著者:カルロス・ルイス・サフォン、出版社:集英社文庫
本年度のミステリーナンバー1ということです。なるほど、どっしりとした読みごたえがあります。400頁の文庫本で2冊という大長編です。
オビにある推薦の言葉を紹介します。小説を読む喜びにあふれている。物語の虜になることの愉しさがここにはある。まさに傑作。過去と現在を複雑な糸でつなぎ合わせ、読む者を浪漫の迷宮へ誘い込んでいく。すべての誠実な読書人におすすめしたい、掛け値なしの傑作である。
どうですか。ここまで書かれると、うん、どんなものだかちょっと読んでみようって気になりますよね。私も、そんなわけで読んでしまったのです。それにしても、オビの3行とか4行で本屋で手に取って読ませようという文書を私も書いてみたいと思いました。
舞台はスペインのバルセロナです。古書店の父と息子が登場します。スペインの小説には、いつもスペイン内戦の影がまとわりついてきます。フランコ派と人民戦線そしてアナーキストが互いに殺しあった悲惨な内戦の後遺症が今もあとを引いているようです。人々の消すに消せない重大な出来事だったのでしょう。
いくら読みすすめていっても、いったいこの話はどんなふうに展開していくのか、まるで予測がつかないのです。だから、次はどうなるのか知りたくて、ひたすら頁を繰っていきました。
話の筋が複雑にからみあっていて、なるほど、そういうことだったのか、と終わりころになって、ようやく事件の全貌をつかむことができます。それまで、物語の基調にあるレクイエムのような暗い調べをずっと聞いている気分に浸ることになります。決して心地よいものではありません。でも、先行見通しの不透明さ、人生の不可思議さをじっくり味わうことのできる小説ではあります。
私はベトナム行きの飛行機のなかで読みました。ベトナムまで福岡から5時間かかるのです。
風の影
