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クロコダイルに魅せられて

カテゴリー:生物

(霧山昴)

著者 福田 雄介 、 出版 みすず書房

オーストラリアでワニの生態を研究し、ワニの保存にも努めている日本人学者の苦難いっぱいの活動が生き生きと紹介されている本です。

ワニというと、見るからに恐ろしそうですが、人を襲うことのないワニもいるそうです。でも、イリエワニの大きなオスは、人間を引きずり込んで溺れ死にさせて食べるようなので、やはり用心しないといけません。

ワニ革を使った高級バッグのために卵から養殖して生産する業者がいます。野生のワニだと傷があったりするので、養殖ワニでないとワニ革の高級バッグはダメだそうです。また、ワニの肉を食べるにしても養殖に限るとのこと。固そうで、あまり美味しい感じではありませんが、どうなんでしょうか…。

ワニによって子どもが犠牲になることがたまにあり、そのとき世論は絶滅しろと盛り上がるけれど、ライオンやオオカミと同じで、ワニも絶滅させてはいけないと著者は考えています。その点は、門外漢の私にも大いに理解できます。

著者は高校1年生のころ、登校拒否状態になっていたとき偶然にオーストラリアのワニが大自然の中をゆっくり泳ぐ映像をテレビで見て、オーストラリアでワニの専門家になろうと思ったのでした。それからは一念発起して勉強し、ついにオーストラリアの大学に入ったのです。すごいきっかけですよね…。

私は、NHKテレビの日曜日の「ダーウィンが来た」を欠かさず楽しみに観ていますが、そこに登場する学者・専門家の解説にいつも感嘆・驚嘆しています。憧れの気持ちで一杯になります。

ともかく、著者は憧れの気持ちを本気で努力して実現したのですから、畏敬(いけい)の念さえもってしまいます。

さて、ワニです。目測した頭の長さを7倍すると、ワニの大きさになる。これは実測しても、ぴったり7頭身だったのです。

ワニ革のバッグをつくるためワニの卵を毎年2万5千個まではとっていいということになっていたそうです。ワニの養殖産業は巨大化しているようなのです。きっと儲かるのでしょうね。

オーストラリア北部のノーザンテリトリー全域で10万頭のワニが生息している。オーストラリアにとって、ワニは観光業と、養殖業を支える重要な天然資源になっている。

ワニが空中のエサを食べようと浮き上がる様子を見せる観光船まであるそうです。野生のワニに餌づけしているようで、著者は批判的です。まあ、見てるだけなら面白いのでしょうが…。

ワニによる犠牲者の多くは20代、30代の男性。肝試しと称してワニのいる沼や川で泳いで襲われる若者がいるそうです。どこの世界でもバカな若者がいるのですね…。困ったものです。

ワニは主として川や沼に棲んでいますが、海を泳ぐことも出来るそうです。

ワニにGPSを取りつけて移動する様子を調べてみると、20日間で400キロの海岸線を海流に乗って移動し、元の場所に戻ってきたり、途中で迷子になったりすることも判明したそうです。面白いですね。

ワニ(クロコダイル)のことを少し知ることができました。

(2025年11月刊。3146円)

江戸の刑事司法

カテゴリー:日本史(江戸)

  

(霧山昴)

著者 和仁 かや 、 出版 ちくま新書

江戸時代には、もちろん今の六法全書のような便利なものはありません。しかし、それに代わるものとして公事方(くじかた)御定書(おさだめがき)がありました。ただし、この法典は一般には公開されないどころか、閲覧を許された役人も限られていたのです。。すなわち、あくまでも役人の内部文書というものでした。しかし、実際には当時から多くの写本が作成されて民間にも流布していました。その結果、庶民を含む相当広い範囲に、その内容まで知られていたのです。

公事方御定書は上下2巻から成り、刑事法・民事法そして訴訟法的な規定も含む総合法典であった。

この本(新書)は、「御仕置(おしおき)例類集」を素材として取り上げ、江戸の犯罪とそれに対する処罰の実際を紹介している。

下人奉公をしていた新助に主人の妻・かめから恋文を手渡された。主人の妻と不義密通していたことが露見すると重罪となるので、新助は身を退(ひ)いた。ところが、かめは思い詰めて自害(自殺)してしまった。さて、新助に罪はあるのか…。

