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「原爆裁判」を現代に活かす

カテゴリー:社会

(霧山昴)
著者 大久保 賢一 、 出版 日本評論社
 「原爆裁判」というものを、今の若い人がどれほど知っているのか、いささか不安があります。若い人が新聞を読まないばかりかテレビも見ないからです。
 これは、NHKの朝ドラ「虎に翼」(昨年4月から9月まで放映されていました)の主人公寅子のモデルとなった三淵嘉子が裁判官として関わった裁判です。
1955年、原爆の被害にあった市民5人が、アメリカの広島・長崎への原爆投下は国際法に違反するので、その受けた損害の賠償を日本政府に対して請求した裁判。
 1963年、東京地裁は原告の請求を棄却した。判決理由のなかで、アメリカの原爆投下をはっきり違法と認定し、同時に被爆者に対して支援しようとしない「政治の貧困」も指摘した。それによって、この判決は日本国内外に大きな影響を与えた。
 著者は、ドラマ化されるときに、手持ちの資料を提供したそうです。
 裁判を起こした原告5人の代理人は岡本尚一弁護士ですが、提訴して3年後に亡くなり、弁護士3年目の松井康浩弁護士が受け継ぎました。
 原爆を投下したのはアメリカなのに、なぜ被告をアメリカ政府ではなく、日本政府にしたのか…。アメリカの原爆投下は違法だ。その違法行為によって損害を受けたのだから、被爆者はアメリカに対する損害賠償請求権がある。日本政府は、その請求権を対日講和(平和)条約によって放棄してしまった。国民の財産権を放棄したのであれば、憲法29条3項によって、政府はそれを補償しなければならない。その補償をしないのは違法だから日本政府に対する国家賠償請求権がある、このような堂々たる論法です。
 日本の裁判所でアメリカ政府は裁けません。日本政府は、1945年8月10日の時点では原爆投下を「国際法違反」としていたのに、裁判になると「国際法違反ではない」と主張しました。国民に向かっては手の平を返したのです。
 アメリカは原爆投下は「戦争終結を早め、多くの人命が失われるのを防いだ」という原爆投下正当化論に立っていますが、日本政府も裁判で同じことを主張したのでした。まったくもって許せません。このような日本政府の姿勢は今も続いています。アメリカの「核の傘」にいたら安全であるかの幻想に浸り、また「核抑止力論」を振りかざすばかりです。
 判決は、広島と長崎への原爆投下を国際法違反と判断した。そのうえで、日本政府の責任について次のように述べた。
 「国家は自らの権限と責任において開始した戦争により、国民の多くの人々を死に導き、傷害を負わせ、不安な生活に追い込んだ。しかも、その災害の甚大なことは、一般の災害の比ではない。被告が十分な救済策をとるべきことは多言を要しない。しかしながら、それは裁判所の職責ではなく国会や内閣の職責である。戦後十数年を経て、高度成長をとげたわが国においてこれが不可能であるとは考えられない。われわれは本訴訟をみるにつけ、政治の貧困を嘆かずにはおられない」
 この裁判に終始関わった三淵嘉子は、弁護士になったあと、日本婦人法律家協会の会長だったとき、池袋駅前に立って反核署名を集める活動もしていたとのことです。行動する人でもあったのですね。すばらしいことです。
 日本被団協(被爆者団体協議会)が長年にわたる反核・平和の取り組みに対してノーベル平和賞が授与されました。そのときの田中代表委員のスピーチは胸を打つものでしたが、そのなかで日本政府が被爆者に対して冷たい仕打をしてきた(している)ことを重ねて批判したことも忘れられません。
 この本には、1999年6月、イギリスの3人の女性がトライデント搭載潜水艦の関連施設に無断侵入し、家庭用ハンマーで機器類を壊して湖に投棄したという事件が紹介されています。私は知りませんでした。
 核兵器の使用等は大量殺人あるいはその準備であり、国際法違反。その違反行為のために存在するトライデント関連施設の破壊は、大きな犯罪行為を阻止する行為であり、こんな行為を処罰するのは、法のあるべき姿ではない。したがって私たちを無罪にすべきだと彼女らは主張しました。
 この裁判で、陪審員は女性3人の主張を真正面から受けとめ無罪評決を出し、裁判所も無罪としたのです。大きな違法行為を止める行為は処罰されるべきではない。犯罪的意図をもって行動していないから、無罪。いやあ、すっきり明快な無罪判決ですね。勇気ある3人のイギリス人女性に心から敬意を表したいと思います。
 本文150頁(別に資料が50頁)という、ほどよい厚さの本です。とても読みやすい解説文となっていますので、相談の合い間に読了しました。みなさんに一読をおすすめします。
 なお私は、原発(原子力発電所)がミサイル攻撃の対象にならないとも限らない現下の状況(ウクライナでは現実に起きました。日本海側に原発が何十基も立地しています)を大変心配していますが、著者がそのことについて一言も触れないのが不思議でなりません。
いつものように著者から贈呈を受けました。ありがとうございます。
(2024年12月刊。1870円)

