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総決算・対日戦犯裁判

カテゴリー:日本史(戦後)

(霧山昴) 

著者 永井 均 、 出版 講談社選書メチエ

そんな人が日本の首相をつとめ、半分の支持率を誇るだなんて。信じられません。歴史はきちんと学び、伝承していく必要があります。

高市首相は歴史から学ばない、学ぶ必要はない、などと嘘ぶいていますが、それはとんでもない首相だということです。だったら、中学、高校で子どもたちが日本史や世界史を学ぶ意味はないというのでしようか。明らかに間違った考えです。

戦犯のABC級犯罪を改めて正確に認識しました。

A級犯罪とは、平和に対する罪、B級犯罪とは通常の戦争犯罪、C級犯罪とは人道に対する罪。ABCとは、戦犯として裁かれる人の地位の上下や罪の「重い、軽い」ではなく、犯罪の区分を意味しているだけ。

BC級戦犯を裁く裁判は51ヶ所で特設された軍事法廷ですすめられた。なお、日本軍将兵ら5700人が訴追され、900人以上の将兵に死刑が科せられた。

ところで、今、アメリカのトランプ大統領がICC(国際刑事裁判所)をしきりに攻撃し、赤根所長まで制裁の対象にしています。ICCは、世界初、唯一の常設国際戦犯法廷。戦争犯罪を犯した個人を国際法によって訴追し、処罰する機関です。日本は2007年にICCに加入し、最大の分担金拠出国です。ICCはイスラエルのネタニヤフ首相に対して戦争犯罪の容疑で逮捕状を発行しています。トランプ大統領は、これが気にいらないので、ICC解体を宣言しているのです。

世界に国際法なんて必要ない、すべて力(軍事力)で決すればいいというトランプ大統領に対して高市首相は「残念」というばかりで、抗議しようともしません。本当に情けない、残念な状況です。

さて、戦犯裁判です。いったい天皇ヒロヒトに戦争責任はないといえるでしょうか。「陸海軍を統帥」する天皇に戦争責任がないはずはありません。ところが、アメリカは、戦後日本の統治を平穏に進めるため、早々に天皇ヒロヒトを免責してしまったのです。

ただし、アメリカ政府の指示は、天皇ヒロヒトの刑事訴追は可能としていたようです。

東京裁判では、多数派の判事は、天皇ヒロヒトの言動に触れることを極力避け、日本軍将兵の戦争犯罪について天皇が上官責任を有するかどうかにも触れなかった。

上官責任と実行者責任という考え方があります。上官の命令にしたがって部下が犯罪を実行したとしても、免責は認めない。ただし、量刑においては考慮されるというものです。

では、天皇ヒロヒトに上官責任がないといえるものなのか…。

東京裁判において、検察側は、天皇不起訴という連合国(アメリカ)の政策に配慮し、天皇の責任問題に触れるのを避けた。

敗戦直後、少なくない日本人は、天皇ヒロヒトは敗戦の責任をとって割腹自殺するものと考えていたようです。少なくとも天皇は退位(辞職)するだろうと予想していたのです。しかし、ヒロヒトはどちらもせず、マッカーサー司令官に会ってぺこぺこしたのでした。

中国での日本人戦犯は、まさしく寛大な処遇を受けました。罪を認め、反省したら、一人も死刑にすることなく、日本への帰国を許したのです。これは蒋介石ではなく、毛沢東の深謀遠慮によるものでした。

ICCは国連から独立した国際機関であって、国連の一部門ではありません。ICCの職員は900人で、専門職の日本人は20人もいないとのこと。公募しているのに応じる日本人の法律家が少ないとのこと。残念です。ぜひ若い法律家(弁護士)に応募して、(ICCで)活躍してほしいものです。

戦犯裁判をトータルで捉えることの出来貴重な本でした。

(2026年1月刊。2860円)

なぜ中東で戦争が終わらないのか

カテゴリー:中東

(霧山昴) 

