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2010年7月 の投稿

亡国の中学受験

カテゴリー:社会

 著者 瀬川 松子、光文社新書 出版 
 
 いまの日本では、中高一貫校が大人気ですし、公立中学・高校の不人気は定着しています。公立学校は暴力の支配する恐ろしいところというイメージが世間にすっかり根づいているからです。いったい、どうしたら、こんな状況を打破できるのでしょうか・・・・。
 中学受験に関するアドバイスの指摘の大半は、利害関係のある人によってなされている。つまり、決して中立の立場から語られているわけではない。
 ある中高一貫の女子高では、中一から高校卒業までのあいだに30人がいなくなった。いなくなった理由は、拒食やリスト(手首)カットとか、精神的限界であった。私立の中高一貫校を退学にさせられる理由は、成績不振。心の問題を抱えている生徒がいることなど・・・・。
 学校では、ハイレベルの問題を雨あられのように降らせておけば、そこそこできる生徒は吸収するだろう。残りは知らない。こんな環境が、中位より下の子にとって本当にいいのかは疑問である。高校側は、はじめから、上澄みの生徒(成績優秀者)以外には、達成できそうもない目標地を描いている。
 中高一貫校でも、仲間はずれはふつうにある。そして、多くの生徒は、無礼や仲間はずれを軽いいじめと捉えていない。教師のなかにも、見て見ぬふりをする教師がいる。
小学校の授業は「つまずき」をかかえて「理解」の積み重ねが出来ないままとなってくる。その結果、子どもに寄りそう前に、子どもをとりまく変化について正確に理解しておく必要がある。その現実を理解したら、多くの親は、成績の伸び悩むわが子に対して、あせりや苛立ちではなく、同情を覚えると思う。なーるほど、ですね。
 現在の大手塾のシステムは、こうした「つまずき」を抱える子どもの原因治療にやくだっていない。塾にとって、塾の合格実績に貢献してくれる上位2割が大事で、残りの8割は「お客様」と呼ばれている。
 この商売は、本気でやったら、絶対にもうからない。教育というジャンルでビジネスをやっているだけで、教育そのものはそれほど重視しているわけではない。なるほど、そういうことなんでしょう。でも、これって、寂しいことですよね・・・・。
 子どもが「ついていけなく」なってしまう原因は、子どもの努力や能力だけでなく、システムの限界にある。
 九州にも全寮制の中高一貫校がいくつもありますが、私は中学生のときから家を出て親と離れて生活するのがいいことなのか、少しばかり疑問を感じます。もちろん、思春期の一番むずかしい年頃なのですが、自分の父親がどういう行動をするのか、父親と一緒に暮らすことによって少しはつかんでいくし、それって大切なのではないかなと思います。その意味で、寮に入って、親と共同生活しなくなることに不安を感じるのです。
 たしかに荒れる中学校があり、大量に退学していく高校があります。それらの人々は、完全に脱落していたのでしょう。しかし、これらの人々を単に取り残された存在のままにしておいて本当にいいのでしょうか。
 中高一貫校にいる同級生は、家庭環境も大同小異でしょうから、住み心地はきっといいことでしょう。その結果、異質な人間が世の中には少なくないことを実感することが出来なくなります。私自身は、市立中学校そして県立高校に行きましたが、それはそれで良かったと今でも思っています。私の中学には番町グループがいて、すぐ隣にあった中学校の不良グループとよくケンカなどしていました。それでも、1学年に13クラスありましたので、そんな乱暴者だけではなかったのです。それこそ、いろんな中学生がいました。必ずしも暴力が支配していませんでした。それほど人数が多かったのです。
 中高一貫校に入って、その授業進度についていけなくなった子どもは、どうしたら良いのでしょう。そのことについて、親をふくめて、みんなが真剣に考えていないような気がしてなりません。
(2009年11月刊。740円+税)
 この夏、二度目のハゼマケを体験しました。1回目は腕の所だけだったし、原因もはっきりしていましたが、2回目は原因不明のうえ、胸からあご、そして逆に顔にまで被害が及びました。日曜日にハゼの木の汁に触ってのでしょうが、顔に発疹が出たのはなんと木曜日の夜のことです。小学生の時には学校を1週間も休んでしまいましたが、今回はそんなわけにもいきません。自生していたハゼの木は切り倒すことにします。残念ですが仕方ありません。

