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南緯69度チーム、南極地域観測隊

カテゴリー:社会

(霧山昴)

著者 原田 尚美 、 出版 WAVE出版

 南極に観測隊はずっと行ってるわけでしょうが、初めての女性隊長だというのに、いささか驚きました。これまで、南極での調理スタッフ(女性)の苦労話も読んで、このコーナーでも紹介したことがありますが、女性隊長はずっといなかったというわけなんですね……。

 近年は女性隊員が増えていて、著者が隊長だった第66次隊では114人のうち25人が女性でした。著者は女性初の隊長として、アンコンシャスバイアス、無意識の偏見の克服が重要だと考えました。これは、実のところ、私にも多分にあると思います。

 ある学者によると、人間の脳は、一瞬のうちに1100万ビットもの情報を受信しているが、意識としてはそのうちの40ビットしか処理できていない。残る99.9996%は意識的には処理できず、無意識のうちに処理しているというのです。この数字の真偽のほどは分かりませんが、なんとなく私の実感にもあいます。

 私が大勢の人の前で話すとき、もちろんあらかじめおよその構想は頭の中であらかじめ組み立てておきますが、現場に立って、聴衆の顔ぶれをみているうちに、頭の中のどこからか指令が飛んできて、それに従って話しているのに気がつくというのはよく体験することです。

 同じことが、リーダーは男性がするものという偏見が私のなかにもあるのだと思います。

高市首相が初の女性首相だというのが高い人気の一つだというのには、私はものすごく違和感があります。彼女は夫婦別姓にずっと反対してきましたし、アメリカべったりの大軍拡主義者そのものです。女性である前に、彼女がこれまで政治家として何をしてきたのか、何を言ってきたのか、きちんとみて判断すべきだと私は思います。

 NHKの日曜日朝の討論会をドタキャンしたのも、手指をケガしたんだから仕方のないこと、責めたら可哀想という評価があったとのこと。信じられません。政治家、とりわけ首相として適格なのかどうかの判断をするとき、そんなことを可哀想と思うなんて、ぜひやめてほしいです。彼女は、その足で、地方遊説に出かけているのですから…。

 著者は、この本で、体制づくりの苦労と工夫をかなり具体的に紹介していて、参考になります。観測隊も100人以上となると多様性が高まる。すると、組織には、しなやかさと強靭さ、そして多様性が求められる。

 南極は雪と氷に囲まれていて、水は豊富だというイメージですが、現実には水不足になりかねない環境。なので、風呂が選択もままならないことがある。いやあ、それは大変ですね。私は毎晩、湯舟にゆったり使い、頭髪をせっけんでごしごし洗わないと、一日の疲れがとれません。

 南極大陸を環状に取り巻く南太洋は荒れる海。低気圧の通り道になっている。暴風圏だ。吠える40度、狂う50度、叫ぶ60度と呼ばれるほど、世界でもっとも荒れる海域。いやあ、そうだったんですか、知りませんでした。

隊員の小さい不満が大きなものになる危険がある。それを小さいときに摘み取って、深刻なレベルにまで発展させないことが不可欠。

そして、相手を思いやる気づかいを常にもち続けるためには、疲れをためず、気力を保ち続ける必要がある。ストレスを解消し、リフレッシュする。そのため、汗をかく運動を毎日続けた。

 不満の芽が育ちはじめたら、まずじっくり話を聞く。共感だけにとどめて、気持ちを落ち着けてもらう。

さすが隊長として、まとめ役の苦労を踏まえていて、一般論としても、大いに参考になります。ぜひ、若い人に、男性も女性も読んでほしい本です。

(2025年11月刊。1760円)

辺境から中心へ

カテゴリー:韓国

(霧山昴)

著者 文在寅 、 出版 実業之日本社

 文在寅回顧録、外交安保編というサブタイトルのついた面白く興味深い本です。一読して、文在寅元大統領を心から尊敬する気になりました。

ひたすら平和だけを願い、過去の政権の対北政策をグレードアップさせながら、引き継いできた私たちの意思が成し遂げた。アメリカと手をとりあって南北会議の突破口を切り開き、史上初の米朝首脳会議につなげた。

 昔から想像すらできなかったことを成しとげた。その過程は、現在、中断されているが、だからといって悲観し、希望を捨てるわけにはいかない。再び、対話へ局面を転換していかなければならない。再び対話を始めには勇気が必要。平和に対する意思のないところに、平和が訪れるはずはない。

