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南極観測隊

カテゴリー:社会

著者  日本極地研究振興会 、 出版  技報堂出版
南極の昭和基地をめぐる50年の歴史が思い出として語られています。貴重な本だと思いながら一気に読了しました。
 タローとジローの話は、私の小学生のころの話です。1年後に生きていたなんて、すごいことだと今も鮮明な記憶として残っています。
 犬ソリを使うために北海道にいたカラフト犬を調べた。道に1000頭近くのカラフト犬がいた。南極でつかうソリ犬に適した50頭近くが稚内で訓練された。しかし、集められたカラフト犬は極地で外の雪の中で寝るのが普通ではない、町中で育った犬たちだった。だから、それぞれ思いのままに走っていく。ソリ犬の訓練はカラフトから引きあげてきたギリヤークの男性が教師になった。タローとジローは、仔犬だったため、ソリ犬としての訓練は受けなかった。
 昭和基地から往復270日間の犬ソリの旅に出た。小柄なテツ(6歳)は、疲れてサボっていた。仕方なく、ソリから放した。ところが、テツは動かない。それどころか、元きた方向に戻っていく。テツをバカにしたため、テツは怒ったのだろう。自尊心を傷つけられ、これでは死ぬしかないと思ったのだろう。
 そんなエピソードも紹介されています。タロとジロは、生後3ヶ月で宗谷に乗せられてきたため、昭和基地を故郷と信じ、そこに踏みとどまったのだろう。そして、アザラシの糞を主食として生きのびてきたのではなかったか・・・。それにしても、成犬たちが皆、餓死するなどしたなかで、よくぞ生き残っていたものです。
 越冬隊員は、この25年間に平均年齢が5歳もあがった。今では、50代の隊員も数人いる。そして、女性隊員も越冬した。
 マイナス60度の野外で排便するのは大変だということです。沸騰した鍋の蓋を取ったようで体温と外気温の差が100度近くもあることを実感させられる。
 たくさんの隕石を南極では収集できるようです。2万6千個以上のうち、日本が相当数を集め、世界一となりました。なかには火星からの隕石も発見しているとのことです。
 それにしても、極地の狭い人間社会で大変なこともあったようです。死亡事故も起きましたし、手術も必要となりました。そして、自分の感情をコントロールできないような人がいたときには、周囲は大変だったようです。時として、無知無謀は罪悪だと思う。そんな指摘もあります。
マイナス60度、70度という極寒の世界で観測、研究してきた人々の労苦に率直に感謝したいと思いました。
(2006年11月刊。1800円+税)

警察崩壊

カテゴリー:警察

著者  原田 宏二 、 出版  旬報社
北海道警察の幹部だった著者が長年にわたった警察の裏金づくりを内部に告発したのは今から9年前の2004年2月のことでした。この9年間に、警察の体質は改善されたと言えるでしょうか・・・。
 改善されたどころか、警察官の不祥事はこのところ目立っていますよね。どうなっているのかと思うほどです。現職警察官による殺人事件も最近起きています。
警察庁長官という警察トップが内閣官房副長官に就任するコースがあるのですね。いわば、警察官僚が権力中枢に位置するわけです。そして、「自民党に刑事事件が波及しない」なんていう見直しを記者に示したというのです。とんでもない元長官です。警察のおごりを示す発言ですよね。
 公安委員会が中央に県にもありますが、有名無実化しています。著者は、せめて警察から独立した事務局をもてと提言していますが、当然です。
 県の公安委員会には人事権がなく、同意権のみというのも改めるべきだ。まったくそのとおりです。あまりにも中央県権化しすぎています。
 今や警察官の供給源は大学生。女性職員も10%となっている。
 正義感の強い若者が警察にはいって実態を知ると、実際との落差に絶望することになる。裏金づりは本当になくなったのでしょうか・・・。
 若い警察官のなりたくないのは、筆頭が留置場勤務で、その次が交通事故係だ。
最近、私は足しげく警察署に通っています。何ヶ月も行かないこともあるのですが、今はなぜか3人も留置場にいる人の弁護人になっています。留置場に若い警察官がいて、そうか、希望して配属されたのではないのかと、ついつい同情してしまいます。
 警察の最近の実態を知ることのできる本です。
(2013年4月刊。1700円+税)

