(霧山昴)
著者 小林 快次 、 出版 講談社
「なぜ恐竜図鑑の表紙はティラノサウルスばかりですか?」
その答えは、よく売れるから。なるほど、ティラノサウルスなら、子どもも大人もみんな知ってますよね。映画『ジュラシック・パーク』もやはりティラノサウルスが登場してこそのド迫力でした。ところが、この本によると、ティラノサウルスが登場したのは恐竜時代の最終期、巨大隕石(直径10キロ)が地球に衝突して恐竜が絶滅するまでの200万年間だけだというのです。それは長い恐竜時代を1年にたとえてみたら、12月28日に現れて31日には姿を消した、このたった3日間しか暴れることはなかったというのです。不思議ですよね…。
そして、このティラノサウルスは、日本では化石が発見されていませんが、ティラノサウルス類は、九州でも熊本県と長崎県で化石が見つかっています。熊本県は御船(みふね)町と天草市で、御船町恐竜博物館があります。天草では大きさ4センチ、太さ2センチの歯が見つかり、全長7メートルのティラノサウルス科の恐竜と推定されています。ぜひ近いうちに行って見てみましょう。
著者は、ティラノサウルス・レックスは日本にいなかったとしても、ティラノサウルスの仲間はいたと考えています。すごいことですよね、これって…。
今や恐竜はカラフルな生き物だったとして、図鑑は、それこそびっくりするほど奇抜な極彩色で描かれています。なぜ恐竜の色が判明するのか…。メラニン色素はメラノソームという袋のようなものに貯められ、その形によって色が異なることが分かっている。このメラノソームという構造が化石となって残っていると、これを応用して恐竜の色が分かる。たとえば、球形に近いとオレンジ系で、長細いと黒系の色。こうやって恐竜の色、とくに羽毛の色が判明した。
ティラノサウルスのように巨大化すると、多少の気温の変化は、羽毛に頼らなくても、日中に体内で貯められた熱を慣性的に維持することができる。
今では、ティラノサウルスの体は羽毛ではなくウロコに覆われていて、背中に毛のような羽毛が生えていたと考えられている。そして、頭にトサカのような装飾をつけて自己アピールをしていた可能性がある。
ティラノサウルスの巨大な糞が1点だけカナダで発見されている。長さ44センチ、幅16センチ、高さ13センチ、重さ7キロ。これはすごいですね。この塊に骨が含まれていて、その巨大さからティラノサウルスの糞だと考えられています。まさしく肉食恐竜でした。
ティラノサウルスも卵生のはずですが、まだティラノサウルスの卵は発見されていません。鳥類のように抱卵していたとは考えられないようです。
ティラノサウルスの寿命は28歳くらいではないかと著者は推測しています。
恐竜は完全に絶滅したのではなく、鳥類は恐竜の生き残りだというのが定説です。そして、その証拠の一つが、羽毛恐竜の発見でした。たしかに、恐竜に羽毛があるなんて、そんな化石が見つからなかったら、とても考えられないことですよね。
ティラノサウルスを中心として、恐竜学の最新情報を得ることのできる楽しい本です。
(2023年5月刊。1700円+税)
ティラノサウルス解体新書
