオンは、ナトリウムだ。恐らく生命が誕生したときに、ナトリウムイオンがまわりにたくさんあった。海だ。生命は海で誕生したと言われている。そこで、もっとも利用しやすかったのがナトリウムイオンだったのだろう。
 神経線維と神経線維が接近しているが、間にすきまがある。その極端に狭い特殊な場所で、神経細胞同士が情報をやりとりしている。その場所をシナプスと呼ぶ。シナプスは、ひとつの神経細胞あたり1万もある。シナプスのすき間はすごく狭い。1ミリmの5万分の1。つまり、20ナノメートルしかない。神経伝達物質が一つの袋のなかに数千個から1万個もぎっしりと詰まっている。人間の記憶や思考があいまいなのは、シナプスに理由がある。
脳の神秘が、こうやってひとつずつ明らかにされています。そうは行っても脳の働きが完全に究明されるのは、まだまだ遠い未来の話のように思えます。
 大脳生理学の到達点について、高校生と一緒に学ぶことができました。
 
(2016年2月刊。1000円+税)

負けを生かす技術

カテゴリー:人間

(霧山昴)
著者 為末 大 、 出版  朝日文庫
私はテレビを見ませんし、オリンピック競技にも関心がありませんので、著者のことはまったく知りません。陸上トラック種目で日本人として初めてメダルをもらった選手のようですね。
オリンピックに出場した体験にもとづいた言葉は、それなりに重みがあります。
オリンピックに出場した選手のほとんどは、オリンピックにいい思い出をもたないで生きていくことになる。 
勝つことの難しさ、負けを乗りこえながら生きていくことの大切さを味わう。勝つ人は、ほんの一握りにすぎない。
オリンピックでは勝たなければいけないという空気が日本ほど強い国は少ない。メディアが一気に騒ぎたてる。どうしても気にしてしまう。
プレッシャーの正体は、外から自分がどう見えているのかを気にしているということ。これを無視できるかどうか、が問われる。
失敗や挫折と同じように、成功もきちんとリセットしていかないといけない。これができるかどうかで、実は人生が大きく分かれていく。
生き残っていくためには、しばし立ち止まって、まわりを眺めてみることが必要だ。今の時代だからこそ、淡々と、ひょうひょうと、世間から距離を置いて生きていくことが大切だ。何が失敗で、何が成功なのか、実は長い人生においては簡単には分からないこと。
失敗を肯定し、失敗して良かったと思えることを、ひとつでも見つけることが大切。それが出来るかどうかが人生を分ける。
私は、失恋もそうだと考えています。失恋しても、だからこそ人間を、自分を見つめ直すことが出来たとしたら、それはそれで素晴らしいことではないかと考えるのです。
不条理、不合理にみちみちている世界、それが世間の現実だ。それと、いかに向きあうかそれが私たちの課題となっている。
「間違えました」と宣言して改められる人は強い。なぜなら、何度でもチャレンジできるから。だから、いかに早い段階で間違いを認められるか、それがとても重要だ。何かの目標を立てたら、それ以外は全部を捨ててしまう。
私は、たくさんの本を読む、具体的には年間500冊以上の単行本を読むと決めていますので、テレビを見るのはやめ、見るスポーツも、歌番組も、一切やめた生活をしています。
それでも本人としては、大いに満ち足りた生活を過ごしています。
明確な目標に向かって、毎日をいきいきと生きるという報酬が既にある。
私は、この言葉にまったく同感です。
どこまで行っても、人生は賭けなのだ。
本当にそうなのでしょうね。たった一度の人生ですから、お互い、やりたいことを精一杯やって生きたいものです。私より30歳も年下の人だとは思えない指摘ばかりでした。さすがオリンピックの、苦労して栄冠を勝ちとったメダリストの言葉は違いますね。
(2016年7月刊。640円+税)

