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成長を叶える組織内弁護士の教科書

カテゴリー:司法

(霧山昴)

著書 渡部 友一郎 、 出版 日本加除出版株式会社

今や組織内弁護士は3000人。10年前の2.5倍になった。

東京の五大事務所に入った新人弁護士は修習終了者の2割を占める。「日々業務量が増え、いくら人がいても足りない」という。

地方に就職する弁護士は弁護士会単位でゼロのこともある。いずれ、弁護士不足が心配される。ところが、仙台弁護士会はこの3月、司法試験の合格者を減らせという声明を出した。信じられません。それは大都市集中の傾向を促進するだけで、地方の弁護士を切り捨てるだけのことだと思います。

法学部生も減少している。2002年度に19万2千人だったのが、2024年度は14万4千人。法科大学院(ロースクール)も、2004年に7万2千人超いたのが、2023年には1万3千人へ大幅に減少した。

大企業の法務部は人手不足で、求人を急いでいる。

この本は、折々にマンガで状況が描かれているので、とても分かりやすいです。

「五大」事務所や「外資」事務所では、初任給が1000万円から1500万円。それを一気に40人から60人と採用するのですから、想像を絶します。それほど弁護士に対するニーズは大きいというわけです。合格者を減らせという人たちは、この現実を無視しています。

ところが、入ったら大変です。とんでもないハードワークが待ち構えています。年収1000万円以上に見合う売上げを初年度から新人弁護士が稼げるわけがありませんから、それこそ徹夜も当然というハードスケジュールに追い回されます。

「三感王」を信条とする松井秀樹弁護士が紹介されています。クライアントの感謝に満足せず、その先の感動と感激まで射程に入れて働くということです。依頼者が求めるものを把握すれば仕事の8割は終わったも同然。相手が欲しがっている合図を見逃さない人がプロ。じっと傾聴しているとクライクライアントが最後の一滴まで情熱を注いでくれる。会話は、あたりさわりのない話題から少しずつ深めていく。

転職すると、エージェントに年俸の20〜30%が紹介料として支払われる。

中堅の組織内弁護士は周囲との摩擦を生みやすい。企業の現場では、論理の正しさだけでは合意形成に至らない。

契約書の細部の文言調整に時間をかけすぎ、ビジネスのスピードを阻害している。このように言われないよう努めるべき。

会社の相性とは、社風に馴染めるか。経営陣の掲げるビジョンに納得できるか、直属の上司を尊敬できるか、ということにある。

初心者に対して大変有益なアドバイスが満載の本です。

(2025年10月刊。3960円)

歴史学者、ガザに潜入する

カテゴリー:中東

(霧山昴)

著者 ジャン・ピエール・フィリュ 、 出版 河出書房新社

イスラエルのガザ侵攻が止まりません。イスラエルのネタニヤフ首相はトランプ大統領から「おまえは狂っている」と面罵されたそうですが、まさに戦争狂 というほかありません。

ところがイスラエル国民の8割がガザ侵攻を支持しているといいます。ハマスの攻撃を恐れて、根絶してほしいと願うからのようです。そこには暴力の応酬、連鎖しかありません。

イスラエル軍を現地で指揮する将官は、「人間の顔をした動物どもを、それにふさわしく処遇しなければならない。おまえらが地獄を望んだのだ。地獄を見せてやろう」 と高言します。ハマスと関係しているかどうかに関係なく、ガザの住民全員に「地獄」を味わせようというのです。これは(本当に)ユダヤ教徒なのでしょうか。宗教を信じながら、こんなことを言うなんて、そんな宗教を私は信じる気になりません。

ガザ地区に安全な場所は一つも存在しない。ガザ地区は、「天井のない世界最大の監獄」。

ガザ人口の85%がガザ内部で強制退去させられた。ガザ住民210万人が罠の中に囲い込まれた。

イスラエルによるガザ戦争を、アメリカは実質的に無条件で支援している。

ガザの地は、実は、何千年にわたって豊かな樹木と穏やかな気候で評判のオアシスだった。

ガザ地区の地下水は地中海に廃棄される汚水によって汚染されている。ただでさえ稀少な水の水質汚染と、イスラエルによる水処理の妨害が、あわさって、感染症が災害級の広がりをみせている。

