弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

社会

2023年4月28日

平和憲法で戦争をさせない


(霧山昴)
著者 寺井 一弘 ・ 伊藤 真 、 出版 自費出版

 昨年(2022)年2月にロシアがウクライナに侵攻して始まった戦争は、いつになったら終わるのか、不安な日々が続いています。
 そんな人々の不安につけこんで、自民・公明の政権は相変わらずアメリカの言いなりに高額な兵器を買わされ続け、日本もアメリカに続けとばかりに戦争する国になりつつあります。怖いのは、少なくない日本人がそれに慣らされ、モノ言わぬ人々になってしまっていることです。それが裁判所(裁判官)の意識も包み込み、出る杭は打たれるとばかりに、政権の言いなりに判決を書き続けています。司法が行政の歯止めの役割を果たそうとしていません。
 「そんなこと、オレたちばかりに押しつけるなよ...」という、弱々しい告白がもれ聞こえてきます。でも、あきらめずに、安保法制法は憲法違反だという裁判を意気高くすすめているグループがいます。私も、そのグループに加わり、微力を尽くしています。
 この70頁ほどの小冊子は、そんな安保法制違憲訴訟を引っぱっている二人のリーダーによるものです。さすがは憲法伝導士を自称するだけあって、格調高い内容です。
 まずもって驚かされるのは、戦前の明治憲法をつくった伊藤博文が立憲主義の本質を理解していたということです。君主の権力を制限し、国民の権利を守ることが憲法の目的だと、伊藤博文が言っているのです。自民党の政治家にぜひ読んでほしいところですよね...。
 ただ、残念なことに、「個人の尊重」は理解していなかったようです。だって、女性の参政権は認めていない時代ですから、当然の限界なのでしょう...。
 明治憲法は天皇が強かったわけですが、実のところは、天皇を通じて国民を自由に操(あやつ)る実質的な権力者が天皇の裏にうごめいていたのです。
 明治憲法では、親権天皇、軍隊、宗教が三位一体の構造をなしていた。これに対して、戦後の日本国憲法は、象徴天皇制、9条による戦争放棄、政教分離を規定した。
 今の日本国憲法を「押しつけ憲法」というのは事実にも反しますが、このコトバは1954年の自由党の憲法調査会で初め登場したもの。
日本国憲法は、国連憲章ができたあと、それも人類がヒロシマ・ナガサキで原爆(核兵器)を使ったあとに制定されたもの。このことを忘れてはいけない。
 日本は、今日までの戦後77年間、戦争することなく、少なくともこれまでは無用な軍備拡張競争に乗ることなく、ただ一人として国民・市民が戦争で死なず、そして自衛官が戦死することもなく今日があるのです。
抑止力の本質は、戦争する意思と能力があることを相手に示して威嚇すること。
 日本が敵基地攻撃能力を持ち、「やられる前にやれ」といって攻撃したら、「敵国」は必ず反撃してくる。ミサイル攻撃の応酬になってしまう。どちらも共倒れ、廃墟になってしまうまで続くことになりかねない。
 戦争が始まったら、なかなか終息しない。なので、戦争にならないようにするしかない。そのためには、私たちはもっともっと声を大きく強く平和を求めて叫ぶべきなのです。
(2023年5月刊。カンパ)

