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税務署員うつうつ日記

カテゴリー:社会

(霧山昴)

著者 大蔵主税 、 出版 三五館シンシャ

私は40年近く前に税務調査を受けました。調査理由の開示を求めて押し問答しているうちに反面調査で銀行預金を調べあげられ、推計課税されました。もちろん異議申立し、国税不服審判所にも審査請求しました。その成果として、課税(納税)額の3分の1ほどが戻ってきたのですが、それを雑所得として申告していなかったとして再び課税処分を受けました。報復調査・課税の典型です。私は、この一連の経過を、『税務署なんか怖くない』の正・続(花伝社)として刊行したところ好評で、増刷して8千部を完売しました。この本はすでに絶版になっていますが、中古本としては今も入手できるようです。私の一番売れた本ではあります。

さて、この本の著者は、今なお第一線の窓口で働く現役の税務署員です。大変な激務によって、うつ病も体験しています。

税務署では窓口業務が最優先。でも、今年3月、私がいつものように確定申告書を提出に行くと、これまであった納税相談のコーナーはなくなっていました。完全予約制であり、ネット対応を主としているようです。それでは困るという人が少なくないと思います。今の時代、スマホを使えばたいていのことは分かります。でも、スマホを使えない人は多く(私もその一人です)、また、うまく質問できない人は少なくないと思います。

窓口で大声を出す人のクレーム対応は、空き会議室へ場所を移し、問題を拡大させないこと。納税者が1人であっても何人か複数で対応するのです。

滞納者には3つのタイプがある。1つは誠意のある滞納者。2つは誠意のない滞納者。3つは財産のない滞納者。一番厄介なのが財産のない滞納者。この三つを早く見きわめるのが徴収マンの肝(きも)だ。

キャリア官僚が署長として栄転してくることがある。どうやら今では廃止されたようです。まだ20代の若いキャリア官僚が署長としてやってくることがありました。有名大企業やら有名人が集中しているところを管轄する税務署です。現場がどうまわっているのか、観察して勉強するのとあわせて、地域の有力者とコネをつくる絶好のチャンスでした。

税歴表が分厚い会社がある。過去に何回も税務調査されているということは、それだけ何か出ているということ。つまり、安易なおみやげを持たせると、その時は助かったとしても、2年後か3年後に、再び税務調査を受けることになります。もちろん、相応の滞納税金を支払わされるのです。

税務署には、タレコミが少なからず持ち込まれる。そうなんですよね。あいつは気に喰わんと思った人が、その相手について「有ること無いこと」を税務署にたれこむのです。それがときに追徴につながることもありますから、恐ろしい話です。

この一連の「〇〇日記」シリーズはすごいですね。どれもこれもよく書かれ、読まれているようです。巻末のリストは壮観です。私は、いくつも読みました。

(2026年8月刊、1540円)

夢と眠りのふしぎ事典

カテゴリー:人間

(霧山昴)

著者 松田英子(監修) 、 出版 マイクロマガジン

日中にアデノシンという化学物質が脳にたまっていくと、眠くなる。

眠っているあいだに、体の中をメンテナンス(傷ついた細胞を修復)したり、起きているあいだに脳にたまったゴミ(疲労物質)を洗い流している。眠っているあいだも、人間の身体はちゃんと働いているのですね…。 感心、感心。

睡眠には、記憶を定着させる働きがある。新しい知識や技術を身につけるためには、覚えたその日に少なくとも6時間の睡眠が必要。

寝不足が続くと、食欲を増進させるホルモンの分泌量が増えるうえ、食欲を抑えるホルモンは減少する。その結果、食事の量が増え、体重が増加する。

週末に寝溜めすると、月曜日に起きるのが辛くなる。これを社会的時差ボケと呼ぶ。週末に長時間寝たからといって、平日の睡眠不足を解消することはできない。

日本人は世界の国の人々とくらべて、睡眠時間が50分も短い。

何時に寝ても朝の起きる時間は、同じがいい。私は毎朝6時まえには起きています。今は明るいですけど、冬はまだ暗いです。

他人の寝言を聞いても返事してはいけない。それは夢の世界のことなので、返事をすると、寝ている人の脳を刺激して、眠りを邪魔することになってしまうから…。

夢は、自分自身が映画監督になって制作したオリジナルの映画をみているようなもの。つい先日は、亡くなった兄と奥さんが夢の中に出てきて、なつかしく思いました。今でも大学のころの夏合宿の楽しい場面を夢見ることがあり、夢と分かっていても、ほんわかした気分に浸ってしまいます。

ところが、起きたとき、夢はすぐに忘れてしまう。それは、睡眠中は夢を覚えておくためのシステムが働かないから。夢の記憶を固定するための化学物質が不足するので、夢を忘れてしまう。