イスラエル政府は、ジャーナリストを含めイスラエル人らに対して「敵地」であるガザへの立ち入りを禁止した。そのため、イスラエルの国民はガザの悲惨な状況をまったく知ることがない。

ガザの犠牲者は二度殺されている。一度目はイスラエルの戦争機械によって、 二度目は、犠牲者の激しい苦しみと甚大な喪失がイスラエルのプロパガンダによって否定されることによって…。

ガザでは、死はいつ訪れるか分からない。死は家族のなかに好き勝手に飛び込み、 年長の者より先に一番若い者を連れ去っていく。死は怪病のような化け物へと姿を変えた。

死者の肖像画は姿を消した。瓦礫の下に埋もれたままの人は何千名にものぼり、あらゆる年齢層の行方不明者となっている。かつて死には、然るべき時と場所が割りあてられていた。

平均して1日あたり100人が殺害されているガザ地区では、サバイバー症候群が 深刻な後遺症となっている。

ガザでは、子どもと女性の死者が恐ろしく多い。1つのクラスの子ども全員が、2年間にわたり毎日殺害され続けているのに等しい。

ガザには1万9千人の孤児がいると国連は推計している。なんとおそろしい数字でしょうか…。身体の震えが止まりません。

イスラエル軍の投下した爆弾の10%~15%が まだ爆発していない。回収されていない不発弾は、大量の時限爆弾となっている。

ガザの人々は、自分たちが世界から見捨てられているのを知っている。ヨーロッパ諸国に対しても期待していない。しかし、国連の支援と存在に人々は感謝している。

著者はフランス人の学者です。人道支援目的で、ガザの一部に立ち入った(当時の)レポートでもあります。ガザの実情は日本にもほとんど知らされていません。イスラエルの国民に対しても、ハマスの繰り返しの残虐さが強調されるだけで、いかに悲惨な状況にあるのか、まったく報道されていないのです。

暴力には暴力を、という暴力の連鎖を直ちに断ち切る必要がある。この本を読んで、強く確信しました。

(2026年4月刊。2860円)

平和を求める自由

カテゴリー:司法

(霧山昴)

著者 ローレンス・レペタ 、 出版 時事通信社

著者の名前は、法廷でのメモをとるのは自由だと裁判所に認めさせた裁判の原告として有名です。

日本法を研究するアメリカ人 弁護士として、2004年2月に起きた「立川自衛隊監視テント村」のメンバーが自衛隊の官舎内でビラをポスティングしたのが住居不法侵入罪で逮捕・起訴された事件について、無罪判決が出た経緯をたどっています。

逮捕された3人は、釈放されるまで、2ヶ月余り、75日間も身体拘束されました。ときは2003年春からのアメリカによるイラク攻撃があっているころで自衛隊のイラク派遣に反対するというのがビラの内容です。

日本の自衛隊員は平和憲法9条のおかげで、今まで一人として戦場で殺し、殺されていません。そこが、隣の韓国とは決定的に違います。もちろん、自衛隊の不慮の事故は多数発生していて殉職者も毎年出ています。しかし、戦場での殺し、殺されとは全然レベルが違います。

ビラは自衛隊員がイラクの地で、殺し、殺されることのないように呼びかけていました。

アムネスティはこの3人について日本で初めて「良心の囚人」と認定しました。

3人は、2人の男性と1人の女性。2月27日午前6時半に3人が逮捕されたとき、早朝にもかかわらずフジテレビとTBSは警察から事前に通報を受けて、現地で待ち構えていました。そのうえ3人の顔をアップにし、スローモーションで放映したのです。3人は、46歳の人と30歳が2人。女性は、ロックバンドの歌手というミュージシャン。6つの公安警察チームと60〜80人もの警察官によるという、大げさな逮捕劇でした。