 文在寅は、北朝鮮の体制崩壊と吸収統一を望まないと断言しています。それは、現実問題として韓国に何の利益をもたらさないからといいます。

 北朝鮮の体制が崩壊したら、中国の助けを求める。その結果、中国が北朝鮮の状況を主導することになれば、韓国にとっていいことは何ひとつないし、統一の道もさらに遠のいてしまう、そうみています。北朝鮮を簡単に吸収できると考えるのは、あまりに現実離れした、ナイーブなものにすぎないというのです。考えさせられます。

 文在寅は、日本について、きわめて冷静に、かつ批判的です。日本国民として、その批判があたっていると言わざるをえないのが、本当に残念です。

 日本は本当に度量のない国、これから上昇する国ではなく、下落する国だと強く感じた。非常に了見の狭い外交姿勢を見せる。

 日本の発言は終始一貫、徹底して自国中心的なもので、アジア-太平洋地域のリーダー国家として全体をまとめる観点がまったくなかった。東北アジアのリーダー国家らしく、東北アジア全体の平和と安定を考える観点もなかった。

 アメリカには、チキンホークという言葉があるそうです。臆病なタカ派という意味。実戦経験はもちろん、軍に服務すらしたこともないのに、発言はタカ派で、勇ましいことばかり言う連中のこと。日本にも高市のようにチキンホークそのものが我が物顔で威張っている人たちがいますよね。中国まで届くミサイルを備えたら、中国は屈服させられるなんて考える人たちです。

 ひどい言葉や悪態は、相手を傷つける前に自分自身を傷つける。レベルの低い対北チラシは、韓国民自身を辱(はずかし)める。

 北朝鮮の金正恩とアメリカのトランプはハノイで会談したわけですが、このとき北朝鮮にはベトナムまで飛ばせる専用の飛行機がなかったので、中国の飛行機を借りるしかなかった。これで北朝鮮は中国に借りをつくってしまった。

 金正恩は、会談場所としてモンゴルを提案し、それがダメなら、北朝鮮の海域に空母のようなアメリカの大型船を停泊させてそこで会議することも提案したとのこと。ところが、これはアメリカ側が受け入れなかった。

 2018年9月19日、文在寅大統領は15万人もの北朝鮮の人々の前で演説しました。実に泣かせる演説です。

「私、文在寅は金正恩委員長とともに核の脅威と戦争のない朝鮮半島をつくることにしました。私たちは5000年をともに暮らし、70年を別れて暮らしました……」

 平壌市民の困難を韓国民はよく知っていると激励したのです。同じ同胞としての気持ちを伝えようとしたわけです。金正恩からは、内容や時間について、何ら制限をつけられず、すべてが文在寅にまかせられたとのこと。金正恩には、それだけの包容力はあったわけです。側近が演説原稿を起案したとしても、最後は文在寅が自分の言葉で語ったのが、人々の胸をうちました。このときは、金正恩も文在寅に対して誠意をもって誠実に対応していたのです。それがなくなってしまったことが、読み手の私も本当に残念です。

 今の金正恩は、対話を失い、再び核にしがみつき、敵対視と対決を叫ぶ道に戻ってしまい、南北の敵対関係はさらに増幅している。今、金正恩が見せている姿は、非常に無謀で、危険だ。

 日本にも、このように平和外交を中心にすえて進めていく政治家が本当に必要だと思います。トランプ大統領のそばで、しかも、アメリカの航空母艦の上で飛んだりはねたりするような高市首相の存在は、日本に不幸をもたらすだけでしかありません。

 会話体の文章ですので、とても読みやすく、550頁もの大作ですが、一気に読了しました。ご一読を強くおすすめします。

(2025年12月刊。3630円)

河童自伝

カテゴリー:日本史(戦前)

(霧山昴)

著者 細川 嘉六 、 出版 六花出版

 戦前(1942年)の「横浜事件」は、特高警察による典型的なデッチ上げ事件でした。この「事件」の首謀者とされた細川嘉六が戦後インタビューに応じたものがベースとなっている本です。話し言葉ですし、詳細な解説がついていますので、とても読みやすく、分かりやすい本でした。

 「横浜事件」において、細川嘉六は「再建共産党の委員長」という役割を与えられています。まったくのデッチ上げです。細川嘉六自身は3年間の獄中生活のあと、日本敗戦後の1945年9月に免訴で出獄しましたが、前途有為な青年たちが特高警察の拷問によって何人も死亡しています。

 細川嘉六は1942年7月、「あまり疲れたものだから、田舎(泊。とまり)に帰った。魚はあるし、ゆっくり疲れを治そうと思った」。そして、友人たちを田舎の旅館に招いて楽しく会食した。ただそれだけなのですが、この会食が共産党再建の謀議をこらしたというので、治安維持法によって、集まった全員が逮捕され、ひどい拷問を受けたのでした。