著者 西谷文和 、 出版 かもがわ出版

ガザの悲惨な状況は活字でしか伝えられません。映像がまったく紹介されないのを不思議に思っていると、イスラエルが日本を含めて世界のジャーナリスト立入の取材を禁止しているからだということを知りました。著者もガザを遠くから眺めるだけの映像にとどまっています。本当に残念です。

イスラエルの多くの国民はガザの人々が水も食料もなく苦しんでいる様子を見て、笑いものにして喜んでいるというのです。これもまた残念な現実です。ガザに住むアラブ人をハマスと同視して、死んでしまえと叫んでいます。むごいことです。

この本には、ネタニヤフとハマスは、ずっと持ちつ持たれつの関係だとしています。むしろ、ネタニヤフがずっと首相であり続けたのはハマスのおかげ、そのためカタール政府と一緒になってハマスに資金を提供してきたというのです。恐るべきことです。でも、ありうる話です。単なるフェイクニュースとは片づけられません。

イスラエルは「ペガサス」という商品を開発販売して、各国に販売している。ペガサスは、ライバルのスマホに忍び込んで、会話や写真を盗み出すという、ハッキングツール。

イスラエルの諜報部隊モサドは、イランの防犯カメラや通信網を完全に把握していて、イランの要人の行動経路や生活スタイルをつかんでいた。イラン戦争初日に、ハメネイ師と革命防衛隊の幹部を一挙に殺害したのは、その「成果」。

しかし、ハメネイ氏らを抹殺すればイランの政治体制が変わるというアメリカの予想はまったく外れだ。イランには反体制派があってもリーダーはいない。労働組合も野党も大きなものはない。デモの核も母体もない。イランの宗教支配体制は複雑で頑強。

イスラエルはヨルダン西岸に住むパレスチナ人全員の情報を得ていて、誰が入り、誰が出ていくのか、リアルタイムで把握できている。

イスラエルはパレスチナ側にあえて危険な工場を立地させている。安全基準も環境基準も守らない。排煙に苦しむパレスチナ住民をあざ笑いながら操業し、利益はユダヤ社会に落ちる。

ネタニヤフは、アメリカのトランプと極右の国内世論に支えられている。

ハマスのテロ行為は絶対に許せません。でも、イスラエルのガザ攻撃はあまりに度を越しています。一刻も早く止め、ガザの人道的復興支援に日本は手を貸すべきです。

写真がたくさんあって、悲惨な現実の一端に触れることができました。

(2026年6月刊。1980円+税)

ナマケモノは意外と早起き

カテゴリー:生物

(霧山昴) 

著者 遠藤 求 、 出版 築地書館

生まれたばかりのイルカの赤ちゃんは、生後1ヶ月間、ほとんど眠らずに泳ぎ続ける。脂肪のない赤ちゃんが冷たい水の中で保温を保ち、サメなどの敵から逃げるため。母イルカと一緒に泳ぐ、命がけの親子リレー。

オオグンカンドリ(海鳥)は、10日間も海の上を飛び続ける。その間、わずか42分しか眠らない(平均12秒の眠り)。そして、陸地に到着すると、1日に12時間以上も眠り続ける。つまり、ギリギリまで睡眠をガマンしているというわけ。グンカンドリの羽毛には撥水性がないため、一度着水すると、飛べなくなってしまう。

女王アリは巣の奥の安全な場所で1日9時間も眠る。働きアリは、1日たったの5時間弱、しかも、1回1分ほどのうたた寝を1日に250回以上も繰り返す。これによって、仲間内の8割は常に起きている状態となる。

マダガスカルの森にすむフトオコビトキツネザルはエサのない乾季には7ヶ月も「休眠」。何も食べたり、飲んだりしない。そのため、尻尾にたっぷり脂肪を蓄えておく。お休み中の体は「超省エネモード」。いつもは1分間に200回脈をうっている心臓が毎分6回にスローダウン、呼吸もなんと10~15分に1回のみ。

