法律相談センター検索 弁護士検索

花咲けじいさん

カテゴリー:人間

(霧山昴) 

著者 武田鉄矢 、 出版 双葉社

武田鉄矢は私と同じ団塊世代です。そうなんです。私たちはいつのまにか喜寿になりました。でも、まだまだ現役です。

私にとって武田鉄矢は 映画「幸せの黄色いハンカチ」です。桃井かおりとのドン臭い「みっともない」かけあいなんて、笑ってしまいました。

1977年の大晦日、「紅白歌合戦」で「母に捧げるバラード」を歌っています。 九州・福岡からぽっと出の学生グループがたったの4年で天下の紅白に出たのでした。

ちなみに、私は高校3年のとき、「紅白歌合戦」なんてものは日本人を「一億総白痴化」する典型的な低俗番組でしかないという新聞のコメントを読み、そうか、そうなのか、それなら「白痴」になりたくないから観るのをやめようと思い、以後、今日に至るまでまったく観ていません。3人の子どもたちにも、私と同居しているときは見せませんでした(というか、テレビ自体がなかったように思います)。

武田鉄矢の本によると、1998年の紅白歌合戦でも24年ぶりに2回目の「母に捧げるバラード」を歌ったとのこと。この年に、母親を亡くし、葬儀の会などで歌ったのをNHKのプロデューサーが聞いていた。そして、彼が「紅白で歌え」と言って実現したのでした。1回目の紅白の「母に捧げるバラード」を聴いた山田洋次監督が、「映画のためのあらすじを説明するような 歌がつくれるんだったら、映画に出てもらえば、彼のセンスで思いもつかないセリフをつくってくれるんじゃないか」と声をかけたのです。いやあ、これははまり役でしたね。私は、この映画の舞台になった夕張の炭鉱 社宅跡をレンタカーで見学に行きました。

その後は、テレビの「金八先生」もすごかったようです(私は、もちろん観ていません)。教員をしている私の親しい知人が、脚本家に元ネタを提供して、クレジットに名前が出たと聞きました。

武田鉄矢はラジオで自分の読んだ本をテーマ曲として30年も語っているそうです(私はラジオも聴きません)。

本に書かれている文章の意味をつくり出すのは、著者ではなく、読者自身だ。つまり、読む人が本の意味をつくって、著者と読者とで読みこたえをつくるのが読書。うむうむ、これはなかなか言い得て妙なるものです。感嘆しました。さすが役者です。

強さを求めると人間はもろくなる。弱さを認めたところから、人間は粘り強くなる。

この本には、人間には常に3つの場所が必要だという指摘があります。生活拠点の自宅、仕事や学業の拠点、 そして一人になれる落ち着く場所。私も、この3番目は、まさしくそのとおりだと実感します。「一人になる」といっても、喫茶店でもいいのです。周囲に人がいても見知らぬ人であれば、一人静かに本が読め、モノが書けます。

武田鉄矢の写真が表紙にありますが、元気一杯。とても喜寿の人とは思えません。私にも鏡で自分を見て、そう思っています。お互い、もう少し元気でがんばりましょうと言いたいです。

(2026年5月刊。1760円)

「ルポ、難民迫害」

カテゴリー:社会

(霧山昴)

著者 神田和則 、 出版 地平社

 高市政権の外国人敵視政策はひどいと思います。ヘイトスピーチを政府みずからあおっているとしか言いようがありません。

 今の日本社会は外国人労働者がいなければ基本的なところでまわりません。すでにコンビニでは外国人店員がフツーです。そして、病院や介護施設です。インドネシア、フィリピン、ネパールなど、いろんな国から人が来ていて日本の医療体制を守っています。

 この本は難民に対する日本政府の冷酷無比な対応を明らかにし、厳しく告発しています。

9月27日の毎日新聞の社説が手元にあるので紹介します。タイトルには、「難民申請者に厳格対応。保護すべき人が 守られぬ」です。難民認定申請をすると、書面だけから「迫害なし」と判断して面接しない割合が14%(その前年は0.6%)もあるそうです。書面だけでそう簡単に分かるはずはありません。ちゃんと会って話を聞くべきです。 そして、難民認定申請は2回までという制限があるそうです。信じられない制限です。

