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会話する細胞

カテゴリー:人間

(霧山昴) 

著者 石川 香 、 出版 講談社ブルーバックス

1つの神経細胞に対して、数千個のシナプスが接続している。 電気シナプスでは、細胞質が連結している状態なので、電気信号は双方向に伝わりうる。 化学シナプスは、神経伝達物質の放出側と受け手側を明確に分担することで、信号の方向を一方向に定まる。 

電気シナプスは片方の興奮がそのまま隣に伝わるので、複雑な情報処理ができない。 化学シナプスでは複数のシナプスからの正や負の電位変化を合算することで、情報処理が可能になる。 

出産した直後、胎盤が脱落すると、母体ではホルモンバランスが劇的に変化する。 母乳の分泌を抑制していたプロゲステロンやエストロゲンが激減するのをきっかけとして、乳腺が母乳のスタンバイモードになる。 ここで赤ちゃんが乳頭に吸い付くと、プロラクチンやオキシトシンといったホルモンが産生されて乳腺細胞に作用して母乳が分泌されるようになる。 

前の食事から時間がたつと、血中の糖が少なくなる。 この糖はグルコースのこと。 血糖の量は、常に脳の視床下部でモニターされている。 「血糖値が低下してきた」と視床下部が判定すると、摂取行動を促進するための応答が引き起こされる。 食事すると、血糖値が上昇する。 脳の視床下部は血糖値をモニターしているので、血糖値の上昇はダイレクトに「十分な食べ物をとりましたよ」というメッセージとして視床下部に伝えられる。 すい臓でも感知され、インスリンというホルモンが分泌される。 これが「お腹いっぱい」のシグナルとして脳に作用する。 

肥満の人は通常より多くの脂肪細胞を体内に抱えているので、恒常的に食欲を抑制する働きのあるレプチンが増産されている。 ところが、あまりにレプチンが常に血液中にあるので、それを受容する側にある種の「慣れ」が生じ、ちょっと増えたくらいではもう反応しなくなる。 それで、肥満の人の食欲は抑えられない。 

カフェインは、アデノシン受容体の拮抗薬として作用し、眠気を抑制する。 

メラトニンは脳の松果体でつくられ、血中に放出される。 視交叉上核が朝を認識するとメラトニンの合成は抑制され、朝から14〜16時間ほどたって夜になると、急速にメラトニンが合成されて昼間の100倍以上の量になる。 こうして松果体から分泌されたメラトニンが血流に乗って全身に「夜だよ、眠って」とアナウンスする。 

脳をもつ生物は、ほぼ例外なく睡眠をとる。 

衛生環境が改善し、清潔になりすぎたことがアレルギーの発症リスクを高めている。 

腸管には人体全体の免疫細胞の60〜70%が集まっていて、最大の免疫組織である。 免疫系は、腸内細菌を「無視」しているのではなく、体内への侵入を阻むために常にせめぎあいをしていて、結果として一見平和的な共生状態が保たれている。 

体内に存在するセロトニンの90%は脳ではなく、腸に存在する。 脳内に存在するセロトニンは体内のセロトニン全体の2%ほどでしかない。 

このセロトニンは喜びや意欲という感情に関与していて、量が少ないと抑うつ状態に陥りやすく、また、アルコールやギャンブル依存症リスクが高まる。 

がん細胞は、分裂をひたすら繰り返すことに執着しているので、大量のエネルギーを欲している。 がん細胞は、エネルギー収支の効率がとても悪い浪費家。 その浪費家がどんどん増えるから、栄養素があっても足りないという事態になる。 がん細胞は、自分のところに血管を引き込むだけでなく、離れた場所にある筋肉や脂肪などの組織を分解してまで、自分の増殖のための栄養を確保しようとする。 この状態が続くと、筋肉は萎縮し、体脂肪は激減する。 がん患者がやせていくのは、このため。 

哺乳類の中でも、月経(生理)があるのは、霊長類と限られたコウモリの仲間くらいで、超少数派だ。 

知らないことがたくさんありました。 人体のなかの細胞同士のつながりの深さを知ることができました。

(2026年9月刊。1430円)

犬の性格を科学する

カテゴリー:生物

(霧山昴) 

著者 今野晃嗣・村山美穂 、 出版 集英社新書

私は犬派です。猫には、なんとなくなじめません。

小学生のころから、犬はずっと友達でした。高校3年の夏まで自宅に犬がいました。結婚して、子どもが小さいときは芝犬を飼っていました。

犬は、人類の「最良の友」です。犬の特徴の一つは、同じ種とは思えないほど、見た目が多様なこと。まさに、十人十色。

そして、見た目以上に個性的なのが、その「性格」。社交的な犬もいれば、シャイな犬もいる。今では犬の性格評価ツールが開発されていて心理測定学的な手法が確立している。

犬とオオカミの塩基配列は99.8%も共通している。犬にもっとも近いのは、ユーラシア大陸に暮らすオオカミの亜種、タイリクオオカミ。犬がオオカミから脱したのは数万年前の旧石器時代。古代オオカミから犬の祖先が分岐したのは、1万5000年前から4万年前の間のこと。

