法律相談センター検索 弁護士検索

自己愛過剰社会

カテゴリー:アメリカ

著者   ジーン・M・トウェンギ 、 出版   河出書房新社
 ナルシズムが米国文化を急速に侵している。現在、アメリカではナルシズムが流行病にまでなっている。
 深刻なのは、臨床的に障害と認められる自己愛性人格障害で、これも以前より増えている。アメリカでは、20代の10人に2人、全年齢の16人に1人が自己愛性人格障害と診断されたことがある。しかし、この衝撃的な数字は、氷山の一角にすぎない。
ナルシズムは自信に満ちた態度や健全な自負心のことではない。ナルシストは、ただ自信があるのではなく、自信過剰であり、単に自尊心の高い人とは違って、心の通った人間関係を大切にしない。
 ナルシズム流行病を理解するのが重要なのは、長期的に見ると、それが社会に害を及ぼすからである。ナルシズム流行病は、とりわけ女の子に大きい害を及ぼす。10代で豊胸手術を受ける子どもが1年間で55%も増えた。
アメリカ人は自己を賛美したい気持ちが度を超している。アメリカは自己賛美という「万能薬」を服用しすぎて、もはや傲慢とか自己中心などの深刻な副作用が現れている。自信をもとうと急ぐうちに、アメリカ文化は暗く不吉なものへの扉を開けてしまった。
 ナルシストとは、自分を褒めそやす人のこと。自分に酔いしれて誰とも交われなくなり、他者を傷つける。
自己愛性人格障害と診断されるには、誇大癖、共感の欠如、称賛への執着に関連した、長期的行動パターンを表す9つの診断基準のうち、最低5つに該当していることを要件とする。
 ナルシストは、心の奥底から自分を「すばらしい」と思っている。
いじめっ子に必要なのは、他者を尊重する気持ちである。
 ナルシストは、自分を実際よりも賢く美しいと思っている。
人に迷惑をかけるナルシストの行動は「健全」ではない。
ナルシストは物質主義で特権意識があり、侮辱されると攻撃的になり、親密な人間関係には興味がない。
アメリカ文化の中心的な価値観として自己賛美と競争がうまく組み合わさったために、競争に勝つには常に自分を第一に考えなくてはならないと多くの人が思っている。
ナルシストは勝つのが大好きだが、実際に勝者なれるのかというと、ほとんどの場面でそれほどうまくやっていない。
 自信過剰は裏目に出る。ナルシストは苦言を聞き入れたり、失敗から学んだりするのが、ひどく苦手だ。
 CEOにナルシスズム傾向が強いほど、会社の業績は不安定である。
ナルシストは目立つ個人プレーが得意だ。
何かを学ぼうとするときには、多少は自分ができないと思っているくらいいが良い。
子どもが親に従うのではなく、親が子どもに従っている現状がある。現在は多くの子どもが家庭内の決定事項に口を出す。
2008年の経済破綻は、根本的に自信過剰と強欲というナルシズムの二大症状によるところが大きい。高金利の魅力に目がくらんだ貸し手は、自信過剰から借り手が払いきれないほどの高額な住宅ローン契約を結ぶというリスクを負い、借り手は自信過剰からそのような物件をローンで買った。
 アメリカでは強迫性買い物障害の人が60万人いると推測されている。多くの家族が、そのために崩壊している。
 放漫な融資がなければ、買い物依存症は大幅に経るだろう。
 アメリカの消費者は、ただ政府にならっているだけだ。アメリカ政府は、9兆ドルを超す負債をかかえている。
 ナルシズム流行病が続けば、特権意識、虚栄、物質主義、反社会的行動、そして人間関係の不和が増すだろう。
 女子高生の4人に1人が、自分の全裸もしくは半裸の写真をインターネットや携帯電話で送信している。こうした写真は、えてして大勢の高校生に広がってしまう。
世界中で外見重視の風潮が強まっているのは、一つにはテレビの力が大きい。
 モノに執着する人は満足を知らず、すっきりした気分で過ごすことがない。もっとお金が欲しいと思うだけでも精神状態が不安定になる。
現在のテレビドラマは富裕層が活躍する物語だ。
 テレビでは金持ちの有名人の私生活が取り上げられる。
 助け合いは、社会のつながりを強くする接着剤で、特権意識は、その接着剤を溶かしてしまう。
アメリカ社会の現実を論じた本ですが、いずれ日本もこんな怖い状況になるのかと恐る恐るページをめくって読みすすめました。
(2011年12月刊。2800円+税)