 細川嘉六は、このとき旅館で河童の絵を描いた。すると、特高警察は、この河童の絵が共産党員たる証拠だとしたのです。というのは、河童は水にもぐっている。まさに共産党員たる象徴にふさわしい。これこそ共産党員たるお墨つきだと決めつけたのです。なんという論理の飛躍でしょうか。呆れてしまって口が閉じられません。

 細川嘉六は「横浜事件」の背景を次のようにみています。細川嘉六は、「中央公論」や「改造」で平和を主張していた。権力は平和運動を始めはしないかと恐れた。そして、風見章を捕まえ、近衛秀磨を引っつかまえてやろうと考えた。それは唐沢俊樹(内務官僚)が内務大臣や岸信介あたりと組んで仕組んだものではないか…。

細川嘉六は一高・帝大法学部卒業なのですが、一高に入る前は、苦労の連続です。貧しい実家に育ち、なんとか苦労して高等科を卒業したあと、尋常小学校の代用教員を1年ほど勤めた。その後、上京し、氷屋・納豆売り・司法省雇い、そして新聞配達しながら中学校を卒業して、ついに一高に入学するのです。小野塚喜平次という政治学者の書生となって、大いに助けてもらっています。この小野塚喜平次から細川嘉六は大変気に入れられ、死ぬまで、暖かく面倒をみてもらっています。

 細川嘉六自身は生意気ざかりの書生だったにもかかわらず…です。きっと性格的にウマがあったのでしょう。

 一高時代には、かの有名な新渡戸(にとべ)校長弾劾演説をしたとのこと。

 細川嘉六が東京帝大に入学したのは、明治43年の日韓併合のあった年で、26歳だった。吉野作造は、小野塚教授の弟子になる。

 細川嘉六は、フランス(パリ)、ドイツ、イギリス、そしてソ連(モスクワ)に行っている。モスクワでは片山潜と会って「好かれた」とのこと。理論的だし、はっきりモノを言うところが評価されたのではないでしょうか…。

細川嘉六は、ゾルゲ事件で死刑になった尾崎秀実(ほつみ)とも親しく、お互い評価していたようです。

 細川嘉六は、3年余りの獄中生活で、本を読んで、大いに勉強しています。「何をくよくよ川端、水の流れを見てくらす」。こういう心境だったとのこと。

 そして、日本敗戦を予測し、出獄後の活動に備えて、健康に留意していたそうです。いやはや、なんともすさまじい執念です。

 当時は、親族が弁当を差し入れるのが許されていました。弁当箱に、庭の木々の花を載せて、妻は庭の様子と季節感を伝えていたそうです。

 大変勉強になる自伝でした。細川嘉六は、戦後、共産党の国会議員を2期つとめ、GHQより罷免されました。この自伝を読んで、たいした人物だったんだなと心より敬服しました。

 

(2024年5月刊。2420円)

 チューリップが咲きはじめました。ついに春到来です。朝は2本だけでしたが、午後から庭に出てみると、8本ほど咲いていました。

 チューリップのほかは、小さな黄水仙が庭のあちこちに咲いています。ツルニチニチソウは、まだこれからです。

 事務所の通勤途上には、白いコブシの花が満開になっています。花粉症さえなければ春が一番なのですが、目が痛くて、鼻水が出てティッシュの箱を抱きかかえながら、法律相談に乗っています。

宇宙暗黒時代の夜明け

カテゴリー:宇宙

(霧山昴)

著者 島袋 隼士 、 出版 講談社ブルーバックス新書

 自分が死んだあとの世界はどうなるんだろう…と考え悩むのが馬鹿らしくなるのが宇宙の話です。そこでは、たかだか100年しか生きられない人間と違って、何万年どころか、何億年というスケールで話が展開していきます。太陽があと50億年もすれば消滅するというとき、もちろん地球も消滅するわけですが、あらゆる生命体も消えてなくなり、恐らく原子状態になってしまうのでしょう…。

 この本の冒頭部分に、鎌倉時代に藤原定家の書いた「明月記」に1054年11月8日、超新星の爆発(かに星雲)を目撃したという記事があることが紹介されています。明月記に書いてあるのを超新星の爆発と結びつけた人は本当に偉いと私は思います。

宇宙は静止した永遠不変の存在ではなく、時間とともに膨張したり収縮したりする可能性がある。これがフリードマン方程式。

 ところが、かの有名なアインシュタインは、宇宙は永遠に不変なものと考えたといいます。もちろん、今では間違いとされています。

星までの距離をどうやって測るかというと、星の明るさが変わる周期とその星までの距離との間に対応関係があるから。なので、星の変光周期を測定したら、その星までの距離を測定できる。どういうことなのか、まったく分かりませんが、ともかく星までの距離は、そうやって測られているのです。

