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イスラエル・パレスチナ紛争をゼロから理解する

カテゴリー:中近東

(霧山昴)

著者 イラン・パペ 、 出版 河出新書

 アメリカとイスラエルは交渉中なのに突然イランを攻撃し、ハメネイ師をはじめ、軍の中枢幹部を一挙に殺害しました。本当にひどい話です。国際法違反は明らかです。ところが、高市首相は「法的評価は控えたい」と国会で答弁し、トランプ追随を明らかにしました。それどころか、イランを非難するのです。許せません。

 アメリカのトランプ大統領は国際法なんか知らんと高言し、「力による世界支配」にまっしぐらです。そして、日本の高市首相はトランプのそばでピョンピョン飛びはねて卑屈にへりくだるだけで、次々にアメリカの不要不急の高額兵器を購入し、日本国内では軍需産業を露骨に優遇しています。強大な軍事力を持てば戦争を回避できるという論理が成り立たないことを今回のイラン爆撃は示しています。それは戦争を招き入れるだけなのです。

 日本がすべきことは、軍事に頼らない、平和的な外交力を強めること。それしか私たちの平安と安全を守ることは出来ません。

 ハマスの前身はムスリム同胞団の軍事部門で、1987年12月に創設された。第一次インティファーダの発生直後のこと。ハマスが躍進したのは、2004年11月にPLOのアラファートと議長が死亡したあとのこと。アラファートの死亡も、イスラエルに毒を盛られた疑いが濃厚とのこと。

 イスラエルのネタニヤフは2021年3月に敗れたが、2022年11月返り咲いた。

 今や、イスラエルには本物の左派はいない。少数派はいても主流派ではなく、イスラエル政府の掲げる政策を変える力はない。イスラエルにも、ネタニヤフに反対する勢力はいると思いますが、圧倒的に少数のようです。

 高市自民党は、国会を牛耳っていて、予算審議の充実なんて必要ないと断言し、数を頼んで強行採決を重ねています。あまりにも国会を軽視していますが、「サナエちゃん、がんばれー」と叫んで声援する一般市民がいること、少なくないことには呆れるというより怖いです。膚寒い思いをしています。

 パレスチナは無人の土地だったという神話はまったくの間違い。ユダヤ人国家がパレスチナに建設されたのは、ひとえに大英帝国の国益にかなったから。パレスチナには多くの村が何千年も前から存在していた。パレスチナが広大な砂漠だったというのも誤り。パレスチナに決して砂漠ではなかったし、人々は遊動民(ノマド)でも未開人でもなかった。

 アラブ系ユダヤ人は、イスラエルの右派政党を支える有権者集団として最大規模となっている。パレスチナ人に対する暴力をだれよりも声高に主張することも多い。シオニズムを熱狂的に支持する最強硬派として身の証(あかし)を立てた。

 なるほど、ですね。よくある歴史のパターンです。弱い者は強い者に頼らざるを得ませんからね…。

 著者はユダヤ系のイスラエル人歴史家です。イスラエルにいられなくなったとのこと。現実は厳しいのです。それにしても、イラン攻撃は直ちにやめてほしいです。戦争があたり前の世の中って、怖すぎます。高市首相は、アメリカに対して国際法違反の戦争を止めるよう、きっぱりモノ申すべきです。

(2025年11月刊。1100円)

社会主義都市ニューヨークの誕生

カテゴリー:アメリカ

(霧山昴)

著者 矢作 弘 、 出版 学芸出版社

 素晴らしい本です。わずか180頁ほどの本ですが、中身がぎっしり詰まっていて、読み進めるほどに勇気と確信が湧いてきました。 被疑者国選弁護人として、警察の留置場前の廊下で、前の弁護士2人の面会が終わるのを待ちながら読みふけり、自宅に持ち帰って読了しました。すっきりしました。爽快な気分になりました。

 アメリカのトランプ大統領が、ベネズエラに続いてイランを攻撃して、国際法を平然と破っているのに、日本の高市首相は批判もしない。同じ日本人として恥ずかしい限りです。でも、今や諸悪の根源はアメリカ、そしてトランプです。プーチンのウクライナ侵攻を非難する日本政府がトランプのベネズエラとイラン攻撃を批判できないなんて、許せません。