太陽と地球のふしぎな関係

カテゴリー:宇宙

著者  上出 洋介     、 出版  講談社ブルーバックス  
 人間の体からも赤外線というエネルギーが出ている。そのため、赤外線カメラで真っ暗闇でも写真をとることができる。
 そうなんですね。人間の体はエネルギーを出し、電気を起こし、体内では薬もつくっているのですよね。不思議です。
人間にとって太陽とは、変わることなく地球を照らしてくれるという信頼感そのものである。しかし、残念ながら、太陽はそんな安定したエネルギー源ではない。
ガリレオ・ガリレイは太陽をずっと観察し、そのスケッチには黒点の形と動きが正確に描かれている。しかし、日の出、日の入り付近のまぶしくない太陽の観察とはいえ、太陽を見続けることが網膜や視神経にいいはずはない。ガリレオは晩年には失明してしまった。
 私の知人にも、昼間の太陽をずっと見つめていて、失明ではありませんが、目をすっかり痛めてしまった人がいます。
 太陽の黒点は、磁場に邪魔されて、太陽の中心部からのエネルギーが上がってこれらない部分である。
 伝書バトは、太陽の高度、気圧、星座、さらには地球の磁場などを組み合わせて、ナビゲーションを総合判断している。天候の悪い夜間飛行のときには、地球の磁力線の方向をつかっている。だから、高緯度に激しいオーロラが舞うと、世界中のハトは混乱してしまう。これはオーロラが美しいから見とれるというのではなく、磁場に忠実なため、オーロラ電流によって世界中の磁場が狂ってしまうことの犠牲者なのである。
人間では、女性のほうが男性よりも地球の磁場を敏感に感じている。ただし、うとうとと眠たい状態では、人間の磁場感覚も働いていない。そして、人間の血液は磁場に敏感に反応する。
太陽と地球、そして生物とりわけ人間の相互関係を知ることができました。
(2011年8月刊。980円+税)
 すっかり春めいてきましたが、庭のチューリップはまだ咲きません。ようやくつぼみの形が出来あがったところです。ミニミニ・ハウステンボスだと自慢しているのですが、今年は3週間以上も遅れています。白梅の隣に、サクランボの桜の白い花が咲いています。ピンクのソメイヨシノのようなあでやかさはありませんが、5月に赤い実がなると心が浮き立ちます。
 今朝もウグイスが清澄な鳴き声を披露してくれました。何度聞いても心が洗われる気のする、妙なるさえずりです。春到来を実感します。