奉行所は不義密通はなく、単に言葉をかわしただけと認定した。しかし、性行為だけが密通ではない。事件を最初に担当した大坂町奉行は、新助は死罪にすべしとし、老中に提案した。このころ、死罪とするには老中の承認を要した。老中は、評定所に評議を命じた。しかし、評定所は死罪とした。老中は納得せず、評定所に疑問を投げかけた。それでも評定所が死罪相当の結論を変えなかったことから、ついに老中も折れ、新助の死刑は確定した。

ええっ、密通がなく、新しく言葉をかわしたくらいで、たとえ主人の妻が自害してしまったとしても、奉公人を死罪とするなんて、あまりに 可哀想ですよね…。

 寺につとめていた甚吉は住み込みで下男奉公にしていた。ところが働きぶりがよくないとして、ある日、暇(ひま)を出されてしまった。寺から追い出されると、甚吉は衣食住のすべて

を喪うことになる。せめて衣類だけでも取り戻したかったが、寺は応じない。そこで、困った甚吉は寺に忍び込んだ。暗闇のなか、目当ての品物を見つけるため火打ち石で火をつけ物置小屋を見てまわっているとき、火が小屋の中のワラに燃え移り、小屋が焼失してしまった。公事定御定書には、盗んだものが10両以上の価値があったら死罪と決めている。最初に取調を担当した大津代官は、甚吉が窃盗の目的を果たしておらず、過失で物置小屋を焼失させたのだから「中追放」とした。これに対して、評定所は、侵入については、故意(明確な犯意)があったと認定した。そして結論として「入墨のうえ御重追放」とした。奉行も評定所も一般的には可能な限り妥当な刑罰を志向していたことがうかがえる。

いやあ、そうなんですか…。切り捨て御免のような一刀両断の法の裁きというもんじゃないのですね…。江戸の司法でも、まずは物的証拠を確保し、そのうえで自白を得るべきだという意識が存在していた。なーるほど、です。

江戸の司法手続のうち民事紛争においては、なるべく和解(内済ないさい)で解決するよう仕向けられていた。まあ、いわば強制調停といった感じですね…。それでも、庶民は、手数料のいらない司法手続でしたから利用するのに、ためらいはなかったのです。

奉行から伺いが来ると、老中は、文書管理の専門職である「奥右筆(おくゆうひつ)」に調査をさせて検討したのでしょう。それなりの手続がとられていたわけなんです。

こうやってみてくると、江戸時代の司法は明治以降の日本の司法と連続性があったというのに、何の不思議もありません。大変勉強になる新書でした。

(2025年11月刊。990円)

明治維新という建国神話

カテゴリー:日本史(明治)

(霧山昴)

著者 青山 忠正 、 出版 吉川弘文館

 徳川将軍のもとに編成された大名家は、均一化された制度としてあったのではない。たとえば、毛利家は長門・周防(すおう)2カ国を領分とし、島津家は薩摩・大隅・日向二郡を領分とする「国主」(いわゆる国持大名)だった。およそ270家の大名家のうち国主は十八家しかない(俗にいう「十八国主」)。

 慶応3(1867)年10月に将軍慶喜がした「大政奉還」において、何を「奉還」したのか…。「大政」奉還と「政権」奉還は、何が違うのか…。

 十四代将軍家茂(いえもち)は領知宛行状を発給したが、十五代将軍慶喜は領知宛行状を発給していない。

 将軍慶喜は、「政権」返上したあと将軍の辞表も提出した。すなわち幕府はみずから消滅した。しかし、薩長にとって、これでは倒幕、すなわち徳川家の勢力を排除する目的が達成できない。慶喜が新政府に『議定』という要職で入るのを排除する必要がある。そこで、慶応4(1868)年1月3日から鳥羽・伏見の戦いが始まったのを西郷隆盛は喜んだ。薩長側は、徳川家を実力で排除したかったのである。