 ダークマターは、電磁波を一切、放射・吸収・反射しない。つまり、光では決して直接見ることはできない。それは「暗黒」というより、「透明」。

 銀河団の質量のうち80~90%がダークマター。銀河団は太陽の100~1000兆倍もの質量をもっているが、そのうちの大半がダークマター。

 宇宙全体の27%がダークマターで、68%がダークエネルギー。残る35%がバリオン、つまり私たちの身の回りの物質。なので、私たちは宇宙の成分の95%を今なお、理解していない。

ブラックホールは、「穴」ではなく、非常に高密度な天体である。

 ファーストスターは、ビックバンから数億年後、宇宙がまだ幼い時代に生まれた。

 重力波を検出するのは、とても難しい。理由は信号の弱さにある。重力波は時空を伝わる波で、重力波が通過すると、時空の長さが変化する。その変化を重力波の信号として受けとるが、その変化する時空の長さは「太陽と地球の距離が、水素原子1個分の大きさだけ変化する」という、途方もなく小さなもの。想像を絶する小ささのレベルですね…。

 著者は東北大学を卒業して名古屋大学で博士号をとったあと、パリ天文台につとめ、その後、中国の北京・雲南で研究してきました。現在も雲南大学の教授です。天文学者って、世界をまたに歩く仕事なんですね。

 そして、宇宙は謎だらけだから研究が面白いとのこと。きっとそうなのでしょうね。門外漢の私には、この新書のように、ここまで分かったという素人向けの解説書を引き続き読んでみたいと思っています。

(2025年11月刊。1100円)

生態学講義

カテゴリー:生物

(霧山昴)

著者 中田 兼介 、 出版 羊土社

 生き物を知れば、人間理解も進む。50年以上も弁護士をしていて、人間社会のさまざまなトラブルにぶつかってきました。どうして、そうなんだろう……と、何度も思い悩んだことがあります。そして、いろんな生き物の本を読むと、なあんだ人間って、特殊な生物なんかじゃないんだと気づかされます。

 たとえば、オシドリ夫婦とよく言われますが、鳥では「不倫」はあたり前のことです。そして、チンパンジーは「政治」をします。2位と3位が連合して1位のオスを蹴飛ばしてしまいますが、永続するわけではありません。同じようにやられる危険はいつだってあるのです。

そして、人間は今やAI頼みになりつつありますが、道具を使うのは猿だって同じです。宮崎の幸島のサルは海で芋を洗って食べますし、カラスはすべり台ですべって遊びます。

 それでは、人間はいったい何が他の生物と違うのか、はっきりした境界線は本当にあるのでしょうか……。

西日本のゲンジボタルは、東日本のホタルの倍の速さで光を点滅させる。5月連休明けになると、わが家から歩いて5分の小川にホタルが明滅するのを見ることができます。自然豊かな田舎に住む良さの一つです。

 アメリカ東部のホタルは、密度が少ないときは、てんでバラバラに光っているけれど、15匹以上集まると、全体が同調して周期的に光るようになる。そんな光景を見たいものです。

 ヒトの祖先は、90万年前、1280人に減って絶滅寸前の状態が10万年も続いた。ええっ、そんなこと聞いたことがありません。いったい、どうしてそうなったのでしょうか、そして、どうやって危惧を脱出できたというのでしょうか……。ぜひ知りたいです。

 すぐ目先に役に立たないことでも、いつかはきっと役に立つことがある。世の中って、そういうものでしょ。目先の原発振興金に目がくらんで、放射線廃棄場処理施設を誘致するなんて、無責任きわまりありません。株主配当しか考えないような投資家に足元をすくわれたらいけないのと同じです。

日本人の平均身長は1980年をピークに縮みはじめていて、2014年生まれは、男性で1.5センチ、女性で0.6センチ短くなると予想されている。出生時に低体重だった子どもが増えたのが原因。これも環境の影響。ちなみに、私の身長はかつて167センチだったのが、今や2センチ以上にも縮んで、165センチを切っています。残念です。腹回りだけが成長していますので、今ではこちらの「成長」をくい止めるのに必死です。

 オウムによく似たヨウムは賢い鳥の代表ですが、お互いを助けあう利他的行動をします。前に助けてもらったら、次に自分が助けるほうにまわるというのです。すばらしいです。

 アミノアリには女王アリがいない。だけど、ふつうより大きなアリが、たくさん卵を産むけれど、ほとんど仕事をしない、そんなアリがいるけれど、攻撃されることもなく、協調・共有している。いろんな形態の生き物がいて、「みんな違って、みんないい」という金子みすずの世界なのですね。その意味で、トランプは最悪ですし、そのトランプに迎合するばかりの高市首相には心を許すことができません。

(2025年11月刊。2420円)

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