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カテゴリー: 人間

釣りキチ三平の夢

カテゴリー:人間

(霧山昴)
著者 藤澤 志穂子 、 出版 世界文化社
矢口高雄外伝という本です。矢口高雄の原画がすばらしいカラー図版で紹介されていますから、それを眺めるだけでも心楽しくなります。
釣り場をとり巻く自然の描写が本当に行き届いていて、大自然の息吹きに圧倒されます。ただし、雪深い山村に実際に住むのは本当に大変なようです。白い雪に埋もれてしまう日々を、恨めしく思って過ごす人々が多いというのも、冬でも雪が降ったくらいで喜んで育ってきた身には分からないところでしょうね…。
自然は厳しい。でも、どこか清々しい。
こんなセリフが書けるようになるまでには、相当の年月が必要なような気がします。
著者は少女マンガ専門で、「釣りキチ三平」は読んだことはなかったそうです。実は、1973年から10年間も「少年マガジン」で連載されていたというのを私も読んではいません。大学生のころ、「あしたのジョー」は毎週かかさず読んでいましたが…。そして、「釣りキチ三平」はアニメ版の映画も実写版映画もあるそうですが、どちらもみていません。
実写版映画は、そのうちDVDを借りてみてみたいと思っています。なにしろ、撮影現場は矢口高雄が提案した秋田県内の釣りどころのようですから…。
何回読んでも泣けてくるシーンは、矢口高雄が中学校を卒業したら「金の卵」として東京のブラシ工場に集団就職することが決まっていたのを、担任教師が高校入試の願書しめ切り前夜に雪のなか自宅に押しかけてきて、世間体ばかりを気にする父親に高校進学を説得しにきた話です。中学校では成績優秀で、生徒会長もつとめていた矢口高雄を担任の教師は、なんとかして高校へ進学させたいと思って、12月の深い雪道をかきわけて矢口高雄の家に押しかけたのです。すばらしいです。そんな教師の迫力にこたえて母親が決断し、渋る父親を説き伏せたのでした。なんともすごいシーンです。
そして、高校進学したのですが、その高校生活について、矢口高雄は記憶がないというのです。ともかく、一杯のラーメンも食べず、一本の映画すらみていない、修学旅行にも参加していないというのです。いやはや、大変な高校生活ですね…。そして、羽後銀行に入行して12年のあいだつとめました。
そのころの下宿先の娘さんが、矢口高雄について、「真面目で、ちょっと暗い人」という印象を語っているのも面白いエピソードです。
そして、支店の前を毎日通りかかる女子高生に恋をして、それが実るのでした。これまた、そんなこともあるのですね…。
この奥さんが、実に矢口高雄をよく支えたのですよね。その後は、長女が支え、さらに次女が支えたというのですから、矢口高雄は家族に大きく支えられて存分にマンガが描けたわけです。いやあ、いい本でした。
「釣りキチ三平」のラストは、自然保護を訴えて100万人もの「釣りキチ」たちが国会にデモ行進するシーンだそうです。これって、安倍内閣による安保法制法反対の国会を取り巻くデモと集会を思い出させますよね…(116頁)。
しんぶん赤旗日曜版に1991年から2年間にわたって連載された「蛍雪時代」は矢口高雄の生い立ちを知るうえでは欠かせないものだと思いますが、私は、これを読んで、熱烈なファンになりました。この本も、ご一読をおすすめします。
(2021年1月刊。1600円+税)