2023年4月17日

武蔵野、狭山丘陵


(霧山昴)
著者 高橋 美保 、 出版 現代写真研究所出版局

 蔦(ツタ)が締め付け、蜘蛛(クモ)が舞う。クヌギが朽ち、湧水が浸みる。これはオビにあるフレーズです。写真で、その情景が見事に切り取られています。
 狭山丘陵は武蔵野台地の西北にあって、古多摩川の削り残した残丘。周囲は約30キロ、高さは最高で200メートルほど、平均海抜100メートルの台地。長年の風雨に浸食され、細かい山襞(やまひだ)や斜面から滲(にじ)み出る雨水と湧水によって、谷戸が点在し、複雑な地形になっている。内部には、人工的につくられた二つの湖があり、水源涵養林として、周囲に深い緑を残している。
 太古は原生林だったが、徐々に人間が伐採して、コナラ、クヌギ、クリなどの人工林として育ってきた。湿地にはカエルの卵塊があり、またヘビ(ヒバカリ)も生息している。
 コナラの大木をカズラが巻きついている。クモは見事にラケットの形をした巣をかけている。
 カモもアオサギも湿地あたりでエサを探している。
 狭山丘陵の荒廃の原因は、台風が強力になり、夏冬の変動の振れ幅が増大しているように、気候変動の影響が過酷になっていることにある。
 コロナ禍によって狭山丘陵に立ち入る人が減ったため、荒廃がすすむ一方で、動植物が人目に触れないところで自由を満喫して競争している。
 湿地のカエルが増え、ササ林のクモも一時、急増したが、最近はまったく見かけなくなった。このように増減は不安だ。
 集中豪雨や強風で倒木が増えると、雑木林がまばらになる。一時的に地衣類が増えたとしても、日照が良くなると、湿地が乾燥して草原部分が増加する。
 そんな狭山丘陵という自然の移り変わりが見事な画像として切り取られている写真集です。目の保養にもなりました。
(2023年2月刊。2700円+税)

2023年4月13日

武器としての国際人権


(霧山昴)
著者 藤田 早苗 、 出版 集英社新書

 久しぶりに目を洗ってすっきりする思いのした本です。
 生まれてきた人間すべてに対して、その人が能力を発揮できるように、政府はそれを助ける義務がある。その助けを政府に要求する権利が人権。人権の実現には、政府が義務を遂行する必要がある。その義務は次の三つ。
①人がすることを尊重し、不当に制限しないこと(尊重義務)
②人を虐待から守ること(保護義務)
③人が能力を発揮できる条件を整えること(充足義務)
 人権は、すべての人が持っているとされる権利で、あらゆる人間の尊厳を重視して、自分の仲間であってもなくても同等に扱われるべきというもの。
日本では、この意識が希薄だ。弱者があわれまれる「かわいそうな状態」にとどまっている限りは同情される。しかし、自らを弱者に追い込んだ社会の問題を指摘し、権利を主張すると、それは否定的に受けとられ、「わがまま」「身の程知らず」と批判されることが多い。
日本政府は国連の勧告を受け入れず、無視した。あげくに国連への任意拠出金を支払わなかった。
 日本の相対的貧困率は、アメリカに次いで2番目に高い。日本の生活保護の捕捉率は2割。残る8割、数百万人が生活保護からもれている。
イギリスでは同居している夫婦間と、16歳未満の子どもに対して以外に扶養義務はない。
 つまり、日本のように生活保護の支給にあたっての「親族への照会」というのはないのです。しかも、日本では生活保護の支給がどんどん切り下げられています。軍事予算のほうはアメリカの言いなりになって不要不急でムダづかいばかりしているのに...。
従軍「慰安婦」は、かつては中学校の教科書に記述されていましたが、今ではすっかり姿を消してしまいました。ひどいです...。
日本のメディアの独立性は脅かされています。高市大臣(自民党)の「ねつ造」発言も、いつのまにかウヤムヤになって終わってしまいそうです。許せません。
 そして、日本の投票率が低いことの要因の一つとして、マスコミの選挙報道の少なさがあります。たとえば維新の「嘘」はそのまま垂れ流しても、その真実、たとえばカジノ誘致、保健所の大幅な削減、首長の退職金「ゼロ」(実は増額)はほとんど報道されません。
 日本の女性警官は8%。イギリスは30%。
「夫婦別姓」の選択肢がないのは、世界で日本だけ。江戸時代まで、日本も夫婦別姓だったのに...。統一協会の影響力から自民党(右派)は脱却できないままなのです。
 日本の女性医師は21%で、OECD加盟国37国の中で最下位。アメリカですら34%なのに...。
マスコミは国連のルールを知らないまま、日本政府の言いなりに、それを垂れ流している。外国人の人権をないがしろにする国(日本)が、女性や障害のある人生活困窮者、性的マイノリティなどの社会的弱者の人権を尊重するだろうか...。
 この本の冒頭で、イギリスにはコンビニはないし、町の店は夕方6時には閉店するし、宅配の最終便は夕方5時。それでも社会はまわっていることが紹介されています。おかげでイギリスには過労死はありません。「カローシ」は国際語になったといっても、日本特有の現象です。
 フランスでは、頻繁にストライキがあって地下鉄やバスが止まり、ゴミ収集もない。みんな不便。でもストライキは労働者の権利だから、我慢する。
日本も多少の迷惑をかけても要求して行動していいんだという国にしたいものです。
(2023年3月刊。1100円+税)