箱の中の宇宙

カテゴリー:宇宙

(霧山昴)
著者 アンドリュー・ポンチェン 、 出版 ダイヤモンド社
 たまには夜空を眺めて、宇宙のことを考えてみたいものです。
 自分が死んだら、あのきらめく星と一体化して、宇宙をさまよっていくのかな…、そう思うと、宇宙の端(はて)がどうなっているのか、知りたくなりますよね…。
 宇宙は広大なだけでなく、非常に複雑である。
 銀河が回転しているという事実は、21世紀の初めから知られていた。銀河系の軌道上に星をつなぎ止めるのに十分な重力を及ぼすには、通常の物質の5倍も存在しなければならない。それがダークマター。今のところダークマターの正体は判明していないが、その正体は素粒子に違いないだろう。
宇宙は140億年前に誕生し、ほとんど大きさゼロから膨張し続けている。しかし、膨張によって銀河がランダムに散らばっているのではない。巨大なクモの巣のような、ほぼ空っぽの超空洞(ボイド)を挟(はさ)んだ、「宇宙の網の目」にそって銀河は結びついている。しかし、なぜ、どのようにして、銀河が網の上に並んだのか…、大きな謎だった。
 ニュートリノは、非常に軽い。水素原子の1億分の1ほどの質量しかない。
 今日、宇宙を押し広げているものは、すべてダークエネルギーと呼ばれている。銀河を引き寄せているダークマターと対(つい)をなしている。ダークエネルギーの影響は、太陽系や銀河系スケールでは測定可能なインパクトがないため、非常に弱いものに違いない。しかし、弱いダークエネルギーであっても、非常に大きなスケールでは重要な意味をもつ。
 今は、ダークマターが25%、ダークエネルギーが7%という宇宙像が描かれている。残る5%に、目に見える、私たちの星や銀河をつくっている原子や分子が存在している。
 すべての星は、銀河の中を漂うガスの雲から始まる。
 銀河は、大きさ、色、形、質量、化学組織、年齢、明るさ、自転速度など、想像しうる、あらゆる点で多様である。
 この10年間で、ブラックホールは合理的な疑いをこえて実在することが証明された。
 太陽の数百万倍の質量をもつ壮大なブラックホールが私たちの銀河系のど真ん中に鎮座している。天の川銀河の中心にはブラックホールがある。
 超大質量ブラックホールの半径は、親銀河の500億分の1しかないため、コンピュータがブラックホールを正しくとらえるのは至難の業(わざ)だ。
なんと壮大なスケールの話でしょうか。憂さばらしにはもってこいですよね。
(2024年7月刊。2200円+税)