夢をよくみるのは、繊細で神経質な人、心配性の人が多い。楽天的で、細かいことを気にしない人は、夢をあまりみない。

私は、自称「繊細さが服を着て歩いている人」なんです。ですから、夢をよくみます。

夢によってはそれは、すべて経験にもとづくもの。記憶の中にいる人が複雑にミックスして登場してくる。

最近はあまり怖い夢をみることがなくなりましたが、大学入試や司法試験の会場で難問が解けずに苦しんでいるという夢は何度もみました。自動車免許で不合格になりそうなんて夢をみたことは一度もありません。やっぱり切実さの違いですよね。

夢をみているとき、これは夢だよねと思ってみていることが多いです。これを「明晰(めいせき)夢(む)」と呼びます。

私は夢占いは信じていません。

ぐっすり眠って、朝、すっきりとした目覚めを迎えたいものです。

(2026年7月日、1100円)

飛鳥・藤原の宮都

カテゴリー:日本史(古代)

(霧山昴) 

著者 木村 多加史 、 出版 NHK出版

古代の天皇(大王)は、即位するとき、それぞれの「宮(みや)」を構えた。平城京や平安京は、数代、数十代の天皇が居を構え、人々が集住する「都」だった。一時的な「宮」から恒久的な「都」へと発展した。宮都(きゅうと)。

著者は、現地に立って国景を見て考える、景観考古学者。

飛鳥には、謎めいた石造物が数多く散らばっている。なかでも、猿石、亀石、そして二面石(にめんせき)は、とびきり異彩を放つ石。残念なことに、私はこの三つとも現地で現物をみていません。

亀石は、高さ2メートル、幅2.77メートル、奥行き4.53メートルもある、大きな立体的な石。亀の顔はユーモラスであり、威嚇する雰囲気は、まったく感じない。

石舞台古墳は、私も現地に行き、その大きさを実感しました。1辺50メートルの方墳。墳丘の上半分がなく、巨大な横穴式石室の天井石が完全に露出している。それにしても、大きいです。

高取の猿石は、高さ84センチ、幅93センチ、奥行68センチ。猿というより チンパンジーに似た顔つき。

二面石は、高さ124センチ、幅127センチ、奥行50センチ。正面からみて、右が「善相」、左が「悪相」。

飛鳥には「ゴールデンコース」なるものがある。今度、そこを歩いてみましょう。

推古天皇の在世は35年間も続いたが、その20年目(612年)に、百済から2人の文化人が渡ってきた。一人はミキマロ、もう一人はミマシ。ミキマロは、中国の南朝から百済に渡ったペルシア人ではないかと想像されている。

大切なものを、あえて砕く呪術や信仰があった。縄文時代の土偶にも通じるもの。

飛鳥には、さまざまな技術をもった渡来人が多く定住していた。

中国には、王の支配地は正方形だという世界観があった。

飛鳥時代の寺院・宮殿は、南北軸に沿う方針で設計されている。真北は、インディアンサークル法で定めていた。これは、古代インドの経典「シュルパスートラ」に記載されている。

古代の奈良盆地には、東から「上ツ道」、「中ツ道」、「下ツ道」という三筋の南北道路が通っていた。そして、この三道と直交する東西道路の「横大路」が走っていた。国家が建設し、国家が使う道なので、「官道」と呼んだ。

飛鳥宮跡を見おろす丘の上に、ぽつんと残る「酒船石(さかふねいし)」は、臓器をかたどったような浅い、たたき溝が彫られ、何らかの暗号のようにも見える。これを、松本清張の「火の路」では、ゾロアスター教の神酒「ハオマ」を製造する台だとされている。また、手塚治虫の「三つ目がとおる」では、人を思いのまま操ることのできる 悪魔的な薬を調合する台として描かれている。

このガイドブックのような本を読んで、いよいよ飛鳥の地を歩いてみたくなりました。

(2026年7月刊。1980円)

伝統色とトリノイロ

カテゴリー:生物・鳥

(霧山昴) 

著者 ミリーほか 、 出版 三才ブックス

伝統色とは、日本の歴史の中で、生まれ使われてきた色名を指す言葉。その色を羽に宿した鳥たちの姿とともに本書で紹介されています。

江戸時代の町人文化では「灰」は火事を連想させるので好まれず、「ネズミ色」と呼ばれた。また「黄丹」(おうに)は古くから朝廷の儀式で使われる、特別な意味をもつ色。

色相環は、赤、橙(だいだい)、黄、緑、青、紫の色が円の形で並べられたもの。隣りあう色は互いに近い性質をもち、円の反対側にある色は対照的な関係になる。

光の三原色は レッド(R)、グリーン(G)、ブルー(B)の3色。

印刷や絵の具、塗料の色は 色料によって表現されるシアン(C)、マゼンタ(M)、イエロー(Y)の3色。実際の印刷では、3色だけでは深い黒をきれいに再現できないので、黒インク(K)を加えている。

