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ヒトはなぜ難産なのか

カテゴリー:人間

著者   奈良 貴史 、 出版   岩波書店 
 ヒトは、腰の骨を見たら、男か女か見分けられる。安産をするか、しないかという性差が腰の骨にあらわれる。骨盤を構成する骨である寛骨と仙骨をみると、90%以上の確率で男女を判断できる。
 ところが、ニホンザルは骨盤に性差はない。オスとメスの区別は犬歯の大きさや体格の違いで見分ける。
 ヒトの形態学的定義は直立二足歩行。そのため、ヒトの骨盤は類人猿と大きく異なった独自の形をしている。難産がヒトの性差をつくり出している。
 人類は難産の出現によって、助けあう人間社会をつくり出した。お産に立ちむかうことで、人間は進化してきた。ヒトは、地球上の哺乳類のなかで、一番難産だろう。
 江戸時代の女性の死因の4分の1以上を難産か産褥死が占めていた。
ヒトは初産だったら平均15時間もかかる。かつてお産はかなり危険性の高いものだった。1900年には、年間6200人が死亡した。1940年でも、全国で5000人以上が亡くなっている。
平安時代の歴史物語「栄華物語」に登場する経産婦47人のうち11人、23.4%がお産によって死亡している。
今でも、決して100%安産ではなく、日本では毎年60~70人の妊産婦が死亡している。
多くの子どもは、母親の体を傷つけながら誕生する(会陰裂傷など)。
ヒトが難産な理由は、直立二足歩行に適応した身体構造と、脳の大きさが二大要因である。産道は、S字形の急カーブになっている。ヒトの産道は曲がりくねっているうえ、形が変化している。
現代のお産が難産なのは、女性の肥満も影響している。ただでさえ狭い産道に脂肪を蓄えている。
 人間が難産であることは人類の特質と深くかかわっていることが分かりました。
(2012年9月刊。1200円+税)

愛と欲望のナチズム

カテゴリー:ヨーロッパ

著者  田野 大輔 、 出版  講談社選書メチエ
ヒトラーがなぜ独身だったのか、自殺する寸前に愛人のエヴァ・ブラウンと結婚したのはなぜなのか。そして、ナチス・ドイツは禁欲的生活を国民に強いていたのか・・・。いろんな疑問を次々に解明していく本です。
 ヒトラーは、女性について慰みもの以上の価値を認めていなかった。そして、恋愛や結婚も印象操作の道具程度のものと考えていた。
 多くの女性が私(ヒトラー)に好意を寄せているのは、私が結婚していないからだ。闘争期には、これが重要だった。映画俳優と同じだ。彼に憧れる女たちは、彼が結婚したら何かを失ってしまい、もはや彼は偶像ではなくなる。
 ヒトラーは、総統が民族に貢献する私心なき指導者であるというイメージを守るため、若い愛人の存在を国民の目から隠し続けた。
 ヒトラーは、高潔さを装う偽善的な姿勢をとり続けた。ナチス・突撃隊の幹部が粛清された1934年6月30日の「長いナイフの夜」は、隊長のエルンスト・レームが同性愛者であることは周知の事実で、ヒトラーもそれをながく黙認していた。しかし、突撃隊と国防軍の対立が表面化したとき、ヒトラーは政治的理由からレームを切り捨て、道徳的純潔の擁護者になりすました。
「健全なる民族感情」の代弁者をもって自認したナチズムは、疑いなくヌードの氾濫を黙認し、奨励すらしていた。ナチズムは、社会生活にはびこるエロティズムをユダヤ人の責任に帰することで、ナチス自身がそれを促進していた事実を曖昧にしていた。
 ナチス・ドイツでは婚前・婚外交渉が一般化していた。ナチ党が権力を掌握してから、警察は、街娼の摘発・逮捕を通じて「街頭の浄化」を進める一方、売春宿の営業を監視・規制することこそ警察の義務だとした。市当局も売春の存続に関心を払っていた。国防軍も売春宿を必要と認め、売春婦の逮捕は控え目にするよう求めた。
戦争が始まると、政府はただちに政令を出して売春の管理を強化した。国防軍は政令にもとづき、帝国全土および占領地域で軍用売春宿を次々に設立した。
 「公的な不道徳」の撲滅を唱えて売春の一掃に乗り出すかに見えたナチズムが、結局のところ売春の封じ込めと組織化に舵を切った経緯は、道徳的に純潔な体制という外観を守りつつ、実際には性欲の充足を奨励して、これを国家目的に動員しようとする狙いを照らし出している。
 ナチス・ドイツの支配の本質をえぐり出した本だと思いました。
(2012年9月刊。1800円+税)

ヘルプマン (16巻)

