著者 渡邊 博史、 出版 窓社
奇妙な写真のオンパレードです。通りに人がいません。当然そこにあるべき雑踏というものが見あたらないのです。ええーっ、いったい、人民、いや、民衆はどこに行ったの・・・、と、つい疑問に思ってしまいます。
街角に映画館があります。タイトルには「海賊王」という漢字が読めます。でも、通行人がまったくいません。不思議です。まるで映画撮影のためのスタジオのようです。黒沢明監督の映画「酔いどれ天使」の看板もかかっています。でも、そこに登場するのは、ホーキをもった清掃のおばちゃん一人です。「乳房拡張美容器店」とか「神経痛」という看板を掲げた店もあります。でも、誰もうつっていません。明るい昼日中の写真なのに、人っ子ひとり歩いていない商店街なのです。あたかも中性子爆弾が落とされて、人間だけが消滅してしまった町並みを撮った写真です。
偉大なる金正日将軍のどでかい絵の前に、わずかに通行人がいます。そして、大きなビルの前の広場に何かのパフォーマンスを見ている着飾った観客がいます。でも、奇妙です。みんなあまりにも着飾っています。普段着の人が見あたらないのは、やはり居心地の悪さを感じさせます。
地下鉄のホームには、わずかに雑踏らしきものを感じさせます。それでも、ホームの床があまりにもピカピカすぎて、ふだんは人が利用していないんじゃないの、そうとしか思えません。
異例づくめの写真集です。大勢の美男・美女がかしこまって出てきます。そこには、残念ながら、暖かい人間味がちっとも感じられません。地上の楽園(パラダイス)というには、あまりにも人工的な、こしらえものの「楽園」としか思えません。
北朝鮮っていう国は、やっぱり異常な国だと、つくづく思わせる写真集です。
(2008年12月刊。3800円+税)
パラダイス・イデオロギー
