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2015年5月 の投稿

イスラム国の野望

カテゴリー:アラブ

                             (霧山昴)
著者  高橋 和夫 、 出版  幻冬舎新書
 イスラム教全体の中ではスンニー派が9割を占め、シーア派は1割でしかない。ところが、イラクではスンニー派は2割だけ、残りの6割はシーア派と2割のクルド人。
2005年の選挙で初めてイラクでシーア派が権力をにぎった。
イスラム国で名前をきいて、アブー、バクル、ウマル、ウスマーンという名前はスンニー派。シーア派は絶対にこの名前を使わない。
シーア派がもっとも多いのはイラン。国民の9割がシーア派で、スンニー派は1割のみ。
イラクの治安悪化の元凶はアメリカの脱バアス政策による。イラクでは、何らかの専門機能を持った人の大半はバアス党関係者だった。この人たちをすべて排除すれば、当然に社会機能は麻痺する。
アメリカ中央軍の司令官となったペトレイアス将軍は、ゲリラ戦や、ゲリラになりそうな現地人への対応を重視した。その基本は敵を殺さないこと。殺さずに心をつかめとマニュアルは教える。また、あまり銃弾を撃たない。その代わりに金をばらまき、買収できる人間は、みな買収する。
現地人とは、きちんと目を見て話す。通訳は、中間ではなく自分の側に立たせる。
民衆の心をつかむのが大切だとペトレイアス司令官は言った。そして、ペトレイアスは、アメリカ軍の基地を大きなものから、小さなものに転換した。すると、はじめのうちは犠牲者が増えた。月80人が120人以上に増えた。しかし、翌年には月20人にまで減った。イラク人の死者も劇的に減った。さらに、インフラ整備を進め、店舗再開のための資金提供などで、民衆の心をつかんでいった。
ペトレイアス司令官は、スンニー派を買収していった。こうして、ペトレイアスは、2010年までイラクを安定に導いた。ところが、ペトレイアスは女性との不倫によってCIA長官を辞任してしまった。
シリアでは7割がスンニー派だが、国を支配しているのは人口の1割でしかないアラウィー派。残り2割の少数派であるシーア派やキリスト教徒は、アサド政権に寄り添っている。
1割が7割をおさえつけるというので、相当むごいことをしてきた。だから、権力を手放したら、すぐに仕返しされてしまう。
シリア内戦の核心は、アラウィー派街抱いている恐怖心だ。反アサド勢力のなかには、アラウィー派の有力者はいない。
アラウィー派の信仰は秘密主義であり、イスラム世界の大半の人からは異端と思われている。シリアの中でアラウィー派を要職にとりたてたのはフランス。1920年代の委任統治時代のこと。アサド大統領は、イスラム国とは真面目に戦ってこなかった。
イスラム世界では、カリフが国を統治する「カリフ制」が長く存続してきた。しかし、1924年にカリフ制は廃止された。
カリフに必要なのは、正統性。正統性がなく、実力で権力を握った人は「スルタン」と呼ぶ。黒いターバンを着用するのは、ムハンマドとの血のつながりを主張する意味をもつ。黒は、イスラム世界では預言者ムハンマドとのつながりを示すシンボルカラー。
イラン・イスラム国を樹立したホメイニも、現在のハメネイも黒いターバンを巻いている。
処刑される外国人が着せられている服はオレンジ。キューバのグアンタナモ基地にアルカイダ系の人間が収容されたときに着せられていた服がオレンジだったから。その仕返しだ。
クウェートでは、ゴミ箱の色はオレンジ色で、ゴミ収集人の服もオレンジ。イスラム世界ではオレンジ色は軽蔑のニュアンスがある。
イスラム過激派が過去5年間に人質とした欧米人は105人。その解放のために125億円が支払われ、それが過激派の重要な資金源となっている。ドイツ人やフランス人が標的になっている。アメリカ人やイギリス人は交渉に応じず、身代金を支払えないから。
自爆テロとは、きわめて現代的な現象である。自分たちもF15戦闘機があれば、それで突撃をする。ないから最後の手段に訴えている。これが自爆する側の理屈。
「自爆しても天国に入れる」から、「自爆したからこそ天国に入れる」というように変わり、英雄視されるようになった。殉教者として高い評価を得てしまうと、実行する者が跡を絶たない。殉教者は神の友という発想だ。
過激派を支援する富裕層がいる。これは、アメリカに対する反発から。日本人の想像する以上に、世界ではアメリカに反発する感情は根強い。
「イスラーム国」の根深さをしっかり解説している本です。とても勉強になりました。
(2015年2月刊。780円+税)