なぜ日本人はとりあえず謝るのか

カテゴリー:社会

佐藤直樹 PHP新書 2011年3月1日
昨年末あるところの忘年会で、アメリカ文化研究家で沖縄民謡の歌い手でもある峯真依子さんと知り合い、一冊の本をプレゼントされた。それが本書である。
著者の佐藤直樹さんは世間学の大家である。世間学とは世間の空気を研究するという不思議な学問である。その学問の本質は、「”ゆるし”と”はずし”の世間論」という本書の副題からも窺われる。
著者は本書の中で6つのキーワードを用いて世間というものを解剖する。それは「うち」「そと」「けがれ」「みそぎ」「はずし」「ゆるし」の6語である。
著者の理論によれば、人は、ふだん「うち=世間という共同体」の中にあって、権利義務ではなく、気配りによって結びついているが、「けがれ=犯罪等の不名誉な行為」があると、「はずし=共同体からの追放」にあい、やがて「みそぎ=服役、謝罪、反省」を行うことにより、「ゆるし=共同体への復帰」を得られるというのである。これは日本に独特の行動様式であり、個人と個人が権利義務の関係で結ばれる西欧の行動様式とは全く異なるというのである。
そういえば、昨年の東日本大震災の時、被災者が決して略奪に走ることなく、食糧配給所で列を作って我慢強く順番を待っている姿が、西欧のマスメディアによって称賛とともに報道された。このような日本人の規律は、法が妥当しない極限的な局面においても、世間の中で生き抜くためには、人に迷惑をかけてはいけないという気配りを欠かせない共同体ルールとしてよく説明できる。
また、著者は日本の司法にも世間学のメスを入れる。「日本の刑事司法の根幹にある「なるべく刑務所には入れない、入れてもすぐに出す」という「ゆるし」の行使にとって、その中心をなしているのは強大な検察官の権限であり、その象徴としての起訴・不起訴を検察官が自由に決定する起訴便宜主義である。」という。そして、著者は、起訴便宜主義とは「まあ、ゆるしてやるか」の制度化である、という。
なるほど、これはうなづける。私がかつて検察の世界に身を置いていた時期、起訴するか、起訴しないかの決裁の場面で、よくこんな会話を経験した。
主任検察官「これこれの事情があるので、今回は許してやりましょう」
決裁検察官「そうだな、まあ、今回は許してやるか」
まさに著者の指摘通りの世界だ。
もともと、世間学とは、世間の空気という形のないものを研究対象とするだけに、実証的な研究に馴染まないという方法論的制約が大きい中にあって、著者は思惟を巡らし、知恵を振り絞って、懸命に世間を目に見えるものにしようと努力している。その努力は、実験や実証ではなく、読み手に「なるほど」と思わせることにより、その正当性を証明する。私も本書に「なるほど」と思わせられるところが多い。著者の努力に敬服する。
さて、話を冒頭に戻して種明かしをすると、本書を私にプレゼントしてくださった峯真依子さんは、実は著者の奥さんである。こうなると、私の興味は、著者と峯さんの私生活の方に向かう。すなわち、世間学の大家の生活は、いかなるものであるのか、内なる世間とはいかなるものか、という点に、である。

くちびるに歌を

カテゴリー:社会

著者   中田 永一 、 出版   小学館
 この小説の舞台は長崎県の五島列島。しかも福江ではなく、上五島です。弁護士の私にとって、この五島は絶対に忘れることができません。というのも、弁護士になった4月のこと、まだ弁護士バッチも届いていないとき、日教組が時の政府から選挙弾圧を受けました。当時、関東に住んでいた私は、なぜか九州・長崎へ応援部隊として派遣されることになったのです。選挙弾圧に対するたたかいの心得だけを先輩弁護士から教えられて、不安一杯のまま長崎へ向かいました。長崎に着くと弁護士が大勢いるのに安心したのもつかのまのこと、長崎県内のあちこちに弁護士は散らばって警察への対策を弾圧の対象となっている教職員に指導・助言することになりました。五島列島へ向かったのは弁護士2人。そして、五島列島には上(かみ)と下(しも)の2ヶ所に分かれます。がーん。なんと弁護士になりたて、まだ1ヵ月にもならない私が一人で修羅場に放り込まれることになったのです。そのとき私は25歳。迎えたほうも、いかにも頼りない若いひよっこ弁護士が東京からやってきたと感じたことだと思います。それでも若くて怖いもの知らずでしたから、中学校の体育館で200人ほどの教職員に向かって演壇から聞きかじりの選挙弾圧への心得を話しました。冷や汗をかきながらの話でしたから何を話したのか、もちろん覚えていません。私の脳裡に今も残っているのは広い体育館に整列している大勢の教職員の不安そうな目付きです。
 幸いなことに上五島では日教組支部の幹部が検挙されることはありませんでした。黙秘権の行使とその意義をずっと大きな声で言ってまわったことと、五島の旅館で食べた魚の美味しかったことは今でもよく覚えています。
 この本は、その五島列島に住む中学校の生徒たちが佐世保で開かれる合唱コンクールに参加・出場するに至るというストーリーです。そのコンクールで優勝するというわけではありません(すみません。結末をバラしてしまいました)。でも、それに代わるハッピーエンドがちゃんと用意されています。
 中学生の複雑な心理状態がよく描かれていて、今どきの島の中学生って、本当にこんなに純朴なのかなあと半信半疑ながら、ええい欺されてもいいやと腹を決めて没入して読みふけりました。
歌があり、手紙があります。15歳のとき何を考えていたのか、私にとっては思い出すのも難しいことですが。15年後の自分を想像して、その自分に手紙を書けという課題が与えられたというのです。
 中学生のころは、大人になって何をしているかなんて、まったく想像もできませんでした。ただ、中学校の同窓会があったら、ぜひ参加してみたいなという気にはなりました。
 泣けてくる、爽やかな青春小説です。あなたの気分がもやもやしていたら、ぜひ読んでみてください。なぜか、気分がすっきりしてくると思います。
(2011年10月刊。2800円+税)