2023年4月12日

先制攻撃できる自衛隊


(霧山昴)
著者 半田 滋 、 出版 あけび書房

 3月初め、福岡で講演会があったとき、著者のサインをもらいました。著者の話は、いつも明快なうえに、豊富な映像をともなっていますから、視覚的にもよく分かります。いえ、よく分かって楽しいのではありません。すごく腹が立つのです。方言で言うと、「腹かいた気分」になります。もちろん、著者に対して腹を立てているのではありません。話を聞いて、自民・公明政権のやっている軍事予算「爆買い」路線に対して、です。
たとえば、日本はF35Bを42機もアメリカから買うことになっています。ところが、このF35というのは、とんだ欠陥機であり、「未完成の機体」なのです。開発以来、20年もたっているのに、完成していないというのですから、ひどいものです。そして、アメリカでも日本でも重大(死亡)事故を何回も引き起こしています。そんな欠陥機を日本はアメリカのトランプ大統領の口車に乗せられ、アメリカ軍事産業を助ける目的で「爆買い」した(している)のです。もう、やめて...。
北朝鮮がロケットを打ち上げたといっても、日本政府とマスコミは「ミサイルが打ち上げられた」としか報道しない。
 でも、ロケットとミサイルは、まったく同じ技術。日本政府とマスコミはそれが分かったうえで、国民に対してロケット打ち上げとは言わずにミサイルと呼んで、その怖さをことさら言い立てて恐怖心をあおり、利用しようとしているのです。
 今や日本の防衛予算は5兆円を軽く突破。なにしろ5年間で43兆円も支出するというのです。アメリカの軍事産業は、それによって大いに懐を肥やします。日本はアメリカの「死の商人」を肥え太らせるばかりです。
そして、日本に駐留するアメリカ兵士の生活まで面倒見てやっています。アメリカ人技術者40人が、青森県の三沢基地に滞在することになるので、国はアメリカに代わって30億円もの生活費を負担するというのです。アメリカ人兵士Ⅰ人あたりでは年間7500万円もの巨額を日本政府は負担します。「なぜ、アメリカ人技術者の生活費まで負担するのか?」と問いかけると、「彼らはアメリカ本土での生活を捨てて、日本のために働くのだから」という回答。
 ええっ、嘘では。こんなこと、アメリカ人以外にはしていませんよ。
 日本を守ると言いながら、中味としては、軍事予算を増やしてアメリカと日本の軍事産業を喜ばせています。
 安保法制法が成立してから何年もたつのに、幸いというべきか、実施されたことはありません。
軍事予算の一部、ほんの一部でも教育予算にまわせば、大学の入学金や授業料をゼロにすることは簡単なんです。日本の「国」ではなく、「国民」を守る政治に切り替える必要がありますよね。

(2020年12月刊。1500円+税)