高市政権は「不法滞在者ゼロ」をめざして対策を強化しています。ところが、ミャンマーから逃げてきて申請した人は1万人以上もいるのに、難民と認定されたのはわずか200人にも満たないのです。少なすぎます。国連は「疑わしきは申請者の利益に」という原則を示しているのに、日本政府は難民認定体制を強化することもありません。排外的な風潮に乗っかかって良しとしています。まさに高市首相の排外思想を体現しています。

カナダの難民認定機関は難民を保護する姿勢で審査するのに対し、日本は難民排除を優先している。

 難民審査にあたっては参与員が活用されているようですが、その参与員に難民排除を使命とするかのような人がいるようです。許せません。

入管収容施設での死亡などあってはならないことが何件も起きています。入管職員が 仮病だと疑って、適切な医療をしなかったのです。何でも疑ってかかる体質がそこにあります。

「人道的な観点からの仮放免」が減ったことから、長期収容者が増えています。

アフガニスタンから日本の大使館と一緒に来た人に対して、日本人職員がこう言ったそうです。「日本はあなたの居場所ではない。日本の国民は外国人が嫌いだ。もし日本にとどまるなら、あなたにとって、日本は地獄のようになる」。この日本人職員は正気でこんなことを言ったのでしょうか。とても信じられません。まさしく狂っています。

外国人に優しくない国は、弱者に優しくない国です。タワーマンションなどで優雅に過ごしている人だけで日本の社会が成り立っているわけではありません。深く考えさせられる本でした。

(2026年6月刊。2200円)

ヒトラー、権力までの180日

カテゴリー:ドイツ

(霧山昴) 

著者 ティモシー・W・ライバック 、 出版 草思社

ヒトラーがヒンデンブルク大統領によって首相に任命されるまでの危っかしい状況を刻明に明らかにした本です。

そのころ、ヒトラーは決して順風満帆とは言えない状況にありました。むしろ、危機的状況というべきでしたが、ヒトラー自身は内心の動揺を隠して、大衆の前では相変わらず大言壮語、自信に満ちた様子で演説をぶっていました。

何が危機的だったのか…。まずは仲間割れです。ヒトラーに次ぐナチス党の大物シュトラッサーが離党しました。また財政的にも危機に陥っていました。お金がナチス党になかったのです。そして、選挙でナチス党の得票は減っていました。これは、どうみたってピンチです。

そこで、ヒトラーは起死回生の秘策に出ます。「天敵」のようなパーペンと秘密裏に会談します。ところが、情報が漏れていて、写真を撮られ、マスコミに報道されます。ヒトラーがパーペンにこっそり面会するなんて、ナチス党支持者からするとありえないことです。報道されてヒトラーがどうしたかというと…。「事実無根」だとうそをつくのです。嘘も百遍言えば真実になるというやり方です。

お金はどうしたか…・ドイツの財閥たちに無心したのです。すると、ドイツの財閥はヒトラーに気前よく大金を投資したのでした。社会党や共産党が議席・得票は伸ばしていることについての危機感からです。

そのとき左翼はどうしていたのか…。武力蜂起を画策していたようです。各地で、街頭で、ナチス党員と共産党員との暴力的な衝突が頻発しました。でも、やはり、軍隊には勝てません。国防軍のほか、ナチスは親衛隊も擁していました。

ヒトラーが首相になると、ヒトラーは国会を有名無実の存在とします。全権委任法です。国会を開かなくても決められるようにしたのです。国会議事堂放火事件がきっかけとされていますが、それこそヒトラーの自作自演です。

いま、自民党の高市政権が緊急事態条項なるものを設けて、同じことをやろうとしています。それこそ麻生副総裁の「ナチスの手口に学ぶ」を地で行っているのです。怖い話です。