ところが、そんなアメリカにも希望はあるのです。34歳のイスラム教徒で、両親がインド系である青年がニューヨーク市長になるなんて、トランプが毛嫌いしたのも当然です。でも、マムダニ市長は当選してまもなく、ホワイトハウスを訪れ、トランプに会って、政策実現への協力を少なくとも表面上、取りつけました。トランプはマムダニ市長と会見したあと、なんと、「素晴らしい市長になるだろう」と言って協力を約束したのでした。それを言わせるほどの素晴らしい人柄だということですよね、きっと。

 この本を読むと、マムダニが市長選挙で公約したことは、彼が初めて言い出したことではないことがよく分かります。それは、ニューヨークの家賃の凍結、市内を走るバスの無料化、保育料の無料化などです。ニューヨークは家賃がべらぼうに高いのですね。収入の半分を家賃の支払いにあてている夫婦が少なくないのです。家賃が30万円もしたら、それはそうでしょうね。東京も都心だと同じでしょう。

 そこで、マムダニは家賃を統制できるアパートの大量建設を打ち出しました。これもなかなか大変と思います。そして、バス運賃の無償化。バス会社の収入減は、ニューヨーク市の財源から補填(ほてん)するのです。さらに、高い保育料を払えないため、若い夫婦はニューヨークに住めない。そこで、保育費を無償化する。財源は金持ちに課する税率を引き上げる。

 そんなことをしたら、金持ちはニューヨークを逃げ出してしまい、結局、税収増にならないという批判があった。しかし、現実には少しの税率アップで逃げ出すような金持ちはいなかった。やはり、ニューヨーク市のほうが教育・文化施設が充実していて、似た境遇の共同体も存在するので、そこから離脱はできないのだ。

 マムダニ市長について、日本のマスコミは「急進派左派市長」と決めつけるが、その実体はヨーロッパの社会民主主義レベルのリベラルである。

若いリベラルな市長は、ニューヨークだけでなく、シアトル、ボストン、シカゴ、アルバカーキ、デトロイトなどにもいるようです。地方からアメリカは変わりつつあると言えるようです。頼もしい限りです。日本でも、かつて、革新自治体が全国に続出したことを思い出します。

 マムダニは、古い6階建の家賃管理アパート(賃料が月2300ドル。これは平均より安い)に住んでいる。車を持たず、地下鉄とバスで移動する。

マムダニの父親はコロンビア大学の教授で、息子にこう言った。「私はウガンダ(アフリカ)ではインド人だった。インドではウガンダ人だった。アメリカでは、その両方。でもマイノリティだからこそ見える世界がある」

母親はインドに生まれ、ヒンズー教徒で、映像作家として著名。

市長選挙では10万人ものボランティアが、160万戸以上を戸別訪問し、200万回以上の電話作戦を繰り広げた。もちろん、SNSも駆使した。

 マムダニの公約の一つに公営のグローサリーストア(食料雑貨店)をつくることもある。買物難民のニーズにこたえ、価格を抑える店。

 日本でも共産党が「タックス・ザ・リッチ」を訴えましたけれど、残念ながら時の話題になりませんでした。でも、スーパーリッチに対する課税を強化して、そこから増えた税収を庶民一般のために使う政策は、日本でもすぐにやってほしいことです。「103万円の壁」なんてことより、よほど役に立つ政策です。

 大変勉強になりました。いまの日本で、高市首相の嘘とごまかし、軍事最優先のトランプの言いなり政治に真向から闘いたい人の心をきっと励ましてくれる本として、強く一読をおすすめします。

(2026年1月刊。2420円)

ルポ特殊詐欺無法地帯

カテゴリー:社会

(霧山昴)

著者 藤川 大樹 、 出版 文春新書

 特殊詐欺は相変わらず猛威をふるっています。何千億円もの大金が暴力団に流れ込んでいるのです。日本の警察は、本気になって捕まえようとしているとはとても思えません。

電話をかける「かけ子」の集団は、今やミャンマーに置かれているようです。そこに体当たり取材を敢行した状況が紹介されています。ミャンマーのほか、先日はインドネシアにもあるという報道がされていましたし、カンボジアにもあるようです。詐欺集団は摘発を免れるため、カンボジア警察に1ヶ月3万ドルを支払っているとのこと。