2023年4月 8日

君のクイズ


(霧山昴)
著者 小川 哲 、 出版 朝日新聞出版

 私はテレビを見ませんし、ましてやクイズ番組なんて関心もありません。でも、その裏側がどうなっているのかは関心があるので、つい手にとって読んでみました。
 著者は、先日『地図と拳』で直木賞を受賞しています。そっちは戦前の満州が舞台で、歴史をよく調べてストーリー構想もすごいと驚嘆しました。こちらは、歴史ではなく、クイズ番組の仕組みと、その優勝者たちの心理がよく調べて、本物そっくりに描かれています。あとがきに友人のクイズプレイヤー2人に助言してもらったと書かれています。
この本では、ぶっつけ本番のクイズ番組で優勝するのは、なんと問題文が読み上げられる前に「正解」を回答したという大学生です。どうやら、問題文を読み上げる人の口元を見て、そこから連想ゲームのようにして問題文を推測し、正解を回答したというのです。ありえない・・・と思いました。もちろん、「ヤラセ」じゃないかと疑いますよね。でも、最近のクイズ番組では、ヤラセがあったという話は聞かないというのです。
クイズとは、覚えた知識の量を競うものではなく、クイズに正解する能力を競うもの。クイズには、さまざまな形式がある、早押しクイズ、ペーパークイズ、ボードクイズ・・・。
 Q.日本で最も高い山は富士山。では大阪市港区にある、日本で最も低い山は?
 A.正解は「日和山」
 リスクを負うことも必要だ。展開によっては、まだ五分五分でも、他より先に押さなければいけない。『恥ずかしい』という感情は、クイズに勝つためには余計だ。そんな感情は捨てたほうがいい。クイズの強さとは、相手に先んじて正答を積み上げる強さだ。
早押しクイズでは、答えが分かってから押していると、相手に解答権をとられてしまう。「わかりそう」と思ったら打つ。ランプが点(つ)いて、答えを口にするまでの短い時間で、「分かりそう」だった解答を考える。いやはや、とんだ厚かましさだ。
数列に例えるなら、「クイズの強さ」とは、さまざまな数列の可能性を見つけられる知識と、リスクを計算しながらベストのタイミングで解答ボタンを押す技量と、計算の速さと正確さ、これらの総合値だ。
世界は知っていることと、知らないことの二つで構成されている。クイズに正解したからと言って、答えに関する事象をすべて知っているわけではない。まったく、そのとおりです。
(2023年3月刊。1400円+税)