 孝明天皇は統仁(おさひと)というのを初めて知りました。睦仁(むつひと)とか明仁(なるひと)と読むのと同じ系統ですね。

 孝明天皇は外国嫌いで、攘夷にこり固まっているとばかり思っていましたが、「無謀の征夷」つまり異国との全面戦争は明確に否定していたのでした。外国と戦っても中国のアヘン戦争のようにみじめに敗北してしまうことを恐れていたのです。

 元治1(1864)年7月の禁門の変において、長州藩は敗退しますが、さらに四国連合艦隊が下関を砲撃する。これは、長州藩を攻撃するというより、攘夷そして横浜開港などを画策している朝廷に翻意を迫るものだった。

 版籍奉還といっても、明治維新に至る経過において徳川宗家一族を滅ぼすような計画は考えられたことも実行されたこともない。徳川家は明治から現代に至るまで健在である。「討幕」なるものは実行されていない。版籍奉還の真の狙いは、「王土王民」の理念を掲げて、あくまでも大名から領知を接収することにあった。

明治1年9月と11月に、公議所を開設するとの指示が出された。合議体は、ずっと名称を変えて構想されていた。ただし、「公議」のベースは、あくまでも大名家である。

明治2(1869)年6月、版籍奉還となり、太政官が知藩事を任命した。知藩事は当初は世襲の予定であったが、非世襲とされた。

明治新政府の「御親兵」として鹿児島から3千人、高知から1千人そして、山口からも4千人、合計8千の兵力を確保する。彼らに給付する家禄は東京府が支給し、兵士としての給与は兵部省が負担する。鹿児島藩としては、それだけ負担が軽減されることになる。

とても広い視野で、幕末そして明治維新の動きを分析していて、大変勉強になりました。 

 

(2026年1月刊。2200円)

AI時代の司法を考える

カテゴリー:司法

(霧山昴)

著者 角田 美穂子ほか 、 出版 弘文堂

 私はまったくAIを使えませんし、今さら利用したくもありません。ところが、この本にはAIの利用で「できること」をしない司法というのは、国民の期待、あるいは国民の信頼を裏切るもの、としています。

 さらに、「老犬には新しい芸を仕込めない」ものだが、「老犬にも新しい芸を学ぶ機会を与えること」が非常に重要だとします。うひゃあ、で、でも「老犬」の私には、今さら「新しい芸」を身につける意思も能力もないのです。

 裁判官が判決を書くにあたって、AIを使っていいのか、それとも許されないかも論じられています。南米のコロンビア共和国の裁判官が判決文にChatGPTとの「会話」をそのまま記載した(2023年1月30日)ことが話題になっています。判決文を起案するとき、AIを参考にするのは私も許されると考えています。ただし、双方の準備書面を全部インプットして判決文をAIに書かせているのはまずいとされています。私も同じ考えです。その点は、ルーティン的な事件だったらAIにまかせていいのかということでもありますが、この本は消極的です。結局、裁判というのは何のためにやっているのか、という問題だとされています。とても共感を覚えます。

 判決文を生成AIに書かせるのは危険が大きい。人の判断が形骸化してしまう危険がある。これは裁判官の能力をむしばんでしまう。そして、AIの判断に対する批判的な判断が訓練されない。

 判決をもらった当事者から、「裁判官が判断したと言ってるけれど、AIに書いてもらったんでは?」と言われたとき、裁判の正統性がゆらいでしまうのではないか……。

 生成AIをうまく使うためには、法律家としてつちかった経験と知識がそれなりに必要になる。

 日本の場合、判決文が全文インターネット上で公開されているわけではないし、裁判の4割は和解で終了しているが、その和解調書は基本的に公表・公開されていない。すると、AI利用には大きな限界があることになる。

 イギリスは人口6000万人の国だが、毎年1500万件もの紛争が民事・家事の裁判所に持ち込まれている。これは驚きですね。日本でいう非訟事件も恐らく含まれているのでしょうね、きっと……。それでも、1500万件とは、多いです。