私の五つの仕事術

カテゴリー:司法

著者   谷原 誠 、 出版   中経出版
 「同業の弁護士から『どうしてそんなに仕事ができるの』と言われる私の5つの仕事術」というのが、この本の正しいタイトルです。まだ43歳という若い弁護士ですが、既に25冊もの著書があるそうです。たいしたものです。
自分の決めた目標をやり抜くには、何かを犠牲にしなければいけない。覚悟を決め、捨てるべきものは捨てなければいけない。
 私の場合には、本を読むためにテレビは見ないことに決めました。また、二次会もつきあわないことにしています。これで、自分の時間がかなりつくれます。たくさんの新聞を読んで、日本と世界で起きていることの意味を知りたいので、スポーツ・芸能欄は素通りしてまったく読みません。
 たくさんの仕事を素早くするには、自分の手元にある仕事は、すぐに相手に返してしまうことである。
 自分の器を広げれば、相手が期待する以上の仕事をすることだ。上司に仕事を頼まれたときには付加価値をつけて、上司の期待を上回らなければいけない。これを続けていくと、まわりから評価され、自分の成長にもつながっていく。
仕事でイライラしないためには、相手に期待しすぎないこと。感情をコントロールする方法を身につけると、コミュニケージョンでイライラすることがなくなり、気分よく仕事に専念することができ、高いパフォーマンスを維持できる。
 弁護士の仕事は同情することではなく、クライアント(依頼者)の利益を守ること。だから第三者の視点を常にもち続けることが大切である。クライアントの話を聞くとき、どっぷりと入りこまない。できるだけ依頼者と同じレベルの感情になって感情に支配されてしまわないように努める。
できるだけ先手を打つ必要がある。期限が過ぎて提出された99%の出来の報告書より、期限前に提出された90%の出来の報告書のほうが評価される。
 仕事を効率的に、確実に進める最大のポイントは、目の前の仕事にとにかく着手することだ。
私も、ちょっとした細かい仕事を片付けて、モチベーションが高まったところで、重量級の本格的な仕事に取りかかるといった工夫をしています。そして、机の上は、いつもすっきりした状態にしておきます。今、何をやるべきか、いつも明確にしておくべきです。こうやって、私もたくさんの本を書いてきました。
私の日頃の考えと共通するところが多かったので、うんうん、そうだよねとうなずきながら読みすすめていきました。
(2012年2月刊。1400円+税)

福岡県弁護士会 〒810-0044 福岡市中央区六本松4丁目2番5号 TEL:092-741-6416

Copyright©2011-2025 FukuokakenBengoshikai. All rights reserved.