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ブティック

カテゴリー:社会

(霧山昴) 

著者 池井戸潤 、 出版 ダイヤモンド社

いつものことながら、著者の作品は読ませますね…。ぐいぐいと作中世界に引きずり込まれてしまいます。これって、次はどんな展開になるのだろうか、頁をめくるのがもどかしくなるほどです。

ブティックというと、洋品店というイメージですが、違う世界の話です。法律事務所の世界でも、五大事務所とは違って、少人数の弁護士たちが、専門特化した分野を担うところがあり、それをブティック型事務所と呼んでいます。

ここで登場するのは、M&A、つまり、企業買収。合併に際して、それを仲介して手数料を双方からがっぽりむしり取る、大手銀行のM&Aチームと、一方の小さな企業のみに立ってアドバイスするブティック型企業との対決が主軸となって展開していきます。

銀行を背景とするM&Aチームは、買収金額をなるべく高く設定しようとする。そのための、企業の財務体質がいかに良好かと「作文」までする。買収金額が高額に設定されると、その資金を融資する銀行は、優良な貸し付け先が出来たとして内部で高く評価される。そして、M&Aチームは、事業者の双方から手数料をがっぽりいただく。

主人公が、銀行を辞めて転職した先は、M&Aの仲介取引はしない、利益相反になるから、どちらか一方の助言者になってアドバイザリーサービスを提供する会社。実際に、そんな会社で経営(採算)が成り立つのか、社員として会社に貢献できるのか……。

主人公は、なんと古巣の銀行M&Aチームを相手にガチンコ対決するのです。

「あのさ、世の中の正義と銀行の正義って、違うんだよ」。恐らく、そう。なんでしょうね。

ひと昔前の銀行の「総務部」というと、総会屋対策として裏金が大きく動いていました。たまに表に出て問題化するのは、氷山の一角と言われていました。今、それは根絶されたのでしょうか……。

上司の好き嫌いで、待遇が変わる。顧客よりも自分たちの利益が優先する。偉ければ、間違ったことをしても許される。それが銀行の実態。そんな組織で、何十年も勤め、牙(きば)も抜かれて流されていく生き方、それで、本当にいいのだろうか。

「今の社長は、数字しか見ていない。その経営は数字がすべて。しかし、会社も結局のところ人で出来ている。数字をつくっているのは人。数字ばかりを追いかけて、社員を追い詰めていく。前の社長には社員が見えていた。社員を宝物だと思う温かさがあった。それが今はない。

「世の中っていうのは、平等じゃないし、正義が勝つわけでもない。強くて賢いものが勝つ。ここには、本来あるべきルールなんてない。仁義なき弱肉強食の世界だ」

見えないところに真実がある。表面に出るものは、虚構に流れる。

ブラックスワン(黒い白鳥)とは、通常では予想しえないトラブルのこと。

日本が誇る技術力のあるメーカーが、金さえ儲かればいいという株主に食いものにされ、ステークホルダーが犠牲になる、短期売り抜けを企む株主だけが得をする、それがこのリバイバルプランの真骨頂ではないか…。当面する、目先の利益を追い求める人間が、鵜の目、鷹の目で、獲物はないか狙っている。いやあ、恐ろしいことです。

喫茶店にこもって、一心に読みふけってしまったのです。おかげでお尻が痛くなりました。

(2026年7月刊。2200円)

軍事カメラマンの見たイラン

カテゴリー:中東

(霧山昴)

著者 柿谷哲也 、 出版 並木書房

 世の中にはいろんな職業があるものです。軍事カメラマンとして生計が成り立つものなのでしょうか…。それでも、著者のような人がいるおかげで、私のように居ながらにしてイランという国の一断面を知ることができます。ありがたいことです。

著者はイランを20回も訪問しています。そして、イランの泣く子も黙る革命防衛隊に3回に拘束されたのです。

それでも、著者はイランに心惹かれるといいます。イランと日本の距離は遠いとしか言いようがありません。でも、イランは「親日国」とみられています。

その理由の一つが「おしん」です。視聴率が90%だったというのですから、信じられません。イランはイラン・イラク戦争を戦った国です。太平洋戦争で、おしんの長男が戦死したシーンは、イラン女性すべてが泣いたとのこと。そして、「おしん」のオープニング曲はイラン人の好む音色と旋律だったのです。