テント村弁護団の一人に、私もよく知る内田雅敏弁護士がいます。

3人は起訴され、八王子支部で裁判が始まった。長谷川憲一裁判長は、「被告人がいかなる信条を抱いていようと、この裁判とは無関係。当法廷は行為を裁いているのであって、思想を裁くものではない」ときっぱり宣言した。これは、検察官が「天皇制に反対するのか」と質問したときのことで、そんな質問はさせなかったのです。

5月7日に保釈が許された。1人150万円。

憲法学者の奥平康弘教授のほか、元自民党の箕輪(みのわ)登元代議士も証人として登場した。

検察官の求刑は懲役6月。判決言い渡しのとき、長谷川裁判長は、主文の言い渡しは最後になるといって、理由を読みはじめた。

行為態様として、誰とも話さず、チャイムを鳴らすこともせず、ただ一枚のビラを玄関ドアの郵便受けに差し込んだだけと認定した。その動機は正当であり、その目的性を逸脱しておらず、居住者・管理者の法益侵害も軽微だ。ゆえに、法秩序全体の立場からして、刑事罰に処するに値するほどの違法性があるものとは認められない。したがって、犯罪の証明がないことになるから、被告人らは無罪。まことに明快な論理です。2004年12月16日です。残念なことに、東京高裁(中川武隆裁判長)は逆転有罪としましたが、それでも、2回ビラまきをした2人に各20万円、10万円の1人には10万円の罰金を科した。最高裁も、これを追認した。単なるビラ配りを有罪とする裁判官の気持ちが理解できません。ピザ屋のチラシでも、政治的なビラでも、自由に郵便受けに入れるのが犯罪になるなんて、おかしいと思います。ただ、最近のマンションはビラ入れ自体が難しくなっていますよね。もっと、オープンにしていいんじゃないかと、私は思うのですが…。

堀越事件で、東京高裁の中山隆夫裁判長が無罪としたこと、荒川事件で東京地裁(大島隆明裁判長)も無罪判決を出したことも紹介されています。これらの事件に対する判決は日本の裁判所のレベルが低いことを明らかにする本でもあります。

(2026年3月刊。1980円)

法律実務家のためのインプット・アウトプット術

カテゴリー:司法

(霧山昴)

著者 松尾剛行 、 出版 弘文堂

生成AIを使ったら、簡単にか書けるか・・・。

実際には、一部にAIの作成した原文が残るものの、大部分は大幅修正し、結局、自分が初めから書くよりも多くの時間と労力がかかってしまう。

分からないときには、上司や先輩に尋ねるより、先に検索したほうがよい。私の場合、すぐそばにいる弁護士7年目の杉垣弁護士に初歩的なことをふくめて、恥ずかし気もなく聞いて、教えてもらいます。すると、素早く、かつ的確なレスポンスがあります。助かります。

鳥瞰(ちょうかん)と深掘りは相互作用させる。最初に鳥瞰したうえで、深掘りする。そして、そのあと再度鳥瞰する。

弁護士の仕事には「正解のある」ものと「正解のない」ものの2種類があり、「正解のある」仕事はAIにまかせる局面があってもいいが、「正解のない」仕事は人間がAIの支援を受けながら遂行していく。

誰もAIが弁護士にとって代わることはないと考えています。目のまえにいる人の態度、表情をうかがいながら、共感しつつ次善の策をともに考え、妙策をひねり出していくのです。

AIが人間の仕事を奪うことはない。「AI利用のスキルを持つ人間」が「AI利用のスキルを持たない人間」の仕事を奪うだけのこと。

AIは必ず間違える。なので、AIの作成した成果物を確認・検証する能力が必要となる。

AIには「弱点」がある。AIに依存し、考えることをやめてしまうという状況はきわめて憂慮すべき。

講話をするときは、一番調子の平板なものにならないように心がける。途中で自分の失敗事例を話すなどの起伏をつける。最初の数分で、引き続き集中して聞いてもらえるかどうかが決まる。