カテゴリー:社会

著者   くさか 里樹 、 出版   講談社 
 身につまされるマンガ本のシリーズです。とりわけ、この16巻は、いわゆる定年後をいかに過ごすかが共通の切実な話題となっている団塊世代である私の背筋をゾクゾクさせてしまう寒い話でした。もちろん、弁護士ですから私自身には定年がなく、しばらくは元気で働けるものと自負しています。それでも、もし弁護士でなかったら、どうなっているのだろうかと心配になったのです。
16巻の主人公は女性のデザイナーです。若いときには、言い寄る男どもを振り切って独身生活を謳歌していました。ところが、64歳になった今、住み慣れた賃貸マンションを出ていかざるをえなくなったとき、高齢者の一人暮らしでは、住むところを見つけるのも苦労するのです。
 そして、まだまだデザイナーとして十分に働く自信があるというのに、取引先からはIT化のすすむなかで、もう仕事はまかせないと冷たく宣告されてしまうのでした。
 同じ独身女性仲間を頼って転がりこもうとすると、その彼女が、なんと脳いっ血で倒れてしまったのです。それなりの資産のある彼女を身内が引きとり田舎へ連れていこうとします。彼女は元気なうちにエンディングノートを書いていて、自分のマンションで最後まで生活することを希望しているのに、そんなノートには法的効力はないと言われてしまいます。主人公は途方に暮れるばかり・・・。
 十分な介護を受けたくても受けられない現実。ゆっくり充実した世話を入所者にしたくても出来ない介護職員の悩み。ともかく待遇が劣悪なので、長く働くのはとても厳しいという現実があるのです。
 少し前の認知症編も、今回と同じように身につまされました。次第に、自分が自分でなくなっていくと言う不安感が全身を包みます。それは、そうなったでむしろ本人は幸せなのかもしれません。でも、周囲が大変ですよね。
いずれにしろ、21巻のうちようやく16巻まで読了しました。あと5巻、完全に読みきります。いま、誰かれかまわずおすすめしているマンガ本です。あなたもぜひお読みください。
(2011年2月刊。543円+税)

動かす力

カテゴリー:司法

著者   渡部 喬一 、 出版   KKベストブック 
 法曹の大先輩による味わい深い本です。
 物事をすべて肯定系で考えていくためには、まず自分という人間を好きになること。自分が好きになれば、生きていることも楽しくなってくる。
 法律三分、人間七分。つまり、事件の解決にあたっては法律だけではなく、人間性を重視することが大切だ。人間力を高めるためには、まず、自分自身の内面を高め、強くするよう心がけなければならない。そのためには肯定力を十分に生かして常に前向きに、肯定的に物事をみることが大事だ。
どんなに苦しい状況に陥っても、ピンチこそチャンスだと常に前向きに明るくとらえること。そのことによって、苦境にも力強く立ち向かっていける。何よりも内なる力の源たる気力を充実させること。そのために大事なのは、言葉の力だ。
 朝8時には事務所に出て仕事をはじめるというのは、あまりマネしたくありませんが、この本で何回も強調されている、法律三分、人間七分については、大いに共鳴したことでした。
 今後とも、ますますのご活躍を祈念します。
(2012年4月刊。1524円+税)

『清冽の炎』 第7巻

カテゴリー:社会

著者 神水 理一郎  、 出版  花伝社
東大闘争とセルツメント活動について、ついに完結編が刊行されました。まずは、7巻のあらすじを少し詳しく紹介します。
北町セルツメントで活動していた元セツラーたちの同窓会が20年ぶりに北町近くで開かれた。みなまだ現役の教師であり、会社員や大学教授としてがんばっている。学生セルツメントで何をしていたのか、何を話しあっていたのか、20年前を振りかえった。佐助はあこがれのヒナコと元気に再会することができた。振られたという思いから固まっていた佐助の心がゆっくり温められていった。
 さらに9年がたち、卒業して30年目の北町セルツメントの同窓会は、かつて4泊5日の夏合宿をした、奥那須にある山奥の三斗小屋温泉で開かれた。このときは、9年前とは違って、そろそろ定年を意識する年齢になっていた。
 青垣の事件は一郎弁護士が心血を注いで、取り組んだものの、一審では有罪となってしまった。弁護団を拡充して控訴したものの棄却され、最高裁に上告することになった。裁判所は大手メーカーを頭から信用して被告人の言い分に耳を傾けようともしない。
 佐助は経済学部を卒業して定石どおり製造会社に入った。労務課に配属されると、意義の分かりにくい人事管理と接待に明け暮れるようになった。ある日、競合メーカーに入った芳村が来社した。あとで、芳村は佐助のことを隠れ党員だと密告した。労務課の毎日の業務がストレスとなって佐助は危うく病気になりかけた佐助は、ついに転身を決意した。司法試験の勉強を始めたものの、なかなか合格できない。ようやく合格して、佐助は東京・下町で弁護士として働くようになった。
 父を知らない一郎は、何とか父親の素性を知りたいと周囲に真剣に問いかけるが、なぜか皆よそよそしく、取りあおうとしない。
 最高裁が上告を認めず、ついに有罪が確定して、青垣は刑務所に入ることになった。他方、芳村は海外での大型商談がまとまり、ついに取締役の座を射止めることになった。
 大手の法律事務所につとめていた一郎は、人間を扱いたいと考えて、都内に個人事務所を開業した。そして、一緒についてきてくれたパラリーガルの美香に結婚を申し込んだ。美香の母親は元セツラーのヒナコで、一郎の母である美由紀とは都立高校の同級生だった。
 夫を事故でなくしたヒナコは佐助に法律相談をもちかけ、二人だけで話すようになったが、子どもたちの将来を壊してはいけない、そんな思いから一歩先にすすめることができない。佐助も、そんなヒナコの思いを受けとめ、またもやすれ違いに・・・。それでも、上空に清冽の炎が燃えている。
(2012年11月刊。1800円+税)

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