月の名前

カテゴリー:宇宙

著者  高橋 順子 、 出版  デコ
満月を眺めるのは、いつだって心地よいものです。屋根の上にポッカリ浮かぶ大きな満月は頭上にあるより親しみを覚えます。
 夏の夜の楽しみは、ベランダに出て天体望遠鏡で月の素顔をじっと観察することです。まるで隣町のように、くっきり表面のでこぼこを観察することができます。下界の俗事を忘れさせてくれる貴重なひとときになります。
 9月の中秋の名月を祝うのは、このころの月が美しいからというだけではない。気温は快適だし、月の高度もよろしい。しかも、もっと説得的な理由は、芋名月、栗名月、豆名月という名称からも察せられるように、このころが秋の農作物の収穫の時期だということ。
 お月見は、農作物の豊穣を月の神に感謝し、来年の豊作を祈願する秋祭の一つだ。
 この本は、月にちなむさまざまな呼び名を、写真とともに紹介しています。知らない呼び名がたくさんありました。
 十七屋。江戸時代の飛脚便のこと。たちまち着きの語呂あわせから。
 今宵は中秋の名月
 初恋を偲ぶ夜
 われらは万障くりあはせ
 よしの屋で独り酒をのむ
「われら」と言いながら、「独り酒、をのむ」というのも奇妙ですが、フンイキが出ています。
 月には、中国古代の伝説では、仙女、桂男(かつらおとこ)、ヒキガエル、兎などがすんでいた。兎は、不老長生。仙薬を臼でつく。この兎は韓国や日本では餅をつく。桂男とは、月の中に住むという仙人。転じて、美男子をいう。月の桂を折るとは、むかし文章生(もんじょうせい)が官吏登用試験に及策することをいった。
 菜の花や月は東に日は西に
与謝蕪村がこの句をつくったのは、1774年(安永3年)のこと。58歳の蕪村は、当時、京都に住んでいた。
名月をとってくれろとなく子哉
これは一茶の句です。いいですね・・・。
(2012年10月刊。2500円+税)

日経新聞の真実

カテゴリー:社会

著者  田村 秀男 、 出版  光文社新書
日経新聞を毎日よんでいます。株をもっているわけではなく、投資に関心もありませんが、経済界の動き、とりわけ財界の動向を知りたいからです。
 この本のサブタイトルは、なぜ御用メディアと言われるのか、です。そうなんです。御用メディアだと思うからこそ、毎日くまなく日経の紙面に目を通しています。
元日経の自称エース記者が書いていますし、そこに書かれていることは、みな、なるほど、そのとおりだとうなずくことばかりです。
 新聞記事は3度読ませるもの。まずは見出しで読ませ、次は前文で読ませる。そして、最後に本文で読ませる。
 日経の経済記事の論調は、現在まで日本の経済メディア全体をリードしてきた。しかし、今や「官報」とまで言われるその惨状は、OBとして目を覆いたくなるほどだ。世論をミスリードし、言いようのない閉塞感をもたらしている。
 1985年9月のプラザ合意とは、アメリカ自身の政治的な動機にもとづく、日本産業の封じこめ策だった。しかし、対米関係を最優先する日本政府に警戒心はなく、率先してこれに協力した。そういうことだったんですね・・・。
新聞記者は立場によって権限も働き方も異なるが、しょせんはサラリーマンである。新聞記者といえども組織に身をおくサラリーマンであるから、社内で、より高い地位に上りたいと思うのは自然なこと。管理職になるには、記者としての能力とともに、リーダーシップと、ある種の政治力が求められる。
 新聞社も会社組織です。部やチーム内の調和を乱す者に対しては、「あいつは使いにくい」とか、「言うことを聞いてくれない」などの評判が立ち、管理職には不向きという烙印が押されてしまう。
 財務省の高級官僚は、新聞本社への洗脳攻勢をぬかりなくかけている。その結果、財務次官と肝胆相照らす仲の幹部が新聞社の社長に上りつめるケースも多い。
 伊藤元重・伊藤隆敏という東大教授はよくマスコミに出てきます。元重教授について、まさに世渡り上手な御用学者そのものと評されています。きっと、そうなのでしょう・・・。
 「大政翼賛会」の主翼を受けもった全国紙の役割は、まさしく少数意見を圧殺し、軍部が正しいとする世論を形成することだった。それを彷彿させるのが、現在のマスコミの状況である。
 メディアの大半は消費増税の大合唱を繰り返している。デフレ下の増税がいかに日本を衰退させるか考えたこともないメディアの繰り出す財務省追従型の「増税不可避説」は、国民や国家の利益を損なう意味で、政治よりもはるかに悪質だ。共産党も同じことを主張していますよね。消費税を値上げしたら景気は今より悪くなって,国家の税収も落ちる。それよりむしろ労働者の賃金を上げて、国民の購買力を向上させるほうがいい。そのためには大企業のためこむ内部留保をちょっぴりでもはき出させようと・・・。心ある人の主張って一致するものなんですね。
 それにしても,今のマスコミの首脳部はひどいと思います。安倍首相に連日連夜のように,高級料亭で接待を受けているのです。これに,例の内閣官房秘密費が使われているのでしょう。なにしろ、月1億円を自由に使っていいというのですから・・・。
(2013年4月刊。740円+税)