ソマリアの地下深く、洞窟にすむ魚は、周期が24時間ではなく47時間。ここには光という手がかりはない。

トナカイは、一度飲みこんだ食べ物を口に戻してもう一度かむ「反芻(はんすう)」をしているあいだ、脳を深い眠りの状態にすることができる。

生物の体内時計は、生き残るための命綱というより、厳しい生存競争を勝ち抜くための、最良のサバイバルツール。

夜間に渡りをしている鳥たちは、星空を利用している。個々の星座ではなく、天の北極を中心として星々が回転するパターンそのものを方位の手がかりとしている。

北アメリカのカナダからメキシコまでの3000キロを飛ぶオオカバマダラ(チョウ)は、太陽の天空における位置(方位角)という視覚情報と、正確な時刻情報という2つの情報を統合し、刻々と動く太陽の位置を補正して正しい飛行方位を維持している。太陽が雲に隠れて見えないときには、「光依存性磁気コンパス」というバックアップシステムを利用する。触角が光を探知する必要がある。

オーストラリアにすむ「ボゴン蛾」という小さなガは、天の川を地図がわりにして、山を横断する1000キロもの大冒険をしている。

ウマは春に、ヒツジは秋に結婚相手を探す。ウマの妊娠期間は11ヶ月、ヒツジは5ヶ月。いずれも春に子どもが生まれる。

仲のよい友達や母娘が一緒に暮らすと、月経(生理)のタイミングがそろってくるという俗説は科学的には間違い。ええっ、そうなんですか…。偶然だったそうです。

面白い体内時計の話が満載でした。

(2026年6月刊。2200円)

天界図像の古代学

カテゴリー:日本史(古代)

(霧山昴) 

著者 塚田良道 、 出版 敬文舎

良く知られていることではありますが、決して広く知られているわけでもないのが、天皇と大王の違いです。自民党の要職にある国会議員が恥ずかし気もなく、「日本は2600年間、万世一系の天皇が支配してきた」だなんて嘘を堂々と高言しています。

しかし、そもそも天皇というコトバは、飛鳥(あすか)時代より前はなかったのです。要するに、7世紀以降のコトバでしかありません。その前は大王(だいおう)と呼んでいました。たとえば、継体大王です。大王の後継ぎが絶えたので、福井のほうから遠い親戚と称する人物をひっぱってきたとされています。

熊本県和水(なごみ)町にある江田船山(えだふなやま)古墳から、出土した鉄製の大刀(たち)に銀で象嵌(ぞうがん)された75文字の銘文が発見された。「ワカタケル大王」に仕える文官ムリテがこの刀をつくらせたとあった。

そして、この本は、この大刀にあった図像の意味を読み解いていくのです。そこには、魚、亀、そして鳥が描かれている。この図像の意味するものは何か・・・。江田船山の魚は、ヘラブナのように胸が張っている。

初期の古墳から発見される特徴的な造物に、三角縁(さんかくぶち)神獣鏡がある。縁の断面を三角形に分厚くつくっている。直径23センチほどの大きさがある。ひとつの古墳から大量に出土するという特色がある。

似ていて別のものとして、三角縁盤龍鏡(ばんりゅうきょう)というものがある。こちらには、魚と鳥の図像が必在である。ただし、その主文様は龍虎。魚と鳥は脇役でしかない。

魚と鳥の歩揺で飾られた装身具を所有する藤ノ木古墳の被葬者は、政権中枢の人であった可能性が高い。

日本列島における初期の三角縁盤龍鏡の魚と鳥は、後漢の画像石の図像を取り入れたものである。

北斗七星は、天の北極を象徴する図像だった。北斗七星は、敵を破り、身を守り、さらに帝王としての地位を示すもの。

古墳時代の倭王と、それに近い王権中枢の人たちは、魚と鳥の天界図像で、その身を飾り立てていた。

古墳時代の倭王は、太陽を自らの上に、あるいは始祖神の地位に置くという思想はもっていなかった。太陽ではなく、天、大きな力、王の北極こそが、そのアイデンティティを示す象徴だった。

よく分からないところが多かったというのが正直なところですが、それでも、昔の人々がどんなことを考え、何を作っていたのかを、外国との比較で推察していくのを読んでいて心地のよくなる本ではありました。