西はりま天文台の星空日記

カテゴリー:宇宙

(霧山昴)
著者 大島 誠人 、 出版 あけび書房
 私は本格的な天文台には残念ながらまだ行ったことがありませんが、星空を眺めるのは大好きです。夏の夜、ベランダに大きな望遠鏡を据えて、目をじっくり眺めると、浮世の世知辛さをしばし忘れることが出来ます。
この西はりま天文台は一般人にも公開しているそうです。
 JR姫新線の作用駅から7キロの山の上にある天文台。兵庫県の佐用(さよ)町は人口1万7千人。標高435メートルの大撫(おおなで)山の山頂にあります。
 天文台の立地条件は、夜、空が暗いこと。なので、近くに工場街、コンビナートがあるのは良くありません。また、瀬戸内海のように雨があまり降らないところがいいのです。ここにあるなゆた望遠鏡は、口径が2メートルと、日本で2番目に大きい。
 夜だけでなく、昼でも星は見える。そうなんです。星野村にある小さな天文台で私も星を昼に見たことがあります。
 なゆたというのは「那由多」と書いて、万、億、兆そして京の先のほう、万から数えて15番目、10の60乗ということです。
 レンズを使う望遠鏡を屈折望遠鏡、鏡を使うのを反射望遠鏡という。一長一短あるが、研究用としては反射式のほうがダントツに良い。というのも屈折望遠鏡は、ある程度より大きいものをつくるのが非常に難しいから。反射望遠鏡は鏡の表面の良し悪しによる。今はめっき技術が向上している。
 星の寿命は生まれたときの質量で決まっている。質量が大きい星ほど寿命が短い。というのは、質量の大きい星ほど核融合反応が盛んになるので、燃料がどんどん減ってしまい、寿命も短くなってしまう。そのため、大きくて明るい星ほど、寿命が短い。
 若い散開星団には、質量の大きな星がたくさんいるから、そのような星は表面温度が高いので、散開集団には青白い明るい星が目立つ。星が輝き始めるというのは、星の中で核融合反応が始まること。
 著者は高校生のとき、ずっと夜空の星を観察しているうちに、変光星の増光を世界で最初に発見したということで、新聞で大きく紹介されました。たいしたものです。
 ただ、天体観測は夜ですから、生活はとても不規則になり、昼夜逆転の日々を送ることになります。これは大変ですね。私にはとても出来ません。夜はやっぱりちゃんと寝たいですから…。
 この天文台は、日曜は一般参加が自由で、平日は予約が必要だそうです。一度、宿泊つきで行ってみたいものです。
(2024年9月刊。2200円)

あの日の風を描く

カテゴリー:社会

(霧山昴)
著者 愛野 史香 、 出版 角川春樹事務所
 芸術大学(美術大学)は、異能をもつ学生集団から成りますよね。
 東京芸大について、「最後の秘境」として紹介した本を読みましたが、まさしく秘境というか異郷です。とても凡人の行くところではありません。
そのなかに文化財保有修復専攻がある。日本絵画の模写や修復、表具の仕立てをするところ。
 江戸時代が終わるまでの絵画が「日本絵画」で、日本の伝統的な画材と技法を用いて描かれた明治時代以降の近代絵画が「日本画」。
 日本絵画を日本絵画たらしめる、古の画家がもつ底知れぬ描写力。円山応挙の絵には余分な線が一切なく、対象の本質を見抜いて充実している。
 中国では、バブル期に日本に留学した中国人によって「岩彩画」という新しい絵画ジャンルが確立している。日本画の自由な気風と岩絵具を使った表現方法は、水彩画が席巻していた中国画壇に新風を吹き込んだ。
日本において「模写」には、古くからいろいろな定義がある。教義を伝えるための仏画の模写。様式や技法を継承するための模写。修業のための模写。保存するための模写。日本の仏画や水墨画、障壁画といった絵画様式は、それぞれ図様や技法が、模写によって時代を超えて継承されている。保存のための模写は、どの状態を模写するかによって三つに区分される。現状模写、古色復元模写そして復元模写。
 卓越した腕をもつ画家の行いをなぞることで、冷静になり、自分を客観的にとらえることができる。未熟さや傲慢さ、どこに神経を研ぎ澄まさねばならないのか、いろいろと気づかされ、視界が晴れる。
新岩絵具は、化学反応で人工的に発色させた硝子(ガラス)質の塊を粉砕してつくられた天然岩絵具に比べて、色数が多い。
 絵具のにじみを防ぐ、にじみ止めを「どう砂」という。水ににわかと「明ばん」を溶かした液体。描く前に和紙に塗っておかないと、絵具がにじんで描きたい細さで線が引けない。
AI絵画が出てきたけれど、本来、絵は時間がかかって面倒臭いもの。作るにしろ、鑑賞するにしろ、芸術はタイパ良く楽しめるようには出来ていない。
 修復では、作品に影響を及ぼすような描き起こしや塗りはしない。これが原則。穴や破れを埋めた箇所に絵を足すことを補彩というけれど、周囲の色調とのバランスをとるため、作品本来の地色と合わせる程度にとどめる。
 いやあ、すごく専門的な解説があって、日本画の復元作業の奥深さをしっかり堪能できました。なので、著者はもちろん芸大が美大の卒業生だと思って巻末の著者紹介を読むと、なんと、福大の薬学部を卒業して、今は薬剤師だというのです。のけぞってしまいました。
この本は小説賞をとっただけのことはあります。ともかく最後まで読ませました。
(2024年10月刊。1650円)

