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私の職場はサバンナです!

カテゴリー:生物

(霧山昴)

著者 太田 ゆか 、 出版 河出書房新社

 南アフリカ政府公認で唯一人の日本人女性サファリガイドである著者が、その仕事とアフリカの野生動物の多くが絶滅寸前の危惧にあることを紹介しています。

サファリとは、スワヒリ語で旅という意味。自然の中で野生動物を観察しに行くアクティビティ。

著者は大学2年生のとき、アフリカのボツワナ共和国でのサバンナ保全ボランティアプロジェクトに参加したのが、現在の職業につながっています。すごいことです。14歳のころは獣医になることを夢見ていたとのことですが、大学は理系ではなく文系に進んで、その夢はかないませんでした。ところが、この3週間のボランティアプロジェクトに参加して、フランス出身の若い女性のサファリガイドに出会ったのが、夢を具体化する手がかりになりました。そして、2015年に、南アフリカにあるサファリガイド訓練学校の1年間コースに飛び込んだのです。すごい行動力です。若いって、すばらしいですね…。

 サファリガイドの一日が紹介されていますが、起床は午前3時45分で、4時15分に出勤し、午前5時にサファリに出発するのです。だいたい3時間から4時間ほどかけます。朝9時に朝ごはんを食べ、午前10時からデスクワークして、昼2時に昼ごはんを食べて休憩したあと、2回目のサファリに午後4時出発。これも3~4時間かけ、夜8時に仕事終了。なかなかハードですよね。

 百獣の王と言われるライオンも、生きのびるのはなかなか大変のようです。オス8頭のうち1頭しか大人になれないという苛酷さです。そして、メスも命がけで子育てしています。人間の密猟によってもライオンは殺されています。歯や爪は装飾品、骨は伝統薬になるのです。本当に人間は罪深い存在です。ライオンがこの20年間で43%も減少したと聞くと悲しくなります。

 最速のチーターの顔に黒い線が目の近くにあるのは、太陽の光を吸収し、反射をおさえてまぶしいサバンナでも狩りがしやすいようにするため。逆に、ライオンやヒョウの目の下には白い線があるのは、暗闇の中でもなるべく多くの光を吸収できるようにするため。単なるワンポイント的な飾りではなく、合理的な理由があるわけなんですね……。

 そして、大人になれるチーターはわずか5%とは……、苛酷な世界です。

 ゾウは大量に食べて、その半分をフンとして排出する。このフンが食物連鎖に生かされる。そして、種子の広汎な散布にも貢献している。野生生物は、いろんな関連性をもっているわけです。

サイの角が1本で2000万円という、とんでもない高値で取引されているとのこと。密猟がなくならないわけです。

 著者の趣味は野鳥観察だそうです。南部アフリカに1000種ほどの鳥がいて、まだ半分にも出会えていないとのこと。いやあ、すごいですね。そんなにたくさんの種類の鳥がいるなんて……。

 そして、たまには近隣のサバンナにソロキャンプに行くことがあるとのこと。満天の星の下、大自然で一人で過ごす時間は本当に特別で…、と書かれていますが、野生動物に襲われる心配はないのでしょうか…。臆病な私には、とても真似できません。

 著者には、これからも元気に、安全にサファリガイドの仕事を続けてほしいと心から願っています。全然関係ありませんけど、私がボルドー近くのサンテミリオンに行ったとき、土産品を買おうと思って立ち寄ったら、なんと売り子は若い日本人女性だったので驚いたことを急に思い出しました。

 日本人の若者が世界に出なくなって、内向きになったとよく言われますが、若者の存在を知ると、日本の若い人も捨てたもんじゃないと思います。

(2024年6月刊。1562円)

古墳時代の歴史

カテゴリー:日本史(古代)

(霧山昴)

著者 松木 武彦 、 出版 講談社現代新書

 古墳は氏族のシンボルだった。古墳群は、そのつながりの拠りどころとなる血縁関係を、墓の並びという形で視覚的に表したもの。氏族とは、血縁の意識、ないしは同じ祖をもつという共通認識をきずなとして結びついた人々の集団である。実際に血はつながっていなくても、同じ祖をもつことにして、氏族のメンバーになることもある。