2025年5月、カンボジアで特殊詐欺に関わっていた日本人29人が拘束されたことは耳新しい出来事でした。カンボジアで、特殊詐欺拠点が広がっているのは、政府・与党の「腐敗」が背景にある。カンボジアでは、15万人以上が特殊詐欺に従事しているとみられている。まさしく、一大産業と化しているのです。

同じく、ミャンマーにも40もの特殊詐欺拠点があり、10万人が従事している。そこでは中国系犯罪組織が取り仕切っていて、軍隊と結びついている。日本人をリクルートするときの甘いコトバは…。

「月給30万円(2千ドル)。寮完備でまかないあり」

「仕事をしながら、英語とタイ語が学べる」

これに惹かれて、のこのこ入っていくと、厳しく管理された閉鎖社会に閉じ込められる。1日14時間半も働かされ、ノルマを達成できないと、殴られ、電気ショックを受けさせられる。まさしく現代の奴隷ですよね。そして、奴隷状態から脱出できるためには、親族が大金を積む必要があります。そこにも、またビジネスが成立しているのです。なんという底知れぬ恐ろしさでしょうか。

 日本で仕事がないので、海外でおいしい仕事があると騙されて出かけると、パスポートを取り上げられ、オリの中に閉じこめられ、詐欺の電話かけをやらされるのです。

 それにしても、詐欺電話でひっかけても、そのお金を受け取る人間が必要です。しかも、瞬時にしなければいけません。このマッチングをするのは日本でしないと無理ですよね。すると、日本にも相応の組織がフル稼働しているはずです。警察は、そこを摘発すべきだと私は思うのですが…。

(2026年1月刊。1210円)

細胞を間近で見たらすごかった

カテゴリー:人間

(霧山昴)

著者 小倉 加奈子 、 出版 ちくま新書

 奇跡のようなからだの仕組み、というのがサブタイトルですが、本当に人間の身体内は毎日、奇跡が起きていると私は考えています。だって、人間の体内で異物や細菌をやっつける薬を組成したりしているのですからね……。

 この本(新書)が読みやすいのは、分かりやすいマンガカットがついていることによります。口から肛門までの消化管の長さは、実に9メートルもある。

年齢(とし)をとると、だんだん味覚オンチになるのは、味蕾(みらい)が減るから。乳児のときには1万個あるのが、大人になると、5000~7500個と半減し、さらに加齢によって減っていく。

辛味であるカプサイシンは、痛覚受容器で感じるため、味覚には含まれない。

肝臓は、とても大きな臓器で、血液がたくさん流れ込む。その大きさを利用して、身体全体を流れる血液の量を調節する作用がある。胎児のときには、肝臓は造血器官として機能し、赤血球を中心につくる作用がある。

 小腸は3メートルの長さがあるが、ひっぱると、倍の長さになる。そして、表面積は60坪にもなる。

大便の3分の1は、細菌や、その死骸から成っている。

腸内フローラは、1000種類100兆個もいる。腸の状態は、健康にものすごく大事。

 腎臓(じんぞう)にやってくる血液が濾過(ろか)される量は、1分間に120ミリリットル。この濾過された血液の99%以上のイオン入りの水分は、再度、吸収されて身体に戻っていく。1分間に120ミリリットルは、1日にすると172リットルになるが、そのうち尿として身体の外に排泄されるのは1リットルのみ。

 皮膚は、人体で最大の臓器。総重量は体重の16%を占める。体重70キロの成人男性(私もそうです)では、皮膚は11キロもある。

毛細血管には穴のあいているのがある。これを有窓(ゆうそう)型毛細血管という。この穴を通って、血液とその臓器の細胞たちとの間で、イオンや水、タンパク質や細胞まで、さまざまな物質が交換できるようになっている。

 身体の60%は水分。細胞たちも、組織間液という液体に侵されている。乾燥した細胞はひとつもない。

 リンパ管は、毛細血管のように非常に壁が薄く、たくさんのリンパ液が流れていない状態では、ぺたんこにつぶれるほど、へなへなしている。リンパ管は、動静脈の道と併走するように全身をめぐっているが、最終的には、首の近くで左右の「静脈角」といわれる部位で血管と合流し、リンパ液は血液と一緒に流れていく。