狙われるマンション

カテゴリー:社会

 著者 山岡 淳一郎、 朝日新聞 出版 
 
 
いやはや、マンション住まいとは、こんなに大変なものなんですね・・・・。私は古い一戸建て団地の一角に住んでいます。もう30年になります。子ども会が消滅し、老人会もなくなり、団地の公民館は市内の連協から脱退してしまいました。夜の会合に参加できる体力・条件のある人がいないという理由です。老齢化がすすみ、空き家も増えています。東京や大阪に住む息子や娘たちのところに引き取られて、転出していくのです。寂しい限りです。
いま、マンションでも、「二つの老い」が進行していて、郊外の団地を衰退させている。建物の老朽化と住民の高齢化である。日本の分譲マンションの戸数は540万戸、1400万人が生活している。東京都中央区では11万5000人の区民の9割が集合住宅に住み、1割以上が高さ60メートル(20階)をこえる超高層で暮らしている。2011年には、築後30年をこえるマンションが100万戸に達する。
現在、20階建て以上の超高層マンションは463棟、14万3826戸、そこに30万人以上が暮らしている。この超高層の9割超は小泉内閣の成立した2001年以降の竣工である。首都圏が7割を占めている。超高層マンションは一般マンションと違って、値崩れが起きにくい。
そして、マンションの行く末を託した不動産、建設会社が次々に倒産している。
多くのマンション住人は、住むために買っている。その5割は永住するつもりであり、永住志向は年々高まっている。いずれは、住み替えるつもりという回答は2割を下まわる。
法定立て替えは、8割の賛成者が2割の反対者の所有権を半ば強引に「時価」で買い取り、形式上は「全員の合意」があるようにして事業を進める手法だ。立て替えに反対するマンション住人は排除される。
1962年に制定されたマンション法(区分所有法)は、建物の経年変化をほとんど考えていなかったので、建物の老朽化による立て替えについての手当てがなされていなかった。1983年の法改正のとき「5分の4」要件が盛り込まれた。このとき、修繕費が再建費の半分をこえるとき、「過分の費用」がかかるとして、認められることになった。そして、ゼネコンは「半分をこえる修理費用」の見積もりを出した。
ところが、実のところゼネコンは新築一辺倒で歩んできたから、実際の修繕ノウハウを持たず、少年の修繕工事の経験もほとんどなかった。
いやはや、なんということでしょうか・・・・。マンションの管理組合の修繕積立金が横領されるという事件も全国で続出している。管理会社の社員が8年間で8000万円(19管理組合)とか、7年間で9800万円(4管理組合)を横領していた。2003年以降、国交省が把握した修繕積立金の横領は127物件、12億円にのぼっている。
一般にマンション業界では土地代を除く総工事費は販売価格の3~4割である。30数戸の偽装マンションの新築時の販売総額は17億円。うち土地代は7億円で、工事費は6億円だった。マンションは、宣伝販売費など巨額の間接経費をかけている。
管理会社は何もいわなければ、何もしない。ハードルを高くしたら、ついてくる。すべて住民次第なのである。管理会社は、どこでも五十歩百歩。
 超高層マンションの人気は高いが、建物の維持管理、管理組合運営の両面で難題が横たわっている。超高層マンションは、近年に急激に建てられたため、建物の経年変化への対応策が確立していない。不具合の修繕費用は高い。歳月の経過とともに維持管理コストが急上昇する。膨張する管理コストは悩ましい。実際の修繕工事には、高層階の修繕に多くの費用がかかる。だから、低層階の住民は、高層階の金持ちのために「平等に」床面積に応じての費用負担に不満をもらす。
そして、「防災」は最重要のテーマとなっている。2年ごとに都心の超高層賃貸マンションを住み替える「タワー族」と呼ばれる家族層が存在する。
この本では超高層マンションの管理組合がうまく運営さているところも紹介されていて大変参考になりました。マンションの住民同士で感情的ないがみあいとなっているところも少なくないようです。実務的にも大変勉強になる本として、マンション入居者、これから買おうとする人に一読を強くおすすめします。
(2010年5月刊。1500円+税)