 アメリカ・ニューヨークの弁護士がChatGPTが作成した6つの架空の判例を引用した準備書面を裁判所に提出して懲戒処分を受けたことは有名です。AIはそんなことまでしてしまうので、弁護士はAIに頼りきりにならず、さらに深く慎重に検討する必要があります。

 GPTには、ハルシネーションと呼ばれている。平気で嘘をつく現象が起りうる。なんとなく正しいような文章があっても、細かく見ると、実は間違っていたりするので、結局、精査する必要がある。人間の手による作業が必要になるので、同じだけの時間がかかってしまう可能性がある。これは、とても疲れることでもあります。

 AIは便利だけど、怖いものだと改めて認識しました。

(2025年12月刊。2970円)

ブラック・スノウ

カテゴリー:日本史(戦前)

(霧山昴)

著者 ジェームズM・スコット 、 出版 みすず書房

 1945年3月10日、東京は300機ものB29によってほとんど焼失し、10万人が亡くなり、100万人が焼け出されてしまいました。これは、当時38歳のカーチス・ルメイ将軍の指揮によるものです。

 戦後、日本はこの大虐殺を指揮したカーチス・ルメイ将軍に勲章を送りました。1964年のことです。それも、なんと最高の勲一等旭日大授章です。よくぞ罪なき市民(日本人)10万人を殺していただきました。日本国として深く感謝しますというわけです。まさしく日本人(正確には日本政府)の奴隷根性をよくあらわしている勲章です。とんでもないことではないでしょうか……。

 カーチス・ルメイは、この無差別じゅうたん爆撃によって、日本を「暗黒時代」に戻すと高言していました。そして、ベトナム戦争のとき、同じくカーチス・ルメイはベトナムを「石器時代」に引き戻すと断言したのです。また、ケネディとフルシチョフのキューバ危機のとき、カーチス・ルメイは核攻撃をためらうなとケネディに進言してもいます(幸いにも、ケネディはその進言を却下しました)。

 その後、調子に乗ったカーチス・ルメイはアメリカ大統領選挙にジョージ・ウォーレスという右翼候補の副大統領候補になりましたが、思慮に欠ける発言を繰り返したため、メディアの嘲笑の的となり、ついには「ジェット爆撃機に乗った石器時代人」とまで風刺され、戦時中の英雄という評価は吹き飛んで、1990年に死ぬまで悪評に悔やんだ。本人も「英雄から役立たずに転落した」と語っていたそうです。日本人がどんなに無惨に死のうが、苦しもうが、まったく良心の苛責を感じなかった男の哀れな顛末です。

 この本は、B-29がなかなか実用化しなかったこと、非武装の市民に対する大量無差別爆撃は犯罪ではないかという良心のとがめを感じていたアメリカ軍のトップもいたことを明らかにしています。

 この本には書かれていませんが、非武装の市民に対する無差別爆撃を世界で初めて実施したのは、日本軍なのです。重慶への無差別じゅうたん爆撃です。英米軍によるドイツのドレスデン無差別攻撃もひどいものですが、カーチス・ルメイは、日本全土を焦土にする目的で、執拗に最後まで実施しました。そして、昭和天皇が、交渉を有利にするため、どこかで必勝の一撃をアメリカ軍に加えたいと粘ったのも、日本人の被害を増大させる原因となりました。

B-29の開発費用は37億ドル。そして、実戦に使われはじめても当初はエンジン不調などで、うまくいかない機が続出した。東京大空襲は、低高度(1600メートル)なので、日本軍の対空砲火によって70%を失う恐れがあると見込まれていたのです。そこをカーチス・ルメイは強引に押し切ったのでした。賭けに勝って英雄となったわけです。

 3月10日の東京大空襲の被害にあった早乙女勝元氏の本は私も読みましたが、著者は、早乙女氏ほか日本人の被災者からも話を聴いています。

 戦争にならないようにするのが政治家の責務だというのを痛感させられます。好戦タカ派の高市首相にはぜひ読んでもらって、頭を少し冷やしてほしいと思いました。

 

(2025年12月刊。4620円)

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