驚異の小器官・耳の科学

カテゴリー:人間

                                (霧山昴)
著者  杉浦 彩子 、 出版  講談社ブルーバックス新書
 年齢(とし)をとって、少し耳が遠くなっているようです。聞こえにくくなりました。同世代では補聴器をつけている人もいますが、幸い、まだそこまでではありません。
人間は、時間情報については、視覚よりも聴覚の方が優位な影響をもつ。目でとらえた変化に対して身体が動くよりも、音に反応して体が動く反応の方が早い。
 素早い動きをしなければならないスポーツでは、聴覚が重要な役割を果たしている。
 人間は、まず音を聞いてから、目で確認している。
 聴覚障害の方が視覚障害よりも疎外感が深い。
 胎児は、胎内で母親の心音や話し声を聞いている。
 壊れた鼓膜は、すぐに再生してくる。耳鼻科では聞こえないのを治すため、わざと鼓膜を破ることがある。
 キヌタ骨、ツチ骨、アブシ骨という耳小骨は、生まれたときから成人のサイズとほぼ同じ大きさをもつ例外的な骨。5万個ほどの神経細胞が小児期のあいだに、どんどん死滅して、10代では3万個台に減ってしまう。90代には1万個台になる。
 母国語を聞き取るためには、小児期における神経淘汰が大切だ。これは、神経細胞の数を減らしていくことは、よく聞く言葉のパターンを覚えていくということ。
 1歳までにある程度パターン認識できたかどうかが、その後の言語発達に重大な影響を及ぼす。言語の臨界期は6歳頃。言葉は、まず聞いて、話して、読んで、書いて、という4段階で発達していく。どんな複雑な言語も、まずは聞くところから始まる。繰り返し決まったパターンの発音を聞いていくことで言語を認識するための脳が育っていく。
 音楽と言語では、脳の使い方が異なっている。言語中枢はあるが、音楽の方には中枢はないようだ。
 最後に、耳垢について、著者は何もしないのがよいと強調しています。自然に出てくるのです。まあ気にはなりますけどね・・・。それだけのことなんです。
(2014年10月刊。860円+税)