AI利用が当然になった状況ですが、AIそののみに頼ることなく、自分の個性を押し出しながら、平板ではない話しで聴衆の心をつかむ必要があるということです。言うは易く、行うは難しというところですね・・・。

(2026年2月刊。2420円)

キッチンとマルシェのあいだ

カテゴリー:フランス

(霧山昴)

著者 辻 仁成 、 出版 光文社

シングルファザーになって、一人息子を育てあげた著者の食育日記みたいな本です。

著者が作家なことは知っていましたが、コンサートをやる歌手でもあるようです。でも、この本では、なんといっても料理人です。レストランのシェフではありませんが、あまたのシェフとの交流があり、自らマルシェに食材を買い出しに出かけ、それをもとに自ら料理に精を出すのです。ええっ、そんな生活で暮らしていけるの…、と不思議に思いました。きっと莫大な印税収入が入ったのでしょうね。そして、SNSで自分のフランス滞在記と料理を発信していますが、これも収入の足しになっているのでしょうか…。

料理が出来ず、また、手を出したいとも思わない私にとっては、半ばはうらやましくもありますが、その反面、ひとりで本を読みふけるほうが自分の性(しょう)にあっていると、やっかみ半分に思い、自分を納得させています。

フランスでは、どこの家にも必ずオーブンがある。オーブンのない家庭はないと断言してよい。フランス人はオーブン料理を好む。

家庭料理にはシンプルなものが多い。フレンチのフルコース料理を家庭で食べるフランス人なんて、いない。

ポルトガル料理に欠かせないのが塩ダラ(バカリャウ)。それ自体がすでにうまいわけではない。でも、ゲルマン人のジャガイモ、日本人の米に匹敵する。

パリの冬の食卓の主役はモンドール。私はモンドールなるものを食べたことがありません。残念です。オーブンで焼いてトロトロにしたモンドールを、ゆでたジャガイモやシャルキュトリー(豚肉?)、バゲットに合わせて食べる。チーズの女王。

美味しくするためには、時間が働いてくれる。スパイスや、火力よりも、時間が一番大事なんだ…。

日本で売っているバゲットとフランスのバゲットは、まったく別のもの。

もうウン十年も前のことです。パリのカルチェラタンのプチホテルに家族で泊まりました。そこの朝食に出たバゲットの美味しいこと。今でも我が家の語り草です。絶妙な塩味なのです。プチホテルの近くのパン屋で買ってきたものがぽんと出されます。サラダも何もなく、カフェオーレとバゲットのみの朝食でしたが、家族そろって毎朝、大満足でした。

ヨーロッパ人の食生活に欠かせない食材の一つにオリーブオイルがある。絹のような口当たり。ぬめりやとろみが少なく、また全体にすーっと行きわたるような、透明感あふれるばかり、ものすごい新鮮さがある。それがO.2。

料理とは、発想と失敗と食い意地で上達するもの。

フランスには全土で1万以上ものマルシェがある。著者はそのマルシェをめぐって、店主と食材を会話しながら仕入れていくのです。

フランスでは、老後、子どもたちと暮らす人は少ない。さすが、個人主義を愛してやまないフランスです。

著者の出身は福岡とのこと。弟と母親が福岡に暮らしていて、ネットでレシピを伝え、弟が料理して、母親に食べさせるという話も出てきます。さぞかし美味しかったことでしょうね。

著者が離婚したとき少年だった息子も、無事に大学を卒業して独り立ち。65歳になった著者は、犬と一人生活。そして自分のための料理に精を出すのです。新しいパートナーは必要ないのでしょうか…。そんな話が全然出てこないのが不思議でした。

最後に、著者のつくった(と思われる)料理がカラーで紹介されています。目で眺めるだけなのが残念でなりません。お相伴させてほしいのですが…。

(2026年3月刊。1980円)

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