著者:サンドラ・グレゴリー、出版社:新潮社
懲役25年の刑を受け、7年半をタイとイギリスの刑務所で過ごした若いイギリス女性の体験談が赤裸々に語られています。
彼女は27歳のとき、麻薬(ヘロイン)の密輸、つまり運び屋になったのです。イギリスの中産階級の娘として育った彼女は、両親との折り合いが悪く、勝手気ままな生活をはじめ、タイにのがれてきました。そこで英語教師などをしていたのですが、ついに旅費にも事欠くようになり、麻薬ブローカーの甘いささやきに乗ってしまったのです。大量の麻薬を運んで死刑にならなかったのは、むしろ幸運でした。ラーット・ヤーオ刑務所での生活が始まります。
刑務所内では闇屋が繁盛しています。ナイフもタバコも薬物も、何でも買えます。お金も借りられます。ただし、超高利です。1日5割なのです。
ところで、タイとイギリスとの間には、受刑者移送条約があり、終身刑でなければ、タイで4年間服役したらイギリスに移されて残刑をつとめることができます。彼女は32歳になってまもなく、ロンドンのホロウェイ刑務所に移ることができました。
ところが彼女は、まだタイの方が良かったと嘆くのです。新聞が読め、ラジオが聴け、電話もかけられるというのに・・・。タイでの環境は惨めであったが、少なくとも自分がまんざらでもない人間であるという感覚はあった。特別扱いされなかったし、差別もされなかった。ところが、イギリスには非常に切迫した孤立感と鬱屈感があった。気がつくとはじき出され、何の理由もないのに詮索されるように見えた。彼女は、ひたすら自殺することのみを考えました。
イギリスの刑務所では職員と収監者の情事は日常茶飯事で、多くの囚人は見て見ぬふりをしている。彼女も妊娠を本気で心配したことがありました。
2000年7月時点で、1293人のイギリス人が海外76ヶ国の刑務所に入っていました。大半は麻薬関連です。タイだけでも33人が刑務所に服役しています。お金に困った人々をターゲットとして、甘い言葉で麻薬の運び人にさせようとするのです。単身女性が身なりの整った魅力的な男性の麻薬密売人の標的になりやすいという彼女の指摘に、つい私は娘のことを心配してしまいました。
バンコク・ヒルトンという地獄