法と実務 9

カテゴリー:司法

著者  日弁連法務研究財団 、 出版  商事法務
司法制度改革とは、いったい何だったのか。それは、アメリカの要求に押しきられ、日弁連が敗退の一途をたどったものでしかなかったのか・・・。
 いえ、決してそういうものではありません。司法制度を国民の身近なものにするための、弁護士会の多年の苦労がついに実ったものでもあるのです。もちろん、そこには政治的な妥協の産物が入り、十分なものとはいえない面も多々あります。しかし、司法改革イコール悪だとか、失敗だったなどと全否定したり、弁護士を卑下したりするようなものではありません。本書は、そのことを多くの弁護士が分担して明らかにしています。
 『こんな日弁連に誰がした』(平凡社新書)の著者と、対決トークをすることになったことがありました。私は、喜んで応じるつもりでしたが、残念ながら著者の急病のためドタキャンになって実現しませんでした。その本で、著者は司法改革なんてとんでもない失敗だったと言わんばかりの論陣を張っています。それについて、本書は、それでは「弁護士という職業に対する誇りや自信が失われ、内向きの消極的な議論に陥っていくことになる。そして、対立軸を立てて、ステロタイプ化する議論は、弁護士間に色分けや反目を拡げ、その結果として日弁連の求心力が失われ、弁護士統合の機能を失っていく」としています。
 この指摘に私はほとんど同感です。というのも、1994年、1995年ころの日弁連は、「相次ぐ後退にもかかわらず」「全面敗北するにいたった」状況だったのです。なにしろ、「理解者と思ってきたマスコミ、消費者、労働界を含めて全委員から孤立し」てしまっていたのでした。
 要するに、周囲の人々は日弁連に好意的な人々もふくめて、みんな日本の弁護士は少なすぎて役に立っていないと見ていたのです。それなのに、弁護士会の内部では、なにがなんでも増員反対論が大手を振ってまかりとおっていました。
 私が司法試験に合格したのは、もう40年以上も前のことですが、2万3000人のなかからわずか500人しか合格しないというのは、いくらなんでも少なすぎると思いました。毎年、少しずつ少しずつ合格者を増やしていき、合格者を1000人ほどにしておけばよかったのです。それを、なぜか、ずっと500人程度に抑えこんでいた反動から、もっと増やせの大合唱が法曹以外から湧きおこってきて、弁護士会はそれに耐えられなかったと思うのです。
 私は、この本の論文集のなかでは、宮本康昭弁護士の指摘が歯に衣着せず、透逸だと思いました。
 司法制度改革審議会の委員となった曽野綾子が欠席がちで、辞任を求める投書が殺到した。財界の推薦した委員は大物財界人ではなかった。竹下守夫は常に最高裁の意向に配慮して、改革を抑える役割を果たし続けた。中坊公平が委員になることに法務省が強い難色を示していた。このように、忘れるわけにはいかない人選と構成でした。
 そして、改革審の意見書をもとにして、その具体化のために10コの検討会が設置され、議論がすすみました。このとき、中坊公平は「審議会の13人の委員が国民なのだ」と言ったが、それは明らかな誤りだ。そして、法曹一元に反対し、陪審制に絶対反対だと言っていた東大の井上正仁が、裁判員制度を受けいれざるをえなかったのでは、狭いロビーの枠内にとどまらない広い国民の要求があったからだ。本当にそうですよね・・・。
 私は担当役員として労働審判制度が誕生していく過程をつぶさに実見することができましたが、これについては、酒井幸弁護士がレポートしているとおり、菅野昭夫座長の高い識見とともに、労働側の鵜飼良昭弁護士と経営法曹側の石崎信憲弁護士の熱意、とりわけ鵜飼弁護士の粘り強い努力によって実現していったこと、このことを私はぜひ現場を見たものとして特筆したいと思います。
 労働審判制度が発足して、7年がたった。年間1500件の申立(利用)を見込んでいたが、その倍以上になる3500件程度の申立が毎年あっている。そして、8割ほどの解決率となっている。私の身近な知人は、労働者側の審判員を6年続けて任期を終えましたが、9割もの解決率だし、とても良い制度だと思うと、手放しで礼賛しています。
いま、日弁連会員は3万を超えている。その3分の1は30代の会員であり、20代をふくめると、半数近い45%をこえるまでになっている。そして、弁護士の所得は年々低下していて、2000年度に1300万円だったのが、2010年度は959万円となっている。そうなんですよね・・・。私のところもそうです。いま精一杯の営業努力をしているところです。
 人数が増えれば、競争激化は避けられない。良質の法的サービスを適性・妥当な金額で受任したい、受けたい、これをどうやって実現するのか、引き続きの課題だと考えています。司法制度改革を振り返るためには絶対に欠かせない貴重な一冊です。それにしても名は体を現すの逆をいく、このネーミングはなんとかなりませんかね・・・。
(2013年5月刊。3800円+税)

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