当初、ナチ党員だというと、「嘲笑され、馬鹿にされた」ものの、今や笑う者は一人もいない。同じことがヒトラーについても言えます。当初は、それこそ馬鹿にされる存在でしかなかったのです。

ヒトラーの演説は、一般的な人々が理解し記憶できるように、重要な論点をしつこく繰り返す。この点、ヒトラーは演説についてプロからしっかり叩き込まれています。

ナチ党員は1925年に2万7千人だったのが、1931年には80万人となっていた。

シュトラッサーに勧誘されてナチ党に加入したのは、ヒムラー、レーム、ゲッベルスがいる。

ヒンデンブルク大統領は84歳だった。

ヒトラーの父は、未婚女性の私生児として生まれ、シックルグルーバー姓を名乗っていた。ハンブルグに暮らすヒトラーの兄は重婚や窃盗で有罪判決を受けている。ヒトラーの家系にはユダヤ人の血が混じっているという噂もあった。ヒトラーは純粋なアーリア人の家系であるという証拠を自らは提示できなかった。

ヒトラーは選挙に立候補したことがない。自身が市民権のない移民だったから。ヒトラーは、ドイツの市民権を獲得するのにひまがかかったのです。

ヒトラーが首相になるまでの過程については、今日の私たちも学ぶべき教訓が多々あると改めて

実感しました。

(2026年2月刊。3850円)

ながい 窖(あな)

カテゴリー:社会

(霧山昴) 

著者 手塚 治虫 、 出版 法政大学出版局

手塚治虫のマンガはかなり読みました。この作品は全集にもれているものです。1970年初出といいますから、まだ私は大学生のころです。司法試験の受験 勉強をしているところでしょう。マンガなんか読むヒマもゆとりもなく、精根つめて法律書と取っ組みあいをしていました。

このマンガの主人公は戦中、鉱山で働かされていた朝鮮人です。 「チョーセン、帰れ」と叫ぶ日本人がいます。本当に残念です。私の父も「三井」の労務係として朝鮮へ「人狩り」に行っていました。戦時中、多くの 朝鮮人は日本に来たくて来たのではありません。甘言につられ、 欺され、そして強制的に連れてこられたのです。そんな事情も知らずに「帰れ」だなんて、無神経すぎます。

ヘイトスピーチをしている人の大半は、自らが差別されているという不満を心のうちにかかえ、 そのうっぷん晴らしで、差別的な言動によって、一時的な優越感に浸って、心の安らぎを保とうとしているのだと思います。可哀想ではありますが、許されないことです。

考えてみれば、差別用語は私たちの身の回りにはごろごろころがっています。アカ、オカマ、あいのこ…、いろいろあります。そして、戦時、日本人はアメリカ人から ジャップ とか イエローモンキーと呼ばれていました。映画「猿の惑星」に出てくる「猿」は日本人をイメージしたものだと知ったとき、私は少なからずショックを受けました。

なお、私の父が連れてきた朝鮮人は化学工場では使えなかったと言っていました。それはそうですよね。化学工場では化学反応を基本としますので、相応の知識が必要になります。そこで 炭鉱や鉱山で働かされました。それは、連合軍俘虜房も同じです。危険な仕事内容で、させられるので 重労働ですから、病死や死亡者が続出するのも当然です。

大牟田の捕虜収容所では連合軍の捕虜の死亡者が続出したことから、所長2人が戦後 、死刑宣告され、実際に処刑されました。ところが、朝鮮人労働者の虐待は裁判にかけられることもありませんでした。

この本の主人公は厳しい鉱山での労働を生きのび、戦中は土地投資がうまくいって大会社の専務にのしあがります。しかし、息子や娘とは、関係がうまくありません。

手塚治虫の「失敗作」だと評されているようですが、 いつものさすがの絵とストーリー展開で、ぐいぐい引っ張られていきました。考えさせられるマンガです。発売2ヶ月で6刷ですから、やはりたいしたものです。