2023年4月 5日

ディープフェイクの衝撃


(霧山昴)
著者 笹原 和俊 、 出版 PHP新書

 先日、国際ロマンス詐欺の被害者がインターネットの映像によってすっかり本物だと欺されたと語る記事を読んだばかりでしたので、この本を手にとって読んでみました。
そういえばウクライナの「ゼレンスキー大統領」が自国民に向かって降伏を呼びかけたフェイク映像、そして、同じくオバマ元大統領もフェイク映像の被害にあったというニュースを思い出しました。
この本(新書)は、そんな映像が今や「簡単に」つくれることを紹介しています。本当に恐ろしい時代になりました。
ディープフェイクとは、人工知能(AI)の技術を用いて合成された、本物と見分けがつかないほどリアルな人物などの画像、音声、映像やそれらをつくる技術のこと。ディープフェイクはポルノから始まった。ポルノ女優の顔を有名人の顔にすり替えて作った合作ビデオが大量につくられ、流通している。
オバマ元大統領が「トランプは完全なバカ野郎だ」と耳を疑うような暴言を吐いている動画があり、900万回も視聴された(2018年4月)。
ディープフェイクは、誰でもパソコンのブラウザやスマートフォンのアプリで製作できるようになる日は近い。
2019年7月、ディープフェイクの動画1万5000本の96%はポルノだった。2020年にはディープポルノ動画は2万7000本で、うち7割はディープフェイクに特化したポルノサイトに投稿されていた。
ディープポルノ制作者が集まる地下コミュニティがあり、10万人以上のメンバーが偽ポルノ制作の腕を競っている。
今では、ディープフェイク動画は、本人と見間違ってしまうほど精巧。なので、被害はより深刻。女性の写っている写真から衣服を取り除いて合成ヌードを作成するアプリも存在する。日本でも、ディープポルノで逮捕された人がすでにいる。2020年10月、ポルノ動画の人物の顔を女性タレントの顔にすり替えて偽ポルノをインターネットで公開した男2人を名誉棄損と著作権法違反の疑いで逮捕した。この2人は、ディープポルノを400本アップし、80万円以上の収益をあげていた。
ディープボイスも作られているし、顔認証をハッキングした事件も発生している。
中国では、顔認証が突破され、お金が盗みとられる被害が多発している。「顔交換」は1動画あたり15ドル、5時間で制作できる。いやぁ、これって安すぎですよね(もちろん、高ければいいというのではありません...)。
現在のディープフェイク技術は、本物の人間かどうかを検知する人間の無意識すら欺してしまうようなものに進化を遂げつつある。ディープフェイクを見破るコツの一つは、まばたき。AIモデルは、まばたきを知らないので、まばたきを再現できない。また、人物の動きが異常に少なく、同じ動きばかりしているのは、怪しい。まばたきが不自然で、生身の人間だったらありえないほど変化がない。まばたきや瞳は嘘をつかない。今、このようなディープフェイクを検出する技術の開発がすすめられている。
いやはや、本当に怖い、恐ろしい世の中になりました...。
(2023年3月刊。1100円+税)

2023年4月 4日

防衛省に告ぐ


(霧山昴)
著者 香田 洋二 、 出版 中公新書ラクレ

 軍事予算が天井知らずにふくれあがっています。ウクライナでのロシアの侵略戦争、北朝鮮のミサイル打ち上げ、中国の台湾とのトラブル(武力統一・・・?)。こんな状況で、マスコミも、その軍備拡張に異を唱える勇気を示すことができないようです。いったいトマホークを日本が400発も持って、日本を守れるものなんですか。日本海ぞいにたくさん立地している原発(原子力発電所)を特殊部隊がミサイルで攻撃するのをトマホークや超高速滑空弾をもっていれば防ぐことができるんですか・・・。もちろん、そんなこと出来ません。原発が一つでもミサイル攻撃されたら、残念ながら、この日本は終わりです。海に囲まれた島国の日本ですから、ウクライナのように周辺諸国へ避難して助かるなんてこともありえません。国を守るって、強力な武器があればいいだなんて、ありえないって、ちょっと考えたら小学生だってわかるような話なのに、なんとなく戸締りを強力にしておけば安心安全だなんて幻想、それこそ「お花畑」の錯覚のもとで、自民・公明政権の軍備増強にマスコミはストップをかけようともしませんし、多くの日本人が流されている気がしてなりません。忙しいから、選挙(投票)なんか行ってるヒマはないとうそぶいている日本人が、なんと多いことでしょうか・・・。
この本は海上自衛隊の現場トップ級にいた人が、日本の防衛行政を鋭く告発しています。
イージス・アショアという陸上での迎撃システムの設置が失敗したので、今はイージスシステム搭載をアメリカから購入することが決まっている。2隻で4800億円。しかし、実は燃料代や整備費は巨額なので、総額1兆円以上に膨らむ可能性があるという。1兆円といえば、今すすめられている全国旅行支援の予算規模と同じレベルです。GoToトラベルは当初2兆円の事業として始まりましたが、コロナ禍のせいで途中で中止となったのです。コロナ禍が少しおさまったので再開されましたが、その予算規模が実に1兆円、そんなお金があったら、大学の学資をヨーロッパと同じように無料化できるんです。
著者は15発のミサイルを打った経験があるとのこと。目標まで誘導されていても、平時の安易な環境下でも失敗率が4分の1もあったとのこと。やはり、人間は間違うのですね。
防衛力は、正面装備、後方、教育・訓練の三つがそろって安定する椅子のようなもの。自衛隊は戦うつもりのない組織。いえ、私は、これでよいんだという考えです。
25万人の隊員の誰一人として戦場で人を殺したことのない軍隊、しかも、それは創設以来の良き伝統なのです。この伝統は、しっかり守られるべきものです。
いま、岸田政権は全国130ヶ所に大型弾薬庫を新しくつくろうとしています。1週間の継戦能力に備えての弾薬庫です。でも、原発が幸い襲われていないとしても、1週間も戦闘が続いたら、日本人の多くは飢え死にしてしまいませんか・・・。だって、食料自給率は、3割程度なんですよ。
自衛隊の司令部は地下にもぐるそうですが、国民は地上に取り残されたまま、頭上をミサイルが飛びかっている。なんと恐ろしい光景でしょうか・・・。
アメリカの軍事産業を喜ばせるために、日本は次々に高価な軍事装備品をアメリカから購入させられています。止めてください。税金のムダづかいです。そんなことより、大学の授業料を無償にしてください。小・中・高校の給食費を無料にしてください。赤ちゃんと60歳以上の医療費負担をゼロにしてください。
「身を切る改革」と称して、維新は知事の退職金をゼロにしました。ところが実は、その分を毎月の俸給を引き上げていました。なので、総額は前より値上げしたのです。朝三暮四のごまかしです。
税金の間違った使い方にはきっぱり「ノー」と声をあげる必要があります。ヨーロッパでもアメリカでもストライキが頻発し、デモ行進が活発です。日本は見習う必要があります。この本のように自衛隊現場トップだって声を上げているのですから・・・。
(2023年2月刊。860円+税)

