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古代天皇家の婚姻戦略

カテゴリー:日本史(古代史)

著者  荒木 敏夫 、 出版  吉川弘文館
倭王権の婚姻の特質として、閉鎖的であることが言える。婚姻相手を近親に求める近親婚が盛行していた。
 その理由として、母系を通じて他氏族へ血統が流出しない閉鎖的な血縁集団が形成できること、豪族層から外戚として介入を受けない。自立した王家が確立できることがあげられている。
 日本古代の婚姻は異母兄弟姉妹間の婚姻は許されており、その実例は多い。内親王以下、四世王までの王族女性は臣下との婚姻の途が閉ざされていた。厳禁されていたのである。
絶体大王が手白髪と婚姻したが、大王になる前のヲホド王を一地方豪族とみると、王族女性と臣下の婚姻を示す。唯一の例となる。
大王のキサキやミコ、ヒメミコたちは大王と同居している場合は希であり、通常はそれぞれの居住空間である「ミヤ(宮)」に住んでいた。
 蘇我稲目は、戦時下の略奪によって倭国に来た二人の高麗の女性を「妻」とした。蘇我氏の婚姻の相手は列島内に限定されていなかった。倭国・日本にも、中国・百済・高句麗・新羅・伽耶などと同様に、国際婚姻が存在していた。
桓武天皇は、婚姻関係を結ぶ氏族を広くしており、9氏族からキサキを迎えている。藤原氏の南家・北家・武家・京家の四家からキサキを迎えている。
 桓武天皇の母は百済系和氏であった。桓武天皇自身も、百済王氏から、百済王教仁・百済王貞香、百済王教法の3人を入内させている。
 日本における王済王氏の存在は、天皇が元百済王族の者を臣下においていることを日常的に示すことで、天皇が東アジアの小帝国の君主であることを国内外に向けてアピールするうえで好都合の存在であり、象徴的な機能を果たしていた。
 古代天皇家の実体を改めて考えさせられました。
(2013年1月刊。1700円+税)

大牟田と与論島

カテゴリー:社会

著者  堀 円治 、 出版  有明新報社
三池炭鉱のあった福岡県大牟田市には沖縄に近い与論島からの移住者の2世・3世が今もたくさん住んでいます。
 93歳になる著者は、世論2世です。その長男は私と同級生ですので、世論3世ということになります。1世は、与論島から集団移住してきて石炭の積み込み作業員をしていました。
 残念ながら、私はまだ与論島に行ったことはありません。奄美大島よりも沖縄本島に近い小さな島です。
 鹿児島空港からプロペラ機で1時間20分。丸いカタツムリに似た形をしている。河川はなく、サンゴ礁が風化した粘土質の土壌。与論島にとってもっとも怖いのは、台風という名の定期便であり、干ばつである。台風で農作物が全滅するとソテツの実で命をつなぐ。ソテツは猛毒なので、毒消し作業が必要である。
 干ばつのため餓死者が出るなか、明治32年から34年まで、3次にわたって合計750人が戸長を先頭に長崎県口之津へ移住した。当時の島の人口は7000人。家族を含めると島民の2割近い1200人が移住した。
 そして、明治43年、有明海を渡って、大牟田へ再移住した。石炭の積み込み作業に従事する。
 現在の三井港倶楽部の北側に三川分教場が置かれ、与論島移住者の子どもが学んだ。そして、昭和11年、川尻小学校に転入した。
 今も、大牟田には与論会があり、与論島との交流も続いているのです。
 堀さん、元気で、さらに長生きしてくださいね。
(2013年2月刊。1715円+税)

ブラックボックス

カテゴリー:社会

著者  篠田 節子 、 出版  朝日新聞出版
恐怖の食卓。サラダ工場のパートタイマー、野菜生産者、学校給食の栄養士は何を見たのか?
 食と環境の崩壊連鎖をあぶりだす、渾身の大型長編サスペンス。この本のオビに書かれているコピーです。週刊朝日に連載されていたとのこと。たしかに野菜を人工的に栽培するなんて、実は危険そのものなんですよね。完全管理型施設栽培のシステムなんて・・・。
太陽の光、土、緑の三点セットをありがたがるのは、農を知らない都会人や、高級住宅地に住んで市民農園を耕している趣味人の発想だ。
露地栽培では、それこそ食っていける農業なんて無理。そうなんですよね。私もちょっとばかり趣味人の野菜づくりをしています。それでも、農業を粗末にしたら生きていけませんよ。ですから、TPPなんて絶対反対です。なんでもお金を出せば買えるというものでは決してありません。額に汗する地道な努力こそ必要です。
 カット野菜。カットした野菜の洗浄殺菌には、次亜塩素酸ソーダを使う。切った野菜をそこに浸けたあと、水道水で洗浄し、さらに鮮度保持剤であるPH調整剤すなわちアスコルビン酸に浸け込む。そのカット野菜を盛りつけてサラダとする。
完全制御型ハイテク農場のなかでは、無数のバクテリアの生息する土は一切使わずセラミックがスポンジなど、作物ごとに異なる人口素材に肥料分を溶け込ませた溶液を用いて、作物がつくられる。空調装置を使い、外気は導入しないので、空気中の雑菌も入らない。考えられる限り、もっとも衛生的な環境でつくられる。無菌状態であるから、病気やムシも寄せつけない。だから、農薬はいらない。異物混入はありえず、出荷の段階で枯葉などが取り除かれるから、下ごしらえもいらない。
 しかし、どれほど厳重な衛生管理をされ、無菌状態で運ばれてきた野菜であっても、カットされた瞬間から、傷みは生じる。切り口から変色し、腐敗がはじまる。
 労働集約型のハイテク農場は地元の雇用創出をうながし、地域の活性化に貢献するはずだった。しかし、現実には地元の人間は働いていない。働いているのは法律で定められた最低賃金をはるかに下回る。研修手当で、事実上の労働をしている外国人ばかりだ。
 研修生のほとんど、アジアから来ていて、日本人はごく少ない。無菌・無農薬でつくられた野菜の味はすかすか。だから、得体の知れないアミノ酸やら合成ビタミンの微粒子をぶっかけられる。
読んでいくうちに、読めば読むほど怖くなる食物の話でした。それでも、今日もマック、ケンタの店も大盛況です。本当に私たちはこれでいいのでしょうか・・・。
(2013年1月刊。2100円+税)