(2026年2月刊。3960円)

川崎のぼる伝

カテゴリー:人間

(霧山昴) 

著者 読売新聞西部本社文化部 、 出版 集英社

「巨人の星」の星飛雄馬はすごいマンガでした。ただ私は同時期の、ちばてつや「あしたのジョー」のほうをよく読んでいました。貧乏学生ですから週刊マンガ雑誌を自分で買って読むことは出来ませんでしたが、東大駒場寮(6人部屋です)にいると、誰かが購入して読み終わったのがまわってくるのです。発売日になると、誰か一目散に買ってきて、自分が読んだものをと次にまわしてくれるのです。便利な仕組みでした。同じようにして、「ガロ」の白土三平の「カムイ伝」「カムイ外伝」も読んでいました。

ちばてつや「あしたのジョー」は、1968年(昭和43年)1月10号に始まったとのことですから、私は、まだ純真そのものの大学1年生です。

川崎のぼるの「巨人の星」が先行していますが、この二つとも梶原一騎(高森朝雄)が原作を書いています。原作者と作画家とのあいだには、目に見えない闘いの火花が散っていたことをこの本を読んで知りました。原作者とキャッチボールをするという感覚だったとのこと。

ちばてつやのほうは、原作を変えてもいいという条件で引き受けたので、かなり自由に描けた。川崎のぼるは原作を変えず、絵の創意工夫で乗りこえた。

川崎のぼるは「ガーン」という擬音、目の中の星という表現、心象風景を絵として表現するのがうまい。

マンガ家は、お互いにみんな影響を受けている。

「巨人の星」第一回は、1966年(昭和41年)4月30日発売の週刊少年マガジンに掲載された。ということは、私は高校3年生で、大学入試の受験勉強に突入していて、マンガどころではなかったと思います。周囲に少年マガジン誌を購読している人もいませんでした。

ファンレターが殺到した。男子は主人公飛雄馬、女子にはライバル花形満に人気が集まった。

昭和42年1月8日号は、なんと少年マガジン誌は100万部突破。私にとっては入試直前なのでそれどころではありません。

野球マンガの形をとってはいるけれど、描かれるのはリアルな人間ドラマ。飛雄馬は普通の少年、むしろ体格は小柄で、投手としてのハンデを背負っている。悩み、もがき、独り狂いながらも厳しい鍛錬を重ね、ライバルとの戦いを通じて成長していく。読者である子どもが自分自身を重ねることができる。

「飛雄馬は、悩んだり、挫折したり、負けたり、友だちへのねたみやうらみ、人間の弱い面があらわれている。読者が身近に感じられる。今までにないリアルな主人公」 

梶原一騎は戦前の少年たちが熱狂した「少年倶楽部」の世界を、高度経済成長の時代によみがえらせた。梶原一騎は、少年マンガで人生論を語った。「巨人の星」の物語の力が読者層の上昇をもたらした。

川崎のぼるの絵には、比類のないリアリティーがある。キャラクターは、ほどよくデフォルメされながら、睫毛や鼻、口元やしわといったパーツは丁寧に描かれている。要は、アップに堪えうる顔だ。身体の骨格と筋肉については、すこぶる写実的で、投げる、打つ、走る、捕球するといったプレーには、先行する野球マンガにはない動的な迫力があった。

川崎のぼるは、内面の心情を表現できるマンガ家。その繊細さはたぶん、少女マンガでの経験が生かされている。私の大学生活は私も渦中にいた東大闘争をふくむ全国の学園闘争の時代でしたが、「右手に朝日ジャーナル、左手に少年マガジン」と言われても、決して言い過ぎではありません。といっても、「朝日ジャーナル」は露骨な全共闘支持でしたので私は嫌いでした。暴力賛美一辺倒なんて、当時も今も私は支持できません。

今、85歳の川崎のぼるは、妻の実家(熊本県天草)から遠くはない熊本県菊陽町に住んでいる。

大変面白く、一気読みしてしまいました。

(2026年6月刊。2530円)

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