 氏族とは、実際の血のつながりよりも、それを軸にした意識や知識、すなわち祖先からの系譜やそれにまつわる神話・祭祀・世界観・価値観、あるいは生産や手工業の技術などまでを広きにわたって共有し、形にし、守り伝えるための結社のようなものである。

 古墳は東日本で発生した。北部九州は、墳丘のない無数の埋葬が群衆する集合墓地が主で、わずかな墳丘墓も、その中に埋もれて点在するだけ。遠距離交易と水田開発が古墳出現の基礎となった。傑出したスケールで築かれるのは、纏向(まきむく)の古墳群で、それまでの古墳群に比べ、核となる民族長の古墳は格段に大きく、かつ前方後円形を基調とし、階層性がはるかに強い。

 ヤマトによる武力統一を想定するならばあるはずの、大規模な武力による征服や衝突の考古学的痕跡は見つかっていない。

 古墳を築く氏族が各地に発生し、西方にも古墳が広がっていった。博多湾の西に面する糸島平野の平原(ひらばる。糸島市)の古墳からは、鏡30面、中国風のこしらえをもった長い鉄刀、珍しいメノウの管玉、ガラスの勾玉(まがたま)、連玉(れんだま)などの副葬品が出土した。鏡のうちの5面は中国産、ガラスの連玉は地中海原産と考えられる。

 箸墓(はしはか)古墳は、それ以前の纏向の前方後円墳の長さ3倍、体積10倍以上という、飛躍的な存在である。規模だけではない。墳丘が幾何学的な立面形になっている。

 箸墓は後円部が散弾に築かれて、高くそびえる。幾何学的な立体形が際立つ。また、葺石(ふきいし)や円筒形をしたスタンドの土製品(円筒埴輪)などのエクステリアが完備されている。箸墓の築造年代は、250年から260年前後ころ。したがって、卑弥呼の墓ということはありうる。

 吉野ケ里遺跡は、規模や他地域産土器の示す物流の量や拡がりの点で大きく劣っていて、邪馬台国とみるのは難しい。

 現在の考古学からは、邪馬台国が九州か近畿かは確言できない。しかし、西地は「邪馬台国」体制のもと、ほぼ一体の枠組みの中にあったとみれる。

 前方後円墳や前方後方墳は、箸墓や卑弥呼より前にすでに存在していた。

 4世紀中ごろのヤマトには、「畿内中枢勢力」と言えるような一つの安定した政治主体が確立していたわけではなかった。「諸王の割拠」する時代だった。

 卑弥呼の邪馬台国は北部九州にあったと私は信じているのですが…。

(2025年10月刊。1210円+税)

イスラエル・パレスチナ紛争をゼロから理解する

カテゴリー:中近東

(霧山昴)

著者 イラン・パペ 、 出版 河出新書

 アメリカとイスラエルは交渉中なのに突然イランを攻撃し、ハメネイ師をはじめ、軍の中枢幹部を一挙に殺害しました。本当にひどい話です。国際法違反は明らかです。ところが、高市首相は「法的評価は控えたい」と国会で答弁し、トランプ追随を明らかにしました。それどころか、イランを非難するのです。許せません。

 アメリカのトランプ大統領は国際法なんか知らんと高言し、「力による世界支配」にまっしぐらです。そして、日本の高市首相はトランプのそばでピョンピョン飛びはねて卑屈にへりくだるだけで、次々にアメリカの不要不急の高額兵器を購入し、日本国内では軍需産業を露骨に優遇しています。強大な軍事力を持てば戦争を回避できるという論理が成り立たないことを今回のイラン爆撃は示しています。それは戦争を招き入れるだけなのです。

 日本がすべきことは、軍事に頼らない、平和的な外交力を強めること。それしか私たちの平安と安全を守ることは出来ません。

 ハマスの前身はムスリム同胞団の軍事部門で、1987年12月に創設された。第一次インティファーダの発生直後のこと。ハマスが躍進したのは、2004年11月にPLOのアラファートと議長が死亡したあとのこと。アラファートの死亡も、イスラエルに毒を盛られた疑いが濃厚とのこと。

 イスラエルのネタニヤフは2021年3月に敗れたが、2022年11月返り咲いた。

 今や、イスラエルには本物の左派はいない。少数派はいても主流派ではなく、イスラエル政府の掲げる政策を変える力はない。イスラエルにも、ネタニヤフに反対する勢力はいると思いますが、圧倒的に少数のようです。