生き物たちの情報戦略

カテゴリー:生物

 著者 針山 孝彦、 化学同人 出版 
 
 南極、マイナス35度のなかで生きる昆虫、スプリングテールは、冬期に車のラジエータに入れるような不凍液を身体に蓄えるしくみをもっている。その不凍液はグリセロールというもので、そのおかげで凝固点が降下し、凍ることがない。
 南極に基地に入ると、初めにサバイバル・トレーニングをする。実際に自らクレバスに落っこちる。40メートルのロープをつけて、氷の割れ目のクレバスに落下する。周囲は青一色の世界となる。クレバスの奥は真っ黒の世界。このクレバスから、ロープをたどって脱出するのではなく、氷の壁に挑戦して自力で脱出する訓練が課される。右手にピッケル、左手にアイスピックを持って、足にはクランポンの金属が靴先に飛び出している。こんな、氷に張りつける道具を準備していても、いくら両手をふり回し、足をバタバタさせても、柔らかい氷の結晶がついた壁は脆い。大汗をかいて努力したものの、ついに力が尽いて、そして張りあげてもらった・・・・。うへーっ、こ、これは怖いですよね・・・・。
南極の寒地では、白夜があるため、日中とほとんど変わらない明るさがある。そのため睡眠障害が起きやすい。この問題を解決するため、基地のなかでは、全員が規則正しい生活を心がける。朝食も夕食もバイキング形式で食べ放題だが、朝は午前7時、夕方は6時に、それぞれ1時間のあいだに全員が一堂に会して食事する。夕食のあとはアルコール。基地のバーが開店して、1杯100円で世界中の高価なお酒が飲める。南極では酒税がかからないので、とても安い。飲みすぎを防ぐためにお金をとるだけ。やっぱり、飲みすぎず、また気分転換を図るって大事なことですよね。
 コンピューター・シュミレーションによって、一世代に一つの突然変異が起こったとすれば、数十万回の世代交代によって、平らな皮膚のような構造からレンズをもったカメラ眼まで形態変化することが証明された。つまり、眼の形成までに1億年かかったとしても、エディアカラ紀の運動性をもった個体群が眼の形成を開始していたら、カンブリア紀に突然、眼ができても不思議ではない。ふえーっ、そんなんですかね・・・・。
 光線に色はない。これはニュートンの言葉。色とは、三種の錐体細胞が下界にある光のスペクトルによって別々に興奮させられ、その興奮の比率が脳に伝わる信号の状態のことをいう。光線が錐体に含まれる光受容細胞に吸収され、細胞が興奮して情報を脳に伝達し、三種の興奮も組み合わせが色という情報に変換される。生物が情報を作っているのである。 
 日常生活においては、すべての物に色がついているわけですけれども、実は、色なるものは、その物に付着しているというわけではないということが、どうにもぴんときませんね。
いずれにせよ、南極からアフリカまで、世界中のいたるところに生活して、生き物とは何かを探求してやまない学者の努力には脱帽せざるをえません。
 
(2007年9月刊。1800円+税)
 梅雨が明けると炎暑の夏が到来しました。車の温度計で38度が表示されているのを見て、計器が暑さで狂ったのかと思ったほどです。しばらく走っても35度でした。熱中症のため、お年寄りが何人も亡くなられています。私も庭仕事をするときには、いつも以上に休み休みし、また水分補給に心がけています。
 夜、寝る前にはベランダニ出て天体望遠鏡で就き世界を見るのが楽しみです。夜風に吹かれて身体を覚ましてくれるのもちょうどいいし、異次元の世界をのぞくうれしさがあります。

源氏物語とその作者たち

カテゴリー:日本史(平安)