誰にも相談できません

カテゴリー:人間

(霧山昴)
著者  高橋 源一郎 、 出版  毎日新聞出版
 著者の人生相談は本当に味わい深いものがあり、いつ読んでも、なるほど、なるほど、そうか…、そうなんだよな…と考えを深めることができます。毎日新聞の「人生相談」で大友響と書かれていますが、ウソではないと思います。
 弁護士としての私が男女関係、親族関係の争いについて相談を受けるとき、著者だったら、どう答えるだろうか…と自問自答することがあります。弁護士にとっても、回答する側に立ったとき著者の回答は大いに参考になるのです。
 著者は団塊世代の少し下の世代ですが、いわゆる全共闘の活動家でした。逮捕歴もあるそうです。私はアンチ全芸闘でした。だって、あの野蛮で残虐な暴力を賛美するなんて、当時も今も、まっぴらごめんです。かつての全共闘の活動家とシンパ層が、自分たちが学内でふるってきた暴力問題について黙して語らず、思想的にああだ、こうだとキレイゴトしか言わないのを許すわけにはいきません。
 著者は、その暴力の点も大いに反省しているようですし、その後の人生での苦労、そして私生活で4度も5度も結婚・離婚して、今なお思春期の子どもたちをかかえて苦労しているようです。そんな苦労が回答にいい意味でにじみ出ていますので、説得力が半端(はんぱ)ではありません。
 子どもというのは、遅かれ早かれ、家を出て、「外」の世界に旅立つもの。ところが、親は、子どもに愛情も注ぐけれど、「呪い(のろい)」もかける。つまり、親から子どもはマイナスの部分も受け継ぐ。いやはや、本当に、そうなんですよね…。
どんな「家庭」にも共通点がある。それは、結局、みんな「他人」だということ。
 著者の知るかぎり、人間はほとんど成長しないもの…。うひゃあ、そ、そうなんですか、やっぱり、そうなんですよね…。
 「今」から逃げる者は、「次」も逃げるに決まっている。家族を暴力で支配しようとする人間は、いつの時代にも存在する。暴力で支配される人間は、反抗する意思を失う。暴力で支配しようとする人間がいちばん恐れるのは、膝を屈しない相手。そして、暴力で支配しようとする人間は、みんな見かけ倒し。子どもにとって最後の仕事は、子どもに戻った自分の親に対して、その親になること…。いやあ、そういうことなんですか…。
知人から借金を申し込まれたとき、その額の2倍を渡して、こう言う。「これは友人から借金したお金です。今回だけです。返さなくてもいいです」と。
 占いは信じる必要がない。運命は変えられるもの。生きていくうえで大切なもの。
経済的な余裕というより以上に人とのつながり。あなたが人に優しくしたら、周囲もあなたに優しくしてくれる…。そうなんです。それを信じて明日も元気に生きていきましょう。いい本です。生きる勇気が湧いてきます。
(2020年12月刊。1400円+税)

老(お)~い、どん!

カテゴリー:人間

(霧山昴)
著者  樋口 恵子 、 出版  婦人之友社
 著者は87歳になりました。ずっと評論家として大活躍してきたわけですが、さすがに年齢(とし)相応の制約が身体のあちこちにあらわれているようです。
87歳の身は、満身創痍ならぬ、満身疼痛(とうつう)。痛いとこだらけ。痛みはケガしたり痛んだりした部位に局限されてはいない。
 72歳になった私も、同じように膝が痛い、腰が痛いといっては、2か月に1回は整体師に通っています。今のところ、それでなんとか持っています。ありがたいことに…。
 自慢だった視力聴力にも、このところ衰えが顕著で、立居振舞のスピードは落ちるばかり。
 目のほうは、私は、おかげさまでメガネをなしで相変らず速読できています。問題は耳です。本当に聴きとりが難しくなりました。ボソボソっと言われると、困ります。大事な話だと思えば聞き返しますが、冗談のようなレベルだとつくり笑顔でごまかすしかありません。
ということで、著者は、ヨタヨタヘロヘロの「ヨタヘロ期」を、よろめきながら直進している。
 そこで著者は、声を大にして叫びます。
 人生100年社会の初代として、「ヨタヘロ期」を生きる今の70代以上は、気がついたことを指摘し、若い世代に、社会全体に問題提起していく責任がある。
 まことにもっともな指摘です。「ヨタヘロ期」予備軍の私は、こうやって、その責任を果たそうとしているのです。
蔵書を思いきって整理しつつある。著者は涙ながらに蔵所を整理して、3分の1は手放した。
 私も、今ある書庫にフツーに立てて背表紙を確認できる状態を維持することを決意して実行しています。そのうち読み返すかもしれないと思ってとっておいた本も、読み返すはずがないと思い切って、捨てています。本棚がスッキリすると、心が軽くなります。終了した裁判の記録も、ヒマを見つけて整理し、書棚はガラガラ好き好きになりました。これは精神衛生上も、とてもいいことです。
住宅の改築の話も出てきます。木造住宅の耐用年数は30年だということです。私の家は、とっくに過ぎていますが、まだまだ10年、20年ともちそうです。ただし、内部は床や階段をバリアフリーに変えるなどしました。浴室も何年か前に改造しています。
著者は、中流型栄養失調症にかかり、大変な貧血症状が出たといいます。一人で家にいる日は、パンと牛乳、ヨーグルト、そしてジュースという貧しい食生活のせいです。80歳ころ、それまでは料理をつくるのが楽しみだったのに、食事づくりが億劫、面倒になってしまったからなのです。
 女性にとって、買い物は人生の自由、自立、そして快楽。私にとっては、店で買い物するのは苦痛でしかありません。品物選びに自信はありませんし、万引きするつもりもありませんので、もし間違われたりしたら、とんだ迷惑です。
高齢者の出歩きやすい町づくりを著者は求めています。まったく同感です。ちょっとしたベンチ、そして待たずに利用できる清潔なトイレ、本当にありがたい限りです。
著者は「結婚維持協議書」を作成することを提唱しています。多くは妻の側から、夫の守るべき条項が示され、それが結婚維持の条件となるのです。
 この条項の一つに「今後、お皿をなめない」があったとのこと。洗い場をケチった夫の仕種を禁じたものです。呆れてしまいました。
そして認知症。全国で520万人(2015年現在)もいるそうです。私も、そのうち、お仲間に迎えられることになるのでしょう…。
 趣味嗜好も体力勝負です。私は読書とガーデニング。さらにはモノカキとして、本を発刊しつづけたいと考えています。元気とボケ防止です。準備と覚悟が必要なのです。大変参考になりました。
 