メドベージェフvsプーチン

カテゴリー:ヨーロッパ

著者  木村 汎 、 出版  藤原書店
現代ロシアの政治がどう動いているのかを知りたくて読みました。450頁もある大作ですが、とてもスッキリ明快な語り口なので、よく理解できました。
タンデムのハンドルを握っているのはプーチンであり、メドベージェフは子ども席に座らされている。この実情がよく分かります。
 プーチンが2012年5月に大統領に返り咲くまでに、ロシア政治の基本やその行方を左右する最高指導者をめぐる人事は、一人の人間によって決定された。与党の「統一ロシア」は次期大統領の候補者選びにまったく関与しなかった。同党は討論も票決も一切行うことなく、まるで盲印を捺すかのようにプーチンの決定を承認した。
 ロシアでは、法や制度などフォーマルな取極めが物事を決めているのではない。その代わりに、特定の人間がもっとも重要な決定を行う。別の言葉で言えば、地位(椅子)そのものよりも、そのポスト(椅子)に一体誰が座っているか、このことがロシアではより一層重要な意味をもつ。すなわち、一握りの少数指導者が強力な権力を握る。彼らは、非公式の場(密室)で、彼ら相互間の力関係にしたがい、いわば臨機応変のやり方で決定をくだす。彼ら指導者、とりわけ最高権力指導者がおこった決定は絶対で、「垂直権力」の原則にしたがい、下部へと伝達される。ロシアでは、法律よりも個人による統治がおこなわれている。
メドベージェフは、歴代指導者のなかにあって、けっしてナンバー1と呼べる指導者ではなかった。実質上はナンバー2でしかなかった。しかし、メドベージェフは、プーチン首相のたんなる操り人形に終始することをいさぎよしとしなかった。
メドベージェフはプーチンより13歳も若い、大統領になったとき42歳、辞職時に46歳だった。メドベージェフとは、熊を意味する。身長は162センチしかない。プーチンは168センチである。
 メドベージェフはユダヤ系とみられるが、そのことについて一切口をつぐんでいる。メドベージェフは、両親ともに教授という知識人の家庭に生まれた。プーチンは下層労働者階級の出身者。メドベージェフとプーチンは、ともにレニングラード国立大学法学部を卒業している。プーチンは正真正銘のシロビキ。KGBなど、治安関係の出身者。メドベージェフは、母校で民法を高ずる大学助手だった。
 プーチン首相は2010年10月、若返り効果を狙って顔面の整形手術を受けた。しかし、これは逆効果だった。ロシア人が嫌うアジア人(中国人)のように釣りあがった孤眼になったから。メドベージェフはインターネットが大好き。プーチンは、ケータイさえもっていないテレビ党。
プーチンがメドベージェフを選んだのは、自分と対蹠的なタイプの人間だから。
 メドベージェフは権力基盤、その他の点で脆弱な人物である。だからこそ、プーチンによって便利な中継ぎとして選抜された。メドベージェフの弱みこそ、彼の力になっている。
 プーチン自身がエリツィン前大統領の政策の多くを変更し、また反古にした人物である。だから、メドベージェフが大統領になって同じことをする危険を心配した。
プーチンは、ロシア首相と「統一ロシア」党首という二つの重要ポストを兼任することによってメドベージェフ大統領の行動様式を監視し、操作できる立場にたった。
メドベージェフには側近や部下がいない。メドベージェフは、周囲にいる優秀な同僚や仲間を内閣はもちろん大統領府内にすら登用しえなかった。その人事を主導したのがボスのプーチンだったから。プーチンの作成した人事案を丸呑みする以外の選択肢は与えられなかった。
 メドベージェフは4年間の大統領在任中、最後まで、マスメディアを掌握できなかった、プーチンがマスメディアを独占的に支配していた。テレビで報道されるときのプーチンとメドベージェフの座る位置は、プーチン大統領のときと同じだった。テレビ対話は、大統領との対話から首相との対話に名前を変えただけで、プーチンが4年間そのまま続けた。
 ロシア、グルジア「5日間戦争」はメドベージェフがプーチンと変わらぬ対外強硬論者であることを証明した。「リベラル」というイメージを完全に打ち砕いた。
ロシア・グルジア戦争は、CIS諸国にロシアに対する恐怖感をもたらし、異質感を増大させた。ロシアに逆らうと、深刻なマイナスをこうむる。しかし、だからといってロシアの言いなりになれば、別のマイナスを覚悟せねばならない。
ロシアのグルジア軍事侵攻によって驚かされた欧米諸企業は、ロシア市場へ投下していた資本を一斉に引き揚げた。そのことによってロシア経済がこうむったダメージは、予想外に大きかった。
ロシアはエネルギー資源大国である。石油、天然ガス、金、ダイヤモンド、鉄鉱石などの埋蔵量で世界第一位。
 ロシアは世界規模の経済危機に無関係どころか、そのもっとも深刻な犠牲者だった。なぜか。それはロシア経済がもっぱらエネルギー資源の輸出の大きく依存する事実上の「モノカルチャー経済」であることによる。ロシア経済の国際競争力は、上昇しないどころか復退した。航空機事故が多発し、ロシアはコンゴよりも「世界でもっとも危険な国」となっている。
年金生活者は、民主主義的指権利の保障よりも、社会の安定や秩序を望む。プーチン支持層の中核をなしている。
 プーチン主義は、政治や経済の運営を下からの国民のイニシアティブに委ねることなく、「権力の垂直支配」の名のもとに国家による上からの指導でおこなう。とりわけ、ロシアが豊富に所有するエネルギー資源を、軍需産業同様、重要な国の基幹産業とみなして、政府の厳格な監督、管理下におく。そして、その余剰利益(レント)を側近間で分配する。
 現ロシアでは汚職は歴然として存在している。いや、それどころか、ソビエト時代に比べてさらに増大する勢いである。
 プーチンは、KGB勤務によってつちかったフレキシブルな思考法のおかげで、数々の難局や危機を乗りこえてきた。
 大変わかりやすく、ロシアの現状を鋭く分析した本でした。
(2012年12月刊。6500円+税)