世界でいちばん石器時代に近い国

カテゴリー:社会

                               (霧山昴)
著者  山口 由美 、 出版  幻冬舎新書
 パプアニューギニアの素顔を紹介した面白い本です。
 パプアニューギニアは、世界で2番目に大きな島である、ニューギニア島の東半分などからなる国。日本からは6時間半かかるが、これはハワイと同じ飛行時間で行けるということ。
 パプアニューギニアという国の面白さは、ついにこの前まで石器時代だったことにある。
 内陸部のジャングル地帯には、マラリアなどの病気のため、ヨーロッパ人は入り込むことができず、昔のままの姿が残っていた。
 パプアニューギニアには鉄道がない、道路がない。だから自動車を目にすることもない。だけど、奥地には滑走路があり、飛行機の離発着はできる。宣教師たるもの、飛行機の操縦は不可欠なのだ。そして。飛行機の整備も、燃料の補給も、セルフサービスである。
パプアニューギニアでは、親しくなった人から騙されるということはない。
 パプアニューギニアでは、800以上の言語が話されている。世界に6000ある言語のうち、なんと1000もの言語がニューギニアに集中している。もっとも小さいものは数十人、多いものでも30万人ほどの言語だ。だから、公用語は英語であり、ピジン語が共通語として広く話されている。
 パプアニューギニアでは戸籍や住民票が存在しない。だから、自分の誕生日や年齢を知らないという人は多い。
 パプアニューギニアの人々は、ブアイを好む。ビートルナッツ、檳榔子(びんろうじ)、少量の石灰とマスタードと一緒に、口の中でくちゃくちゃと嚙む。このとき吐くつばは真っ赤になる。決しておいしいものではない。じわじわと口の中でしびれてくる。軽い酩酊感のような、ふわふわするような感覚。慣れてくると、これが癖になる。
 5年に一度、国民全員が熱狂し、大騒ぎになるイベント。それが選挙だ。投票率は100%をこえる。一人で何度も投票する人が後を絶たないことによる。
 パプアニューギニアでは贈収賄が犯罪にならない。そして候補者の公約違反は、裁判で訴えられることがある。
 『ゲゲゲの鬼太郎』で知られるマンガ家の水木しげるは、ニューギニアのラバウルに行き、そこで、現地のトーライ族と親しくなった。
 日常の買い物で「貝」を使うことはないが、公立学校の授業料や魚市場での支払はシェルマネーでもOK。冠婚葬祭では、むしろ現金は失礼で、シェルマネーを用意するのが礼儀である。
 パプアニューギニアの食生活の基本は味がないこと。主食は、イモかサゴヤシ。味はなく、スープに灰で味をつけて食べる。
 パプアニューギニアは、結婚の結納金として豚が重要なものとされているが、豚と並んでトヨタのランドクルーザーが交渉事の金額の基準にされている。未舗装の道を走るのは、トヨタのランクルだけ、ということ。パプアニューギニアでは、日本製品に対す信頼がいまだに絶大なのである。
 こんな不思議な国が世の中には存在するのですね・・・。
(2014年11月刊。780円+税)

やきとりと日本人

カテゴリー:社会

                               (霧山昴)
著者  土田 美登世 、 出版  光文社新書
 たまには美味しい焼き鳥を食べたいですよね。そして、この本を読むと、焼き鳥の世界も奥深いものがあることを思い知らされます。
 東京・銀座にある有名な焼き鳥店で食べたことがあります。さすがに、いつも食べているような焼き鳥とは格別の違いがありました。なんといっても素材が違います。
 キジは、日本のジビエ史におけるグルメ素材の一つ。奈良時代、平安時代、鎌倉時代、室町時代と、上流階級におけるとり料理の主役はキジだった。鶏も七面鳥も、キジの仲間である。
 江戸時代には、それ以前から人気のあったキジに加えて、カモもよく食べられるようになった。ただ、格があるとりと言えばツルで、将軍や大名の膳に用いられていた。
 フランスのブレス産の鶏は、自由放飼、飼料などに細かい規制がある。出荷されるのは空腹にして1500グラム以上のもので、日齢でいうと120日以上のもの。
1980年代のパリで、すでに本格的な日本の焼き鳥はウケていた。
 今は、店で鶏をさばくには食鳥処理の免許が必要で、それをもつ店はごくまれ。ほとんどの店は、さばかれた肉と内臓部分を別々に買って、それを店のサイズに切り、串にさしている。
 日本の「七大やきとり」は、北海道の美唄、室蘭、東北の福島、埼玉の東松山、愛媛の今治、山口の長門、そして福岡の久留米。
 鶏肉は朝絞めがいい。鶏肉に鮮度は大切だ。
 熟成に必要とされる期間が、牛や豚のそれよりもはるかに短く、参加されやすい不飽和脂肪酸を多く含んでいる。つまり、脂肪が酸化する前に食べてしまわなければならないのだ。ブロイラーは、日齢40~50日ほどで出荷される。地鶏の日齢は最長で150日。両者には100日間も差がある。
 1本を1分間で食べ終わる世界だが、たいていの名店では、6時間以上かけて何百本と仕込みをし、いつも同じ焼き手が、炭火に集中しながらチャンチャン焼いていく。
 この世界は、串打ち3年、焼き一生といわれる。二つの技術、とりを炭のうえに安定して置いて均一に焼けるように串を刺す技術と、それを焼きあげる技術が必要とされる。
 やきとりの魅力のひとつは、甘いたれが焦げたときの香ばしい香りである。
 たかがやきとり、されどやきとり、ですね。さあ、美味しいやきとりを食べに行きましょう・・・。
(2014年12月刊。780円+税)