遅くとも、人類と犬は何千年も前に愛着関係をもつようになった。つまり、人類が農耕文化を始めるから前から犬は家畜だった。

オオカミの子は成長するにつれて人間を警戒する。犬の子は成長してからも人間とよく遊ぶ。

犬と人間との愛着関係には、互いの体に触れるという身体接触が欠かせない。犬と人は互いに見つめあうこと、それがオキシトシン神経系を介して、より強固になる。

世界の犬の70〜80%を野良犬が占める。

犬の繁殖は自由に行われる「乱婚制」で、オスとメスの夫婦と呼べる長期的な繁殖関係をもたない。これはオオカミとは、まったく異なる。犬の子育ては、母親のみによる「ワンオペ」育児。離乳期の子に母親が食事を分け与えることはない。

社交的で、遊び好きな犬種としては、ラブラドール・レトリバーが一番。

分離不安傾向が高い犬は、物事のとらえ方も「悲観的」。

ボーダー・コリーは、200をこえるおもちゃの名前を覚えた。300以上の単語を覚えた犬もいる。最高は1022の単語を覚えた。

今でも犬を飼いたい気持ちはありますが、年齢的に無理です。子どもたちが独立したあとは、旅行を優先させましたので、あきらめました。なので、今は、散歩中の犬を眺めるだけにしています。

(2026年8月刊。1375円)

親指はなぜ太いのか

カテゴリー:人間

(霧山昴) 

著者 島 泰三 、 出版 講談社学術文庫

2003年の単行本が文庫本となっています。著者はマダガスカルのアイアイ研究で有名な学者です。今年80歳になりました。 

ヒトの口と手の形は骨食と直立二足歩行の可能性を示している。その掌と足裏の小さな種子骨は、自由になった両手でヒトが道具を使う能力を説明する。口と手の形が霊長類の 主食を示し、手と足の形がそのサルたちの動き方、生活の仕方を示明する。

ヒトの掌には、手に握った道具を使ったときの衝撃吸収のための構造が、種子骨の形として5個も用意されている。 ヒトの手の意味を語るのは、この種子骨群である。

他のサルたちに比べて圧倒的でありと感じられるヒトの親指は、実は、種子骨群で補強されている。

マダガスカルは、他の大陸とまったく関わりなく、6600万年間を歩み続けた。 

アイアイは、ラミーを主食としている。ラミーは、クルミとほぼ同じカロリー、しかも味もそっくり。ラミーの殻は、クルミのように堅く、厚さ4ミリもある。アイアイは、その先端を鋭い切歯で削り、1.2センチも割り開け、中の胚乳をの細い中指で取り出し、口の中にほじ込むようにして食べる。この胚乳の脂質は54.2%もある。

著者は、「口と手連合仮説」を提唱し、実証している。

マダガスカルには、7科29種におよぶコウモリ類が 棲んでいて、昆虫食のコウモリは24種以上いる。

パンダのように竹を食べる(3種)サルがいる。竹を食べる3種のサルたちが同じ森に棲むには、食べる竹の部位と竹の種をそれぞれ異にする、食べ分けから成っている。

青酸という毒を含むタケノコを好んで食べるヒロバジェントルキツネザルがいる。この青酸は、竹の葉や成長した竹の幹には含まれていないので、ヒロバジェントルキツネザルは、これらの部位を食べる。 

チンパンジーは平面(地表)をナックルウォークで進む。それは、森の中の太いツルを握って移動するので、地上に降りたとき、そのままナックルウォークになる。チンパンジーはツルや木々の先端にある果実を主食としている。 

ゴリラは、食物を食べる前に、引き抜き、下ごしらえをしなくてはならない。ゴリラのグローブのように皮が厚いのは、イラクサ類のトゲトゲしたツルをしごきちぎるのに対処している。

ゴリラは笑う。赤ちゃんが自分に近づいて来るのを見て、穏やかなほほ笑みを浮かべる。 

初期人類の手と歯は、骨を主食とするための必要不可欠の条件をすべて満たしている。人類の最初の道具は、掌におさまる拳大の大きさの石で、これは骨を割るために必要だから。 石を投げる、槍を投げるという人類特有の卓越した行動は、足親指で地面をけり込むことで完成する。これが人類の足の親指がないことを説明する。

ヒトも霊長類もサルも、みんな食べ物にあわせた体をしていることがよく分かりました。

(2026年8月刊。1870円)

崖っぷちの私立大学

カテゴリー:社会

(霧山昴) 

著者 朝日新聞取材班 、 出版 朝日新書

大学の授業料は高すぎます。国立大学の授業料は年が50万円から60万円。私立大学は100万円だなんて、ひどいものです。私の大学生のころは、月1000円。年に1万2000円でした。貸与制の奨学金は月3000円です。私は大学の寮に入っていましたが、寮費も月1000円でした。もちろん食費は別ですが、1食80円ほどでした。

今の大学生の多くがアルバイトに追われているなんて、国の教育政策が間違っています。ヨーロッパでは学費はタダ、学生に生活費を支給して、アルバイトなんかしなくても勉強に集中できるように配慮しています。