アニメ「フランダースの犬」は「おしん」に次ぐ、日本作品のヒット作。イランでは何度も再放送され、知らない人はいない。犬を家族のように扱った作品なのに…。一般に、シーア派では犬は不浄の存在だ。それなのに…。

イラン・イラク戦争が終わったあと、大勢のイラン人が日本に出稼ぎにやってきました。1988年から1992年、日本でそれなりにお金を稼いで、イランに戻っていきました。いい思い出だったようです。上野公園あたりに不法滞在イラン人が大勢いると日本で問題になっていたことを思い出します。

著者は世界の81ヶ国を訪問したなかで、もっともいい国はイランだと断言します。

旅行者を騙すような悪い奴はイランには滅多にいない。ぜいたくせず、イスラム教シーア派の教義を守り、先祖を敬い、たくさんの子どもをつくり、人と仲良くのんびり生きる。町中でケンカを見ることもない。

ところが、日本人はイランで困惑してしまうことがある。算用数字がない。暦も独特で、世界共通の〇月〇日がない。

1980年から1988年までの8年間も続いたイラン・イラク戦争(イランでは、ジャング・エ・タフミーリーと呼ぶ)に、40歳代以上の男性はみな参加している。イランは、ペルシャ人が住む西アジアの国で、イランはシーア派の中心。

イランには、体制転換を狙う組織的な反政府組織はない。国民は、最高指導者の下で、平和で安定したイスラム教シーア派の教義にもとづいた平穏な生活を望んでいる。革命防衛隊は必要な存在であり、国民の敵ではない。そのことをアメリカは読み間違えている。

中東の人々は平和憲法をもつ日本に大いに期待している。

イランの一断面を知ることができる貴重な本と思いました。

(2020年8月刊、980円)

半導体、尖端覇権の興亡

カテゴリー:社会

(霧山昴)

著者 大鹿靖明 、 出版 構談社

熊本県にTSMCが進出してから、「熊本バブル」という現象が起きています。TSMCが立地した菊陽町の地価は31%も上昇し、日本一の上昇率。隣接する大津町でも32%も上昇している。規制の存在しない雑種地とか山林を不動産ブローカーが買いあさり、300%アップの価格で取引されている。

TSMCは賃金を引き上げた。800人を地元雇用でまかなったが、新卒の初任給は28万円。熊本県庁職員のそれは23万円。台湾からやってきた400人の社員は年収2500万円以上。

熊本県内の台湾人は1500人超。教育環境の整備が求められている。

TSMCの熊本工場の建設費用1兆2000億円のうち5000億円近くを国が補助した。ちなみに、日本の司法予算は3200億円でしかありません。一私企業のため、国は5000億円をぽんと投げ出してやってるのです。

TSMCは膨大な地下水を阿蘇山系からくみ上げます。地下水の枯渇とあわせて化学物質による汚染が心配されています。国が規制を強化したという報道はありません。本当に大丈夫なのでしょうか…。

今やハイエンドの半導体の95%はTSMCを含む台湾から供給されている。そうなると、台湾が海上封鎖されたら、世界経済は大混乱になる。日本のGDPは80兆円も落ちこむと経産省は試算している。

ラピダス。ラピダスとは、ラテン語で「迅速」の意味。ラピダスは、北海道の千歳空港の近くに立地する。このラピダスに対して経産省は9200億円もの税金を投入した。ラピダスには800人の正社員を含めて1000人が働いている。学部卒で26万円、修士修了で31万円という給与は、全国平均より3万円も高い。

半導体関連企業41社が立地し、さらに80社が進出しようとしている。10棟のホテルが立ち、マンションは建設ラッシュ状態。この9200億円は補助金ではなく、「研究委託費」。国が98%もの株式を保有する事実上の国有会社。しかも、2025年度にさらに8000億円が投下され、累計1兆7200億円を国につぎ込む。

ところが、2026年4月現在ラピダスは大口客を確保していない。国は、これからさらに7兆円を追加で投資する計画。私たちの貴重な税金が惜し気もなく投下されていくというのです。軍備予算の急膨張とあわせて、こちらも心配です。