(2026年8月刊。2200円)

なぜ米国はイランに負けたのか

カテゴリー:アメリカ

(霧山昴) 

著者 斉藤貢 、 出版 文春新書

トランプはネタニヤフにそそのかされて、イラン戦争を始めました。イスラエルの諜報機関モサドの情報によって、イランの 最高指導者と軍トップが会合している建物にミサイルを撃ち込んで全員爆殺に成功。あとはイラン民衆が反政府行動に決起してイラン政府を転覆させるという筋書きでした。 でも、ベネズエラとは違って、そういう展開にはなりませんでした。なぜなのか…。

イランとイスラエルの大使館の双方に勤めた元イラン大使だった著者の解説は明快です。

イランは、「最高指導者一人が実権を握る独裁体制」の国ではない。なので、最高指導者を暗殺しても体制崩壊にはつながらない。

イランは、分権的で多元的な集団指導体制の国。複数の権力主体が相互に牽制しつつ体制全体を支えている。イランには、堅固な官僚制が整っている。

戦術的には「見事」だった斬首作戦は、戦略的には無意味だった。

イランはドローン戦のパイオニア的な存在で、長年にわたって ドローンの大量生産体制を築き上げてきた。イラン製のドローン「シャヘド」は1機が数百万円しかしない。町工場でもつくれて、1万機のストックがある。

アメリカのミサイルSM6は1発4.5億円、パトリオットは1発6億円。パトリオットの製造能力は月に50発でしかない。

イランは、現実的で、冷静で、打算的。戦略的思考に長(た)けている。イランの人々は非常に頭が良く、物事を理性的に判断する。イラン人の指導者の6割は理系大学を卒業している。

イランの支配体制は「羊の皮をかぶった狼」。「羊の皮」とは、最高指導の率いるイスラム革命体制で、「狼」とは、革命防衛隊による軍事独裁体制。イランの実質的な最高権力は、軍事、治安、 政治、経済を掌握している革命防衛隊にある。革命防衛隊は、単なる軍事組織ではなく、営利を優先する近代的な財閥であり、その経済規模はイランのGDPの3分の1を占める。

イランの権力構造は多元的で健全。イラン人は、2500年の歴史のなか、何度も異民族に征服されたにもかかわらず、民族的アイデンティティをほぼ失うことなく保持した世界的にも稀有な民族。

イラン国内には有力な反政府組織は存在しない。

イランの国境地帯は、険しい山脈が連なり、首都テヘランのある中央部は「天然の要塞」となっている。したがって、地上侵攻は不可能。

トランプ大統領の不人気の原因の一つが「ガソリン価格の高騰」にある。日本の高市政権は、これまで6千億円もの税金を投入して、ガソリン価格の上昇を抑えていますが、アメリカでトランプはそれが出来ていません。 ちなみに、日本の司法予算は3200億円です。その2倍近くを高市政権はガソリン価格の上昇をくい止めるために使っているのです。目先の支持率の下落を食い止めるだけに税金を使うなんて、間違いではないでしょうか…。

イランは周囲の国と陸続きですので、アメリカによる経済制裁はそれほどの打撃は受けません。イラン産原油をもっとも多く輸入しているのは中国。

イランと日本とのあいだには、1953年の日章丸事件 以来、強い結びつきがありました。1970年代は、イランからの原油輸入が日本の輸入の4割を占めるほどです。

イランは「親日国」として有名です。現在のイラン外相のアラグチは駐日大使だったこともあります。「新久地(アラグチ)」 という名刺をつくっていました。

日本が果たすべき役割は大きいです。といっても、トランプへつらうばかりの高市首相には残念ながら期待できませんね。本当に残念です。

とても分かりやすい本です。ご一読をおすすめします。

(2026年7月刊。1100円)

福岡県弁護士会 〒810-0044 福岡市中央区六本松4丁目2番5号 TEL:092-741-6416

Copyright©2011-2025 FukuokakenBengoshikai. All rights reserved.