(2020年3月刊。1350円+税)

古典つまみ読み

カテゴリー:人間

(霧山昴)
著者 武田 博幸 、 出版 平凡社新書
朝倉市在住の著者は長く予備校の名物講師(古文)として教えていて、その受験参考書は累計300万部という超ベストセラーなのだそうです。失礼ながら、ちっとも知りませんでした。ただ、それだけに古典に詳しいことは、この本を読めばすぐに分かります。半端な知識ではありません。たとえば、この本の最後に登場する良寛です。
良寛は、周りの人から重んじられなくても、いやそれどころか、軽んじられても堪えられる人だった。そんなことに無頓着でさえあることができた人だった。
いやあ、これって並みの人にはとても真似できることではありませんよね。だって、周囲からどう見られているか、やっぱり気になりますので…。
「この世で一人前の人間として数えられないような私ではあるが、乞食僧としてこの世に身を置き、移りゆく自然に抱かれて、その恵みを享受し、私は私らしく生きていると良寛は宣言している」
その時、その時、目の前に立ち現れたものに、全身全霊で向かいあうという生き方を良寛はした。40歳から70歳まで、山あいに借りた粗末な庵(いおり)に住み、衣食は村人の喜捨に頼り、一人で生きることを貫いた良寛の生活は、孤独でさびしく暗いものであったかというと、決して、そうではなかった。それどころか、良寛の日々の暮らしは、村の人々との関わり方においても、周りの自然との接し方においても、溢れんばかりの博愛に包まれたものだった。
良寛は子どもたちと無心に遊び、そこに自己を解き放つ喜びを覚えることもできた。友人たちとの交流もあった。さらに、良寛70歳のとき、30歳の貞心尼と出会った。若く美しき異性を思って沸き立つ感情が良寛をとらえたのではないか。なーるほど、いいことですよね、やっぱり人間ですもの…。
『枕草子』のところでは、平安時代の男女が結婚・離婚・再婚に関して、すこぶる自由な考え方をもっていたことを著者は強調しています。
男がある女の所に通い続ければ、結婚が成立したように見なされ、そのうち通っていかなくなれば、結婚は解消、すなわち離婚となる。男性はもちろん、女性も人生に「結婚」が一度ならずあることは少しも珍しいことではなかった。
願わくは花の下にて春死なん、その如月(きさらぎ)の望月(もちづき)のころ
これは西行の歌ですが、西行は、その願いのとおり、1190年(文治6年)2月16日、73歳で亡くなった。
たまには古典の世界にどっぷり身を浸らせるのもいいものです。ちなみに私は古文は好きでしたし、得意科目でした。高校の図書館に入り浸って古典文学体系に読みふけっていたこともあります。私のつかった古文の参考書は、今も手元に置いていますが、小西甚一の『古文研究法』(洛陽社)でした。ちょっとレベルの高すぎる内容でしたが、大学入試の直前(1967年2月21日)、「遥けくも来つるものかな」と書きつけています。18歳のときの、なつかしい思い出です。
(2019年8月刊。880円+税)