この本は、シャープの「失敗」も明らかにしています。液晶テレビの成功に目がくらみ、次の展開を考えなかったということのようです。

さらに、自社で、技術開発から製造・販売をすることの難しさも指摘しています。TSMCは「水平分業」でうまくいったようです。つまり、技術開発と製造は分離しているのです。

ソニーの会長兼社長だったストリンガーは、会社が4500億円もの大赤字を出しているのに4億5000万円もの高額な報酬を受けとっていた。ストリンガーにへつらっていた平井一夫も、同じく報酬1億円を手にしていた。会社がもうかっていて、役員に特別ボーナスでも支給しているのならともかく、大赤字の会社の取締役の報酬が1億円だなんて、他人事ながら許せません。まあ、それでも、ストリンガーや平井は追い出され、シャープと違って、ソニーはまだ会社として生き残っています。

ソニーはTSMCと結びついているラピダスに大金を投下していますが、その悪しき前例がエルピーダ・メモリです。2012年2月に会社更生法申請しました。

半導体の開発は、より小さくすることへのあくなき追求の歴史。そこでは、年単位ではなく、3ヶ月単位で仕事がずんずん進んでいく。過去の栄光は何の意味も持たない。

今、半導体の世界では、台湾そして韓国に日本は大変な遅れをとっているようで、その経緯をじっくり解明している本です。

それにしても、これほどの巨額の税金を投下し、失敗しても、誰も責任を問われなくてよいものなのでしょうか…。あとは野となれ、山となれとは…、許せません。

(2026年8月刊。2750円)

非戦の誓いⅢ

カテゴリー:社会

(霧山昴)

著者 伊藤千尋 、 出版 あけび書房

「憲法9条の碑」が全国各地に建立されています。著者は、その碑まで足を運び、建立した人々と交流し、また平和憲法の意義を訴えています。

「9条の碑」は、過去に向かってではなく、現在 そして未来を向いている。平和憲法を無視して戦える社会に戻そうとする政治の流れを止め、9条の意義を広め、これからも平和に暮らせる日本を築いていくためのもの。

著者が初めて「9条の碑」を見たのは日本ではなく、なんとアフリカ沖のカナリア諸島でした。2006年のことです。そこには「ヒロシマ・ナガサキ広場」があり、畳1枚ほどの大きさの碑がありました。日本ではけなされ無視されることもある憲法9条が海外では尊敬の目で見られているのを知リ、それから 日本の「9条の碑」を見てまわることにしたのです。

「9条の碑」は、今、日本全国に次々に建てられています。2024年には全国に15も生まれました。2025年には 25、2026年には半年で12も生まれています。

今では、全国1都1道2府31県に「9条の碑」が88もあります。

「9条の碑」は、形も素材もさまざまなものからつくられています。藤沢市の碑は、赤ちゃんに可愛らしい猫が寄り添う彫刻です。ここには「なでてあげてね」と書かれていて、実際、子どもたちが近寄って触っています。

岡山駅前の「9条の碑」には QRコードがついていて、スマホをかざすと歌と映像が流れます。AIが作詞、作曲し、歌うのもAI。最先端を行っています。

全国各地の「9条の碑」が建つとともに、つくった人の苦労話も紹介されています。

九州に始まり、大牟田の福建労会館の碑が紹介されています。大牟田には「空襲の碑」もあり、最近、山腹から海近くの人の集まる公園内に移設しました。北九州にもあります。前田憲徳弁護士が会長となって「9条の碑」をつくったのです。ガラスを含む合成プラスチック製で、巨大なハート形。ピンクの部分に憲法9条が刻まれています。

下関市にある「9条の碑」は名物のフグの形をしています。フグの口から吐き出す息が 9の形の泡になっていて、うしろには 赤ちゃんフグが浮いているのです。ちなみに、下関は 安倍元首相の選挙区でしたが、著者の故郷でもあります。著者は東大で私の1学年下でした。東大闘争を共に体験しています。

町田市(東京)にある9条の碑はステンレス板でQRコードが埋め込んであり、スマホで開くと、「ほうき星の約束」の歌が流れます。

茨城県土浦市の9条の碑は畳1枚分より大きい巨大な石造りの「本」の形を用いています。この碑をつくる会の会長は地元弁護士の尾池城司さん。日弁連憲法問題対策本部で ともに活動する仲間です。