2023年4月 3日

辞書編集、37年


(霧山昴)
著者 神永 暁 、 出版 草思社文庫

 辞書づくりの面白さ、大変さを知ることができました。そして、もちろん辞書の大切さも...。私も辞書はよく引きます。すべて手書き派のモノカキですから、漢字は読みも書きもそれなりにできると自負しているのですが、送り仮名は難しいし、漢字だって、このときはどれが一番ふさわしいかなと疑問を抱いたら、すぐに辞書を引くようにしています。もちろん国語辞書です。ついでにいうと、フランス語をずっと勉強していますが、電子辞書ではなく、あくまでペーパーの辞書です。大学受験のときは、部厚い英語の辞書を最初から最後まで読み通しました。赤鉛筆を引きながらですから、辞書が真っ赤になりました。同じようにフランス語もロベールの仏和大辞典を読みすすめました。そうなんです。辞書は必要なところを引くだけでなく、読みすすめると、それも楽しいのです。うひゃあ、そうなんかと、いくつもの発見がありますから。この本でも、著者はそのことを何度も強調しています。
辞書編集者の仕事は、ひたすらゲラ(校正刷り)を読むこと。書かれた内容すべてに対して、本当に正しいのかと疑問をもちながら読んでいく。だから、辞書編集者は、とても懐疑的な性格になっていく。つまり、疑ぐり深い正確になるのですね。
日本の辞書は、内容だけでなく、印刷や製本、製紙の技術も素晴らしい。辞書は発刊と同時に改訂作業がスタートする。つまり、辞書編集とは、エンドレスなのだ。いやぁ、これには驚きました。ともかく息の長い仕事なのです。10年とか30年のスパン(単位)で考える世界です。
辞書編集者に求められるのは、言葉に関する興味であり、ことばに対する探究心である。これがあれば誰にでもできる仕事だ。いえいえ、決してそんなことはありますまい・・・。
辞書編集者は、誰が書いた原稿でも、内容のおかしな原稿には手を入れる。これが鉄則だ。
日本の辞書は、表紙は塩化ビニール(塩ビ)などの柔らかい素材のものとし、本全体を厚紙のケースに入れている。外国の辞書にはケースがなく、表紙もやや厚手の紙製なのが多い。
『美しい日本語の辞典』には日本の伝統的な色名を示し、117色のカラー口絵を付けた。いやぁ知りませんでした。これは買わなければ損ですね...。青鈍(あおにび)、今様色(いまよういろ)、朽葉色(くちばいろ)、潤朱(うるみしゅ)、浅葱色(あさぎいろ)...。これはすごい。
『ウソ読みで引ける難読語辞典』というのもあるそうです。アベやアソウが読み間違って聞いているほうが恥ずかしい思いをさせられた言葉がありますよね。アベの「でんでん」(云々)が有名ですが、それが辞書で引けるようになっているとは、思いもしませんでした。たしかに、コトバが人々から誤読されているうちに、「正読」になってしまうことはよくありますよね。
「がさをいれる」という「がさ」とは、「さがす(探)」の語幹「さが」の倒語だというのは、知りませんでした。「むしょ」は刑務所の略ではないというのにも驚きました。刑務所ができる前から「むしょ」は存在していて、これは「虫寄場」とか「六四」(牢の食事は麦と米が6対4の割合だったことによる)からという。いやはや、世の中は知らないことだらけですね。
山形弁は、「ゴミをなげる(捨てる)」、「コーヒーをかます(かき回す)」という。愛媛では「梅干をはめる(入れる)」という。
シャベルとスコップ。東日本では大型のものをスコップといい、小型のものはシャベル。西日本では大型のものはシャベル、小型のものをスコップという。
辞書の紙はインディアペーパーだった。薄くて、インクの裏抜けのしにくい紙だから。辞書の製本も、見開きで180度開くだけでなく、左右両方向に180度、つまり360度開いても壊れない。これは外国の辞書にないこと。
コトバ選びの楽しさも味わうことができました。辞書編集者に対して、改めて感謝します。
(2022年1月刊。990円+税)