腸のふしぎ

カテゴリー:人間

(霧山昴)
著者 上野川 修一 、 出版  講談社ブルーバックス新書
腸の時代が到来した。世界中の生命科学者たちが、いま腸に注目している。「サイエンス」誌は、過去10年間の化学上の十大成果の一つに腸内細菌の研究をあげた。
たしかに、いまや「腸内フローラ」という言葉は、どこでもよく目にするものとなっていますよね。
腸は消化管の主役であり、もっとも重要な存在である。
生命体が一つの受精卵からつくられるとき、最初につくられるのが腸である。そして、腸は、からだのなかにある外界である。外部の空間を最大限に内部につくり出している。
ヒトは超雑食性の動物であるが、この超雑食性の獲得には、高度な腸の動きが必須とされる。
腸には、立派な神経系がある。腸の神経系は、消化管の運動をコントロールしている。
腸の免疫系の強大な力には、がん細胞の増殖を強力に抑える働きもある。小腸には、ほとんどがんが見られないが、それは腸管免疫系のおかげだとみられている。
人体の腸内には、100兆個をこえる細菌が星のようにきらめいている。その重さは1キロに達し、1000種以上に及ぶ腸内細菌のほとんどは酸素のない大腸にすんでいる。大腸には、酸素なしでも生きていける生物が充ち満ちている。腸内細菌たちだ。
小腸は長さ5~6メートル、大腸は1.5メートル。小腸の直径は平均して3センチ。
小腸で食物が分解するのに要する時間は2~3時間。
人間が1年間に食べる食物は、1トン近い。これを体内に取り入れて分解し、からだを構成している60兆個の細胞をつくり、あるいは入れ替え、そしてエネルギー源に変えている。
腸神経系は、主として食物をゆっくり適正な速度で、消化管の下方に送るぜん動をコントロールしている。
小腸は、胃の次に位置する消化管の中心的存在である。胃や大腸、その他の消化管がない動物は存在するが、小腸のない動物はいない。
小腸のなかに吸収細胞が1600億個いるが、その寿命は実に短く、誕生して死ぬまで平均1.5日でしかない。
腸は、脳の力を借りることなく、入ってきた食物の情報をもとに自らがなすべき働きを選択している。
大腸には、小腸にある「ひだ」や突起は存在しない。食成分中で大腸が吸収するのは、一部の水分とミネラルだけ。そして、100兆個に及ぶ「腸内細菌」をすまわせて、「共生」関係を築き上げている。腸内細菌がつくる酪酸は、大腸のぜん動運動を刺激し、便秘を解消するという効果をもたらす。
腸は、独自にぜん動運動をし、また消化液を分泌する。これは、腸が「自ら考えている」ことを示すものである。腸と脳は、あるときには連絡をとりあい、また、あるときは無関心を装うという、不即不離の関係にある。
ぜん動運動は、食物の分解、吸収が効率的に行われるよう、腸が独自の判断で行っている物理的な作業である。この運動は、腸独自の判断によってセロトニンなどの神経伝達物質が脳神経系とは独立して放出されることで、日々営まれている。腸が「第二の脳」と呼ばれるのは、複雑なプロセスを経るぜん動運動を脳から独立してコントロールしているためである。
人間のからだのなかで最大の免疫系が腸管に存在する。全身の50%以上が腸管免疫系中に集中している。免疫細胞は、すべて骨髄でつくられた造血幹細胞が変化して出来上がったもの。唾液にふくまれる免疫細胞は、すべて腸管にある免疫部隊の総司令部から派遣されたものである。
腸内フローラを構成する腸内細菌は、平均して4~5日間、体内に滞在したあと、体外に排出される。腸内の有害菌といっても、常時からだに悪い作用をしているわけではない。腸内の状態が悪化して有益菌が減少し、有害菌が異常に増加した場合に、病気の原因となる。
腸内フローラは、「お花畑」の名前に恥じず、整然とした区画割りがなされている。
腸内フローラのバランスを良くするには、規則正しく、栄養バランスのとれた食生活を心がけ、ストレスを解消できる生活スタイルを確立すること。
腸の大切さをよく理解することが出来る本です。
(2015年12月刊。860円+税)

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