(霧山昴)
著者 ニュートン編集部 、 出版 ニュートン・プレス
イグ・ノーベル賞は、「人々を笑わせ、そして考えさせる」研究に贈られるもの。それがどんな研究なのか、初めてよく分かりました。
かの有名なノーベル賞は、科学好きな子どもたちをさらにときめかせる。それでも、運悪く科学嫌いになってしまった子どもたちを振り向かせることはできない。それに対して、イグ・ノーベル賞は、子どもにでも分かる言語で語り直す。「科学が大嫌いな人」にこそ、その重要性や面白さを伝えようとする。
ブラジルの洞窟にすむトリカヘチャタテという昆虫は、メスの交尾器をオスに向けて突き出し、オスがそれを受け入れる、まさに「あべこべ」の構造。メスにペニス状の構造がある。
では、オスとメスの違いは何か…。小さな配偶子(精子)をもつのがオスで、大きな配偶子(卵)をもつ個体がメス。
トリカヘチャタテでも、ペニスを持ちながら卵をもつのは、やはりメス。トリカヘチャタテのオスとメスは結合したまま3日間を過ごす。なぜか…。ここは、餌が極端に乏しい環境にあるので、メスは、オスのもてる限りの精子と栄養をしぼり取るのだと言う。
この洞窟にたどり着くのは容易なことではありません。ブラジルのサンパウロから飛行機でベロオリゾンテという都市に行き、そこから車で1000キロも北上した乾燥地帯に行き、つまり、丸2日、3日、4日もかかってしかたどり着けない洞窟にすむ昆虫。いやはや昆虫学者も大変なんですね…。
5歳児の1日の総唾液(だえき)分泌量は500ミリリットルというのを調べあげた日本の研究者がいる。小児歯科医が5歳児30人を相手にして測定したのです。まさに大変な難事業です。
5歳児に、ライス、リンゴ、クッキー、ソーセージ、フライドポテト、たくあんをよくかんだあと、吐き出させるのです。のみこんではいけません。吐き出された食塊を乾燥機に入れ、70時間〜80時間かけて水分を飛ばし、カリカリの「乾燥重量」を測定するのです。そうやって「500ミリリットル」が判明したことによって、虫歯になりやすい子どもの唾液量の少なさが具体的に指摘できるようになったのでした。
「お尻呼吸」を解明した大阪大学の武部教授は、ドジョウにヒントを得ています。肺が機能しなくなった極限の状態で、お尻が「命をつなぐ窓」となったのです。ドジョウは、口から空気を吸い込み、腸で酸素を吸収して、肛門から放出する。お尻を通じて負担なく酸素を供給できれば、幼い命を助けることができるのです。酸素はガスではなく液体の状態で投与する。
ヒトは、対象物の大きさに合わせて、指を自動的に2本から、3本、3本から4本、5本と切り替える。これを証明するため、千葉工大の松崎教授は、なんと45種類もの木製の円柱を作成しました。指が円柱のどこに接触しているかをミリ単位で正確に測定したのです。実験参加者が頭で考えないよう、サンプルの提示は完全にランダムとした。
ほかには、電気を通すハシとお椀を使うと、味覚が変化することを明らかにしたもの、白黒模様のシマウマには虫除け効果があるというので、牛にぬってみたら実際に効果があった、という研究成果も紹介されています。
世の中の研究というのは、目先すぐに役に立つものばかりではいけないのです。何が役に立つか分からないからです。それにしても面白い、そして苦難に満ちた研究の成果を知ることができました。ありがとうございました。
(2026年9月刊。1560円)


