(霧山昴)
著者 セドリック・サパン・ドフール 、 出版 河出書房新社
フランスで60万部も売れた大ベストセラーの本です。飼い犬との出会い、そして共同生活を経て、ついに永遠の別れに至る経過を、いかにもフランス人らしい描写でつづられていきます。
私は犬派です。猫と一緒に生活したことは一度もありませんので、なんとなく猫は苦手です。猫を触ったり、なでたりしたこともありません。犬のほうは、散歩中の柴犬を見ると、つい可愛いねと思ってしまいます。でも、もう犬を飼おうとは思いません。好きに旅行に行けないなんて、嫌ですから。
小学1年生のとき、引っこしをしました。父が子供たちの学資を稼ぐためにサラリーマン生活を辞めて、炭鉱労働者相手の小売酒屋を開業するためです。引っ越し荷物をトラックに積んで出かけました。車で15分ほどの距離です。愛犬はトラックの後ろをついてきていたのですが、いつのまにか姿が見えなくなってしまいました。私は大泣きに泣いて、親を大いに責めたてました。でも、結局、見つかりませんでした。そのころは、市の職員が大っぴらに野犬狩りをしていましたので、それにひっかかったのかもしれません。大型犬でした。
次の犬はスピッツです。座敷にも平気で上がっていましたので、畳はいつもザラザラしていましたが、誰も気にしませんでした。スピッツですからキャンキャンとよく鳴きました。吠えるというより、鳴くという感じです。オス犬なのに「ルミ」と名付け、近所をよく散歩させていました。私が大学に入って上京してまもなく、店の前の道路で車にはねられて死んでしまいました。
子どもが出来てから、一度だけ柴犬を飼いました。子どもたちは犬の面倒を見るという約束でしたが、結局、親が面倒みました。そして、外で飼っていて、予防注射を怠っていたら、ジステンバーにかかって、獣医にみてもらったときは手遅れでした。私が庭で畑仕事を始めたのは飼犬が死んでからです。
著者は、子犬を900ユーロで購入しました。これが高いか安いかは、買い手によるとしています。
犬種はブービエ・ベルノワ種(英語は、バーニーズ、キャトル、ドッグ)。ユバックと名づけた。
犬の心はだんだん出力を上げるのではなく、常に、すぐさま、高まっていて、満たされている。目覚めてすぐから愛がある、この旺盛な生命力こそが、彼を疲れさせ、この世の通過を短くしているのかもしれない。
ユバックは何ひとつ見逃さない。犬は朝から晩まで何もかもを相手にして遊ぶ。いつも楽しむ材料を見つける。心配そうにしているのは見たことがあるが、不機嫌だったことは一度もない。 「散歩」と、そっとささやくだけで、命が動き出して、ぐるぐる回り始める。ユバックの下半身がバネのように立ち上がる。
ユバック(犬)は成長し、老化する。変換点を過ぎると、以後は彼のほうが私たちより年寄りになる。
ある晩、ユバックは家の中で眠ろうとしなかった。夜中に地震が起きた。
ユバックが死んだ。本当の苦悩は長続きしない。死滅するか、小さくなるか、変質する。ユバックは、それら全部だ。
ユバックは愛のために生まれた。無分別でも自由を奪われたのでもない、繊細な愛だ。大気のような愛、勇敢な愛、常に言い逃れをしない、見返りを期待しない、失うものより得るものが少ないという考えに屈しない愛だ。
自分(人間)と犬との関わりをこんなに豊かに表現できるなんて、素晴らしいと思いながら読みすすめました。
(2025年6月刊。2640円)