モンサント

カテゴリー:アメリカ

                                (霧山昴)
著者  マリー・モンク・ロバン 、 出版  作品社
 アメリカって、本当にいやな国だとつくづく思いました。自分さえ良ければいい。目先の利益が最優先。あとは野となれ、山となれ、という国なのですね。もちろん、アメリカ人にも良心的な人々がたくさんいるとは思います。それでも、アメリカの軍隊、そして大企業の力の強さには、げんなり、うんざりしています。
 今回のテーマは軍事ではなく、企業のエゴの話です。その名も、モンサント。
 四日市コンビナートにもいましたよね。世界中を荒らしまわっている、とんでもない公害まき散らし、環境破壊の大企業です。
 1万7500人の従業員をかかえ、2007年には75億ドルの売上高をあげ、うち10億ドルが純利益。世界全体で遺伝子組換え作物の90%はモンサントが特許を有している。その耕作面積は1億ヘクタール。半分がアメリカ、次いでアルゼンチン、ブラジル、カナダ、インド、中国、パラグアイ、南アフリカ・・・。
 これらの国から農産物は輸入すべきではないということです。農薬まみれの野菜を食べさせられるからです。
 モンサントは、PCBが健康被害をもたらすことを1937年から知っていた。しかし、何も知らないかのように行動していた。モンサントは無責任という以上に、犯罪行為をしている。
そして、モンサントを訴えた人についての裁判では、強力な弁護団を組み、「不屈の敵」というイメージを相手に与えるべく、無限のお金をつぎ込んだ。もう裁判なんてしようと思わせないようにする魂胆だ。
 アメリカには、4つの「回転ドア」がある。その一は、ホワイトハウスからモンサントへ就職する。その二は、議会メンバーが、モンサントのためのロビイストになる。その三は、環境規制機関からモンサントへ天下りする。その四は、モンサントから政府機関その他へ向かうドアがある。
モンサントは、年間1000万ドルの予算と74人のスタッフを使って「調査」している。モンサントから買った種子をつかい、翌年、それによって得られた種子をつかうことは禁じられている。「同意書」にサインされているのだ。違反者に対する制裁金は巨額であり、破産するしかない。
 モンサントの供給する種子は、1回目は効果がある。しかし、次からは、化学肥料を大量投入しなければいけなくなるので、農地はダメになっていく。遺伝子組換えといっても、実際には、殺虫剤成分が組み込まれているだけ。だから、人間が食べると、殺虫毒素の残留物を摂取していることになる。
 うひゃあ・・・。こんなの、いけませんよ。
 ランドアップ耐性大豆の栽培地帯では、ガン患者が増加している。
 自分さえ良ければ、今さえ良ければ、お金さえもうかれば・・・、そんな企業って、この社会に存在する価値なんてありませんよね。
 フランス人女性のルポルタージュです。彼女自身が農家の生まれだといいます。
 私も完全無農薬の野菜を庭で育てていますが、すべてというわけにはいきません。
 ドキュメンタリー映画もあるそうです。ぜひ見てみたいです。
(2015年3月刊。3400円+税)

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