自然の色は、色素による色と、光のふるまいによって生まれる色の両方で作られる。

人間の網膜には、赤、緑、青の光に敏感な3種類の視細胞があり、その組み合わせによって色を識別している。この仕組みを三色型色覚と呼ぶ。

私たちが見ている色は、自然の色(色素と構造によって生まれる色)、人の視覚(三色型色覚)、色の再現技術(RGBやCMY)という三つの仕組みの上に成り立っている。

色を生み出す物質には染料と顔料の2種類がある。染料は、水や溶媒に溶けて素材の内部に入り込み、繊維などと結びついて色をつける物質。顔料は水に溶けない細かな粒子で、素材の表面にとどまって色を表す。顔料は粒子が光を反射することで色が見える。日本画で使われる岩絵具(鉱物からつくられる)は、顔料の一種。染料と顔料では、光の関わり方が異なる。

ベニバナ(紅花)は、エチオピア原産の植物で、飛鳥時代に日本に伝わった。花弁に含まれる、ごく少量の色素カルタミンを抽出し純度を上げていって、鮮やかな赤を発色させる。江戸時代には、「片紅一両は金一両」と詠まれるほど高価なものだった。

ハギはマメ科ハギ属の植物の総称。万葉集の時代は、ハギは女性の象徴だった。

「エンジ」という言葉は、漢の時代に西域から伝わったもの。臙脂は、発音を音写したもの。

丹色(にいろ)は、赤土などの赤色顔料全般を指す言葉だった。

おもな赤色顔料は、酸化第二鉄を主成分とする赤土の「弁柄」(べんがら)、硫化水銀を主成分とする「朱」、四三酸化鉛を主成分とする「鉛丹」の3種類。

日本語で「赤」を表す言葉は、赤、紅、茜(あかね)、丹、朱、緋などがある。

アカネという植物の根を使って染める色なので「茜」(あかね)と呼ぶ。

自然の中にある色は、実は固定された色ではない。鳥の羽色は、光の当たり方や背景、見る距離によって大きく変わる。

「万葉集」や「伊勢物語」に出てくる「都鳥」は、ユリカモメとする説が有力。

ジョウビタキは、秋になるとわが家の庭にもやってきます。ちょうどミカンが旬を迎え10月ごろに越冬に飛来。冬の間、私たちの目を楽しませてくれる。わが家の庭もジョウビタキはよく来てくれます。

「万葉集」には、スズメを詠んだ歌は一首もない。なぜスズメが和歌にほとんど登場しないのか。

江戸時代には、早くもバードウォッチングに関する本が出版された。

キセキレイは、植物に由来する食べ物をとることで体内に取りこんで活用している。

色の複雑な成り立ちを知ることができました。

(2026年8月刊。2420円)

観客という凄まじい怪物

カテゴリー:ヨーロッパ

(霧山昴) 

著者 佐竹 謙一 、 出版 講談社選書メチエ

17世紀ごろのスペインの階級構成は、ほとんどピラミッド型。王を頂点に、大貴族や高位聖職者が帰属する特権階級と、大半の人々が占める平民に分かれていた。平民は卑しい血筋に帰属すると考えられていた。

三大騎士修道会には合計して1450人もの会員がいて、平民やモーロ人、インディオの入会は許されなかった。

名誉ある人間は、貴族の出自であることに加え、財力や美徳、資質にも恵まれており、その先祖は、王に忠義を尽くしたとか、その報酬として貴族の称号を与えられた者がいた。

貧富の差があっても、当局はそれを是正しようとはせず、そんな意識も心遣いもなく、誰もが目の前の社会の仕組みが不変の生体メカニズムだと信じてやまなかった。

貴族は常に剣を身につけていて、名誉回復のための道具としていた。身分の低い人たちは、剣を持てないため、その代わりに棍棒や拳固で身を守った。

当時の大衆芝居は、作中に因果律を示唆する「天の裁き(詩的正義)」が働くようになっている。

劇世界は、実社会を忠実に写しとったものではなく、現実逃避をするための芸術的空間だった。

劇団の座長は、劇作家と観客の仲介者であると同時に、たいがい名を知られた名役者でもあった。その名声と技量は、芝居が成功するか否かを大きく左右した。

役者は、観客からのいかがわしい罵声にさらされようとも、皆を喜ばせるためには、忍耐強く演じ続けなければならなかった。

劇場の中で、下層階級の人々が占める立見席では、とても役者の台詞が聞こえないほど騒がしく、静かに心ゆくまで演技を堪能できる雰囲気ではなかった。

つまらないと思ったら、間髪を入れずに野次を飛ばし、退屈しのぎに物を投げつけた。ときには客同士での口論となり、喧嘩にまで発展することがあった。そのため、劇場専用の警吏が目を光らせていた。これらの人々を「モスケテーロ」と呼ぶ。

劇作家や座長にとって厄介だったのは、モスケテーロの評価が、芝居が成功するかどうかの鍵を握っていた。まるで手に負えない「凄まじい怪物」のような存在だった。

役者は、基本的に身分の低い者の集まりだった。まれに下級貴族もいた。

楽しみの少ない時代ですので、舞台を見たときの興奮はいかばかりであったことでしょう。

(2026年4月刊。2530円)

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