2023年3月28日

金環日蝕


(霧山昴)
著者 阿部 暁子 、 出版 東京創元社

 いやぁ、読ませました。読みはじめたら、ええっ、いったい次はどんな展開になるんだろう...と、目が離せなくなり、電車を降りてバスに乗ってからも読みふけってしまいました。それでも読了できず、少しだけ次の予定まで時間があったので喫茶店に入り、遅い昼食のサンドイッチをかじりながら、ようやく最後の大団円にたどり着いたのでした。
 ネタバレはしたくありませんので、要は「振り込め詐欺」(特殊詐欺)を舞台とした展開だということだけ申し上げます。
 名簿屋は、名簿を擦(こす)る。欺しのターゲットの細かい情報を調べるのを擦るという。これがあるとないのとでは、成功率がまるで違う。それはそうですよね...。
 擦るには、真心を込めて相槌を打ち、うなずき続ける。こちらも本心でないとダメ。こちらが真摯(しんし)だからこそ、相手も気を許し、心の深い場所を開いて見せてくれる。同情し、共感しながら、もっと情報を吐き出してとうながしつつ、頭の中に入手したデータを余さず書き込んでいく。
 受け子は、ターゲットからお金を受けとってくる役。出し子は、振りこまれたお金をATMで引き出す役。警察に捕まるのは、この受け子か出し子。この危険な役をやらせる人間を集めて、人材派遣会社みたいにお金の回収を請け負うグループが存在する。
プレイヤーが電話をかける場所は「アジト」というより、普通の会社のオフィスという感じ。それぞれのデスクがあって、電話がずらり並んでいて、出勤も退勤も時間が決まっている。
ターゲットから取るお金は、売上と呼び、目標額まであといくら、気合入れてがんばろうという反省会までやる。そして、1クール2ヶ月というように期間が決めてあって、その期間内にガンガン稼いで、それが終われば解散してしまう。あとには何も残らない。
 プレイヤーは、1人では無理。最低3人。それくらいいないと、ターゲットにこちらの話を信じさせられない。疑うヒマも与えず、こっちのシナリオに引きずり込めない。台詞(セリフ)を覚えてミスなく話せばいいっていう問題ではない。本当は存在していない人間、起こっていない出来事を、相手にここに存在していて、今まさに起きてるって信じさせなければいけない。
 追跡アプリなるものは、フツーに街の電器屋さんで買える。たとえGPS機能を遮断しているスマホ(スマートフォン)でも、一度本体にインストールさせてしまえば、現在地が特定できるうえ、通話履歴の取得、写真撮影、音声録音まで遠隔操作で可能だ。今では、こんなとんでもないアプリが存在し、有料とはいえ、誰でも手に入れて使うことができる。
 主要な舞台のひとつが昨秋、久しぶりに訪れた北大(北海道大学)でした。構内の喫茶コーナーでお茶したことを思い出しました。北大って、いつ行っても風情があっていいですよね。でも、この本のストーリーは、ちょっとばかり怖いです。それも現実にあった(だろう)話をベースにしている(だろう)から、ホント、思わず身震いするほどの怖さをひしひしと感じました。先日つかまった「ルフィ」が、「悪」から抜け出ようとした人間を徹底的に痛めつける(本当にやるようです)というのを聞いて、恐怖による支配は人を間違わせるものだと、つくづく思いました。一読をおすすめします。
(2022年10月刊。1800円+税)