権力vs調査報道

カテゴリー:社会

著者  高田昌幸・小里純 、 出版  旬報社
たまにある新聞のスクープは、時の日本社会に大変なショックを与えるものです。最近は、そんな報道がめっきり少なくなりました。それどことか、安倍首相がマスコミ(新聞、テレビ)のトップ(社長ほか)と、そして編集部長クラスまで個別に高級レストランなどで2時間も会食していることが曝露されました。日本のマスコミが、ますます権力機構の一員と化しつつあるようで残念です。でも、第一線の記者まで、すべてがそうではないでしょうから、その自浄努力にひたすら期待するばかりです。
 今から20年前、朝日新聞の広告年間収入は2000億円あった。読売新聞は1500億円。読売1000万部、朝日800万部の時代に朝日の広告単価が読売より非常に高いことから逆転現象がおきていた。それが、ついに朝日は逆転され、苦境に陥っている。
ニュースソースの秘匿とオフレコは守る。これは二大原則である。ニュースソースの対象が自ら名乗ったとしても、それにあわせて認めるようなことはしない。アメリカの有名な記者(ボブ・ウッドワード)がそれを破ったが、許されないこと。
 取材するときに録音するのは当然。了解をとらず、隠してテープを取っても非難されるべきことではない。私も弁護士として、隠しどり録音をいつも勧めています。問題になるのは内容だけなのです。
日本の朝日新聞に限らず、アメリカでも調査報道はまったく衰退している。
 ネット広告は紙の広告の10分1しかない。広告収入が200億円だと、記者が2000人いたら、人件費で全部消えてしまう。
 貴重な資料を入手したときにはコピーをそのまま発表することはない。文書の汚れ、染み、書き込みがあったら、情報源が特定されてしまう。だから、入手した文書の打ち直しは必須。文字の欠け文字ずれがあれば、そこから特定できる。入手して発表するまでに8年かかることもある。
 調査報道に欠かせないものは人間力。自分の興味本位だけで調査報道するのは、とても危険なこと。報道の質を上げていくためには、質問力の向上が絶対に欠かせない。本当は分かっていないことを見抜く力。それが調査報道のスタートである。
 私は活字大好き人間ですから、ネットよりも新聞を愛好したいのです。その意味でも、調査報道の健闘に期待しているところです。
(2012年10月刊。2000円+税)
 春らんまんの候です。わが家の庭のチューリップ500本は全開状態を少し過ぎたところです。私個人のブログで写真を大公開しています。ぜひ眺いてみてください。色も形もとりどりのチューリップが、心をなごましてくれます。
 このところ、娘から全身にお灸をしてもらっています。アッチッチというほどの熱さなのですが、翌朝の目覚めが何とも言えず爽快です。身体に気力がみなぎり、頭が冴えわたった気分です。血行がよくなるのでしょうか。お灸さまさまです。

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