国際ジャーナリストとして活動している著者から恵送していただきましたので、その日のうちに読了しました。ありがとうございます。今後ますますのご活躍を祈念します。

ところで、私の事務所でつかっている封筒には裏面に憲法前文と9条を印刷していますが、それを「動く9条の碑」として紹介していただきました。まだまだ少なくない日本人が憲法前文と9条をしっかり読んでいませんので、ぜひ読んでもらいたいという思いからのささやかな工夫です。これも広めたいものです。

(2026年9月刊、1870円)

北朝鮮の軍事外交戦略

カテゴリー:朝鮮

(霧山昴) 

著者 平岩俊司 、 出版 インターナショナル新書

本のオビには、なぜトランプは北朝鮮を攻撃しないのか?とあります。

イランを攻撃したのに、トランプは北朝鮮を攻撃しようとしないどころか、あわよくば金正恩と会談しようと画策しているようです。

何がイランと違うのか……。理由は二つ。その一は、韓国が反対していること。北朝鮮の長距離砲の射程にソウルが入っていて、24時間は撃ち続ける戦闘能力がある。しかも、アメリカの基地も砲撃される危険がある。その二は、中国が参戦してくる危険があること。さらには、北朝鮮の核ミサイル能力が向上したこともある。

北朝鮮の体制崩壊は間もなくという見方がありましたが、今やそれは遠のいています。

むしろ、最高指導者が代わって政権交代しても、それを支える官僚機構が強靭(きょうじん)であることが注目されている。想像をはるかに上回る強力な体制だということです。

トランプと金正恩は既に何度も首脳会談をしていて、25通もの書簡を交わしている。米朝間のチャンネルはすでに形成されている。ひょっとしたら、韓国よりも緊密なチャンネルになっているのかもしれません。

これまで、北朝鮮について、国際社会は三つの過小評価があった。その一は、北朝鮮の独裁体制は間もなく崩壊するだろうという見方。しかし、今も体制が動揺しているようには見えない。その二は、北朝鮮の技術力の過小評価。アメリカ本土まで届く核ミサイルを持てるはずがないとみられていたが、今やそれを持っている。その三は、北朝鮮の「覚悟」、プライドについての甘い見方。

北朝鮮は、2017年5月に「火星12」発射実験、7月に「火星14」等の発射実験をして、核ミサイル開発に拍車をかけた。そして、9月3日、通算6回目の核実験を行った。

北朝鮮は、ロシアの対ウクライナ侵略戦争に加担し、数万人の兵士を送り、最前線で戦闘に従事しています。その見返りは大きいようです。

北朝鮮という国は決して見過ごすことの出来ない国として注視する必要があります。それにしても、かつてはJアラートが頻繁に鳴っていましたが、ここのところ鳴りません。国民の思想動員として必要なくなったのでしょうか。そうとも思えませんが…。

(2026年6月刊。1122円)

 9月12日(土)、天神の映画館でチュニジア・フランス映画「ヒンド・ラジャブの声」をみました。とても刺激的な内容で、夜、布団に入ったとき少女の声を思い出すと涙が出てきてとまりませんでした。

 イスラエル軍が侵攻したガザ地区で起きたことです。市民の乗る普通の車がイスラエル軍に銃撃され、おじさん・おばさんたちが死亡するなか、6歳の少女がひとり残されます。ケータイでドイツに住むおじさんと連絡がつき、おじさんはヨルダンにある赤・新月社(赤十字)に通報しました。赤新月社のスタッフは少女と電話で話し、救出活動を試みます。

 救急車が出動すれば、わずか8分のところですが、イスラエル軍の許可なく出動すると、銃撃されてしまいます。既に20人以上もの救急隊員が死亡しているのです。なんとか2時間以上もかかって許可を得て救急車が出動。あと少しで少女のところへたどり着くと思ったところ、イスラエル軍は救急車を戦車砲で撃ち、少女も殺されてしまいます。

 少女の生の声が、映画でそのまま使われています。イスラエル軍のひどさを実感しました。

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