なぜ彗星は夜空に長い尾をひくのか

カテゴリー:宇宙

(霧山昴)
著者 渡部 潤一 、 出版 誠文堂新光社
 夜空の星を眺めるのは大好きですし、宇宙に関する本を読むのも好きです。
 いつも不思議なのは、星が空を移動しているのを見る(観察する)だけで、昔から数値化して軌道を計算し、いつ彗星が出現するのか予測する、できるということです。皆既日食も、いつ、どこでそれが見えるというのをぴたりと予測できるなんて、私にはまるで信じられません。
 今はコンピューターで計算しているわけですが、昔々のケプラーとか、みんな手で計算していたわけですよね。大変な計算だったことと思います。
 さて、彗星です。その正体は、なんと、巨大な汚れた雪塊というのです。
彗星核の成分は80%が水の氷、残り20%には二酸化炭素、一酸化炭素、それに微量成分として炭素、酸素、窒素に水素が化合した種々の分子が含まれている。これに岩塊や砂粒のような座(ダスト)が混ざっている。
彗星は、太陽系の中を勝手気ままに飛び回る太陽系の異端児。
彗星の2つの特徴。その一は、何の予告もなく突然に現れる。その二は、現れた彗星は華麗な姿を見せる。
 彗星の出現は西洋では凶兆とみられている。ジュリアス・シーザーが暗殺されたあと、第彗星が現れた。ところが、日本では稲作との関係で、穂垂星として吉兆とみられていた。
 ハレー彗星は、周期的に回帰する彗星のなかでも、きわめて大型で明るい彗星。
 彗星の尾(しっぽ)は、塵の粒子が太陽からの光の圧力(放射圧)によるもの。
彗星は、地球のような太陽系の内側の暖かい場所ではなく、太陽系のかなり外縁部で生まれたようだ。太陽よりも遠方で出来た微惑星が彗星だ。その意味で、彗星は、46億年前の物理・科学的状態を閉じ込めた化石とも言える。
彗星は、惑星や太陽に近づきすぎると、その潮汐力で分裂することが多い。それでなくても彗星は分裂しやすい、きわめて脆(もろ)い天体である。
 彗星はよく分裂し、そのうえで雲散霧消するものがある。
彗星核の密度はどうなのか。その中の構造がどうなっているのか、ほとんど分かっていない。まだまだ彗星は謎に満ちている。夜空に彗星や流星を眺めていると、つい、何か願いごとをしたくなりますよね…。
(2024年9月刊。1760円)

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