国の将来を背負う学生を、もっと国は大事にするべきです。トマホークやらオスプレイなんて、有害無益の危険な 軍事備品の購入をやめたら、すぐに実現できます。国の税金の使い方根本的に間違っているのです。

国は、定員割れのような私立大学への助成金を減らすといいます。これも間違いです。 その前に、国はやるべきことがあります。なぜ定員割れしているのか、何が問題なのかを大学と一緒に考え、対策を打つべきです。

少子化もあって、私立大学は経営が悪化している。私立大学の3割が経営困難です。 

地方都市に大学があると、そこには若者がいますから、町が活性化します。

18歳人口は減少傾向にあるが、大学入学者は微増している。1990年に49万人だったのが、2000年に60万人、2025年は65万人になっている。 

女性の大学進学率は1990年に15.1%だったのが2025年には56.5%。つまり6割近くの女性が大学に入っている。男性は60%をこえています。

大学の数も増えている。1990年に507校だったのが、2025年 には812校となっている。短大は減っている。

宮崎国際大学は、すべての授業を英語で実施する。2年次の後期には海外研修が必修。卒業生は中・高校の英語教員になり、旅行会社や航空会社に入る。

 「面倒見の良い大学」のナンバーワンは石川県にある金沢工業大学。学生の75%が県外出身。学生の自立心を育てる学生を活かすことを優先な教育に切り替えたことで、退学者が減った。 

福岡工業大学は、就職支援が手厚い。ここは半導体人材の育成に力を入れている。

昭和女子大学(東京)は、国内にいながら海外大学への留学ができる。学内にテンプル大学のキャンパスがあり、授業はもちろん英語。

大阪観光大学は、「自由と共に楽しみ、社会と共に生きぬく」という教育理念を有する。卒業生は多くの観光・サービス業界に就職している。

かつての学生は、政府や大学当局などの権威を批判し、 また、自分の考えを疑った。今の学生は指導者や自分の考えを疑う感覚が薄れている。そうなんですよね。私たちが学生だったころは、当局も社会もみんなを敵みたいな感覚があり、何かというと「打倒せよ」なんて叫んでいました。今の 学生は「ヘルプ・ミー」が優先のようです。

それにしても大学の生き残り策をしっかり考えて実践している大学が存在することを知り、少しばかり頼もしく思いました。

(2026年7月刊。990円)

日ソ中立条約

カテゴリー:日本史(戦前)

(霧山昴) 

著者 河西陽平 、 出版 角川新書

スターリンのソ連は、日本がソ連を攻めてくるのか、南下政策をとるのか、大いなる関心を抱いていました。そこにスパイも活躍しています。有名なゾルゲもその一人です。

近年、プーチン大統領がゾルゲを高くもち上げたことから、ロシアではゾルゲが英雄として高く評価されています。しかし、スターリンはゾルゲの情報を高く買っていません。その何よりの根拠は、ヒトラーのナチスの軍がソ連への奇襲攻撃を成功させたことに端的に示されています。

スターリンは、ヒトラーのナチス軍がすぐにはソ連に侵攻してこないと確信していたため、ソ連の諜報部が「ナチスの侵攻近し」と報告しても、取りあわなかったのです。 

スターリンの大粛正は情報部にも及んでいましたので、スターリンの気に入らないような情報はスターリンに上げず、自分の保身を優先していたのです。

そして、ゾルゲとは別のラインで、日本やドイツの情報を伝えるスパイが多くたくさんいました。

ソ連諜報網は日本社会に驚くほど浸透していた 満州事変が始まって3ヶ月後、モスクワの日本大使館内で秘密裏に行なせた会談の内容はスターリンに筒抜けだった。

本書では、ソ連の諜報機関に協力していた(スパイとなった)日本人の氏名が明らかにされています。「アベ」と「サソウ」です。「サソウ」は、ウラジオストクの日本軍特務機関にいた歩兵中尉の佐相寅秀だった。

日本陸軍の中枢の大勢はソ連赤軍の戦力を極度に過小評価していた。いや、赤軍は恐ろしいと言うと、「恐ソ病」のレッテルが貼られた。

スターリンによる粛正は情報部にまで及び、NKVDの外国部にいた450人の職員のうち275人が「人民の敵」として処刑されている。

ノモンハン事件でソ連赤軍は莫大な物量を投入した。それでも、日本側を上回る2万6千人もの死傷者を出した。ジューコフ将軍が指揮をとっていますが、人命軽視は日本軍と同じだったようです。

日ソ中立条約を締結したあと、スターリンは、ソ連駐在海軍武官の山口捨次大佐に対して、「これで日本は安心して南進できますね」と耳打ちした。スターリンは、日本軍の南進計画を知っていたわけです。

ソ連側の諜報機関がゾルゲのほか、何人もの日本人スパイを確保していたことを初めて知りました。今、高市政権はスパイ防止法を制定しようとしていますが、もちろん戦前にスパイ防止法はあったわけです。法律をつくったらスパイを止められるものではないことを歴史は示しています。すると、その目的は、国民の思想統制だということです。怖いです。

(2026年7月刊。1100円)

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