血液の中の好中球は、いったん細菌を貪食(どんしょく)すると、自らも死んでしまう。好中球はとても短命で、細菌を貪食しなかったときも、2~3日で死んでしまう。

 自然免疫は、相手がどんな奴なのかの見極めは後回しして、とりあえず食べて殺してしまう。マクロファージは、血液中では単球と呼ばれる。

ウィルスは、細菌よりもうんと小さく、また自分自身では増殖することが出来ない。必ず宿主の細胞に入り込み、その細胞からちゃっかりいろんなものを盗んで自分のコピーをつくる。

 妊娠5か月の胎児(女の子)の卵巣には700万個もの原始卵胞があり、出産時には200万個の卵胞になっている。一人の女性が生涯に排卵する回数は400回。200万個ある卵胞のなかで、排卵まで行き着いた卵子は0.02%(5000個に1個のみ)。100万分の1の確率で子どもは生まれる。

 人間の体内で、鉄はムダなくリサイクルされている。体内の鉄の総量は3~4グラム。その3分の2が赤血球のヘモグロビン鉄として使われていて、残りは肝臓でフェリチンとして貯蔵されていたり、筋肉中のミオグロビンに含まれている。女性は月1回の月経(生理)で20ミリグラムの鉄を失うので、鉄欠乏性貧血になりやすい。

まさしく人体の不思議そのものを知ることのできる新書です。

(2025年11月刊。920円+税)

本の話はどこまでも

カテゴリー:人間

(霧山昴)

著者 青山 美智子 、 出版 朝日新聞出版

 「本屋大賞」に5年連続でノミネートされた作家が、自分の小説を書いている状況などをありのままに語っている本です。フランスでサイン会をするほど翻訳されて外国にも有名な著者だそうですが、申し訳ないことに私は1冊も著者の本を読んだことがありません。

 でも、モノカキを自称し、小説に挑戦中の身なので、参考になれば…、という思いから手に取って読んでみました。

とにかく、どんどん浮かんでくるアイディアや構想をもとに小説を書いている。好きだから続けてこられた。

 アイディアを思いついたとき、とくにウトウトまどろんでいるような時にワーッとひらめくことがよくあるので、枕元にメモ帳とペンを置いている。メモ帳とペンのセットは、家の中、いたるところに置いてある。焦(あせ)るのは、風呂に入っていて思いついたとき。このときは、湿気で曇った鏡に指で箇条書きしておいて、消えないうちにメモ帳に書き写す。

私もメモ帳とペンは必携しています。車を運転中に思いつくことがありますので、信号停止のときに、ささっとメモ帳に書きつけます。風呂に入っていてアイディアがひらめいたけど、メモできなくて悔しい思いをしてしまったことは何度もあります。

降りてくるアイディアは、ゲリラ豪雨みたいに急に来る。なので、それをちゃんと受けとめる準備が必要。なーるほど、です。でも、私はそこまではいきませんね…。

 ネタ切れの心配はしていない。書けなくなるという不安はまったくない。書かずにいられないという衝動が自分を助けてくれている。

 これは私も同じです。私の場合には、この世で生まれて存在したという証(あかし)をなんとかして、少しでも残したいというところから、書かずにはいられないのです。

 著者が大切にしていることは、登場人物が途中で誰も死なないこと、そして必ずハッピーエンドであること。いやぁ、これは偉いですね。モノカキを自称する私ですが、必ずハッピーエンドで終わるという原則など考えたこともありませんでした。

本を読むと、想像力が働き、自分で自分のことを変えられたり、他人の気持ちをおもんぱかれるようになる。想像力は、他人を理解するうえで、とても必要なこと。著者にとって、自分の書いた本の登場人物は全員実在しているのであって、架空の人ではない。そうなんです。今、私は小説を書いていますが、登場人物はどんどん一人で動き出していくのです。いわば対話しながら書きすすめていくという感じです。

 著者も、自分ひとりで書いているのではないと言っています。

 なるほど、なるほど…、そう思いながら読みすすめました。 

 

(2025年12月刊。1760円+税)

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