 著者 中村 亨 、文春新書 出版 
 
  弁護士になって、浮気や不倫・不貞は日常茶飯事であり、ありふれたことの一つでしかないことを痛感します。この36年あまりの弁護士生活において、不貞にからむ事件が絶えたことはありません。金銭貸借をめぐるトラブルと同じように、申し訳ありませんが弁護士にとってのメシのタネの一つです。
 この体験からすると、不貞行為は日本人の本性に深いところで根づいているものではないかと思わざるをえません。源氏物語は、そのような日本人の心性の始まりを文学的に描いた作品ではないでしょうか。つまるところ、男女の浮気、不貞、不倫を奨励するかのような話のオンパレードなのですから・・・・。
そして、著者は、源氏物語の作者は紫式部一人ではなかった、多くの読者が書き写しながら勝手に書き足していった集大成なのだと主張しています。
 今のように、活版印刷による本なんて当然なく、すべては人の手によって書き写していた時代ですから、写し間違いだけではなく、故意に書き足し、書き落としがあったのでしょう。また、それは避けられないことでした。だって、誰にせよ、どれが原本(正本)なのか、分かるはずがなかったのですから・・・・。
 源氏物語が、必ずしも「いづれの御時にか」から書き出されたとは限らないという考えは昔の人も持っていたらしい。紫の上につながる話は紫式部の原作であり、玉鬘(たまかずら)系の巻々は複数の別人の筆になるものだろうと考えられている。
 うむむ、そうなんですか・・・・。
 読者はすぐに作者になることにためらいのない時代であった。・・・・えーっ、そうでしたか・・・・。藤原頼通も源氏物語の作者のひとり、少なくとも作者たりえた存在である。
 ふむふむ、そのように考えられるのですか・・・・。これだから歴史物の本を読むのはやめられませんね。固定観念がうちこわされてしまう面白い本でした。
(2010年3月刊。770円+税)

天空の星たちへ

カテゴリー:社会

著者:青山透子、出版社:マガジンランド
 日航123便、あの日の記憶というサブ・タイトルがついています。今から25年も前のことになります。1985年8月12日、日航ジャンボ機が墜落して乗員乗客520人が亡くなり、生存者は4人でした。
 著者は元JALスチュワーデスです。あの不可解な事故がきちんと解明されていないという叫び、そして、今の破産状態にあるJAL体制は安全運航が確保されているのか、深刻な疑問を投げかけています。
 新任のスチュワーデスのとき、言われた言葉。緊張が顔に出てはいけない。安心感を与えることが、乗り物への恐怖心をもつ客にたいして不可欠のこと。自分が不安がってはいけない。そうなんです。でも、言うは易し、行うは難しですよね。
 123便のスチュワーデスが、異常事態が発生したあとも客を冷静にしようと努めていたこと、最後まで自己の使命をまっとうしようとしたことがボイス・レコーダーに残っている。同時に、亡くなった乗客のとった写真(1990年になって初めて公開された)にも明らかである。なるほど、この機内の写真によると、乗客は全員が着席していて乱れておらず、また、みなマスクを顔に着けています。 
 上下関係の厳しさは、本気度のあらわれである。とくに機内では、指揮命令系統がしっかりしていないと、いざというときに対応できない。同じ空で働く者同士が責任をもって育てないと、自分も危ない目にあってしまう。
 著者は、自らがJALのスチュワーデスであった体験をふまえて、日航123便事故を報道した当時の新聞記事を逐一検証していきます。
 アメリカで尻もち事故を起こしたという隔壁破壊が墜落の原因だとすると、客室内を爆風が吹き抜けることが前提条件となる。そして、爆風が吹くほどの急激な減圧となると、乗客の耳は聞こえなくなり、航空性中耳炎となる。しかし、生存者4人は、救出直後からインタビューに答えている。つまり、鼓膜は破れていない。どうも違う・・・。
 覚悟を決めた機長は、どーんといこうやと周りを安心させ、自分の腹をすえた。その状況から逃げないで、最後まで役目を果たす。それが究極のプロ精神なのだ。機長は、まったく意のままに動かない巨大な宙に浮く塊を必死に操縦していた。
 しかも、本書が初めてではありませんが、アメリカ空軍の中尉が墜落の20分後には墜落地点に到達し、その通報を受けて夜9時5分には海兵隊の救難チームのヘリコプターが現場に到着したということです。ところが、このヘリコプターはなぜか現場に降り立つこともなく、厚木基地に戻っています。
 生存者4人が発見されたのは、それから実に12時間後のことです。生存者は、自分の周囲に、まだ生きている人は他にもいたと語っていたのです。
 そして、生存者を発見したのは、地元の消防団であり、自衛隊ではありませんでした。
 ヘリコプターで生存者を救出する場面ばかりが有名ですが、実は、アメリカ軍も自衛隊も、徒歩で山に分けいった地元の消防団に「遅れ」をとったのです。
 それは意図的なものだったかもしれない・・・。考えさせられるところです。
 今から25年前に起きた事故ではありますが、日本の空の安全を考えるうえでは欠かせない本の一つだと思います。なにしろ、私など、月1回以上は飛行機に乗っていますので、安全性こそ最優先してほしいと切望します。
(2010年5月刊。1429円+税)

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