石岡瑛子とその時代

カテゴリー:人間

(霧山昴)
著者 河尻 亨一 、 出版 朝日新聞出版
天才的な日本人女性デザイナーの一生をたどった刺激的な本でした。
私はデザイナーの名前こそ知りませんでしたが、前田美波里が白い水着姿で海岸に横たわり、きりっとした目つきでこちらを向いている大胆なポスターに目が釘づけになったことは印象に残っています。大学生のころだったでしょうか…。
同じ資生堂の「ホネケーキ以外はキレイに切れません」というキャッチコピー付きで、化粧品を細いナイフで二つにカットしている斬新なポスターには、さすがに圧倒されます。
そして、パルコの「あゝ原点」というアフリカ砂漠で原色の衣をまとった一群の女性たちがこちらにやってくる群像シーンにも思わず息を呑んでしまいます。
フランシス・コッポラ監督の映画『地獄の黙示録』のポスターもエイコの作品とのこと。すごい迫力です。北京オリンピックの開会式の演出にも関与しているそうですが、こちらは張芸謀監督とぶつかりあって、本人はかなり不満だったようです。
この本のトップにエイコの作品がカラーグラビアで紹介されています。なるほど、世界のトップデザイナーだけのことがあると、門外漢の私にも分かります。
フランシス・コッポラ監督はエイコについて、「境界を知らないアーティスト」と評した。
エイコは東京芸大に現役入学したあと、資生堂に入り、宣伝部の広告デザイナーとしてキャリアを積んだ。その後、独立してアートディレクターとして活躍するようになった。パルコの宣伝にも関与。さらに芝居やファッションショーの世界にも進出した。
アメリカにわたって、映画の美術や衣装デザインでも活躍した。音楽、映画、演劇という三つの領域にまたがって、世界最高レベルの評価を得た。これはすごいことですよね…。ちっとも知らなくて、申し訳ありません。
生まれは、私よりちょうど10年早い。73歳で、すい臓ガンにより死亡(2012年1月21日)。
1957年4月、東京芸大の美術学部に入学。専攻は図案計画科。東京芸大は、そうやすやすと入学できる大学ではない。子どものころから、この子は絵がうまいと周囲にひたすら絶賛され続けてきた美術の神童たちが、全国津々浦々から集う名門校、三浪四浪と浪人を重ねる受験生も多い。現役合格のハードルは高く、その門は狭い。
東京芸大の最近の学生の生態を描いた本を少し前に紹介しましたが、ここは奇人変人の集まるところでもあります。だからこそ一級品の芸術が生まれるのでしょう…。
学問や芸術の世界は行政による統制とは無縁でなければいけません。
資生堂に入るとき、面接官に対してエイコはこう言った。
「グラフィックデザイナーとして採用してください。お茶汲みとか掃除するような役目でなく…。お給料は、男性の大学卒と同じだけいただきたいです」
これを聞いた重役は、ぶったまげたことでしょうね。そして、だからこそ入社が決まったのでしょう。
エイコの作品集『エイコ・バイ・エイコ』2万円は5000部、アメリカで完売したとのこと。どんなものでしょうね。図書館にあったら、拝んでみたいものです。
エイコは相手を説得するとき、アイデアを10案ほど用意する。自らは、推しの一案を決めているにもかかわらず、複数案を見せるのは、相手を説得するプロセスとして使う一種の儀式だ。自信のある一案だけを見せたのでは、説得力に欠け、相手を不安にさせかねない。いくつものプランを比較したうえで、イチ推しのプランへとクライアントの気持ちを向けていく。なーるほど、この手がありましたか…。弁護士としても身につけたい必要なテクニックですね。
堂々540頁の価値ある本です。正月休みに読み通すことができました。
(2020年11月刊。2800円+税)

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