 高市自民党は、国会を牛耳っていて、予算審議の充実なんて必要ないと断言し、数を頼んで強行採決を重ねています。あまりにも国会を軽視していますが、「サナエちゃん、がんばれー」と叫んで声援する一般市民がいること、少なくないことには呆れるというより怖いです。膚寒い思いをしています。

 パレスチナは無人の土地だったという神話はまったくの間違い。ユダヤ人国家がパレスチナに建設されたのは、ひとえに大英帝国の国益にかなったから。パレスチナには多くの村が何千年も前から存在していた。パレスチナが広大な砂漠だったというのも誤り。パレスチナに決して砂漠ではなかったし、人々は遊動民(ノマド)でも未開人でもなかった。

 アラブ系ユダヤ人は、イスラエルの右派政党を支える有権者集団として最大規模となっている。パレスチナ人に対する暴力をだれよりも声高に主張することも多い。シオニズムを熱狂的に支持する最強硬派として身の証(あかし)を立てた。

 なるほど、ですね。よくある歴史のパターンです。弱い者は強い者に頼らざるを得ませんからね…。

 著者はユダヤ系のイスラエル人歴史家です。イスラエルにいられなくなったとのこと。現実は厳しいのです。それにしても、イラン攻撃は直ちにやめてほしいです。戦争があたり前の世の中って、怖すぎます。高市首相は、アメリカに対して国際法違反の戦争を止めるよう、きっぱりモノ申すべきです。

(2025年11月刊。1100円)

社会主義都市ニューヨークの誕生

カテゴリー:アメリカ

(霧山昴)

著者 矢作 弘 、 出版 学芸出版社

 素晴らしい本です。わずか180頁ほどの本ですが、中身がぎっしり詰まっていて、読み進めるほどに勇気と確信が湧いてきました。 被疑者国選弁護人として、警察の留置場前の廊下で、前の弁護士2人の面会が終わるのを待ちながら読みふけり、自宅に持ち帰って読了しました。すっきりしました。爽快な気分になりました。

 アメリカのトランプ大統領が、ベネズエラに続いてイランを攻撃して、国際法を平然と破っているのに、日本の高市首相は批判もしない。同じ日本人として恥ずかしい限りです。でも、今や諸悪の根源はアメリカ、そしてトランプです。プーチンのウクライナ侵攻を非難する日本政府がトランプのベネズエラとイラン攻撃を批判できないなんて、許せません。

ところが、そんなアメリカにも希望はあるのです。34歳のイスラム教徒で、両親がインド系である青年がニューヨーク市長になるなんて、トランプが毛嫌いしたのも当然です。でも、マムダニ市長は当選してまもなく、ホワイトハウスを訪れ、トランプに会って、政策実現への協力を少なくとも表面上、取りつけました。トランプはマムダニ市長と会見したあと、なんと、「素晴らしい市長になるだろう」と言って協力を約束したのでした。それを言わせるほどの素晴らしい人柄だということですよね、きっと。

 この本を読むと、マムダニが市長選挙で公約したことは、彼が初めて言い出したことではないことがよく分かります。それは、ニューヨークの家賃の凍結、市内を走るバスの無料化、保育料の無料化などです。ニューヨークは家賃がべらぼうに高いのですね。収入の半分を家賃の支払いにあてている夫婦が少なくないのです。家賃が30万円もしたら、それはそうでしょうね。東京も都心だと同じでしょう。

 そこで、マムダニは家賃を統制できるアパートの大量建設を打ち出しました。これもなかなか大変と思います。そして、バス運賃の無償化。バス会社の収入減は、ニューヨーク市の財源から補填(ほてん)するのです。さらに、高い保育料を払えないため、若い夫婦はニューヨークに住めない。そこで、保育費を無償化する。財源は金持ちに課する税率を引き上げる。

 そんなことをしたら、金持ちはニューヨークを逃げ出してしまい、結局、税収増にならないという批判があった。しかし、現実には少しの税率アップで逃げ出すような金持ちはいなかった。やはり、ニューヨーク市のほうが教育・文化施設が充実していて、似た境遇の共同体も存在するので、そこから離脱はできないのだ。