2023年3月26日

テキヤの掟


(霧山昴)
著者 廣木 登 、 出版 角川新書

 先日、私の住む街で、江戸時代から続いているという「初市」がありました。植木市とあわせて、たくさんの屋台が並びます。歩行者天国になりますので、子どもたちが梅ヶ枝餅やらリンゴアメなどを食べたり、なめたりしながらぶらついて楽しみます。
 この屋台を出しているのがテキヤと呼ばれる人たち。
 サンズン(三寸)は、組み立てた屋台、三尺三寸のサイズ、また「軒先三寸を借り受けて...」から来たもの。タコ焼きや焼き鳥屋台など。
 ゴランバイは、子ども向けのバイ(売)。ソースせんべい、あんずアメなど。親から子どもに「見てゴラン」ということから。
 コロビは、ゴザの上に商品をコロがし、タンカにメリハリをつけて商売する。映画「男はつらいよ」で、寅さんが神社の境内などで客を呼び込んで何かを売っていましたね。昔々は、私も実物を見た気がします...。
 テキヤの圧倒的多数は暴力団ではない。ただし、テキヤ系暴力団も存在する。たとえば、極東会。極東桜井一家関口一門を中核とする。
 暴力団とテキヤを同一視するのは誤り。ヤクザは人気商売であり、「裏のサービス業」でテキヤは売る商品をもっている。
 テキヤが自衛のために団結して組織したのが「神農会」。テキヤは自らを神農と名乗る。そして神農を崇(あが)める。テキヤの業界を神農会という。
 テキヤは個人事業主なので、労災や保険という問題がある。なので、まともに日本に来ている外国人は難しい。
 日本人の若者がテキヤに入門することはない。テキヤは若い人たちの憧(あこが)れの職業ではない。拘束されるのを嫌がる。
 テキヤの商売ができる場所が少なくなっている。
 テキヤは前科があって生き辛い人たちにとってのセーフティネットになりうる。そして、「この商売、いつまでもやってんじゃねえぞ。どんどん辞めてけ。カネ貯めたら、すぐに辞めろ」でいい。著者は、このように提言しています。同感です。
 昔、私の子どものころ、筑後平野の夏の夜の風物詩として「よど」があっていました。お寺や神社の境内に何日間か夜の露店が立ち並ぶのです。よくヒヨコが売られていました。カラーヒヨコで、大きくなっても卵を産まないオンドリになるだけ...。そんな夜の世界があって、子どもに夢を与えてくれるものがあったらいいですよね。
(2023年2月刊。税込1034円)

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