 マムダニ市長について、日本のマスコミは「急進派左派市長」と決めつけるが、その実体はヨーロッパの社会民主主義レベルのリベラルである。

若いリベラルな市長は、ニューヨークだけでなく、シアトル、ボストン、シカゴ、アルバカーキ、デトロイトなどにもいるようです。地方からアメリカは変わりつつあると言えるようです。頼もしい限りです。日本でも、かつて、革新自治体が全国に続出したことを思い出します。

 マムダニは、古い6階建の家賃管理アパート(賃料が月2300ドル。これは平均より安い)に住んでいる。車を持たず、地下鉄とバスで移動する。

マムダニの父親はコロンビア大学の教授で、息子にこう言った。「私はウガンダ(アフリカ)ではインド人だった。インドではウガンダ人だった。アメリカでは、その両方。でもマイノリティだからこそ見える世界がある」

母親はインドに生まれ、ヒンズー教徒で、映像作家として著名。

市長選挙では10万人ものボランティアが、160万戸以上を戸別訪問し、200万回以上の電話作戦を繰り広げた。もちろん、SNSも駆使した。

 マムダニの公約の一つに公営のグローサリーストア(食料雑貨店)をつくることもある。買物難民のニーズにこたえ、価格を抑える店。

 日本でも共産党が「タックス・ザ・リッチ」を訴えましたけれど、残念ながら時の話題になりませんでした。でも、スーパーリッチに対する課税を強化して、そこから増えた税収を庶民一般のために使う政策は、日本でもすぐにやってほしいことです。「103万円の壁」なんてことより、よほど役に立つ政策です。

 大変勉強になりました。いまの日本で、高市首相の嘘とごまかし、軍事最優先のトランプの言いなり政治に真向から闘いたい人の心をきっと励ましてくれる本として、強く一読をおすすめします。

(2026年1月刊。2420円)

ルポ特殊詐欺無法地帯

カテゴリー:社会

(霧山昴)

著者 藤川 大樹 、 出版 文春新書

 特殊詐欺は相変わらず猛威をふるっています。何千億円もの大金が暴力団に流れ込んでいるのです。日本の警察は、本気になって捕まえようとしているとはとても思えません。

電話をかける「かけ子」の集団は、今やミャンマーに置かれているようです。そこに体当たり取材を敢行した状況が紹介されています。ミャンマーのほか、先日はインドネシアにもあるという報道がされていましたし、カンボジアにもあるようです。詐欺集団は摘発を免れるため、カンボジア警察に1ヶ月3万ドルを支払っているとのこと。

2025年5月、カンボジアで特殊詐欺に関わっていた日本人29人が拘束されたことは耳新しい出来事でした。カンボジアで、特殊詐欺拠点が広がっているのは、政府・与党の「腐敗」が背景にある。カンボジアでは、15万人以上が特殊詐欺に従事しているとみられている。まさしく、一大産業と化しているのです。

同じく、ミャンマーにも40もの特殊詐欺拠点があり、10万人が従事している。そこでは中国系犯罪組織が取り仕切っていて、軍隊と結びついている。日本人をリクルートするときの甘いコトバは…。

「月給30万円(2千ドル)。寮完備でまかないあり」

「仕事をしながら、英語とタイ語が学べる」

これに惹かれて、のこのこ入っていくと、厳しく管理された閉鎖社会に閉じ込められる。1日14時間半も働かされ、ノルマを達成できないと、殴られ、電気ショックを受けさせられる。まさしく現代の奴隷ですよね。そして、奴隷状態から脱出できるためには、親族が大金を積む必要があります。そこにも、またビジネスが成立しているのです。なんという底知れぬ恐ろしさでしょうか。

 日本で仕事がないので、海外でおいしい仕事があると騙されて出かけると、パスポートを取り上げられ、オリの中に閉じこめられ、詐欺の電話かけをやらされるのです。

 それにしても、詐欺電話でひっかけても、そのお金を受け取る人間が必要です。しかも、瞬時にしなければいけません。このマッチングをするのは日本でしないと無理ですよね。すると、日本にも相応の組織がフル稼働しているはずです。警察は、そこを摘発すべきだと私は思うのですが…。

(2026年1月刊。1210円)

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